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50 日本植物病理学会報第 76 巻第 3 号平成 22 年 8 月 い. 品種の多様性こそがチューリップの魅力であり, 少数の抵抗性品種を選定しただけでは問題は解決されない. さらに, 育種年限が約 20 年と長く, その成果を待つには時間がかかりすぎる. 抵抗性の遺伝様式等を解析するのが困難であ

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平成 22 年度 日本植物病理学会大会

講演要旨

国立京都国際会館

(平成 22 年 4 月 18 日~ 20 日)

Abstracts of the Papers Presented at the Annual Meeting of the Society

Kyoto, April 18–20, 2010

I. 課題別シンポジウム

「環境保全型農業を推進する病害防除技術の普及にお

ける課題と新たな展開」

(1) 黒木修一 宮崎県における IPM 技術普及の現状と 展望 Kurogi, S.: Current Status and Perspective of Integrated Pest Management(IPM)System in Miyazaki Prefecture. 宮崎 県の施設園芸において,微生物や天敵を利用した総合的病 害虫防除技術が普及しつつある.総合的防除法は個別技術の 組み合わせにより成立するが,多様な個別技術の組み合わ せは,現地の状況に則った総合的防除法を提案できる一方 で,その複雑さから栽培現場での知識の混乱を生じさせる こともある.このため宮崎県の普及組織の活動では,技術に なじみの薄い生産者でも取り組め,安定した効果を得られ る方法を提案するよう努めている.基本的な方針としては, 作物を問わず施肥・かん水等の栽培管理の適正化を基礎と して,微生物殺菌剤の使用を第一段階,昆虫寄生菌製剤の 使用を第二段階,天敵製剤の利用を第三段階として,段階 順に,生産者が必要とする段階までの技術を導入すること を推奨している.それぞれの段階に取り組む際に補助とな る機材の導入支援など,宮崎県における IPM 技術普及の現 状と今後の方向について紹介する. (宮崎県営農支援課) (2) 猫塚修一 リンドウで近年問題となっている褐斑 病の発生生態と効果的な防除体系 Nekoduka, S.: Ecology and Control of Brown Leaf Spot on Gentian Caused by Myco-chaetophora gentianae. リンドウ褐斑病は,いったん発生す るとその後の防除が困難な病害であり,1999 年以降岩手県 をはじめとするリンドウ産地で問題となっている.病原菌 は長らく不詳とされてきたが,近年,小林ら(2009)によ り不完全菌のMycochaetophora gentianaeであることが明らか にされた.一方で,本病の発生生態については知見が全く なかったので,演者は 2000 年~ 2009 年にかけて,病原菌 の生活環と,岩手県における発生生態および防除適期を検 討した.その結果,第一次伝染源は前年の罹病残さであり, その越冬性や伝染性が高いことが明らかになった.また, 第二次伝染源は葉上病斑であり,雨滴を介して飛沫伝染す ると考えられた.病原菌の感染は,15 ~ 25°C の温度域で 可能であるが,少なくとも 36 時間以上の長時間の葉面の濡 れを必要とした.これら生活環や発生生態に関する知見を 基に,圃場における本病の感染時期や発生特徴と気象要因 の関係について解析した.さらに,本病に対する防除法と して耕種的防除と化学的防除の実効性について考察した. (岩手農研) (3) 守川俊幸1・多賀由美子2・向井 環3・堀井香織3・ 桃井千巳1・森脇丈治1 チューリップにおける土壌伝染性 ウイルス病の耕種的防除と課題 Morikawa, T., Taga, Y., Mukai, T., Horii, K., Momonoi, K. and Moriwaki, J.: Cultural Control of Soil-Borne Viral Diseases in Tulip. チューリップ 球根産地では Tulip streak virus による条斑病と Tulip mild mottle mosaic virusによる微斑モザイク病の被害が拡大して いる.このような防除困難な土壌伝染性ウイルス病を克服 した事例の多くは,抵抗性品種の利用,作期の変更などの 耕種的手法の導入によるものである.我々はこれまで 500 を超える品種について,圃場検定等により抵抗性の評価を 行い,それぞれのウイルス病に対して約 20%の品種が実用 的な抵抗性を有することや,抵抗性を支配する品種の生理 的・生態的特性を明らかにした.また,遅植え栽培がウイ ルスの感染回避に有効であることを明らかにした.以上の 情報は生産現場および育種で活用されているが課題は多

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い.品種の多様性こそがチューリップの魅力であり,少数 の抵抗性品種を選定しただけでは問題は解決されない.さ らに,育種年限が約 20 年と長く,その成果を待つには時間 がかかりすぎる.抵抗性の遺伝様式等を解析するのが困難 である.加えて,媒介菌の生態解明が進んでいない.今後, 技術的なブレイクスルーが必要であろう. (1富山農総セ・2新川農振セ・3砺波農振セ) (4) 鍛治原寛1・吉村美沙子1・大永美由紀2・井上 興1・中保一浩3 「高接ぎ木」によるトマト青枯病の防除 Kajihara, H., Yoshimura, M., Oonaga, M., Inoue, T. and Nakaho, K.: Control of Bacterial Wilt of Tomato by Top-Grafting on Resistant Rootstocks. 近年,施設による夏秋トマト栽培 では,青枯病が多発生し,大きな問題となっている.青枯 病の防除技術として,主に抵抗性台木利用の接ぎ木(接ぎ 木部位は子葉上)栽培が行われているが,その効果は必ず しも十分ではない.これまでに抵抗性トマト台木品種は青 枯病菌に無病徴感染するものの,植物体内での菌密度及び 感染率は上位の茎部になるほど低下することを報告した (Nakaho,1997).そこで,抵抗性台木の本現象を利用し, 防除効果の向上を目的に高位葉部で接ぎ木を行う「高接ぎ 木」による青枯病の発病抑制効果を検討した.抵抗性の台 木トマト品種の検討では,いずれの品種でも「高接ぎ木」 の効果は認められ,特に「B バリア」,「レシーブ」が優れて いた.接ぎ木葉位の検討では,第 2 葉以上の「高接ぎ木」で 発病抑制効果が認められた.青枯病未発生ほ場での生育・ 収量は,慣行接ぎ木栽培と同等であった.2009 年から,「高 接ぎ木」によるトマト土壌病害の総合防除技術の開発を目 指し,農水省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開 発事業」で共同研究を行っている. (1山口県農林総セ・2美祢農林・3中央農研) (5) 梁 宝成1・小坂能尚2・片桐伸行1・安原壽雄1 農 薬登録された弱毒ウイルス製剤の普及展開 Ryang, B., Kosaka, Y., Katagiri, N. and Yasuhara, H.: Diffusion of the Attenuated Virus Formulation as a Registered Biocontrol Agent. 全国のキュウリ産地ではズッキーニ黄斑モザイクウイルス (ZYMV)による被害が多発している.この ZYMV に対して 高い防除効果を示す弱毒株2002を主成分とする凍結乾燥製 剤を開発し,本剤は 2008 年 4 月に生物農薬として新規に登 録された.製剤を接種したキュウリの苗数は,2008 年度で は 7 府県 37,000 株,2009 年度では 24 府県 81,000 株と利用 の途についたところである.一方では,今後の普及の鍵を 握る重要な課題も顕在化した.技術的には,接種作業の機 械化等による簡易・効率化と感染率の高位安定化である. また,現地で被害をもたらしている病原ウイルスが判然と しないまま,強い要望に応じて実証試験に踏み切った事例 も多く,発生情報の把握やウイルス診断において地元の公 的指導機関との連携が不可欠である.さらに,弱毒ウイル ス製剤が上市した例はまったくなかったことから,農薬と して十分に周知されておらず,化学農薬とは異なる特質を 生産者に認識してもらうことも重要と考えられる.今後は, こうした課題を着実に解決しながら弱毒ウイルス製剤を普 及展開していきたい. (1京都微研・2京都農技セ生資セ) (6) 篠原弘亮 作物に生息している細菌群の解析とそ の利活用 Shinohara, H.: Analysis of Microbial Community on Crops and Its Application to Disease Control. 微生物を用いて 効率的かつ安定的に作物病害を防除するためには,作物体 上に生息している微生物の群集構造を明らかにすることが 重要である.そこで,慣行栽培したイネ(品種:コシヒカリ) の葉鞘などから細菌を分離し,分離株の 16S rDNA の塩基 配列を基にイネに生息する細菌の群集構造を検討した.イネ 葉鞘では,Acidovorax 属,Methylobacterium 属,Microbacterium 属および Sphingomonas 属の細菌が 106~ 107cfu / gの密度で 優占的に生息していた.特に Sphingomonas 属の細菌は,全 体の約 30 ~ 70%を占めておりイネ葉鞘に最も優占的でか つ安定して生息している菌群であった.その後,イチゴ葉 はイネ葉鞘と同様の群集構造であることが明らかとなって いる.さらに.ムギ類やトマトなどはイネ葉鞘と異なる群集 構造であることも明らかとなっている.作物体上に生息して いる微生物の中で優占的な菌群が存在した場合,それら菌 群はその作物に定着して増殖する能力が高い菌群である. それの菌群から病害防除に有用な菌株が得られれば,さら に効果の高い防除法の開発が期待できる. (東京農大農)

