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来館目的と利用行動からみた複合公立図書館の利用実態に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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39-1 1.研究の背景と目的 近年、公立図書館を取り巻く環境は大きく変化して おり、高度経済成長期以降の複合図書館の増加と、そ の運営形態の変化はますます顕著になっている1) 図書館の複合化は、設計・運営上の課題が挙げられ る一方で、利用者増加の相乗効果や利便性の向上、用 地の取得難と利用者要求の多様化への対応等から2) 近年では新築図書館の半数以上が複合図書館となって いる。今日では、図書館を核とした地域の中心的な賑 わいの場とするため、積極的に他施設との複合化が行 われる事例も見られるようになり、施設利用者の来館 目的や使い方も多様化していると考えられる。中でも、 複合公立図書館では図書館と他施設の相互利用(以下、 ついで利用)が行われ、従来の図書館ではみられない 利用形態が考えられる。利用行為は施設の諸室やその つながりから影響を受けることから3)、今後の複合公 立図書館の計画にあたっては、ついで利用も考慮した 計画や家具配置が必要となる。 そこで本研究では、2003年以降に新設または改修 された複合公立図書館を対象に、施設利用者の来館目 的をもとに利用行為をとらえることで、今後の公立図 書館の計画に資する知見を得ることを目的とする。 2.研究の方法 2-1.調査対象 本研究では、建築雑誌に掲載されている図書館のう ち、2003年以降駅から2km 圏内に新設または改修さ れた全国の複合公立図書館を対象とする。該当する図 書館の図面情報は建築雑誌や施設台帳から収集する。 2-2.調査方法 本研究では施設台帳や建築雑誌から収集した各種図 面などによる資料調査、図書館管理者への運営方針・ 利用状況に関するアンケート調査を行い、複合公立図 書館の管理状況について把握する。加えて複合機能に よる利用者増加への相乗効果の期待、駅前などの利便 性の高い敷地への立地など積極的な理由から複合化さ れ特徴的な計画が行われた施設について、来館者に対 するアンケート調査、施設利用者を対象とした巡回観 察調査を行うことでその利用実態を明らかにする。

来館目的と利用行動からみた複合公立図書館の利用実態に関する研究

福本 七海 表1.調査概要 調査内容 資料調査 2018.4-9 2003 年以降に新設・改修された全国の複合公立図書館の技術提案書や施設台帳、実施図面 を収集し、平面計画の特徴を把握する。 中でも積極的理由から複合化され、特徴的な計画 が行われた 2 館の来館者を対象に施設の利用状況 についてアンケートを行い、その特徴を把握する。 予め計画したルートを 30 分間隔で巡回し、各エリ アでの利用の分布と行動を平面図にプロットする。 対象館の管理者に施設の運営方針・利用状況に ついてアンケートを行い、運営状況を把握する。 アンケート調査① 2018.9-10 巡回観察調査 2018.10-11 アンケート調査② 2018.10-11 調査時期(年.月) 48 館 43 館 2 館 2 館 対象館数 概要 3.複合施設の機能構成とその割合 近年の複合公立図書館には地域の賑わいの拠点とな るよう、複数の施設と複合している館も存在する。対 象館の複合施設をその機能によって分類すると、そ の割合は社会教育施設と商業・産業施設の2種類が全 体の約7割を占める。