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一般化フィルトレーションと二項資産価格モデル

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Academic year: 2021

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(1)

一般化フィルトレーションと二項資産価格モデル

足立 高德,中島 克志,琉 佳勳

本稿では,フィルトレーションを一般化したあと,その応用として,二項資産価格モデルを考え,記憶違いを している人が証券の価格付けをすることが可能かどうかを議論する.

キーワード:一般化フィルトレーション,主観的フィルトレーション,リスク中立フィルトレーショ ン,圏論的確率論,二項資産価格モデル

1. はじめに

確率過程論やその上で展開される確率微分方程式論 や確率制御理論では,時刻とともに増大する情報を表 現するフィルトレーション

(filtration)

という概念が 重要なことは,周知のとおりである.世界の情報が時 間の経過とともに増えていくというこの考え方は,極 めて自然であるように思えるが,それはある意味全 知全能の神の視点であり,個々人のもつ情報量が時 間とともに常に増大するかといえば,それはちょっ と違うだろう.人は物忘れをするし,勘違いもする.

そうした個人がもつ情報の変遷は,だから減ること もあるだろうし,客観的な情報とは異なる形の経験 として記憶されていることもある.そういった情報 の変遷を表現する,いわば主観的フィルトレーション

(subjective filtration)

を提案するのが,本稿の前半の 目的である.

このように主観的な状況を扱えるように,フィルト レーションの概念を一般化するわけであるが,一般化 フィルトレーションの目的はそれだけではない.たと えば,ある時点までは誰も想像もしなかったブラック・

スワンが舞い降りてきた状況を考えてみよう.

2008

年 に世界を襲った金融危機や

2020

年の新型コロナウイ ルス感染症はその典型例である.それまで可能な将来 の世界線のなかに含まれていなかったブラック・スワ あだち たかのり

東京都立大学大学院経営学研究科

〒100–0005 東京都千代田区丸の内1–4–1 [email protected]

なかじま かつし

立命館アジア太平洋大学国際経営学部

〒874–8577 大分県別府市十文字原1–1 [email protected]

りゅう よしひろ

立命館大学理工学部数理科学科

〒525–8577 滋賀県草津市野路東1–1–1 [email protected]

ンが突然現れると,その事象

(event)

に対する確率を 付与することができなくて,われわれは大いに動揺し た.もちろん神であれば,そのような可能性も予め織 り込んだ十分大きな根元事象の集合を用意しておくこ とができるだろうし,そうした市井の民が予想してい なかった事象にも確率を与えることができただろう.

しかしそのような理想化された視点に立つことで,本 当にブラック・スワンのリスクを回避する理論を構築 できるのだろうか?

本稿で定式化する一般化フィルトレーションは,時 間とともに,根元事象の集合である確率空間の台集合 すら変化することを許す.そしてそれによって,突然 現れるブラック・スワンも自然な形で理論のなかに取 り込めるようになる.

本稿の後半では,一般化フィルトレーションの応用と して,二項資産価格モデル上の

2

種類のフィルトレー ションを考える.特にある期間の記憶をなくした人が もつ主観的フィルトレーションに関するリスク中立フィ ルトレーションが存在することを示し,それを使って 証券の価格付けを行う.これは,記憶が欠落した人も 証券の価格付けを行えることを示している.

最後にまとめで,一般化フィルトレーションの他の 応用や将来の発展方向について述べる.

2. 一般化フィルトレーション

この節では,古典的フィルトレーションを少しずつ 拡張して,一般化フィルトレーションを定義する.

2.1

時間領域

フィルトレーションは,時間とともに増加する情報 集合を表すが,このときの時刻の集合を時間領域

(time

domain)

と呼び

T

で表す.主な

T

は以下のような形

をしている.

1. T := { 0 , 1 , 2 , . . . , T }

2. T := { 0 , 1 , 2 , . . . }

(2)

3. T := [0 , T ] 4. T := [0 , +∞)

つまり,一般的には時間領域は,最小元

0

をもつ全順 序集合

(totally ordered set)

と考えてよい.