「植物―微生物相互作用の分子解析の最前線」

(1) 白石友紀 植物 – 病原菌相互作用研究のこれまで とこれから Shiraishi, T.: Research on Plant–Microbe Interac-tions—Past and Future. 植物 – 病原菌相互作用研究は,ゲノ ミクスを背景に,ここ十年間で長足の進展を見せている. 特に,抵抗性情報伝達系の解明は目覚ましく,情報伝達分子 さらにはネットワークの解明が進んでいる.一方,罹病化へ のプロセスについては,これまで,多くの研究事例はなかっ たが,植物病原細菌の avr の作用が明らかになるにつれて, その産物が防御システムを抑制する組合わせのあることも 報告されるに至っている.一方,宿主特異的毒素研究では, LOV遺伝子を持つシロイヌナズナは,エンバクビクトリア 病に罹病性で,宿主特異的毒素ビクトリンに感受性である ことも判明した.さらに,この遺伝子は,抵抗性遺伝子

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RPP8 のホモログであることが明らかにされ,抵抗性遺伝 子=罹病性遺伝子という極めて興味深い話題が示されてい る.今回,エンドウ褐紋病菌が生産するサプレッサーによ る防御システムのオン,オフの流れ(Toyoda et al.),罹病化 へのコンディショニングに関しても紹介したい.また,今 後の相互作用研究に期待される課題についても提案した い. (岡山大院自然科学) (2) 渋谷直人・賀来華江 パターン認識受容体を介し た植物免疫制御機構 Shibuya, N. and Kaku, H.: Regulation of Plant Immune Responses through the Perception of MAMPs by Pattern-Recognition Receptors. 植物は微生物に特徴的な 分子群(Microbe/Pathogen-Associated Molecular Patterns: MAMPs/PAMPs)を認識してさまざまな防御応答を開始し, その侵入を防ぐ能力をもっている.このシステムは PAMP-Triggered Immunity(PTI)と称され,植物の基礎的病害抵 抗性において重要な役割を果たしている.キチンは菌類の 細胞壁を構成する主要成分であり,多くの植物がキチン断 片(キチンオリゴ糖)を認識し,PTI を誘導する能力をも つことが明らかになっている.われわれは最近,イネとシ ロイヌナズナにおいて,キチンエリシターによる防御応答 誘導で主要な役割を果たしている 2 種類の受容体分子 (CEBiP および CERK1)を同定した(Kaku et al.,2006,PNAS 103: 11086–11091; Miya et al., 2007, PNAS 104: 19613–19618). 今回のシンポジウムでは,これらの受容体分子を介したキ チンオリゴ糖の受容と防御応答シグナル伝達を中心に議論

する. (明治大農)

(3) 曵地康史1・大西浩平2・木場章範1 感受性の成立 に関わる侵入直後の青枯病菌と宿主植物との相互作用 Hikichi, Y., Ohnishi, K. and Kiba, A.: Interactions between Host Plants and Ralstonia solanacearum Immediately after Invasion Are Implicated in the Disease Susceptibility. 傷口等から植物 の根に侵入した青枯病菌 Ralstonia solanacearum は,細胞間 隙にコロニー化した後,polygalacturonase の働きにより侵 入した導管を介して全身移行する.導管で著しく増殖した 青枯病菌では,クオラムセンシングにより脱抑制した転写 制御タンパク質PhcAが,菌体外多糖とpectin methylesterase や β-1,4-endoglucanse 等の植物細胞壁分解酵素の生産を誘 導する.その結果,木部組織の水分通導能が弱められ,感 染植物は萎凋症状を呈する.感染直後の細胞間隙に生存す る青枯病菌と感染植物との相互作用により,青枯病の発病 の有無が決定されることに着目し,青枯病菌は,感染過程 に応じて,hrp 遺伝子,植物細胞壁分解酵素遺伝子および 菌体外多糖合成遺伝子などの病原性関連遺伝子の発現を巧 妙に制御することを明らかにした.その結果を基に,青枯 病菌 – Nicotiana benthamiana 植物の感受性成立機構の一端 を解明した.本講演では,感受性の成立に関わる侵入直後 の青枯病菌と宿主植物との相互作用について分子遺伝学 的・分子生物学的実証事例を紹介する. (1高知大農・2高知大総研セ) (4) 多田安臣 サリチル酸依存的シグナルネットワー クにおけるタンパク質翻訳後修飾の役割 Tada, Y.: Role of Post-Translational Modifications in Regulating Salicylic Acid Signaling. 転写機構の正確な活性調節は,発生過程や環境 刺激に応答する上で極めて重要な役割を担う.転写の一過 的な活性化や抑制は,非常に多くの転写制御因子により調 節されているが,どのようにそれらのタンパク質が制御さ れているかは不明な点が多い.近年の研究により,タンパ ク質の翻訳後修飾は,転写制御因子の局在,立体構造や安 定性に寄与する事が明らかになってきており,植物におい ても特に免疫応答時に生じるダイナミックな遺伝子発現に は様々な翻訳後修飾が必須であることが示されている.植 物の病害抵抗性反応を誘導するサリチル酸は,鍵転写コア クチベーターである NPR1 を介して防御関連遺伝子群を発 現する.演者らは,NPR1 の活性化及び非活性化には,リン 酸化,ユビキチン化を介した分解,さらに細胞内レドック スに基づいたジスルフィド結合やS-ニトロシル化が必須で あることを明らかにした.これら個々のタンパク質翻訳後 修飾間のクロストークは,NPR1 の時間的・空間的な活性 化に重要であると考えられ,SA シグナル伝達の根幹を為す ものである. (香川大遺伝子) (5) 島本 功 Rac GTPase によってオーガナイズさ れるイネの自然免疫 Shimamoto, K.: Rice Innate Immunity Organized by Rac GTPase. 我々はこれまで,イネ Rac/Rop small GTPaseに属する OsRac1 がイネの自然免疫において 分子スイッチとして働くことを明らかにしてきた.RNAi 個 体の解析から,OsRac1 は PAMP 経路と R 遺伝子経路の両 方で機能し,活性化した状態で細胞膜に結合し,複合体を 形成することが示唆された.複合体を形成するタンパク質 としては,1)PAMP レセプター及び NB-LRR 型細胞内レセ プター,2)SGT1,RAR1,HSP90,HSP70,Hop/Sti1 など のシャペロンや RACK1,3)NADPH oxidase や CCR(リグ ニン合成),などが同定された.我々は,このイネの自然免 疫を制御する複合体を“defensome”と呼び解析を進めてい る.最近,キチンレセプター OsCERK1 は RacGEF と結合 し,OsRac1 を活性化すること,NB-LRR 型細胞内レセプ ターは直接 OsRac1 に結合し,OsRac1 を活性化することを 明らかにした.さらに,PAMP レセプターの小胞体から細 胞膜への輸送に defensome の構成タンパクが関与すること

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も明らかにした.これらの最新の結果について発表する. (奈良先端大バイオ)

「最近の Pythium 属菌による病害の発生動向」

(1) 築尾嘉章 花き病害における Pythium 病の位置 Chikuo, Y.: Status of Pythium Disease on Flower Diseases. 日 本植物病名目録電子版(2009)によると草花の種類は 470 種類で約 4,000 の病害が記録されている.このうち Pythium 属菌が関与する病害はわずか 49 病害(種数では 91 種)で ある.本菌の多様性,多犯性を鑑みると花き病害に Pythium 病が少ないのではなく,未記録の Pythium 病害が多数残さ れていると考えるべきである.花き病害に関与するPythium 属菌は現在,22 種類である.種別では aphanidermatum, myriotylum,irregulare,spinosum,splendens,ultimum var. ultimumの順に出現頻度が高い.前 2 者は特に高温性菌と して知られているし,記録の上では数が少ない helicoides は 近年報告が増えている.これらは今後栽培環境の高温化に 伴い増加が予想される.また一つの植物で複数の Pythium 属菌が関与することが多いのも本属菌の特徴と思われる. たとえば,キク・ピシウム立枯病では 6 種類の Pythium 属 菌が関与する.発生地域・作型で分離菌も異なるが,これ らのうち sylvaticum,oedochilum,dissotocum は同時に分離 された.以上のような Pythium 病について概観したい. (花き研) (2) 景山幸二 Pythium 属菌の分子診断の原理・技法 Kageyama, K.: Principle and Technique of Molecular Diagnosis for Pythium Species. Pythium属菌は 120 種以上と種数が多 く,形態もきわめて似たものが多いことから,形態による 同定には熟練が必要である.そこで,形態的特徴に加え rDNAの ITS 領域の塩基配列を調べ,DNA データベースに よる塩基配列の相同検索から種の候補をみつけることが多 くなってきている.Pythium 属菌での最近の画期的な出来 事は Lévesque and de Cock(2004)が,世界的に最もよく 使われている van der Plaats-Niterink(1981)の形態による 分類検索表に掲載されている菌株について rDNA-ITS 領域 の塩基配列を DNA データベースに登録したことである.す なわち,塩基配列から高い信頼度で種の同定が可能となっ てきている.塩基配列の相同性検索で注意しなければいけ ないのは,登録されている菌株の同定の信頼度である. Lévesque and de Cock(2004)が検証した菌株との相同性が 高ければ問題ないが,そうでない場合は登録されている菌 株の同定を引用論文から検証をしなければいけない.

