九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
極限の超短パルス光発生に関する基礎研究
河野, 弘幸
九州大学工学応化機能機能物質化学
https://doi.org/10.11501/3135031
出版情報:Kyushu University, 1997, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一I
主論文
極限の超短パルス光発生に関する基礎研究
1 9 9 8
河 野 弘 幸
目次
1 序論
1.1 はじめに
1.2 これまで、の超短ノミノレス光発生技術 1.2.1 超短パルス光発生の歴史 1.2.2 光パルスの短縮における問題点 l.3 モードロックとFourier合成
1.3.1 レーザー光のそードロックによる短ノミルス化
1.3.2 各種モードロック
1.3.3 離散的発振線のFourier合成
3 3 4 4 6 8 8 0 2
唱--A'・・・a
1.4 本論文の意義と概要 13
2 ピコ秒チタンサファイアレーザーを用いた高次回転ラマン光の発生 18 2.l 緒言
2.2 誘導ラマン散乱の原理 19
2.2.1 誘導ラマン散乱によるストークス光の発生 19 2.2.2 アンチストークス光発生過程の古典論的解釈 23
2.3実験装置 30
2.4結果及び考察 32
2.5まとめ 38
3 ピコ・ フェムト秒チタンサファイアレーザーを用いた高次回転ラマン光の発生 3.1緒言
3.2 フェムト秒領域で顕著に現れる非線形光学現象 3.2.1 過渡的誘導ラマン散乱
3.2.2 非線形屈折効果
3.2.3 自己集束
QJ ハU ハU 'i
「3
3 4 4 4 4
3.2.4 自己位相変調 3.2.5 高調波発生 3.3実験装置
3.4結果及び考察
3.4.1 高次回転ラマン光の発生
3.4.2 励起光偏光依存性 3.4.3 励起光パノレス幅依存性 3.4.4 水素圧力依存性 3.4.5 励起光集光距離依存性 3.5 まとめ
OO Au qL ζU ぷU 11 今ム 1i A『
QO OV ハU 11
「3 ぷU 巧/
勺J 勺I oo ny マf
@0 00 ハU 勺ム
「3
4 5 5 5 5 6 6 7 7 7 8 8 8 8 9 9 9 9 9 9 1 1 1 ロ ロ ロ
TI 喧A 1i
4 ジブロモメタンを用いた四波ラマン混合過程の増強 4.1緒言
4.2実験装置
4.3結果及び考察 4.4まとめ
5 高次回転ラマン光の位相同期に関する理論的柾明 5.1緒言
5.2理論 5.3計算条件
5.4結果及び考察 5.5まとめ 6 結論
6.1本論文の結論 6.2今後の展望 謝辞
引用文献
第1:a 序論
1.1 はじめに
物質の状態、 物体の運動をとらえる有効な手段として、 分光学は自然科学の
一分野として古くから今日に至るまで日進月歩の発展を遂げてきた。 そしてそ の都度、 分子の運動や原子のエネルギー状態など、 我々がそれまで見ることの 出来なかった様々な現象が明らかにされてきた。 そして近年、分光学にはさら なる超高速現象を追跡する動きが見え始めている。 それは、 非常に短い時間幅 を持つ光ノ勺レスを光源とする分光、 いわゆるピコ秒分光、 フェムト秒分光とい う、 まさに想像もつかないような短い時間で発生する事象を探る技術である。
そのような短パルス光を用いることによって、分子のエネルギー緩和現象の観 測、 高分子の熱分解の制御など、 その他様々な研究が世界中で活発に行われて し1る。
その分光学の飛躍的進歩に大きな寄与を及ぼしたのが、 レーザー(Laser Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)である。 レーザーは、 両
いコヒーレンスを有していることから、 指向性、 単色性、 集光性などに優れて おり、 それ故、 従来用いられていた通常光と比較して非常に特異な性質を持つ ことから、 科学においてのみならず、 エンターテイメントの分野でもしばしば 用いられている[1]。 そして、 当然、 分光学においても光源として用いられ、 革 命的な進歩をもたらした。 上記のピコ秒分光、 フェムト秒分光も、 レーザーの 出現によって初めて可能になったものである。