2.2

古典的フィルトレーション

Ω := (Ω ¯ , F, P)

を確率空間とする.今,

{t

n

}

を時間 領域

T

内の増加列とすると,

F

tn

⊂ F

であるような 増加列

F

t0

⊂ F

t1

⊂ · · · ⊂ F

tn

⊂ F

tn+1

⊂ · · ·

を古典的フィルトレーション

(classical filtration)

と 呼ぶ.言いかえれば,フィルトレーションは,

{F

s

⊂ F

t

}

s≤t

なる包含関係の列である.今,時刻

t

ごとに

σ

加法族 のみを変更した確率空間

Ω ¯

t

:= (Ω , F

t

, P)

を考えると,

T

内の

s t

に対して以下の(台集合上 で)恒等関数として定義される関数

i

s,t

Ω ¯

s

Ω ¯

t is,t

oo

ω oo ω

が可測関数となることと

F

s

⊂ F

t となることが同値 となる.言いかえれば,フィルトレーションは,可測 関数の列

{ Ω ¯

s

oo

is,t

Ω ¯

t

}

s≤t

と同一視できる.そこで以後は,

σ

加法族

F

tの代わり に,このように可測関数の列としてフィルトレーショ ンを捉えることにする.

2.3

フィルトレーションの一般化

前節で見たように,フィルトレーションは可測関数 であるところの恒等関数

i

s,t の列として捉えることが できる.今,

i

s,t を任意の可測関数に一般化したらど うなるだろうか?

{ Ω ¯

s

oo

fs,t

Ω ¯

t

}

s≤t

ただし,

T

において

s t u

のとき,

f

t,t

= Id

Ω¯t かつ

f

s,t

f

t,u

= f

s,u

を満たすとする.ただし

Id

Ω¯t

Ω ¯

t上の恒等関数.し かしながら,この定義はあまりに一般的すぎて,

Ω ¯

t上 の確率変数

X : ¯ Ω

t

R

に対して

A

E

fs,t

( X ) dP =

fs,t−1(A)

XdP ( ∀A ∈ F

s

)

を満たすような条件付期待値

E

fs,t

( X ) : ¯ Ω

s

R

を 定義することが一般にはできない.

これを可能にするには,可測関数

f

s,tに零保存なる 条件,すなわち任意の

A ∈ F

s に対して

P( A ) = 0

な らば

P ( f

s,t−1

( A )) = 0

という条件を追加しなくてはい けない

[1]

.実際,

f

s,tが零保存ならば,後で見るよう に,条件付期待値

E

fs,t

( X )

を定義できる.なお,恒 等関数を零保存関数に一般化した段階で,対応する

σ

加法族の列は単調増大とは限らなくなっている点に注 意されたい.

さらに一般化を進めるために,各時刻での確率空間 を,

σ

加法族だけでなく,確率測度

P

t や台集合

Ω

t も 変動させることを考える.つまり以下のように時刻

t

の確率空間

Ω ¯

t を再定義する.

Ω ¯

t

:= (Ω

t

, F

t

, P

t

)

またこれに伴い,零保存関数の定義も以下のように拡 張する.

定義

2.1.

二つの確率空間

Ω = (Ω ¯ , F, P )

Ω ¯

= (Ω

, F

, P

)

の間の可測関数

f : ¯ Ω Ω ¯

は,

P f

−1

P

(絶対連続)

のとき,零保存

(null-preserving)

と呼ばれる.

定義

2.2.

一般化フィルトレーション

(generalized fil- tration)

とは,零保存関数

f

s,tの列

{ Ω ¯

s

oo

fs,t

Ω ¯

t

}

s≤t

で,

T

のなかで

s t u

のとき,

f

t,t

= Id

Ω¯t かつ

f

s,t

f

t,u

= f

s,u

を満たすものである.

すると,以下の定理を得る.

