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研究論文 経験年数の異なる 5 名の吹奏楽指導者の 演奏指導方法と指導観の比較 要旨 VTR PAC 4 キーワード PAC A comparative analysis of instruction styles and philosophies of five band instructors

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経験年数の異なる5名の吹奏楽指導者の

演奏指導方法と指導観の比較

宮崎大学 

菅     裕

要 旨

 本研究の目的は,経験年数の異なる吹奏楽指導者の演奏診断および演奏指導の方法,さらにその 背後にある指導観の違いについて分析することにより,演奏指導力の熟達化を特徴づける要因につ いて考察することにある。中学生による吹奏楽合奏VTR視聴中の各指導者の内言発話および各指 導者自身による合奏指導の内容のカテゴリー分析とPAC分析に基づくインタビューの結果,経験 年数が比較的短い4名の指導者が「正確な演奏の追求」を重視しているのに対し,経験年数の最も 長い指導者は,楽曲構造についての演奏者の総合的な音楽理解を促進し,それに基づく自発的・積 極的表現姿勢を引き出すことを重視していた。また経験年数が比較的短い指導者の中心的指導方法 が「指示」であるのに対し,経験年数の長い指導者の場合は「指示」の割合が相対的に低くなり「モ デリング」「理論的説明」「メタファー」「質問」の使用頻度が高かった。    キーワード:演奏診断,演奏指導,吹奏楽,PAC分析,教員養成

A comparative analysis of instruction styles and philosophies of

five band instructors with careers of varying lengths

Hiroshi SUGA 

Abstract

 The purpose of this research is to investigate key factors which characterize expertise in band instruction, by analyzing the manner in which five band instructors with careers of varying lengths diagnose and instruct musical performance, and the underlying beliefs about musical instruction held by these instructors. The four comparatively inexperienced instructors tended to emphasize precise performance, while the most experienced instructor emphasized performers’ comprehension of a piece and tried to nurture their self-motivation and enthusiasm to express their understanding musically. In rehearsal, the less experienced instructors tended to use mainly verbal instruction, while the more experienced instructors used relatively less verbal instruction, favoring other methods including modeling, theoretical explanation, metaphor and questions.

Keywords: Diagnosis and Instruction of Musical Performance, Symphonic Band, PAC Analysis, Teacher Training

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1 はじめに

 他者の演奏を診断し,そこから解決すべき課題を 発見し,適切な指導方法を選択することは,音楽科 教員を含む全ての音楽指導者にとって最も重要な能 力である。  しかしながら現在の音楽科教員養成カリキュラム における音楽能力育成は,ピアノや声楽を中心とす る実技学習とソルフェージュなどによる記譜・読譜 トレーニングが中心であり,他者の演奏診断や演 奏指導について学習する機会は少ない。演奏指導 の基礎となる問題発見(error detection)の能力は, 他の音楽的能力や音楽理論の学習とは独立して発 達することが先行研究から示唆されており(Brand

& Burnsed 1981; Crowe 1996; Van Oyen & Nierman

1998),演奏実技を中心とする現在の大学での学習 だけで演奏指導力を高めていくことには限界があ る。実際,教育実習に赴いた学生が,大学で専門的 な声楽のレッスンを受講しているにもかかわらず, 中学生の合唱を前にして,何をどのように指導して よいかわからずに戸惑ってしまう光景は決して珍し いことではない。演奏指導力の獲得は,教育現場に 出てからの実践経験に依存しているのが実情である。  音楽教育の現場において要求される演奏指導力を 準備するためのより効果的なカリキュラムの構築の ために,まず演奏指導力の構造とその熟達プロセス についての基礎的な知見を得る必要がある。  演奏指導は一般的に,指導者が問題を発見する たびに演奏をストップさせ,演奏者に何らかの指 示を行ってから再び演奏を開始させるやり方で行 われる。このとき熟練指導者は,経験の浅い指導者 と比較して,頻繁に演奏をストップし,短時間に多 くの指示を与えて演奏を再開させることがわかって いる。これに対し,経験の浅い指導者の指導ペース は遅く,また指示や明確なフィードバックを与えな いままに再スタートすることが多い(Worthy 2006; Goolsby 1997)。  また先行研究では,情緒的表現の指導に関して は,言語的説明よりもメタファーや非言語的モデル 提示の方が効果が高いこと(Lehmann 1997),教師 自身もメタファーやモデル提示が効果的であると 考えていること(Lindstrom et al. 2003)が明らかと なっている。その一方で,モデル提示は指導者の望 む演奏を正確に模倣させるには効果的であるが,必 ずしも演奏者の自律的な表現変化を引き出すことが できず(Woody 2006),場合によっては演奏者のよ り高度な音楽的思考を阻害する恐れがあることも指 摘されており(Lehmann 1997; Laukka 2004),効果 的な演奏指導方法についての見解は一致していな い。指導者が,どのような観点から演奏診断を行い, そこから何を目的としてどのような指導方法を選択 しているのかについて分析する必要がある。  そこで本研究の目的は,経験年数の異なる吹奏楽 指導者の演奏診断および演奏指導の方法,さらにそ の背後にある指導観を比較し,演奏指導力の熟達化 を特徴づける要因について考察することにある。