(岐大流域研セ)

(3) 鈴木幹彦 生産現場における Pythium 属菌による 病害の発生状況と対応 Suzuki, M.: Instances and Manage-ment of Disease Caused by Pythium Species in Agricultural Pro-duction Field. Pythium属菌による病害は日本国内では2009 年 11 月時点で 136 品目 289 病害報告され,最近 10 年間で は 56 品目 86 病害が報告されている.特に施設栽培品目で の P. aphanidermatum,P. myriotylum,P. helicoides 等の高温性 菌による病害が多くみられ,静岡県内でもメロン根腐萎凋 病,イチゴピシウム根腐病,バラ根腐病等これらの病原菌 による病害がみられる.伝染源を調べると苗や資材による 持込みが一員と考えられる事例が多々確認されている.病 害防除に関しては薬剤処理となるが,農薬登録数は少なく, 有効薬剤メタラキシルに対する耐性も報告されており,発 生後の有効な防除手段が少ないのが現状である.このため 生産現場にいかに菌を持込まないかが重要となっている. Pythium属菌の検出には Morita and Tojo(2007)の選択培地 が有効で,葉ショウガ産地の静岡市では罹病塊茎のほ場へ の持込防止のため,高温培養と組合せた簡易診断法に活用

している. (静岡農林研)

(4) 草刈眞一 養液栽培における病害の発生状況と傾 向について Kusakari, S.: Situation of the Occurrence and Tendency of Disease in Hydroponics. 養液栽培の病害発生で は,培養液を介して伝搬する根部病害の被害が多い.養液 栽培を湛液式と固形培地方式に分類して発生する病害を調 査すると,前者では,Pythium, Phytophthora 属菌等鞭毛菌 類に起因する病害発生が多く,後者では,Pythium 属菌に 加えて Fusarium 属菌他,多種の土壌伝染病性病原菌による 病害発生も認められる.また,養液栽培では,土耕栽培と は異なりOlpidium等のマイナーな病原菌により根が侵され る大きな被害の見られることもある.Pythium 属菌による 根腐病は,湛液式では,遊走子による伝搬が主因で,急速 に蔓延し被害が大きい.固形培地方式では,培地の汚染の 他,遊走子による伝染もあり,蔓延速度は遅い傾向がある. 養液栽培における病害蔓延は,培養液に病原菌の伝搬が主 であるが,発生原因が,罹病苗,資材汚染に起因している ことが多く,発病抑制には,培養液の殺菌システムの導入 とともに,健全苗の確保,資材の殺菌,圃場の衛生管理が 重要となる. (大阪環農水総研) (5) 渡辺秀樹 底面給水方式の鉢花生産におけるPythium 病害の生態と防除 Watanabe, H.: Occurrence and Control of Pythium Disease in Production of Potted Flowers Using Sub-Irrigation Systems. 近年,鉢花生産は Ebb and Flow やマット 給水などの底面給水技術の普及によって大規模化が進んで きた.これらの施設では,養液の循環利用が増加している

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一方で,Pythium 属菌をはじめとした水媒伝染性病原菌に よる被害が問題となっている.しかしながら,被害発生要 因についてはこれまで十分解明されていないことが多かっ た.そこで,鉢花生産環境における Pythium 病害の生態を 明らかにするため,捕捉法やメンブレンフィルター法を用 いて伝染経路について調べた.その結果,Pythium 属菌は 培土や苗を通じて施設内へ侵入するリスクが高く,施設内 に侵入した病原菌は潜在感染苗や輪作品目などを通じて施 設内を経年伝染する可能性があること,出荷後のベンチや 資材の洗浄が不十分な場合は,それによって新たな苗へ伝 染するリスクが高いことが分かった. これらの研究から, 従来から考えられてきた圃場衛生の重要性を実証すること ができた.今後,特に施設栽培では従来の病原菌の同定診 断に加え,生産施設の安全性診断・第二次伝染経路診断と いう総合的な診断が必要である. (岐阜農技セ)

II.口頭発表

(1) 小林咲麗1・埋橋志穂美2・東條元昭1・柿嶌 眞2 日本新産 Pythium nunn の P. ultimum var. ultimum に 対する拮抗性 Kobayashi, S., Uzuhashi, S., Tojo, M. and Kakishima, M.: Characterization of Pythium nunn Newly Recorded in Japan on Antagonistic Activity against P. ultimum var. ultimum. Pythium nunn(PN)は非病原性のピシウム属 菌であり,P. oligandrum(PO)と同様に,土壌に接種すると P. ultimum var. ultimum(PU)などによる作物の病害を抑制 することが知られている.本種はこれまで米国内でのみ報 告されていたが, 2003 年に長野県の畑土壌から,また 2007 年に福岡県の林地土壌から,PN と考えられる種がそれぞれ 1菌株ずつ分離された.形態や rDNA ITS 領域の塩基配列を 調べ,これらが PN であることを確認した.両菌株の PU に 対する拮抗性を寒天培地上での対峙培養で調べたところ, PNの両菌株は,PU の菌糸に貫入して原形質を破壊するな どの拮抗反応を示した.また,キュウリ種子を PN の接種 土壌で包み込んで,PU の汚染土壌に播種したところ,PU による出芽前苗立枯れに対して抑制効果を示した.このよ うな PN の発病抑制効果は,比較に用いた PO の場合よりも 低かった. (1大阪府大院生環・2筑波大院生環) (2) 岩舘康哉・猫塚修一 転炉スラグ資材施用による キュウリホモプシス根腐病の発病抑制効果 Iwadate, Y. and Nekoduka, S.: Efficacy of Application of Converter Furnace Slag to Control of Cucumber Black Root Rot. キュウリホモ プシス根腐病の発病と土壌 pH の関係を明らかにするため に,土壌酸性改良資材である転炉スラグを用いて本病の発 病抑制効果をポット試験と圃場試験で検討した.ポット試 験は,現地汚染土壌に転炉スラグを段階的に施用し,土壌 pHを 5.8 ~ 11 の範囲内で 7 水準に調整した.これら汚染土 壌にキュウリ自根苗を定植し,35 日後に各区の草丈,本葉 枚数,地上部生重量,地下部生重量および根部の発病度を 調査した.その結果,土壌 pH が高い区ほど生育量が大き く,根部の発病度は低くなる傾向が認められた.次に,前 年に本病が多発生した現地 2 圃場において土壌pH が 7以上 となるように転炉スラグを 2.5 t/10a 施用したところ,無処 理区では萎凋・枯死株率がそれぞれ 3.5%,1.7%であった. 一方,2 圃場とも転炉スラグ処理区では萎凋・枯死株は見 られず,根部の発病度も無処理区に比較して低かった.以 上から,転炉スラグ処理によって,本病の発生を抑制でき ることが明らかとなり,発病抑制効果には土壌 pH の上昇 が関係していると考えられた. (岩手農研セ) (3) 生咲 巖 アスパラガス茎枯病に対する各種マル チ処理の発病抑制効果 Kisaki, G.: Effect of Various Multi-Processing for Asparagus Stem Blight Caused by Phomopsis asparagi. アスパラガス茎枯病の第一伝染源は前年作の罹 病残渣等である(酒井ら,1992)といわれており,その第 一伝染源密度の低減と第一伝染源からの雨滴はね上げ感染 を遮断する方法として,堆肥の畝上面施用やメデルシート マルチなどを行うことが有効であるとされている(福富ら, 1992;酒井ら,1992).香川県の露地長期どり栽培アスパラ ガスにおいて,堆肥の畝上面施用とメデルシートマルチの 併用および花崗土敷設による茎枯病の発病抑制効果を検討 した.牛糞堆肥とメデルシートマルチ(黒色,みかど化工 社製)を併用した結果,無処理との比較では区によって効 果にばらつきがあり発病抑制効果は判然としなかった.花 崗土は 12 月の茎葉刈取り後に,罹病残渣等が被覆されるよ う畝上面に 2 cm 度敷設した.翌年の 4 月下旬から 7 月中旬 の発病調査で,無処理と比較して 7 日程度発病が遅れ,7 月 中旬で無処理が発病度31.2 に対して花崗土敷設が 25.5と発 病がやや抑制され,花崗土敷設前に石灰窒素を 60 kg/10a 施 用することにより発病度 9.3 とさらに発病を抑制すること ができた. (香川農試) (4) 矢野和孝・森田泰彰 ナス黒点根腐病に対する土 壌灌注剤の効果について Yano, K. and Morita, Y.: Effect of Fungicides for Soil Drench against Black-Dot Root-Rot Caused by Colletotrichum coccodes on Eggplant. ナス黒点根腐病に 対する土壌灌注剤の効果について検討した.直径 10.5 cm のポットに植えた 1 ~ 2 葉期のナス台木(品種名:台太郎) に,17 薬剤をそれぞれ 100 ml 灌注し,その翌日に約 105個 /mlに調整した病原菌の分生子懸濁液を30ml灌注接種した.

