観測量と物理量の関係
ここでは、観測されるスペクトル線の強度 (I!やF!) が、それを放射 (ま たは吸収) する天体の物理的諸量 (密度、温度、存在度、!) とどうい う関係にあるかを学ぶ。内容は一般的だが、無用の一般論を避けるた め、電波望遠鏡で直線分子の回転遷移を観測した場合を想定する。こ れが最も複雑な場合に属するので。観測される放射強度
ふたつのエネルギー準位 (上を2、下を1と呼ぶ) 間の遷移で放射されるスペク トル線の強度を求めたい。"! (#, $) を求めることが本質で (#, $ は天球上の方向)、 それを立体角で積分すれば F! が求まる。! 2dI
!d"
!= !I
!+ B
!(T
ex)
n
2/ g
2n
1/ g
1= exp(!
h
!
kT
ex)
ただし Tex は右式で定義した励起温度: これを解いて "! を求める式は、I
!(
"
!) = I
!(0)e
–"!+ e
–("!! ""!)B
![T
ex( "
"
!)
0 "!#
]d "
"
!d!
"=
#
"ds =
h"
4$
%(" )(n
1ds)B
12[1! exp(!
h"
kT
ex)]
ここで (RL Eq.1.78)光学的厚み
d
!
"=
8
#
3|
µ
12|
23h
[
"
c
$
(
"
)]dN
1[1! exp(!
h
"
kT
ex)]
ただし、dN1=n1ds (準位n1の柱密度cm-2)。 問題によっては、スペクトル線の輪郭 (line profile) で平均した光 学的厚みを用いて簡単化する。その場合は、スペクトル線の速度 幅 "v=c/[!$(!)] を導入してd!
"=
#
"ds =
h"
4$
%(" )(n
1ds)B
12[1! exp(!
h"
kT
ex)]
(RL Eq.1.78)B
12=
A
212h
!
3/ c
2=
32
"
4|
µ
12|
23ch
2 (RL Eq.10.27) cm-3d!
" ! v!
(
"
)
!(")!
d!= 1 !! ~1 !! (km s-1)-1 "v/c=1/[!$ (!)]d! =
8"
3| µ
12|
23h
dN
1!v
[1" exp("
h#
kT
ex)]
観測される放射強度
4!I
!= I
!" B
!(T
bg) = e
–("!" #"!)B
![T
ex( #
"
!)]!
0 "!$
d #
"
!" (1" e
–"!)B
!(T
bg)
今、視線に沿ってTex が一定だと仮定すると、この式は積分できて以下のように極めて 簡単になる。 ! I!B
!(T
bg)
!I
!!I
!= I
!" B
!(T
bg) = (1" e
–"!)[B
!(T
ex) " B
!(T
bg)]
すなわち、光学的に厚いときは、スペクトル線の強度 ""# は、 励起温度と(宇宙)背景放射温度が違うことによって生じるプ ランク関数値の差となる。光学的に薄いときには、それに光 学的厚みがかかるだけである。 星間分子雲の場合、星のように強い背景連続波源は存在しないので、一般に"! (0) は 宇宙背景放射%! (&bg) である。またスペクトル線の場合、ある狭い範囲 ($(!)"0) にお いて"! が背景放射から超過 (または減少) している分のみに興味があるので、!
"= N
1[
"
c
#(" )]
8$
3| µ
12|
23h
[1! exp(!
h"
kT
ex)]
観測される放射強度
ところで、実際に観測できる量は "! ではなく、「適当な」立体角で積分し たフラックス密度 F! である。F
!=
"
I
!(
"
,
#
)cos
"
d!
この cos# の因子は、#=0 に垂直な面を通過する放射強度を測るために付 いたもの (面の指向性が cos# )。現実には望遠鏡に指向性 P! (#, $) (アンテ ナのビームパタン) があるため、測定されるフラックス密度は、F
!=
"
I
!(
"
,
#
)P
!(
"
,
#
)d!
となる。ただし P! (0, 0) =1 とする。P! (#, $) はアンテナの向いている方向 (0, 0)からずれるにしたがって急激に減少する関数である。また、以下の $% を「アンテナ立体角」と呼ぶ。!
A=
"
P
!(
"
,
#
)d!
観測される放射強度
6 アンテナで受ける電力は、P =
1
2
A
ed
!
"
I
!(
"
,
#
)P
!(
"
,
#
)d!
