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第 4 章
活動の連続性をもたせるための動機づけを意図した実践
3章では、保育の現場における保育者と子どもの意識のずれについて、保育者が用いる指 導言、とりわけ褒め言葉を取り上げ、考察した。ずれを生み出す保育者の指導言と、ずれを 修正するための有効な指導言とを見出すことができた。また、ずれを修正する指導言は子ど もの動機付けとして機能すること、そして動機づけは導入段階はもちろん、活動全体を通し て様々な場面で有効に機能させる必要があるという課題を確認した。そこで 4 章では、ま ず、内発的動機付けについて述べたうえで、内発的動機付けに着目した授業実践例の考察を 行う。続いて導入段階から終末段階にかけて活動全体を通した連続的な動機づけのあり方 について検討する。
第1節 幼児の造形活動における動機づけ 1、内発的動機づけと外発的動機づけ
「動機づけとは、行動を起こさせ、一定の目標に方向づける内的過程をいう」1)。「子どもが 物事に取り組もうとする時、学習が目標になっている内発的動機づけと、学習が手段になっ ている外発的動機づけとの2つに大きく分けることができる。」2)
まず、内発的動機づけについて桜井茂男は内発的な学習意欲の源として、他者受容感、自 己決定感、有能感を挙げており、更に内発的な学習意欲の現れが知的好奇心であると述べて いる。以下、他者受容感、自己決定、有能感、知的好奇心の4点について、幼児の造形表現
108 に即して見てゆく。
①他者受容感
これは、認めてもらいたいであるとか、自分の存在を受け入れて欲しいという欲求のこと である。太田肇は、「大多数の人は、他人からの承認を求め、承認欲求に強く動機づけられ ている」3)する。そして、その「他人からの承認が自己効力感の重要な構成要素である」4)と も述べている。「自己効力感を得ようとすることは、人間にとっていわば本能に近いもの」
5)であることから、「承認も人間にとって必要不可欠なもの」6)であるといえる。
幼児の造形表現に即して言うと、自分の作っているもの(作ったもの)をそのまま認め、
受け入れてくれる他者の存在が、子どもの活動への意欲を高めるということになる。保護者 や保育者が子どもの作品に対して批判的な姿勢をとっている場合、造形表現への苦手意識 を持つことは多い。自分の表現を認めてほしいという子どもの思いに応えていこうとする 保育者の姿勢が子どもたちを活動へと意欲づけると考えられる。
②自己決定
桜井茂男は「自己決定とは、自分のことは(好んで)自分で決めているんだ、という気持 ちのことである」7)としている。「自分のことを意識するしないにかかわらず、わたしたちは 最終的には物事を自分で決めている。しかし、人から言われて仕方なく物事を始めるのと、
自分から積極的に自己決定して物事を始めるのとでは大きな違いがある」8)と述べている。
エドワード・L・デシは、「彼らが生き生きと興味をもち、責任感をもって課題に挑戦す る選択権を与えることが自律である」9)と、自律という言葉を使って説明している。
これまでの章でも見てきたように、保育者が活動の方向性をあらかじめ決めてしまった うえで、子どもを強引に引っ張っていこうとする指導が、子どもの意欲を削いだり、作品見 本をただなぞるだけの活動に終わらせてしまっている場合がある。子ども自らが作りたい もののイメージを持ち、自分で材料や方法を選択しながら活動しているという気持ちを持 てるような状況を設定することが望まれる。
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③有能感、効力感
「有能感とは、自分は勉強ができるんだ、自分はやろうと思えば勉強ができるんだ、とい う気持ち」10)であり、「効力感とは自分が努力すれば環境や自分自身に好ましい変化を生じ させうるという自信をもち、しかも生き生きと環境に働きかけ、充実した生活を送っている 状態である」11)としている。これを造形活動でいうと、「これなら私も作れそう」であると か、少し難しそうな作品でも自分ならできるんだという気持ちを持って取り組もうとする 状態であるといえる。
このような有能感、効力感はいきなり得られるものではない。「効力感は、ただ自分の努 力によって好ましい変化をひきおこすことができたというだけでは伸びていくものではな い。これこそ自分のしたいことだと思える活動や達成を選び、そこでの自己向上が実感され てはじめて真の効力感は獲得される」12)といっており、有能感、効力感を得るためには自分 は受け入れてもらえているといった承認欲求が満たされ、その安心感から子どもは環境に 自分で働きかけようとする。そして、その中で物事を自分の意志で決定していく自己決定が なされてこそはじめて得られるものであるということだと捉える。ただし、自己決定といっ ても、保育者が設定した枠組みの中で子どもたちに選択させるといったことでは意味がな い。自分の意志で選んだのだと思える選択ができるようにしなければならない。また、目標 を達成することだけに満足してはならない。「本人が自己向上心を実感しうるもの」13)であ り、その「自己向上が本人にとって価値ある好ましいものである内的な充実感がないと成功 が外的な報酬になってしまう」14)からである。
④知的好奇心
「知的好奇心とは、いろいろなものに興味を持ち、興味を持ったことに関連する情報を集 める行動傾向のことである」15)。これは、内発的な学習意欲の源である他者受容感、自己決 定、有能感に支えられた内発的な学習意欲の現れである。そして、知的好奇心→達成(最後 まで自分の力でやり抜こうとする行動傾向)→挑戦(自分が現在できる課題よりも少し難し
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い課題に挑戦しようとする行動傾向)と内発的な学習意欲は発展していくのである。
