九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
食品の変色とスペクトルとの関係(VII) : リンゴ酵 素—カテコールアミン系の吸収スペクトル
尊田, 民喜
九州大学農学部食糧化学教室
稲富, 良文
キリンビール株式会社
浅田, 要一郎
日本冷蔵株式会社
吉川, 秀樹
住友化学工業株式会社
他
https://doi.org/10.15017/23180
出版情報:九州大學農學部學藝雜誌. 29 (3), pp.71-77, 1974-12. 九州大學農學部 バージョン:
権利関係:
九大農学芸子 (Sci・Bu11・Fac・Agr・・Kyushu Univ・)
第29巻第3号71−77(1974)
食品の変色とスペクトルとの関係 (VII)
リンゴ酵素一カテコールアミン系の吸収スペクトル 藍田民喜・稲富良文1)・浅田要一郎2)
吉川秀樹3)・大村浩久
九州大学農学部食糧化学教室 (1974年8月5日受理)
Relationship between Change of Color of Foods
and Spectra (VII)Absorption Spectra of Apple Enzyme−
Catecholamine System
TAMIyOSHI SoNDA, YOSHIFUMI INATOMI,
YolcHIRo ASADA, HIDEKI YOSHIKAWA and HIRoHlsA OMuRA
Food Chemistry lnstitute, Faculty of Agriculture,
Kyushu University, Fukuoka
食品の酵素的褐変はポリフェノール類の酵素的酸化 と引続くメラノイジン形成の二段階に大別されるが,
とくに前段階が重視されている.この場合,酵素の働 きは基質ポリフェノール類および食品の種類によって 著しく異なる.我々はこれまで主としてリンゴ酵素を 用い吸収スペクトルの面から検討してきたが,リンゴ 酵素はクロロゲン酸を主要基質とすることが知られて いるので,クロロゲン酸のほか,カテコールおよびピ ロガロール等を主体として研究した.しかし一方ドー パ,ドーパミン等を主体とする褐変系も知られている.
すなわち,チロシンからドーパ,ドーパキノン,ド ーパクロムなどを経由する褐変系が古くから知られて いる.他方チロシンからドーパ,ドーパミンを経てノ ルアドレナリン,アドレナリンのようなホルモンが形 成されるが,このようなカテコールアミン類は芳香族 レダクトンに属し,いずれも特異的ホルモン作用のほ か抗腫瘍能その他の生理的機能を示すことが我々の研 究室において見出されていて(Yamafuji et al.1970,
1971),褐変系と抗腫瘍性との関連性も示唆される.
そこで褐変機構の解明にあわせて抗腫瘍性物質の検索
にも資するため,カテコールアミン類ないし3,4一ジ ヒドロキシトルエン等の芳香族レダクトンについて も,リンゴ酵素による褐変を測定した.
実 験 方 法
リンゴ酵素 常法(大村・尊田,1970;大村ら,1971;
尊田・大村,1973;白田ら,1974)により調製したリ ンゴ果肉のアセトン粉末15gを0.2M McIlvaine 緩衝液(pH 6)600 mlで磨砕抽出,吸引濾過後遠心 分離(10,000rpm,30分)し粗酵素液とした.これ に飽和硫安液を加えて0.8飽和にし,生じた沈澱を遠 心分離(10,000rpm,30分)して集めて0.02 Mリ
ン酸緩衝液(pH 7)に溶かす.これを0.02 Mリン 酸緩衝液(pH 7)に対し,5。C,2日間透析し,遠心 分離後,その上澄液を75mlとし,酵素液として用
いた.
褐丁度の測定 0.01Mポリフェノール溶液7.5m1 に水7.5mlおよび酵素液3. O mlを加え,37℃に 30分,6時間,12時問および24時間反応させ,光電 比色計を用い470nmで吸光度を測定した.
︶︶︶19臼QU キリンビール株式会社 日本冷蔵株式会社 住友化学工業株式会社
71
72 尊田民喜・稲富良文・浅田要一郎・吉川秀樹・大村浩久
吸収スペクトルの測定 ポリフェノール溶液1ml,
水5mlおよび酵素液4mlよりなる反応液につい
て,島津マルチパーパス自記分光光度計MPS−50型 により吸収スペクトルを測定した.この場合,可視部には0.01M,紫外部には1mMポリフェノール溶
液を用いた.