2 演奏診断様式の比較

2 . 1 手続き  本研究に協力したのは現職の教員を中心とする5 名の吹奏楽指導者である(表1)。  刺激VTRとして使用したのは,平成18年7月に 撮影された宮崎県内中学校吹奏楽部による宮崎県吹 奏楽コンクール前々日練習演奏を録画したものであ る1)。再生VTRの視聴の時期や条件は,時間的制

1)演奏曲は,平成 18 年度吹奏楽コンクール課題曲「海へ・・・吹奏楽のために」(三澤慶作曲)および"Flashing Winds"(Jan Van der

Roost作曲)の2曲で,約 30 秒の中断を挟み,続けて演奏されている。中断を含む視聴VTRの再生時間は約 12 分である。指揮は同

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約などにより指導者ごとに若干異なるが,再生の画 質や音質に大きな違いはない(表2)。  5名の各指導者に刺激VTRを視聴させ2),視聴 中の内言発話(thinking aloud)を記録した。さら に各指導者の発話を,表2に示すカテゴリーに分 類した。これらのカテゴリーは,関連する先行研 究(Goolsby 1997; Chaffin & Imreh 2001; Young et al.

2003; Broomhead 2006)を参考にして設定し,調査 2)演奏診断と合奏指導における5名の指導者のすべての発話の中から、無作為に 100 項目の発話を抽出し,定義についての十分に打ち 合わせを行った大学院生にそれぞれの発言内容について,セカンドコーディングを実施させたところ,一致率は 83%であった。 表1:研究協力者の吹奏楽指導実績及び VTR 再生環境 指導者A 宮崎大学教育文化学部音楽科所属3年生。女性。大学吹奏楽団の学生指揮者。 吹奏楽指導経験は1年。吹奏楽コンクール九州大会において銀賞の成績。 平成18年8月。25型TVによる再生。 指導者B 鹿児島市内高等学校音楽科教諭。男性。 吹奏楽指導経験約4年。鹿児島県吹奏楽コンクールにおいて銀賞の成績。 平成19年7月。Macintosh PowerBook及び外部スピーカーによる再生。 指導者C 鹿児島市内高等学校音楽科教諭。男性。 吹奏楽指導経験約10年。鹿児島県吹奏楽コンクールにおいて銀賞の成績。 平成20年8月。Macintosh PowerBook及び外部スピーカーによる再生。 指導者D 鹿児島市内高等学校音楽科教諭。男性。 吹奏楽指導経験約13年。3年連続全日本吹奏楽コンクールへの出場。 平成19年7月。Macintosh PowerBook及び外部スピーカーによる再生。 指導者E 鹿児島市内高等学校音楽科教諭。男性。 吹奏楽指導経験20年以上。一般市民吹奏楽団を指導して全日本吹奏楽コンクールへの出場。 平成18年8月。25型TVによる再生。 表2:指導内容に関するカテゴリー 音色・音質・アーティキュレーション 個々の楽器の音の音色や音質,およびスタッカートやテヌート,スラーなどの 処理に関する内容。 テンポ・リズムの正確さ アインザッツのタイミングやリズムの同期など,いわゆるタテの正確さに関する内容。但し速度変化による表現は含まない。 音程の正確さ 個々の音やハーモニーの構成音の音程の正確さに関する内容。 奏法・テクニック ブレスコントロールやフィンガリングなど,楽器の奏法やテクニックに関する内容。 バランス・ブレンド 楽器間やセクション間のバランス,全体的なサウンドの質に関する内容。 強弱表現 音量変化による表現に関する内容。 速度表現 速度変化による表現に関する内容。 グルーピング・フレージング・構成 複数の音のグルーピングや旋律のフレージング,楽曲の構成に関する内容。 不明 発言内容や前後の文脈から判断できなかったもの。 その他 練習態度や連絡など直接,音楽的な内容とは関係しない内容。