定理

2.3

(文献

[2]

. Ω ¯

t 上の確率変数

X

に対して,

Ω ¯

s 上の確率変数

Y

が存在して,任意の

A ∈ F

s

A

Y dP

s

=

fs,t−1(A)

XdP

t

とできる.このとき確率変数

Y

E

fs,t

( X )

と書 き,

X

f

s,t に沿った条件付期待値

(conditional

(3)

T

F

// Prob

s

Ids

F(Ids)=IdF(s)

F $$ ( s )

:=

Ω ¯

s

t

ιs,t

OO

Idt

F ( t )

fs,t=:Fs,t)

OO

F(Idt)=IdF(t)

$$

u

ιt,u

OO

Idu

ιs,t◦ιt,u

aa

F ( u )

ft,u=:Ft,u)

OO

F(Idu)=IdF(u)

$$

F(ιs,t◦ιt,u)=Fs,t)◦F(ιt,u)=fs,u

``

:=

Ω ¯

u 図1 フィルトレーションF:T →Prob

expectation)

と呼ぶ.

証明

.

以下のダイアグラムのように

X

を定義する.

D //

X

( D )

:=

D

X dP

t

F

s fs,t−1

//

Ps

??

F

t X

//

Pt

// R

すると

X

P

tかつ

f

s,tが零保存だから

X

f

s,t−1

P

t

f

s,t−1

P

s

したがって以下のような

Radon-Nikodym

微分が得ら れる.

Y := ( X

f

s,t−1

) /∂P

s

このとき任意の

A ∈ F

s に対して

A

Y dP

s

=

A

d ( X

f

s,t−1

)

= ( X

f

s,t−1

)( A ) = X

( f

s,t−1

( A )) =

fs,t−1(A)

X dP

t

以後では,一般化フィルトレーションを,単にフィ ルトレーションと呼ぶことにする.

2.4

フィルトレーションは関手である

本節では,

2.3

節で導入したフィルトレーションを 圏論

[3]

を使って再定義してみる.

定義

2.4

(二つの圏

Prob

T

.

1.

すべての確率空間とその間の零保存関数の集ま りは圏

(category)

を成す.この圏を

Prob

で表1

.

1Probについての詳細な議論は,文献[2]を参照された い.

古典的フィルトレーション

T t

0

t

1

t

2

. . . F F

t0

F

t1

F

t2

. . . Ω oo

IdΩ

Ω oo

IdΩ

Ω oo

IdΩ

. . .

一般化フィルトレーション

T

F

t

0

oo t

1

oo t

2

oo . . .

Prob Ω ¯

t0

oo

ft0,t1

Ω ¯

t1

oo

ft1,t2

Ω ¯

t2

oo

ft2,t3

. . .

図2 各種フィルトレーション

2.

時間領域

T

は,その要素をオブジェクト

(object),

また二つのオブジェクト

s

t

s t

の関係 があるとき

t

から

s

に唯一の射

(arrow)

がある と考えると圏とみなせる.

すると,

2.3

節で導入したフィルトレーションは,圏

T

から圏

Prob

への関手

(functor) F : T → Prob

とみることができる(図

1

.

3. 二項資産価格モデル上のフィルトレーション

本節では,

2

節で導入したフィルトレーションの具 体例として,二項資産価格モデル上の

unusual

なフィ ルトレーションを観ていく.

3.1

フィルトレーションの設定

定義

3.1

(時間領域と確率空間)

. s, t R

を実数と する.

(4)

1.

離散区間

(discrete interval).

[ s, t ]

0

:= {n Z | s n t}

[ s, t )

0

:= {n Z | s n < t}

s, t ]

0

:= {n Z | s < n t}

( s, t )

0

:= {n Z | s < n < t}

2. T

[0 ,

0 の元をオブジェクトとする圏とす る.ただし

s, t [0 , )

0に対して,

t s

のとき に限り

t

から

s

への一意な射

ι

s,tがあるとする.

3. B

t

:= {0 , 1}

(0,t]0 (関数空間)

4. F

t

:= 2

Bt (冪集合)

5.