結 果
1.反応液の面変
まずリンゴ酵素による種々のポリフェノール類の褐 変を測定し第1表に示した.大村・広田(1970)がさき に明らかにしたカテコール,クロロゲン酸,ピロガロ ールのほか,ドーパ,ドーパミン,アドレナリン,ノ ルアドレナリン,さらには3,4一ジヒドロキシトルエ ンなどもリンゴ酵素によりょく褐変され,しかも褐変 度は反応時間に応じて大きくなった.しかし没食子酸 やフェニルアラニン,あるいはメタ位に水酸基を有す るレゾルシノールやフロログルシノールなどはほとん ど褐変しなかった.リンゴ酵素によるクロUゲン酸や
Table 1. Browning of several polyphenol compounds by apple enzyme.
カテコールの褐変が強いことは知られていたが(申林,
1954), 3, 4一ジヒドロキシトルエンやアドレナリンも ほぼ同等であり,ドーパ,ドーパミン,ノルアドレナ
リンなどはさらに強く褐変された.
2. ドーパ
リンゴ酵素をドーパに作用させると,その作用時間 に応じて褐署した。この場合,Fig.1に示すように,
反応液の吸収スペクトルは,可視部においてははじめ 全く吸収はなかったが再変の進行に応じて吸光度を増 し,しかも475〜480 nmに吸収極大,375〜380nm に極小をもつスペクトルが認められた.従ってこれは
ドーパより生じた色素の吸収スペクトルであること も推定され,またFig.1は褐.変にともなう吸光度の 変動を示すものであって,ドーパの褐変においては 475〜480nmを中心に吸光度が増大することを確か
めた.
E
L21.O
Polyphenol
Catechol Chlorogenic acid Pyrogallol
Dopa Dopamine
Noradrenaline Adrenaline3, 4−Dihydroxytoluene Gallic acid
Resorcinol Phloroglucinol Phenylalanine
None
OD470 (hrs) O.8
O. 5 6 12 24
0000000000000 75897956108883225777211000
O. 59 O.6 0. 47 0. 37 0. 70 1. 30 1. 20 0. 60 0. 49 0. 14 0. es O. 09 0. 08 0. 08O. 68 0. 64 0. 39 1. 05 1. 90 1, 60 0. 63 0. 70 0. 15 0. 08 0. 09 0. 08 0. 08
O. 77 0. 83 0. 74 1. 05 1. 75 1. 60 0. 80 0. 95 0. 15 0. 06 0. 06 0. 08 0. 05
Enzyme was extracted from 15g acetone powder of rinded apple with 600 ml of O.1 M Mcllvaine buffer, pH 6, filtered and cen−
trifuged at 10,000 r.p.m. for 30 minutes.
Into the supernatant, saturated ammoniurri sulfate solution was added to O. 8 saturation and centrifuged. The precipitate collected was dissolved in O.02 M phosphate buffer,
pH 7, and dialysed againstthe same buffer at 50C for 2 days. The supernatant filled up to 75 ml was employed in the examinar
ti盾氏@as the enzyme solution. A mixture of 7.5ml O. OI M polypheRol solution, 7.5ml H20 and 3 ml enzyme solution was incubat−
ed at 370C. After O.5, 6, 12 or 24 hours,
the browning was determined by estimat−
iRg the optical density at 470 nm.
O.4
O.2
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350 400 450 500 550 ,600
Wave length (nm)
Fig. 1. Absorption spectra of apple enzyme−dopa system in visible range of wave length during the browing.
Enzyme solution was prepared as de−
scribed in Table 1. A mixture of 1 ml O. Ol M dopa, 5 ml H20 and 4 ml enzyme solution was incubated at 37eC. After 1, 5, 10, 20, 30, 60, 120, 210 and 330
minutes, absorption spectra of the browning reaction mixture were esti−
mated with a Shimadzu Multipurpose Recording Spectrophotometer, MPS−50.
