論文の内容の要旨
論文題目
Current Status and Issues of the Nursing of Schizophrenic Patients with Cancer:
A proposal for nursing education with a focus on the patient care provided by psychiatric nurses がんを合併した統合失調症患者のケアにおける現状と課題
-精神科看護師のケアに着目した看護教育への提言-
学位申請者
保健福祉学専攻 博士後期課程
学籍番号 1310401 氏名 荒井 春生 指導教員 渡辺 俊之 教授
本論文は第1章から第6章で構成されている。研究テーマは、「がんを合併した統合失調 症患者のケアにおける現状と課題-精神科看護師のケアに着目した看護教育への提言-」
である。この研究テーマに沿って3つの課題研究に取り組んだ。
第 1 章は、単科精神科病院でがんを合併した統合失調症患者に対するがん告知の是非、
がんの進行によるケアの困難さなど、精神医療及び看護に関連する課題や問題点を挙げ、
課題研究 1.「単科精神科病院でがんを合併した統合失調症患者の現状」、課題研究 2.「が んを合併した統合失調症患者への看護チームでの評価 -STAS-Jを用いて-」、課題研究3.
「精神科看護師のケアに影響を及ぼす要因」の目的と方法について提示した。
第 2 章は、日本と欧米のがんを合併した統合失調症患者に関連する文献研究を行った。
先行研究から、がんを合併した統合失調症患者の治療の選択方法はおよそ3つに大別され、
専門的ながん治療を受けることなく単科精神科病院で看取る事例については、患者へのが ん告知もままならないため、複雑で多様な問題を抱えた状況の選択であり、精神科看護師 のケアが必要とされる意義を明らかにした。
第 3章は、課題研究1.「単科精神科病院でがんを合併した統合失調症患者の現状」の調 査研究である。A県の全単科精神科病院8施設でがんを合併した統合失調症患者を受けもっ た精神科看護師90人を対象に質問紙調査を行った。本調査の結果、①単科精神科病院で統 合失調症患者ががんを合併した時、総合病院精神科病棟での治療を検討するが、転院先の 医師らが受け入れについて主導権を持ち、がんの病期やがん治療の選択においては優先順 位が高いと言えなかった。②統合失調症患者ががんを合併すると個々の病院に判断が委ね られ、医療者 1 人ひとりの負担が大きくその対応に苦慮していた。③単科精神科病院は、
統合失調症患者ががんを合併した時、未治療のまま死を看取る対応についてこれまで十分 に議論されていなかった。総合病院精神科病棟、ホスピス・緩和ケア病棟に入ることが難
○ 甲
しい統合失調症患者にとって、単科精神科病院でがんの痛みや身体的症状に対応できる精 神科看護師の知識と技術が向上すれば、緩和ケアが十分可能と言える。これら 3 つの知見 を明らかにした(Arai, Watanabe, Hayashi,et al.,;2016)。
第4章は、課題研究2.「がんを合併した統合失調症患者への看護チームでの評価 -STAS-J を用いて-」の調査研究である。がんを合併した統合失調症患者の全体像を捉えると同時 に、個別の状態像を客観的な基準に基づいて把握するため、精神科看護チームでSTAS-Jで 客観評価を行うだけでなく、STAS-J に相応した個別の身体精神症状やコミュニケーション の問題に対して、実際どのような対応やケアを行っているか、その具体的な内容や実態に ついて質問紙を配布し調査を行った。それと同時に、「患者を看取る過程で大切にしたケア の内容」と「患者を単科精神科病院で看取る気持ち」これら 2 つの観点から自由記述の分 析を行い、精神科臨床現場のより良いケアに向けた示唆を得ることを目的とした。本調査 の結果、①痛みについては、「時節のまたは断続的な単一の痛み」、「中程度の痛み」が8割 程度、日常生活にまで支障をきたしている状況は少なかった。②精神科看護師は、患者の がんについてカルテと申し送りから知るのみであった。③対象施設は、看護診断やクリテ ィカルパスの導入がされていないため、患者へのケアは精神科看護師個々の対応に委ねら れチームで統一したケアがされにくい状況であった。④がんの病状説明を受けた 9 割以上 の患者の家族はがん治療を望まず、その事実を患者へ率直に伝えていなかった。そのよう な状況から、患者と家族との間では回復することや予後に対して病状認識に違いがみられ た。⑤精神科看護師は、こうした患者と家族の橋渡し役となってコミュニケーションを図 り、金銭管理や私物管理、食べ物の差し入れなど、家族の役割と責任を担わざるを得ない 状況のなかでケアを行っていた。⑥精神科看護師は、患者を看取ることで成長を感じるよ りも、ケアに対して否定的な感情が多く語られていた。以上6つの知見を明らかにした(荒 井,久松,齊藤他;2013)。
第 5章は、課題研究3.「精神科看護師のケアに影響を及ぼす要因」の調査研究である。
精神科看護師20人を対象に、患者を看取る過程でケアに影響を及ぼす要因を明らかにする ため調査を行った。本調査の結果、「戸惑い」を表すカテゴリーは①Differences : D【ア プローチの異なり】、②Structural : S【病棟の構造的問題】、③Loss : L【尊厳の喪失】
が抽出された。その一方で「希望」を表すカテゴリーは、①Connection : C【他者と連携 して治療環境を改善する】、②Dignity: D【尊厳ある死を看取る覚悟】、以上5つのカテゴ リーを明らかにした(荒井,久松;2013)。
第6章は、3つの課題研究の総括を行い、看護実践と教育の立場から取り組むべき課題に ついて、①「看護師と患者の語りと思い」データ・ベースの蓄積、②患者自身の意思決定 に配慮する、③単科精神科病院でできる緩和ケアの取り組み、④看護診断の導入、⑤リエ ゾン精神看護師・精神科認定看護師の活用、⑥精神看護学教育にいかすカリキュラムの検 討、以上6つの内容について提言を行い、研究の限界と今後の展望を述べた。
目 次
― 序論 ―
第1章 研究の背景と目的
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 第1節 研究の位置づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第2節 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第3節 研究の課題と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第4節 用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 第5節 論文の枠組みと構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 第6節 倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