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の中で統合,細分化を行った2) 2 . 2 結果  VTR視聴中の発言数を比較すると,指導経験の 長い指導者ほど発言数が多く,短時間により多くの 問題を演奏から発見できていることがわかる。最も 指導経験の長い指導者Eは,発言回数は少ないが, 1回の発話量は最も多い。また指導者A,B,C, Dは発見した事実を断片的に語る傾向にあるのに対 し,指導者Eは複数の事実を関係付けながら,その 原因や解決の方法について,推論的に詳細な発話を 行っている。  発言内容についてみると,比較的指導経験の浅い 指導者A,B,Cは,各指導者によって項目に偏り があるものの,全体の3割以上の指導枠において, <音色・音質・アーティキュレーション><テン ポ・リズムの正確さ>など,音楽の表層的な要素に 関する指摘を行っている。これに対し指導経験が比 較的長く,またコンクールで高い実績を上げている 指導者D,Eの場合,相対的にこれらの内容につい ての発言は少なくなり,かわって指導者Dは<バラ ンス・ブレンド>,Eは<グルーピング・フレージ ング・構成>と,表現解釈にかかわるより全体的・ 総合的内容について発話する傾向が見られた3)

3 合奏指導の分析

3 . 1 手続き  前述の5名の指導者のうち,指導者A,B,D, Eの4名の指導者4)による合奏をVTRに録画し, 合奏中の指導者の指導内容や指導方法また指導後の 演奏方法について,カテゴリー分析を行った。その 際,指導者が演奏者の演奏を止めた時点から,何ら かの指導行為を施した後に再び演奏を再スタートさ せ,演奏が再び指導者によって止められるまでを1 つの指導枠と定義し,これを分析の単位とした。  指導者A,B,Eは,普段指導を行っている大学 生または高校生のバンドへの指導,また指導者D は,指導者Aが学生指揮者を務めている大学生バン 3)演奏診断分析の詳細は,拙著(2008)を参照。 4)指導者Dの取材時期がコンクール終了後となり,基礎練習中心の合奏であったため,合奏分析の対象からは外した。 表3:各指導者のVTR視聴中の発言内容に関するカテゴリー分析結果 音 色 ・ 音 質 ・ ア ー テ ィ キ ュ レ ー シ ョ ン テ ン ポ ・ リ ズ ム の 正 確 さ 音 程 の 正 確 さ テ ク ニ ッ ク ・ 奏 法 バ ラ ン ス ・ ブ レ ン ド 強 弱 表 現 速 度 表 現 グ ル ー ピ ン グ ・ フ レ ー ジ ン グ ・ 構 成 不 明 そ の 他 総 発 言 数 A 3% 35% 10% 6% 6% 10% 0% 3% 13% 13% 31 B 34% 10% 7% 0% 27% 5% 0% 2% 12% 2% 41 C 33% 29% 13% 2% 10% 2% 0% 2% 4% 2% 48 D 11% 18% 13% 1% 40% 2% 0% 1% 10% 3% 87 E 13% 13% 13% 13% 0% 13% 6% 56% 6% 19% 16