特に、社会教育施設ではホール や生涯学習センターなどを含む文化学習施設が約6割、 商業・産業施設では飲食店が約6割と高い割合を占め 実態調査 調査日程 調査時間 ( 開館時間 ) (09:30-22:00)10:00-21:00 (09:00-21:30)09:30-20:00 座席数 406 席 434 席 巡回回数 18 回 17 回 備考 2 階テラスでマルシェイベントの開催 1 階カフェにてライブイベントの開催 St 館 Tg 館 2018.10.28(日) 晴 2018.10.29(月) 晴 2018.11.11(日) 晴 2018.11.12(月) 晴 アンケート回答者数 115 人 117 人 111 人 111 人 プロット数 2,493 人 1,845 人 3,332 人 2,630 人 表2.実態調査概要 開館年 2018.2 4,935.32 ㎡ 敷地面積 3,811.46 ㎡ 9,421 ㎡ 建築面積 延床面積 階数構造 地上 3 階S 造 指定管理者 C 社 66,663 冊 蔵書冊数 新築 新築 or 改修 開館年 2016.3 4,052 ㎡ 敷地面積 2,659 ㎡ 7,013.75 ㎡ 建築面積 延床面積 階数構造 地上3階 地下1階S 造 指定管理者 C 社 約 22 万冊 蔵書冊数 新築 新築 or 改修 St 館 各エリア 2F 1F 3F テラス BDS 各エリア テラス BDS Tg 館 1F 2F 3F 0 5 10 20 40 m 10 20 40 5 0 m 閲覧・学習エリア 閲覧 閲覧 交流室 交流室 T 駅 児童書 市民活動 支援センター 書店 書店 カフェ 飲食店 閲覧 レンタル 共用部 閲覧・学習エリア 飲食店 ギャラ リー 書店 コンビニ 閲覧 児童書 カフェ 図1.調査対象館の概要

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39-2 ている。このことから近年では、飲食店のような気軽 に利用しやすい機能やホールなどの大きな空間を必要 とする公共施設と複合する傾向にあることがうかがえ る。また、1つの複合施設に同じ大分類に含まれる機 能が複数複合されている館もあるため、その複合数を 施設の大分類別にみると、殆どの大分類で約半数また は半数以上の館が1種類の機能を複合しているが、商 業・産業施設と社会教育施設は1館に複合されている 機能数が多く、2種類以上複合している館の割合も高 い。また、調査対象館48館の複合した機能の平均数 は約4種類であり、4館が10種類以上の他機能施設と 複合している(表3、図2)。 4.複合公立図書館における運営方針の傾向 複合公立図書館の運営方針の傾向をとらえるため、 管理者アンケートをもとに、調査対象館の運営方針を 貸出指向型・課題解決指向型・滞在指向型の3項目に 分類すると、全体の運営方針の傾向では、課題解決指 向型の項目のうち2項目を6割以上の図書館が重視し ており、その一方で滞在指向型の項目の3項目を約6 ~ 7割の図書館が重視している。次にそれぞれの管理 方式別にみると、直営管理方式を採用している図書館 は全体とほぼ同じ傾向にあり、特に約9割の図書館が 地域の発展を支える情報拠点であることを重視してい る。2006年に文部科学省が発表した「これからの図 書館像」の中で、図書館設置者は「図書館は地域を支 える情報拠点であることと認識」することと明記され たことが、多くの図書館でこの項目が重視されている 要因の一つと考えられる。一方、指定管理者が管理す る図書館では、課題解決指向型の項目は全体とほぼ同 じ傾向にあるが、滞在指向型の全ての項目が全体より も高くなっており、滞在指向型の運営方針を重視して いることがうかがえる。 また、項目ごとにその傾向をみると、「自動貸出機 の導入」は直営の図書館の約3割、指定管理の図書館 の約6割が重視している。この指定管理者が管理する 図書館8館のうち6館が「レファレンス機能の充実」「生 涯学習サービスの提供」の両方を重視していることか ら、貸出業務の自動化により職員の労力を低減し、課 題解決につながる充実したサービスの提供を試みてい ることがうかがえる。一方、施設全体の出入口に BDS を設置している図書館12館のうち8館が「複合した他 施設と連携したサービスの提供」を重視しており、さ らに他機能をもつ施設同士をつなぐ吹抜けや複数の機 能が一体化した空間構成等の特徴が共通してみられる。 