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安全配慮義務違反における「素因減額」-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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㈲Iじ囲

安全配慮義務違反における﹁素因滅額﹂

  目 次 第一章 はじめに 第二章 二つの最高裁判所判決  第一節 最高裁判所平成十二年三月二四日判決  第二節 最高裁判所平成二十年三月二七日判決  第三節 一石の最高裁判所判決の相違占 に 第三章 判例理論の形成  第一節 労使間の安全配慮義務違反  第二節 素因減額についての判例の展開  第三節 素因減額に関する判例理論の到達点 第四章 学説の展開  第一節 過失相殺制度の理解について

金  丸

︵電通過労死事件︶ ︵NTT束日本北海道支店事件︶ 第二節 素因を原因とする損害賠價額調整の位置づけ 第三節 小括

義  衡

四三

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第五章 安全配慮義務違反における労慟者の素因の考慮  第一節 判例理論における位置づけ  第二節 安全配慮義務違反における﹁素因滅額﹂の位置づけ  第三節 おわりに

第一章 はじめに

四四  最高裁判所における判例理論は、不法行為法上の責任と契約法上の責任とが交錯する頒域として、安全配慮義務と いう考え方を展開してきた。この判例理論によれば、安全配慮義務が適用されるのは、労働関係や学校事故など、加 害者となる者と披害者となる者に一定の類型性がみられる場合であり、そのため、安全配慮義務の内容は、その基礎 となる法律関係の性質上導きだされるものと考えられてきた。そしてこれまでの具体的な事例をみると、使用者や学 校に安全配慮義務違反が問われるときに念頭に置かれてきたのは、安全配慮義務を怠ったことにより発生した偶発的 な事故に対する責任であった。  これに対して、現代の緊張をはらんだ労慟関係においては、これまで問題とされてきた不慮の事故のような、賠償 責任を負う使用者と被害者となる労働者の関係からすれば外在的な要因による損害の発生についての責任のみなら ず、不適切な勤務形態、すなわち労働関係に内在する原因による過労死についても使用者の安全配慮義務違反が問題 とされるようになってきている。この場合においては、使用者に﹁労働者を安全な状態で動務させる﹂ことを怠った ことによる直接的な結果として生じた労働者の死亡についての責任が課される一方、自主的な残業や性格的な要素、 28−3・・4−408(香法2009)

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(金九) 安全配慮義務違反における「素因滅額」 さらには健康上の不安など労働者の側にも生じた結果に対する何らかの原因のある場合が多い。  このように損害の発生または拡大に被害者の要因が寄与した場合に損害賠價額を減額調整しようという制度として は、民法七二コ条二項の過失相殺の規定が存在している。ぞの中でも﹁過失﹂と評価しうる何らかの被害者の行為の 存しない場合に、被害者の素因が同条の適用または類推適用により考慮されるべきかについては、既に論じられてき たところであるが、そこでの議論の中心は、偶発的な事故によって生じた損害を加害者と被害者の間でいかに分配す べきかという視点であった。そうであるとすれば、加害者と被害者の間に一定の関係性が存在し、使用者に安全配慮 義務が課されることにより、その限りにおいて既に損害の負担分配が行われているという局面においても、これまで と同様の議論がそのまま妥当するのかについてはなお議論を要するところである。  本稿では、このような問題意識から、安全配慮義務違反における素因滅額の問題を検討することにしたい。以下で は、このような形で問題となった二つの最高裁判所判決を題材に、損害賠償の滅額調整の局面において被害者の素因 の問題をどのように考慮すべきかを検討したい。 ︵︱︶ 安全配慮義務に関する文獣として、下森定編﹁安全配慮義務法理の形成と展開﹂︵一九八八年・日本評論社︶、高橋價﹁安全配慮   義務の研究﹂︵一九九二年︰成文堂︶、同﹁安全配慮義務の性質について﹂奥田昌道先生還暦記念﹃民事法理論の諸問題﹄下巻︵一   九九五年よ肌文堂︶二七五頁以下、白羽祐三﹁安全配慮義務法理とその背量﹂︷︸九九四年︰中央大学出版部︶、奥田昌道﹁安全配   慮義務﹂石田喜久夫二四原道雄︰高木多喜夫先生還暦記念論文集﹃損害賠價法の課題と展望﹄一頁︵一九九〇年一日本評論社︶、   新美育文﹁安全配慮義務﹂山田卓夫編﹁新︰現代損害賠價法講座 第﹃巻 総論﹄︵一九九七年’日本評論社︶二二三頁、窪田充   見﹁要件事実から考える安全配慮義務の法的性質﹂大塚直︰後藤巻則よ⋮‘野目章夫編著﹃要件事実論と民法学との対話﹄︵二〇〇   五年こ同事法務︶三六八頁こ件豊=山川隆一編﹁新こ匹判実務大系㈲労働関係訴訟法n﹂︵一己○一年’青林書院︶などを参照。 四五

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四 六 ︵2︶ 安全配慮義務に関してりIディングケースとされた事例︷最高裁判所昭和五十年二月二五日判決ふ戌集コ九巻二号︸四三頁︶は、   自衛隊の勤務中に自動車事故で死亡しており、また典型的な場合としては、商店の宿直員が盗賊に殺害された場合にその会社に安   全配慮義務違反を認めた事例︵最高裁判所昭和五九年四月一〇日判決︰民集三八巻六号五五七頁︶などが想定される。 ︵3︶ 過失相殺に関する文献として、橋本佳幸﹁過失相殺法理の構造と射程︵こ∼﹁五ふ石﹂法学論叢一三七巻一盲万一六頁、一三   七巻四号一頁、一三七巻五号一頁、三一頁以下、一三七巻六号一貝、一三九巻三号一頁、一一一頁以下、同﹁過失相殺﹂内田貴=大   村敦志編﹃民法の争点﹄︵一己○七年︰有斐閣︶コ九〇頁、窪田充見﹁過失相殺の法理﹂四七頁以下︵一九九四年よ羽斐閣︶、山野   嘉朗﹁過失相殺﹂山田卓生編﹁新︲現代損害賠償法講座 第六巻 損害と保険﹂コ七一頁二九九八年二口本評論社︶、藤井勲﹁交   通事故と素因、持病﹂山田卓生編﹃新こ現代損害賠價法講座 第六巻 損害と保険﹄八九頁︵一九九八年’日本評論社︶、松原哲   ﹁過失相殺﹁理論﹂の現状と課題﹂田山輝明=鎌田薫=近江幸治=執行秀幸編﹃高島平蔵敦授古希記念 民法学の新たな展開﹄六   六九頁︵一九九三年よ朕文堂︶などを参照。

第二章 二つの最高裁判所判決

 使用者の安全配處義務違反と同時に被害者の素因の問題が争われた事案としては、既に電通過労死事件がある。こ の事件においては、使用者が労慟者の職務の性質に応じてどのような安全配慮義務を負うのかというだけではなく、 当該労働者の健康状態等を考慮した上で、職務上の指揮監督権の行使として上司がどのような措置をとるべきであっ たのかが問題とされている。そしてこの事件では、労働者の心因的要素を考慮した上で、使用者の安全配慮義務違反 が認定されており、他方、労慟者の心因的素因について賠償額の減額事由としては考慮すべきでないとの判断を下し ている。  これに対して、NTT束日本北海道支店事拒は、職場の健康診断で判明した身体的疾患という労働者の特性に配慮 410(香法20㈲ 4 28−3

