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看護部門の倫理的風土変革の試み
−変革理論を用いたアプローチ−
An attempt to change ethical climate in a nursing department
中川 典子
1Noriko NAKAGAWA 1
キーワード:看護部門、臨床倫理委員会、変革
Key words
:nursing department
、clinical ethics committee
、change theory
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1 京都第二赤十字病院 Japanese Red Cross Kyoto Daini Hospital
Σ.研究の背景と目的
看護者が患者の権利擁護者としての責務を果たす ためには、看護者個々が倫理的行動力を向上させる とともに、現場の倫理的問題を顕在化し対応策を検 討する組織的な取り組みが必要である。しかし先行 研究を見ると、病院倫理委員会の活動は治験の審査 などが中心であり1、その活動は活発といえる状況 にはない。また看護部倫理委員会については実践報 告が主であり、活動の成果を報告したものは少ない2。
A
施設では、2006年に、看護者の倫理的感受性の 向上と現場の倫理的問題が顕在化し適切に対応でき る環境の醸造を目的に、2006年に看護部長方針で看 護部倫理委員会を設置した。今回、変革理論を用 い、看護部組織の倫理的風土の変化を目指す委員会 活動について、意識や行動の変化の視点から評価す ることを目的に調査を行った。Τ.看護部倫理委員会の活動の実際
今回の取り組みでは、既存の看護実践環境の意図 的変化を目指すため、変革理論3を参考にした。
【第
1
段階:解凍Unfreezing:現状を見直し,否定
し,従来からのやり方から決別すべく準備状況を作 り上げる段階3】各部署の中堅スタッフを委員として、2006年に看 護部倫理委員会を設置した。また、データ収集と問 題の診断のためA施設の看護者が体験している倫理 的な問題の実態調査4を委員会活動開始時の2006年 に行った。その結果を参考に、委員会で取り組むべ き倫理的な問題を明らかにするとともに、委員会目 標・活動の方向性を検討した。
【第
2
段階:変化Changing:以前とは異なった状況
の意味や対応の方法を見極めようと探索行動が開始 され,新しい行動パターンが獲得される段階3】委員会目標を、「看護職員が日常業務における倫 理的な問題の顕在化や問題解決に向けて行動できる
ための支援を行う」とし、委員の倫理的行動力の向 上を目指すとともに、委員には変化の推進者として の役割の動機づけを行った。 委員会は月
1
回、外 部委員を招き、主に各部署の倫理的問題の共有や対 応策の検討、部署から提示された事例の検討、委員 の活動報告などを議題として取り上げた。委員会で の検討事例は、事例紹介、検討過程、解決策までを まとめ各部署に配布した。また、看護倫理研修を全 看護者対象に年1
回と入職時研修として実施してい る。委員の部署内活動は、カンファレンスでの委員 会報告、検討事例の紹介、学習会や事例検討、現場 の倫理的問題についての意見交換などである。Υ.調査方法
1
.回答者とデータ収集方法2009年 2
月現在、A施設在職の全看護職員547名に対する自記式質問紙留置き法。
2
.質問紙の構成および内容質問紙は選択式30項目、自由記述式
2
項目からな る。質問項目は以下のとおりである。なお、自由記 述式で回答を求めたのはこれらのうち、委員会報告 や検討事例の有用性の理由、倫理委員会に対する期 待に関する項目だけである。1
)回答者属性:年齢、経験年数、職場、職位2
)倫理研修の受講や委員会への関心:看護倫理の講義や研修の受講の有無、看護者の倫理綱領の認 知、倫理綱領の活用の程度、調査施設の倫理委員 会への関心の有無、委員会報告や検討事例の見聞 の有無、委員会報告や検討事例の有用性、その理 由、倫理委員会に対する期待
3
)部署での倫理カンファレンス開催の有無4
)看護部倫理委員会の活動開始後の行動や気持ちの変化、患者への関わり方・接し方の変化の有無 と変化の内容5
5
)倫理的に問題のある場面の体験の有無過去の調査4で使用した倫理的問題のある場面の うち、体験の頻度や回避的対処行動が多かった10 場面について、体験の有無を「よくある」「時々 ある」「あまりない」「全くない」から選択