波田野誼余夫は、「人間は退屈を嫌い、知的好奇心をみたすべく常に情報を求めている存 在である」16)と述べているが、それは①②③で述べた要素が満たされてこそ発揮できるもの なのである。
子どもの遊びや造形活動において知的好奇心は、「どうなっているのだろう」「おかしいな」
などといった知的な葛藤として現れる。筆者の観察した次のようなケースがある。材料コー ナーにおいてあるザラザラとした質感を持つ紙に触れた子どもが、手の感触の面白さから
「カメの甲羅みたい」とつぶやき、亀を作ることを思いついたのである。亀を触った経験が 想起され、亀を作ろうという意欲が膨らみ、園で飼育している亀を見に行ったり、図鑑や絵 本で調べたりなどをしながら、紙の亀を作っていったのである。ザラザラの紙の感触を見逃 さず、「何かに似ているな」という疑問から知的好奇心が誘発され、自発的な造形活動に発 展していったケースである。ここでは亀を作ることを自分で思いついたという点では自己 決定が、また保育者がその自由な活動を受け止めたことから承認欲求が充足されており、有 能感をもって製作を進めてくことができている。このような自発的な目的活動を支える内 的過程が内発的動機づけである。
一方で、外発的動機づけとは「ある目的のための『手段』として活動を行うようなやる気 で、ニンジンをぶら下げられて走るやる気」17)とも鹿毛雅治は表現している。この外発的動 機づけには「いったん報酬の提供が打ち切られれば、そのやる気は失われる。やる気を保つ ためには報酬を与え続けなければならない」18)と欠点を指摘している。また、デシはこのこ とに加え、「人がいったん報酬に関心を向けると、報酬を獲得するための手っ取り早い最短 のやり方を選ぶ」19)と指摘している。
筆者の経験では、次のような出来事がある。子どもたちの描いた絵を「すごいね」とほめ ているうちに、子どもが喜ぶので次第に大げさにほめるようになっていった。そのうち、子 どもたちから「先生、すごいねしか言わない」と言われたり、少し描いただけでほめてもら
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いたくて何度も持ってくる子どもも現れ始めたのである。知らず知らずのうちに子どもた ちに外発的な動機づけを行っていたといえるだろう。
2、内発的な動機づけを促すための指導言
前章では、保育者の指導言、中でも褒め言葉に着目しながら、授業の考察を行った。そこ で、子どもの動機づけを図るうえで有効な指導言や褒め言葉の概略をつかむことができた。
本項では、導入段階で子どもの内発的な動機付けを促す指導言について 3 つの視点を設定 し、次の節ではそれを生かした授業の考察を行う。
①意欲を高める
序章で取り上げた事例では、筆者が絵の具を水で溶いて授業の準備をしていると、自然と 子どもたちが集まってきて、その様子をじっと見ながら「私この色が大好き。」などと自分 の経験や好みと関連づけて話かけてくる。そしてついには、「先生、この色どうやって作っ たの?」や、「僕も手伝ったろか?」などと言い出している。事例では、そこで筆者が子ど もの意欲を取り違えてしまうのだが、本来子どもたちは、新奇なものや興味・関心を刺戟す るものにふれると、知的好奇心を膨らませ、活動への意欲を高めていくものである。
モンテッソーリは、「子どもは身のまわりのものを自分の手を使って、経験せずにはいら れない。どこまでもつきぬ興味を示し、夢中で疲れを知らぬ一人の『行動する人間になって いる』」20) と述べている。
つまり、子どもは見たい、話したい、知りたい、やりたいなどの気持ちに満ちあふれてお り、自分が興味を持ち、心が奮い立つような何かを感じると、自分の手を使ってやってみた いと思う存在であるといえる。心が奮い立つ気持ちが、今後の活動の展開を大きく左右する 要件になるといえる。
②必要性を与える
保育者が一通り活動内容の説明をし、「はい、じゃあ、描いていいよ」と言うと子どもた
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ちが、「何するの?」、「何を描いていいかわからない」などとつぶやく様子をしばしば目に する。このような反応に保育者は「さっき説明したのに聞いてなかったの?先生、一回しか 言わないよ」などと返している。
しかし、本当に子どもは聞いていなかったのだろうか。何のためにそれをするのか、その ことをする必要性が感じられないために、自分が「こんなものを描きたい、作りたい」とい った目的が見えないからではないだろうか。
モンテッソーリは、「3 才の子供は、自分自身の目的のために、事物を扱わなければなら ない」21)と述べている。自分自身がそれをやる必要がある、またはそれに魅力があり、やり たいと思わなければ子どもは動かないということである。それは報酬を期待しての行為と は異なる。例えばお母さんのために作ってあげようとか、困っている人を助けてあげよう、
誰かに伝えたいといったことなども自分自身の必要性の中に含まれている。
何のためにそれをするのかという、活動に取り組むための必然性を与えることで、子ども の中で作りたい物のイメージや活動の目的が鮮明化してくるのである。
③想像を働かせる
これも序章で取り上げた事例であるが、保育者が絵を描く時に敷いたビニールシートを 見て、保育者が何も言わなくても(保育者の意図とは別に)子どもたちは「海みたい、海や」、
「川かな?水たまりかな?池かな?」などと想像している。また、ペットボトルを持ってき て「これで何ができる?」と尋ねると、子どもたちからは「ロケット」、「飛行船」、「電車」、
「救急車」など、様々な意見が出てくる。このように、子どもはビニールシートやペットボ トル一つからでも多様に想像を拡げることができるのである。
モンテッソーリは、「3~6歳までの子どもは想像力が働き、目に見えないものも見える」