確率測度

P

t

: F

t

[0 , 1]

を,予め

s (0 , ∞)

0で 定義しておいた定数

p

s

(0 , 1)

を使って

ω B

t

に対して,以下のように定義する.

P

t

({ω}) :=

s∈(0,t]0

( p

s

)

ω(s)

(1 p

s

)

1−ω(s)

6. ¯ B

t

:= ( B

t

, F

t

, P

t

)

(確率空間)

[4]

ここで,任意の

B

tから

B

sへの関数は,

B ¯

tから

B ¯

s

への零保存関数となる点に注意されたい.

定義

3.2.

フィルトレーション

B

を以下で定義する.

T

B

// Prob

s B ¯

s

t

ιs,t

OO

B ¯

t

B(ιs,t):=fs,t

OO

なお,射

f

s,t は以下の議論で個別に定義していく.

命題

3.3. B ¯

t 上の確率変数

X

ω B ¯

s に対して,

以下が成り立つ.

E

fs,t

( X )( ω ) P

s

( {ω} ) =

ω∈fs,t−1(ω)

X ( ω

) P

t

(

} )

次に,

f

s,tの候補を観ていく.

定義

3.4

f

s,tの二つの候補)

. s, t

s < t

なる

T

の オブジェクトとする.

1. full

s,t

B ¯

s

B ¯

t

fulls,t

oo

ω

(0,s]

|

0

oo ω

2. drop

s,t

B ¯

s

B ¯

t

drops,t

oo

full

s,t

( ω ) ×

(0,s)0

oo ω

以下の命題は,容易に示せる.

命題

3.5. s, t, u

s < t < u

なる

T

のオブジェク トとする.

1. full

s,t

full

t,u

= full

s,u

2. full

s,t

drop

t,u

= full

s,u

3. drop

s,t

full

t,u

= drop

s,u

4. drop

s,t

drop

t,u

= drop

s,u

定義

3.6

((主観的)フィルトレーションの例)

. s, t

s < t

なる任意の

T

のオブジェクトとする.

1.

古典的フィルトレーション

(classical filtration):

Full : T → Prob

Full ( ι

s,t

) := full

s,t

2.

脱落フィルトレーション

(dropped filtration):

Drop

α,β

: T → Prob

ただし

α, β R

は 定数.

Drop

α,β

( ι

s,t

) :=

⎧ ⎪

⎪ ⎩

drop

s,t

t = s [ α, β ]

0

full

s,t (そうでなければ)

つまり彼女は,

[ α, β ]

の間に起こったイベントを 忘れている.

なお,

Drop

α,β がフィルトレーションであること は,命題

3.5

より言える.

定義

3.7. μ, r R

および

σ R

+とするとき以下の

B -

適合過程を定義する.ただし

t [0 , +

0とする.

1. ξ

t

: B

t

R, ( t (0 , + )

0

).

ξ

t

( ω ) := 2 ω ( t ) 1 (∀ω B

t

) 2.

株価過程

S

t

: B

t

R .

S

0

( ) := s

0

,

S

t+1

:=( S

t

f

t,t+1

)(1 + μ + σξ

t+1

)

ただし

B

0 の唯一の元,

s

0

R

+ は定数.

(5)

3.

債券過程

b

t

: B

t

R.

b

0

(∗) := 1 , b

t+1

:= ( b

t

f

t,t+1

)(1 + r ) 4.

割引株価過程

( S

t

)

: B

t

R .

S

t

:= b

−1t

S

t

3.2

リスク中立フィルトレーション

定義

3.8.

Prob

から測度空間のなす圏

Meas

へ の忘却関手を

U : Prob Meas

とする.フィルト レーション

B

に関するリスク中立フィルトレーション

(risk-neutral filtration)

とは,

U ◦ C = U ◦ B

を満た すフィルトレーション

C ,

つまり

T

C

//

B

// Prob

U

// Meas

で,

S

t

C-

マルチンゲール

,

すなわち

s < t

ならば

E

C(ιs,t)

( S

t

) = S

s

となるものを言う.