と表される。ここで Ae はアンテナの「有効開口面積」で Ae$%=&2 (※) の関係があ る。一方 P=kTAd! (アンテナ温度の定義)なので、! ※ アンテナ理論の詳細には立ち入らないが、この関係式は、アンテナの直径をDとした場合、 A#D2で、$#(&/D)2 から分かるだろう。T
A=
!
22k
1
!
AI
"(
#
,
$
)P
"(
#
,
$
)d!
"
=
!
2I
"2k
"! =%! (TR) となるTRを放射温度 (または輝度温度と呼び、TB などと書く) と言う。レ イリージーンズ近似できる場合は、"!=2kTR/&2 から、!T
A=
1
!
AT
R(
!
,
"
)P
#(
!
,
"
)d!
"
= T
R観測される放射強度
もし、表面輝度 "! が一定の領域がビームパタンよりも十分広がっていれば、F
!=
"
I
!P
!(
"
,
#
)d!
= I
!!
A もし、平均表面輝度 "! の天体の大きさ (立体角$s) がビームパタンよりも十分小さけ れば、F
!=
I
!!
!S"
d! = I
!!
ST
A=
1
!
AT
RP
!(
"
,
#
)d!
"
= T
R これをアンテナ温度で書くとT
A=
1
!
AP
!(
"
,
#
)d!
!S"
= T
R!
S!
A観測される放射強度
8 アンテナ温度を使って書くと式が簡単になるので、"! が黒体放射ではなく、レイ リージーンズ近似どころでない場合でも、レイリージーンズ近似した放射温度として TR=&2"! /2k を用いることが多々ある。熱放射の場合には、TRは熱放射を特徴づける 温度 T (たとえば励起温度) と以下の関係になる。 TR=!
2 I! 2k = h!
k 1 exp(h!
/ kT ) !1" f (T ) ※ 実際に観測で得られる生データとしての(超過)アンテナ温度 (TA) は、様々な較正を行って初め て天体からの放射強度 (ビーム平均値) を表す量となる (TR=TA*/')!I
!= (1! e
–!")[B
!(T
ex) ! B
!(T
bg)]
以前に出てきたこの式は、レイリージーンズ近似が成立すれば!T
A= (1! e
–!")[T
ex! T
bg]
! TAT
bg!T
A と書ける。スペクトル線のアンテナ温度は、光学的に厚い場合 には、励起温度と宇宙背景放射温度の差 (※) となる。解くべき問題
I
!("
!) = I
!(0)e
–"!+ e
–("!! ""!)B
![T
ex( "
"
!)
0 "!#
]d "
"
! これは、(双極子近似のもとでの) スペクトル線の放射強度を求める一般的な表式で、 それぞれの問題の特殊事情に応じて解くことができる。 しかし、ここでは「電波望遠鏡で観測されるアンテナ温度」と「星間分子雲の物 理量」の間の大まかな関係を吟味するので、以下の仮定をおいて簡単化する。 ・分子雲のなかで、問題とする準位間の励起温度は一定 ・スペクトル線輪郭の詳細には興味を持たず、輪郭関数で平均した光学的厚みを用 いる したがって、解くべき式は、d!
"=
8#
3| µ
12|
23h
[
"
c
$(" )]dN
1[1! exp(!
h"
kT
ex)]
!I = (1" e
–!)[B
"(T
ex) " B
"(T
bg)]
! =8" 3 | µ12| 2 3h N1 !v[1" exp(" h# kTex)]解くべき問題
10!I = (1" e
–!)[B
"(T
ex) " B
"(T
bg)]
! =8" 3 | µ12| 2 3h N1 !v[1" exp(" h# kTex )] この式は、n1 と n2 さえ求めれば解くことができる (あたりまえ)。それは、二準位の 場合には簡単だが、「関係する」準位が2を超えるとたいへんになる。 なぜ二準位間のスペクトル線の話をしているのに、それ以上の準位を考える必要 があるかと言えば、放射や衝突によって、注目している二つの準位以外との出入り があり、その結果としてn1 と n2 が決まるからである。 準位 i の占有率ni が、n0 に比べて十分に小さくなる準位までを考慮の対象とする 必要がある。波長の短い放射による非常に高い順位への励起がない場合には、衝突 励起だけを考えて、 ni / n0 = exp(-Ei / kTk) から推定した適切な準位までを考慮の対象 とすれば良いだろう。 要するに占有率ni がすべて求まれば、この式を解いて観測される放射強度を求め ることができる。ni は、占有率が時間的に変化しないとする統計平衡の式 (rate equations) を解いて求めることができる (それは簡単ではない)。統計平衡の式
統計平衡の式 (rate equations) は、dn
jdt
= (All transitions to j)-(All transitions from j)!=!0
dnj
dt =Radiative
!
