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幼児期の運動能力検査の実施意義について

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Academic year: 2021

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(1)

幼児期の運動能力検査の実施意義について

The significance of implementing exercise test in early childhood

梁川 悦美

1)

  山崎 紀春

2)

  鈴木 隆

3)

  池森 隆虎

2)

  梅谷 千代子

1)

木村 博人

4)

  長谷川 望

4)

  銭谷 初穂

5)

  高野 美穂

5)

1)児童学科 2)子ども支援学科 3)保育科 4)児童教育学科 5)共通教育推進室

1.はじめに

 生活環境が便利になった反面、子どもたちの体力低下が問題となっている。毎日の習い事や塾通いなど が降園後の子どもたちの時間を占め、活発に友達と関わって遊びに没頭できる時間が減少している。この ような背景から、運動をする子どもとしない子どもの二極化や、かつては幼稚園・保育園児が出来ていた 運動が小学校入学時に出来ないなどの問題が生じている1)。幼児期は、生涯にわたる運動全般の基本的な 動きを身につけ、身体面でも大きく成長する重要な時期である2)ことから、子どもの健やかな成長を考 えた時、幼稚園や保育所・子ども園には、子どもが十分に身体を動かして遊ぶことができる環境を保証す るという役割を果たすことが求められているといえよう。その中で保育者は、環境を整え、子どもの主体 性を大事にしながら援助や助言をしていく存在である。そのためには、子どもたちの育ちの現状等を日々 の生活や活動する姿から把握する事はもちろんであるが、体力・運動能力について継続して測定すること によって、子どもたちの成長過程や運動発達を把握することも、子ども理解の上では極めて有効かつ重要 な要素となる。また、保育者が、運動能力検査の結果を把握することで、これまでの保育内容が子どもた ちの発達にどのように影響しているかを振り返る良いきっかけとなることも想定できる。さらに、保育者 が考え工夫してつくりあげてきた保育内容を、見直すという意味での問題提起にもなり得る。

 筆者らは以前から、本学附属みどりヶ丘幼稚園(以下附属園と記す)幼児の運動能力検査の必要性を感 じており、この度附属園側に提案したところ園側でもその必要性を認識しており、合意に至った。そこで まずは、年長児(5歳後半~6歳後半)を対象に運動能力検査を実施することとした。

2.目的

 本研究は、幼児の運動能力について全国的に実施されている測定法を用い、附属園幼児の運動能力、運 動発達の現状を把握することを目的とする。さらに測定結果を幼稚園の保育者および保護者へフィード バックし、大学教員と連携して今後の保育内容を検討、提案、実践する基礎的資料とする。

3.研究の方法

(1)対象

 附属園年長組幼児を測定対象とし、平成29年度及び、平成30年度に実施した。

第1回測定 平成29年度年長組34名(男児22名、女児12名)

  測定日 平成30年2月19日、26日

第2回測定 平成30年度年長組33名(男児17名、女児16名)

  測定日 平成30年5月28日、30日

 対象児を性別で分けた身体的特性を表1、2に示し、平均値と標準偏差を算出した。対象の保護者には、

得られたデータは研究目的以外には使用しないこと、および個人情報の取り扱いには注意することを文書 にて説明し、署名にて同意を得た。

(2)

表1.平成29年度 年長組の身体的特性

n 身長(cm) 体重(kg)

男児 22 116.9±5.6 20.7±2.7 女児 12 114.8±3.4 20.5±2.5 Mean±SD

表2.平成30年度 年長組の身体的特性

n 身長(cm) 体重(kg)

男児 17 112.1±5.1 19.0±2.5 女児 16 111.6±4.6 19.6±2.2 Mean±SD

(2)測定方法および項目

 幼児の運動能力測定は、MKS幼児運動能力検査3)を用いて行った。この検査は、幼児を対象とした全 国基準を持つ日本で唯一の運動能力検査であり、判定基準は北海道から沖縄にいたる全国の幼稚園・保育 所に通う約12,000名の4、5、6歳児の測定値を基に作成されている。1961年以来40年以上にわたり調 査が行われ、常に新しいその時代の幼児の運動発達の傾向を明らかにしてきた運動能力検査である。

 測定項目は、25m 走、立ち幅跳び、ボール投げ、体支持持続時間、両足連続跳び越し、捕球とし、

2008 年度幼児運動能力検査実施要項に準拠し行った。すべての測定項目は測定前に測定方法を示範し、

運動に失敗した場合はやり直した。

 MKS運動能力検査の総合判定基準は、2008年度の全国調査のデータに基づいて年齢を6か月ごとに区 切り1~5点の評定点を換算したものである。参考として総合判定基準表を表3に、判定解釈を表4に示 した。