このような高い科学的ニーズにより、多くの科学者が短パルスレーザーの開 発に従事している。 しかしながら、 現在の短パルス光発生技術においては、 後 述するような限界が指摘されており、今世紀後半に起きたレーザー光のめまぐ
るしい短パルス化も、 小休止状態となっている。 そこで本論文では、 従来とは 異なる全く新しいアプローチを提唱し、 それにより、これまで手の届かなかっ た極限の超短パルス光を発生するために行った様々な基礎研究について述べ る。
本章では、 1.2節でこれまで、の超短パルス光発生技術に関して解説し、 1.3節 で本研究のコンセプトであるFourier合成による超短パルスの発生原理を示し、
最後に1.4節において本論文の意義・概要について述べる。
1.2
これまでの超短パルス光発生技術
1.2.1
超短パルス光発生の歴史と背景
超短パノレスレーザー光を光源として用いた超高速時間分解分光学の分野は、
ここ20年間において極めて速い進歩を示した。図1.1 に、これまで人類が自然 界の様々な高速現象を観測する上で得てきた最小時間スケールの推移を示す。
1960年に最初のレーザーが発明されて以来、このように、様々な研究開発によ りその時間分解能の向上が行われてきた。 レーザーは当初、 その高い光出力と 狭いスペクトル幅という特質を生かし、分光用光源として多大な寄与を及ぼし たが、 色素レーザー及び固体レーザーなどの波長可変レーザーの登場で、さら に分光学への応用領域が広がった。 波長可変レーザーは、 その発振ゲインが広 い領域にわたっており、 そのため、このレーザー媒質を利用した光圧縮技術が 発明された。特に1980年代後半の超短パルス光発生技術の進歩はめざましく、
1987年に可視光の周期に換算してわずか3 周期に相当する6 fs
(ぬ=
10・15秒) のパルスが発生された[2]。そして1980年代後半から90年代に入って、ますま す高度な技術が多方面への応用を可能にしてきた。 ある意味で、この発展は、高速現象の観測による種々の物理学過程、化学過程、さらには生物学過程の理 解が、 現在の自然科学において極めて重要になってきたことを表している。
100ト(1 s)
100 ps
10 ps
F3 ny 可Ei
-3
10ト(1 ms)
UE ω 3
10・6ト(1μs)
H E ω
10ト(1 ns)
-910・12ト(1 ps)
1965 1985
Year -一一歩
図1.1 自然科学における観測可能な時間スケーノレの推移
しかしながら、 1987年以後では長足の進歩は見られず、10年後の1997年に ようやく4.5 fsの報告がなされた[3ヲ4]。 との原因については、 次節で述べる。
1.2.2 光パルス幅の短縮における問題点
光パノレス短縮化の歴史は、 以下の2つの条件との戦いの歴史と換言しでも過 言ではない。
①広い周波数領域を有する光源の確保
式(l.1)で表される不確定性原理によると、 ある物体の位置と運動を、 ともに 完全に正確な値として観測することは出来ず、その誤差の積は必ずある有限値 以上の大きさになる。
L1x. L1p � A
噌Ei/'t\ 、、E,f唱Ei
L1x,LJpはそれぞれ位置の不確定性、 運動量の不確定性で、 Aは定数である。 こ れを光の世界に適用すると、 式(l.2)が得られる。
A
Â}
dλ注
一
一一L1t c。
(1.2)
λ、 δλは、 それぞれ光の中心波長と波長幅で、 Aらは光のパノレス幅、Coは真空中 での光の速さである。 ここでAは表l.1に示すように、 光のパルス波形に依存 する。
このように、 光のパルス幅 を短縮するためには、 それに反比例して広いスペク
表l.1 光パルス波形と定数Aの関係、
パルス波形 A
ガウス形 ローレンズ形
方形波 sech2%
0.441 0.221 0.886 0.315
トル幅を持つ光源を用意しなければならない。 しかしながら、 一般にレーザー 光は発生周波数ゲイン領域が狭く、 それ故、 その発振領域の拡大が大きな課題 であった。 しかし、 色素レーザ一、Ti:sapphireレーザーなど、 発振ゲイン構域 の広いレーザーの出現により、 その問題はかなりのレベルまで克服された3 特 にTi:sapphireレーザーは、 固体レーザーであるが故に、 広い周波数領域におい て非常に安定に動作し、後述する群速度分散の補償をある段階までは理論的に 正確に行えるため、 現在の超短パルス発生方式の主流となっている。 そして現 時点において、Ti:sapphireレーザー単独の発振により、6.5fsパルスの発生が達