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30日後に根の褐変の有無を調査した結果,アゾキシストロ ビン(A)剤,フルジオキソニル(FO)剤,キャプタン (C)剤,ジチアノン(D)剤,プロピネブ(P)剤およびフ ルアジナム(FA)剤で根の褐変が見られず,高い効果が認 められた.しかし,C 剤,D 剤,P 剤および FA 剤では,生 育抑制などの薬害が発生した.そこで,更に 2 ~ 8 倍希釈 した低濃度処理で薬害の軽減を試みたが,効果も低下した. A 剤および FO 剤は薬害が認められず,また,病原菌接種 後の処理でも効果が高かった.A 剤の 100 ppm,FO 剤の 100 および 200 ppm 液を定植直前,定植 9 日後および 38 日後に 3 L/m2灌注処理した圃場試験においても,防除価はそれぞ れ 79.4,72.1,88.2 を示し,防除効果が認められた. (高知農技セ) (5) 越智昭彦1・小林 研2・中山夏希2・山下貴史2 水 稲種子に対する乾熱空気処理がいもち病菌および発芽に与 える影響 Ochi, A., Kobayashi, K., Nakayama, N. and Yamashita, T.: Effect of the Treatment of Dry Heat Air on Rice Seeds for the Prevention of Rice Blast Fungus and Seed Germination. 近年,化学合成農薬に頼らない水稲の種子消 毒法として温湯浸法が普及しているが,処理後に種子を貯 蔵する場合は乾燥工程が必要なことから,作業能率の改善 が求められている.本研究では処理後の乾燥工程が不要な, 新たな高能率種子消毒技術開発の資とするため,高温の乾 熱空気を利用した種子消毒基礎試験装置(生研センター, 2009)を用い,所定の乾熱空気による処理がいもち病菌お よび種子の発芽に与える影響を調査した.熱処理条件は, 温度 6 段階(490,535,660,790,835,875°C),曝露時 間 2 段階(0.09,0.135 秒),熱処理の回数 4 段階(4 ~ 7 回) の組合せのうち,8 試験区を設定し,常法に従って種子の 籾および玄米表面におけるいもち病菌の胞子形成の有無と 発芽率を調査した.曝露時間が 0.09 秒の場合,いずれの試 験区でも発芽率は無処理と同等で籾表面の胞子形成もみら れなかった.ただし玄米表面において胞子形成が確認され たことから,実用化にはさらなる条件検討が必要であると 考えられる. (1山形農総研セ・2生研センター) (6) 浅利正義 リンゴ紫紋羽病に対する液状複合肥料 地表面灌注処理の発病抑制要因 Asari, M.: Mechanism of Suppressive Effect on Violet Root Rot by Treatment with a Paste Fertilizer onto Soil Surface Layer around the Trunk Base of Apple Plants. 液状複合肥料(TP)の地表面灌注処 理(S 処理)がリンゴ紫紋羽病に対して発病抑制効果を示 した(浅利,2008)ことから,その効果発現機構について 検討した.TP の成分である窒素,リン酸,カリの希釈液を それぞれ S 処理した土壌の菌糸伸長抑制作用を試験管培養 法で調べた結果,窒素として供試した尿素の処理土壌が強 い菌糸伸長抑制作用を示した.しかし,尿素 1%添加 PD 培 地での本病菌の生育は,無添加 PD 培地での生育とほぼ同 程度でほとんど影響されなかった.一方,炭酸アンモニウ ム 1%および 0.1%添加 PD 培地は強く生育を抑制し,炭酸 アンモニウム S 処理土壌も試験管培養法で強い菌糸伸長抑 制作用を示した.また,尿素,TP の S 処理土壌は炭酸アン モニウムの S 処理土壌と同様に,土壌 pH が上昇し,アン モニア態窒素が増加した.これらのことから,TP の地表面 灌注処理は TP の主成分である尿素が処理後土壌中で炭酸 アンモニウムを生成し,菌糸伸長抑制作用および発病抑制 効果を示すことが示唆された. (秋田農技セ果試) (7) 外側正之1・西島卓也2・片山晴喜2 静岡県におけ るストロビルリン系剤耐性チャ輪斑病菌の発生 Togawa, M., Nishijima, T. and Katayama, H.: Occurrence of Strobilurin Resistance of Pestalotiopsis longiseta, the Causal Fungus of Tea Gray Blight, in Shizuoka Prefecture. チャ輪斑病はチャ主要 病害の 1 つである.本病に対し,ストロビルリン系殺菌剤 は高い防除効果を有することから,全国の茶産地で 1990 年 代後半より基幹防除剤として使われている.ところが,2008 年鹿児島県において,実用濃度での耐性菌が検出され防除 効果も低下している事例が報告された(富濱ら,2009).静 岡県では2000年以降本剤を農作物病害虫防除基準に採用し ていることから,静岡県における耐性菌の発生実態を調査 した.静岡県下主要 5 地区(富士山麓,静岡市,磐田原, 牧之原・相良,川根)において,病害虫防除所巡回調査地 点を始めとする合計 59 ほ場から病斑を採取し,合計 1,034 菌株を分離して実用濃度での検定に供した.その結果,富 士山麓・静岡市・磐田原の 3 地区については,耐性菌が全 く検出されなかった.これに対し,牧之原・相良地区およ び川根地区では耐性菌が検出された.特に,牧之原相良地 区は44%のほ場で検出され,20%の菌株が耐性菌であった. この内 3 ほ場については,防除効果が低下しているとの連 絡を受け,耐性検定を実施したほ場であった. (1静岡茶研セ・2静岡防除所) (8) 綿打享子1・功刀幸博1・鈴木俊二2・村上芳照1 ス トロビルリン系薬剤耐性ブドウべと病菌の発生 Watauchi, K., Kunugi, Y., Suzuki, S. and Murakami, Y.: Occurrence of Strobilurin-Resistant Strains of Plasmopara viticola, the Causal Fungus of Grapevine Downy Mildew. 2009年,山梨県でブ ドウべと病が多発し,薬剤の効力低下が疑われた.そこで 多発圃場からブドウべと病菌を採取し,アゾキシストロビン 剤に対する感受性検定を行った.常用濃度のアゾキシスト ロビン剤を散布した鉢植えの「ネオ・マスカット」の葉に,