「独自の分類法の採用」を選択した11館のうち3館は、 大分類 中分類 施設機能の具体例 商業・産業施設 小売・物販店舗 店舗 飲食店 レストラン、カフェ 娯楽施設 映画館 賃貸事務所 オフィス 商業・産業施設 産業支援センター、商工会議所 社会教育施設 行政施設 児童福祉施設 医療・保健施設 文化・学習施設 ホール、劇場、プラネタリウム、公民館生涯学習センター、コミュニティセンター 収蔵・展示施設 ギャラリー、美術館、展示、資料館 庁舎施設 市役所、区役所 行政施設 市民サービスセンター、市民活動支援センター 児童・幼児施設 児童館、託児所、保育所 子育て支援施設 子育て支援センター 青少年支援施設 青少年支援センター 保健施設 保健センター 医療施設 診療所 社会福祉施設 学校教育施設 交通施設 居住施設 障がい者福祉センター 各種学校 小学校、サテライトキャンパス、大学関連施設 住宅 駅、バスセンター 運営方針 定義 アンケート項目 貸出指向型 ・貸出冊数の向上・自動貸出機の導入 ・読書通帳の導入 市民の求める図書の提供を重視し、貸 出活動を中心的図書館サービスと指向 するもの ・レファレンス機能の充実 ・他図書館との連携、協力 ・生涯学習サービスの提供 ・地域の発展を支える情報拠点であること ・雑誌記事、新聞記事の提供 ・検索機器の充実 課題解決指向型 地域社会の様々な資料や情報を有効活 用できるよう供し、地域の課題解決や そのための人々の取組への展開を支援 する図書館を指向するもの ・利用者が居心地のいい空間づくり ・閲覧席の充実 ・広い開架書架、閲覧室 ・利用者が居心地のいい家具の選定 ・複合した他施設と連携したサービスの提供 ・独自の分類法の採用 ・市民の交流の場となること 滞在指向型 誰もが気軽に訪れ、館内で様々な サービスを楽しみながら長時間快適 に過ごすことのできる図書館を指向 するもの 表3.複合施設の機能分類 表4.図書館運営方針の定義 凡例 商業・産業施設 社会教育施設 行政施設 児童福祉施設 医療・保健施設 社会福祉施設 学校教育施設 居住施設 交通施設 ■ 複合施設の機能割合 1 館中に 複合する機能数 1 種類4 種類 2 種類5 種類 3 種類6 種類 商業・産業施設 社会教育施設 行政施設 児童福祉施設 医療・保健施設 社会福祉施設 学校教育施設 居住施設 交通施設 0 10 20 30 40 48(館) ■ 複合施設機能別の複合数 34 42 15 14 8 3 7 1 3 33.52% 34.64% 8.38% 5.59% 9.50% 1.68% 3.91% 0.56% 2.23% 貸出冊数の向上 自動貸出機の導入 読書通帳の導入 レファレンス機能の充実 他図書館との連携、協力 生涯学習サービスの提供 地域の発展を支える情報拠点であること 雑誌記事、新聞記事の提供 検索機器の充実 利用者が居心地のいい空間づくり 閲覧席の充実 広い開架書架、閲覧室 利用者が居心地のいい家具の選定 複合した他施設と連携したサービスの提供 独自の分類法の採用 市民の交流の場となること N=14 N=19 N=6 N=28 N=19 N=20 N=35 N=6 N=8 N=31 N=8 N=6 N=8 N=28 N=11 N=26 全体 凡例 直営 指定管理者N 回答数 0 20 40 60 80 100(%) 貸 出 指 向 型 課 題 解 決 指 向 型 運 営 方 針 滞 在 指 向 型 図2.複合施設の機能割合とその複合数 図3.管理方式と運営方針の傾向 公立図書館で一般的に用いられる日本十進分類法と生 活や趣味に関する資料をテーマ別に配架する独自の分 類法の両方を採用しており、2種類の分類はそれぞれ 別の階に配架されている(表4、図3)。 5.利用実態の分析 5-1.主要空間別にみた座席利用者の行動 St 館では両日とも閲覧エリアで読書、学習室で勉強、 書店やカフェで休息を行う人が多くみられた。特に学 習室は、平日の18時以降と休日の14 ~ 16時にほぼ 全ての座席が利用されており、同時間帯に他のエリア