成されている[5]。 また、 数10 fsの短パノレス光を、 光ファイバーなどの固体分 散媒質に通すととによって自己位相変調光を発生させ、 広い周波数域を有する 連続白色光を得ている。 それを超短パルス用光源として用い、 前出の6 fsパル スが得られている[6]。
②群速度分散の補償
光の速度は真空中においては、 その周波数に無関係に一定 である (co = 2.9979245 x 108 m/s)。 しかし、 ある媒質中を光が通過する場合、 その速度c は、 式(1.3)で表される[6]。
c=(1+U22) (-1/二
(1.3)ここでω、 仰は媒質中を伝播する光の角周波数( ω= 21rC /λ)及び媒質のj番目 の共鳴吸収角周波数で、BJはj番目の共鳴強度である。 一般的に可視領域では、
ω が大きいほどc は小さくなる。 よって、 伝播するパルス光が有限のスペクト ル幅を有する場合、 光パノレス内で各フォトンの速度差により分散が起こり、 パ ルス幅の延伸が発生する。 これを正の群速度分散という。 非真空中を有限のス ペクトノレ幅をもっ光が伝播する場合、 必ず群速度分散は発生する。 一方、 前述 の通り、 超短パルス光発生には、 広いスペクトル幅を持つ光を光源として用い
る必要があり、 その際に発生する群速度分散は極めて大きくなる。 そこで負の 分散を発生するようにプリズムを配置し、 群速度分散を補償する方法が提案さ れた[7]。 このような配置では、 大きな分散を持つ固体媒質であるプリズム中で、
パノレス中の高い周波数成分の光路が低い周波数成分のそれよりも短くなる。 こ れにより負の群速度分散を発生させることができ、群速度分散の補償を行うこ とで、 パルス圧縮が可能となる。 このパルス圧縮技術の開発により、 10 fs以下 の超短パルス光の発生が達成された[2-4]。
しかし上述のように、 このパルス圧縮技術は、 現在克服困難な壁に直面して いる。 それは、 超短パルス用光源として自己位相変調を利用して得られた白色 光を用いる方式では、 その周波数帯域の広さにこれ以上の向上が望めず、 また、
プリズム対や回折対などの固体光学素子を使用した群速度分散補償システム では、 1 fs以下の極超短パルス光発生の際の分散を完全に補償することができ ないからである。 よって、 サブフェムト秒のパルス幅を持つ極限の超短パルス 光を発生させるためには、 全く別のアプローチが必要となる。
1.3モードロックとFourier合成
1.3.1
レーザー光のモードロックによる短パルス化
これまでのレーザ一光の短パルス化技術の最も基本的な原理がモードロッ クという概念である。 ここではモードロックの原理について簡単に述べる。 色 素レーザーやTi:sapphireレーザーのようにゲインスペクトル幅の広いレーザー 遷移の中には 図1.2で示すように、 共振器の構造によって決まる固有のモー ドが多数入る。 いまレーザー共振器の横モードが存在しないと仮定する。 レー ザースペクトル中に縦モードがm個存在する場合には、レーザー輯射全体の電 場強度E(t)は、 各縦モードの電場Emの重ね合わせとして、 式(1.4)で表される。
EQ)=2jh吋仇+かo+m叫トc.c
(1.4)ここで和はモード番号m = - (N・1) / 2からm = (N-1) / 2までとる。 かはm番目 のモードの位相を表す。 また、 δv=δω/2π=c / 2Lは、 長さLの共振器の縦モ ード間隔である。 ここでは、 レーザー媒質中の分散は無視するc 従ってモード 間隔は、 全周波数領域で一定となる。 各々のモードの位相が受動的あるいは能 動的に同期すると、 式(1.5)で表される位相同期条件、
やnーや叫=A = const.
(1.5)が満たされる。 ここでのAは式(1.1)及び(1.2)にも使用されており、 パルス波形 に、 その値が依存する定数である。 式(1.5)が成立するとき、 式(1.4)は
s叶竿(似+A) ,1
, 、EQ)=E。 !;δωt+A 1|叫�(ω / リ。 )}+c. c .