6
)倫理的に問題のある場面を体験した時の対処方法10場面の体験について「よくある」「時々ある」
と回答した者に対して、対処方法を以下から選 択:上司・同僚に相談、関係者と話し合った、カ ンファレンスで話し合った、ひとりで悩んだ、
深く考えなかった、問題と思わなかった
3
.分析方法設問ごとの記述統計量の算出と、χ2検定を用い て項目間の関係を検討した(p
<0.05)。
4
.倫理的配慮質問紙には、調査の趣旨、調査への自由参加、不 参加の場合の不利益性、結果の公表、個人情報の厳 守などについて明記した依頼文を添付し、質問紙の 回答をもって調査協力の承諾とした。また看護部外 部廊下に回収箱を設置し、調査への自由参加と匿名 性を確保した。なおA施設看護部の承認を得て調査 を実施した。
Φ.結果 1
.回答者属性回収数は394(72.0%)であった。年齢構成は、29 歳以下148名(37.6%)、30〜39歳157名(39.8%)、40
〜49歳62名(15.7%)、50歳以上27名(6.9%)と39歳 以下が77.4%を占めていた。経験年数は、3年未満
64名(16.2%)、3
〜5
年未満42名(10.7%)、5〜10年 未満118名(29.9%)、10〜20年未満109名(27.7%)、20年以上61名(15.5%)と、10年未満の者が56.8%を
占めていた。職場・職位では、病棟スタッフが最も 多かった。2
.倫理に関する研修の受講や委員会への関心(表1) 倫 理 綱 領 を 知 っ て い る と 回 答 し た 者 は161名(40.9%)、知らない227名(57.6%)であった。倫理 委 員 会 活 動 に 関 心 が あ る と 回 答 し た 者 は283名
(72.4%)で、委員会報告や検討事例の見聞があると 回答した者は284名(72.1%)であった。この284名 のうち、委員会報告が役に立ったと回答した者は
167名(58.8%)、役に立たなかった 8
名(2.8%)、ど ちらとも言えない104名(36.6%)であった。役に 立った理由を自由記載してもらった結果、「他の意 見や対応の仕方を見て、考えを深めたり改めたりす ることができる」「事例のような内容が倫理的な問 題と気づけた」「同じことを繰り返してはいけない と感じられた」「情報が共有できるので、自分の職 場でその情報が生かせると思う」「患者との関わり の中で自分がどのように考えながら接しているか、改めて見つめなおすことができた」など、報告事例 を通して倫理的な視点を身につけたり、自分の問題
*
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表
1
気持ち,接し方・関わり方の変化の有無と協力者背景との関連(N=394)*p<0.05 自分の気持ちの変化 関わり方・接し方の変化 変化あり 変化なし 無回答 変化あり 変化なし 無回答
n 210 179 5 208 181 5
倫理に関する研修
受講あり 186 116 70 115 71
受講なし 174 82 90 2 79 92 3
わからない 30 11 19 13 17
無回答 4 1 3 1 1 2
看護者の倫理綱領
知っている 161 101 60 102 59
知らない 227 108 119 106 121
無回答 6 1 0 5 1 5
委員会活動
関心あり 283 181 98 4 172 107 4
関心なし 108 26 81 1 33 74 1
無回答 3 3 3 0
委員会報告・検討事例
聞いたことあり 284 183 101 177 107
聞いたことなし 99 24 71 4 29 66 4
無回答 11 3 7 1 2 8 1
報告を聞いたことあり と回答した者284名の 報告の有用性
役に立った 167 130 36 1 123 43 1
役に立たなかった 8 2 6 3 5
どちらとも言えない 104 48 56 47 57
無回答 5 3 2 4 1
倫理カンファレンス
実施している 143 101 41 93 49 1
実施していない 138 54 83 59 78 1
わからない 108 54 51 55 50 3
無回答 5 1 4 1 4