本節の残りでは,以下の定理を証明することに注力 する

[5]

定理

3.9

(文献

[5]

.

脱落フィルトレーション

Drop

α,β に関するリスク中立フィルトレーションが存在する.

まずは,一般的にリスク中立フィルトレーション

C

に対して

C ( t ) = ( B

t

, F

t

, Q

t

)

となっているとき,確 率測度

Q

t

: F

t

[0 , 1]

がどんな形をしているかを調 べる.

定理

3.10.

確率過程

S

t

C -

マルチンゲール であるた

めの必要十分条件は,すべての

t [0 ,

0

ω B

t

に対して,以下を満たすことである.

Q

t

({ω}) = c

1

Q

t+1

( I

t

(1 , ω )) + c

0

Q

t+1

( I

t

(0 , ω ))

ただし

j = 0 , 1

のとき

I

t

( j, ω ) :=

f

t,t+1−1

( ω ) | ω

( t + 1) = j}

かつ

c

1

:= 1 + μ + σ

1 + r , c

0

:= 1 + μ σ 1 + r

証明

. ω B

tとすると,命題

3.3

より

E

C(it,t+1)

( S

t+1

)( ω ) Q

t

( {ω} )

=

ω∈ft,t+1−1 (ω)

S

t+1

( ω

)Q

t+1

({ω

})

=

ω∈ft,t+1−1 (ω)

b

−1t+1

( ω

)( S

t

f

t,t+1

)( ω

)

(1 + μ + σξ

t+1

( ω

))Q

t+1

({ω

})

=

ω∈ft,t+1−1 (ω)

(1 + r )

−(t+1)

S

t

( ω )

(1 + μ + σξ

t+1

( ω

)) Q

t+1

(

} )

= S

t

( ω )

ω∈ft,t+1−1 (ω)

1 + μ + σξ

t+1

( ω

)

1 + r Q

t+1

(

} )

したがって

S

t

= E

C(it,t+1)

( S

t+1

)

であるための必要十分条件は,

Q

t

( {ω} ) =

ω∈It(1,ω)

1 + μ + σ

1 + r Q

t+1

(

} )

+

ω∈It(0,ω)

1 + μ σ

1 + r Q

t+1

(

} )

= c

1

Q

t+1

( I

t

(1 , ω )) + c

0

Q

t+1

( I

t

(0 , ω ))

定義

3.11. ω B

t かつ

d ∈ {0 , 1}

のとき,

( ωd ) B

t+1は,任意の

s (0 , t + 1]

0 に対して以下を満た す元とする.

( ωd )( s ) :=

⎧ ⎪

⎪ ⎩

ω ( s ) ( s t ) d ( s = t + 1)

また混乱が生じない限り,

(( ωd

1

) d

2

)

を括弧を省略し て

ωd

1

d

2 と書く.

仮定

3.12.

関数列

{q

t

: B

t

[0 , 1] }

t∈(0,∞)0 が存在 して,すべての

t (0 , )

0

ω B

t に対して以下 を満たすとする.

1. Q

t

({ω}) =

s∈(0,t]0

q

s

( ω |

(0,s]0

) 2. q

t+1

( ω 0) + q

t+1

( ω 1) = 1

以後は仮定

3.12

を前提とし,

{q

t

}

t∈(0,∞)0 を求め ることによって,リスク中立フィルトレーション

C

を 決定する.

(6)

補題

3.13. 1 = c

1

x + c

0

(1 x ) ⇐⇒

x = 1

2 + r μ

2 σ

かつ

1 x = 1

2 r μ 2 σ

命題

3.14. t (0 , )

0 に対して,もし

f

t,t+1

= full

t,t+1ならば,

Q

t

({ω}) = 0

であるような

ω B

t

に対して,以下が成り立つ.

q

t+1

( ω 1) = 1

2 + r μ 2 σ q

t+1

( ω 0) = 1

2 r μ 2 σ

証明

.