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ドへのゲスト指導者としての指導を分析の対象とし た。実施時期は,指導者AおよびEは平成19年8月, 指導者BおよびDは平成20年7月で,いずれの合奏 も,各バンドが吹奏楽コンクールでの演奏を予定す る約1週間前の練習である。合奏の内容はいずれも 演奏楽曲の技術的課題の最終チェックと表現解釈の 確認が中心である。指導時間は指導者Aが約68分, 指導者Bが約42分,指導者Dが約38分,指導者Eが 約88分であった。  指導内容のカテゴリーは演奏診断に使用したもの と同じである(表2)。合奏分析では,これに加え て指導方法と演奏方法のカテゴリー分析を実施した (表4,表5)。 3 . 2 結果  表6,7,8は,各指導者の合奏指導の内容,指導 方法,指導後の演奏方法をカテゴリー分類し,それ ぞれの使用頻度の結果を,総分析枠数に占める各内 容および各方法が取り上げられた分析枠数の割合と して示したものである5)。これらの使用頻度の結果 と合奏中の実際の発言内容をもとに,各指導者の合 奏の特徴について分析を行った。  Aの指導は,その大半が<テンポ・リズムの正確 さ><音程の正確さ>に関する課題に向けられてい る。指導の方法は指示中心であり,指導を行わずに 演奏を再スタートすることが多い。<フィードバッ ク>の頻度が高くなっているが,その発言の大半は 「そうそう」「合ってないね」などのように,短い言 葉で発せられており,演奏の具体的状況を演奏者に 伝えるものとはなっていない。また指導枠の約半分 で行われている<短いフレーズの抽出練習>でも, 特に指示やフィードバックを与えることなしに「も う1回行きます」と声をかけ,何度も同じ場所を演 奏させている。指導のペースは全体的にきびきびし ているが,個々の指導の具体性は乏しい。  Bの指導も半分が<テンポ・リズムの正確さ>に 向けられている。指導の方法は,指示が中心で,演 奏は全員合奏のみ,抽出練習はまったく行われてい ない。<バランス・ブレンド><強弱表現>につい ての発言頻度が高くなっているが,実際の発言では 「バランスが悪い」「もうちょっと聞こえてもいいか も」など,修正の方向や程度が曖昧である。 5)複合的な内容の場合,複数の項目に重複して分類されているので,合計は100%ではない。 表4:指導方法のカテゴリー 指示 修正する対象とその方向性を言語的に 伝える指導。 モデリング 範唱や実演による指導。 説明 修正内容の根拠や効果を理論的に説明 する指導。 メタファー 「∼のように」などメタフォリカルな 言語表現による指導 質問 演奏者への問いかけ。 フィードバック 修正前の演奏の状態や修正内容の達成 度について伝えること。 表5:演奏方法のカテゴリー 全員演奏 全演奏者による演奏。 一部の演奏 一部の楽器,もしくは個人による演奏。 アーティキュレー ションの一時的変化 「スラーをはずす」「スタッカートをつけ る」など作曲者の指示とは異なるアーティ キュレーションに一時的に変更すること。 テンポの一 時的変更 作曲者の指定とは異なるテンポに一時的に 変更すること。 リズムの一 時的変更 「タイを外す」「休符に音符を埋める」な どのリズムの一時的変更。 短いフレーズ の抽出練習 4小節程度より短い部分を抜き出して繰り 返し演奏すること。 指揮なし 指導者が指揮をせず,メトロノームやお互 いのアイコンタクトのみで演奏すること。

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 指導者A,Bの指導方法の大半は<指示>によっ て行われている。しかしながらその発言の内容は 「もっと縦を合わせて」や「もうちょっとテンショ ン落としてください」のように,具体的に何をどの ように修正すればよいのかについて不明確なものが 多い。  Dの指導の内容もその半分が<テンポ・リズムの 正確さ>に向けられている。その指導方法は,直 前の演奏から発見した問題点を演奏者へフィード バックすることが中心であるが,指導者Aとは異な り「ホルンがついてきてないよ」「3,4拍目ちょっ と停滞するかな」のように,発見した問題の対象や 状況が明確に伝えられている。修正の方向について 指導者が明示的に指示することは少ないが,そのか わりに,意図的に指揮を外すことによって演奏中に 注意深く聞き合うことを要求したり,質問すること によって個々の演奏者の表現意図を確認する作業を 行ったりするなど,演奏者の自主的な調整作業を促 進しようとする意図がうかがえる6)。また<短いフ レーズの抽出練習>は,問題を発見した演奏箇所に ついてより正確な演奏診断を行う目的で用いられて いる。例えば「ラッパはちょっと外してくれる?」 「今度は伸ばす人遠慮して」のように少しずつ演奏者 の数を縮小しながら,短いフレーズを繰り返し演奏 させる中で,課題を抱えている演奏者を特定しよう とする場面がこれに当たる。細部の問題を一つひと つ丁寧に解決していく緻密な指導がDの特徴である。  Eの合奏では個々の音の正確さに関する指導は少 なく,代わりに<音色・音質・アーティキュレー 6)合奏直後のインタビューの中で,指導者Dはこのことについて,合奏での自分の役割は「交通整理」であると表現している。 表7:各指導者の合奏指導方法に関するカテゴリー分析結果 指  導  の  方  法 指 示 モ デ リ ン グ 理 論 的 説 明 メ タ フ ァ ー 質 問 フ ィ ー ド バ ッ ク 指 導 な し 指 導 枠 数 A 58% 20% 6% 1% 1% 42% 29% 141 B 80% 8% 0% 20% 0% 28% 12% 25 D 16% 1% 4% 0% 12% 27% 54% 83 E 25% 58% 32% 17% 14% 17% 15% 59 表6:各指導者の合奏中の指導内容に関するカテゴリー分析結果 指   導   の   内   容 音 色 ・ 音 質 ・ ア ー テ ィ キ ュ レ ー シ ョ ン テ ン ポ ・ リ ズ ム の 正 確 さ 音 程 の 正 確 さ 呼 吸 ・ 息 の 流 れ バ ラ ン ス ・ ブ レ ン ド 強 弱 表 現 速 度 表 現 グ ル ー ピ ン グ ・ フ レ ー ジ ン グ ・ 構 成 不 明 そ の 他 指 導 枠 数 A 6% 37% 13% 0% 3% 14% 3% 8% 12% 8% 141 B 26% 48% 0% 9% 35% 39% 0% 13% 17% 0% 25 D 3% 50% 11% 3% 11% 8% 5% 0% 3% 16% 83 E 48% 15% 0% 13% 2% 40% 8% 42% 2% 4% 59