22)と子どもの想像力に言及し、次のように述べている。「子供はただばくぜんとアメリカと いうことばを聞いているのではなく、アメリカ大陸が描かれてある地球儀を見て、具体的に はこんな所であろうと想像できると思ってまちがいない」23)と述べている。
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例えば、保育者がしばしば用いる指導言であるが、「好きなものを作っていいよ」という 働きかけでは、どのように考えればよいのか方向性が示されていない。つまり、子どもたち にとってはこの提示の仕方は漠然としすぎていて想像を働かせにくいものであるといえる だろう。また、「今日は、ひまわりの絵を描きます」の言葉では、何を描くのかははっきり しているものの、ひまわりの絵に限定されているために、想像を働かせる余地がなくなって しまっている。
つまり、子どもは想像力を働かせる存在であるとはいえ、ただ材料を置いておいて「好き なものをつくっていいよ」という漠然とした言葉を投げ掛けたり、「今日はひまわりの絵を 描きます」と一方的に言葉で提示するよりも、「ペットボトルで・・・」や、「海の中にいる・・・」
などと、最小限度で適切な方法で、想像する範囲や方向性を示すことで子どもの想像をより 活性化できるといえる。
子どもは保育者のやっていることや、投げ掛ける言葉を一寸たりとも逃すことなく見た り、聞いたりしている。そして、そこから自分の興味があるものはないか、熱中できるもの はないかと探し求め行動している。であるならば、このような導入段階における子どもの状 態を理解した上で、あらかじめ保育者が用意しておく環境や投げ掛ける言葉によって子ど もたちの意欲を高め、そしてそれに取り組むための必要感を与え、想像力が働くような提示 をする。このことによって、保育者の設定した活動と子どもたちの意欲との間のずれを最小 限にとどめ、主体的な活動を保障することができるのではないだろうか。
第2節 内発的な動機づけを意図した言葉がけによる導入
前節で挙げた 3 つの要素に基づく保育者の言葉がけを適宜用いることによって、子ども たちがどのような反応を返してくるのか、また活動がどう変化するか、2つの実践をもとに 考察する。
1、実践1(構想・結果・考察)
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○題材:「一年生になったらどんな友達つくりたい?」
○日時:2009年2月10日
○対象児:5歳児
○ねらい:小学1年生になったことを想像して描く
○活動の流れ:
①「一年生になったら」の歌をうたう。
②歌詞について子どもたちと話し合う。
③「この友達はおもしろいこと考えているね、みんなは一年生になったらお友達と何して 遊びたい?」と尋ねる。
④「実はみんなが行く小学校の先生がみんなのこともっと知りたい って言ってた よ、教えてあげよう」と絵に描いて教えてあげることを提案する。
図4-1「一緒にチョコレート屋を開きたい」 図4-2「山に登ってみんなでお菓子を食べたい」
図4-3「ピアノが上手な友達が欲しい」 図4-4「大きなスイカをみんなで食べたい」
この実践は、幼稚園を卒園し「もうすぐ一年生になるんだ」と期待感を膨らませている年
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長児が、小学校という言葉に興味を持っていることから、一年生になったときのことを想像 して描いてみようというものである。
●意欲を高める(①)
絵を描く前に、保育者は子どもたちと次のようなやりとりをした。「もうすぐ一年生だね。
もうランドセルは買った?」と、一年生になるためにどんなものを揃えたのか、また小学校 に入るとどんな教科があるのかについて話をした。この言葉は、子どもたちの視線を保育者 に集中させ、そこから子どもたちの意欲を高めていこうとするねらいがある。子どもたちは 一年生という言葉に敏感に反応した。
そして、ピアノを弾き、「一年生になったら」の曲をみんなで歌った。保育者が「この曲 知ってる?」と尋ねると、「知ってる」、「家にあるCDで聞いたことある」など知っている 情報を伝えようとする。
そこへ保育者が「この友達は一年生になったら100人の友達と富士山でおにぎり食べ たいんだって、食べられるかな?」と、問いかけた。これは、子どもたちの視線が集中した ところで子どもたちの意欲を高めていきながら、想像を働かせる状況への流れを生み出す 意図がある。この問いかけに対し、「いや、ムリやわ、そんな100人も登られへんわ」、「い けるで、順番に登ったらいいやん」、「途中までバスに乗ってバス何台いるんやろ?」、「この 前、山登ったな、亀山な」、「途中で空がゴロゴロいって雨降ってきてんな、で、晴れてんな」
などというやりとりがみられた。
図4-2の絵は、みんなで山に登ってお菓子を食べたいというものだが、絵の中には途中ま でバスで行って、それから歩く、そしてここまで来たら休憩をしておやつを食べると書いて ある。子どもは、核となる保育者の言葉にだけ反応し、絵を描いているのではなく、導入の 中でのやりとりで、自分が一番影響を受けた言葉から絵につなげていると考えられる。
●想像を働かせる(③)(この実践では、③の要素を先に持ってきている)
保育者は、「一年生になったらどんな友達つくりたい?」と言う言葉を投げ掛けた。この
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言葉には「一年生になったら」の言葉と「どんな」の言葉によって子どもの想像を働かせる ことができると考えた。例えば、自分が将来こんなことをしたいであるとか、自分が今好き なことを友達と一緒にしたいなど、様々な考え方ができる。つまり、みんなが共通に持って いるものは、「一年生になったら」の言葉であってそれに向かう想像の過程はそれぞれの子 どもによって異なっているのである。
