• 検索結果がありません。

公立小学校における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)第1層支援の効果と社会的妥当性の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "公立小学校における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)第1層支援の効果と社会的妥当性の検討"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

公立小学校における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)

第 1 層支援の効果と社会的妥当性の検討

畿央大学 大久保賢一 株式会社 LITALICO 月本 彈 近畿大学 大対香奈子 大阪樟蔭女子大学 田中善大 大阪教育大学 野田 航 大阪教育大学 庭山和貴 研究の目的 本研究では、SWPBS の第 1 層支援を実施し、その効果と社会的妥当性を検討すること を目的とした。研究計画 AB デザインを用いた。評価尺度については 3 つの時期に測定し、それぞれ の時期の全校児童のスコアの平均を比較した。場面 公立小学校 1 校において実施した。参加者 対象 校の全ての児童と教職員が本研究に参加した。介入 ポジティブ行動マトリクスを作成し、各目標行動 の行動支援計画を立案し実行した。行動の指標 目標行動に従事している人数をカウントして得られた データ、あるいはインターバル・レコーディング法を用いて得られたデータを指標とした。他に質問紙 法によって評価尺度のデータや社会的妥当性に関するデータも収集した。結果 介入後に目標行動が増 加し、評価尺度のスコアに改善がみられた。また一定の社会的妥当性が示された。結論 本研究におい て実施した SWPBS 第 1 層支援の効果と社会的妥当性が確認できた。しかし、チームマネジメント、 データに基づく第 2 層支援や第 3 層支援への移行、データの信頼性など、いくつかの課題が示された。 Key Words 学校規模ポジティブ行動支援 (SWPBS)、第 1 層支援、小学校、問題行動、応用行動分析学

目 的

学 校 規 模 ポ ジ テ ィ ブ 行 動 支 援(school-wide positive behavior support、以下 SWPBS とする)は、 米国、オーストラリア、オランダなどで普及が進 んでおり(庭山,2020)、懲戒件数、学業成績、無 断欠席者数、危機介入を要する行動問題の発生件 数、教員の効力感やバーンアウト、学校の安全性 に関する満足度、いじめ、児童生徒の健康度など に関する成果が報告されている (神山,2017)。 SWPBS は、1) 理論的・概念的基盤が応用行動分析 学に密接に関連している、2) 3 層から構成される 予防を重視する支援の連続体を構築する、3) 社会 的な行動を教えることが優先される、4)エビデ ンスや研究成果に基づいた実践が選択され適用さ れる、5)システムの視点を取り入れ、地域にお ける人材の能力や専門性を養成する、6)実践が 計画通りに実行されているかどうか、そして実践 が児童生徒に対してポジティブな効果を示してい るかどうかを判断するためにデータを収集して用

いる、という 6 つの特徴を持つ(Sugai & Horner, 2009)。 日本においては、石黒(2010)が公立中学校に おいて「応用行動分析学を用いた学校秩序回復プ ログラム」を実施した結果、学校全体の修繕費と 問題行動の頻度が減少し、問題の深刻度が低いも のへ変化したという成果を報告している。しか し、日本においてはこの他に学校規模で実施され た系統的な行動支援の成果について報告された学 術論文は見あたらない。本研究においては、日本 の公立小学校において SWPBS の第 1 層支援を実 施し、その効果と社会的妥当性、そして今後の課 題について検討することを目的とした。

方 法

研究参加の同意と研究倫理 本研究の実施と公表については、全て対象校の 学校長と対象校のある徳島県の教育委員会から了 承が得られていた。また、第 1 著者が所属する機 関の研究倫理審査会による研究計画の承認が得ら

(2)

れていた。 研究期間 本研究は X 年度 4 月から X+1 年度(X+2 年) 3 月までのおよそ 2 年間に実施した。 対象 本研究は公立小学校 1 校において実施した。研 究開始年度である X 年度、この学校には通常学級 として 1 年生が 1 学級、2 年生が 1 学級、3 年生が 2 学級、4 年生が 2 学級、5 年生が 2 学級、6 年生 が 2 学級、そして特別支援学級が 2 学級設置され ていた。X 年度の全校児童数は 244 名であり、教 職員数は 25 名であった。研究開始年度の次年度 である X+1 年は、学級数は変わらず、新 1 年生 は 2 学級であった。X+1 年度の全校児童数は 238 名であり、教職員数は X 年度から変わらず 25 名 であった。 研究開始までの経緯 研究開始前年度までに県教育委員会が助成を受 けていた外部資金事業を通して、著者らが校内研 修の支援、そして個別事例や学級マネジメントに 関わる行動コンサルテーションを実施しており、 それらの成果が教職員に周知されていた。以上の 経過を踏まえて、研究開始前年度にそれまでの成 果と課題について対象校の管理職、県教育委員会 と県総合教育センターの担当指導主事、著者らと で継続的に協議を行った。そこで、特定の児童や 学級において得られた成果を学校全体に拡げるこ と、そして事後的な対応に終始するのではなく、 さらに積極的で予防的なアプローチが必要である ことが確認され、SWPBS 第 1 層支援に相当する 本研究が計画されるに至った。 なお、本研究を開始した X 年度と X+1 年度も 対象校においては個別事例や学級マネジメントに 関する行動コンサルテーションが SWPBS 第 1 層 支援と並行して継続された。X 年度は、3 名の担 任教員からコンサルテーションの希望があげら れ、2 年生の個別事例、3 年生と 4 年生の学級マ ネジメントに関わる事例の計 3 事例に対する行動 コンサルテーションが実施された。X+1 年度は、 4 名の担任教員からコンサルテーションの希望が あげられ、1 年生の 2 学級における学級マネジメ ント、4 年生の 2 学級における学級マネジメント に関わる計 4 事例に対する行動コンサルテーショ ンが実施された(注 1) 著者らの役割と教育行政からのサポート 研究期間中、著者らが直接学校の様子を観察す る機会はあったものの、著者らが児童に直接的に 介入することはなく、原則的に手続きの実施や行 動観察データの収集は全て対象校の教職員によっ て行われた。また研究期間中、県総合教育セン ターや県教育委員会特別支援教育課で本プロジェ クトを担当することになった指導主事は、校内研 修に関わる日程調整や印刷物の準備など、本研究 の遂行に関わるコーディネートを行った。 さらに県総合教育センターの担当指導主事が、 本プロジェクト専用のオンライン掲示板を設け、 対象校の特別支援教育コーディネーター、県教育 委員会と県総合教育センターの担当指導主事、特 別支援学校の巡回相談員、そして著者らが、その 掲示板に質問や報告などを記名式で自由に投稿す ることができた。掲示板に投稿された書き込み は、各登録者の電子メールに通知が届く仕様に なっていた。X 年度は 438 回の投稿が行われ、内 訳は相談とそれに対する回答が 38.3%、事務連絡 が 26.0%、ファイルやデータの共有(教材、記録 用紙、実際の行動観察データなど)に関する投稿 が 25.1%、進捗報告が 7.5%、その他(御礼や自 己紹介など)が 3.1%であった。投稿者の割合は 特別支援教育コーディネーターが 36.9%、著者ら が 34.6%、担当指導主事が 25.5%、特別支援学校 の巡回相談員が 3.0%であった。また、X+1 年度 は 375 回の投稿が行われ、内訳は相談とそれに対 する回答が 39.5%、事務連絡が 30.0%、ファイル やデータの共有に関する投稿が 20.3%、進捗報告 が 5.1%、その他が 5.1%であった。投稿者の割合 は特別支援教育コーディネーターが 42.5%、担当 指導主事が 31.0%、著者らが 26.2%、特別支援学 校の巡回相談員が 0.3%であった。 校内組織 本研究を実施するにあたって、前年度からの校 内の組織的な変更は特に行わず、従来の校内組織 の中で特別支援教育コーディネーターが中心とな り学校内外の調整や実践の推進を行った。特別支 援教育コーディネーターは 30 代の男性であり、