(1.6)Sllll一一一一 l
I 2 I
となる。 この共振器で完全にモードロック状態になっている場合、 発生するレ ーザ一光のパノレス幅は、 式(1.6)のフーリエ変換から求められ、 dら=A / 2mL1ω
で与えられる。
Allowed Modes
Vq_2 Vq-l Vq
Vq_2 Vq-l 均
Gain Curve
均+1 均+2 句+3
V
均+1 吟+2 汚+3
図l.2 広いゲインスヘクトルを持つレーザー媒質を含むモードロックレーザー 系のモードスヘクトルとゲインスペクトルの関係
1.3.2各種モードロック
モードロックの効果を有効に引き起こし、 出来るだけ短いパルス光を得るた
めには、広いゲインスペクトルを持ったレーザー媒質を含む共振器を用意し、
その中に発振し得る縦モードの問で一定の位相差を発生するように励起する 必要がある。 ここで、 モードを制御する方法として代表的な技術を以下に示す。
①能動モードロック
反転分布を持つ レーザーゲイン媒質を含む共振器のパラメータに周期的 な 変調を外部から加えるための変調器を共振器内に導入して行う方法を能動モ ードロック(Active Mode Locking)、 あるいは強制モードロック(Forced Mode
Locking)という。 レーザー媒質のゲインあるいは共振器の損失に変調をかける
振幅 変調(Amplitude Modulation AM )や屈折率の変調により周波数 変 調 (Frequency Modulation : FM)や位相変調(Phase Modulation)を起こす方法が
ある。 能動モードロックの原理は以下の通りである。 即ち、 外部からの信号で 制御される 共振器内の変調器が、 共振器の損失あるいは共振器内光路長を、 あ る変調周波数で時間的に周期的に変化させる。 もし変調周波数を隣り合った縦 モードの周波数と等しくなるように設定 すると、 変調によって、 その周波数が 一つの隣り合う縦モードの周波数と一致しているよう な二つの側帯波(Side
band Wave)が各々のモードについて発生する。 こうして二つのモードの間に
現れる相互作用の結果として、 十分に強し\変調に対して全てのモードが同期す ることになる。 振幅変調素子をモード周波数仰をもっ共振器内に導入し、 周 波数的で変調した場合のレーザー共振器内のモードmの光電場E(t)を式(1.7)
で表す。
Em(t)= Am(l
+Mωωmt �OS(ωmt) (1.7)
変調周波数叫がレーザー共振器の軸モード間隔dω=似川ー叫が等しいとき、
この変調によって発生する側帯波の周波数叫±仰は仙の隣の軸モード周波数 仇+1と一致する。 このようにして(偽川、 的、 �+1)の三つのモード周波数は、
互いに一定の位相関係で結合される。 同様に、(�ふ�・1、 向)や、 (�、 仇+1、
的+2)の聞の結合が引き起こされ、 その結果レーザースペクトル領域全域にわ たって縦モードが結合され、 軸モードロックが達成される。 通常の振幅変調に よるモードロックには、共振器のQ値を周期的に下げるような損失変調が用い られる。
②同期励起モードロック
モードロックレーザーの出力パルス列あるいはその第二高調波を励起光源 とし、 共振器長を励起レーザーと同じにするか、あるいは整数分の1にした色 素レーザーは、 ゲイン変調による能動(強制)モードロックの一種で発振する。
即ち、励起レーザーと色素レーザーの両者の共振器長が整数比であることから、
励起光パルス列 のパルス間隔は、色素レーザー共振器の往復時間と一致するか、
あるいは整数分の1となる。 この方式によるモードロックは、 次節で述べる受 動モードロックと比較して、一つの色素レーザーについて波長を変える範囲が 広く、 また多くの色素で発振可能で、あるので、560 nmから970 nmに至るまで サブピコ秒パルスのレーザー発振が達成されている。 また、 もしこれらの第二 向調波発生が可能ならば、 280 nmから500 nm付近までカバーできるので、 基 本波と合わせて紫外から近赤外に至るまでのほとんどのスペクトル領域で、フ ェムト秒パルスを得ることが出来る。 しかしながら、 多くの色素をその都度取 り替えるのは困難であ る ため、 後述す る 波 長 可 変固体 レ ー ザ ー であ る
Ti:sapphireレーザーが、 現在、 主流になりつつある。
③受動モードロック
受動モードロックは、超短パルス光を発生させる有効な方法として頻繁に用 いられる。 この方法では、 他のレーザーに加えて過飽和吸収体をレーザー共振