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安全配慮義務違反における「素因減,額」(金丸) を求められた安全配慮義務違反の事件であり、安全配慮義務の塀怠以前から存した身体的素因に関して、これを損害 賠償の減額要素として椙酌すぺきことを示している。  両最高裁判所判決は、いずれも安全配慮義務違反によって労働者が過労死するに至ったという事例ではあるが、素 因を減額要素として考慮するかという点については判断を異にしている。そこで本章では、両最高裁判所判決の事例 を概観した後、判断を異にするに至った事情としてどのようなものが考えられているのかについて、相違点を検討し ていくことにしたい。  第一節 最高裁判所平成十二年三月二四日判決︵電通過労死事件︶   第一款 事案の概要  Aは、大学卒業後、大手広告代理店Yに勤務していたが、人社当初から長期間にわたる残業を行なうことが常態化 していたにもかかわらず、Yでは残業について自己申告制であったため、Aの実際の残業時間は、申告によりYに把 握されていたよりも相当長時間であった。Aの上司Bらもこのような状態を把握していたにもかかわらず、休暇をと らせるなど適切な対応をとらなかった。その後、Aはうつ状態に陥り、衝動的、突発的に自殺するに至ったためAの 両親であるXらがYに対して損害賠價を求めた。 第一艇咤民法七一五条に基づく損害賠償責任を認めたが、馳射咤民法七一五条に基づく損害賠價責任を認める とともに、民法七二コ条二項を類推適用して損害賠償額を三割減額したため、双方から上告がなされた。 四七

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四八   第二款 最高裁判所の判断  この事件に対して最高裁判所は、﹁労働者が労働日に長時聞にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲 労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。⋮使 用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷 等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用 者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権 限を行使すぺきであ加﹂と述べて、BらがAの長時間労働や健康状態の悪化を認識しながらその負拒を軽減させるた めの措置をとらなかったとしてBおよびYの安全配慮義務違反を認定している。  次に、過失相殺規定の類推適用に関しては、素因の斟酌が可能であるとの一般論を述べた上で、﹁企業等に雇用さ れる労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種 の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基 づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そ のような事態は使用者として予想すべきものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労慟者に対し 業務上の指揮監督を行う者は、各労慟者がその従事すぺき業務に適するか否かを判断して、ぞの配置先、遂行すべき 業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。したがって、労働 者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償 請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要 因としてしんしゃくすることはできないというべきである﹂として心因的素因の斟酌を否定する結論を示した。 (香法20㈲ 412 4 28−3

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(金丸) 安全配慮義務違反における「素因減、額」 第二節 最高裁判所平成二十年三月二七日判決︵NTT東日本北海道支店事瓢   第一款 事案の概要  Yに勤務するAは、瞰場の定期健康診断で心電図の異常を指摘されて精密検査を受けた結果、陳旧性心筋梗塞と診 断され、またAには遺伝的疾患が認められた。Aは手術を受けるなどしたが病状は改善されず、その後は内服治療を 続けることとなった。他方、Yの事業構造改革にともないAは配置転換されることとなり、ニケ月にわたり宿泊をと もなう研修を受けることになったが、これによる肉体的、精神的ストレスによりAの病状は自然の経過をこえて悪化 し、急性心筋虚血により死亡するに至った。そのためAの遺族Xらから損害賠償が求められた。  第︸審では、主として安全配慮義務の存否、勤務時間外の事故と死亡という結果との因果関係について争われ、民 法七一五条に基づきYの不法行為責任を認めた。控訴審では安全配慮義務違反の有無とともに、新たな事実としてA の家族性高コレステロール血症という遺伝的要素が指抽され、因果関係の存否と素因減額の可否が争われた。原審は、 因果関係の存否については、家族性高コレステロール血症は投薬によりコントロールされていたため急性心筋虚血の 発症因子ではないと認定し、また第一審で主張されなかった被告による過失相殺の主張は訴訟上の信義則に反するも のとして損害賠償の額を定めるにあたり民法七二二条二項の類推適用をしなかったため、被告︵控訴人︶から上告さ れた。  第二款 最高裁判所の判断 この事件に対して最高裁判所は、第一審において認定されたYの安全配慮義務違反を前提に、素因滅額の問題に関       四九

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五〇 して民法七二二条二項が類推適用されるとの一般論を述べた上で、﹁Aが急性心筋虚血により死亡するに至ったこと については、業務上の過重負荷とAが有していた基礎疾患とが共に原因となったものということができるところ、家 族性高コレステロール血症︵ヘテロ型︶にり患し、冠状動脈の二枝に障害があり、陳旧性心筋梗塞の合併症を有して いたというAの基礎疾患の態様、程度、本件における不法行為の態様等に照らせば、YにAの死亡による損害の全部 を賠償させることは、公平を失するものといわざるを得ない。としてYの不法行為を理由とするXらに対する損害賠 償の額を定めるにあたり民法七二コ条二項の類推適用をしなかった原審の判断には、過失相殺に関する法令の解釈適 用を誤った違法があるというべきである﹂として、家族性高コレステロール血症、冠状動脈障害と陳旧性心筋梗塞を 素因として減額要素とすべきであるとの見解を示し、審理を原審に差し戻した。  第三節 二つの最高裁判所判決の相違点  第一に、共通する点としては、使用者の安全配慮義務違反について、二つの最高裁判所判決は、いずれの事件にお いても被害者側からは債務不履行責任と不法行為責任の双方が主張されているにもかかわらず、不法行為責任として 損害賠償責任を肯定するに至っている。そして事実認定の段階においては、安全配慮義務違反と死亡との間の因果関 孫のみを要求し、死亡の予見可能性は問題としていない。また、使用者に課される安全配慮義務の具体的内容として、 労働者の個人的な事情、すなわち性格や健康状態等にも配慮すぺきことが示されている。  他方、異なる点としては、死亡という結果につき被害者の素因を考慮すべきかで立場が分かれる。被害者が自殺に よって死亡した平成十コ年判決においては、被害者の性格的要因がうつ病やその結果として生じた自殺の原因となっ ていたことを認定しながらも、そのような被害者の事情は、業務の負担等で適切な措置をとるべきであるとして使用 3・・4−414(香法20㈲ 28

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安全配慮義務違反における「素因減額」(金九) 者が負担する安全配慮義務の一内容とされるため、減額要素として考慮しないものとされた。  それに対して、過重な労働により被害者の有していた身体的疾患が悪化し、結果として死亡するに至った平成二十 年判決においては、潜在的に死亡の可能性がある基礎疾患に関して、業務による過労が加功して死亡の危険性を現実 化したということで、家族性高コレステロール血症、冠状動脈障害と陳旧性心筋梗塞という複数の基礎疾患の存在を 素因減額の考慮要素としている。 ︵4︶ 伝統的に最高裁判所は、契約頁任を基礎として損害賠償責任を認める場合にのみ﹁安全配慮義務﹂という晶を用い、注意義務な   ど一殼的な用語を用いる不法行為責任を基礎とする場合と区別してきた。しかしながら、いずれの法規範によるにせよ頁任規範と   しての内容にはほとんど差がないことから、近時ではどちらの条文を根拠とするかを明示することなく損害賠償責任を認める事例   ︵最高裁判所平成十八年三月十三日判決ふ七例時報一九コ九号四一頁︶もみられるようになってきており、本稿では、安全配慮義   務という語を統一的に用いることにする。 ︵5︶ 素因とは、﹁何らかの反応を引き起こしやすい素になる、その下地になる状態︵板倉豊治﹁医療過程と裁判﹂判例時縁七コ二号   五頁︶﹂ということであり、﹁禦質的なもの、病状︵病歴︶、年令ないし事故による器質的変化や機能障害、その他身体的条件の存   在︵稲垣喬﹁交通事故と民事責任の相当性﹂判例タイムズコ六九号三四頁︶﹂などが素因となりうるとされている。 ︵6︶ 最高裁判所平成十二年三月二四日判決ム氏集五四巻三号一一五五頁。 ︵7︶ 最高裁判所平成一千年三月二七日判決ふ七例時報二〇〇三芳一五五頁。なお、本判決において過失相殺規定の類推適用が問題と   なってはいるが、原審までにおいて過失相殺規定の適用がなかったのは、本件における疾患の内容を判断してのことではなく、主   として、使用者側からの過失相殺の主張がなかったことを理由としている。 ︵8︶ 本判決に関する先行研究として、青野博之﹁過労自殺と損害賠償責任﹂法学敦室二三九号二I四頁、同﹁うつ病による労働者の   自殺と使用者頁任﹂私法判例リマークス二三号五四頁、高橋億﹁電通過労自殺事件上告審判決﹂判例評論五〇コ号︵判例時報一七   二五号︶二二四頁、田中清定﹁﹁過労自殺﹂事件に係る最高裁判決について﹂関束学回大学法学紀要一〇巻一号二I七頁、瀬川信   久﹁過労自殺についての使用者の不法行為責任﹂判例タイムズー○四六号七四頁、石田剛﹁労働者が過労自殺した場合に使用者の 五 ← 1