他方Fig.2に反応液の紫外吸収スペクトルならび にその変動を示す.ドーパは280nmに吸収極大を示 すが,褐変にともなって紫外部においても吸光度を増 加した.しかしこの場合,極大値280nmにおいて増 加度は最も低く,これより短波長側あるいは長波長側
リンゴ酵素一カテコールアミン系の雪国 73
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250 260 270 280 290 300
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Fig. 2. Absorption spectra and variation of the optical density of apple enzyme一一 dopa system in UV range of wave length during the browning. Estimation was car−
ried out as in Fig. 1, but after 1, 10, 60,
120, 330 minutes and 24 hours and l mM solution of dopa was employed in place of O. Ol M solution.
に移るに従って大きくなった.そのため反応液の吸収 スペクトルにおけるピークは低く,不明瞭になった.
3. ドーパミン
ドーパミンの場合,反応液は1分後に淡榿色,10分 後に榿赤色,60分後に褐色,330分後には黒褐色と着 色の変化を示したが,それにともない,反応液の可視 吸収スペクトルはFig.3に示すように変動した.す なわち1分後にはほとんど吸収は認められないが,5 分後にはドーパの場合と同様に475〜480nmに吸収 極大を示すスペクトルが観察された.60分ないし120 分後までは極大域を中心に全般に吸収は増大したが,
それ以後はとくに短波長側での増加が著しくなり,
330分後には450〜500nmにかけての肩に変化した.
一方紫外吸収スペクトルをFig.4に示す.ドーパ ミンでも280・nmにピークを有する吸収スペクトルが 観察されたが,褐変にともない,初め120分付近まで は300〜305nmを中心に吸光度は全般的に増加した.
しかし反応が長期化すると,280nm付近より長波長 域においては逆に低下し,一方短波長域では徐々に増
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350 4co 450 500 550 600
Wove lengtb (Bf1})
Fig. 3. Absorption spectra of apple enzyme−dopamine system in visible range of wave length during the brown−
ing. Estimation was carried out as in
Fig. 1.
E
O.6
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250 260 270 280 290 300 310
Wave length (nm)
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Fig. 4.
tion of the optical density of apple enzyme−dopamine system in UV range of wave length during the browning.
Estimation was carried out as in Fig. 2.
250 260 270 280 290 300 310
Wave tength (nm)
Absorption spectra and varia一
加を続け,従って吸光スペクトルは肩に変化する傾向 を示した,
4. ノルアドレナリン
ノルアドレナリンの場合,試料には微量のアルカリに 溶かしたのち水を加えて所定の濃度にしたものを用い た.反応液は約30分後に淡赤色,210分後に淡褐色を 呈したが,それとともに可視吸収スペクトルはF童9.5 に示すように変動した.すなわち,ドーパミンと同様
74 尊閏民心・稲富良文・浅田要一郎・吉川秀樹・大村浩久
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1.0
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350 400 450 500 550 600
Wave tength (nm)
Fig. 5. Absorption spectra of apple enzyme−noradrenaline system in visible range of wave length dui ing the brown−
ing. Estimation was carried out as in
Fig. 1.
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O.4
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250 260 270 280 290 300 510
Wove length (nm)
し,反応にともなって吸光度を増加した.しかし増加 度はドーパミンに比べて著しく低く,しかも増加のピ
ークは多少短波長側に移って295〜300nm付近にあ った.さらに120分以降も吸光度は僅かながら上昇を 続けた.