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ション><グルーピング・フレージング・構成>に ついての指導が,他の指導者に比べて非常に多く なっている。また楽曲の構造理解に基づく強弱表現 や,奏法の指導による音質の改善など,1つの指導 枠内で複数の課題を複合的に取り上げて指導してい る。直接的な指示はあまり多くなく,モデリングや 理論的な説明を組み合わせた詳細な指導が行われて いる。  5人の指導者の合奏指導内容を比較すると。指導 者A,B,Dの合奏練習では,テンポ・リズムおよ び音程の正確さについて取り上げる場面が全体の約 50∼60%を占めている。これに対し,指導者Eの指 導では,<音色・音質・アーティキュレーション> と<グルーピング・フレージング・構成>について の指導が中心で,さらに1つの指導枠の中で複数の 課題について関連づけながら指導することが多かっ た。この結果は,前述した演奏診断についての分析 結果に対応するものであり,また経験の浅い指導者 ほど個々の音の音程やリズムの正確さに執着するの に対し,熟練した指導者ほどアーティキュレーショ ンや全体的なサウンドに時間をかけ,複数の表層的 な課題を関連づけて複合的に指導する傾向にある とする先行研究の結果とも一致する(Goolsby 1997; Bergee 2005; Worthy 2006)。  演奏修正の方向性を示す「指示」「モデリング」 「理論的説明」「メタファー」の4つの指導方法につ いて比較してみると,指導者A,B,Dの場合,修 正する対象とその方向性を直接言語的に伝える「指 示」が中心となっている。これに対し,指導者Eは それ以外の方法,特に「モデリング」と「理論的説 明」の割合が非常に高い。  指導の後の演奏では,指導者Bが全員による演奏 のみを行っていたことを除き,A,D,Eとも一部 の演奏者のみに演奏させる場面を挿入している。ま た指導者Dは,それに加えて,スラーやタイを外 して正確なリズムを確認させたり,意図的に指揮動 作をやめて演奏者同士にテンポの間合いを計らせた りするなど,いわば脱文脈化した形での多様な演奏 方法を積極的に組み合わせた指導を行っている。

4 指導観に関する PAC 分析

4 . 1 手続き  各指導者の指導の背後にある考え方について調査 するため,指導者A,B,C,Eの4名の指導者に 対しPAC分析を実施した7)  PAC分析は,個人別の態度構造を測定するため に内藤哲雄が開発した手法である(内藤1997)。 PAC分析では,まず被験者に当該テーマ,本研究 では「あなたが吹奏楽を指導する際,演奏を向上さ せる上で重要だと考えていること,あるいは指導者 として心がけていること」に関する自由連想を行わ せる。次に連想された各項目間の類似度を評定さ せ,その評定値に基づく類似度距離行列をもとにク 7)実施時期はいずれも平成20年8月である。指導者Dについては,離島への転勤のためインタビューの機会が得られなかった。 表8:各指導者の演奏方法 演       奏   全 員 演 奏 一 部 の 演 奏 ア ー テ ィ キ ュ レ ー シ ョ ン の 一 時 的 変 更 テ ン ポ の 一 時 的 変 更 リ ズ ム の 一 時 的 変 更 短 い フ レ ー ズ の 抽 出 練 習 指 揮 を 外 す 指 導 枠 数 A 33% 65% 1% 7% 13% 50% 0% 141 B 100% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 25 D 37% 63% 19% 8% 16% 36% 34% 83 E 58% 37% 0% 0% 0% 15% 0% 59