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心9 ら 1 0 八 11 八 12 ヘ 13 ら 14 八 15 八 16 八 17 五コ 民法七一五条に基づく損害賠償責任が俯定された事例﹂法学セミナー五五六号︸○八頁、根本到﹁長時間労働を原因とする過労白 殺に対する企業責任と過失相殺﹂法律時報七三巻四号ハ八頁、樫見由美子﹁長時間残業による過労自殺と使用者頁任﹂﹁平成十二 年度重要判例解説﹂︵ジュリスト臨時増刊コー○二号︶七一貝、笠井修﹁過労自殺に基づく使用者責任と過失相殺﹂NBL七一ろ 号七八頁、藤本茂﹁過労自殺と使用者の損害賠價責任﹂労働判例百選︵第七版こ別冊ジュリストー六五号︶ 一四二頁、ハ木一洋﹁最 高裁判所判例解説﹂法曹時報五二巻九号三三二頁、小畑史子﹁長時間残業によるうつ病罹患後の自殺と使用者の責任﹂民商法雑誌  一三〇巻二号一七四頁などがある。 ︶ 束京地方裁判所平成八年三月二八日判決]刊例時報一五六一号三頁参照。 ︶ 東京高等裁判所平成九年九月二六日判決ふJ︰例時報一六四六号四四頁参照。 ︶ 民集五四巻三号コ六五頁。 ︶ 民集五四巻三号一一六八頁。 ︶ この事件は、心因的素因を減額要素としなかった第︸審の損害認定を基礎として、差戻控訴審において和解が成立している。 ︶ 本判決に対する先行研究として、高田淳﹁被害者に疾患がある場合の素因減額﹂法学セミナー六四四号一三二頁がある。 ︶ 札幌地方裁判所平成十七年三月九日’判例タイムズー一二四号コ〇五頁参照。 ︶ 札幌高等裁判所平成十八年七月二十日判決こ万働判例九二二号五頁参照。 ︶ 判例時報二〇〇三号一五九頁。

第三章 判例理論の形成

 第一節 労使間の安全配慮義務違反  これまで主として論じられてきた、安全に働ける環境を整えることが義務の内容となる事故型の安全配慮義務違反 の場合以外に、過労死型の安全配慮義務違反につき使用者の責任を認めるか否かについては、とりわけ過重な業務に (香法2009) 28−3・・4−416

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安全配慮義務違反における「素因減額」(全丸) 起因する心因性の白殺の事案で、下級審裁判例において以前から散見される問題であった。下級審裁判例においては 安全配慮義務違反の認定についてはほとんど肯定しているようであるが、ぞの上で、過労による自殺という結果の予 見可能性まで必要なのか否か、そして安全配慮義務違反と結果との間の因果関係をどのように認定するのかが争われ ており、予見可能性を要求する立場と要求しない立場とに分かれている。  また、最高裁判所の立場としては、使用者の安全配慮義務には、業務の遂行にともなう疲労や心理的負荷等が過度 に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務も含まれるとするのが近時の傾向である。本 稿では、使用者に安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められることを前提に、そこでの考慮要素と損害賠償額 の減額要素として考慮される被害者の素因との関係に注目することにしたい。 第二節 素因減額についての判例の展開  最高裁判所の形成してきた判例理論において出発点となるのは、最高裁判所昭和六三年四月二I日判決である。こ の事件は、比較的軽微な交通事故の結果受傷した被害者の治療がかなり長期間にわたったという事例において、﹁身 体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによつ て通常発生する程度、範囲を超えるものであつて、かつ、その損害の拡犬について披害者の心因的要因が寄与してい るときは、損害を公平に分担させるという損害賠價法の理念に照らし、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、 民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することがで きるものと解するのが相当である﹂と述べた上で、相当因果関係により賠償範囲を限定し、さらに過失相殺規定の類 推により四割の減額を行なった。        五三

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      五四  次に最高裁判所は、身体的素因のある場合にも、減額の考慮要素となることを示した。最高裁判所平成四年六月二 五日判決では、事故以前に罹患した一酸化炭素中毒とあいまって被害者の死亡という結果を招いた事例に対して、﹁被 害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患 の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠價の額を 定めるに当たり、民法七二コ粂二項の過失相殺の規定を類推適用して、披害者の当該疾患をしんしゃくすることがで きるものと解するのが相当である。けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に 賠價させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからで札狗﹂と述 べて、五割の減額を認めた。  このように、最高裁判所は、素因を損害賠償額の減額のための考慮要素として広く認める態度を示していたが、そ の範囲を限定する判決も下されている。すなわち、最高裁判所平成八年十月二九日判決は、被害者が平均的体格に比 して首が長く多少の顕椎の不安定症があるという身体的特徴を有していたところ、この身体的特徴に本件事故による 損傷が加わって損害を惹起したという事例において、﹁被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴 を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損 害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体賀は、すべての 人が均二同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的 特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な 行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当 然にその存在が予定されているものというべきだからである﹂と述べて過失相殺規定の類推適用を否定した。 (香法2009) 4−418 28−3

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安全配慮義務違反における「素因滅額」(金丸) そして安全配慮義務違反の場合における素因の考慮という問題に関しては、既にみたように、安全配慮義務違反を 不法行為責任として構成した上で、平成十二年判決は過失相殺規定の類推適用による心因的素因の斟酌を否定し、平 成二十年判決では、身体的疾患を素因として考慮すぺきことが示されている。 第三節 素因減額に関する判例理論の到達点 最高裁判所の形成してきた判例理論は、不法行為において損害の共同原因となった被害者の素因を、過失相殺の類 推適用という方法を通じて、損害賠償額の減額要素として剔酌するという立場に収束しできたとみられる。その上で、 身体的素因、心因的素因、身体的特徴の三種に分類して、前二者について斟酌することを認めると類型的に説明され てきた。しかしながら、そこで行なわれている実質的な考慮を検討するならば、最高裁判所はより具体的事例に則し た判断方法を検討しているようにも考えられる。すなわち、心因的疾患か身体的疾患かといった素因そのものの性質 に着目した類型化ではなく、加害行為以前から存在する疾患であり、かつ、個人の個体差として予想される範囲をこ えたものに限り、過失相殺規定の類推適用において斟酌される素因とする、という考え方と理解することができる。 その背景には、これまでと同様に、素因と加害行為とが共同して損害を発生させた場合には、披害者と加害者の衡平 という観点から損古賠償額の減額という結論を導くという考え方が存在している。そのため、通常予想される範囲を こえた彼害者の素因については、加害者ではなく披害者に負担させるぺきであるとの態度が示されているのであハ ー 。 . ヘ18︶ 当初、過重な労働負担と自殺とが問題となったのは、労災給付の認定という問題であった。たとえば、海外への長期出張を命じ  られた新入社員が業務のストレスにより精神障害に陥り投身自殺したことにつき労災保険法による葬祭利及び遺族袖價二時金が認 五五