5. アドレナリン
アドレナリン溶液もノルアドレナリンと同様に調製 して反応させたが,5分後にはピンク,60分後には赤 三色に着色した.これにともなう各時間後の可視吸収
スペクトルをFig.7に示す.この場合も,475〜500 nm付近に極大を示すスペクトルが観察され,反応時 間とともに上昇した.しかし,この場合にはドーパに 類似し,ドーパミンやノルアドレナリンとは異なっ て,短波長域での顕著な吸光度の増加は認められなか った.また吸収スペクトルのピークの位置も,10分
後における500nm付近から330分後における475
nm付近と,凶変にともない短波長側に移行する傾向 が認められた。+O.2
AE
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Fig. 6. Absorption spectra and varia−
tion of the optical density of apple enzyme−noradrenaline system in UV range of wave length during the brown−
ing. Estimation was carried out as in
Fig. 2,
に,反応の初期においては475〜480nmに吸収極大 を持つスペクトルが観察された.しかも,全般的な吸 収の増大は120分程度までであって,以後ピークにお ける増大はほとんど認められなかった.しかし短波長 域での増加は継続し,330分後にはスペクトルのピー クは消失し肩に変化した.さらに反応を続けると,吸 光度はさらに若干低下し,短波長域ならびに550 nm 付近より長波長域での多少の増加とあわせて,吸光ス ペクトルにはピークないし肩は全く認められず,短波 長側から長波長側にかけて吸光度の減少を示すのみで
あった.
他方,紫外吸収スペクトルはFig.6に示す通りで あって,ドーパミンと同様に280nmにピークを示
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350 400 450 500 550 600
Wove length (nm)
Fig. 7. Absorption spectra of apple enzyrne−adrenaline system in visible range of wave length during the browning. Estimation was carried out
as in Fig. 1.
Fig.8に紫外吸収スペクトルを示す.紫外部にお いてはノルアドレナリンと同様に280nmにピークを 示すスペクトルが観察され,褐変とともに吸光度は増 加した.しかもその増加度は長波長側および短波長側 で大きかったが,増加の極大は300nm付近にあり,
一方極小は270nm付近にあった.
6.3,4一ジヒドロキシトルエン
ドーパ,ドーパミン,ノルアドレナリン,アドレナ リン,以上4種のカテコールアミン類はいずれも可視 部には吸収はないが,紫外部においては全く類似のス ペクトルを示し,280nm付近に極大,255・nm付近 に極小が観察された.この吸収スペクトルは,これら
リンゴ酵素一カテコールアミン系の目印 75
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O.4
O.2
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250 260 270 280 290 300 310
Wave length (nm)
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+O.4
+O.2
o
Fig. 8. Absorption spectra and variation of the optical density of apple enzyme−
adrenaline system in UV range of wave length during the browning. Estimation was carried out as in Fig. 2.
カテコールアミン類の定性的検出には有効であるが,
相互間はもちろん,さらに類似のスペクトルを有する 他物質との識別は不可能である.このような類似の紫 外吸収スペクトルを有するものとして3,4一ジヒドロ キシトルエンがある.しかもこれは。一ジフェノール 化合物であって,リンゴ酵素により褐変される.
反応液は5分で黄色,60分で多少赤味を帯びる程 度に着色する.この場合の吸収スペクトルおよびその
変動をFig.9に示す.反応直後1分ですでに400
nm付近にピークを生じたので,スペクトルの変動は これを基準として求めたが,カテコールアミン類とは 異なった著しい挙動を示した.すなわちスペクトルのピークの位置は400nm付近にあり,しかも反応初期 10分程度で特に著しかった.その後ピークの吸光度 は若干低下するとともに短波長域での増加度が大きく なり,従って120分ないしそれ以降において400nm のピークは肩に変動した.
また紫外部の吸収スペクトルも異なった変動が認め られた(Fig. Io).すなわち上述のように,初めは
280nmに極大,255nmに極小のスペクトルを示し
たが,反応初期において275〜295nm付近にかけて 極大の吸収は低下し,一方短波長部の吸収は増加し た.従って30分後には反応液の吸収スペクトルは極 大を失い,265nm付近の肩に変化した.さらに反応 が進むに従い全波長にわたって吸収が上昇し,210分 後には270nm付近に明瞭な肩,330分後には弱いな がらもピークに転じ,24時間後には270nmに明瞭O.2
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350 400 450 500 550 600
Wave tength (nm}
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Fig. 9.
of the optical density of apple enzyme−3,
4−dihydroxytoluene system in visible range of wave length during the browning. 一 dsti−
mation was carried out as in Fig. 1.