ω 1 ω

h h h h h h h h h h

V V V V V V V V V V

ω 0 B

t

B

t+1fullt,t+1

oo

ω oo

fullt,t+1

ωd

t+1

( full

t,t+1

)

−1

( ω ) = 0 , ω 1 } I

t

(1 , ω ) = 1}

I

t

(0 , ω ) = 0}

定理

3.10

より

Q

t

({ω}) = c

1

Q

t+1

( I

t

(1 , ω )) + c

0

Q

t+1

( I

t

(0 , ω ))

= c

1

Q

t+1

({ω 1}) + c

0

Q

t+1

({ω 0})

ここで

Q

t+1

({ωd

t+1

}) = Q

t

({ω}) q

t+1

( ωd

t+1

)

かつ

Q

t

({ω}) = 0

であるから,

1 = c

1

q

t+1

( ω 1) + c

0

q

t+1

( ω 0)

したがって補題

3.13

より以下を得る.

q

t+1

( ω 1) = 1

2 + r μ

2 σ , q

t+1

( ω 0) = 1

2 r μ 2 σ

命題

3.14

で得られた確率は,

ω

にも

t

にも依存し ていない点に注意されたい.

命題

3.15. t (0 , )

0に対して,もし

f

t

= drop

t,t+1 ならば,

Q

t−1

({ω}) = 0

であるような

ω B

t−1に対 して,以下が成り立つ.

q

t

( ω 1) = 0 q

t

( ω 0) = 1 q

t+1

( ω 01) = 1

2 + r μ 2 σ q

t+1

( ω 00) = 1

2 r μ 2 σ

証明

.

ω 11 ω 1

e e e e e e e e e e

Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y

ω 10 ω

k k k k k k k k k k k

S S S S S S S S S S S

ω 01 ω 0

e e e e e e e e e e

Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y

ω 00 B

t−1

B

t

B

t+1dropt,t+1

oo

ω ω 0 oo

dropt,t+1

ωd

t

d

t+1

( drop

t,t+1

)

−1

( ω 1) =

I

t

(1 , ω 1) = I

t

(0 , ω 1) = ( drop

t,t+1

)

−1

( ω 0) = 00 , ω 01 , ω 10 , ω 11 }

I

t

(1 , ω 0) = 01 , ω 11 } I

t

(0 , ω 0) = 00 , ω 10}

定理

3.10

より

Q

t

( 1 } )

= c

1

Q

t+1

( I

t

(1 , ω 1)) + c

0

Q

t+1

( I

t

(0 , ω 1)) = 0

今,

Q

t

( {ωd

t

} ) = Q

t−1

( {ω} ) q

t

( ωd

t

)

かつ

Q

t−1

({ω}) = 0

であるから,

q

t

( ω 1) = 0 , q

t

( ω 0) = 1 q

t

( ω 1) = 1

次に,再び定理

3.10

より

Q

t

({ω 0}) = c

1

Q

t+1

( I

t

(1 , ω 0)) + c

0

Q

t+1

( I

t

(0 , ω 0))

= c

1

Q

t+1

({ω 01}) + Q

t+1

({ω 11}) + c

0

Q

t+1

({ω 00}) + Q

t+1

({ω 10})

両辺を

Q

t−1

( {ω} ) = 0

で除して

q

t

( ω 0) = c

1

q

t

( ω 0) q

t+1

( ω 01) + q

t

( ω 1) q

t+1

( ω 11) + c

0

q

t

( ω 0) q

t+1

( ω 00) + q

t

( ω 1) q

t+1

( ω 10)

したがって

q

t

( ω 1) = 0

かつ

q

t

( ω 0) = 1

であるから,

1 = c

1

q

t+1

( ω 01) + c

0

q

t+1

( ω 00)

よって補題

3.13

より以下を得る.