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五 六   められた事例︵神戸地方裁判所平成八年四月二六日判決︰判例タイムズ九二六号一七一頁︲神戸製鋼所事件︶、精神的緊張をとも   なう熟練プレスエとして勤務していたが過重な時間外労慟により反応性うつ病に罹患し自殺するに至った場合に遺族袖價給付が認   められた事例︵長野地方裁判所平成十一年三月十一百判決’判例タイムズーo五九号一四四頁Iサンコー事件︶などがある。 ︵19︶ 製鉄所の撰長が過重な時間外労働によりうつ病に麗患し自殺した場合に自殺の予見可能性を認定した上で安全配慮義務違反によ   る債務不履行貴任が認められた事例︵岡山地方裁判所平成寸年コ月二三日判決こ万慟判例七三三号一三頁ふ川崎製鉄水島製鉄所事   件︶、自殺未遂を起こしたことのある者が過重勤務によりうつ病に陥り自殺した場合に使用者に自殺の予見可能性を認定した上で   不法行為に基づく損害賠價責任を認めた事例︵浦和地方裁判所平成十三年コ月二日判決・判例時報一七七四号一五四頁、東京高等   裁判所平成十四年七月二三日判決こ万慟判例八五二号七三頁△二洋電機サービス事件︶参照。 ︵20︶ エ事現場の頁任者が過重な時間外労慟の負担により発作的に自殺したことにつき安全配慮義務違反による積務不履行責任が認め   られた事例︵札幌地方裁判所平成十年七月十六日判決ふ宍︰例時報ヱ八七一号コ三頁こ腸成建設工業事件︶、経験の浅い保母に主 八 八 任を任せ過重な責任を課したことによる精神的重圧からうつ病に陥り退職後一ケ月で自殺するに至った場合に安全配慮義務違反に よる債務不殷行貴任を認めた事例︵大阪高等裁判所平成十年八月二七日判決ふ刊例時報一六八五号四一頁、最高裁判所平成十二年  六月二七日決定︲労働判例七九五号十三頁よ釆加古川幼児園事件︶、異勣により実質的な責任者を任された者が過労によりうつ病  に匪患したことにつき安全配慮義務違反による債務不履行責任と不法行為責任を重畳的に認めた事例︵広島地方裁判所平成十一一年  五月十八日判決こ万働判例七八三号十五頁ミ零タフクソース事件︶参照。なお、東加古川幼児園事件の第︸審判決︵神戸地方栽判  所平成九年五月二六日判決ふJ︰例時報一六八五号四五頁︶は、退職後の自殺であり因果関係が存しないとして損害賠價責任を否定  している。 21︶ 最高裁判所平成十二年三月二四日判決︵前掲註6︶、小畑史子﹁安全配慮義務﹂林=山川謳︵前掲註よ三〇八頁参照。 22︶ 裁判例上、素因をどのように扱うのかという問題はかなり早期から問題とされてきた。以下、その変遷過程について紹介するが、  現在では、素因の問題は過失相殺の類推適用の可否として扱うとの判例理論が確立されたとみられるため、本稿では判例における  法律構成の変遷について詳細には扱わないことにする。 り ー ︱ ぐ  因果関係の有無として扱う段階 ﹁被上告人ノ夫儀三郎カ精神二異状ヲ呈シ遂二精神ヲ喪失スルニ至リタル素因ハ同人カ予テ心臓肥大症血管硬化症脳軟化症二罹 レルニ在ランモ汽車ノ衝突客車ノ顔覆カ動機トナリ病勢ヲ増進シテ茲二至リタルモノナルコト原院ノ確定スル所ナリ而シテ原院ハ 28−3・・4−420(香法2009)

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安全配慮義務違反における「素因波額」(金丸)

ヘ 23

W 民集四二巻四号二四三頁、二四四頁。 すべきである︵高知地方裁判所昭和四六年九月十三日判決・判例タイムズ二六九号二I九頁、二二三頁︶。﹂ のかかる素因の存在を損害額算定における減額事情として考慮し、現症への素因の寄与度による過失相殺に準じた割合的控除をな  ﹁その症状による全損害額を加害者に負担させるのは相当でなく、不法行為法における損害の公平な分担という理念上、被害者 ㈲ 過失相殺規定を用いる段階 るのが相当である︵福岡地方裁判所昭和五三年五月二六日判決︰交通民集コ巻三号七七四頁︶。﹂ きは、不法行為の寄与度に応じ、その限度で相当因果関係が存するものとして、加害車に損害賠償責任を負担させるべきものとす 要因にも大きく基因していて、その全損害を不法行為者に賠價させることが却つて公平の観念に反する結果となると認められると めるべき性質のものであるから、不法行為と損害との間に自然的因果関係の認められる場合においても、その発生した損害が他の  ﹁不法行為に基づく損害賠價責任は、社会生活上発生する損害を誰にどのように分担させるのが公平であるかという観点から定 I 割合的因果関係として扱う段階 える余地はないものと解するのが相当である﹁束京高等裁判所昭和四八年十﹂月二八日判決ふ七例時報七二五号四六頁、四七頁︶。﹂ られる範囲内では、その因果関係のある損害を特別事情による損害として、加害者に当該事情についての予見があったか否かを考 対し寄与したと認められる限度において、加害者に賠價責任を負担させるのが相当であり、しかも両者の間に相当因果関係の認め もとづくものとするのは、損害の公平な負担という立場からみて不当であり、むしろ右のような場合には、事故が後遺症の発現に  ﹁このように被害者の後遺症の発現が事故を唯一の原因とするものでない場合において、ぞの後遺症にもとづく全損害を事故に I 寄与度の範囲での相当因果関係として扱う段階 なければならない︵大阪地方戟判所昭和四三年一〇月一于日判決︲判例タイムズ二二八号一九九頁、二〇〇頁︶。﹂ れるので、原告の症状の頑固性及びその治療の長期化による損害は、右石灰化症の存在という特別の事情により生じたものといわ  ﹁原告の顕部、後頭部痛は持病の石灰化症により増強、頑固なものとなり治療が通常より長引いているものであることが認めら I 民法四一六条の相当因果関係として扱う段階 ス︵大審院大正二年十二月八日判決こ汰律新聞九一八号二八頁︶﹂ タリシコトヲ認メタルモノナレ八本論旨ハ畢竟原院ノ職権二属スル事実ノ認定ヲ非難スルモノニ外ナラスシテ上告適法ノ理由タラ 儀三郎ノ被リタル損害額四千円ハ全ク汽車ノ衝突客車ノ顛覆二因リテ生シタルモノニテ即チ上告人ノ不法行為カ右損害ノ直接原因

