博 士 ( 農 学 ) 遠 藤 哲 代
学 位 論 文 題 名
泌乳牛の定置放牧における放牧強度と牧草生産および 利用に関する研究
学位論文内容の要旨
土 地 を基 盤と した 家 畜生 産を 考え る上 で 放牧は有効な生産方式であ る,放牧生産では単位面積当 た りの 生 産量 を高 める 最 も大 きな 要因 は放 牧 強度である.また,放牧期 間を通じて質および量が安定 し た牧 草 生産 と利 用を 行うには,放牧管理に より牧草の生長に合わせた適 切なdefoliation(分げっの 収 奪) のfrequencyお よびintensityを 操作 す ることで,草地構造の季節 変化を平準化する必要がある . こ う した 点か らこ れ まで 様々 な放 牧方 式 が検討されてきた,複数の 牧区を設け定期的に放牧家畜 を 移動 す る輪 換放 牧で は,放牧強度に加え放 牧開始時期および放牧間隔を 調節することで,defoliation の丘equencyお よびintensityは 別々 に変 化 させることが可能である. 一方,定置放牧は,放牧期間 を 通じて1つの牧区 にー定の頭数を放牧し続ける ことから,defbliationの舟equencyおよびintensityは放 牧強 度 の高 低に よっ て 同時 に変 化す ると さ れており,草量の過不足が 起きても牧草再生量や利用草 量 の調整が不可能で ある.放牧強度が低い場合 には,defbliationの丘equencyおよびintensityは低下し,
生長 速 度の 高い 春季 に 増加 した 牧草 を利 用 しきれずに枯死物として蓄 積する可能性が考えられる. し かし , 放牧 強度 が非 常 に低 い定 置放 牧を 行 っている酪農家において, 草地は比較的均一に維持され て い る 事 例 が 報 告 さ れ て お り , こ の 場 合 の 草地 構 造と 牧草 生産 ・利 用 量の 関係 は明 ら かで はな い,
一 方 ,定 置放 牧に お いて も輪 換放 牧に 匹 敵する単位面積当たりの乳 生産を達成するには,高い牧 草 生産 量 のも とで ,放 牧 強度 を高 める こと が 必要である.しかし,定置 放牧における最適な放牧強度 は 明らかでなく,経 年的にその生産性を検討し た例はほとんどない,また, 定置放牧におけるdefoliation の丘equencyお よびintensityは 放牧 強度 の 高低によって,同時に変化 するとされているが,同じ放 牧 強度 の 定置 放牧 地で あ って も, 面積 や頭 数 の絶対値の違いにより,こ れらが異なる変化を示す場合 に は,牧草生産量や 利用草量にも変化を及ぼす 可能性がある.
以 上 から ,本 研究 は ,定 置放 牧に おけ る 放牧強度と牧草生産および 利用の関連を明らかにするこ と を目的とし以下の 点について検討した.
1) 放 牧 強 度 の 低 い 定 置 放 牧 に お け る 牧 草 生 産 量 お よ び 利 用 草 量
2) 放 牧 強 度 の 高 い 定 置 放 牧 に お け る 牧 草 生 産 量 お よ び 利 用 草 量 の 経 年 変 化 3) 放 牧 強 度 が 等 しい 定置 放 牧に おけ る面 積 およ び頭 数の 違い がdefoliationのfrequencyおよ び lntenSltyに 及 ぽ す 影 響
得られた結果は次のように要 約される.