(3)

X 年度は特別支援学級を担任し、X+1 年度は通 常学級を担任していた。小学校教諭免許状Ⅰ種と 特別支援学校教諭専修免許状を保有していた。ま た、対象校に勤務する以前に特別支援学校におけ る勤務経験が 12 年あり、X 年度は対象校への異 動後 2 年目にあたった。 対象校においては、正規の教職員とは別にパー トタイムの「支援員」が 2 名勤務しており(X 年 と X+1 年の両年とも同じ 2 名)、本研究における 実践にも参加し、授業を担当しないということ以 外は、教職員と同様に目標設定や支援計画の立案・ 実行に関わる役割を担った。「支援員」の 1 名は 週あたり 26 時間勤務で、対象校への勤務は 7 年 目であった。もう 1 名は週あたり 25 時間勤務で、 対象校への勤務は 6 年目であった。なお、両名と も教員免許は取得していなかった。もう 1 名、定 年退職後に再雇用された「アドバイザー」という 立場の教員も「支援員」と同様の役割を担った。 この「アドバイザー」には、教員歴が 37 年あり、 8 年間、特別支援学級の担任をした経験があった。 さらに近隣の特別支援学校から 2 名の教員が巡 回相談に訪れ (X 年とX+1年の両年とも同じ 2 名)、 主に個別事例に関するコンサルテーションを実施 していた。この 2 名は、本研究の実践に関わる研 修に参加したり、本研究に関わる行動観察データ の収集や整理、対象校の教職員が地域の報告会な どで実施した研究発表の補助などを行った。X 年 度は 2 名で計 11 回、X+1 年度は 2 名で計 15 回対 象校を訪問した。 介入

本研究においては George, Kincaid, & Pollard-Sage (2009)で解説されている手続きを参考にして、 SWPBS における第 1 層支援を実施した(注 2)。詳 細を以下に示す。 SWPBS に関する校内研修 X 年 5 月に第 1 著 者が、対象校において教職員、支援員、巡回相談 員、担当指導主事を対象に、80 分程度の研修を 行った。具体的な内容は、SWPBS における多層 支援モデルに関する概説、国内外で報告されてい る SWPBS の前例とその成果、第 1 層支援の具体 的な手続き(ポジティブ行動マトリクスの作成、 行動支援計画の作成と実行など)、チームアプロー チの必要性、行動観察と記録の必要性についてで あった。 ポジティブ行動マトリクスの作成 ポジティブ 行動マトリクスとは、SWPBS の第 1 層支援にお いて教職員が全校児童生徒に期待される目標行動 を選定するために用いる表である。対象校でポジ ティブ行動マトリクスを作成するために、前述し た X 年 5 月に実施した SWPBS に関する研修に加 え、校内の研修主任の協力を得ながら特別支援教 育コーディネーターが中心となり、X 年 6 月に 70 分程度の研修を 2 回行った。なお、これらの 研修に著者らは参加しなかったが、研修内容や進 め方については事前に特別支援教育コーディネー ターと打合せを行っていた。このポジティブ行動 マトリクスを作成するための研修には支援員や管 理職も含めた教職員全員が参加した。 ポ ジ テ ィ ブ 行 動 マ ト リ ク ス は、George et al. (2009)を参考に、1)「学校で期待される姿」(本 実践においては図 1 の最上段に示した「きまりを 守ろう」、「自分も友だちも大切にしよう」、「すて きなことばをかけよう」の 3 つ)の選定、2)取 り組みを行う場面や場所(本実践においては図 1 の左列に示した「授業中」、「体育」、「掃除」、「休 み時間」、「ろうか、その他の場所」の 5 つ)の選 定、3)ポジティブ行動マトリクスにおいて縦の ラインと横のラインがクロスするセルに当てはま る具体的な目標行動の選定、という 3 段階を経て 作成された。なお、X 年 6 月の 2 回の研修におい ては、1 回目の研修で最初の 2 つのステップを実 行するために、特別支援教育コーディネーターが 進行役となり 4∼5 名の小グループ活動を通して、 付箋紙に「学校で期待される姿」と「取り組みを 行う場面や場所」について各自の意見を書き込 み、それを貼り合わせて共通点を見出し意見集約 していく方法が採用された。そして 2 回目の研修 で、同様の方法を用いて 3 つ目のステップを実行 した。特別支援教育コーディネーターは、研修時 間内に各グループの意見を集約・統合し、全教職 員の総意としてポジティブ行動マトリクスが完成 するように研修会を進めた。対象校で作成された ポジティブ行動マトリクスを図 1 に示す。「靴を そろえて置く」という目標行動のみ X+1 年度に

