博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 石 井 悠 輔
学位論文題名
Recognition Properties of
Calixarene ― Polyoxometalate Porous Crystals
(ポーラスなカリックスアレン/ヘテロポリ酸複合結晶の分子認識作用)
学位論文内容の要旨
多孔性材料を利用した特定分子の選択的分離および吸着は、有害物質の除去や工業的な 生産効率の向上など、環境に調和した社会発展の基幹となるグリ―ンサステイナブルケミ ストリ―の観点から注目を集めている。中でも、有機物と無機物からなる複合型多孔性材 料は、それそれに固有の特性を合わせ持つのみならず、両者の間にはたらく協同効果によ る 新 し い 機 能 の 発 現 が 期 待 出 来 る こ と か ら 、 近 年 注 目 さ れ て い る 。 申請者は、ヘテロポリ酸化合物を無機ユニットに、カリックスアレン誘導体を有機ユニ ッ トにして構 築された分子性複合結晶が、 4x8A の断面を持つ―次元のマイクロ細孔を 有することを見いだした。この多孔性結晶について、様々な有機物蒸気の吸着挙動を調ぺ たところ、炭化水素、ハロメタン、ケトン、アルデヒドをはじめとする広範な有機物(ゲ スト)が、効率的に細孔内部に吸着されることが明らかになった。ここで、この吸着活性 は、カリックスアレン末端部位の構造を設計することでチュ―ニング可能であり、それを 通じて高度な選択性が発現する。例えば、炭化水素類についてはわずかな形状の違いや分 子の大きさを認識し、直鎖アルカンは効率的にそのポア内部に吸着される一方で、枝分か れアルカンに対しては、吸着活性をほとんど示さなかった。また、ほぼ同じ分子構造を持 つべンゼンとシク口ヘキサン、アルケンのシス/トランス異性体、アルカンとアルケンの 認識も可能である。吸着ポテンシャルエネルギーの検討から、上記の形状・立体特異的吸 着においては、ゲストあるいは細孔壁内のベンゼン環部分が関与する兀相互作用が重要な 役割を果たしていることが示唆された。
また、本多孔性複合結晶は、熱的に不安定な物質をそのゲストの大きさに適した細孔径 を有する複合体に収納させることで、安定化し長期間保持できることがわかった。さらに、
二トリル、ケトン、工ステル基を有する有機ゲストの吸着においては、結晶構造の変化に ともなう色の変化が観測されたことから、センシング材料等への展開の可能性も示唆され た。
この様に本研究では本多孔性複合結晶が、様々な有機ゲストの蒸気を効率的にその細孔 内部にとりこむことが明らかにし、揮発性有機化合物(VOC )の除去や物質生産における 精製過程などに応用できる可能性を示した。このような分離および保存機能はこれまでに な い 特 異 な も の で あ り 、 次 世 代 の 材 料 素 材 と し て 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。
‑ 1341ー
学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
助教授 教授 教授 教授
小 西 克 明 松 田 冬 彦 嶋 津 克 明 古 月 文 志
学 位 論 文 題 名
Recognition Properties of
Calixarene−Polyoxometalate Porous Crystals
( ポ ー ラ ス な カ リ ッ ク ス ア レ ン / ヘ テ ロ ポ リ 酸 複 合 結 晶 の 分 子 認 識 作 用 )
多 孔 性 材 料 を 利 用 し た 特 定 分 子 の 選 択 的 分 離 お よ ぴ 吸 着 は 、 グ リ ー ン ケ ミ ス ト リ ー の 観 点 と 関 連 し た 工 業 的 な 生 産 効 率 の 向 上 や 有 害 物 質 の 除 去 と 関 連 し た 重 要 な 技 術 で あ る 。 申 請 者 が 見 い だ し た ヘ テ ロ ポ リ 酸(Na3PW12040 [PW] ) と カ リ ッ ク ス ア レ ン(C2)か ら な る 有 機 / 無 機 複 合 結 晶C2‑PWは 、X線 結 晶 構 造 解 析 よ り 一 次 元 の マ イ ク ロ ポ ア 構 造(4x8 A)を 有 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 様 々 な 有 機 物 蒸 気 を 用 い て 、 複 合 体 の ポ ア に 対 す る 吸 着 活 性 を 測 定 し た と こ ろ 、 炭 化 水 素 、 ハ ロ ア ル カ ン 、 カ ル ボ ニ ル 化 合 物 、 ア ル コ ー ル な ど の 広 範 な 有 機 ゲ ス ト に 対 し て 高 い 吸 着 活 性 を 示 す 一 方 で 、 親 油 性 基 を 持 た な い 水 、 お よ び ア ル ゴ ン 、 窒 素 に 対 し て は 、 吸 着 活 性 が 著 し く 低い こ とを 見い だし た。 従っ て、C2‑PW 複 合 体 の ポ ア は 、 親 油 部 と のvan der Waals的 な 相 互 作 用 を 駆 動 カ と し て 、 ゲ ス ト を 内 部 に 取 り 込 む も の と 考 え ら れ た 。 さ ら に 無 極 性 炭 化 水 素 の 吸 着 を 詳 細 に 検 討 し た と こ ろ 、 わ ず か な 形 状 の 差 異 や 分 子 の 大 き さ を 高 度 に 識 別 で き る こ と が わ か っ た 。 例 え ば 、 直 鎖 状 の へ プ タ ン お よ び2− ヘ プ テ ン に 対 す る 吸 着 活 性 は 非 常 に 大 き か っ た も の の 、 枝 分 か れ のあ る2. メ チ ル ヘ キ サ ン に 対 す る 吸 着 活 性 は ほ と ん ど 示 さ な か っ た 。 さ ら に 、 ヘ プ タ ン と2‐ ヘ プ テ ン に っ い て そ の 吸 着 ポ テ ン シ ヤ ル エ ネ ル ギ ー を 算 出 し た と こ ろ 、2ー ヘ プ テ ン の 吸 着 ポ テ ン シ ヤ ル エ ネ ル ギ ー が 大 き か っ た こ と か ら 、 ゲ ス ト の 兀 電 子 も 吸 着 活 性 に 影 響 を 与 え る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 鎖 状 炭 化 水 素 の み な ら ず 、 環 状 炭 化 水 素 に 対 し て も 高 い 選 択 性 を 示 し 、 例 え ば べ ン ゼ ン と シ ク ロ ヘ キ サ ン 、 お よ び キ シ レ ン 異 性 体 の 分 離 も 可 能 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
申 請 者 は ま た 、C2‑PWの 内 壁 に カ リ ッ ク ス ア レ ン 末 端 の エ チ ル エ ス テ ル 部 位 が 配 置 さ れ て い る 点 に 着 目 し 、 エ ス テ ル 置 換 基 の 設 計 に 基 づ い た 吸 着 特 性 の 制 御 を 試 み た 。 その 結 果、