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ラスター分析を実施する。さらにそれによって得ら れたデンドログラムを被験者自身に見せ,クラス ターのイメージや解釈をインタビューによって収集 する。このことにより各クラスターがどのような個 人的経験に由来しているのか,あるいはどのような 感情的・連想的意味を持つのかを現象学的に明らか にすることが可能となる。今回の分析では,土田義 郎の開発したPAC分析支援ツール8)を使用した。 4 . 2 結果  指導者Aは演奏に関して明確な理想像を語ってい ない。彼女にとって最大の関心事は,バンド内での 8)PAC分析支援ツールの詳細は,土田義郎研究室ホームページ内,http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/~tsuchida/lecture/pac-asist.htmを参照。 ⮤ฦ䛴᭜䛱ᑊ䛟䜑⩻䛎(䛙䛴᭜䜘䛯䛌䛝䛥䛊䛑)䜘䛝䛩䛑䜐䛮ᣚ䛪䚯 䜽䜷䜦䝮䞀䝋䜧䝷䜴䜘ㄙ䜎䜐䜈⣵䛑䛕䛟䜑䚯 㒂ဤ䛴᭜䛱ᑊ䛟䜑ၡ㢗ណㆉ䛴⤣ୌ ⮤ฦ䛥䛧䛴ⁿ዇䜘ᐂびⓏ䛱⫀䛕ሔ㟻 ୌெ䛸䛮䜐䛒㡚ᴞ(᭜)䛱ᑊ䛟䜑⩻䛎䜘ᣚ䛪䛙䛮䚯 䛯䛴㒂ဤ䛱ᑊ䛝䛬䜈ᖲ➴䛱䚯䛸䛊䛓䛰䛯䛵䛝䛰䛊䚯 㒂ဤ䛴䝊䝷䜻䝫䝷䛴⥌ᣚ䚮㞗୯ງ䛴⥌ᣚ ⁿ዇⩽䛴ណず䜘⪲䛕䛙䛮䚯 ୌெ䛸䛮䜐䛒⩻䛎䛬䛊䜑᭜䛱ᑊ䛝䛬䛴᝷䛊䜘ᘤ䛓ฝ䛟䛙䛮䚯 㒂䛴䜄䛮䜄䜐 䝕䞀䝌හ䛴⤎ᮨ 䝕䞀䝌㛣䛴㏻ᦘ(༝ງ䛟䜑) 図1:指導者 A のデンドログラム ᭜䛴ධమാ䜘᥏䜆 䝙䝰䞀䜾វ䜘㣬䛌 ࿣ྺ 䝊䝷䝡 ᢷᏄវつ 㡚⛤វつ䜘㣬䛌 䝓䞀䝦䝏䞀 ධమ䛴䝔䝭䝷䜽 ⦆⩞䛴ຝ⋙໩ ᴞㄊ 図2:指導者 B のデンドログラム