0 400 450 500 550 600
Wove length (nm)
Absorption spectra and variation
E
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コ Wove length Cnm}
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Fig. 10. Absorption spectra and variation of the optical density of apple enzyme−
3,4−dihydroxytoluene system in UV range of wave length during the browning. Esti−
mation was carried out as in Fig. 2.
76 尊田民喜・稲富良文・浅田要一郎・吉川秀樹・大村浩久
な極大,255nm付近に極小をもつスペクトルが観察
された.
考 察
リンゴ酵素によって,クロロゲン酸,カテコール,
ピロガロールだけでなく,ドーパ,ドーパミン,ノル アドレナリン,アドレナリンなどカテコールアミン類 や3,4一ジヒドロキシトルエンも褐変される.これま で我々は褐変にともなう吸収スペクトルの変化を追及 することによって褐変に関与する反応系を解明する手 掛りを得ようと試みてきた.すなわちリンゴ果汁の褐 変液では特徴ある可視吸収スペクトルは認められず,
短波長側から長波長側にかけて吸光度が低下する平滑 なものであったが,吸光度の上昇は380nm付近で最 も大きかった.一方紫外吸収スペクトルは278〜280 nmおよび245 nm付近に極大,260 nm付近に極小 を示したが,褐変にともなって吸収のレベルが上昇す るとともに吸収の谷は不明瞭になりスペクトルは平滑 化した.これとともに吸光度の上昇はとくに260・nm 付近において最も顕著であることを観察した(大村・
野田,}969).さらにクmロゲン酸,カテコールおよび ピロガロールにリンゴ酵素を作用させた褐変モデル系 についても,同じく吸収スペクトルならびにその変動 を追及した.可視吸収スペクトルは,クロロゲン酸や カテコールでは,反応開始後まず400nm付近また は380〜390nm付近に吸収ピークを生じたが褐変の 進行とともに平滑化した.一一方ピロガロールでは,
370 nm付近および420〜440nmに小さい肩を生じ たが24時間後には460nm付近に肩を持つスペクト ルに変化した.また紫外吸収スペクトルは,クロロゲ ン酸の場合,この基質が示す325nmおよび293 nm の極大が低下するとともに250nm付近に新しい極 大を生じ,さらに時間の経過に応じて再び低下したの で,作用時間によってそれぞれ異なった吸収スペクト ルが観察された.しかし吸光度は褐変期間を通じて 260nm付近を中心に増大し,330 nm付近を下心に 減少した.一方カテコールでは,275nm付近の吸収 極大は一旦低下したのち褐変に応じて全体の吸収レベ ルが上昇するとともに肩に変化したが,吸光度は250 nm付近および290 nm付近を中心に上昇した.ピロ ガロールでの褐変液の吸収スペクトルはさらに異な り,275nm付近に肩を示したが,吸光度は300nm 付近で最も大きく上昇した.従って,とくに吸光度の 変動を検討すると,可視部では生果汁の吸光度は380 nm付近を中心に上昇し,クロロゲン酸やカテコール
を用いたモデル反応系のものはこれに近いが,ピロガ ロールでは全く合致しない.また紫外部での上昇極大 は260nm付近にあって,クロロゲン酸のものはこ れに近く,さらにクロロゲン酸では280こ口付近よ り長波長側でかえって吸光度が減少するが,生果汁で はこのような低下は認められない.カテコール系では 250nmおよび290 nm付近に上昇極大があり,クロ
ロゲン酸での減少を補っていることも考えられる.従 って,リンゴ果汁の褐変にはクロロゲン酸のみが関与 するのではなく,カテコールなど他のポリフェノール 類の関与も推定される(大村・尊田,1970).
これに対してカテコールアミン系の褐変において は,可視部では475〜480nm付近を中心に吸光度が 上昇し,少なくも3〜4時間以内ではこの位置に極大 を示す明瞭な吸収スペクトルが観察された.この極大 部は生果汁ないしクロロゲン酸やカテコール系のもの よりもかなり長波長側に位置する.また紫外吸収で も,300〜305 nm付近を中心とする上昇曲線が観察 され,生果汁はもちろんクロロゲン酸やカテコール系 と全く異なった変動を示した.従って,カテコールア ミン類もリンゴ酵素により褐変されることは認められ るものの,生果ないし生果汁の顔変に直接関与してい る可能性はほとんど考えられない.