器の内部に配置する。 過飽和吸収体は、 レーザー周波数において極めて大きえ 断面積を持つ吸収遷移を有する物質からなっている。 このレーザーの光パルス が過飽和吸収体を通過すると、 吸収体分子が励起され、 入射した電場は部分的 に吸収されるようになる。 ここで、 レーザーが2つの縦モードで発振し、 過飽 和吸収体を2準位系であると仮定する。 過飽和吸収体が2モードのレーザー光 を吸収すると、 吸収体の2準位の分子数の差は、 レーザー光の2モードの周波 数差(隣り合うモードの場合にはAω)で振動する項を含む。 この項が実効的 に共振器中でdωで変動する損失を生じて、AMモードロックと同様にモード 問結合が起こる。 すなわち、 モードロックが達成される。 このとき吸収体に dωで、変動する分子数差を生ずるためには、吸収体の上準位の緩和時間τが11.1ω
より小さくなければならない。
1.3.3離散的発振線のFourier合成
短パルスレーザー光の発生のために、 モードロックが大きな役害IJを果たして いることは1.3.2までで述べた。 また、 それより得られた短パルス光を、 さら に固体媒質で圧縮する従来法の限界についても1.2.2において言及した。 そこ で、 いくつかの研究グループが、 従来法とは全く異なる新しい技術を用いるこ とにより、 これまで成し得なかったサブフェムト秒パルスの発生の可能性があ ることを提唱した[8, 9]。 この方法は、近赤外から極端紫外までの非常に広いス ペクトル領域にわたって発生する高次高調波の位相が同期することを利用し て、 超短パノレス光を得るものである。 その原理を図1.3に示す。 基本的にはモ ードロックの概念、と同様であり、 それが共振器中ではなく、 非線形光学効果で ある高次高調波が非線形媒質中で発生する過程において、 それらの発振線の位
相が自動的に同期するという考えに基づいている。
f1F
‘ .. (4f)-1
bzロω言問 1Jf -DZBHCH
Frequency Time
図1.3 各発振線のフーリエ変換による超短パノレス光の発生
全体の周波数幅を1JF、 隣り合う周波数差を1Jfとすると、 そのフーリエ変換、
つまり波の重ね合わせにより発生するパルス列は右のよ うに、 パルス間隔が (1Jj)-1, パルス幅が(L1η-1となって形成される。
1.4本論文の意義と概要
先に述べた高次高調波の Fourier 合成による方法は、 全ての発振線の強度を 考えると、 高次高調波強度に対して基本波強度があまりにも高く、 それ故、
Fourier合成を経て形成される超短ノ\ルス光のパルス幅は、十分短縮されない問
題が生じる。 それを克服するには、 高強度の基本波及び低次高調波成分を分離 する必要がある。 しかし、 それにより、 得られる超短パルス光全体の強度が低
する。 また高次高調波は、 より低次の高調波に対して、 その位相差が大きく、
よってFourier合成により得られたパルス波形はGaussianからかけ離れたもの となる[10]。
そこでYoshikawaらは、 高次高調波の代わりに高次誘導ラマン光を用いるこ
とを提唱した[11]。 高次誘導ラマン光は四波ラマン混合により発生し、 その周 波数間隔は媒質のラマン周波数と一致する。 四波混合で発生する高次ラマン光 は、基本波強度と第1ストークス光の位相が重なった地点で、最大発生ゲインを 得ることができ、 そこで位相が同期して発生することになる。 高次の発振線の 発生過程においても同様に位相が同期し、 結果として、 1 fs以下の極限の超短
パルス光を得ることが出来る。
Fourier成分として用いる誘導ラマン光を発生させるために、気体水素の振動 遷移を利用するととが出来る[11, 12]0 KaplanとShkolnikov は、 2πソリトンが 発生するような条件では、全てのラマン散乱光の位相が同期することを示した
[12]0 水素の振動ラマン周波数シフトは4155 cm-1と非常に大きいため、 高次振
動ラマン光の Fourier 合成により形成されるパルス光の時間幅は、 極度に小さ くなる。 しかし、 ラマンシフト周波数が4155 cm-I (124.7 THz)の場合、1.3.3 で述べたように、 その逆数に相当する8 fsの間隔で、パノレストレインが発生する ことになる。 これは、 超短パノレス光を、 パルス列としてではなく、 単一の光ノ。
ノレスとして得るときに大きな問題となる。 即ち、 現在の科学技術では、 8 fs間 隔で発生するパルス列から単一パルスを切り出す方法はなく、単一サブフェム トパルス光を得るためには、 もともとの励起光自体のパルス幅を8 fs以下にす る必要がある。 しかも、Fourier合成後の群速度分散の高次の補正が要求される 原因となるチャーピングを押さえるためには、 励起光がフーリエ限界パルスで ある必要があるが、10fs以下のフーリエ限界パルス光を得ることは、技術的に 容易ではない。 よって、 単一のサブフェムトパルス光を得ることは、 困難であ ると考えられる。