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五八 ︵24︶ 民集四六巻四号四〇〇頁、四〇一頁。 ︵25︶ また、同日に同法廷で下された判決では、事故前から存在していた顕椎後縦報帯骨化症が治療の長期化や後遺障害の程度に寄与   しているとしても、﹁加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか、疾患が難病であるかどうか、疾患に罹患するにつき   被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか、加害行為により被害者が被つた衝撃の強弱、損害拡大の素因を有しながら廿会生活   を営んでいる者の多寡等の事情によつて左右されるものではないというべきである︵交通民集二九巻五号一二七二頁、一二七三頁   以下︶﹂と述べて、過失相殺規定が類推適用されるものとして差し戻した。この両判決からは、素因とされるものが身体的素因に   分類されるのか、身体的特徴として位置づけられるのかによって、考慮要素となるのか否かが決定されるとの態度が示されたとみ   ることができる。ただし、どのような状態であれば疾患となり、また身体的特徴となるのかは明らかではない。    なお、この事件では、差戻控訴審において、結論として三割の減額が認められた︵大阪高等裁判所平成九年四月三〇日‘交通民   集三〇巻二号三七八頁︶。 ︵26︶ 民集五〇巻九号二四七四頁、二四七七頁。 ︵27︶ 下級審裁判所においては、比較的広く減額事由となることを認めている。束加古川幼児園事件︵大阪高等裁判所平成十年八月二   七日判決︰前掲註20︶は心因的素因を考慮して八割の減額を認め、岡山地方裁判所平成寸年コ月二三日判決︵前掲註19︶は、被害   者の性格的要素や管理職としての裁量があるにもかかわらず自主的な時間外動務を行なったことを考慮して五割の減額を認めるな   ど広く滅額を認める傾向にあった。また平成十二年判決以後も、三洋電機サービス事件︵東京高等裁判所平成十四年七月二三日判   決︰前掲註19︶は、心因的素因や被害者側の自殺防止措置の附怠を考慮してハ割の減額を認め、大阪高等裁判所平成二寸年三月二   七日判決︵判例時報二〇二〇号七四頁︶は、過重労働が惹起した突発的心筋症による医師の死亡につき、原因となる基礎疾患がな   かったとしても研究のための白主的な時間外勤務や本人の健康管理の醤怠などを考慮して三五%の滅額を認めている。    しかしながら、平成十二年判決直後のオタフクソース事件︵広島地方裁判所平成十二年五月十八日判決こ朋掲註20︶では、うつ   病の発症に被害者の性格的要素が一定程度寄与していることも、うつ病後に精神神経利を受診しなかったことも過失相殺における   滅額事由とはならないとしている。 ︵28︶ 第二章参照。 ︵29︶ 安全配慮義務違反の事例においては、契約頁任と不法行為責任とを同時に根拠として損害賠償を請求することが多い。その中で   も、本稿で扱う労使間の安全配慮義務違反が問題となる場合には、使用者である企業に頁任を追及するための方法として使用者責 (香法20㈲ 4−422 −3 28

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安全配慮義務違反における「素因減額」(金丸)   任の規定を用いることが多いため、不法行為構成による事例を多数みることができる。    なお、平成十二年判決では、被害者である原告から民法四一五条および七〇九条に基づく損害賠價が求められており、第一審判   決ではそのいずれの成立も認めた上で、七﹂五条に基づく使用者責任を肯定しており、控訴審以降では、七一五条に基づく責任の   みが問題とされている。    また、平成二十年判決では、被害者である原告から民法四︸五条および七〇九条に基づく損害賠價が求められているが、第一審   以降、不法行為責任を認定し債務不履行責任については判断していない。 ︵30︶ 最高裁判所の判例理論とは異なり、下級審裁判所においては﹁あるがまま判決﹂といわれる特徴的な判決例をみることができる。   たとえば、束京地方歎判所平成元年九月七日判決は、披害者が精神的打撃を受けやすい類型の人間であったために治療期間が長引   いていることに対して、﹁﹃加害者は披害者のあるがままを受人れなければならない。﹄のが不法行為法の基本原則であり、肉体的   にも精神的にも個別性の強い存在である人間を基準化して、当該不法行為と損害との間の相当因果関係の存否等を判断すること   は、この原則に反するから許されないと解すべき︵判例時報一三四二号八三頁︶﹂と述べて過失相殺を否定しており、横浜地方裁   判所平成二年七月十一日判決は、事故と彼害者の顕椎後縦鞍帯の骨化が競合して損害が発生したという事例において、顕椎後縦靫   帯の骨化は素因として考慮されない体賀的なものであるとしたうえで、﹁﹁不法行為者はその被害者をあるがままの状態で引受ける﹂   というのが不法行為法上の原則であるから、加害者は、損害の発生∴孤大に関して被害者の素因が寄与している場合でも、その結   果のすべてについて責任を負うべきであり、損害が加害行為のみによって通常生じる程度、範囲を超え、かつ損害の拡大について   被害者の心因的要因が寄与している場合には、例外的に、損害賠償法を貫く公平の理念から、損害の拡大に寄与した被害者の右事   情を斟酌することができるものと解する︵判例時報言入一号七六頁︶﹂と述べて、過失相殺の適用を否定している。 ︵31︶ 加藤新太郎﹁因果関係の割合的認定﹂塩崎勤編﹁交通損害賠償の諸問題﹂言九九九年ふ七例タイムズ社︶T一二頁、一四四頁以下。 ︵32︶ 窪田充見﹁不法行為法﹂︵二〇〇七年︲有斐閣︶三九八頁以下、四〇〇頁。 ︵33︶ このように、素因による減額調整を比較的広く認める判例の態度は、従来の責任要件よりも緩和された内容で責任が前定される   ようになってきたことを背景に﹁責任要件を緩和する代わりに、その調整として、効果を縮減することが公平と考えられる﹂ため   であると評価される︵能見善久﹁寄与度減頁﹂加藤一郎=水本浩編﹁四宮和夫先生古稀記念論文集 民法ふ四託法理論の展開﹂ 二   九八六年・弘文堂︶二I五頁以下、二五〇貝︶。 五九

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第四章 学説の展開

六 〇  以上のような判例理論に対して、不法行為法上、素因の問題をどのように位置づけるのかについては多くの議論が 積み重ねられてきた。この問題に対する学説の態度は、二つに大別される。一つは、初期の判例において示されてい たように、素因を原因競合の問題として因果関係の議論に位置づける見解である。またもう一つは、現在の判例理論 と同様に、素因を過失相殺の問題として位置づけた上で、これをどのように法律構成するのかという段階で議論を行 なう考え方である。これは、過失相殺の制度をどのような制度として理解するのかにもかかわる問題であるため、本 節では、まず最初に過失相殺規定の不法行為法上の位置づけを概観した後、素因の問題をどのように捉えるのかとい う各説からの視点を整理したい。  第一節 過失相殺制度の理解について  過失相殺制度をどのように理解するのかについては、五つの立場に整理することができる。第一に加害者の非難可 能性の滅少を根拠とする見解、第二に傾域原理から制度を構築しようとする見解、第三に因果関係から説明しようと する見解、第四に被害者自身の非難可能性を根拠とする見解、第五に損害の金鉄評価規範とする見解である。  第一款 加害者の非難可能性の減少を認める見解 まず、過失相殺の制度を加害者の側から説明しようとするときには、加害者に原因がないという限度で加害行為の 28−3・・4−424(香法2009)

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(金丸) 安全配慮義務違反における「素因減額」 違法性ないし非難可能性が減少し、それによって公平の見地から損害賠償の減額という効果が導かれるということに 如ご。この見解は、とりわけ彼害者側の過失という問題に関して述べられたものであるが、﹁加害行為の違法性の度 合いに応じて損害賠價の額が決定され、そこに過失相殺の本賀があ﹂り、﹁通常、加害者は、損害の全部について賠 償責任を負うぺきだが、被害者の出方如何によって加害者の行為の違法性が減じられるのであって、それに応じて損 害賠償の額が判定される﹂ことになり、 慮事由として認めようとする。 加害者の非難可能性を減少させるような事情を広く過失相殺制度における考  このように被害者の行為態様によって加害者の違法性の程度が判断されるという考え方に関しては、さらに、﹁過 失相殺は、基本的に損害の公平な負担を図るものなので、加害者と披害者の悪性の比較考量の上で、過失相殺をすベ きか否かを決定すぺきである﹂との考え方にも至りうる。   第二款 領域原理により説明する見解  次に、過失相殺の制度を、危険頒域に基づく特殊な損害分配の制度であるとして基礎づける見解がある。この見解 によれば、過失相殺の制度は、﹁加害者への損害転嫁を基礎づける過責原理と被害者の損害負担を基礎づける領域原 理というニつの帰責軋皿﹂によって基礎づけられるものであり、彼害者に損害を分配するのは、﹁一定の不利益を。        ︵39︶その根本原因が誰の領域にあったかを基準に分配するという危険分配原理﹂であるとする。そして披害者の損害負担 ︵ 40 ︶ を正当化するために、﹁過失相殺制度のかぎりでの自己危殆化防止巌称﹂を観念することで、違法性の量による賠償 額の調整を正当化する。   l , ノ ` ゝ - ●