(4)

追加されたが、他の目標行動は X 年度に設定さ れたものであった。 行動支援計画の作成 X 年度 8 月の夏季休業中 に第 1 著者が対象校を訪問し、3 時間程度の校内 研修を行い、図 2 に示す様式の各セルの内容に基 づき、行動支援計画の作成について解説を行っ た。行動支援計画を作成するための様式は 8 ス テップで構成されており、先行事象に関する方略 (ステップ 5)、行動を指導するための方略(ス テップ 3 と 4)、後続事象(強化)に関する方略 (ステップ 8)をベースにして、目標設定とその 妥当性(「教師にとっての都合の良さ」ではなく、 「児童にとっての重要性」に基づき目標設定でき ているかどうか)について検討することを目的と したステップ 1 と 2、必要に応じて児童が自ら取 り組むことの内容を検討するためのステップ 6、 そして行動記録について計画するためのステップ 7 から構成されていた。この X 年度 8 月の研修に おいては、教職員が目標行動の重要性や取り組み やすさに基づき、ポジティブ行動マトリクスの中 から「登校時の自発的な挨拶」、「『あったか言葉』 を使う」、「授業準備」、「他児童の話を適切に聞 く」、「休み時間に予鈴を聞いたらすぐに教室に戻 る」の 5 つの行動を選定し行動支援計画を作成し た(ただし「休み時間に予鈴を聞いたらすぐに教 室に戻る」についてはベースラインデータを収集 した結果、その時点で問題がないレベルまで達成 できていたことが明らかになったため、作成した 行動支援計画は実行されなかった)。また X+1 年度 5 月においては、同様の手続きで「ろうかや ベランダの共用スペースの右側を走らずに歩く」、 「靴をそろえて置く」、「適切な掃除への取り組 み」、「健康観察の際の適切な返事」の 4 つの行動 を新たに選定し行動支援計画を作成した。8 つ全 ての行動支援計画の詳細を示すと誌面の限界を超 えてしまうため、8 つの目標行動の行動支援計画 の概要のみ表 1 に示す。ただし図 2 には、一例と して「『あったか言葉』を使う」の行動支援計画 の詳細を示してある。 行動支援計画の実行と教職員による行動観察  夏休みが明けた X 年 9 月に校長が全校集会にお いて「学校で期待される姿」を全校児童に対して 説明を行い(注 3)、各担任教員が中心となって作 成した行動支援計画を各学級において実行した。 教職員は X 年 8 月の研修会で計画した行動観察 と記録方法に基づき、著者らの協力を得ながら記 録用紙を作成し、2 学期に入ってから目標行動ご とに時期をずらしながら 8 月から 10 月の期間に おいて 1∼2 週間程度、ベースラインデータを収 集した。行動支援計画はその後で実行された。な 図 1 対象校で作成されたポジティブ行動マトリクス 対象校の特定を防ぐため、実際に作成したポジティブ行動マトリクスの文言から、内容が変わらない程度に一部を 改変して示してある。また、作成したポジティブ行動マトリクスにおける目標行動の中で、研究期間中に実際に行 動支援計画を立案・実行したものにはアンダーラインと番号をつけてある。

(5)

お、目標行動の中の「『あったか言葉』を使う」 は、9 月下旬に行動支援計画を実行したものの、 目標行動の増加が確認できなかったので、前述し た掲示板による著者らの助言を参考にして、教職 員が検討を行い、30 分程度の追加のワークを児 童全体に対して実施した。追加のワークは、1) 復習、2)ロールプレイや動画教材で実際に「あっ たか言葉」を使っている場面を観察させる、3) 具体的な「あったか言葉」の例を考えさせる、4) 学校や家庭において 1 日 3 回以上の「あったか言 葉」を使ってみることを自ら取り組むこととして 促すという内容であった。 行動支援計画実行後のサポート 教職員が収集 した行動観察データは児童の氏名など個人情報が 図 2 行動支援計画表の例(「あったか言葉」を使う)

(6)