としてとらえ考える機会としていることがわかっ た。また役に立たなかった、どちらともいえないと 回答した理由については、「その事例に当てはまら ない」「あまり報告事例にあたることもなく、具体 的に役に立ったとは言えない」「部署で活かせる内 容ではなかった」など、報告事例に対して距離を置 いてとらえていることがうかがえた。
部署で倫理カンファレンスを開催していると回答 し た 者 は143名(36.3%)、 開 催 し て い な い138名
(35.0%)、わからない108名(27.4%)であった。
3
.倫理委員会活動開始後の変化の自覚自分自身の行動や気持ちに変化ありと回答した者 は210名(54.0%)であった(表
1
)。変化を自覚した 項目では、「日々の看護実践の中で倫理的問題に気 づくようになった」が101名と最も多かった(表2
)。また、委員会活動開始後の患者への関わり方・接し 方に変化ありと回答した者は208名(53.5%)であっ た(表
1
)。変化を自覚した項目では、「患者のプラ イバシーに配慮するようになった」が149名と最も 多かった(表2
)。また、気持ち、接し方・関わりの変化の有無と協 力者背景との関係を見ると、「研修の受講あり」「倫
理綱領を知っている」「委員会活動に関心あり」「委 員会報告の見聞あり」「委員会報告が役に立った」
「倫理カンファレンスの実施あり」と回答した者が それ以外の者より、「自分自身の行動や気持ち」「患 者への関わり方・接し方」に変化ありと回答した者 が有意に多かった(表
1
)。4
.体験している倫理的問題とその対処の特徴 倫理的に問題のある10場面のうち「医師の指示が 対象者にとって最善ではないと感じるが、その指示 に従っている場面」と、「自分の能力を超える仕事 をしなければならないが、自分の知識や技術に自信 が持てない場面」で、よくある、ときどきあると回 答した者がそれぞれ37名、214名(9.4%、54.3%)、59名、207名(15.0%、52.5%)と、体験の頻度が高
いことがわかった。対処についての回答をみると、「同僚の判断やケ アが適切ではないと感じるが、指摘できなかった場 面」、「倫理的・合理的でないと思われる看護業務 が、以前から行っているという理由で継続して行っ ている場面」について、「上司・同僚と話し合う」
「カンファレンスで話し合う」などの問題解決をめ ざ す 対 処 を 選 択 し た 者 は そ れ ぞ れ
72名、60
名表
2
倫理委員会活動開始後の変化の自覚(選択式複数回答、N=394)選択あり 選択なし
自分自身の行 動や気持ち
日々の看護実践の中で倫理的問題に気づくようになった 101 109 倫理的観点から物事を見るようになった 98 112
看護倫理の重要性を認識した 96 114
周りに相談をすることが増えた 50 160
悩んでいるのは自分だけではないと分かった 85 125
気持ちがすっきりした 61 149
倫理綱領を見る機会が増えた 11 199
後輩への指導の仕方が変わった 22 188
その他 4 206
患者への関わ り方・接し方
患者に対する見方が変わった 40 168
言葉遣いに気をつけるようになった 127 81
患者のプライバシーに配慮するようになった 149 59 患者への説明を丁寧にするようになった 101 107
患者の意向を聞くようになった 83 125
安易に抑制や拘束などをしなくなった 43 165
マニュアルやガイドラインに基づいてケアを行うようになった 11 197 患者・家族にとってよい形で倫理的問題が解決した 14 194
その他 5 203
(64.3%、59.4%)、「ひとりで悩んだ」「深く考えな かった」などの問題回避的な対処を選択した者は40 名、41名(35.7%、40.1%)と、他の場面と比較し て回避的な対処を選択した者が多かった。
Χ.考察
1
.倫理的行動力を向上させるもの倫理的行動力は、倫理的感受性、倫理的推論、態 度表明、実現という
4
つの要素から構成されている(p14)5。今回の調査結果を2007年度調査6と比較す ると、行動や気持ちの変化を自覚した項目の中で、
「日々の実践の中で倫理的問題に気づくようになっ た」と回答した者の割合が多くなっていた。さらに 関わり方・接し方の変化を自覚した項目の中で、
「患者のプライバシーに配慮するようになった」「患 者の意向を聞くようになった」「安易に抑制や拘束 をしなくなった」を選択した者の割合も、2009年度 調査のほうが多いという結果が得られた。これらの ことから、A施設の看護者は、日々の看護実践の中 で倫理的におかしいと気づく感受性や、おかしいと 感じた問題を解決しようとする力が身についてきた と推察される。