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39-3 で勉強を行う利用者はあまりみられない。特に、閲覧 エリアには閲覧専用席との注意書きがあり、他の図書 館で多く見られる学習室からのあふれだし利用を抑 えられていると考えられる。休日の2階に着目すると、 常に休息を行う利用者がみられる。これは、駅と直結 する2階部分にベンチ席が多く配置されており、その 場所で会話やスマートフォンを使用するといった行為 がとりやすい環境となっているためであると思われる。 Tg 館では両日とも閲覧エリアで読書と休息、学習 室とカウンター席のある共用部で勉強、カフェで休息 を行う利用者が多くみられた。学習室が満席に近い平 日16時以降と休日10時~ 16時半までは、椅子の多い カフェや2階閲覧エリアで勉強を行うあふれ出し利用、 休日の18時以降にカフェの勉強利用がみられるのは、 調査当日が近隣の中学校の試験期間中であったこと によるものである。また、平日の1階閲覧エリアや休 日の1、2階閲覧エリアにて休息を行う人が多いのは、 同エリアにソファ席が多く配置され、利用者がくつろ げる空間が提供されているからと考えられる。 5-2.施設利用者の来館目的 まず St 館の来館目的の有無についてみると、両日 ともに割合はほぼ同じである。来館目的がない利用者 が半数近く見られる理由には、当施設が駅に直結して おり、外出や帰宅のついでに気軽に立ち寄ることがで きるためと考えられる。また来館目的をもつ利用者の 内訳をみると、平日は閲覧が4割以上であるのに対し、 休日は限定・休息が約3割である。これは休日に2階 テラスで行われたイベントへの参加目的や、カフェ利 用目的で来館する利用者が多かったためと考えられる。 次に、Tg 館では両日とも7割以上が来館目的をもつ 利用者である。その内訳をみると、平日は解決・限定・ その他の目的が約3割、休日は解決・限定が約4割と 割合が高い。これは、平日はレンタルショップを目的 とした利用者が多かったこと、休日はカフェエリアで 行われたイベントの参加者による影響と考えられる。 5-3.立ち寄り利用者の利用空間のつながり 来館者アンケートをもとに、来館目的がない利用者 (以下、立ち寄り利用者)の利用空間の分析を行った。 まず St 館の立ち寄り利用者の利用空間数に着目す ると、両日とも約6割が複数空間を利用しており、特 に休日は3つ以上の空間の利用者の割合が高い。また 各空間の単一空間利用者をみると、1階書店と2階閲 覧エリアで平日は約2.5割、休日は約3割を占める。こ の要因としては、1階書店と2階閲覧エリアにそれぞ れ外部から直接出入りできることが考えられる ( 図6)。 St 館 Tg 館 座席数 N=406 10:30 平日 ブラウジング 6 2F 閲覧70 3F閲覧16 学習室113 児童書241F書店30 2F書店23 カフェ108 ベンチ16 11:00 11:30 13:00 13:30 14:00 14:30 15:00 15:30 16:00 16:30 18:00 18:30 19:00 19:30 20:00 10:00 20:30 10:30 休日 11:00 11:30 13:00 13:30 14:00 14:30 15:00 15:30 16:00 16:30 18:00 18:30 19:00 19:30 20:00 10:00 20:30 座席数 N=434 10:00 平日 1F 閲覧 63 2F 閲覧79 児童書32書店14 カフェ78 共用部20 ブラウジング 23 3F 閲覧・学習125 10:30 11:00 11:30 13:00 13:30 14:00 14:30 15:00 15:30 16:00 16:30 18:00 18:30 19:00 19:30 09:30 10:00 休日 10:30 11:00 11:30 13:00 13:30 14:00 14:30 15:00 15:30 16:00 16:30 18:00 18:30 19:00 19:30 09:30 休息 作業 不在 読み聞かせ 読書 勉強 凡例 図4.