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第三款 因果関係の問題とする見解 _ r 、 ノ ヘ 一 - 1 また、過失相殺規定は特殊な因果関係、すなわち部分的因果関係について定めた規定であるとする見解もある。部 分的因果関係の理論は、﹁損害の発生は一つの原因から生ずることは稀であり、複数原因が、因果関係上競合するの が普通であるが、その場合には、それぞれの加害原因は、必ずしも等価的に条件的な因果関係上の影響力を持つもの ではなく、それぞれ固有の因果関係上の影響力をもって、全体の損害に連結しているものであり、したがって全体の 損害に対して部分的な因果関係のみをもつものであるから、責任も部分的な責任しか生じな︵宍︶と定義されヽ゜過失 相殺は﹃部分的因果関係﹄の問題であり、本来の意味での過失が問題となる余地はまったく牡宍﹂のであり、﹁事件 の具体的事情を、被害者の行為の﹃異常性﹄という因果関係上の観点から判断九心﹂ための規定であるというのであ る。  この他にも、被害者に存する事情が、不法行為の結果として生じた損害にどの程度寄与していたのかという観点か ら、競合する他原因の寄与度割合に応じて損害賠償額から控除されるぺきことを政策的に認めるという乱彩がある。   第四款 被害者の非難可能性を根拠とする見解  この見解は、被害者白身に損害の発生または拡大について責められるぺき行為があったのに加害者にその損害の全 額を負担させるのは不公平であるとして、﹁加害者との関係で、彼害者がその部分を負担すべきと考えられる根拠、 すなわち、何らかの意昧での被害者の非難可能性が認められる軋七﹂には、加害者の賠價義務が軽減されるとする見 解である。もっとも、被害者の非難可能性としてどのような基準を設定するかについては分かれており、﹁不注意に よって損害の発生を助七七﹂ことで足りるとする考え方や、﹁信義則上の義務軋匹﹂または﹁自己礼効﹂といった過 28−3・・4−426(香法2009)

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(金丸) 安全配慮義務違反における「素因減額」 失相殺のために何らかの義務を定立して、これに対する違反を要求する見解も見られる。  他方、被害者側の義務違反を根拠とする考え方は、さらに、被害者にも一定の行為義務を諜すべきとの考え方にも 至る。この見解によれば、過失相殺の規定は、﹁過失は客観的行為義務違反であるから、違法性の要素であり、した がって﹃過失相殺﹄とは﹃違法性相殺﹄のことであり、﹃危険の引受﹄や﹃被害者の承諾﹄が﹃違法性阻却事由﹄で あるのと、調和するし、また、被害者の行為が事故発生に寄与しているというだけでは、﹃過失相殺﹄はなされない のであって、違法な行為が寄与していなければならないのだから、この点からも、﹃違法性相殺﹄と考えるのが合理 的である﹂と理解されることになる。  さらに近時では、被害者の非難可能性に注目しつつも、過失相殺制度の損害配分という機能面から特殊な損害分配 制度として検討する考え方もある。不法行為法における行為規範としての行為義務とは別に、評価規範としての自己 危険回避義務を﹁過失相殺という限定された法律効果、すなわち、加害者︵損害賠價責任負担者︶との間の損害分配 の紛争の解決という限定された目的に向けてのみ、事後的に評価規範としての意昧を有する﹂ものとして被害者に設 定することで、過失相殺規定を﹁加害者との間での回顧的な損害分配作業﹂と位置づけるのである。  第五款 金銭評価規範とする見解 最後に、過失相殺規定は、﹁損害の金銭評価の問題として位置づけられざるをえ牡宍﹂として、過失相殺制度をど のように運用すぺきかはもっぱら法政策的な問題であり、裁判官にゆだねられるとする見解もある。 六三

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六 四  第二節 素因を原因とする損害賠償額調整の位置づけ  以上見てきたように、不法行為法体系上、過失相殺の制度をどのように位置づけるかについては、様々な見解があ る。そしてこのような過失相殺制度の理解の違いは、被害者または加害者のどのような点を捉えて過失相殺の制度に 反映させるぺきか、また損害賠償の減額要素として考慮すべきかという点についての価値決定を含んでいるため、結 論としてどのような素因を過失相殺の考慮要素として取り込むことができるのかという点と密接に関わることにな る。そこで以下では、第一節で検討した過失相殺制度の位置づけを念頭に、身体的疾患を素因として斟酌できるのか、 またできるとすればそれをどのように損害賠償法上位置づけるべきであるのかについて、さらに検討したい。   第一款 加害者の非難可能性の減少を根拠とする見解  まず、加害者の非難可能性の滅少に過失相殺の根拠を求める見解によると、素因という事情によって損害が発生ま たは拡大したような場合には、被害者の行態というものを観念し得ないため、過失相殺規定を直接適用することはで きないが、その類推適用により考慮事由とする余地が生じることになる。すなわち、﹁披害者の心的要因が寄与して 損害が拡大しているとき、および加害行為前から存在した被害者の疾患も原因となって損害が発生したときには、公 平上被害者の事情を斟酌して賠償額の減額が認められる。・:これらの場合と異なり、披害者が平均的な体格ないし通 常の体質と異なる身体的特徽を有し、これが加害行為と競合して傷害を発生させ、または損害の拡大に寄与したとし ても、この身体的特徴が疾患に当たらないときは、特段の事情のない限り、これを損害賠償の額を定めるにあたり考 慮すべきではない﹂というのである。 28−3・・4−428(香法2009)

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安全配慮義務違反における「素因滅額」(金丸)   第二款 頒域原理から構成する見解  他方、領域原理から説明する見解によると、﹁被害者の側から見れば、被害者は自己の個人的権利鎖域について、 自由に支配を行使しうる。被害者の素因はかような個人的支配領域に存在し、その意昧で、被害者の拍象的制御可能 性が及ぶ。それゆえ、被害者が素因の制御に失敗した場合はもちろん、具体的制御がそもそも不可能であったとして       ︵58︶も、素因の損害危険は領域主たる彼害者に配分される﹂という。そして、﹁素因の競合によって、危険性関巡を認め うる範囲を越えて結果が拡大したーその裏返しとして、現に生じた結果の一部にしか危険性関連が及ばない︵危険性 関連の縮減︶−という理論構成﹂を示した上で、その結果、被害者の素因が個人差の範囲内であるかを基準に違法性 関連の有無を判断するという構造となる。   第三款 寄与度減責または因果関係の問題と捉える見解  また、不法行為法体系上、素因を損害賠償の減額要素として考慮する場合に、寄与度という考え方を用いる見解も 見られる。たとえば、過失相殺規定も一つの寄与度減責の局面を定めたものと理解する立場からは、被害者の素因は 過失相殺における考慮事由とはならないものの、素因により損害が拡大した場合についても、不法行為と他原因が競 合するという局面の一つとして把握されることにな︵匹゜ここに属するものとして、被害者の素因の競合という問題を 後続侵害の領域拡位置づけ、被害者側の要因のために結果に対する寄与の度合いが限られてくるという見解がある。 すなわち、一般生活上の危険の判断による危険性関逓によって加害者への帰貴を検討すぺきであるが、たとえ加害者 への損害の転嫁が認められるとしても過失相殺に準ずる方法で減責することが主張されている。他にも、被害者の素 因を減額事由として考慮すべきかは純粋に法政策的な観点から判断されるぺきであるが、その手法として、寄与度減 六 五