1) 放牧強度の低い定置放牧に おける牧草生産量および利用 草量
放 牧 強 度 が1.0―2.2cowmaで定 置放 牧を 行っ て いる 酪農 家3戸(A,Bおよ びC牧場 ) を調 査し ,放 牧 強 度が 低い 場合 の草 地 構造 と牧 草生 産 量および利用草量の関係を検 討した.調査期間を通じて の草 高 お よび 草量 は6.0―10,1cmお よびo.8‐113tDMmaの範 囲に あった .1日1頭当たりの利用草量 は,
9.6−13.8kgDMであった.放 牧期間の牧草生産量および利用草量は,それぞれ,4.6―5.9のMmaおよび 4.1−4.8tDMmaであり,牧草生産に対する利用効率は約90ゲ。と非常に高かった.単位面積当たりの乳生 産 量は,1.3―5.0伽aであっ た.これらの酪農家では放牧 強度が低く単位面積当たりの乳生産量は低か
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った が, 放牧 開 始時 期が 早く , また施肥量も少 なかったため牧草生産量が 低く,放牧地は短草で維持 され てい た,
2) 放 牧 強 度 の 高 い 定 置 放 牧 に お け る 牧 草 生 産 量 お よ び 利 用 草 量 の 経 年 変 化 輪 換放 牧 で最 適と いわ れる 比 較的 高い 放牧 強度 を 泌乳 牛の 定置 放 牧に 適用 し, その 中 で放牧強度 (6.1お よ び7.6cow/ha)お よ び 開 始 時 草 高 (8お よび15cm)を 変化 さ せた 場合 (対 照 ,低 草高 およ び 高強 度区 ) の牧 草生 産量 およ び 利用 草量 の3年間 の成 績を 検 討し た.年間牧草生産 量はいずれの処理 区も 経年 的 に低 下し ,高 強度 区 では 初年 次の11.7tDM/haから3年 次の6.3tDM/haま で低 下 した.年間 利 用 草 量 は 低 草 高 区で 初年 次か ら2年次 で減 少 し,3年 次で8.3tDM/haま で増 加し た が, 高強 度区 で は経 年的 に 減少 し3年 次 では5.3tDIWhaと 初年 次の 半 分程 度と なっ た .こ れま での 輪換 放 牧における 報告 と比 較 する と, 本試 験の 定 置放 牧で は年 間牧 草 生産 量が 経年 的に低下し,3年 間の平均値は定置 放牧 で9.5tDM/haと輪換放牧 の11.6tDM/haより低かった (Pく0.05).一方,年間利 用草量は放牧方式 問で 差は み られ ず, 定置 放牧 お よび 輪換 放牧とも経年 的に低下した.すなわち,高 い放牧強度の定置 放牧 では , さら に放 牧強 度を 高 める こと は経年的な牧 草生産量の低下を招くが放牧 開始時期を早め,
低い 草高 で 放牧 を開 始す るこ と で牧 草生 産量 およ び 利用 草量 を高 く 維持 でき るこ とが 示 唆された.
3)放牧強度が等 しい定置放牧における面積お よび頭数の違いがdefoliationのfrequencyおよびintensity に及ぼす影響
放 牧 強度 が約4cow/haと等 しく , 面積 およ び頭 数 の異 なる 定置 放牧地にお いて,個々の分げっにお けるdefoliationのfrequencyおよびintensityを測定し,面積および頭数の違いとdefoliationの様相との 関連 に つい て一 放牧 期 間を 通じ て検 討し た ,試 験地 は北 海道 大 学FSC生 物生 産研 究農 場( 以下FSC: 面 積2ha, 頭 数8cows)お よ び 定 置 放 牧 酪 農 家 ( 以 下D牧 場 :llha,52cows)で あ っ た ,1日1頭 当 た り の 利 用 草 量 はFSCお よ びD牧 場 で そ れ ぞ れ ,9.6お よ び5.OkgDMとFSCが 高 か っ た . 年 間 牧 草 生 産 量 はFSCで7.2tDM/haとD牧 場 の5.8tDM/haよ り高 く, 年間 利 用草 量は ,牧 草生 産 量の 高いFSC で6.8tDM/haとD牧 場の4.9tDM/haよ り 高か った .採 食時 間 で補 正し たdefoliationの 間 隔は ,FSCで D牧 場 の 約 半 分 の 短 い 間 隔 で 採 食 さ れ た . こ の こ と か ら , 放 牧 強 度 が 同 じ で も 面 積 が 大 き い と defoliationのfrequencyは低下し,このfrequencyの変化を介してIntensityは低下することが示唆され た. た だし ,本 試験 で は, 草地 構造 や施 肥管理が 処理間で異なっていたこと から,牧草生産量および 利用草量に違いが みられた点も考慮する必要 があるだろう.面積および頭 数とdefoliationのfrequency およ びintensityとの 関係を定量的に結論するため には施肥量や放牧時間も厳 密に揃えた試験を行う必 要がある,