本研究では、 上記の理由から、 フーリエ成分として気体水素の高次誘導回転 ラマン光を用いることを前提としている。 水素の回転ラマンシフト周波数は 587 cm-1 (17.6 THz)であり、 Fourier合成により発生するパルス列は57 fs間隔 になる。 その場合、 単一のサブフェムト秒パルスを切り出す際に、 振動ラマン 光をフーリエ成分に用いる場合と比較して、技術的に有利であることは明らか である。 また、 約57 fsの時間幅を持つフーリエ限界パルスを得ることは、 現 在では、 さほど困難ではない。
Imasakaらは、 全体で40本以上にも及ぶ振動線及び回転線を含む多色レーザ
一光をナノ秒領域で発生させることに成功した[13-15]。 主た、紫外フェムト秒 色素レーザーを用い、 振動 ・ 回転ラマン光の発生を報告している[16]。 しかし ながら、 上述の通り、 極限の超短パルス光を発生させるには、 フェムト秒のフ ーリエ限界励起光パルスを用いることが不可欠であり、また、Fourier合成を行 うために、 誘導回転ラマン光だけを選択的に発生させることが要求される。
これらのことから、 本論文では、 光源として、 近赤外高出力レーザーである ピコ ・ フェムト秒チタンサファイアレーザーを光源として用い、 各種実験条件 の最適化を行うことにより、近赤外から深紫外に及ぶ多数の高次回転ラマン光 を選択的に発生させた。 また、 本研究の原理となる、 高次回転ラマン光の位相 が同期することを理論的に証明にした。
木論文は6章から構成されており、 その概要を以下に示す。
第1章では、 序論として、 これまで、の超短パノレス光の歴史を簡単に説明し、 従 来の短パルス光の発生方法と、 その問題点について指摘した。 そして、 本研究 の方法のアプローチ、 原理、 背景、 及び意義について述べた。
第2章では、ピコ秒チタンサファイアレーザーを励起光源として用い、 気体水 素の高次回転ラマン光を発生させる実験について述べる。 この実験では、 15 次までの純回転アンチストークス光が測定されている。 その際、 振動ラマン光 は、回転ラマン光と比較しでかなり抑制することができ、 それまでのナノ秒オ ーダ、ーのパノレス幅を持つ励起光を使用した実験では達成できなかった、高次回 転ラマン光の選択的発生が実現できた。
第3章では、 ピコ ・ フェムト秒チタンサファイアレーザーを励起光源とし、 気 体水素中で高次回転ラマン光を発生させた実験について述べる。 この実験では、
ピコ秒パノレス励起の場合よりもさらに高次の回転線を確認することができ、40 次以上の高次回転アンチストークス光を発生させることが出来た。 そのときに 発生したスペクトノレのフーリエ変換を行うことにより、本実験で得た多色光は 0.4 fsのパルス幅を持つ極限の超短パルス光を発生できる可能性があることを 示した。 本実験では、 励起光の偏光、 パルス幅、 水素圧、 集光距離などのパラ メータが、 高次回転ラマン光発生に、 どのような影響を及ぼすのかについて検 討した。 また、 フェムト秒オーダーの励起光を用いた場合、 高次回転ラマン光 を発生させるための誘導ラマン散乱、 及び四波ラマン混合の他に、 それらの妨 害因子となる自己収束、 自己位相変調、 高調波発生との競合を考慮、しなければ ならないことを示した。
第4章では、 ジブロモメタンから発生する散乱光をシード光として用いること により、 水素中での四波ラマン混合にシード効果を与え、 高次回転ラマン光の 強度を増加する実験について述べた。 フェムト秒チタンサファイアレーザーパ ルスをジブロモメタン中に伝播させると、 その高い尖頭出力のために自己位相 変調が発生し、 微弱な連続白色光を含むことになる。 その白色成分が、 四波ラ マン混合にシード効果を示し、 回転ラマン光よりもむしろ振動ラマン光を増強 することを示した。
第5章では、 四波ラマン混合により発生する高次回転ラマン光の位相が、 励起 光及び低次の散乱光の位相と同期していることを理論的に証明した。 そして、
励起光、 回転ストークス光、 及び回転アンチストークス光が、 四波ラマン混合 が進行する過程で、 どのような強度分布になり、 それらのFourier合成により
形成される超短パルス光がどのような時間波形を示すのかを、 コンピュータ ・ シミュレーションにより解析した。
第6章では、 本研究で得られた結果を総括し、 今後の展望について述べた。
第2_
ピコ秒チタンサファイアレーザーを用いた高次回転ラマ ン光の発生
2.1
緒言
現在、レーザー技術は基礎研究及び応用研究の両面において幅広く用いられ ている。 分光学においても、 高い出力と狭いスペクトル幅を同時にもっている ため、 極めて有効な光源として用いられている。 しかしながら、 レーザーは、
一般に発振ノ〈ンド幅が狭く、広域波長可変レーザーを保持するための広帯域レ ーザーゲインスペクトルを持つレーザーの開発が盛んに行われた。 そして、 そ の課題は、 波長可変色素レーザーの出現によってある程度克服され、 さらに波 長可変固体レーザーであるチタンサファイアレーザーの出現でさらに広い発 振バンドl隔が得られるようになった。 一方、 光ノぐラメトリック発振器( Optical