記載されない形で著者らに共有され、著者らは定 期的に(2∼4 週間に 1 回程度)それらの行動観 察データをグラフ化し、結果を要約して特別支援 教育コーディネーターと共有した。特別支援教育 コーディネーターは、職員会議や校内研修会にお いて、原則的に 2 ヶ月に 1 回程度の頻度で行動観 察データがグラフ化されたものや要約された情報 を全ての教職員に資料を配付して口頭で伝達し、 特にポジティブな成果については強調して伝える ようにした。また X 年度 11 月に第 1 著者が対象 校を訪問し、午前と午後に教職員や児童の様子を 観察し、放課後の校内研修会において教職員が収 集したデータと第 1 著者が観察した内容に基づき 進捗が順調であることを確認し、得られた成果に ついて共有した。 新年度への移行 X+1 年度 4 月に校長が全校集会において前年 度の経緯や「学校で期待される姿」について新入 生を含めた全校児童に対して説明を行った(校長 の異動はなかった)。また、第 1 著者が X+1 年 度 5 月に対象校を訪問し、新年度に異動してきた 教職員を含めた全教職員を対象として、前年度ま での取り組みについて解説を行い、それまでに得 られた成果について報告した。その後、X+1 年 度 5 月の別日に特別支援教育コーディネーターが 中心となり全教職員でポジティブ行動マトリクス の見直しを行い、前述した X+1 年度における 4 つの目標行動に関する行動支援計画を新たに立案 した。ただし前年度とは異なり、「靴をそろえて 置く」、「適切な掃除への取り組み」、「健康観察の 際の適切な返事」の 3 つの目標行動は、各学年で 表 1 行動支援計画の概要 ①登校時の 自発的な挨拶 ②「あったか ことば」 をつかう ③授業準備 ④他児童の話を適切に聞く ⑤ろうかやベ ランダの共用 スペースを 走らずに歩く ⑥靴をそろえ て置く ⑦適切な掃除への取り組み ⑧健康観察の 際の適切な 返事 先行事象 に関する 方略 ・ 児童委員が 挨拶運動に 関するたす きを身につ ける ・ 適切行動と 不適切行動 の例を教室 に掲示 ・ 教室に設置 してあるモ ニターにモ デルを示す ・ 標語(目は パチリ! おへそとひ ざは話す 人!)が示 されたポス ターを教室 に掲示する ・ リマイン ダーを作成 して共用ス ペースにポ スターとし て掲示する ・ 靴箱がある 場所にモデ ルとなる写 真を貼って おき、さら に靴をそろ えやすくす るために靴 箱に目印に なるシール を貼る ・ 各場所に掃 除の手順 チェック表 を掲示する ・ リマイン ダーを作成 して教室に ポスターと して掲示す る 行動を指 導するた めの方略 ・ 全校朝会で 教示し、モ デルを示す ・ 教示とロー ルプレイ ・ 追加のワー ク(途中で 実施、本文 参照) ・ 教示とロー ルプレイ ・ 教示とロールプレイ ・ 動画を見せてロールプ レイ ・ 良い例と悪 い例を示し ながら、実 際に靴をそ ろえて置い てみる練習 をする ・ 教示とロー ルプレイ ・ 月に一度 「おそうじ見 直しデー」 を設けて児 童に手順を チェックさ せる ・ 教示とロー ルプレイ 後続事象 に関する 方略 ・ 全校朝会で 挨拶できた 人数を フィード バックして 賞賛する ・ 共用スペー スに達成で きた人数が 示されたグ ラフをポス ターとして 掲示する ・ 標的行動が 観察された らすぐに賞 賛する 子どもたち同 士で賞賛する 機会を設ける ・ 達成できた 人数をカウ ントして児 童にフィー ドバックし て賞賛する ・ 達成できて いる児童を 随時賞賛す る 「よい聞き方 評価カード」 を作成し一定 のポイントが たまった場合 に表彰状を授 与する ・ 走らずに歩 けていた人 を終わりの 会で報告、 賞賛する ・ 達成できて いた個人に シールを提 供して賞賛 する ・ 達成できて いた児童を 言語賞賛し たり 「いいね シール」を カレンダー に貼る ・ 記録や動画 で改善した 点をフィー ドバックす る ・ 「返事名人」 を紹介する

(7)

それぞれ分担して試行的に行動支援計画を実行し た後、学校全体での実施に移行するようにした。 また、X+1 年度の夏季休業中にも第 1 著者が フォローアップのため対象校を訪問し、午前と午 後に教職員や児童の様子を観察し、放課後の校内 研修会において教職員が収集したデータと第 1 著 者が観察した内容に基づき進捗が順調であること を確認し、得られた成果について共有した。なお 教職員は、X 年度に実施した行動支援計画は全て X+1 年度も継続した。ただし行動観察データは、 教職員の負担を考慮して、X+1 年度に標的とさ れた 4 つの行動についてのみ収集された(X 年度 における目標行動の維持データだけは例外的に収 集された)。 従属変数 教職員が収集する行動観察データ 図 1 に示し たポジティブ行動マトリクスの中から実際に支援 計画を立てた目標行動については、教職員が児童 の行動を直接観察することによって記録した。記 録した行動と記録方法を以下に示す。なお、ベー スライン期間は原則的に毎日連続で行動観察を 行ったが、介入期間に入ってからは複数の目標行 動を記録する教職員の負担を考慮して、原則的に 各目標行動について週あたり 1 回か 2 回の頻度で 記録が行われた。 「登校時の自発的な挨拶」(図 1 における①、以 下の目標行動においては図 1 における番号を併せ て示す)についてであるが、研究開始以前から対 象校では、登校時に校門に担当教員と委員会のメ ンバーである児童数名が立ち、登校する児童に挨 拶を促す「挨拶運動」に取り組んでいた。その活 動の文脈で教職員または委員会の児童が、プロン プトなしで自発的に挨拶した児童の人数を、校門 を通過する児童に気づかれないよう記録した。 ②「あったか言葉」は、児童同士の激励、承認、 称賛、感謝、敬意の伝達に関わる言動(「ありが とう」、「だいじょうぶ」、「がんばって」、「すごい ね」、「気にするな」など)であると定義した。各 学級の担任教員が、インターバル・レコーディン グ法を用いて各授業時間と各休み時間に目標行動 の観察を行った。1 つの授業あるいは休み時間を 1 インターバルとし、各インターバルにおける目 標行動の生起の有無を記録した。 ③「授業準備」は、授業開始時に、学習に必要 な 7 つの道具(教科書、ノート、下敷き、消しゴ ム、定規、黒鉛筆、赤鉛筆)が準備できているこ とと定義した。各学級の担任教員が、授業開始時 に学習に必要な 7 つの道具を全て準備できている 児童の人数を記録した。 ④「他児童の話を適切に聞く」は、他児童が授 業中に発表しているときに、1)自分の作業を いったんやめ、2)私語をせず、3)身体と視線を 話し手に向けて、他児童の話を聞いていることと 定義した。授業中に児童が発表する機会が設定さ れた際に、各学級の担任教員が、目標行動ができ ている児童の人数を記録した。 ⑤「ろうかやベランダの共用スペースを走らず に歩く」は、業間休み(2 時間目と 3 時間目の間 の休み時間)と昼休みに教職員が分担して、共用 スペースの特定のポイント(2 箇所)で待機して、 そこを通過した全ての児童ののべ人数と、走らず に歩いていた児童ののべ人数を記録した。 ⑥「靴をそろえて置く」は、靴、もしくは上靴 をそろえて、靴のかかと部分を靴箱スペースの端 に合わせて置くことと定義した。各学級担任もし くは手の空いている他の教職員が、児童が教室に いる時間帯に学級の児童の靴を観察して、靴をそ ろえて置けている児童の人数を記録した。 ⑦「適切な掃除への取り組み」は、掃除の時間 に、1)作業に必要なこと以外の私語をせず、2) 適切に道具を使い、3)時間いっぱいまで掃除に 取り組むことと定義した。各学級担任が観察でき る範囲の掃除場所を巡回し、各児童に対して、 「できていなかった」、「一部できていた」、「でき ていた」の 3 段階で評価して、「できていた」と 評価された人数を記録した。 ⑧「健康観察の際の適切な返事」は、朝の健康 観察の際に、各学級の担任教員の呼びかけに対し て、1)起立して、2)前を向いて、3)聴き取れ るくらいの大きさの声で返事をすることと定義し た。担任教員が、朝の健康観察の際に 3 つの条件 を満たしている児童の人数を記録した。 児童を対象とした評価尺度 対象校の全ての児 童を対象として X 年度 9 月(「X 年度 Pre」とす