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1× 105個 /ml に調整した分生子懸濁液を噴霧接種し,20°C の湿室条件下に保った.その結果,対照菌株では発病が認 められなかったが,県東部および西部からの 6 菌株では無 散布と同程度の発病が認められた.うち 2 菌株について同 様にクレソキシムメチル剤に対する感受性を調べた結果, 無散布と同程度の発病が認められ,クレソキシムメチル剤 に交差耐性を示した.また,チトクローム b 遺伝子の PCR-RFLP 解析を行った結果,生物検定で感受性であった対照 菌株の PCR 産物は制限酵素 ApeKI で切断されなかったが, 耐性の 6 菌株は全て切断が確認され,チトクローム b の 143 番目のアミノ酸がグリシンからアラニンに変異しているこ とが示唆された.以上から,県下で初めてストロビルリン 系薬剤耐性ブドウべと病菌の分布が確認された. (1山梨果試・2山梨大) (9) 渡辺秀樹1・桑原圭司2・杖田浩二3・堀之内勇人1・ 石井英夫4 トリフルミゾール耐性トマト葉かび病菌の発 生 Watanabe, H., Kuwabara, K., Tsueda, H., Horinouchi, H. and Ishii, H.: Occurrence of Triflumizole-Resistant Passalora fulva Strains of Tomato Leaf Mold. 岐阜県のトマト産地で は,葉かび病菌に対するトリフルミゾール(TF)の効果低 下が懸念されているため,現地から葉かび病菌を採集し, TFに対する感受性を培地上で検定した.TFを添加したPDA 培地(0 ~ 1024 µg/ml の 15 段階)に,県内から分離した 11 菌 株(2007 ~ 2008 年分離)および MAFF 保存 8 菌株(1966 ~ 1973年分離)の菌糸磨砕液を置床して 25°C で 14 日間培養 した.その結果,MAFF 菌株では TF の MIC 値はいずれも 0.5μg/ml 以下であったのに対して,県内分離株ではすべて 4μg/ml 以上で,1000 μg/ml 以上でも生育する菌株が認めら れた.そこで,TF 水和剤(有効成分 30%)の 3000 倍希釈 液を散布したトマト苗に,供試菌株の胞子懸濁液を接種し て発病程度を調べた結果,防除価は 3 ~ 100 と菌株間で明 らかに差が認められたことから,TF に対する耐性菌の存在 が示唆された.県内の 42 農家から採集した 205 菌株につい て培地検定を行ったところ,MIC 値が 100 μg/ml 以上を示 す菌株が 80%,うち 1000 μg/ml 以上が 17%を占め,本菌の TF感受性がかなり低下していた. (1岐阜農技セ・2岐阜防除所・3岐阜農技課・4農環研) (10) 竹本周平1,2・中村 仁1・佐々木厚子1・島根孝典1  新種の白紋羽病菌Rosellinia compactaの特徴と特異的 プライマーによる R. necatrix との識別 Takemoto, S., Nakamura, H., Sasaki, A. and Shimane, T.: Characteristics of a New White Root Rot Fungus, Rosellinia compacta and Differen-tiation by PCR with Specific Primers for R. necatrix. 日本各 地で採集した Rosellinia. necatrix様の子座標本に対する分類 学的再検討の結果,茨城県桜川市の林地で枯死広葉樹(樹 種不明)地際部から採集された 2 標本は,最も近縁の R. necatrixよりも子座が小さく(1.13–1.71 × 0.99–1.36 mm; 平 均 1.43 × 1.16 mm),子のう胞子が長い([34.0-]44.2–62.5 × 5.0–10.9 µm; 平均 52.2 × 7.5 µm)ほか,既知種とは分子系統 的にも異なっていることから,新種 R. compacta S. Takemoto として記載された(Takemoto et al., 2009).本菌は,菌糸の 隔壁近傍の洋梨形の膨らみや分生子柄束などの形態および 分離菌の接種によるキバナルピナスとリンゴ台木上での病 徴・標徴は R. necatrix のものに酷似しているが,Schena et al. (2002)のプライマーによる R. necatrix 特異的 PCR では増 幅産物を生じず陰性となる.しかし R. necatrix にも,例外 的に陰性となり本菌と識別のできない分離株が見出されて いる(Takemoto et al., 2009).そこで新たに兼松ら(1998) の R. necatrix 特異的プライマーを用いたところ,例外は認 められず両種が識別できた. (1果樹研・2現:農環研) (11) 近藤賢一1・中村 仁2・岩波靖彦1・吉沢栄治1 ブルーベリーに発生した Rosellinia necatrix による白紋 羽病(新称) Kondoh, K., Nakamura, H., Iwanami, Y. and Yoshizawa, E.: White Root Rot of Blueberry Caused by Rosel-linia necatrix. 2008年長野県北部,翌年県東部においてブ ルーベリーの‘コリンズ’等一部品種に,樹勢衰弱を経て 枯死に至る被害が発生した.被害樹では根部が腐敗し表面 には白色綿毛状の菌糸束がみられた.形成層部には菌糸束が わずかに観察された.被害組織からは PDA 培地上での菌叢 が白色,菌糸の隔壁近傍に洋梨形の膨らみを伴う糸状菌が 分離された.屋外に放置した被害根には分生子柄束が形成 され,分生子柄上にシンポジオ型,無色,単細胞,倒卵形 の分生子が形成された.また黒褐色,球形,大きさ 1.3–2.0 × 1.2–1.8mm の子座が形成され,内部に黒褐色,長紡錘形, 大きさ 43.2–51.7 × 5.9–7.5 μm の子のう胞子が認められた. これら形態はTakemoto et al.(2009)によるRosellinia necatrix Prill.の記載と一致し,分離菌を用いたR.necatrix特異的PCR (兼松ら,1998)で増幅産物が得られたことから,R.necatrix と同定した.分離菌を‘コリンズ’に接種したところ原病 徴が再現され,腐敗部から同一菌が再分離された.本種に よるブルーベリーの病害は未報告であり,ブルーベリー白 紋羽病と呼称したい. (1長野果試・2果樹研) (12) 岩波靖彦1・中村 仁2・浅利正義3・佐野輝男4・ 近藤賢一1 りんご樹に発生した葉巻萎縮病(病名再提案) Iwanami, Y., Nakamura, H., Asari, M., Sano, T. and Kondoh, K.: Occurrence of Apple Leafroll Dwarf on Apple Trees. 平成 21 年度大会においてリンゴ新病害として,秋田県から「萎縮 病」,長野県から「さび色萎縮病」が報告されたが,両者は,

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その病徴に若干の違いがあるものの,同一の病害である可 能性が高いと考えられた.そこで,秋田分離株と長野分離 株について比較検討した.PDA 培地上ではいずれも気中菌 糸のやや多い,菊花状を呈する白色菌叢を形成した.また, 長野県において両菌株の含菌寒天片をりんご品種‘ふじ’ の当年枝に有傷接種した結果,同一の症状を示すことを確 認した.発病枝からは接種菌が再分離された.両県におけ る病微を包括的に表現できる新たな病名として,葉縁が裏 側に巻き込む症状からリンゴ葉巻萎縮病(英名:Apple Leafroll Dwarf)を提案する.上記報告では病原として,秋 田菌株は rDNA ITS 領域の塩基配列から Nemania sp.,長野 菌株は形態から Geniculosporium sp. と推定・同定している が,完全世代(Nemania 属)の形態は未確認であるので, Geniculosporium spp.としたい. (1長野果試・2果樹研・3秋田果試・4弘前大農生) (13) 塩田あづさ1・金子洋平1・鈴木 健1・中村 仁2・ 服部 力3 ナシ萎縮病はFomitiporia sp.によって引き起 こされる Shiota, A., Kaneko, Y., Suzuki, T., Nakamura, H. and Hattori, T.: Japanese Pear Dwarf Is Caused by Fomitiporia sp.. ナシ萎縮病の病原は材質腐朽菌であると推測されて いるが,特定はされていない.千葉県内の萎縮病発病樹の 材腐朽部から分離した Phellinus 属(広義)の 1 菌株をナシ 1年生苗木に接種したところ,萎縮症状を示した(塩田ら, 2007).そこで,本菌株を含む 2 菌株を用いてニホンナシ「幸 水」の 1 年生苗木及び 14 年生成木の側枝に接種した結果, 供試樹の 20 ~ 30%で葉の先端部が黒変する典型的な萎縮 病の症状が確認された.また,接種した苗木や側枝を解体す ると,接種部位から材腐朽が進展しており,その腐朽部分 から接種菌株がそれぞれ再分離できた.接種菌株とは別の 菌株から形成させた子実体の形態観察結果及び上記 3 菌株 を含めた千葉県各地の萎縮病樹の腐朽部から分離した 4 菌 株の rDNA ITS 領域の塩基配列は 99%以上の相同性を示し たことから,これら 4 菌株を Fomitiporia 属(広義の Phellinus 属から独立した属)の 1 種と同定した.以上の結果から, 本病の病原菌はFomitiporia sp.であることが明らかになった. (1千葉農林総研・2果樹研・3森林総研関西) (14) 佐藤幸生1・星 秀男2・鍵和田聡3・西尾 健3・ 堀江博道3 Oidium 属 Reticuloidium 亜属菌によるマツ バウンランうどんこ病(新称)の新発生 Sato, Y., Hoshi, H., Kagiwada, S., Nishio, T. and Horie, H.: The First Record of Powdery Mildew on Linaria canadensis Caused by Oidium Subgenus Reticuloidium in Toyama. 2009年 7 月,富山県射 水市でマツバウンラン(Linaria canadensis; ゴマノハグサ 科)に Oidium 属 Reticuloidium 亜属菌(OR 菌)によるうど

んこ病(新称)の新発生を認めた.葉や花茎に白色粉状で やや厚い菌叢を生じ,黄化,枯死する.本菌は表生菌糸か ら直立した分生子柄上に分生子を鎖生し,フィブロシン体 を欠く.分生子は長楕円形~樽形で,32.9 × 17.1 μm, L/W 比は 1.92.分生子の発芽管は Cichoracearum 型.foot-cell の 大きさは 116.2 × 10.7 µm.接種で原病徴を再現した.本菌と 富山県や東京都で広範に発生しているキュウリOR菌との関 連性を検討した結果,両菌の rDNA-ITS 領域の塩基配列は 100%一致し,Takamatsu ら(2006)の Golovinomyces 属菌 分子系統群の IX 群に類別された.また,マツバウンラン菌 を OR 菌の発生記録があるキュウリなど 4 科 9 種植物に接 種した結果,キュウリとヒメキンギョソウ(L. bipartita)に 強い病原性を示し,キュウリ OR 菌もマツバウンラン上に わずかではあるが菌叢を生じた.以上の形態的・遺伝的特 性と接種試験結果から,両菌は分類学的に近縁と推定され る. (1富山県立大・2東京農総研・3法政大植物医科) (15) 山 内 智 史1・佐 藤 衛2・佐 藤 文 生1・白 川 隆1 Hyaloperonospora brassicae によるコマツナべと病(新 称) Yamauchi, N., Satou, M., Sato, F. and Shirakawa, T.: Downy Mildew of Komatsuna Caused by Hyaloperonospora brassicae. 2009年 7 月茨城県小美玉市のビニールハウス内 で収穫期を迎えたコマツナの下位葉表面に,黄色,不整形 の病斑を形成し,病斑裏面に白色粉状のかびを生じる病害 が発生した.類似症状のべと病が報告されているが(堀江, 1990),詳細は不明である.そこで,病原菌の形態や宿主範 囲,rDNA-ITS 領域について解析した.分生子柄は数回又 状に分岐し,その先端に分生子を形成した.分生子は無色, 球形~楕円形,大きさ 20 ~ 36 × 20 ~ 29 μm で発芽管を出 して発芽した.また,コマツナ,ハクサイ,カブに病原性 を示した.以上の結果から,供試菌は Peronospora parasitica と同定された.一方,アブラナ科植物に寄生するPeronospora 属菌の再編に伴い,P. parasitica は Hyaloperonospora parasitica に変更され(Constantinescu and Fatehi, 2002),さらに,H. parasiticaの中でアブラナ属の病原菌は H. brassicae に変更 された(Göker et al., 2003).供試菌の rDNA-ITS 領域の塩 基配列は H. brassicae のものと 99%一致した.従って,本 病を H. brassicae によるコマツナべと病として報告する.