この問いかけの後、「優しい子」とすぐ答えが返ってきた。しかし、それからしばらく沈 黙が続いた。少し待っていると、「オシャレな子」、「おもしろい子」、「計算が速い子」、「ボ ールが上手な子」、「ピアノが上手な子」、「サッカーが上手な子」といろいろな意見が出てき た。保育者の問いかけによって、「一年生になったら」を起点とし、子どもたちが想像を働 かせた瞬間といえる。その結果、子どもたちの作品からは図4-3の絵のようにどんな友達を つくりたいかを描いたもの、図 4-4 の絵のように友達とどんなことをしたいかを描いたも のと2通りの傾向が見られた。
このことから、保育者の言葉がけには、それぞれの子どもに応じた想像を生み出す効果が あったといえる。
●必要性を与える(②)
「みんなが入学する小学校の先生が、入学してきたらどんな友達を作りたいのかなど、みん なのことを知りたいわって言ってたよ、教えてあげよう」と言葉を投げ掛けた。これは、今 まで高まってきた意欲を更に高めると同時に、活動の必然性を与えることがねらいである。
図4-1の絵を描いた子どもが、小学校の先生に描いた絵と一緒に、「これも渡して欲しい」
といって小学校の先生に宛てた手紙を持って来た。それ以外にも多くの子どもたちが、「い つ小学校の先生に会うの?」と聞いてきている。小学校に入ったらしてみたいことを、小学 校の先生に伝えたい気持ちが高まっている様子がうかがえる。
このように、②の言葉がけ(必要感の付与)によっても図4-1のようなイメージの展開が 見られたことから、必ずしも③の言葉がけ(想像の喚起)のみが想像力を刺激するというわ
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けではない。子どもたちは、ただ保育者の言葉を聞いているだけではなく、心に響く言葉に よって子どもの発想は膨らんでいくのだと考える。
2、実践2(構想・結果・考察)
○題材:「お好み焼きをつくろう」
○場所:兵庫県E幼稚園
○日時:2010年6月8日対象児:5歳児
○ねらい:経験をもとに考える
○展開:
①コック帽、エプロン、ボウル、お玉、フライ返しなどを準備しておく。
②「今日はお好み焼きをつくろう」と提示する。
③見本を見せる。
④お好み焼きをつくっていく。
題材にはみんながよく知っていて、食べたことがあったり、作っている所を見たことがあ ると考えられるお好み焼きを選んだ。そして、その経験をもとに自分なりのお好み焼きをつ くろうというものである。
図4-5「フライパンに焼く」 図4-6「家族の分も焼く」
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図4-7「かつおぶしをたくさんのせる」 図4-8「丸いお皿にのせる」
●意欲を高める(①)、及び必要性を与える(②)
保育者は、コック帽やボウル、フライ返し、おたまなど、お好み焼きを焼く時に必要な道 具を揃えておいた。これは、子どもたちが見ただけで興味を持ち、保育者の周りに集まって くるようにするねらいがあった。すると、保育者が何も言わなくても始まる前から用意して あるコック帽をかぶって「何してるの?」、「お好み焼き?」「たこ焼きつくるの?」「私、お 家でつくったことある」などと保育者の周りに大勢の子どもたちが集まってきた。
子どもが全員集まったところで「お好み焼きをつくろう」「おいしいのを作ってお母さん に教えてあげよう」と言うと、子どもたちは深く頷いた。お好み焼きが子どもたちにとって 身近なものであることで、保育者があれこれと言葉をかけずともこの言葉によって、みんな の目的がお好み焼きを作る方向に向いていったと考えられる。
●想像を働かせる(③)
ボウルの中にある生地を混ぜながら子どもたちに「これでいいかな?」と生地のゆるさ加 減はどうかを尋ねた。これは、想像を働かせるための状況をつくっていくのがねらいである。
すると、この言葉に一瞬の沈黙があった。しかし次の瞬間、机の周りに子どもたちが集まっ てきて「ちょっと貸して、うん、これくらいでいいよ」、「いや、もうちょっと水を入れた方 がいいよ」と子どもたちが先生に教えようとする姿が見られた。それからは、「次は何乗せ ればいい?」、「キャベツの太さはどれくらい?」と、子どもたちに教えてもらいながら作っ ていくようにした。保育者のこの言葉に、子どもたちはお母さんが作っていたお好み焼きや、
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テレビで見たお好み焼きはどのようであったかなどと経験したことを振り返りながら考え たと思われる。そして、「じゃあ、作ってみよう」と言葉をかけると「うん」と頷き、自分 の場所に帰ってお好み焼きを作る姿が見られた。図4-5~4-8の絵がそれである。この絵か らは子どもたちが自分なりのお好み焼きを考えたことがわかる。
以上 2 つの実践を見てきたが、子どもたちに必要感を与えたり想像を働かせたりするた めの言葉を唐突に投げ掛けたとしても、保育者の意図通りに子どもが反応していたとは限 らず、むしろずれが生じていた可能性もあるが、子どもの興味・関心・必要感、子ども意識 の流れなどを十分に考えたうえで、内発的な動機づけを促す言葉がけを用いることで意欲 的・連続的な活動が生み出されることが確認された。 また、保育者が子どもにわかりやす いように入念に説明しすぎることで、つい言葉が多くなってしまい、かえって子どもたちを 混乱させることがあるが、上に挙げた 3 つの要素を的確に伝える言葉を用いることで、保 育者と子どもとのずれや混乱を避けることができるのではないだろうか。
保育者はねらいを持って造形活動を展開しているが、その意図が見えすぎると子ども はやらされていると感じるものである。しかし、内発的な動機付けを意図した言葉を用いる ことで、子どもたちは自分で考え活動しているという実感を持ち、イメージを深め活動を広 げていくことができる。また有能感や効用感をもって活動に取り組めるようになると考え られる。