(8)

る)、X 年度 3 月(「X 年度 Post」とする)、X+1 年度 3 月に日本語版 School Liking and Avoidance Questionnaire (以下 SLAQ とする)を実施した。 SLAQ は、主観的な学校適応感を評価する尺度で、 school liking(学校肯定感)を測定する 9 項目と school avoidance(学校回避感)を測定する 5 項目 で構成されている (Ladd, Kochenderfer, & Coleman, 1997)。大対・堀田・竹島・松見 (2013) は、日本 語版の作成にあたり、2 因子構造を確認し、信頼 性と妥当性が十分であることを示している。本研 究において、この評価尺度を用いることについて 管理職や特別支援教育コーディネーターらと協議 を行ったところ、「学校回避感」に関する質問を 行うことの児童に与えうる影響について懸念が示 されたため、「学校回避感」に関する質問項目は 削除し、「学校肯定感」に関する質問項目のみ用 いることとした。 社会的妥当性 X+1 年度(X+2 年)の 1 月に 管理職を除く教職員 23 名に対して社会的妥当性 に関する質問紙調査を実施した(管理職と特別支 援教育コーディネーターに対しては別途質問紙調 査を実施したが、誌面の限界を超えるため、その 内容と結果は割愛する)。標的行動、手続き、結 果の妥当性の 3 点に関する質問項目を設けた(具 体的な 5 つの質問は表 2 に示してある)。これら の質問は上述した 8 つの目標行動それぞれに対し て設定されており、教職員は「全くそう思わな い」から「とてもそう思う」までの 5 件法で回答 した。 結果の算出と分析 教職員が収集する行動観察データ 上記 8 つの 目標行動において、行動が観察された人数や行動 が観察されたインターバルの数をカウントして割 合を算出した。人数の割合は「目標行動に従事し ていた人数÷(目標行動に従事していた人数+目 標行動に従事していなかった人数)×100」という 数式によって算出し、行動が観察されたインター バル数の割合は、「目標行動が観察されたインター バルの数÷全インターバルの数×100」という数 式によって算出した。各目標行動の観察は全学級 を通して原則的なペースだけを決めて教職員が実 施しやすいタイミングで実施されていたため、 データ収集を行う日付は一致していなかった (X+ 1 年度は介入を開始した日付も学年によって違う ことがあった)。そこで、「ベースライン期間の何 日目か」、あるいは「介入期間の何日目か」を基 準にして「セッション」としてそろえ(例えば、 「ベースライン期間の 1 回目に取ったデータ」は 日付に関わらずに「第 1 セッション」として集計 する)、全学級のデータの平均を算出した。なお、 全学級のデータがそろわなかったセッションは結 果からは省いた。また、③「授業準備」と④「他児 童の話を適切に聞く」についてはある 1 学級の ベースラインデータが 1 日も取れなかったため、 この 2 つの目標行動においては、この学級のデー タを全て省いて平均値を算出した。 児童を対象とした評価尺度 大対他(2013)に ならい、3 件法の回答を 1 点、2 点、3 点に置き 替え、SLAQ の「学校肯定感」に関わる 6 つの質 問項目の平均点を求めた。SLAQ は前述した通 り、X 年度 Pre、X 年度 Post、X+1 年度の 3 回実 施してデータを収集した。3 つの時期の平均点を 比較するために、SPSS(バージョン 25)を用いて Kruskal–Wallis 検定を実施した。 社会的妥当性 各目標行動におけるそれぞれの 質問に対する「全くそう思わない」から「とても そう思う」までの 5 件法による回答の全教職員の 選択率を求め、8 つの目標行動の平均を算出して 結果を示した。 研究デザイン 教職員によって収集された行動観察データは、 AB デザインによって効果を検証した(「『あった か言葉』を使う」のみ介入条件の途中で付加的な 手続きを実施した)。前述したようにデータ収集 は各学級で収集の日付や回数は不均一であった。 X 年に目標行動とした①「登校時の自発的な挨拶」 は、夏休み明け 8 月 30 日から 9 月 5 日までの期 間でベースラインデータが取られ、9 月 6 日から 介入期間に入った。②「あったかことば」は、9 月 7 日からベースラインデータが取られ、9 月 27 日から介入期間に入った。③「授業準備」と④「他 児童の話を適切に聞く」は、10 月 31 日から同時 にベースラインデータが取られ、11 月 14 日から 同時に介入期間に入った。なお、②「あったかこ

(9)

とば」と③「授業準備」と④「他児童の話を適切に 聞く」については、X+1 年度の 11 月に維持デー タを収集した。 X+1 年度に目標行動とした⑤「ろうかやベラン ダの共用スペースを走らずに歩く」は 1 年生のみ 5 月 26 日から 6 月 9 日にベースラインデータが 取られ、6 月 15 日から介入期間に入った。その 他の学年は、8 月下旬から 1∼2 週間の間に各学 級でベースラインデータが取られ、10 月 10 日か ら介入期間に入った。⑥「靴をそろえて置く」は 1 年生のみ 6 月 5 日から 6 月 9 日にベースライン データが取られ、6 月 15 日から介入期間に入っ た。その他の学年は、8 月下旬から 1∼2 週間の 間に各学級でベースラインデータが取られ、10 月 10 日から介入期間に入った。⑦「適切な掃除へ の取り組み」は、9 月 5 日から 10 日間ほどでベー スラインデータが取られ、10 月 10 日から介入期 間に入った。⑧「健康観察の際の適切な返事」は、 9 月 6 日から 10 日間ほどでベースラインデータ が取られ、10 月 10 日から介入期間に入った。