カテコールアミン類と類似の紫外吸収スペクトルを 有する3,4一ジヒドロキシトルエンも同様にリンゴ酵 素により褐変されたが,それにともなうスペクトルの 変動は生果汁,ク口吟ゲン酸,カテコール系とはもち ろん,カテコールアミン系の変動とも異なっている.
また可視部においては,カテコールないしクロロゲン 酸系に比較的類似して,褐変の初期においては400 nm付近に極大を示す吸収スペクトルが観察された.
食品の酵素的弓変においては,少なくもポリフェノ ール類が酵素により酸化されるならば,生成キノンは さらに重合ないし共重合を行なって色素を形成する.
こうしてカテコールアミン類はリンゴ酵素により開戸 されることが認められるものの,少なくも生成色素は 生果あるいはクロロゲン酸ないしカテコール類の場合 のものとかなり異なることが,吸収スペクトルの相違 から推定できる.またこのスペクトルの変動を検討す ることによって褐変に関与する主要成分をある程度判 断することも可能であると思われる.
総 括
の ドーパ,ドーパミン,ノルアドレナリン,アドレナ リンなどカテコールアミン類もリンゴ酵素により褐変
リンゴ酵素一カテコールアミン系の褐変 77
されることを認めた.さらにこれ等の褐変系はいずれ も475〜480nm付近に極大を示す可視吸収スペクト ルを生成した.また紫外吸収スペクトルも反応にと もない変化したが,特異的吸光度の上昇曲線を示し 300〜305nm付近で最も大きかった.
他方カテコールアミン類と類似の紫外吸収スペクト ルを示す3,4一ジヒドロキシトルエンも同様に褐変さ れたが,前者とは異なり,とくに400nm付近に極 大を示すスペクトルを生成した.
文 献
中林敏郎1954林檎果肉の褐変現象(その2)林檎果 肉呼吸のterminal oxidaseに就て.農化,28:
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大村浩久・痴言言出1969食品の変色とスペクトルと の関係(II)リンゴ果汁の吸収スペクトル.栄養 と食糧,22(7):497−505
大村浩久・町田民喜1970食品の変色とスペクトルと の関係(III)リンゴ酵素による褐変液の吸収ス
ベクトル.栄養と食糧,23(6):367−373 大村浩久・尊田民喜・井上浩輔1971食品の変色とス ベクトルとの関係(IV) リンゴ酵素一カテコー ル系 による褐変に対するpHの影響,栄養と食
糧, 24(4):242一一248
尊田民喜・大村浩久1973食品の変色とスペクトルと の関係(VI)リンゴ褐変色素の吸収スペクトル.
栄養と食糧,26(9):531−537
尊田民喜・井上浩輔・荒巻輝代・大村浩久1974食品 の変色とスペクトルとの関係(V)種々のpHに おける リンゴ酵素一クロUゲン酸 系の褐変.
九大農学芸誌,28(2):73−78
Yamafuji, K., H. Murakami and M. Shinozuka 1970 Antitumour activity of dopa, dopa−
mine, noradrenaline or adrenaline and their reaction with nucleic acid. Z. Krebsforsch.,
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Yamafuji, K., K. Shinohara, F. Yoshihara, H.
Omura and N. Ogata 1971 Control of genes in silkworms by steroid hormones, cate−
cholamines and hexose oximes. Enrymologia,
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Summary
Browning of catecholamines such as dopa, dopamine, noradrenaline and adrenaline with apple enzyme was estimated. ln the course of the browning, the absorption spectra with the peak at 475tv480 nm was formed. On the other hand, variation of UV spectrum was also estimated and the maximum increase of the optical density was determined at 300Av305 nm. Enzymatic browning was observed for 3, 4−dihydroxytoluene too, whose UV spectrum is similar to those of catecholamines. However, differing from catecholamines, the absorption spectrum with the peak at 400 nm was formed during the browning.