(7)

ω 111 ω 11 d d d d d d d d

Z Z Z Z Z Z Z Z

ω 110 ω 1

i i i i i i i i i

U U U U U U U U U

ω 101 ω 10 d d d d d d d d

Z Z Z Z Z Z Z Z

ω 100 ω

r r r r r r r r r r r r

L L L L L L L L L L L L

ω 011 ω 01 d d d d d d d d

Z Z Z Z Z Z Z Z

ω 010 ω 0

i i i i i i i i i

U U U U U U U U U

ω 001 ω 00 d d d d d d d d

Z Z Z Z Z Z Z Z

ω 000 B

t−2full

oo

t−2,t−1

B

t−1

oo

fullt−1,t

B

t

oo

dropt,t+1

B

t+1

図3 フィルトレーションDropt−0.5,t+0.5

q

t+1

( ω 01) = 1

2 + r μ

2 σ , q

t+1

( ω 00) = 1

2 r μ 2 σ

命題

3.16. full

t,t+1

drop

t,t+1 はともに

Q

t

Q

t+1に関して零保存である.

証明

. ω B

tとすると,仮定

3.12

より

(Q

t+1

full

−1t,t+1

)( ω ) = Q

t+1

({ω 1 , ω 0}) = Q

t

( ω )

したがって

full

t,t+1は零保存.

つぎに

drop

t,t+1の場合,

ω

B

t−1 とすると,命

3.15

より

Q

t

( ω

1) = 0

だが,一方で

( Q

t+1

drop

−1t,t+1

)( ω

1) = Q

t+1

( ) = 0

となるから,

drop

t,t+1も零保存.

定 理

3.17

( 文 献

[5]

.

脱 落 フ ィ ル ト レ ー シ ョ ン

Drop

α,β に関するリスク中立フィルトレーション

C

が存在する.このとき,確率空間

C ( t )

の確率測度

Q

t

Drop

α,β

( t )

の確率測度

P

t と同値ではない.した がって,

EMM

ではない.実際,確率測度

Q

tは一意に は定まらない.同様に,リスク中立フィルトレーショ ン

C

も一意には決まらない.

証明

.

命題

3.14

と命題

3.15

で得られた

q

t を仮定

3.12

に代入すると確率測度

Q

t が得られる.一方命 題

3.16

より,

Q

t の下で射

full

t,t+1

drop

t,t+1は 零保存となる.したがって

C

はフィルトレーション であることが言える.またこの

Q

t は,その作り方よ り,明らかに定理

3.10

の必要十分条件を満たす.し たがって,フィルトレーション

C

は,

Drop

α,β に関 するリスク中立フィルトレーションである.ところで,

命題

3.15

では,

q

t+1

( ω 11) [0 , 1]

は任意の値を取り

Y

t+1

( ω 11) Y

t

( ω 1) e e e e e e e

Y Y Y Y Y Y Y

Y

t+1

( ω 10) Y

t−1

( ω ) = Y

t

( ω 0)

i i i i i i i i i i i

U U U U U U U U U U U

Y

t+1

( ω 01) Y

t

( ω 0) e e e e e e e

Y Y Y Y Y Y Y

Y

t+1

( ω 00) B

t−1

oo

fullt−1,t

B

t

oo

dropt,t+1

B

t+1

図4 Dropt,tによる価格付け

得る.このとき

q

t+1

( ω 10)

1 q

t+1

( ω 11)

によって 計算できる.つまり確率測度

Q

t+1は,一意には定ま らない.

3.3

価格付け

C : T → Prob

をリスク中立フィルトレーション,

Y : B

T

R

を時刻

T

でのペイオフとすると,時刻

t

での

Y

の価格

Y

tは,一意の射

ι

t,T

: T t

を使って 以下の式で与えられる.

Y

t

:= E

C(ιt,T)

( b

−1T

Y )

つまり脱落フィルトレーションを主観的フィルトレー ションとしてもっている人も,証券

Y

の価格付けを行 える.ただ,こうして得られた価格が市場均衡価格に どのように影響を与えるかについては追加的な考察が 必要になる.