結 果

行動観察データから得られた目標行動の推移を 図 3 に示す。左半分のグラフが X 年度に取り組 み、右半分のグラフが X+1 年度に取り組んだ目 標行動の記録から算出した結果である。X 年度に 図 3 標的行動の推移 X 年度のフォローアップデータは X+1 年度に収集されたものである。

(10)

介入を開始した①「登校時の自発的な挨拶」、 ③「授業準備」、④「他児童の話を適切に聞く」 は、介入開始後から目標行動の増加が認められ、 そ の 後 も 高 い 水 準 で 安 定 し て 推 移 し た。 ②「あったか言葉」は最初の介入条件の後は改善 傾向がみられなかったが、追加ワークの実施後 は、 目 標 行 動 の 増 加 が 認 め ら れ た。 ま た、 ②「あったか言葉」、③「授業準備」、④「他児童 の話を適切に聞く」については、X+1 年度に収 集した維持データも高い水準を保っていた。X+ 1 年度に介入を開始した⑤「ろうかやベランダの 共用スペースを走らずに歩く」、⑥「靴をそろえ て置く」、⑦「適切な掃除への取り組み」、⑧「健 康観察の際の適切な返事」も介入開始後から目標 行動の増加が認められ、その後も高い水準で安定 して推移した。 SLAQ の結果を図 4 に示す。「学校肯定感」の 平均値は、X 年の Pre においては 2.48(SD=0.57)、 Post においては 2.61(SD=0.48)、X+1 年において は 2.67 (SD=0.46) であった。Kruskal–Wallis 検定 を実施した結果、有意差が認められた (H=17.44, p<.01)。3 群の間で有意差が認められたため、ペア ごとの比較を行ったところ (有意確率は Bonferroni 訂正によって調整)、X 年度 Pre よりも X 年度 Post の方が有意に平均値が高く (p<.01)、また、X 年 Pre よりも X 年+1 年度の方が有意に平均値が高 か っ た(p<.01)。X 年 度 Post と X+1 年 度 と の 間に有意な差は認められなかった。 次に社会的妥当性に関する結果を表 2 に示す。 標的行動の重要性については「そう思う」と「と てもそう思う」が合わせて 97.8%であった。児童 にとっての取り組みやすさについては「そう思 う」と「とてもそう思う」が合わせて 81.9%であ る一方で、「どちらともいえない」が 15.8%あり、 「そう思わない」の回答も若干数あった。教職員 の負担については、「全くそう思わない」と「そ う思わない」が合わせて 67.2%であったが、「ど ちらともいえない」が 20.9%、「そう思う」が 10.7%あり、「とてもそう思う」の回答も若干数 あった。行動観察の負担については、「全くそう 思わない」 と 「そう思わない」 が合わせても 45.2% と半数に満たず、「どちらともいえない」 が 28.8%、 「そう思う」が 24.3%あり、「とてもそう思う」の 回答も若干数あった。取り組みの効果については、 「どちらともいえない」が 14.7%あったものの、 「そう思う」 と 「とてもそう思う」 が合わせて84.8% であった。 図 4 「学校肯定感」に対する全校児童の平均スコア 表 2 教員が回答した社会的妥当性に関するアンケートの結果 全く そう思わない そう思わない どちらとも いえない そう思う そう思うとても 標 的行動は、児童の学校生活において重要な ことであると思いますか? 0.0% 0.0% 2.2% 19.0% 78.8% 児 童にとって取り組みやすかったと思います か? 0.0% 2.2% 15.8% 47.5% 34.4% 先 生にとって、この手続きを実施するのは負 担でしたか? 28.8% 38.4% 20.9% 10.7% 1.1% 先 生にとって、児童の行動をチェックして記 録するのは負担でしたか? 18.1% 27.1% 28.8% 24.3% 1.7% 児童に良い変化はあったと思いますか? 0.0% 0.5% 14.7% 47.3% 37.5% N=23

(11)

考 察

本研究では、公立小学校において SWPBS の第 1 層支援を実施し、その効果と社会的妥当性を検 証した。結果として全体的に児童の望ましい目標 行動が増加し、「学校肯定感」の平均値が有意に 上昇した。また、教職員を対象とした社会的妥当 性の質問紙調査からは標的行動、手続き、結果に 対する一定の妥当性が示された。 ま ず、 目 標 行 動 の 推 移 に つ い て で あ る が、 ①「登校時の自発的な挨拶」、③「授業準備」、 ⑦「適切な掃除への取り組み」は、介入期間に入 るより前にベースラインが上昇傾向であったもの の、介入期間のパフォーマンス水準の高さから は、全ての目標行動において介入効果があったと 考えられる。また、社会的妥当性に関するアン ケート結果からは、8 割以上の教職員が主観的に 効果を実感していることも示された。先行研究に おいては、例えば Horner et al. (2009)のように小 学校における SWPBS の効果をランダム化比較試 験によって検証した研究などがあるが、この研究 をはじめとして、一般的に SWPBS の効果指標と しては、管理職への規律指導に関する照会(office discipline referrals、以下 ODR とする)が用いら れ る 場 合 が 多 い(大 久 保,2015)。Franzen & Kamps (2008) のように学級間多層ベースライン デザインによって SWPBS 第 1 層支援の効果を示 した研究もあるが、行動観察データを収集し、シ ングルケースデザインを用いて効果を検証した研 究は少ない。日本の学校においては ODR に馴染 みがない(田中,2020)こともあり、本研究にお いては目標行動を直接観察することによって実践 の成果を評価したが、結果的に SWPBS の効果検 証の方法という点においては前例の少ない知見に なったといえる。しかし、実践における「データ に基づく意思決定」のために行動観察に依存する データ収集方法を適用することは、教職員の負担 感に繋がると考えられる。本研究の社会的妥当性 に関するアンケートの結果においては、実際に 4 分の 1 程度の教職員がその負担感を示していた。 日本において SWPBS を持続性のある形で普及さ せるためには、米国の実践で用いられている