 さらにその測定結果を保護者に公表の上、保育者に結果についての振り返りを実施した。

表3.総合判定基準表〔6種目合計点〕

5 4 3 2 1

24~30点 20~23点 17~19点 13~16点 6~12点

表4.判定解釈

評定点 評価 判定解釈 理論的出現率

5点 非常に高い 発達が標準より非常に進んでいる 7%

4点 かなり高い 発達が標準よりかなり進んでいる 24%

3点 ふつう 標準的な発達である 38%

2点 少し低い 発達が標準より少し遅れている 24%

1点 かなり高い低い 発達が標準よりかなり遅れている 7%

4.結果および考察

 第1回測定における測定結果を男女別に表5、6に示し、第2回測定における測定結果を男女別に表7、

8に示した。

(3)

表5.第1回測定における男児の測定結果

項目 実測値 評定点

25m走(秒)

ボール投げ(m)

立ち幅跳び(cm)

両足連続跳び越し(秒)

体支持持続時間(秒)

捕球(回)

6.1±0.5 6.1±2.0 96.7±19.7

5.6±1.2 27.9±21.8

6.3±2.9

3.0±1.0 2.9±0.8 2.3±0.9 2.6±1.1 2.1±0.9 2.5±0.7

6種目評定点合計 15.3点

Mean±SD

表6.第1回測定における女児の測定結果

項目 実測値 評定点

25m走(秒)

ボール投げ(m)

立ち幅跳び(cm)

両足連続跳び越し(秒)

体支持持続時間(秒)

捕球(回)

6.2±0.4 4.0±1.1 83.4±14.9

5.8±1.0 44.5±25.9

7.4±1.7

2.9±0.9 2.4±1.0 1.8±0.9 2.5±1.0 2.6±1.1 2.7±0.7

6種目評定点合計 15.0点

Mean±SD

表7.第2回測定における男児の測定結果

項目 実測値 評定点

25m走(秒)

ボール投げ(m)

立ち幅跳び(cm)

両足連続跳び越し(秒)

体支持持続時間(秒)

捕球(回)

6.4±0.9 6.0±2.5 102.6±20.6

5.8±1.1 34.9±31.9

4.6±2.3

3.5±0.9 2.9±1.1 3.1±0.9 3.0±0.9 3.0±1.1 2.7±0.6

6種目評定点合計 16.4点

Mean±SD

表8.第2回測定における女児の測定結果

項目 実測値 評定点

25m走(秒)

ボール投げ(m)

立ち幅跳び(cm)

両足連続跳び越し(秒)

体支持持続時間(秒)

捕球(回)

6.8±0.5 3.2±1.0 87.8±16.1

7.6±2.4 17.8±11.3

4.6±3.6

3.1±0.9 2.5±0.7 2.8±0.9 2.1±0.7 2.3±0.8 2.9±1.2

6種目評定点合計 15.3点

Mean±SD

 附属園幼児の体格をみると、両年度の対象児ともに全国平均身長4)より、身長・体重ともにやや小さ い傾向にある。これは今後継続して分析していく必要があるが、附属園に通ってくる子どもの特長のひと つとして捉えることができるかもしれない。

 第1回測定を行った後の職員会議録には、以下の記述があった。

 ・得点の低かった子どもたちはレストランごっこなどの室内遊びが多かった。

 ・一方で、得点の高い子どもたちはサッカーなどを好んで外遊びをしていた。

(4)

 このことから、室内や屋外など遊びの内容によって運動能力の評定点に差が出てきたのではないかと推 察される。

 第2回測定の後の保育者からの振り返りには、次のような内容が挙げられていた。

 ・子どもによって個人差が大きいと感じた。

 ・男児の兄がいる子どもは、家庭でも一緒に遊ぶからか、数値も高い傾向にある。

 ・ポイントの低い子ども達は、日頃も運動的な遊びへの興味関心は薄く、室内で遊ぶ傾向が強い印象が ある。

 ・特に、体支持持続時間・両足連続跳び越しが低い傾向にある。

 ・測定方法の説明を受けて、子ども自身がそれを理解して、体ですぐに再現することが難しい子もいる と思われ、それは結果にも影響しているのではないか。

 ・室内遊びが好きな傾向のある子ども達に対して、屋外遊び(体を使った遊び)に興味を持てるような 援助、環境構成の工夫の必要性を感じた。

 ・子どもが好きなことに夢中になって遊ぶことを保障することと、保育者から他の遊び(体を動かす遊 びなどその子の興味関心の薄かった遊び)へ働きかけていくこととのバランスに悩む。

 ・現在の幼稚園においては、体を動かす経験とそれを引き出す環境の工夫が乏しい。

 ・運動会が終わった後にも、道具や環境があると繰り返し体を動かして遊んで楽しむ毎年の姿を見てい ると、子ども達の興味関心や発想から生まれてくる遊びを待つだけではなく、保育者からの積極的な 働きかけ(援助・環境構成)がもっとあっても良いと思う。