[(Transition to j)-(Transition from j)]+ [(Transition to j)
Collisional
!
-(Transition from j)] という形をしている。遷移には、放射によるものと衝突によるものがあるので、 dnj dt = [(Aij+ BijJ i> j!
)ni" BjiJnj]" [(Aji+ BjiJ i< j!
)nj" BijJni]+ (Cijni i# j!
- Cjinj) もう少し具体的に書くと、以下のようになる。 ここでCij は、衝突によって i!j の遷移が起こる率 (s-1) である (衝突係数)。それは、 衝突してくる相手粒子 (~80%の水素分子と~20%のヘリウム原子) の数 n (cm-3) や、 相手との相対的な速さv (cm/s) に依存し、残りの因子は衝突断面積 ((v) (cm2) であ る。後者ふたつは平均量でしかきかないので、C
ij= n <
!
ijv >
衝突係数
12 なお、熱平衡のときには詳細釣り合いの原理からCij ni = Cji njなので、C
ijC
ji=
n
jn
i=
g
jg
iexp(!
E
ijkT
)
衝突係数間の関係が、アインシュタイン係数間の関係と違って温度に依存することは 注目すべきである。つまり、衝突係数は熱平衡のときでないと使えない。しかし、そ れでは我々は少し困る。そこで、C
ij= n <
!
ijv >
の表式をよく見ると、この中で温度に関係する量は v だけ ((も温度に関係するがそれ は v を経由して) なので、非熱平衡の場合には、C
ijC
ji=
g
jg
iexp(!
E
ijkT
k)
とすれば良さそうなことが分かる。ただし、Tkは衝突してくる粒子の運動温度。現実 は、各温度ごとに計算されたCij (Cjiも独立に計算される) の値を使う。統計平衡の式
さて、この統計平衡の式は簡単には解けない。なぜなら、非局所的な量 J が入ってい るからである。J は、njを計算する場所にすべての方向から入ってくる I が分からな いと計算できない。しかし、I はその視線に沿って njが分からないと計算できない。 このような場合によく使われる計算方法は、まず適当な nj (たとえば 3 K に相当す る) をすべての場所で与えることで、任意の点で I を計算できるようにし、すべての場 所で J を計算して統計平衡の式を解いて新たな njを求め、今度はそれを初期値として 収束するまで同じことを繰り返す、いわゆる反復法がある。 実際には、「すべて」の点は適当なグリッドで与えるが、「すべて」の視線につい てI を求めてJ を計算することはできないので、統計的誤差が小さくなるように十分に 多くのランダム (モンテカルロ法) に選んだ視線に沿ってI を求めてJ を計算する (それ は理論家がやるレベルの仕事となる)。 ここでは、多くの場合において、そのような「正確」な計算に近い結果が出る大速 度勾配法によって、nj を求める手法を紹介する。その手始めに、いくつかの簡単な場 合を説明する。 dnj dt =i> j[(Aij+ BijJ!
)ni! BjiJnj]! [(Aji+ BjiJ i< j!
)nj! BijJni]+ (Cijni i! j!
- Cjinj) = 0局所熱力学平衡にある準位からの
光学的に厚いスペクトル線
14!I = (1" e
–!)[B
"(T
ex) " B
"(T
bg)] # B
"(T
ex) " B
"(T
bg)
この場合、スペクトル線の強度 ("" ) からは、遷移を起こす準位間の励起温度 Texが求め られる。励起温度が、もう少し分かりやすい量 (n(H2), Nmol, Tk) とどういう関係にある かは、後で明らかとなる。 もし、注目している準位に関して、局所熱力学的平衡 (Tex=Tk) が成立している場合に は、"" から直接ガス (衝突パートナー) の運動温度 Tkが求められる。 光学的に厚いスペクトル線は数多くあるが、同時に回転準位が局所熱力学的平衡とな る分子は、ほとんど 12CO しかない (その理由は、後で明らかとなる)。したがって、分 子雲ガスの運動温度の推定には、12CO の低励起回転遷移が使われることが多い(※)。 ※分子雲ガスの運動温度を求める方法は他にもある。たとえば、双極子放射が禁止されている二つ の準位間 (基底準位と準安定準位間) でも、「普通は」衝突遷移が起こるので、この二つの準位の 占有率は温度 Tkのボルツマン分布になっていると考えられる。したがって、この二準位の占有 率を独立に測定してやれば、その比から運動温度が求まる。この方法は、たとえばアンモニア分 子の(J, K)=(1, 1)と(2, 2)における反転遷移を用いるものがよく使われる。アンモニア分子から求 めた運動温度は、COによるものと概ね合致するが、やや低めに出る傾向がある。局所熱力学平衡にある準位からの
光学的に薄いスペクトル線
!I = (1" e
–!)[B
"(T
k) " B
"(T
bg)] #
!