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人間関係を円滑にすることであった。「指導の方法 を誤ることでバンドのメンバーに嫌われてしまうの ではないか」との不安が非常に強く,その不安が彼 女にとってもっとも重要な行動指針となっている。  指導者Bは,インタビューの中で「自分の中で正 確な音楽をしないといけないというのがあって」と 述べており,正しい音程と安定したテンポの維持を 自身の指導者としての役割と捉えている。その一方 で「生徒から『先生のリタルダンドのかけ方はパ ターン化している』と指摘された」と述べるなど, 自らの正確さへのこだわりが演奏を硬直化させてい るのではないかとの反省に言及している。個々の演 奏者が正確に楽譜を再現でき,それを指揮者が安定 した指揮で統率することをひとつの理想の演奏状態 と考えている。しかしながら演奏者と指導者が共同 で取り組むバンド全体としての課題意識については ᬉṹ䛴⾔ິ䛱㈈௴䜘ᣚ䛥䛡䜑䚯䛈䛊䛛䛪䜊᫤㛣ཚᏬ➴䚯 ⮤ฦ௧አ䛴ெ䛴Ẵᣚ䛧䜘⩻䛎䜏䜒䜑ெ䛱䛰䜑䚯 វㅨ䛴Ẵᣚ䛧䜘ᣚ䛩䛬Ὡິ䛟䜑䚯(ΰᤪ䛰䛯) ┘ᵾ䜘䛈䜑⛤ᗐ᪺☔䛱ᏽ䜇䟾䛣䜒䛱ྡྷ䛗䛬䜄䛮䜄䜐䜘䛪䛕䜑䚯 ᴞჹ䜘ⁿ዇䛝䛬䛊䛬ᴞ䛝䛊䟾䜦䝷䜹䝷䝚䝯䛩䛬ᴞ䛝䛊䛮ᛦ䛎䜑䜄䛭䛱䛰䜑䚯 ᴞჹᮇᮮ䛴㡚䛒ฝ䛡䜑䜎䛌䛱ᇱ♇⦆⩞䜘ᚥᗇ䛟䜑䚯 ᴞㆍ୕䛴㡚㔖䜊⾪᝗䛱㛭䛟䜑エྒ䜘ᚽᐁ䛱⾪⌟䛟䜑䚯 㡚ᴞ䜘䚸ḯ䛎䜑䚹䜎䛌䛱䛰䜑䛥䜇䛱ḯ၌(ྙ၌)䛱ཱི䜐⤄䜆䚯 䜦䝷䜹䝷䝚䝯䜘⮤ⓆⓏ䛱ᴞ䛝䜇䜑䜎䛌䛱ཱི䜐⤄䜄䛡䜑䚯 䝮䜾䝤䛵䟾⣵䛑䛊༟న(㡚➚)䛱├䛝䛬ḿ☔䛱ⁿ዇䛟䜑䚯 䝓䞀䝦䝏䞀វ䜘㣬䛌䛥䜇䛱䟾ḯ䛭䝓䞀䝦䝏䞀䜘ష䜑䚯 ྻ዇ᴞჹ䛴ᇱᮇ䛭䛈䜑࿣ྺ䜘䟾䛝䛩䛑䜐䛭䛓䜑䜎䛌䛱䛟䜑䚯 ⦆⩞䛴┘Ⓩ䛱䛪䛊䛬⩻䛎䛰䛒䜏⦆⩞䜘䛟䜑䜎䛌ᚨ䛒䛗䜑䚯 ᴞㆍ䜘ᚽᐁ䛱ྻ䛕䛥䜇䛱䟾㡚➚䛴㛏䛛䜘ḿ☔䛱ྻ䛑䛡䜑䚯 図3:指導者 C のデンドログラム ᭜䜘⌦ゆ䛟䜑䛙䛮 ᴞ䛝䜆䛙䛮 䝙䝰䞀䜾䜘វ䛞䜑䛙䛮 ᴞㆍ䛑䜏䛴㊝㞫䜘㐪䛜䛗䜑䛙䛮 ᜝䛴Ὦ䜒䜘ష䜑䛙䛮 䛭䛓䜑䛦䛗㛏䛕䝙䝰䞀䜾䜘䛮䜏䛎䜑䛙䛮 䝮䝭䝇䜳䜽䛛䛡䜑䛙䛮 ⦆⩞୯䛱➏䛌䛙䛮 㞗୯ງ䜘ಕ䛥䛡䜑䛙䛮 ୕༖㌗䜘⬲ງ䛛䛡䜑䛙䛮 ᜝䜘䛥䛕䛛䜙ྺ䛌䛙䛮 ᜝䜘ྺ䛌䝃䜨䝣䝷䜴䚮㏷䛛䚮῕䛛䜘䛣䜓䛎䜑䛙䛮 ⮤↓䛰Ⓠ㡚 䜦䝃䝇䜳(䝃䝷䜲䝷䜴)䛴⛸㢦䜘౐䛊ฦ䛗䜑䛙䛮 ࿔䜐䜘⫀䛕䛙䛮 䝓䞀䝦䝏䞀䛴୯䛱⁈䛗㎰䜄䛡䜑䛙䛮 䝕䞀䝌හ䛴䝔䝭䝷䜽䜘ᩒ䛎䜑䛙䛮 䝕䞀䝌㛣䛴䝔䝭䝷䜽䜘ᩒ䛎䜑䛙䛮 䝕䞀䝌䛴ᙲ๪䜘វ䛞䜑䛙䛮 䝕䞀䝌හ䛭᜝䛴⛸㢦䜘䛣䜓䛎䜑䛙䛮 ྜྷᒌᴞჹ䛴䝔䝭䝷䜽䜘ᩒ䛎䜑䛙䛮 図4:指導者 E のデンドログラム

(10)

まったく語られていない。  インタビューの中で指導者Cは,デンドログラム 内の第1群について「吹奏楽の顧問である前に音楽 の教員である」と説明している。吹奏楽を通じて生 徒の音楽的・人間的な成長をはかることを強調して いることが,彼の指導観の特徴である。個人が基礎 練習を通じてまず正確に,楽譜に忠実に演奏できる ようになることが効率的な合奏の前提条件であると 考えていることは,Bの考え方によく似ている。ま た集団として取り組むべき音楽的な課題についても 「楽譜に忠実に」「正確に」演奏することが,重要な キーワードとなっている。  指導者Eはインタビューの中で「演奏者一人ひと りの理解」という表現を繰り返し使っている。彼は, ピッチや音色を指導者が一方的にコントロールする のではなく,演奏者が楽曲の構造を理解しその中で 自分の役割を考えていくことによって,必要となる 技術を高め,自発的に音楽表現をつくっていくこと が理想であると考えている。またデンドログラム内 の第1群と第4群が,「指導者が先頭に立って集団 で取り組むべき課題」で,第2群と第3群が「個々 の演奏者が取り組むべき課題」であると述べてお り,指導者の責任と演奏者の責任を明確に区別して いる。この中で指導者の役割は「全体を相手にした 指導をやるのが基本」であるが,但しそれは「指導 者と演奏者の意思の疎通」があってはじめてできる ことであり,「『飛び込み』で新しい集団の指導をす るときには,個人レベルの指導から始めることが多 い」とも述べている。指揮者を含む演奏集団として のバンドの成長を課題としていることが,Eの特徴 である。