今回の実践では、主に導入時の保育者の動機づけに注目したが、例えば「一年生になった ら」では、想像の絵を描く活動から、小学校の先生にメッセージを伝えようとする活動へと、
子どもたちの意識が連続的に展開されていった。導入時の動機づけが次の活動へと発展し ていったのである。導入段階だけではなく、展開段階、週末段階、さらには次の活動へと連 続的に活動が展開されていくような、動機づけを考える必要がある。
次節では導入段階から終末段階まで全体を通した動機づけについて、新井邦二郎の三種 の動機づけモデルを参考に検討する。
120 第3節 3つの動機づけモデルについて
以前は、動機づけは主に導入時に用いられるものとする考え方が一般的であったが、近年 では学習過程全般において学習を成立させるための条件とする捉え方に移行してきている。
新井邦二郎は、「動機づけが学習の手段として重視されるのではなく、その本質上不可欠 なものとして捉える新しい流れが生まれ、それが徐々に広がりつつある」24)と述べている。
さらに新井は,活動の全般にわたって動機づけを計画化していくために、導入、展開、終末 段階における三種の動機づけのモデルを提案している。
新井の3つの動機づけモデルを以下にまとめておく25)。 (1) 行動喚起の動機づけ
学習や教材に対する子どもの興味や意欲へのはたらきかけがなされるものである。「今日 の授業は楽しそうだ。早く勉強したい」「きょうの学習は、自分にもできそうだ。チャレン ジしたい」といった動機づけの状態にし、学習やその内容に対する興味やチャレンジ心で子 どもの心を満たし、「学習したくてたまらない」状態にする役割を果たすものである。
(2) 目標志向の動機づけ
行動喚起の動機づけによって引き起こされた行動を基礎に、子どもを学習目標へと意欲 的に接近させるはたらきかけがなされる。「・・・何としても目標に到達したい」、「ここま ではやりとげたい、「わからないところは、教諭や友達に助けてもらっても、課題を解決し たい」といった動機づけの状態にするものである。
(3) 行動強化の動機づけ
行動喚起、目標志向の両機能によって十分に動機づけられながら学習を続けて、目標に到 達できたとき、子どもは満足感や充実感をしっかりと味わうことができる。しかも、それら の満足感や充実感が知的余韻となって、次の学習への意欲が湧き、さらに高度の内容と方法 を有した新しい課題に向かって自らの力で取り組んでいく。例えば、「きょうの学習は楽し
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かったな。またこのような勉強をしたいなあ」、「少し難しかったけれど、自分の力で課題が 達成でき、いい気持ちだ。次もチャレンジしよう」などといったような動機づけの状態にす ることをいう。
つまり、新井のいう動機づけモデルを造形活動に即していうと、作品をつくってみたいと 思う段階から、ここはこういうイメージでつくりたい、明日はこれをしようと目的意識を持 ち、次の活動への意欲へとつなげていくまでの、導入、展開、終末それぞれの段階で用いら れるべき動機づけということになる。
次節では、6 ヵ月間にわたる実践(「新幹線をつくろう」「新幹線を見に行こう」「乗って みたい新幹線をつくろう」)を、新井の3種の動機づけモデルをもとに分析、考察すること で、活動に連続性をもたせる動機づけの在り方を示す。
第4節 活動に連続性をもたせる動機づけ実践
実践事例「新幹線をつくろう」「新幹線を見に行こう」「乗ってみたい新幹線をつくろう」
1、研究の概要
○実施期間:2013年 10月~2014年 3月
○実施場所:大阪府K保育園
○対象児:3歳児 14名
3歳児を対象とした理由は、「保育所保育指針第2章子どもの発達2、発達過程(5)おおむ ね3歳」には、「大人の行動や日常生活において経験したことをごっこ遊びに取り入れたり、
象徴機能や観察力を発揮して、遊びの内容に発展性が見られるようになる」7)とあるように、
3歳児は様々な生活経験を通して、工夫することを学んでいこうとする時期であると考えた ためである。
○活動名:①「新幹線をつくろう」
②「新幹線を見に行こう」
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③参観日「乗ってみたい新幹線をつくろう」
○活動時間:10時~11時30分
○活動のねらい:経験したことをもとに、工夫してあそぶ 2、活動の内容
この活動は 2013 年~2014 年、約半年間にわたり筆者が取り組んだ実践事例である。K 保育園が新大阪駅に近いことから、子どもたちにとって新幹線はテレビなどの画面で見る よりも実際に走っているところを見ることができ、興味・関心の高い学習対象と考えられる ため教材化することにした。
今回の活動では子どもたちが「おもしろそう、やってみたい」から「ここを、こんなふう にしたい」「こんな作品をつくりたい」に、そして「明日もこれをしたい」、「今度はこんな 作品をつくりたい」というように、導入、展開、終末それぞれの段階での動機づけをもとに 子どもたちが様々な活動を連続的・発展的に経験していく様子を示したい。
実践は、設定保育や延長保育でも行った。回数を重ねるごとに子どもたちの意欲が高まり 作品の完成度も高まっていった。本論文では、10月~3月までに行った実践のうち、主に3 回の実践を取りあげ分析、考察する。
3、実践の分析、考察
●実践事例1 10月「新幹線をつくろう」 新幹線づくりスタート
図4-9「ドクターイエロー」 図4-10「認定証」
(1)行動喚起の動機づけ
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給食の時間に、ドクターイエローの箸を持っている子どもがいた。お父さんがお箸を買っ てきてくれたらしく、後日お父さんと一緒に新幹線を見に行ったとのことだった。するとこ の話を聞き、男の子も女の子も自分が見たこと、本で見たことなどを自慢気に話し始めた。