[B
"(T
k) " B
"(T
bg)]
! =8" 3 | µ12| 2 3h N1 !v[1" exp(" h# kTk )] この場合は N1とTkが未知数となる ("vはスペクトル線の幅から直接求められる量) が、 Tk は (前ページで述べた方法などで) 分かっている場合が大半なので、それを使えば N1 が求められる。これから、放射を出している分子の柱密度 Nmol (cm-2) が容易に求められ る。N
mol= N
1Z
g
1exp(
!E
10kT
k)
ただし、Zは分配関数、"E10は基底状態0と、遷移の下の準位1とのエネルギー差。 なお準位が局所熱力学的平衡にあり、かつ光学的に薄いスペクトル線は、13CO や C18O などの CO の同位体分子 (isotopologues) に限られる。したがって、この手法が使える のは、ほとんど場合 13CO や C18O の低励起回転遷移に限られる。局所熱力学平衡にある準位からの
光学的に薄いスペクトル線
16 N(13 CO) = N0Z = 3h 8!3µ2 !v(13 CO)!"(1" 0)!Z 1" exp("h#/ kTk) Dickman (1978, ApJS, 37, 407) は、13CO (J=1-0) の輝線強度を、可視減光量 (Av; NH=2$1021 Av cm-2) と比較して、以下の関係を求めた。N(H
2) = (5.0 ± 2.5) !10
5!N(
13CO)
1978ApJS...37..407D このようにして求めた N(H2) (cm-2) に、分子雲の 面積 (cm2) を掛け、H 2の質量 ($ヘリウム分の補 正) を掛ければ、分子雲の質量が求まる。 ただし解くべき問題
!I = (1" e
–!)[B
"(T
ex) " B
"(T
bg)]
! =8" 3 | µ12| 2 3h N1 !v[1" exp(" h# kTex )] ある注目している準位が局所熱力学的平衡にない場合に、光学的に厚いスペクトル 線の強度 (つまり ) とTexであり、それは要するにnJ) が、分子雲の諸量 (n(H2), Nmol, Tk) とどう関係するかが、最後に考えるべき問題となった。 一般的には、分子雲内のある場所での nJ は、あらゆる方向からそこへやってくる I と、その場所での衝突 (n(H2), Tk) によって決定される。しかし、I が他の場所での nJに依存するため (非局所性)、nJ を求める問題は簡単では無いことはすでに述べた。 ここでは、光子脱出確率βを導入することで問題を局所化し、分子雲内の離れた 場所が放射によって相互作用しないという仮定を行う (Sobolev近似)。これは、分子 雲に V(R) R のような大きな速度勾配 (Large Velocity Gradient) がある場合には、仮 定しなくても成立する。大速度勾配(LVG)モデル
18
ここでは、定式化は Goldreich & Kwan (1974, ApJ, 189, 441; GK74) によるため、これまでと表記方法が多少異なる。なお、結 果の物理的意味は Scoville & Solomon (1974, ApJ, 187, L71; SS74) にもどづいて解説する。また光子の脱出確率は Castor (1970, MNRAS, 149, 111) による。二原子分子の双極子放射によ る遷移マトリックスについては、Townes & Schawlow (1975; TS75)を参照。
The Large Velocity Gradient (LVG)
Approximation
LVG
近似とは、「V(R) Rという大局的速度勾配を仮定することにより、
統計平衡の方程式 (rate equations) を、放射輸送とは独立した『局所
的』問題に帰着することで、スペクトル線の放射強度 (Emergent
Specific Intensity)
を求める」手法である。
本解説では、最も簡単な二原子分子の回転遷移を例に説明するが、
この手法の応用範囲は広い。LVG 近似の一般的な場合である Sobolev
近似は、もともと W R 星 の 光学域スペクトル線を説明するために考え
られた。なお、光学的に薄いスペクトル線を扱う場合には、ここで述
べるような取り扱いは必要ない (すなわち、もっと簡単)。
基本設定
線輪郭関数で平均した光学的厚みで考えることとし、添え字νを省略する。 いずれ局所近似をすることになるので、局所的には Tex が一定と見なせるとして これを積分し、 あるいは、(較正された超過)アンテナ温度を用いて ここで、 20!I =
e
–(!" #!)B[T
ex( #
! )]d #
!