5 考察

 演奏診断,合奏指導分析,PAC分析を通じて, 経験年数が比較的短い4名の指導者を特徴付ける要 素として浮かび上がったのは「正確な演奏の追求」 であった。彼らは演奏診断において,リズムや音程 などの個々の音の不正確さを中心に指摘する傾向に あり,また合奏では,個々のリズムや音程の修正を 目的として短いパッセージの繰り返し練習に重点を 置く傾向にある。  これに対し経験年数の長い指導者Eは,楽曲構造 についての総合的な音楽理解,つまり各部分の分節 点や変化と対比の関係,緊張感の推移などについて の演奏者の全体的理解を促進し,それに基づく自発 的・積極的表現姿勢を引き出すことを重視している。  サンプルが非常に少ないためこれらの特徴が直ち に指導者の熟達度の違いを反映するものであるかど うかの判断は慎重でなければならない。しかし経験 の浅い音楽家ほど楽曲に対し個々の要素的課題から ボトムアップにアプローチするのに対し,熟練者は 楽曲全体の構造的理解からトップダウンにアプロー チする傾向にあることは,器楽指導者やピアニスト あるいは作曲家などのさまざまな音楽家を対象と する先行研究からも示唆されている(Gruson 1988;

Colley et al. 1992; Bergee 2005)9)

 また経験の浅い指導者A,Bの合奏練習では, <指示>が指導方法の中心となっていた。これは合 奏指導における彼らの主要な関心が個々の音の「正 確さ」に向けられているために,演奏を判定し修正 9)例えばGruson(1988)は,経験年数の異なるピアニストの練習様式の分析から,熟練した演奏家は,練習の際,楽曲を階層的に組織 されたパターンに分解し,さらにそれらをいくつかの独立した,しかし連結するセクションへと細分化する傾向にあると述べている。 このため熟練した演奏家は,エラーの修正のために,個々の音ではなく構造的ユニット全体を練習する傾向にある。これに対し経験 の浅い演奏家は,楽曲を個々の独立した音の蓄積による不定形な総体(an amorphous whole)と認識する傾向にあり,このため経験の 浅い演奏家の練習は,個々の音や短い小節の繰り返しになることが多いことを明らかにしている。

(11)

方向を伝達することが指導者の役割の中心課題とな りやすいためだと考えられる。指導者Dも同様に 「正確さ」を重視しているが,指導の場面では直接 指示を与えるよりも演奏者の自主的な調整作業を促 す場面が多かった。さらに指導者Eの場合には個々 の音の正確さをターゲットとする指導は少なく, <モデリング><理論的説明><メタファー><質 問>など多様な方法で演奏者の楽曲理解をはかり, そこから演奏者自身の主体的な音楽表現を引き出す ことが意図されている。Tait(1992)は,「自分の 役割を教えることに限定する教師は,単なる情報の 伝達者,スキルの訓練者になり,その指導方法は限 定され,柔軟さを欠く」のに対し,「自分の役割を 進行役(facilitator)と考えている教師は,個々の生 徒の成長に資する環境を整え,その教え方は幅広く 多様である」と述べている(p. 531)。この伝達者・ 判定者としての役割からファシリテーターとしての 役割への指導者観の転換は,熟達化を特徴づける重 要な要因として今後注目すべきであると考える。

6 おわりに

 今回の研究からは,各指導者の演奏診断や合奏指 導の様式が,楽曲に対するアプローチの方向性や指 導者としての役割認識と深く関連していることが示 唆された。実技を含む大学での学びの中で,演奏す る楽曲の理解や習得の方法についてどのような指導 が行われ,教員を目指す学生たちがそれをどのよう に受け止めているか,またそのことが教育実習など における彼ら自身の演奏指導スタイルとどのように 関係しているかについて調査する必要がある。  しかしながら前述したように,サンプル数が非常 に少ないため,今回の結果が指導者としての熟達度 を反映するものなのか,それとも性差や指導者自身 の音楽家としての経験や専門的力量など,その他の 要因によるものなのかについては,より慎重な判断 が必要であり,今後の課題としたい。  今後は,吹奏楽だけではなく合唱やピアノなど他 の演奏指導者へと対象を広げ,演奏診断・指導様式 と楽曲へのアプローチや指導観との関連についてさ らに詳細な分析を進めていきたいと考えている。

【引用・参考文献

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参照

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