以 上 の 結 果 は , 放 牧 強 度 がl‑2cowmaと 低い 泌 乳牛 の定 置放 牧で は 単位 面積 当た り の乳 生産 量は 低い が, 早期 に 放牧 を開 始し ,ま た 施肥量 を低減し牧草生産量を抑え る低投入方式によって,短草 を 維持 し牧 草の 利 用効 率を 高め ,持 続 的な生 産が達成できることを示唆 している.さらに単位面積当 た りの 生産 量の 増 加を 目指 す場 合, 牧 草生 産・ 利用 量 の点 から 考えると ,5時間の制限放牧であれば 放 牧強 度は6cowma程度でかつ放牧開始時期を 早め,def01iationのfrequencyおよびintensityを高める 必 要が ある .一 方 ,単 位面 積当 たり の 乳生産 量の点から考えると放牧強 度を高めなければならないこ と から,併給飼料の給与量 などによって,def01iationの丘equencyおよびintensityをコント口ールする必 要が ある .ま た ,放 牧地 面積 の拡 大 によっ てdefoliationの丘equencyが低下することが示され,放 牧 強度 を高 めて も 放牧 地面 積を 広げ る ことで ,十分な再生期間が得られ る可能性があり,持続的な牧 草 生産が行えることが予測 される.
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学 位 論 文 審 査の 要 旨 主 査 教 授 近 藤 誠 司 副 査 教 授 小 林 泰 男 副査 准教授 上田宏一郎 副 査 講 師 中 辻 浩 喜
学 位 論 文 題 名
泌 乳 牛 の 定 置 放 牧 に お け る 放 牧 強 度 と 牧 草 生 産 およ び 利 用 に 関 す る 研 究
本論 文は7 章から なり、図 35 、表 31 、引 用文献 67 を 含む総頁 数 108 の和文 論文であり、
別に4 編の参考論文が添えられている。
土地を基盤とした家畜生産を考える上で放牧は有効な生産方式である。放牧生産では単位面 積当たりの生産量を高める最も大きな要因は放牧強度である。また、放牧期間を通じて質およ び量 が安定した 牧草生産 と利用を行うには、放牧管理により牧草の生長に合わせた適切な Defoliation (分げっの収奪)のFrequency およびIntensity を操作することで、草地構造の季節 変化を平準化する必要がある。
定置放牧は、放牧期間を通じて1 つの牧区に一定の頭数を放牧し続けることから、Defoliation の Frequency および Intensity は放牧強度の高低によって同時に変化するとされており、草量の 過不足が起きても牧草再生量や利用草量の調整が不可能である。放牧強度が低い場合には、
Defoliation のFrequency および Intensity は低下し、生長速度の高い春季に増加した牧草を利用 しきれずに枯死物として蓄積する可能性が考えられる。しかし、放牧強度が非常に低い定置放 牧を行っている酪農家において、草地は比較的均一に維持されている事例が報告されており、
この場合の草地構造と牧草生産・利用量の関係は明らかではない。
一方、定置放牧においても輪換放牧に匹敵する単位面積当たりの乳生産を達成するには、高 い牧草生産量のもとで、放牧強度を高めることが必要である。しかし、定置放牧における最適 な放牧強度は明らかでなく、経年的にその生産性を検討した例はほとんどなぃ。また、定置放 牧におけるDefoliation のFrequency およびIntensity は放牧強度の高低によって、同時に変化す るとされているが、同じ放牧強度の定置放牧地であっても、面積や頭数の絶対値の違いにより、
これ らの変化が 異なる場 合には、牧草生産量や利用草量にも変化を及ばす可能性がある。
以上から、本研究は、定置放牧における放牧強度と牧草生産および利用の関連を明らかに する ことを目的 として行 われたものである。得られた結果の概要は以下のとおりである。
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1 )放牧強度の低い定置放牧における牧草生産量および利用草量