 ・幼稚園にあるものを活かしながら、どのようにおもしろい環境を作れるか、どのような楽しい遊び方 を提案できるか、具体的にアイディアを練ることが必要である。

 ・運動が苦手な子どもは、運動が得意な友達の参加する遊びの輪に入ると、気後れして力を発揮できな い場合もあるかもしれない。そうした場合は得意な子は得意な子で、苦手な子はゆっくり自分達の ペースで楽しめるようにそれぞれの場を作ることで、それぞれの子どもが力を発揮して満足できるよ うにする工夫も必要である。

 ・例えば、ままごとなど、遊具を運ぶのに行ったり来たりするなどよく動き回る子もいる、一方で戸外 に出ていてもじっとひとつの場所から動かずに遊ぶ子もいる。虫取りに夢中で園庭中駆けまわる子も いる。

 ・測定結果の得点を延ばそうと、保育者が体を使った遊びばかりに傾倒してしまうのは本末転倒であ る。ただ、運動が苦手な子ども達も、周囲が楽しんでいる様子に刺激を受けたり、楽しい遊びのきっ かけに出会ったりすることで、苦手と思っていたことの中に楽しさを見出せることもある。遊びへの 誘い方もバラエティに富んでいることを保育者が自覚したいところである。

 こうした記述からは、附属園の保育者が、子どもたちの日々の活動の様子や今回の測定結果を、保育内 容を振り返りながら自分たちの課題として受け止めていることが伺える。附属園では、これまで現場の保 育者間で様々な問題解決に取り組んできたようである。今回の測定をきっかけに、附属園と体育学研究室 が連携していくことで、具体的な運動遊びの方法や環境構成など、保育内容の検討や実践の改善に寄与し ていきたい。

5.今後の課題

 附属園保育者の振り返りから、体育学研究室教員に対する様々な要望を伺うことができたので、今後の 課題として以下に示す。

 ・体支持持続時間などは、日頃の遊びの中で、どのように体の動きを引き出し、繰り返し経験できるよ

(5)

うにしたらよいか。

 ・保育者の誘い掛けが強すぎても「やらされた・させられた」経験になってしまいそうで、加減が難し い。

 ・調査項目になっている体の動きを参考にしながら、遊びの要素をちりばめて繰り返し楽しめるよう に、また、挑戦してみたくなるような環境、援助がどのクラスにも共通する本園の課題であると感じ る。

 ・運動的な遊びのみならず、1つの遊びの中でも多様な動きが引き出されている場合もある。保育者が 子どもの遊びを多様な視点で見つめ、引き出されている体の動きを意識することによって、援助も変 わってくるのではないか。子ども達がさまざまな体の使い方の経験を積み重ねるためには、保育者が 遊びを見つめる中でどれだけ多くの要素を見いだせるかの力によるところが大きい。

 ・この結果を利用し、家庭へはどのようにフィードバックしていけばよいか。個人別の数値を提示する と、その動きを焦点化したトレーニングをさせようとする極端なご家庭も出てくる可能性も考えられ る。

 ・クラスの平均を伝えることで、本園の子ども達の傾向を知り、家庭でも子どもの様子を見る際に意識 の変化がうまれるのではないだろうか。

 今回の調査は全国の子どもたちと比較し結果の優劣を見ることや、運動能力検査の得点を伸ばすことが 目的ではなく、附属園幼児の個々の成長を見るための資料とするものである。また、運動能力検査結果を 評価することで、運動・体育嫌いを生んでしまうことのないよう、その後の影響を踏まえた配慮も必要で ある。

 今後の展開として、子どもたちの発達の背景にも視野を広げ、保育者および保護者の運動経験や、現在 の身体を動かすことへの意識などの調査を行うことで、子どもたち一人一人に見合った運動発達へのアプ ローチのきっかけのひとつとしたい。附属園の保育者と保護者、大学教員とが連携して幼児たちの育ちに 関わり、継続して運動能力を測定することで子どもたちの成長の経年変化もみることができる。子育て は、家庭だけでも、幼稚園・保育園・こども園だけでも成り立たない。現場だけではなく、家でも実践で きる運動遊びを保護者にも提案していきたい。

 このように考えてくれば、幼児期の運動能力検査の実施には、単に運動能力を測定し把握するのみにと どまらない、保育を改善する機会となる可能性も含まれており、目的としたそのための資料を得ることは 一定程度の成果を見たものと思われる。

引用参考文献

1)小林寛道:幼児期運動指針実践ガイド.日本発育発達学会編、杏林書院、東京、2014、17-36

2)中路純子:リハビリテーションのための人間発達学.大城昌平編、メディカルプレス、東京、2010、

47-57

3)MKS幼児運動能力検査: http://youji-undou.nifs-k.ac.jp/

4)身長DATAバンク:https://www.suku-noppo.jp/data/average_height_boy.html

5)塩田桃子:日本における幼児体育研究の動向と課題.大阪健康福祉短期大学紀要、第5号、2007.3

参照

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