この頃からこれを教材化する機会を伺っていた。
しばらく後の或る朝、部屋に牛乳パックで作ったドクターイエローを置いておき、園外保 育に出かけた。帰り道、一人の子どもが「ドクターイエローだ」と言うので全員立ち止まっ た。一瞬しか見えなかったが帰り道はその話で持切りだった。部屋に帰って来ると、少し前 に見たドクターイエローの工作物が置いてあるのを発見し、さっそく遊び始めた。「私も貸 して」と取り合いになったため、「それじゃあ、みんなでつくろうか」と提案すると、「つく る」、「やりたい」と言いだし、つくることになった。
後日、子どもたちにドクターイエロー(図4-9)を見せると、すぐに「作りたい」と用意 していた紙パックを取りに来て活動を始めた。3歳児ははさみを使うようになったとはいえ、
紙パックのような堅い材料を扱うには一定の困難が予想された。予想通り、うまくはさみが 使えない子どもが続出したため、頃合を見計らって、子どもの発達段階に応じた援助を行い、
必要以上に意欲が低下しないように配慮した。
また、形ができた後に装飾を施す予定であったが、子どもたちは新幹線の形になった段階 で遊び始めた。ほとんど保育者に手伝ってもらっていた子どもでさえも「自分が作ったんだ」
と自慢気に新幹線を走らせている。あまりにも嬉しそうに遊んでいたため、しばらく遊んで いる様子を見守ることとした。すると、新幹線を走らせて十分に楽しんだ後に子どもたちは
「次はどうやるの?」と聞いてきた。遊びの充足によって、飾り付けや、別の遊びへの期待 が膨らんできたのである。
当初、ドクターイエローの完成形を示すことで、子どもの活動が工作の完成に向けて方向 づけられると予想していたのだが、紙パックの基本形ができた段階で、子どもたちの意識は 装飾には向かわず、遊ぶことに没入していったのである。ここに教師と子どもの意識のずれ
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がみられるが、ここで保育者が計画を改め、十分に子どもたちを遊ばせ、活動を見守るとい う手立てをとることで、子どもたちは次の活動へと動機づけられたのである。
(2)目標志向の動機づけ
画用紙はあらかじめそれぞれのパーツごとに切っておいた。3 歳児の発達段階を考慮し、
最初は切っておいたものを使い、後に工夫を促していこうと考えたからである。保育者が準 備をしていると、子どもたちが寄って来て「これ何?」、「何するの?」、「○○かな?」、「違 うよ○○だよ」などと、材料を見ながら想像をふくらませていた。
このように、子どもの反応を見守りながら一つ一つの工程を進めていくと、少しずつ新幹 線の形ができていき、「先生、ほら見て、カッコよくなってきたよ」と、見通しをもたせる ことができた。それからは「次はどうするの?」や「先生、ここはこう?合ってる?」など、
早く次に進めたいと思う気持ちのこもった問いかけが増えてきた。
前回のずれをふまえ、すべてを子どもたちが切るにはある程度の段階をふまえる必要が あると判断した。そこで子どもの意欲を持続させるために、パーツごとに準備しておくこと でずれの修正を図った。完成への課程が目に見えてわかるため、子どもたちからの問いかけ が増え取り組む意欲が増したことは、ずれへの対応の効果があったといえる。
(3)行動強化の動機づけ
完成したものを持って帰ったり、飾ったり、走らせたりする様子を見ていると、まるで自 分が運転士になったような気持ちを味わっているように感じられた。作品ができ、運転士に なり新幹線を走らせている時の強い気持ちを次の活動へと持続したいと考えた。また保護 者の方々にも今日どんな活動をしたのかが目に見えてわかるようにすることで親子での会 話を楽しんでほしいと考え、「うんてんしににんめいします」と書いた図4-10の認定証を発 行することにした。すると次の朝、認定証をバッジとして付けて来た子どもがいた。そして、
「今日は、はやぶさつくりたい」という声が出たので、「認定証にたくさん新幹線を増やし ていこうね」と話した。
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●「色々な新幹線づくり」11月
図4-11「授与式」 図4-12「授与式」 図4-13「授与式」
(1)行動喚起の動機づけ
認定証を渡したことで、子どもたちの意識はドクターイエローづくりから「もっと色んな 新幹線をつくりたい」に変化していった。朝、登園してくるたびに「先生、今日は何つく る?」、「今日は新幹線を3両つなげる」など目的をもっている様子が伺えたので、色々な新 幹線を作ってみることにした。
(2)目標志向の動機づけ
しかし、別の種類の新幹線をつくりたい子ども、ドクターイエローの完成度を高めたい子 ども、3 両編成にし、長い車両をつくりたい子どもなど、それぞれ目的が違っていたため、
一人一人の子どもの目的に添えるよう、子どもとの対話を重視しながら進めていった。
(3)行動強化の動機づけ
それぞれ目的が異なっていたため、出来上がりの作品も様々となった。子どもたちがどの ような作品をつくったのか、交流する場を設定することにした。図4-11、4-12、4-13は、
認定証を渡している時の様子である。一人ずつ前に出てきて作品を皆の前で紹介した後、出 席ノートに貼るシールのかわりに、その日に作った新幹線のシールを貼っている。図 4-10 の認定証は作品が完成するたびにシールが 1 枚ずつ増えていくようになっている。このよ うに、認定証を渡す工程を授与式のようにすることで、子どもたちの中に緊張感が生まれ、
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前に出てきて認定証をもらった子どもたちは満足感と自信に満ち溢れており、「今度はこん な作品を作りたい」といった次の意欲につながったといえる。