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      六六 責の調整的機能について、事実上無過失責任に近いといわれている交通事故などにおいては、﹁被害者の素因を理由 に加害者の貴任を減責することもあながち不当ではない﹂し、﹁過失の客観化が進んでいることから、減責による利 害の調整が適当な場合が多いであろ﹁詐﹂ことを指摘する考え方もある。   第四款 被害者の非難可能性を根拠とする見解  この見解による場合、被害者の素因を過失相殺の斟酌要素とするためには、単に被害者が素因を有しているという のみならず、そこに何らかの非難可能な行為ないし落ち度を観念しなければならない。なぜなら、﹁不法行為がなけ れば素因は顕在化しなかったのだとすれば、被害者の素因が損害の発生・拡大へ寄与したのはまさに加害者の不法行 為によって強いられた結果であり、これを加害者の違法な行為と同列において調整を回るのは問題﹂であるし、﹁被 害者の素因についてのリスクを被害者自身に負担させるとした場合、素因を有する者の行動の自由が、﹃何人かの不 法行為を﹄警戒することによって不当に制限されるのではないかという問題も指摘されなくてはならない﹂からであ る。  そこで、たとえば、﹁素因の存在を知りながら適切な処置をしなかった場合のように、被害者にも何らかの意昧で 不注意と評価できるような事情があった場合、すなわち、過失相殺規定の類推適用ではなく、本来の適用が可能な場 合に限るべき﹂という形で彼害者への損害の再転嫁を正当化する見解や、﹁披害者に素因を発見あるいは統制するこ とが期待可能で、かつこれに基づいて自己の行動を適切にコントロールすることが可能であったという場合に限っ て、期待可能な措置を講じなかったという被害者の帰責性を基礎に賠償額の減額を認めるぺきである﹂、または、﹁そ の人の身体的な状況を前提として、安全を確保するために、一定の袖肋器具を使うと言ったことが合理的に期待され 28−3・・4−430(香法2009)

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(金丸) 安全配慮義務違反における「素因滅額」 ︵ 6 8 ︶ るのであれば、そうした措置がとられなかったことを過失相殺の適用によって賠償額の縮滅をもたらす可能性がある﹂ として被害者に存する素因によって損害が発生または拡犬しないようにすることが被害者に期待可能である場合に限 り、素因を減額要素として考慮することを認めることになる。  したがって、この見解によれば、原則として素因は過失相殺において考慮されるべき要素ではないが、素因を有し ていることへの対処などにおいて被害者に落ち度があるなど本来の意味での過失相殺が適用できるような場合には、 過失相殺規定を直接適用することにより素因を考慮事由とするのである。   第五款 金鉄評価規範の一つと捉える見解  以上の見解に対して、過失相殺規定を金銭評価規範の一つとして理解する立場からは、﹁素因の存在を斟酌するこ とは、生命・身体という重大な利益に対する損害を回避する義務を一般的に負う加害者に偶然の事情によって責任を 軽減させることになり、また素因をもつ被害者に自己の利益または安全を防衛する上で一般人以上の負担を課するも のであって、公平といい難﹂いと主張される。公平の見地という過失相殺の一般論を論拠とするものの、被害者の素 因が過失相殺事由として考慮されるか否かは、もっぱら政策的価値判断によって定められるぺきであるとする。  第三節 小   括  素因の問題をどのように位置づけるのかについては、過失相殺規定を加害者の責任の減少と位置づけるのであれ ば、判例理論と同様に、過失相殺の類推適用という方法を用いることによって考慮することができる。また、そもそ も過失相殺規定を領域原理に基づく特殊な危険配分規定であると理解する場合にも、素因を原因として生じた損害 六 七

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︵ 7 1 ︶ を、過失相殺の制度を通じて被害者に帰せしめることができる。  これに対して、素因を過失相殺事由として考慮することを否定する立場からは、 とする乱匹もあるが、素因を原因競合の局面として、寄礼飲や割合的因果軋匹、 六 八 政策的判断からこれを除外しよう 危険性軋七などの概念を用いて損害 賠償額に反映させることを試みる。また、過失相殺事由から素因そのものは排除するとしても、素因に対する被害者 の行態を捉えて損害の再帰責を試みるという考え方も存在する。  また素因を滅額事由として考慮するのか否かという観点からすると、過失相殺の類推適用、直接適用、因果関係︵寄 与度・割合的因果関係・危険性関連︶という法律構成により考慮するものと、それ以外の考慮しないという見解に分 類することができる。 ︵34︶ 前述註22参照。 ︵35︶ 西原道雄﹁生命侵害における損害賠償額﹂私法コ七号一〇七頁、一一〇頁は、﹁いわゆる﹃被害者の過失﹄を、加害者側の非難   可能性の程度を減少させる一標識として理解するものであり、過失相殺は完全賠償原則の欠陥を緩和する役割をはたしている点に   大きな意義がある﹂と述べる。 ︵36︶ 川合健﹁民法概論4 價権各論﹂︵二〇〇六年よ徊斐閣︶五〇六頁以下参照。    また、川井健﹁過失相殺の本質﹂判例タイムズ二四〇号一〇頁、一三頁は、﹁被害者の能力の問題に関わらず、当該事故におけ   る加害者の対応のしかた、換言すれば加害者の違法性の程度の問題に存することになる﹂としている。 ︵37︶ 加藤雅信﹁新民法体系V 事務管理・不当利得’不法行為 第二版﹂︵一己○五年よ羽斐閣︶三一一頁参照。 ︵ 3 8︶ ︵ 3 9︶ ︵ 4 0︶ 橋本︵前掲註3︶ 一三七巻六号四一頁。 橋本︵前掲註3︶ 一三七巻六号三六頁。 橋本︵前掲註3︶ 一三七巻六号三八頁以下。 (香法2009) 3・・4一432 28