Parametric O scillator : OPO)が発明され、 可視域の広い範囲をカバーするレーザ
ーシステムが実験室レベルで利用できるようになった。 しかし、その第2高調 波などを使用しでも、未だ可視域を完全にカバーするようなレーザーは存在し ない。
一方、 周波数変換技術として、 最近、 誘導ラマン散乱が広く利用されている [17]。 特に気体水素は、 振動遷移(v= 0, J = 1)→(v=l,J=l) のエネルギー 準位差が4155 cm・1と、 他の非線形媒質と比較しでも大きし\値をもつことから、
波長変換用ラマン媒質として最も利用されている。 また、 レーザー波長可変域 が狭い場合には、 エネルギー準位差が587 cm・1である水素の回転遷移(v= 0, J
= 1)→(v = 0, J = 3) を利用することによって、 さらに周波数聞の空白を埋め ることが可能となる。
近年、Imasakaらによって40本もの振動・回転ラマン光を同時に発生させる
ことで、 非常に広い周波数域をカバーする多色レーザーが開発されている[13- 15]。 その波長域は近赤外から紫外域にまで達し、 可視域ほぼ全域において分 光分析に十分な発振線強度を得ている。 それら振動・回転ラマン光は、 異なる 波長の2つのレーザーを水素中に集光することにより四波ラマン混合を引き 起こすことで発生する。 その2つの励起光の周波数差は、 水素の回転エネノレギ ー差587 cm・1と一致しており、 共鳴四波混合によって高い強度の高次ストーク ス及びアンチストークス光が得られる。
また、 Imasakaらは、 この多色レーザーの各発振線の位相同期を利用して極 限の超短パルス光を発生させることを提案した[11 ]0 しかし、 これまでのナノ 秒オーダーの励起光パルスを用いた実験では、振動ラマン光強度が回転ラマン 光のそれに対してかなり高い。 しかしながら、1.4節でも述べたとおり、 選択 的回転ラマン光の発生が強く要求される。 そこで本章では、従来の励起レーザ ーよりも温かに高い尖頭出力を有するヒコ秒チタンサファイアレーザーを用 いて、水素の高次回転ラマン光を選択的に発生させる実験を行った結果につい て述べる。
2.2ストークス光及びアンチストークス光の原理 2.2.1誘導ラマン散乱によるストークス光の発生
誘導ラマン散乱は、高い変換効率を広い周波数帯域において達成できるとい う特長から、 周波数変換技術として広範に用いられてきた。 ラマン散乱は、 光 と物質の相互作用を摂動とする2次の過程で、励起光の光子数が1個減少し、
放出光の光子が1個増加する現象である。 従って、それぞれの光子数をno、ns とすれば、その確率はno(ns+1)に比例する。 角周波数偽の光が入射し似の光が 散乱されるラマン効果では、 それぞれの光と分子の相互作用があるので、 叫が 1個減少しno が1個増加する逆ラマン過程も考慮しなければならない。従って
全体としてのnsの変化は
会=的。かs
+1)一閃州 (2.1)
で表される。 Dは定数である。 また、 nsを振動ストークス光の光子数とすれば、
PiおよびPfは分子がv=Oおよびv=l状態に存在する確率である。 通常のラマ ン効果では、 nsくく1と考えてよいので、 式(2.1)は式(2.2)で近似される。
竺土= DPn A
dt 1 U
(2.2)
また、 このモデルでは、
dno
dndt dt
(2.3)
の関係が成立する。光速cで光と共に運動する観測者から見た光子数noの変化 は、
n p - D一c d一,佐
久一d 一一 色ゐ
(2.4)
で表されるので、 次の関係、が成立する。
no(z)= no(O )=xp(- D�z / c) = no(Oドp(一戸/c) (2.5)
一方、 誘導ラマン効果ではラマン光強度が励起光の10 %以上になる場合もあ
るので、 ラマン光放出の初期を除いて、 全体的にno, ns >>1の条件を用いなけ ればならない。 従って、
会=D[�-寸A (2.5)
の関係が成立する。 この関係から式(2.4)と同様に、
を=?E-寸λ (2.6)
の関係が成立するので、ns(z)は次式で、表される。
n s
(z ) =
n s( 0 :YgZ (2.7)
ただし、gはゲイン係数で次のようになる。
g=?F-4}〔) (2 . 8)
従って、励起光が物質中を距離zだけ通過し、誘導ラマン光が放出されるため には、egz >> 1を満足し、式(2.7)で表されるラマン光の増幅が、種々の損失よ り大きくなることが前提となる。 そのためには、入射光子数noが、ある関値を 越えなければならない。