(1野菜茶研・2花き研) (16) 三澤知央1・佐藤 衛2・安岡眞二1・松下陽介2・ 埋橋志穂美3・佐藤豊三3・山内智史4・白川 隆4 ニラに 発生したべと病(新称) Misawa, T., Satou, M., Yasuoka, S., Matsushita, Y., Uzuhashi, S., Sato, T., Yamauchi, N. and Shirakawa, T.: Downy Mildew of Chinese Chive Caused by Peronospora destructor. 2009年 9 月北海道北斗市で栽培中

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のニラ(Allium tuberosum Rottl.)養成株で,葉の全体また は一部に白色~灰色霜状のかびを密生する病斑が確認され た.このかびは病原菌の分生子柄と分生子であり,分生子 柄は気孔から外表に現れ,基部の太さは 12 ~ 18 μm で,数 回叉状に分岐し,先端に洋梨~紡錘形,灰~暗紫色の分生 子を形成した.分生子は大きさ 34 ~ 69 × 22 ~ 32 μm で, 発芽管により発芽した.これら形態的特徴および Allium 属 に感染するべと病菌の分類等から,本菌を Peronospora destructor(Berkeley)Caspary と同定した.また,rDNA-ITS 領域の塩基配列は P. destructor のものと 99%一致し,形態に よる同定結果が支持された.本菌の分生子を用いたニラで の病徴再現試験は実施中であるが,分生子を接種したネギ ではべと病を起こすことを確認した.我が国では,ニラに おける本病害の自然発生の報告はないため,本病をニラべ と病(downy mildew)と呼称したい. (1道立道南農試・2花き研・3生物研・4野菜茶研) (17) 神頭武嗣1・宇佐見俊行2・佐藤豊三3・森脇丈治4・ 相野公孝1・前川和正1・岩本 豊1・松浦克成1 広義の Colletotrichum acutatumによるピーマン炭疽病(病原菌 追加) Kanto, T., Usami, T., Sato, T., Moriwaki, J., Aino, M., Maekawa, K., Iwamoto, Y. and Matsuura, K.: Anthracnose of Sweet Pepper Caused by Colletotrichum acutatum sensu lato in Japan. 2009年 9 月,兵庫県内のピーマンほ場で果実表 面が直径 5 ~ 30 mm の円~楕円形に陥没し,灰褐色,後に 同心円状の菌そうに覆われ,オレンジ色の分生子塊が形成 される症状が発生した.また,果梗が褐変し,葉に斑点病 に似た症状も発生した.発病部位から単胞子分離により得 た 3 菌株のうち 2 菌株の PDA 菌そうディスクを果梗と果実 に貼付接種した結果,原病徴が再現され,発病部より接種 菌が再分離された.Sutton(1980)に従い分離菌の形態を 観察した.本菌は剛毛,菌核をともに欠き,分生子は両端 が鈍く尖り,紡錘形~円筒形,油滴を持ち,大きさ 11.3− 25.7 × 2.7−5.2(平均 15.7 × 4.0)µm,L/B = 3.9.また,付着 器は輪郭に切れ込みが少なく黒色倒卵形~広楕円形,大き さ 4−17 × 3.2−6.8(平均 8.8 × 5.0)μm であった.さらに, rDNA ITS 領域の塩基配列は,広義 C. acutatum の既知配列と 99%一致した.広義 C. acutatum によるピーマン炭疽病は国 内記録となるが,最近海外で C. acutatum を細分化する報告 に基づき,さらに詳細な検討を行ったところ C. simmondsii R. G. Shivas & Y. P. Tan であることが判明した.

(1兵庫県農技総セ・2千葉大院園・3生物研・4中央農研) (18) 舟久保太一1・景山幸二2 Pythium irregulare complex によるシクラメンピシウム根腐病(新称) Funakubo, T. and Kageyama, K.: Occurrence of Root Rot of Cyclamen

Caused by Pythium irregulare Complex. 2008年 10 ~ 12 月 にかけて,山梨県内のシクラメン生産ほ場で,出荷直前の 株の根が暗褐色に腐敗し株が萎凋枯死する症状が発生し た.罹病部からある種の Pythium 属菌が高率に分離され, 接種により症状が再現され接種菌と同一の菌が再分離され た.hyphal swelling は球形~倒卵形で,頂生又は中間性で あった.雌雄同株性で,造卵器は亜球形,表面は平滑また は指状突起を不規則に 1 ~ 5 本有し,平均直径 21.3 μm で あった.造精器はかぎ状~棍棒状で,造卵器に 1 ~ 2 個側 着し,雌雄同菌糸性又は異菌糸性であった.卵胞子は非充 満(まれに充満)で平均直径 17.4 μm であった.遊走子は 一部菌株では形成したが,多くは形成しなかった.菌糸伸 長は 5°C から 35°C で認められ,適温は 25 ~ 30°C であっ た.さらに,rDNA-ITS 領域の塩基配列から,本菌を Pythium irregulare complexと同定した.本菌によるシクラメンの病 害は未記載であることから,シクラメンピシウム根腐病と 提案したい. (1山梨総農セ・2岐阜大流域研セ) (19) 池田健太郎1・坂野真平2・三木静恵1・柴田 聡1・ 窪田昌春3・漆原寿彦4・小林逸郎4・藤村 真2 Pythium ultimum var. ultimumによる結球期キャベツの茎腐敗症 状(病徴追加) Ikeda, K., Banno, S., Miki, S., Shibata, S., Kubota, M., Urushibara, T., Kobayashi, I. and Fujimura, M.: Stem Rot of Heading Cabbage by Pythium ultimum var. ultimum. 群馬県嬬恋村でキャベツの茎が腐敗する症状が 発生し,問題となっている.結球期のキャベツの茎に直径 3 cm程度の腐敗病斑がみられ,切り口には褐変が確認され た.茎の病斑部からは,高率で Pythium 属菌が分離された. これらの単菌糸分離菌株を,結球期のキャベツの茎に接種 したところ,現病徴を再現した.これらの分離菌株の形態的 特徴および ITS 領域を解析し,Pythium ultimum var. ultimum と同定した.P. ultimum は,キャベツのピシウム腐敗病菌で あり,苗立枯を起こすことが確認されている(Kubota et al. 2006).今回の分離菌株をキャベツ幼苗に接種したところ, Kubota らの分離菌株と同様の苗立枯症状を引き起こした. また,Kubota らの分離菌株も結球期のキャベツ茎に同様の 症状を示した.これらのことから,結球期のキャベツ茎の 腐敗症状はキャベツピシウム腐敗病菌 P. ultimum による新 たな病徴であることが確認された. (1群馬農技セ・2東洋大生命・ 3野菜茶研・4吾妻農業事務所) (20) 清水佐知子1・東條元昭2 広島県の水耕栽培ネギ で発生した Pythium 属菌による根腐病 Shimizu, S. and Tojo, M.: Pythium Root Rot of Welsh Onion in Hydroponic Culture in Hiroshima Prefecture. 広島県の水耕栽培したネ