― 本論 ―
第2章 精神障害とがん-概念と診断基準-
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 第1節 精神障害の概念と診断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 第2節 精神障害者の人権擁護・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 第3節 精神医療と施策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 第4節 統合失調症の概念と診断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 第5節 統合失調症患者の合併症としてのがん・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 第6節 がんを合併した統合失調症患者への医療とケア・・・・・・・・・・・・ 33 第7節 本章のまとめと考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
第3章 単科精神科病院でがんを合併した統合失調症患者の現状
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 第1節 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44 第2節 調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 第5節 本章で得られた知見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
ⅰ
第4章 がんを合併した統合失調症患者への看護チームでの評価-STAS-Jを用いて-
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 第1節 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 第2節 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 第5節 本章で得られた知見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90
第5章 精神科看護師のケアに影響を及ぼす要因
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 第1節 本章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 第2節 調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 第5節 本章で得られた知見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
― 結論 ― 第6章 総括
第1節 研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 第2節 精神看護学の発展に向け看護教育で取り組むべき課題・・・・・・・・・ 120 謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128
ⅱ
― 図表 ―
第1章 研究の背景と目的
図 1-1. 論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
第2章 精神障害とがん-概念と診断基準-
表2-1. ICD-10 精神及び行動の障害DCR研究用診断基準 ・・・・・・・・・・・
27
表2-2. がんを合併した統合失調症患者のケアに関連する論文内容 ・・・・・・
35
第3章 単科精神科病院でがんを合併した統合失調症患者の現状
表3-1. 患者の基本属性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
表3-2. 患者の病状と治療病棟 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
表3-3. がんの病状説明を受けた人と治療の選択 ・・・・・・・・・・・・・ 51
表3-4. キーパーソン ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 53
第4章 がんを合併した統合失調症患者への看護チームでの評価-STAS-Jを用いて-
表4-1. 評価された患者の概要(述べ数)・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 73
表4-2. STAS-J 評価の分布 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 74
表4-3. 患者を看取る過程で大切にしたケアの内容・・・ ・・・・・・・・・・ 81
表4-4. 患者を単科精神科病院で看取る気持ち・・ ・・・・・・・・・・・・・ 82
表4-5. STAS-J の9項目及び症状版合計点の相関 ・・・・・・・・・・・・・ 92
第5章 精神科看護師のケアに影響を及ぼす要因
表5-1. 精神科看護師の概要・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 97
表5-2. 精神科看護師の戸惑いと希望・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 104
ⅲ
― 資料 ―
研究計画書No.1-4
第3章
研究協力施設依頼文書 研究協力施設同意書 研究協力施設調査用紙 研究協力者依頼文書 研究協力者同意書 研究協力者調査用紙
第4章
研究協力施設依頼文書 研究協力施設同意書 研究協力者依頼文書 研究協力者同意書
研究協力者調査用紙No.1-2
研究協力者STAS-J・症状版調査用紙No.1-4
第5章
研究協力施設依頼文書 研究協力施設同意書 研究協力者依頼文書 研究協力者同意書
研究協力者半構造化面接ガイドNo.1-2
ⅳ