●実践事例2 12月「新幹線を見に行こう」(新大阪駅まで新幹線を見に行く)
図4-14「作った新幹線を駅員さんに渡している様子」 図4-15「駅員さんから新幹線を見る切符をもらう」
(1)行動喚起の動機づけ
新幹線コレクションは日に日に増えていった。中には作った新幹線を家に持って帰る子 どももいたので家で新幹線のコレクションをどう保管しているかなどの話でも保護者と話 がはずんだ。保護者の方と話をしていると、休みの日に電車に乗りにいったことや公園で新 幹線を見て「おーい」と手を振って喜んだことなど、園で行っている活動が波及し、家庭で も保護者の方が色んな形で子どもたちの興味、関心に寄り添ってくださっている様子が伝 わってきた。このような保護者との会話をもとに教員で話し合ったところ、みんなで新大阪 駅まで新幹線を見に行ってはどうかという意見が出て、子どもたちと職員で新幹線を見に 行くことになった。子どもたちは大喜びである。
(2)目標志向の動機づけ
新大阪駅に新幹線を見に行くと聞いて、それなら「駅員さんに新幹線を作って持っていっ てあげる」と子どもたちから提案があり、駅員さんに渡す新幹線を作って持って行くことに なった。駅員さんに喜んでもらいたい気持ちで一生懸命つくっていた。図4-14がその作品 を渡した時の様子である。
(3)行動強化の動機づけ
当日は子どもの「認定証も付けていく」という意見を取り入れた。子どもたちは一番最初
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に作った新幹線と認定証を駅員さんに見せていた。図4-15はその時の様子である。すると 駅員さんから特別に駅に入れる切符をもらい、本物の新幹線を見ることができた。子どもた ちは感激し、興奮がおさまらない様子であった。
その後の新幹線作りの活動では、目の形や色、位置(新幹線のライトや窓のこと)にこだ わる子どもが多く出てきた。また、それまでは現在走っている新幹線をつくっていたのだが、
自分で考えたオリジナルの新幹線をつくる子どももでてきた。このように、実物の新幹線を 見に行ってからも子どもたちの意欲は途切れることなく、むしろこのことによってさらに 高まり、思考の幅が拡がっていた。駅員さんに渡す新幹線のプレゼントと認定証などの行動 喚起の動機づけがさらに目標志向の動機づけを、そして行動強化の動機づけを高めたこと がわかる。
ドクターイエローつくりの活動は、実物の新幹線を見に行くという活動へと発展してい くが、新幹線の見学活動で一応の終結を想定していたものの、予想に反して子どもたちの活 動意欲は一層高まっていく。さらに充実した作品をつくり、次に述べるような異年齢・親子 交流へと発展していくのである。ここには、子どもの意欲が教師の想定以上に高まっていく という意味での、意識のずれが認められる。子どもの意欲や要求に応えるというかたちで活 動が方向づけられている。
●1月~2月 延長保育でも「新幹線づくり」の活動が広がっていく (1)行動喚起の動機づけ
3歳児で取り組んでいる「新幹線づくり」の活動を見て、他のクラスの子どもたちからも
「やりたい」との声が出て来た。それならばと隣のクラスの年中、年長児と一緒にやり始め た。すると今度は下のクラス(2歳児)からも「やりたい」との声が出てきたため、延長保 育で2~5歳児クラス全員でやることになった。
ここでは、他のクラスの友達と一緒に新幹線を作る活動を取り入れた。ここでの自信が後
128 の親子参観へと繋がっていく。
(2)目標志向の動機づけ
「迎えに来るお母さんに新幹線を見せてあげる」と、はりきって取り組み始めた。2歳児 にはかなり難しい箇所もあったが、お兄ちゃんに聞きに行ったり、「先生、ここどうやるの?」
と聞いたりしながら活動を進めていった。
(3)行動強化の動機づけ
迎えに来たお母さんの姿を見ると、真っ先に飛んで行って作った新幹線を見せていた。迎 えに来たお母さんも驚いて一緒に喜んでいた。お母さんが驚いて喜んでくれる姿を見てい ると、うれしくなったのか廊下で新幹線を走らせる姿があった。少したってから「ねぇ、先 生、線路つくろうよ」と言ってきたので「それ、いいね、次は線路つくろうか」と線路をつ くる活動へと展開していった。
●実践事例3「乗ってみたい新幹線をつくろう」(親子参観)
図4-16「お父さん、お母さん、こうするんだよ」
(1) 行動喚起の動機づけ
3月は参観行事が控えていた。子どもたちに「参観日があるんだけど、何しようか?」と 聞くと一斉に「新幹線つくろう」と言うので、満場一致で参観日は「新幹線づくり」に決定 した。子どもたちが「お母さんに新幹線の作り方教えてあげる」とはりきっていたので、親 子で一緒に作ってもらうことにした。図4-16はその時の様子である。
(2)目標志向の動機づけ
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図4-17「そうだ!ひらめいた」 図4-18「お父さん、こうして」
参観が始まると、子どもたちが普段何度も作っているものなので、「お父さん、こうする んだよ」と、牛乳パックを取ってきて早速とりかかっていた。すると、保護者の方もその姿 を見て自分もやろうと進んで子どもたちに質問をしたり、「こうする?」、「こうすれば?」
などの会話が飛び交っていた。他の子どもの作品を見ると、刺激を受けたお父さんが「こう してもいいんじゃない?」「こんな場合はどうするの?」などと問いかけ、子どもたちは「う ーん、ちがう、そうじゃなくて、こう」などと自分の意見を主張したりする場面が多く見ら れた。図4-17は、お父さんとの会話でひらめいたことを一人で試行錯誤している様子であ る。この子どもはお父さんとの会話からヒントを得た後、お父さんが手伝おうとしても「自 分でする」と言って、一人で取り組んでいた。このことから、お父さんとの会話が刺激にな り目標志向の動機づけに繋がったと考えられる。反対に図 4-18 の子どもは、「こうして」