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ギにおいて,1996 年頃から 5 月~ 10 月の高温期に根腐れを 伴う立枯症状が発生している.被害株は,根が透明に腐敗 し,葉鞘や葉身も下部から腐敗,生育抑制や立枯症状を呈 する.2009 年 5 月~ 9 月に県内の 3 圃場を調査したところ, 本症状は育苗期から収穫時まで発生し,いずれの生育ス テージのネギからも,根や葉身から高率に Pythium 属菌が 分離された.分離菌を水耕栽培したネギ幼苗に接種すると 病徴が再現され,同菌が再分離された.分離菌の遊走子の うは糸状で,遊走子を多量に放出し,球状の hyphal swellings とこん棒状の吸器状構造を僅かに形成したが,有性器官を 形成しなかった.本菌は,既報(佐古ら 1997)のネギ根腐 病菌の P. irregulare とは異なる Pythium 属菌であり,水耕栽 培の環境下で高温期に発生する特性が見られることから, ネギ根腐病の病原に Pythium sp. として追加したい.なお, 本菌の種名については,さらに詳細を検討中である. (1広島総技研農技セ・2大阪府大院生環) (21) 佐々木伸浩・小林真樹・早川敏広・矢口重治 改良 バミューダグラスに発生したネクロティックリングスポッ ト病(新称) Sasaki, N., Kobayashi, M., Hayakawa, T. and Yaguchi, S.: Occurrence of Necrotic Ring Spot on Bermuda-grass in Japan. 国内各地の改良バミューダグラス(Cynodon dactylon× C. transvaalensis)のターフ上に,春期に茶褐色や 灰白色で直径約 20 ~ 50 cm の類円形やリング状のパッチを 形成する病害が発生している.罹病個体の根および匍匐茎 から分離された糸状菌を改良バミューダグラスに接種した ところ,3 グループ(SA,SB および SC)に病原性が認め られた.SB の菌株は,接種個体に形成された完全世代の形 態などから,シバおよびブルーグラスネクロティックリン グスポット病菌であるOphiosphaerella korraeと同定された. SAと SC は完全世代や分生子などの形成は認められなかっ たが,rDNA ITS2 の塩基配列に基づく分子系統解析の結果, SCの菌株は O. herpotricha と共にクラスターを形成した.ま た,SA は O. korrae,O. herpotricha および O. narmari と 91 %以上の相同性を示したが,種については今後検討を要す る.以上の結果より,本病を O. korrae,O. herpotricha と考 えられる菌および Ophiosphaerella 属菌と考えられる菌によ るバミューダグラスネクロティックリングスポット病と呼 称することを提案する. (理研グリーン) (22) 三室元気1・守川俊幸1・埋橋志穂美2・岩田忠康1・ 佐藤豊三2 赤かび病に類似したオオムギ被害穀粒から分 離されたEpicoccum nigrum LinkおよびSporobolomyces ruberrimus Yamasaki & H. Fujii ex Fell & al. Mimuro, G., Morikawa, T., Uzuhashi, S., Iwata, T. and Sato, T.: Epicoccum nigrum Link and Sporobolomyces ruberrimus Yamasaki & H.

Fujii ex Fell & al. Isolated from Barley Grains with Fusarium Head Blight-like Symptoms. 富山県内のオオムギ‘ファイ バースノウ’の成熟期穀粒に赤かび病類似症状が発生した. 症状には 2 種類あり,一方では穀粒の基部が鮮紅色に着色 し,スポロドキアの形成は認められなかった.赤変部から 菌を分離した結果,20 地点で採集した試料の 78%から Epicoccum属菌が分離された.本菌は,培地上で黄褐~赤色 の色素を産生し,分生子柄は棍棒形で 0 ~ 2 隔壁を有し, 分生子は類球形,縦横隔壁を有し石垣状,大きさ 12.5 ~ 27.5× 12.5 ~ 25 μm.以上の性状および rDNA ITS 領域の 塩基配列から本菌を E. nigrum と同定した.他方では,頴 の合せ目の基部を中心に鮭肉色~暗赤色のかさぶた状の塊 が付着し,肉眼では赤かび病菌のスポロドキアと識別が困難 であった.検鏡すると多くの場合,その塊は酵母細胞の塊 であった.分離菌は麦芽エキス寒天培地上で鮭肉色のコロ ニーを形成し,栄養細胞の大きさは 3.8 ~ 7.5 × 2.5 ~ 5 μm, 射出胞子を形成し,偽菌糸および真菌糸を形成しない.そ の他の生化学的性状および rDNA ITS 領域の塩基配列から 本菌を Sporobolomyces ruberrimus と同定した. (1富山農総セ・2生物研) (23) 棚 橋 恵1・山 澤 康 秀2・佐 藤 秀 明1・尾 谷 浩3 セイヨウナシ褐色斑点病菌による‘ル · レクチエ’果実の 腐敗病徴 Tanahashi, M., Yamazawa, Y., Sato, H. and Otani, H.: Necrotic Lesions on Fruits ‘Le lectier’ by Stemphylium sp. Causing Brown Spot of European Pear. Stemphylium sp.を病 原とするセイヨウナシ褐色斑点病は,‘ル · レクチエ’の葉, 枝および果実に病斑を形成し,果実では果皮に直径1~2 mm の小黒点を生じる(2007 年,本大会).これらの病徴以外 に,発病園地では果実表面および果肉が濃褐色~黒色に変 色して腐敗する病斑が認められた.本症状は,幼果期に果 実表面に 1 ~ 2 mm 程度の不正形の病斑を形成し,やがて 果肉へも拡大した.果実表面の病斑外周部に黄色のハロー を伴う病果も見られた.果頂部での発生が多く,果頂部病 果の一部では果実表面に叢生する Stemphylium sp. の分生子 が検出された.2009 年 9 月,新潟県 7 地区 41 園のうち 7 地 区 13 園で病果の発生(発病果率 0.8 ~ 35%)を確認した. 病果の果肉組織中に進展する菌叢も確認され,同部位から Stemphylium sp.が高率に分離された.同分離菌を果実に接 種すると症状が再現され,同部位から接種菌が再分離され た.以上から,果実の腐敗症状は Stemphylium sp. の果実へ の感染により生じると考えられ,本症状をセイヨウナシ褐 色斑点病の病徴として追加記載することを提案する. (1新潟農総研園研セ・2新潟県庁・3鳥取大農)

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(24) 佐藤豊三1・生咲 巖2・澤岻哲也3・埋橋志穂美1・ 富岡啓介1 ヨウサイ(エンサイ)白さび病の国内発生と病 原菌 Albugo ipomoeae-aquaticae の宿主範囲および分子 系統解析 Sato, T., Kisaki, G., Takushi, T., Uzuhashi, S. and Tomioka, K.: White Rust of Water Spinach (Ipomoea aquatica Forsk [Convolvulaceae]) Found in Japan, Host Range and Molecular Phylogeny of Its Pathogen, Albugo ipomoeae-aquaticae. 2005年 6 月,沖縄県で,2007 年 10 月,香川県で露地栽培中 のヨウサイに国内で初めて白さび病を確認した.初め葉の 表側に直径 5 ~ 30 mm で黄白色の退緑斑,裏側に直径 1 ~ 5 mm の白色腫斑状の遊走子のう堆が生じ,後に遊走子の う堆が裂開して白粉状の遊走子のうが飛散する.罹病葉は 病斑部から枯れ始め,病斑の多い葉は早期に落葉する.茎 や葉柄にも同様の腫斑が生じ肥大や屈曲が起きる.棍棒形 の遊走子のう形成細胞から連鎖状に生じた遊走子のうは無 色,表面平滑,角球~広楕円形,大きさ 18 ~ 26 × 16 ~ 22 μm,壁厚 0.5 ~ 1 μm,内部は顆粒状を呈する.遊走子のう を健全なヨウサイ,アサガオ類 4 種 1 変種およびサツマイモ に接種した結果,ヨウサイでのみ病徴と標徴が再現された. 以上より本菌を Albugo ipomoeae-aquaticae Sawada と同定し た.本菌とアサガオ類に寄生する A. ipomoeae-panduratae お よび A. ipomoeae-hardwickii は,rDNA ITS 領域に基づく分子 系統解析により,それぞれ単系統として位置づけられたこ とから,同領域がこれら 3 菌の同定に利用できると考えら

れた. (1生物研・2香川農試・3沖農研セ)

(25) 渡辺京子1・小野泰典2 ITS2 の塩基配列と二次 構造によるPestalotiopsis 属菌とその関連属菌の系統解析 Watanabe, K. and Ono, Y.: Phylogenetic Analysis of Pestalotiopsis and Allied Genera Based on ITS2 Sequences and Secondary Structures. Pestalotiopsis属菌とその関連属菌は,分生子の 形態の違いにより分類されている.Jeewon et al.(2002)は 本分類群の 33 菌株を用い,一般的に属の分類指標とされる 28S rRNA と ITS1,2–5.8S rRNA の分子系統解析から, Monochaetia属と Discosia 属を除き,それぞれの形態属は分 子系統解析の結果を反映すると報告した.しかし,2009 年 Colemanは,真核生物の属や種の分類には ITS2 二次構造を 鋳型とした塩基配列のアライメントによる系統解析が有効 とした.そこで,この新たな指標を基に Pestalotiopsis 属と その関連属菌 110 菌株を系統解析した.その結果, Discosia 属は独立したクレードで支持された.Pestalotiopsis 属は二 次構造の違いからは 2 つのグループに分かれ,塩基配列を 加えた解析では 87%以上のブートストラップ値(BS 値)で 4クレードに分かれた.一方 Bartalinia 属と Trunchatella 属 で一つのクレードを構成した. Seimatosporium属,Seiridium 属,Monochaetia 属,Diploceras 属は低い BS 値でその他の枠 組みに位置した.以上から,本分類群の再検討の必要性が 示唆された. (1玉川大農・2第一三共) (26) 亀川 藍1・東條元昭2・池田晴佳2・宮城聡子3・ 宮丸直子1・澤岻哲也1・河野伸二1 Pythium splendens が関与した沖縄県のパパイア連作圃場で発生した生育遅延 症について Kamekawa, A., Tojo, M., Ikeda, H., Miyagi, A., Miyamaru, N., Takushi, T. and Kawano, S.: Association of Pythium splendens on Growth Reduction of Monoculture Papaya (Carica papaya)in Okinawa. 沖縄県でパパイア(Carica papaya)を連作すると初期生育が遅延することが問題と なっており,3 年連作地と新作地で初期生育量を比較した ところ,幹径および茎長の伸長が抑制される現象が認めら れた.パパイア連作圃場の土壌(連作土),その滅菌土壌(滅 菌土)および未栽培圃場の土壌(新作土)をワグネルポッ トに詰めてパパイアを栽培すると,連作土において茎葉乾 物重および根乾物重が有意に減少し,根では褐変が認めら れた.一方,滅菌土および新作土では根の褐変は認められず, 株全体の生育量が旺盛になったことから,土壌病原菌の関 与が示唆された,根の褐変部から Pythium 属菌や Fusarium 属菌等の複数種が分離され,その中の 1 種の Pythium 属菌 を土壌に混和処理すると根乾物重の減少および根の褐変が 再現され,同菌が再分離された.本菌の形態,生育温度, rDNA-ITS領域や COX2 遺伝子の塩基配列,および Pythium splendensとの交配性から,P. splendens の‘-’タイプ株と 同定した.以上の結果,パパイアの連作による生育遅延に は P. splendens の関与が示唆された.