座席での利用行動の展開 次に利用空間のつながりに着目すると、両日ともに1・ 2階を中心に広がっており、特に1・2階書店、2階閲 覧エリアのような隣接空間間で多くみられる。また各 空間の利用者数をみると1階よりも2階の空間が多い が、これは2階が駅と直結しており、外出や帰宅のつ いでに2階入口から施設に立ち寄る利用者が多いため と考えられる。一方、3階の各空間を見ると閲覧エリ アを除いて立ち寄り利用者はほとんどみられず、さら に3階閲覧エリアの利用者数は2階閲覧エリアと比較 すると極めて少ない。これには、交流室や市民活動支 援センターがガラスや間仕切壁によって閲覧エリアと 着座行為 定義 読書 図書・雑誌・新聞などを読んだり、映像・音楽資料などを視聴している行動 勉強 筆記用具を用いた活動。持ち込みの参考書などの資料を読んでいる場合も含む 作業 PC・タブレット機器等を用いた活動 休息 読書・勉強・作業を行っておらず、携帯電話を操作したり、おしゃべり、食事などをしている行動 読み聞かせ 幼児・児童などに対し保護者・職員などが音読して聞かせる活動 不在 座席に荷物などがあり、誰も着座していない状態。利用者が周囲の座席に荷物を置き、他の利用者が利用できない場合も含む 表5.着座行為の分類

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39-4 飲食店 カフェ 1F 書店 2F 書店 2F 閲覧 児童書 3F 閲覧 市民活動支援センター 交流室 1F 複数利用 66.1% 単一利用 33.9% 2F 3F 1F 2F 3F 飲食店 カフェ 1F 書店 2F 書店 2F 閲覧 児童書 3F 閲覧 市民活動支援センター 交流室 平日 St 館 Tg 館 休日 隣接空間利用 非隣接空間利用 5 人1 人 20 人10 人 凡 例 コンビニ カフェ 書店 児童書 1F閲覧 2F閲覧 共用部 レンタル 3F 閲覧 学習室 ギャラリー 飲食店 1F 2F 3F コンビニ カフェ 書店 児童書 1F閲覧 2F閲覧 共用部 レンタル 3F 閲覧 学習室 ギャラリー 飲食店 1F 2F 3F 回答者数:59 人 利用した 空間の数 複数利用 58.3% 単一利用 41.7% 利用した 空間の数 複数利用 60.0% 単一利用 40.0% 利用した 空間の数 複数利用 59.3% 単一利用 40.7% 利用した 空間の数 回答者数:30 人 回答者数:27 人 回答者数:48 人 出入口 複数空間利用者数 各空間の 利用者数 15 人 10 人 1 人 単一空間利用者数 14 26 3 4 1 13 2 4 7 3 4 1 3 2 1 1 4 1 3 5 11 2 1 11 1 9 1 3 2 1 1 2 2 3 2 21 6 1 23 22 33 4 11 22 33 4 5 11 22 33 11 22 33 4 10 11 8 2 2 4 36 16 8 20 2 18 7 4 1 1 1 図6.立ち寄り利用者の利用空間のつながり 物理的に仕切られていることや、3階閲覧エリアが学 習室として計画され、配架書架もビジネス書や専門書 等の分類が多いことが影響していると考えられる。 Tg 館の立ち寄り利用者の利用空間数をみると、両 日とも約6割が複数空間を利用しており、特に休日は 4つ以上の空間の利用もみられる。また、施設の入口 近くに位置するカフェと書店は、両日ともに約2.5割 もしくはそれ以上が単一空間利用者である。一方、各 空間の利用者数に着目すると両日ともに書店の利用者 数が最も多く、その約7割が複数空間を利用している。 利用空間のつながりをみると、特に休日は非隣接空間 のつながりが施設全体に広がっていることがわかる。 これは、書店がエントランス近くに位置していること、 Tg 館全体がエントランス部分の吹抜けによる視覚的 なつながりを有している影響と考えられる。