4. まとめ

本稿では,一般化フィルトレーションという概念を 提案した.これは従来の単調増加な情報列という枠組 みを超えて,情報の発展が必ずしも増えるだけでなく,

減少したり,捻じ曲がったりすることを許す拡張され たフィルトレーションであり,ちょうど個人に帰属す る主観的確率測度のように,個人の情報変遷の履歴と しての主観的フィルトレーションを表現できる.自然 な興味として,このように一般化されたフィルトレー ションの下で,従来の確率解析や確率制御の理論をど こまで展開できるか,というものがある.

本稿では,一つの応用例として,二項資産価格モデ ルで従来のフィルトレーション(古典的フィルトレー ション)に加え,一定期間の記憶を失った脱落フィルト レーションを導入し,後者を主観的フィルトレーショ ンとしてもつ個人が,何らかの意味で,証券の価格付 けをすることが可能かを議論した.これはすなわち,

この主観的フィルトレーションに対応するリスク中立

(8)

フィルトレーションが存在するかという問題に帰着し,

本稿ではその存在を示した.しかしながら,得られた リスク中立フィルトレーションは,完備市場で観察さ れる古典的リスク中立確率測度とは異なり,一意に定 まらない.これはある意味,このような一般化フィル トレーションをもつ市場は,(少なくともそのフィル トレーションを主観的フィルトレーションとしてもつ 個人にとっては)完備ではない,ということになるだ ろう.また,今回は扱わなかった他の主観的フィルト レーションに関してはリスク中立確率測度が存在しな い場合も考え得るが,このとき,株式などの均衡市場 価格がどのように決まるかは今後の研究テーマとなり 得る.

言うまでもなく,本稿で示した一般化フィルトレー ションの応用は一例に過ぎず,他にも多くの応用が考え られる.先に述べたように,一般化フィルトレーショ ンを使うことによって従来の確率制御や確率微分方程 式の理論を展開する可能性があるが,たとえば古典的 フィルトレーションの下では,時間一貫性のない

(time- inconsistent)

問題をフィルトレーションを捻じ曲げる ことによって,時間一貫性のある

(time-consistent)

問 題に変換することが考えられる.またファイナンスの 信用リスク計算やインサイダー取引の解析に使われる フィルトレーションの拡張理論も,一般化フィルトレー ションの枠組みで考えることができるだろう

[6]

.さ らに,フィルトレーションとそれに関するリスク中立

フィルトレーション,あるいは複数の異なる時間解像 度をもつ時間領域上で定義されたフィルトレーション の関係などを研究するためには,フィルトレーション のなす空間を用意して,フィルトレーションの変換や 収束を考えることが必要であろう.

以上の応用,もしくは発展についてさらに詳しく述 べることは,紙数の都合から本稿では差し控えるが,機 会があれば解説したい.

謝辞 本 研 究 は ,

JSPS

科 研 費

JP17K01248,

JP18K01551,

および東京都立大学金融工学研究セン

ターからの助成を受けている.

参考文献

[1] T. Adachi, “Toward categorical risk measure the- ory,” Theory and Applications of Categories, 29, pp. 389–405, 2014.

[2] T. Adachi and Y. Ryu, “A category of probability spaces,” Journal of Mathematical Sciences, the Uni- versity of Tokyo,26, pp. 201–221, 2019.

[3] S. MacLane,Categories for the Working Mathemati- cian, Number 5 in Graduate Texts in Mathematics, 2nd edition, Springer-Verlag, 1997.

[4] S. E. Shreve,Stochastic Calculus for Finance I: The Binomial Asset Pricing,Model, Springer-Verlag, 2005.

[5] T. Adachi, K. Nakajima and Y. Ryu, “A bino- mial asset pricing model in a categorical setting,”

arXiv:1905.01894 [q-fin.MF], 2019.

[6] A. Aksamit and M. Jeanblanc, Enlargement of Fil- tration with Finance in View, Springer-Verlag, 2017.

参照

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