0 !$
" (1" e
–!)B(T
bg)
!I = (1" e
–!)[B(T
ex) " B(T
bg)]
T
B= (1! e
–!)[ f (T
ex) ! f (T
bg)]
f (T ) !
h
!
k
1
exp(h
!
/ kT ) "1
基本設定
励起温度は通常 と定義されるが、以後は GK74 の準位占有率 nJ の定義にしたがって とする。つまり、n1, n2は、それぞれ下の準位、上の準位の統計的重率 (ここで は二原子分子の回転準位の磁気サブレベルによる縮退度 gJ=2J+1) あたりの占有 率で、さらに以下の規格化を行う。 つまり、これから使う nJ を、これまでの使ってきた nJoに変換するためには、nJ を nJo/(gJ nmol)で置き換えればよい (nmol は分子の個数密度)。n
2n
1=
g
2g
1exp(!
h!
12kT
ex)
n
2n
1= exp(!
h!
12kT
ex)
g
Jn
J= 1
J=0 !"
光学的厚み
以前に求めた' の具体的表式 を、直線分子の回転遷移の場合に読み替える。回転量子数を J (=0, 1, 2, !) で 表すと、選択則 (許容遷移) は "J=1 となり、下の準位1をJ、上の準位2をJ+1 で読み替える。また柱密度 dNJ を gJnJdNで置き換えて、 局所近似を行っているため、もはや積分量しか必要とせず、 22d! =
8"
3| µ
12|
23h
dN
1!v
[1" exp("
h#
kT
ex)]
d!
J,J+1=
8"
3| µ
J,J+1|
23h
dN
!v
g
J(n
J" n
J+1)
!
J,J+1=
8"
3| µ
J,J+1|
23h
N
!v
g
J(n
J" n
J+1)
光学的厚み
ここで µJ,J+1は、遷移行列の(J, J+1)成分であり、たとえば TS75 (Eq.1-76) に よると ただし、|µJ,J+1|2 gJ = |µJ+1, J|2 gJ+1であり gJ=2J+1 なので、以下の関係に注意。| µ
J+1,J|
2=
µ
2J +1
2J + 3
となる (GK74 Eq.7)。'J+1,J の表式も 'J,J+1と同じになる。!
J,J+1=
8"
3µ
23h
N
!v
(J +1)(n
J" n
J+1)
ここで、µ は永久双極子モーメントであり、最終的なτの表式は| µ
J,J+1|
2=
µ
2J +1
2J +1
アインシュタイン係数
遷移確率は、直線分子の回転遷移の場合には以下のように書ける。 なお、 24B
J+1,J=
g
Jg
J+1B
J,J+1=
A
J+1,J2h
!
J+1,J 3!!!!/c
2=
32
"
4|
µ
J+1,J|
23ch
2!!!!!!!!=
32
"
4µ
23ch
2J +1
2J + 3
E
J= hBJ(J +1)
!
J+1,J= (E
J+1! E
J) / h = 2B(J +1)
(RL Eq.10.27) 本来、アインシュタインのB係数は、詳細釣合いの原理 (RL79 Eq.10.28) によって等しいのだが、 通常、遷移確率は、遷移前の準位 (初期状態) の縮退について平均をとり、遷移後の準位 (終状態)の 縮退について和を取る (初期状態のひとつの磁気サブレベルにある状態が、終状態の任意の磁気サブ レベルに遷移する確率) ので、BJ,J+1/gJ+1 = BJ+1,J/gJ (RL79 Eq.1.72a)となることに注意。 (GK74 Eq.4)解くべき式
µは永久電気双極子モーメント、J は回転量子数、N は輝線を放射する分子の柱密度、"V は N に対応する速度幅。光学的厚みは、放射を出す物質の単位速度幅当たりの柱密度 (N/"V) と、励起温度 (nJ+1/nJ) に依存する。TA は、放射領域におけるnJ (J=0, 1, 2 ,3 !) が求まれば、計算できる。nJ は、統計平衡の方程式 (rate equations) を解くことによっ て求まる。それによって、最終的には TA が分子雲の n(H2), Tk, N などとどう関係してい るかを知りたい。T
B(J +1, J) = (1! e
–!J,J+1)[ f [T
ex(J, J +1)]! f (T
bg)]
!