(1沖農研セ・2大阪府大院生環・3沖縄農研宮古島支所) (27) 越智 直・仲川晃生 ダイズ黒根腐病自然発生圃場 土からの黒根腐病菌の検出法の開発 Ochi, S. and Nakagawa, A.: The Development of Detecting Method of Calonectria ilicicola from the Field Soil Which Red Crown Rot of Soybean Naturally Generated. 土壌中におけるダイズ黒根腐病菌の 動態を解明するため,昨年,人工汚染土壌から黒根腐病菌 を検出する方法の開発について報告した.しかし,自然発 病土からの検出効率が不十分であったこと,培地に生じた 黒根腐病菌菌そうの識別が困難であったことから,検出感 度の向上を目的に更なる培地の最適化について試験した. 検出培地として,炭素源に Potato Extract および L- ソルボー スを用いた.Potato Extract を添加することで黒根腐病菌は 多量の微小菌核を形成し赤褐色に着色したため,菌そうの 識別が容易になった.一方,担子菌類,フザリウム属菌お よびトリコデルマ属菌の生育抑制を目的にフルトラニル (12.5 mg),クレソキシムメチル(0.375 mg/L),チアベンダ

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ゾール(1.5 mg/L)の加用を試みた.この結果,自然発生 圃場土 5 g を滅菌水 100 ml に懸濁し,250 rpm で 20 分間撹 拌し,種々のふるいを用いて分画したところ,0.25 mm か ら 0.037 mm の画分のサンプルを上記検出培地と混合し平 板することで,雑菌の生育が少なく黒根腐病菌を検出する ことができ,本手法は有効と考えられた. (中央農研) (28) 平山喜彦1・須賀晴久2・景山幸二3・岡山健夫1・ 西崎仁博1・鈴木 健4 培養土からイチゴ萎黄病菌を PCR で 検 出 す る た め のDNA抽 出 法 と 前 培 養 培 地 の 検 討 Hirayama, Y., Suga, H., Kageyama, K., Okayama, K., Nishizaki, M. and Suzuki, T.: Investigation of DNA Extraction Method and Preculture Media for PCR Detection of Fusarium oxysporum f.sp. fragariae in Potting Compost. 萎黄病菌を保 菌したイチゴ苗をPCRで検定するための技術を開発してい る.ここでは,イチゴポット培養土から本菌を検出するた めの DNA 抽出法と,抽出前の土壌試料の培養(以下,前培 養)による検出感度の向上効果について検討した.培養土 からの DNA 抽出については,数種抽出法を比較した結果, 磁気ビーズ吸着法を用いた場合にPCRの検出結果が最も安 定していた.前培養条件については,培養土に各種液体培 地を添加して28°Cで2日後の菌量を希釈平板法により調べ た.その結果,F. oxysporum 選択培地(Fo-G2)の場合に菌 密度が最も高くなった.そこで,培養土から磁気ビーズ吸 着法により抽出した DNA 溶液を段階希釈して,既報の F. oxysporum特異的プライマーを用いてPCRを行ったところ, Fo-G2培地の前培養処理では無培養に比べて 100 倍以上の 検出感度が得られた.以上から,磁気ビーズ吸着法により 培養土から純度の高い DNA 抽出が可能であり,このとき前 培養により検出感度が向上すると考えられた. (1奈良農総セ・2岐大生命セ・ 3岐大流域研セ・4千葉農林総研セ) (29) 須賀晴久1・平山喜彦2・森島正二3・鈴木 健4・ 景山幸二5・百町満朗6 PCR によるイチゴ萎黄病菌の転移 因子関連配列の検出 Suga, H., Hirayama, Y., Morishima, M., Suzuki, T., Kageyama, K. and Hyakumachi, M.: PCR Detection of the Transposable Elements in Fusarium oxysporum f. sp. fragariae. イチゴ苗に潜在感染している萎黄病菌 Fusarium oxysporum f. sp. fragariaeを PCR で検出する方法の開発に向 け,本菌が有する転移因子関連配列を調査した.これまで の研究で F. oxysporum のゲノムにはクラス I 型やクラス II 型 の様々な転移因子に関連した配列が見出されている.本研 究ではイチゴ萎黄病菌 34 菌株,イチゴから分離され,かつ, イチゴに病原性を示さなかった F. oxysporum 11 菌株及び 5 つの他の分化型各 1 菌株ずつ計 50 菌株を用い,PCR により クラス I 型の Foxy,Han とクラス II 型の Fot1,Fot3,Impala, Hop,Hornet の検出を試みた.その結果,Foxy,Fot1,Impala については一部のイチゴ萎黄病菌でしか予想サイズのPCR 産物が検出されなかった.一方 Han, Fot3,Hop,Hornet に ついては,イチゴには病原性を示さなかった F. oxysporum と他の分化型の一部の菌株からしか予想サイズのPCR産物 が検出されなかったのに対し,イチゴ萎黄病菌では 34 菌株 全てで予想サイズの PCR 産物が検出された . (1岐大生命セ・2奈良農総セ・3栃木農試・ 4千葉農林総研セ・5岐大流域研セ・6岐大応生) (30) 平山喜彦1・西崎仁博1・岡山健夫1・米田祥二1・ 鈴木 健2 PCR によるイチゴ炭疽病菌検出技術の現地 育 苗 圃 場 に お け る 実 用 性 Hirayama, Y., Nishizaki, M., Okayama, K., Yoneda, H. and Suzuki, T.: Utility for Detection Technique of Colletotrichum gloeosporioides Causing Strawberry Anthracnose by PCR in the Nursery. 我々は,イチゴ炭疽病 潜在感染株を検出するために病原菌特異的プライマー(鈴 木ら,2008)を作成し,前培養と nested-PCR による検出法 (平山ら,2008)を開発した.ここでは,現地圃場における 実用性を調べるために,2008 年 3 ~ 5 月に県内 7 育苗圃場 を対象に調査し,検定後は陽性株を除去するとともに,9 月下旬まで圃場での発病状況を調べた.2009 年 6 月には 6 育苗圃場,9 月には 10 育苗圃場を対象に調査し,併せて選 択培地を用いて炭疽病菌を分離し,PCR 法と検出率を比較 した.その結果,2008 年には 7 圃場中 3 圃場で 3.6 ~ 30.2% の苗が陽性であったが,陽性株の除去後 9 月まで発病は認 められなかった.2009 年 6 月には 6 圃場中 2 圃場で 5.3 ~ 67%の株が陽性であったが,選択培地では検出されず,検 出率の高かった圃場では後に発病株が確認された.9 月には 10圃場中 6 圃場で 5 ~ 10%の苗が陽性であったが,選択培 地で本菌が分離されたのは 3 圃場だけであった.以上,現地 育苗圃場においても PCR 法による検出精度は高く,その実 用性は高いと考えられる.(1奈良農総セ・2千葉農林総研) (31) 鈴木 健1・平山喜彦2・鈴木達哉1・田中千華1・ 大谷 徹1・伊東靖之1 PCR によるイチゴ炭疽病潜在感染 株の高頻度検出部位 Suzuki, T., Hirayama, Y., Suzuki, T., Tanaka, C., Ohtani, T. and Ito, Y.: The Organ of Latently Infected Strawberry Plants from Which Colletotrichum gloeosporioides Is Highly and Efficiently Detected by PCR Method. Colletotrichum gloeosporioidesによるイチゴ炭疽病 の防除には , 潜在感染株の排除が非常に重要である.平山 ら(2008)は潜在感染したイチゴ苗から PCR 法で潜在感染 株を検出する方法を報告した.また,本法による検出率が 検定時期によって変動することも報告した(鈴木ら,2009).

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