放牧強度が1.0‑2.2 cow/ha で定置放牧を行っている酪農家3 戸を調査し、放牧強度が低い場 合の草地構造と牧草生産量および利用草量の関係を検討した。調査期間を通じての草高および 草量は 6.0‑10.1 cm および 0.8‑1.3 tDM/ha の範囲にあった。放牧期間の牧草生産量および利用 草量は、それぞれ、 4.6‑5.9 tDM/ha および 4.1‑4.8 tDM/ha であり、牧草生産に対する利用率は 約90 %と高かった。単位面積当たりの乳生産量は、1.3‑5.0 t/ha であった。これらの酪農家では 放牧強度が低かったが、放牧開始時期が早く、また施肥量も少なかったため牧草生産量が低く、
放牧地は短草で維持されていた。
2 ) 放 牧 強 度 の 高 い 定 置 放 牧 に お け る 牧 草 生 産 量 お よ び 利 用 草 量 の 経 年 変 化 輪換放牧で最適といわれる比較的高い放牧強度を泌乳牛の定置放牧に適用し、その中で放牧 強度 (6.1 お よぴ 7.6 cow/ha) および開始時草高( 8 および 15 cm) を変化させた場合(対照、
低草高および高強度区)の牧草生産量および利用草量の3 年間の成績を検討した。年間牧草生 産量はいずれの処理区も経年的に低下し、高強度区では初年次の11.7 tDM/ha から3 年次の 6.3 tDM/ha まで低 下した。 年間利用草 量は低草 高区で初年次から2 年次で減少し、 3 年次で 8.3 tDM/ha まで増加したが、高強度区では経年的に減少し3 年次では5 . 3tDM/ha と初年次の半分 程度となった。すなわち、高い放牧強度の定置放牧では、さらに放牧強度を高めるこ.とは経年 的な牧草生産量の低下を招くが放牧開始時期を早め、低い草高で放牧を開始することで牧草生 産量および利用草量を高く維持できることが示唆された。
3 )放牧強度が等しい定置放牧における面積および頭数の違いがDefoliation のFrequency およ ぴIntensity に及ばす影響
放牧強度が約4 cow/ha と等しく、面積および頭数の異なる定置放牧地において、Defoliation のFrequency およびIntensity を測定し、面積および頭数の違いとDefoliation の様相との関連を 検討 し た。 試 験 地は 北 海道大学FSC 生 物生産研 究農場( 以下 FSC :面 積2ha 、頭数 8cows) および定置放牧酪農家(以下D 牧場: 11 ha 、52 cows )であった。Defoliation のIntensity は処 理間で差はみられないが、Defol'iation の間隔は、FSC で D 牧場の約半分の短い間隔で採食さ れた。このことから、放牧強度が同じでも面積が大きいとDefoliation のFrequency は低下し、
こ の Frequency の 変 化 を 介 し て Intensity は 低 下 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 以上の結果は、放牧強度が 1 ー 2 cow/ha と低い泌乳牛の定置放牧では単位面積当たりの乳 生産量は低いが、早期に放牧を開始し、また施肥量を低減し牧草生産量を抑える低投入方式に よって、短草を維持し牧草の利用効率を高め、持続的な生産が達成できることを示唆している。
さらに単位面積当たりの生産量の増加を目指す場合、牧草生産・利用量の点から考えると、5 時間の制限放牧であれば放牧強度は6 cow/ha 程度でかつ放牧開始時期を早め、 Defoliation の Frequency およびIntensity を高める必要がある。また、放牧地面積の拡大によってDefoliation のFrequency が低下することが示され、放牧強度を高めても放牧地面積を広げることで、十分 な再 生 期間 が 得 られ る 可能 性 が あり 、 持 続的 な 牧草 生産が行 えること が予測さ れる。
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以上のように本研究は、泌乳牛の定置放牧行うための指標として、Defoliation 観点から放牧 強度と牧草生産と利用の関連を提示したもので、その意義は大きい。これらの成果は学術面お よぴ実用面において高く評価される。
よって審査員一同は、遠藤哲代が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと 認めた。
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