J+1,J=
8"
3µ
23h
N
!v
(J +1)(n
J" n
J+1)
( f [Tex(J , J +1)] =h! k 1 nJ/ nJ+1!1)g
Jdn
Jdt
= g
J+1n
J+1A
J+1,J+ (g
J+1n
J+1B
J+1,J! g
Jn
JB
J,J+1)J
J+1,J!!!!!!!!!!!!g
Jn
JA
J,J-1! (g
Jn
JB
J,J-1! g
J-1n
J-1B
J-1,J)J
J,J-1!!!!!!!!!!!+
(C
LJg
Jg
Ln
L! C
JLg
Lg
Jn
J)
L"J#
CJLは磁気サブレベル間の衝突係数であることに注意 [C12 /C21=exp(-h#12/kTk)]。通常のC係数の定 義では、遷移先の準位で縮退について和をとっているで、ここの CJLは通常定義のCJL/gLに相当 (GK74 Eq.10)光子脱出確率
統計平衡の方程式は、非局所的なので簡単には解けない。そこで、Sobolev近 似によって光子脱出確率βを導入、平均放射場を局所化する。 26 つまり、ある分子から見た放射場は、その場所からの光子の脱出確率分だけ 背景放射が見え、残りは周囲の分子による放射が見えている。 β→1 (ある分子から出た光子が、局所的領域からほとんど完全に抜け出せ る場合) では、その分子の受ける放射は背景放射であり、またβ→0 (ある分子 からの光子が、局所的領域から抜け出せない場合) では、その分子の受ける放 射はほぼ完全に周囲の分子が出す放射である。光子脱出確率
Castor (1970) によると、一般的には βは速度場σ=(dlnV/dlnR)-1 の関数だが、 V Rを仮定すればσ=0 となり、 と表せる (大速度勾配近似)。この場合、βに場所 R は直接入ってこない。 この結果、問題は大きさ (vt/V)R (vtは熱的または乱流的速度幅で vt << V) の局所的問題に帰着する。すなわち、統計平衡の式を、分子雲内の場所に全く 依存せずに解くことができる。スペクトル線において、ある視線速度 (速度幅 vt) は分子雲内の視線上の一点と一対一に対応する。βは、大きさ (vt/V)R の領域から光子が出てくる確率を表すことは明らか。すなわち、光学的に薄け ればβ 1で、厚ければβ*1/τ! =
1! exp(!" )
"
統計平衡の方程式
大速度勾配近似をすることで、 28 と表記できるので、これを使って統計平衡の式を局所化し、dnJ/dt=0 (統計平 衡)とすれば!
J+1,J=
1! exp(!
"
J+1,J)
"
J+1,Jここで
g
J+1n
J+1A
J+1,J+ (g
J+1n
J+1B
J+1,J! g
Jn
JB
J,J+1)B(T
ex) = 0
J
J+1,J= (1!
!
J+1,J)B(T
ex) + !
J+1,JB(T
bg)
[g
J+1n
J+1A
J+1,J+ (g
J+1n
J+1B
J+1,J! g
Jn
JB
J,J+1)B(T
bg)]
!
J+1,J![g
Jn
JA
J,J-1+ (g
Jn
JB
J,J-1! g
J-1n
J-1B
J-1,J)B(T
bg)]
!