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安全配慮義務違反における「素因滅額」(金丸) ︵41︶ 浜上則雄﹁損害賠償法における﹁保障理論﹂と﹁部分的因果関係の理論﹂︵こ︵一丁完︶﹂民商法雑誌六六巻四号三頁、六六巻   五号三五頁参照。 ︵42︶ 浜上︵前掲註41︶四号一四頁参照。 ︵43︶ 浜上︵前掲註41︶四号二四頁参照。 ︵44︶ 浜上︵前掲註41︶四号コ八頁参照。 ︵45︶ 森島昭夫﹁不法行為法講義﹂︵一九八七年よ羽斐閣︶三九四頁参照。ただし、この見解によると、原因競合の事例であっても自   然力の競合の場合には過失相殺を否定する。 ︵46︶ 吉村良一 ﹁不法行為法 第三版﹂︵二〇〇七年よ羽斐閣︶ 一六四頁以下参照。 ︵47︶ この見解に分類できるものとして、幾代通=徳本伸一 ﹃不法行為法﹄︵一九九三年よ羽斐閣︶三呂一頁。 ︵48︶ 加藤一郎﹁不法行為 増袖版﹂︵一九七四年こ引斐閣︶コ四七頁。 ︵49︶ 我妻柴﹃新法学全集 事務管理︰不当利得ふふ・法行為﹄︵一九三七年’日本評論社︶は、過失相殺の規定を﹁社会共同生恬に於   ては各自は自己に対して注意の義務を負う。これに這反するときは、その損害は自ら忍受すべく、他人にその賠償を要求し得べき   ではない︵二〇九頁︶﹂という制度として理解し、﹁社会共同生活に於ける注意義務なる観念を認めるときには、この過失も畢竟信   義則上の義務違反である︵二I○頁︶﹂とする。 ︵50︶ 四宮和夫﹁不法行為﹂二九九八年’育林書院︶は、﹁自己過失が、真実の過失に由来し、義務違反といいうる場合であるにせよ、   単に白己防衛上の不注意、怠慢にすぎない場合であるにせよ、例外的に義務違反ないし逸脱の程度が特に大きいときに限って過失   相殺を認めるべきである︵六一八頁︶﹂として過失相殺のために新たな概念を定立する。 ︵51︶ 前田達明﹃民法兄 不法行為﹄︵一九八〇年・青林吉院︶三六二頁は、不法行為法における違法性一元論という立場から、違法   性相殺の解釈を展開する。また同旨のものとして、潮見佳男﹃不法行為法﹄︵一九九九年∴惰山社︶三一〇頁参照。 ︵52︶ 窪田︵前掲註3︶ 一九六頁、︵前掲註32︶三九八頁以下を参照。 ︵53︶ 窪田︵前掲註3︶二〇五頁参照。 ︵54︶ 能見善久﹁過失相殺の現代的機能﹂淡路剛久=伊藤高義日︰宇佐見大司編﹁森島昭夫敦授還暦記念論文集 不法行為法の現代的課   題と展開﹂ コ五頁以下は、過失相殺における損害分担の根拠としてのパラレル原則を再評価し、﹁過失相殺において考慮される   被害者の過失とは、他人に対して頁任を負うための要件としての過失と同程度のものであることが必要である︵一三七頁︶﹂が、﹁加 六 九

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七〇   害者と被害者の過失が原則として非対等なのは、加害者が他人に損害を与えた責任を問われているのに対して、被害者は回避しえ   た事故の損害の負担を求められているという違いに起因する︵一四四頁︶﹂として、過失相殺の制度を損害抑止機能と損害公平分   担機能から説明する。 ︵55︶ 平井宜雄﹁價権各論H 不法行為﹂︵一九九二年こ弘文堂︶ 一五〇頁参照。 ︵56︶ 渾井裕﹁テキストブクク 事務管理ぃ不当利得ふ巾法行為 第三版﹂︵二〇〇こT有斐閣︶二五七頁は、心因的素因について   は死傷損害説による損害認定の問題であるとし、疾患的要因については加害行為の日常生活性の有無、すなわち、日常生活では支   障のなかった疾患と加害行為の非日常性とがどの程度影響しているのかという観点から相当性の判断を行なうことを示唆してい   る。 ︵57︶ 川井︵前掲註36︶五一〇頁参照。 ︵58︶ 橋本︵前掲註3︶ コ二九巻三号二四頁。 ︵59︶ 橋本︵前掲註3︶ 一三九巻三号二六頁。 ︵60︶ 加藤︵前掲註48︶三一七頁参照。また、倉田卓治﹁彼害者の素因との競合﹂交通法研究一四号九三頁は、実務が寄与度滅責の方   法を用いることが強まってきたことを述べる。 ︵61︶ 四宮︵前掲註50︶四一八頁以下、四五六頁以下。 ︵62︶ 能見︵前掲註33︶二五〇頁。 ︵63︶ 能見︵前掲註33︶二五一頁。 ︵64︶ 吉村良一 ﹁原因競合﹂池田真朗=吉村良一=桧本恒雄=高橋筒﹁マルチラテラル民法﹂︵二〇〇二年よ徊斐閣︶三八二頁、三九   八頁。 ︵65︶ 窪田 八 6 6 心 ︵ 6 7︶ ︵ 6 8︶ ︵ 6 9︶ ︵ 7 0︶ ︵前掲註3︶ 吉村︵前掲註46︶ 潮見︵前掲註51︶ 窪田︵前掲註3︶ 平井 川井 ︵前掲註55︶ ︵前掲註36︶ 七六頁。 一六八頁参照。 三二四頁以下参照。 八二頁以下参照。 一五九頁以下参照。 五一〇頁。 (香法2009) 4−434 3 28

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安全配慮義務這反における「素因滅額」(金丸) ︵71︶ ︵72︶ ︵73︶ 八 74 W 八 75 W 八 76 心 橋本︵前掲註3︶ 一三九巻三号二七頁。 平井︵前掲註55︶ 一五九頁以下。 能見︵前掲註33︶二五〇頁以下。 浜上︵前掲註41︶四芳二四頁。 四宮︵前掲註50︶四一八頁以下。 潮見︵前掲註51︶三一〇頁。

第五章 安全配慮義務違反における労働者の素因の考慮

 第一節 判例理論における位置づけ  最高裁判所のこれまで構築してきた判例乳ににしたがえば、安全配慮義務違反の認定という成立要件での判断と、 過失相殺の考慮という法律効果の段階での審査は独立して検討されるべき問題であるから、安全配慮義務違反の認定 につき被害者の素因を判断要素としていたとしても、さらに過失相殺の局面において同様に考慮事由とするかどうか は別の問題ということになる。  その上で、コつの最高獣判所判決を、これまでに構築されてきた最高裁判所の判例理論上どのように位置づけるの かという点に関しては、問題とされる素因の性質に着目することになる。すなわち、鍛高裁判所の判例垣論における 素因の問題を、﹁通常予想される範囲内﹂の素因に関しては減額要素として考慮すべきではないというように理解す るのであれば、本稿で問題としているような安全配慮義務違反の事案においても、同様の理論により説明することが        七一

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      七二 可能となる。一方で、使用者に対して安全配慮義務を課し、労働者に対して適切な桔置をとるぺきであるとする際に、 労働者に一定の程度で存在する個人差の範囲内であるのか否かの基準によって、安全配慮義務違反の認定を行ない、 他方、その通常予想される個人差の範囲内の素因については減額要素とせず、これを超えるものについては滅額要素 ︵ 7 8 ︶ としての考慮が可能となると説明することになろう。  したがって、平成十二年判決は、最高裁判所の判旨にも示されているように、性格的な素因は労働者としての個人 差の範囲内に含まれるため、過失相殺の要素としては考慮されない。他方、平成二十年判決についてみれば、職場の 健康診断でわかった基礎疾患の存在について既に使用者が勤務形態において一定程度考慮しているとはいえ、少なく とも労慟者の有する基礎疾患の一部は一般の労慟者として通常予想される範囲内のものではないため、七二二条二項 の類推適用が行なわれることになる。  第二節 安全配慮義務違反における﹁素因減額﹂の位置づけ  過失相殺の制度は、不法行為の成立要件を充足して加害者に転嫁されることになった損害を、披害者に再転嫁する という制度である。したがって、過失相殺によって損害の一部を被害者が負拒するというときには、被害者にそれを 帰責するための根拠が必要となり、これが過失相殺の意昧における被害者の過失ということになる。そしで、不法行 為責任を成立させるような帰貴根拠までは必要ないとしても、一定の範囲で損害を再転嫁するための理由として、披 害者に﹁過失﹂を要求するのであれば、それはその披害者の行態を提えて何らかの帰責根拠としうるものでなければ ならない。したがって、被害者の属性として考えられる素因そのもの、すなわち、労慟者の性格や身体的疾患を有し ているという状態のみでは、過失相殺の規定を適用または類推適用するときの減額要素として考えられるものではな 4−436(香法2009) 28−3

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