ODR や direct behavior rating (DBR) (Riley-Tillman, Methe, & Weegar, 2009)といった教職員にかかる 記録の負荷がより少なくて済むシステムの導入を 検討する必要がある。 次に評価尺度のスコアについてであるが、SLAQ における「学校肯定感」に関わる質問項目のスコ アには、有意な改善がみられた。大対他(2013) は、小学 4 年生から 6 年生までを対象としている ため単純な比較は行えないが、大対他(2013)の 「学校肯定感」のスコアの平均は 2.43 であったた め、本研究におけるスコア、特に介入後のスコア は、全体として平均以上の水準にあったと考えら れる。しかし、本研究においては統制群のデータ が収集できていないため、剰余変数の影響を十分 に統制できていない。また、本研究においては全 校児童のスコアの平均値について検討したが、各 児童のスコアの変容やそれぞれの要因については 検討できていないため、そのような個別的データ の分析は今後の課題である。 さらに本研究から示唆される今後の課題につい て考察する。まず検討しなければならないのは、 SWPBS に お け る 第 1 層 支 援 と し て の 実 行 度 (fidelity)である。大対(2020)が紹介している 日本語版 Tiered Fidelity Inventory (以下 TFI とす る)における第 1 層支援に関する評価項目に基づ き本実践を振り返ると、「1.1 チーム構成」、「1.2 チームの運営手順」、「1.10 児童生徒/家族/地域 の関与」、「1.12 ODR データ」、「1.13 データに基 づく意思決定」などについては実行が不十分な部 分があったと評価できる。 まず「1.1チーム構成」、「1.2チームの運営手順」 についてであるが、本実践では特別支援教育コー ディネーターがほぼ全てのコーディネート機能を 担い、各担任教員が主な手続きの実行者としての 役割を果たし、支援員や管理職がその遂行をサ ポートするという体制が取られていた。特別支援 教育コーディネーターにコーディネート機能が集 中していたため、チーム構成やメンバーの役割分 担の点で課題が残されていたといえる。また、本 実践において管理職は、原則的に全ての校内研修 や会議に参加し、手続きの遂行の一部やコーディ ネート機能をサポートするとともに、本研究の実

(12)

践を優先的な学校全体の取り組みとして位置づけ ることを明確にした。チームの一員として、管理 職が果たした役割は明らかに重要であったと考え られるが、SWPBS において管理職に求められる 役割については、今後はさらに詳細に検討を重 ね、SWPBS における手続きや研修の一部として 定式化する必要があるだろう。 次に「1.12 ODR データ」、「1.13 データに基づ く意思決定」と関連して、SWPBS の第 1 層支援 を実施した後、どの児童に十分な効果があり、ど の児童に付加的な支援が必要であるのか個別的に モニターするための仕組みを整備することも課題 であると考えられた。前述した通り、SWPBS の 多層支援モデルにおいては、本来は第 1 層支援に よって十分な行動改善が認められなかった児童に 対して第 2 層支援、第 3 層支援と個別的支援ニー ズに合わせて順次支援を手厚くしていくことが想 定されている。しかし、本実践においてはそのよ うな階層的な支援を系統立てて実施するまでには 至っていない。前述した通り対象校においては SWPBS と並行して学級マネジメントや個別事例に 関する行動コンサルテーションが実施されてはい たが、これは教師からの支援ニーズに基づいて実 施されていたため、SWPBS の第 1 層支援と連動 して実施される第 2 層支援や第 3 層支援とは異な る。前述した ODR や DBR といったデータ収集と その活用のためのシステムを確立させ、第 1 層支 援において付加的な支援ニーズをスクリーニング して、第 2 層支援や第 3 層支援に繋げていく手続 きを確立させることが課題であると考えられた。 また、本研究の課題として、観察データの観察 者間一致率を算出することによってデータの信頼 性を検証することができていないことがあげられ る。著者らにデータの信頼性の検証を行うリソー スが不足しており、また多忙な学校関係者に依頼 できる状況ではなかった。本研究においては、目 標行動に従事している人数を記録したり、比較的 スパンの長い(1 コマの授業時間や 1 回の休み時 間など)間隔を取るインターバル・レコーディン グ法を採用したため、記録方法は比較的単純であっ たと考えられるが、介入を実施する教職員が記録 者であることから生じるバイアスや、行動観察に おける基準のドリフトなどが起きていた可能性は 否めない。教職員が収集するデータは、成果指標 であると同時に、介入手続きの要素でもあるため、 信頼性の検証は今後の重要な課題の 1 つである。 さらに SWPBS を地域において展開していく方 略についても検討していく必要がある。本実践に おいて不十分であると評価できた TFI における 「1.10 児童生徒/家族/地域の関与」については、 今後具体的な実践や効果検証が待たれる。また本 実践においては、教育委員会や総合教育センター などの教育行政によるサポートも重要であった。 特定の管理職個人の方針やリーダーシップに依存 する実践、あるいは特定のコーディネーター個人 のスキルに依存する実践では、人事異動によって その継続性が保障されない。したがって、今後も SWPBS の実践や研究は、教育行政を巻き込んだ 形で、地域システムと学校内のシステムの両方が 連動する形で行われ、成果が蓄積されていくこと が期待される。また、本実践において著者らが果 たした役割を、地域において多数の学校を対象と して展開する際にどのように担保するのかという ことについても検討が必要である。SWPBS に関す る基礎的な研修や現場におけるコーチングを担う 人材を地域で養成することは容易ではないが、教 育行政が主導して計画的に研修を進めたり、オン デマンドで遠隔からも受講できる講義システムを 構築するなど、効果的な仕組みづくりが必要とな るだろう。 1) 対象校における行動コンサルテーションの手続き や成果については、本論文の主題からは外れるた め、詳細は割愛する。詳細は野田・月本・大対・ 田中・大久保(2017)、田中・月本・野田・大対・ 大久保(2017)、大対・月本・田中・野田・大久保 (2017)などで報告されている。 2) George et al.(2009)は、SWPBS 第 1 層支援におい て標的行動を選定する際に用いられるツールを “matrix”と表記している。本論文においては「ポ ジティブな行動を増加させるための目標設定であ る」という意味が正しく伝わるよう、やや意訳で はあるものの、その“matrix”を「ポジティブ行動 マ ト リ ク ス」 と 表 記 す る こ と と し た。 ま た、 George et al.(2009)はポジティブ行動マトリクス を完成させるために、教職員が児童生徒に対する

(13)

“expectation”を考え、そこから各場面や各活動の “rule”を設定していくという手順を示している。 ここもやや意訳ながら、日本語において両方の用 語の意味が混同されないように“expectation”を 「学校で期待される姿」、“rule”を「目標行動」と 表記することとした。 3) 対象校の特定を避けるため詳細は具体的に記述し ないが、対象校において「学校で期待される姿」 は、図 1 に示した通りの表現ではなく、児童に理 解されやすく馴染みのある別の表現を用いて全校 児童に周知されていた。 引用文献

Franzen, K., & Kamps, D. (2008). The utilization and effects of positive behavior support strategies on an urban school playground. Journal of Positive Behavior Interventions, 10, 150–161.