加えて各 空間の利用者数に着目すると、1階が最も多く上階ほ ど少ない。また2・3階の複数空間利用者は、2階が約 8割、3階が約9割と高く、立ち寄り利用者の利用空間 は1階を中心に広がっていることが読み取れる。 6.まとめ 本研究により、以下のことが明らかになった。まず 複合施設の機能構成と運営方針から、1) 近年では利 用者増加や用地取得難の対応として、気軽に利用しや すい飲食店や大きな空間を必要とするホール等の公共 施設と複合する傾向にあること、2) 管理方式によっ て運営方針の傾向が異なり、指定管理者を導入した図 書館では滞在指向型の運営方針を重視する図書館の割 合が高いこと。次に St、Tg 館の利用実態から、3) 設 置される家具の種類は利用のされ方に影響を及ぼすが、 注意書きによって学習室のあふれだし利用を抑えられ る場合もあること。4) 駅と直結することで立ち寄り 目的 定義 アンケート項目 解決目的 読む本や調べたいことが決まっており、それを解決するために図書館を活用する目的。 ・読みたい本がある・調べたいことがある ・本を探すため ・読書をするため ・新聞・雑誌を読むため 閲覧目的 特に読む本を決めずに、来館した後に本を探して読む、閲覧を目的とするもの。 ・勉強をするため 環境目的 勉強をするための環境を目的とするもの。 ・カフェを利用するため ・空き時間を過ごすため 休息目的 図書館の機能を直接の目的とせず、図書館で空いた時間を過ごすという目的。 ・返却するため ・企画に参加するため 限定目的 図書の返却のように強制力のあるものや、企画への参加など、一時的な図書館の機能に対する目的。 ・その他 その他 上記以外で観光やレンタル、書籍購入などの目的。 50 40 50 40 50 40 30 50 40 30 14.0% 43.9% 17.9% 26.9% 19.4% 35.8% 34.3% 9.0% 17.5% 22.8% あり 58.3% なし 41.7% あり 49.1% なし 50.9% 19.3% 22.8% 解決 閲覧 環境 その他 N = 58 ※複数回答あり 来館目的 の有無 来館 目的 来館目的 の有無 来館 目的 N = 116 N = 115 N = 68 ※複数回答あり 限定 休息 解決 閲覧 環境 その他 限定 休息 平日 St 館 休日 33.3% 21.0% 42.9% 23.8% 20.2% 14.3% 38.3% 11.9% 13.6% 9.9% あり 75.7% なし24.3% あり 73.0% なし 27.0%なし 27.0% 33.3% 33.3% 解決 閲覧 環境 その他 N = 81 ※複数回答あり N = 111 N = 111 N = 84 ※複数回答あり 限定 休息 解決 閲覧 環境 その他 限定 休息 平日 Tg 館 休日 表5.来館目的の定義 図5.来館目的の有無と来館目的 利用者の割合は高くなること、5) 立ち寄り利用者の 利用空間やその広がりは、出入口の位置や壁などの物 理的な仕切り、配架書架に影響をうけること、6) 低 層部では直接行き来のできる空間間の利用が多く見ら れるが、吹抜けによる視覚的つながりにより上層部に も利用の広がりがみられ、特に休日は顕著であること。 今後、施設利用者の約半数を占める立ち寄り利用者の 利用行為を起点となる空間を含めて捉える必要がある。 謝辞 調査にあたり、各図書館の方々には多大なるご協力をいただきました。ここに記して深謝致します。 参考文献 1)西川馨:『図書館建築発展史─戦後のめざましい発展をもたらしたものは何か』,丸善プラネット,2010 年 2)『図書館雑誌』,日本図書館協会 出版,2016 年 4 月 3)『図書館を含む複合施設のついで利用に関する研究』, 村瀬久志 中井孝幸 田中隆一郎 , 日本 建築学会大会学術講演梗概集 2016 年

参照

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