「ここはこうじゃない、こんな感じにして」と、お父さんがいることで自分では作らず、要 求ばかりしていた。この子どもに関しては、「こうして」、「こうじゃない、こんな感じにし て」と言うのは自分のイメージする作品があるということなので、今後は自分のイメージす る作品に向かって試行錯誤しながら作っていくことができるような援助を行うことが課題 となる。
(3)行動強化の動機づけ
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図4-19「猫バスつくったよ」 図4-20「トッキュウジャーの新幹線」
図4-19の子どもは、最初猫のバスを作っていたが、お母さんとの会話から急遽羽を付け て「先生、猫バス」と言って見せに来た。作品としては、上部にパンタグラフがついている 新幹線(図4-17)、ねずみが上に乗っている新幹線(図4-18)、猫バスの新幹線(図4-19)、
トッキュウジャーの新幹線(図12)など、様々な親子合作の新幹線が出来上がった。それ ぞれの新幹線を持って壁にかけてある「新幹線マップ」の前で写真を撮ったりしていたが、
ふとしたきっかけで新幹線マップを床に置くことにした。すると、図4-21のように子ども たちは作った新幹線を、「新幹線マップ」の上で走らせて遊び始めたのである。
すると、子どもたちから「先生、これもっと大きくしよう」、「駅もつくろう」、「踏切もい るよ」との声が上がった。今後、子どもたちの興味は駅づくりから町づくりへと繋がってい くのかもしれない。
図4-21「新幹線マップ」
4、まとめ
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この実践は 6 か月間という長期間にわたり展開されたが、結果以下の成果がみとめられ た。
①経験のつながりが生まれたこと
②造形能力の高まりがみられたこと
③社会体験へと発展したこと
④コミュニケーションの広がりが得られたこと
子どもたちの日常生活における興味・感心をもとに設定した活動であるが、保育者が強引 に進めようとすると子どもとの間にずれが生じ、その都度修正を行いながら活動を展開さ せていったものである。その際、様々な場面での動機づけを意識することで「またやりたい」、
「次はこうしたい」という気持ちが芽生え、活動が連続的に展開されていった。当初は筆者 も活動の結末までは見通せておらず、子どもが次の活動を提案し、さらに次の活動へという ように発展していったのである。また、何度も繰り返し少しずつ新たな要素を加えながら活 動を行っていくことで子どもたちの造形能力も高まっていった。最初はほとんど保育者に 手伝ってもらっていた子どもが保育者の手を借りずに製作することができるようになった。
また、新大阪駅という実際の現場に行ってみるという体験活動を取り入れたことで、実物を 深く観察しその時の気持ちの高まりを参観という保護者とのかかわりにまで繋げていくこ とができた。保育者と子ども、子どもと保育者、保護者と保育者など様々なコミュニケーシ ョンが子どもたちの動機づけを深めている。子どもの動機づけにかかわる刺激は保育者が 与えるものというイメージがあるが、今回の実践では保護者からも、また子ども同士からも 生まれており、様々な要素が相互作用することで子どもがよりよく意欲を高めていく様子 が確認できた。
ある子どもはクラスが変わってからも筆者と出会うと「新幹線つくろうよ」と声をかけて きていた。新幹線づくりの意欲は活動が終わってからも持続している様子であった。6か月 におよぶ活動の中で経験した様々なことが、子どもの中にしっかりと根付いており、活動の
132 成果が身体化、生活化されているかに見える。
倉橋は「物」を介在させることで、「物」が語りかける保育を提唱しているが、今回の実 践では新幹線という「物」を介在させることで、「新幹線をつくる、新幹線を見に行く、新 幹線の作り方を教えてあげる」という子どもの動機に働きかけたのではなかっただろうか。
2章で取り上げた「動物園」や「八百屋」などの実践では、保育者が子どもの興味・関心を とらえ、適切な環境を設えておくことで、子どもの活動が多様に展開されていく様子が記さ れていたが、「新幹線」という興味の対象から多様な活動が引き出させたという点では倉橋 の誘導保育の考え方を現代における実践として再生させたともいえるのではないだろうか。
註)
1) 平原春好・寺崎昌男『新版 教育小辞典 第3版』、学陽書房、2011年、 p.251
2)桜井茂男『学習意欲の心理学-自ら学ぶ意欲を育てる-』、誠信書房、1997年、p.6
3)大田肇『承認欲求』、東洋経済新報社、2007年、p.27
4)同書、p.41 5)同書、p.41 6)同書、p.41
7)桜井、前掲書、p.26 8)桜井、前掲書、p.26
9)エドワード・デシ+リチャード・フラスト『人を伸ばす力』、新曜社、1999年、p.207
10)桜井、前掲書、p.24 11)桜井、前掲書、p.24 12)桜井、前掲書、p.24 13)桜井、前掲書、p.67 14)桜井、前掲書、p.67
133 15)桜井、前掲書、p.21
16)波多野誼余夫『知的好奇心』、中公新書、1973年、p.27
17)鹿毛雅治『子どもの姿に学ぶ保育者「学ぶ意欲」と「教育的瞬間」』、教育出版、2007年、
p.56 18)同書、p.57
19)デシ、前掲書、p.69
20)M・モンテッソーリ『創造する子供』、エンデル書店、1973年、p.167
21) M・モンテッソーリ『モンテッソーリの教育・0歳~六歳まで』、あすなろ書房、1994
年、p.109 22)同書、p.172 23)同書、p.172
24)新井邦二郎、『教室の動機づけの理論と実践』、金子書房、1995年、p.17
25)同書、p.251