また結果から、行動や気持ち、患者への関わり 方・接し方の変化の自覚と、倫理研修の受講の有 無、倫理綱領に対する知識の有無、委員会活動への 関心の有無、委員会報告への関心の有無、委員会報
告の有用性の認識の程度、倫理カンファレンスの実 施の有無との間に関係があることが示唆された。こ れらのことから、看護倫理についての知識や委員会 活動などに対する関心を高めるような働きかけが、
看護者の倫理的感受性や倫理的問題を解決しようと する力を促すものと考える。しかし、倫理的な行動 をとるには、一般論の理解だけでは不十分である。
看護者が遭遇する倫理的問題は、患者の置かれた状 況によって、問題の本質や望ましい解決の方向が異 なってくる。そうした倫理的問題を確認し、看護者 として何を重視し優先するのかを決定する力を向上 させるには、事例検討や報告事例を見聞するなどの 模擬体験を重ねることが効果的と考える。
2
.看護部組織の倫理的風土の変化A
施設の委員会活動による倫理的風土の変化の様 相 を 変 化 の サ イ ク ル(p.391)7を 用 い て 説 明 す る と、図1
のように、まず看護部長のポジションパ ワーにより「看護部倫理委員会」が設置され、看護 部門で公的に倫理的問題について取り組むという、集団の行動に対する規制的な変化が起こった。それ と同時に、変化の核としての活動を動機づけられた 委員が、草の根活動的に委員会の報告や部署の倫理 的問題を拾い上げディスカッションする場を持つな どして、地道にスタッフを巻き込むというパーソナ ルパワーによる参画的な変化を促した。これにより、
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1
看護部組織の倫理的風土の変化の様相(文献3
をもとに改変)各部署の看護者は看護倫理の理解と重要性を認識す るとともに、日々の看護実践において倫理的視点で 問題をとらえる姿勢が養われてきたと考える。そし て、患者のプライバシーへの配慮や意思確認などの 個々の看護者の行動の変化や、行動制限の検討とい う看護者間で倫理的問題を共有する土壌がつくられ てきたと考える。しかし、判断・ケア、看護業務に ついて看護者間で話し合い集団の行動を変化させる までには至ってはいない。これについては、倫理的 に問題のある看護業務を改善しようとする者の割合 が、2006年度調査の結果
4
より多くなってきている ことから、継続した働きかけにより今後の変化が期 待できると考える。Ψ.結論
A
施設では、ポジションパワーによる看護部倫理 委員会の設置という規制的な変化と倫理委員のパー ソナルパワーによる参画的な変化により、個人の知 識、態度、行動が変化してきたと考える。謝辞
今回の調査及び看護部門の倫理的風土の変化をめざ す取り組みに際し、ご指導,ご助言いただきました諸 先生,A施設の看護部長をはじめとする看護部倫理委 員会委員長の看護師長,活動に協力いただいた倫理委 員の皆様,および質問紙に答えてくださいました看護 者の皆様に感謝申し上げます。
文献
1 . 高田早苗,森下晶代,重松豊美他.臨床倫理委員 会の設置と活動内容に関する実態調査.第9回日 本看護管理学会学術集会抄録 2005;154−155.
2 . 山田あゆり,山本千春,井上智子他.看護部倫理 委員会活動の5年間の成果と今後の課題.日本看 護学会論文集看護管理 2009;39:48−50.
3 . 木村チヅ子.第1章マネジメント入門.In:村上 美好,木村チヅ子編.看護管理学習テキスト第3 巻 看護マネジメント論.第1版.東京.日本看 護協会出版会;2010.
4 . 中川典子,山崎早苗,中島すま子.A施設におけ る看護師が体験している倫理的問題とその対処に 関する実態調査.京都第二赤十字病院医学雑誌 2007;28:98−110.
5 . 高田早苗.看護倫理をめぐる議論.In:日本看護 協会編.平成15年版看護白書.東京.日本看護協 会出版会;2003.
6 . 中川典子,中辻浩美,山崎早苗他.看護部倫理委 員会活動の成果と課題.日本看護学会論文集 看 護管理 2008;38:404−406.
7 . Hersey P. Blanchard K. Johnson D.1996/山本成 二,山本あづさ 2000:行動科学の展開,東京,
生産性出版.