George, H. P., Kincaid, D., & Pollard-Sage, J. (2009). Primary-tier interventions and supports. In W. Sailor, G. Dunlap, G. Sugai, & R. Horner (Eds.), Handbook of positive behavior support (pp. 375–394). New York: Springer.

Horner, R. H., Sugai, G., Smolkowski, K., Eber, L., Nakasato, J., Todd, A. W., & Esperanza, J. (2009). A randomized, wait-list controlled effectiveness trial assessing school-wide positive behavior support in elementary schools. Journal of

Positive Behavior Interventions, 11, 133–144.

石黒康夫 (2010).応用行動分析学を用いた学校秩序回復プログラム 教育カウンセリング研究,3, 56–67. 神山 努 (2017).スクールワイド PBS に関する現状と課題 障害科学研究,41, 45–57.

Ladd, G. W., Kochenderfer, B. J., & Coleman, C. (1997). Classroom peer acceptance, friendship and victimization: Distinct relational systems that contribute uniquely to children s school adjustment? Child Development, 68, 1181–1197. 野田 航・月本 彈・大対香奈子・田中善大・大久保賢一 (2017).小学 4 年生に対するクラスワイドのポジティブ

な行動支援―移動時の整列行動に対する集団随伴生を用いた介入と Positive Peer Reporting の取り組み ― 日本特殊教育学会第 55 回発表論文集,P7-62. 庭山和貴 (2020).学校規模ポジティブ行動支援 (SWPBS) とは何か?―教育システムに対する行動分析学的アプ ローチの適用― 行動分析学研究,34, 178–197. 大久保賢一 (2015).児童生徒の行動問題に対する適正手続きとポジティブな行動支援 行動分析学研究,29, 127– 141. 大対香奈子 (2020).学校規模ポジティブ行動支援 (SWPBS) における実行度の評価 行動分析学研究,34, 229–243. 大対香奈子・堀田美佐緒・竹島克典・松見淳子 (2013).日本語版 SLAQ の作成―学校適応の規定要因および抑う つとの関連の検討― 日本学校心理士会年報,6, 59–69. 大対香奈子・月本 彈・田中善大・野田 航・大久保賢一 (2017).クラスワイドの PBS による「いいところ探し」 の取り組み―SWPBS との連携の効果― 日本行動分析学会第 35 回年次大会発表論文集,71.

Riley-Tillman, T. C., Methe, S. A., & Weegar, K. (2009). Examining the use of direct behavior rating on formative assessment of class-wide engagement: A case study. Assessment for Effective Intervention, 34, 224–230.

Sugai, G., & Horner, R. H. (2009). Responsiveness-to-Intervention and School-Wide Positive Behavior Supports: Integration of multi-tiered system approaches. Exceptionality, 17, 223–237.

田中善大 (2020).学校規模ポジティブ行動支援 (SWPBS) を支えるデータシステムとしての ODR 行動分析学研究, 34, 211–228. 田中善大・月本 彈・野田 航・大対香奈子・大久保賢一 (2017).退室行動を示す小学2年生児童に対するポジティ ブな行動支援―授業参加行動に対する強化基準の変更を含む介入パッケージの効果― 日本行動分析 学会第 35 回年次大会発表論文集,68. ——2019.7.20 受稿、2019.10.22 受理——

(14)

PRACTICAL REPORT

Effectiveness and Social Validity of Tier 1 Intervention

With SWPBS in a Public Elementary School

K

ENICHI

O

HKUBO

Kio University

H

AZUMU

T

SUKIMOTO

LITALICO lnc.

K

ANAKO

O

TSUI

Kindai University

Y

OSHIHIRO

T

ANAKA

Osaka Shoin Women’s University

W

ATARU

N

ODA

Osaka Kyoiku University

K

AZUKI

N

IWAYAMA

Osaka Kyoiku University

Abstract

Study objectives: To implement Tier 1 support of school-wide positive behavior support (SWPBS) and to examine its effectiveness and social validity. Design: AB design. Setting: One public elementary school. Participants: All school personnel and all students at the school. Intervention: A positive behavior matrix was developed, and behavior support plans for each target behavior were developed and implemented. Measures: A tally of the number of students engaged in the targeted behaviors, and data obtained using an interval recording method. In addition, a rating scale was administered 3 times, and the average scores of all students at each administration were compared. Social validity data were collected using a questionnaire. Results: The target behaviors increased after the intervention, and scores on the rating scale improved, suggesting a certain social validity. Conclusion: The results suggest that the Tier 1 support implemented in the present study was effective and had acceptable social validity. However, several challenges were identified, including problems with team management and with moving to Tiers 2 and 3 support, as determined by the data and the reliability of the data.

Key Words school-wide positive behavior support (SWPBS), Tier 1 intervention, elementary school, problem behavior, applied behavior analysis

参照

関連したドキュメント

・学校教育法においては、上記の規定を踏まえ、義務教育の目標(第 21 条) 、小学 校の目的(第 29 条)及び目標(第 30 条)

2)摂津市障害者地域自立支援協議会代表者会議 年 3回 3)各支援学校主催会議や進路支援等 年 6回

2)摂津市障害者地域自立支援協議会代表者会議 年 1回 3)各支援学校主催会議や進路支援等 年 5回

支援級在籍、または学習への支援が必要な中学 1 年〜 3

⑤ 

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

第4版 2019 年4月改訂 関西学院大学

日程 学校名・クラス名 参加人数 活動名(会場) 内容 5月 清瀬第六小学校 運動会見学 16名 清瀬第六小学校 子ども間交流 8月 夏季の学童クラブの見学 17名