• 検索結果がありません。

土岐善麿『UGUISU NO TAMAGO(鶯の卵)』

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "土岐善麿『UGUISU NO TAMAGO(鶯の卵)』"

Copied!
1
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

 漢詩の日本語訳については佐藤春夫の『車塵 集』(昭和4年9月、武蔵野書院)がつとに有名 であるが、それより三年前、大正14年(1925)

1月にアルス社から出た土岐善麿の『UGUISU NO TAMAGO(鶯の卵)』は『車塵集』と共に、

中国詞華集としては質量ともに抜群、まさしく 双璧とも称すべき代表作である。

 両集に共通する特色は、その訳風が雅語系の 七五調および五七調を多く用いていること、ま た訓読という野暮な仲介は借りず、原詩だけを 添えて参考に示すという体裁をとっていること であろう。これは参考までにというよりも、読 者が訳詩を諷詠しながら、同時に原作の凝結し た文字美を無言の視覚を通じて味わうという、

まさしく日本人だけに許された両面鑑賞の愉楽 を提供するものである。『鶯の卵』はその方式 を一書として創始し、かつ確立したという点で、

日本訳詩史の上で記念すべき詞華集と言わなけ ればならない。(澤田瑞穂『鶯の卵』解説、筑 摩叢書296『鶯の卵 新訳中国詩選』所収)

 土岐善麿は明治18年6月8日、東京浅草、真宗 大谷派の等光寺に、住職善静の次男として生ま れた。等光寺は石川啄木の葬儀を営んだ寺とし て知られるが、それは善麿の啄木への友情に よったもので、そのため境内には啄木記念碑が 建っている。父は学僧として知られ、善麿は幼 くしてこの父から学問と歌の手ほどきをうけて 成長した。明治37年早稲田大学入学、同級に若 山牧水がいた。明治41年早稲田大学英文科を卒 業して読売新聞社に入社。明治43年、ローマ字 歌集『NAKIWARAI』を自費出版し、それがきっ かけで啄木と親交する。そしてわずか1年半の 交遊で啄木の死にあう。啄木死後、彼を世に出 すために尽力した友情は、短歌史上特記に値す る。(冷水茂太『歌人土岐善麿小論』、冷水茂太

『鑑賞土岐善麿の秀歌』短歌新聞社所収)

 夜、はじめて訪ねて行きし わが友の、二階 ずまひの、 冬の九時かな。

 明治44年1月13日夜、善麿が石川啄木と初め て会ったときの歌で、わが友とは啄木である。

啄木との交遊などを背景として、善麿の歌には 社会主義的傾向が強くなってゆく。『六月』(昭 和15年)は第二次大戦前夜における、日本の軍 国路線に対する、激しい抵抗歌集である。この 歌の持つヒューマンな感動は、長く歴史に残る であろう。

 遺棄死体 数百といひ 数千といふ いのち をふたつも もちしものなし

 歌集を次々と刊行する傍ら、善麿が大正十年 代頃から今日まで、清忙生活の中で不即不離の 間につづけてきた自修的作業ともいうべき「漢 詩和訳」、その成果が『鶯の卵』なのである。

 土岐善麿の清新な訳詩、まず孟浩然の「春暁」

 はるあけぼのの うすねむり まくらにかよ う とりのこえ

 かぜまじりなる よべのあめ はなちりけん か にわもせに

 次は、李白の「子夜呉歌」

 みやこのそらの つきさえて きぬたぞひび く いえごとに

 ただふきしきる あきかぜの せきじにかよ う うきおもい

 いつかはあたを うちはてて かえるわがせ

(夫)を むかえまし

 そして柳宗元の「南礀中題」の後半、

 くにいでて ゆめもはるけく ひとこいて なみだうるおう

 みはひとり しじのおもいに しばしこそ よにもそむけば

 わびしくも われやなになる たもとおり しるはわれのみ

 あととめて きたるはたれぞ このこころ さとるときあれ  

 『鶯の卵』はしがきの中で、土岐善麿は「ウ グイスの巣の中には、ホトトギスが、そのたま ごを生むという。ウグイスは、それとも知らず 一様にたまごを育てる。たまごがかえると、ウ グイスの巣の中からホトトギスも飛びはなれて ゆく。…この一冊にはホトトギスのでないウグ イスのたまごが、いくつあるか、訳者は知らな い。」と述べている。

かげやま たつや(教授・中国文学)

中国のほんの話(61)

土岐善麿『UGUISU NO TAMAGO(鶯の卵)』

~ 日本訳詩史の上で記念すべき中国詞華集 ~

蔭山 達弥

中国のほんの話 61

● 研究者と図書館

参照

関連したドキュメント

その目的は,洛中各所にある寺社,武家,公家などの土地所有権を調査したうえ

土肥一雄は明治39年4月1日に生まれ 3) 、関西

7月21日(土) 梁谷 侑未(はりたに ゆみ). きこえない両親のもとに生まれ、中学校までは大阪府立

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き

わずかでもお金を入れてくれる人を見て共感してくれる人がいることを知り嬉 しくなりました。皆様の善意の募金が少しずつ集まり 2017 年 11 月末までの 6

年度内に5回(6 月 27 日(土) 、8 月 22 日(土) 、10 月 3 日(土) 、2 月 6 日(土) 、3 月 27 日(土)

現在の化石壁の表面にはほとんど 見ることはできませんが、かつては 桑島化石壁から植物化石に加えて 立 木の 珪 化