J,J-1+
(C
LJg
Jg
Ln
L! C
JLg
Lg
Jn
J)
L"J#
= 0
ただし、以下の関係 (励起温度の定義) を使った。 (GK74 Eq.11)結果
統計平衡の式を解いて nJ を求めることで Tex とτが決まり、 光学的に薄い場合にはLVG近似の必要性は全くなく、局所的に nJ が決定され、それ によって決まる Texに応じた強度が観測される。 光学的に厚い場合には、統計平衡の方程式はτCという「組合わせ」に依存。τは N/%V に依存し、Cは n(H2+He)<&v> であることから、準位占有率nJ (Tex) は という因子のみに依存する。つまり、密度n(H2+He)が上がって励起を進める効果は、 柱密度 (N/%V) が上がって光子がトラップ (photon trapping) されることで励起を進める 効果と同じように効く。 LVGを仮定することによって、光学的に厚い場合でも、光子トラップを正しく考慮し て放射強度を計算できるのである。T
B= (1! e
–!)[ f (T
ex) ! f (T
bg)]
!!!!!" ![ f (T
ex) ! f (T
bg)]!!!(! # 0)
!!!!!" f (T
ex) ! f (T
bg)!!!(! # $)
( f (T ) !h! k 1 exp(h! / kT ) "1)!C ! (N / "v)!n < " v >
具体的計算方法
17ページの統計平衡方程式を解いてnJ を求めるには、βとCIJが必要 β=(1‒e-τ)/τは、τ(N/"V, Tex)=τ(N/"V, nJ)の関数CIJ=n(H2, He, ・・・)<&IJv> は、n(H2) と Tk の関数。通常、Tk ごとに計算された <&IJv> の表
があり、それを使用する Tk, N/"V, n(H2)の組を与えれば、放射平衡の式を解いてnJ が求められる。ただし、τが nJ の関数であるため、nJ の初期値を与えて反復法で解く (手法によっては計算が発散する こともある) nJ(Tk, N/"V, n(H2))が求まれば、τ(N/DV, nJ) と Tex(nJ) を求めてTA(τ, Tex)を計算する => TA(Tk, N/"V, n(H2)) 3つのパラメータのどれかを固定し、TBを残りの2つのパラメータで二次元グラフにす ると、結果が分かりやすく表現できる。たとえば Tk を固定して、TB(N/"V, n),
TB(nmol/(dV/dR), n), TB(Xmol/(dV/dR), n) [Xmol=nmol/n(H2)] などの表現が一般的
たとえば Tk を 12CO の強度から求めるとすれば、同一分子の2つの遷移の強度から N/
"Vとn(H2)を決定することができる。多数の遷移が観測できる場合にはχ2フィットによっ
て、これらを誤差つきで求めたりする
計算例 (SS74)
) が小さいので、Tex が大きくないと、つ まり密度が大きくて LTE (Tex=Tk) でない と、十分な輝度温度 にならない。その結 果、輝度温度は ) (N/ ΔV) にのみ依存する 輝度温度は (N/%V) $n(H2) というかけ 算のみに依存する。 COの場合、この状 況は通常の分子雲 では起こらない COが存在できる密度 領域。低回転準位の COはほとんど熱化 (LTE; Tex=Tk) されて いるため、COの強度 は ) のみに依存CO
計算例 (SS74)
32Fig. 1b. — The ratio of
antenna temperature in the CO J=2–1 and J=1–0 transitions obtained from 10-level calculations at Tk=40 K.
CO (Ratio)
高密度で光学的に 薄い場合には、励 起が超熱的(super-thermal) になって、 準位が上の回転遷 移が強くなる。占 有率の逆転 (population inversion) が起こ ることもあり、条 件によってはメー ザー放射となる。 12COの強度は通常 この領域にあり、強 度比は1程度となる。 12COの強度が強い のは、豊富に存在す るから 臨界密度 (nc(H2) A10/C10) この密度以上で衝 突励起が進む 臨界密度以下でも、光学的に厚い領域で は光子トラッピングによって励起が進ん み、放射強度が上がる。計算例 (SS74)
Fig. 2. — Contours of antenna temperature in the J=1–0 , 2–1,
3–2 CS transitions from 10-level calculations at Tk=40 K.
CS
µ(CO)=0.1 debye µ(CS)=2.0 debye (1 bebye=10-18 cgs esu) nc(H2) A µ2 なので nc,CS/nc,CO 400 nc,CS(H2) 105 cm-3 通常の分子雲の密度 (n(H2)~103 cm-3) では、 CSの低回転準位は熱化されていない (Tex<Tk; sub-thermal)。それにもかかわら ず、CSの強度がそこそこ強いのは、光学 的に厚いから。これは光子トラッピング を考慮しないと説明できない!計算例 (SS74)
34Fig. 3. The dramatic effects of radiative trapping are demonstrated for the J=1–0 CO transition in
the two-level approximation. Dashed contours are obtained for excitation only by H2 collisions;
solid contours include excitation by trapped radiation.