ストークス光の散乱は、入射光が単一モードのストークス光との相互作用に よって生じるのではなく、実際にはストークス光を中心とする遷移のスペクト ル幅LiVsに含まれる熱幅射との相互作用によって生じる。 単位体積の物質によ って単位時間に放出されるラマン光子数と、入射光子のフラックス数(単位:
個s・lm-2)の比σを、単位体積あたりのラマン散乱断面積と定義すれば、 この 値はd時の範囲にある熱幅射のモード数と式(2.5)中のβの積として、
(8πV2 dl ノ \ 8πv2DPVLhノ
σ=β1
\ C5 2
-S V|=- S
AI C
(2.9)
で表される。 ここでYは光との相互作用の及んでいる体積であるc また式(2.9) の値は、実際に測定できる量であるが、ラマン散乱では次式で定義される分子 あたりの微分散乱断面積が用いられることが多い。
門 dQ ) m 山 l 1__ = 円 三=工 イ 阿川
\ 2}
4泊T N c4(2.10)
Nは分子密度である。 また係数(1/2)は一定方向の散乱光が2個の独立な偏光方 向を持つことを考慮、している。
孔(2.7)において、(Pi-fか/P/ = l-exp(-hvjkηの関係と、単位体積あたりの微分
断面積(daldf2)
=
N(daldf2)molecを用いれば、g= (:�) (ム) {- 叶
が得られる。 式(2.11 )から、 L1 Vsが小さければゲインが大きくなることが理解で きる。 なお、 このモデルでは、 電磁波を光子数で置換しているため、 光の位相 については記述していない。
ここで最終的に発生するストークス光強度乙は、 式(2.12)で表される[18]0 こ こでILは励起光強度、 lは励起光と媒質との相互作用長である。
ん=
10叫(
gR1Ll)
またそのときのゲイン係数gRは
32π3C2 L1N dσ
g
R = n/
hω/
.1ωR d.Q(2.12)
(2.13 )
となる。ここで L1Nは基底状態と励起状態の問の分子密度の差である。また、 ns はストークス光周波数伶における媒質の屈折率、L1ú4<はラマンライン幅である。
このときdaldf2は 伶4に比例する。 式(2.12)より、ストークス光強度は励起光 尖頭出力に対して指数関数的に変化することがわかる。 それ故、 ヒ。コ秒レーザ ーのような高尖頭出力励起レーザーは、誘導ラマン散乱用光源として極めて有 効と考えられる。
またこの時、 考慮、しなければならないパラメータとして、位相緩和時間九 がある。九は、 媒質を構成する分子同士の衝突によって分子内で振動している
分極の位相にずれが生じる中、衝突と衝突の間にその位相が保持される時間で ある。 T2は次のように表すことが出来る[19]0
1: ゐ
=
ncL11ノ1 (2.14)ここで20 atmの水素中での振動遷移と回転遷移においては、 L11うがそれぞれ
3.45x10・2 cm-1 [20]と3.33x10・2 cm-1 [21]であることから、 310 psと320 psとなる。
励起光のパルス幅が九より非常に小さい場合は、誘導ラマン散乱は過渡的現 象となり、 それにより式(2.12)は、 次のように表される[22]0
、、EEEEE,,fd
、、E,/
〆'E1、7,i
,,,EEEEEE-- w一叶2 DA X ρトV S - ri
ri eu (2.15)
この式より、 発生するストークス光強度は、 励起光の尖頭出力よりもむしろ、
パノレスエネノレギーに依存することがわかる。
2.2. 2アンチストークス光発生過程の古典論的解釈
現代においても、 新しい現象の予測またはその解釈に、 古典論ないし現象論
が決定的な役割を果たす。 ここで扱う現象も2.2.1節においてno,ns>> 1 と仮定 しているため、 古典論がよい近似となる。 ここでは振動遷移について考える。
分子の振動を振動座標X(z, f)であらわされる1次元の減衰振動とすれば、 運 動方程式は次式のようになる。 ただし、 zは光路上での分子の位置である。
d2X(Z,t)
I H
dX(z,t) 時,t)
y
d +ων2xe,t)= m (216) dt2
Id
減衰定数gは通常ラマンライン幅L1vとの聞に、 L1v=y/2πの関係にある。 似p は分子振動の共鳴角周波数、 F(z, t)は外部から分子に働く強制力である。 物質 内の電場Eによるエネノレギーεは次式で、与えられる。
ε=lJÆ2
2 (2.17)
αを分子の分極率、 Nを単位体積中の分子数とすれば、 kは
00 今/- 1111rllJ
、EBEEt,F' X rr'BEE-E1、 Am一g α + + N ri--〈Ill・、
、EE,ノα K + N m hH、、
k
で与えられるので、 式(2.17)は次のように書ける。
、EE,ノ Z /'az、、 E 11〉llJ X 、、EEEE,F' ゐ一広 + α N + rlist-- K
E l一2
(2.19)単位体積の誘電体に働く力はO&/oXである。 この値の1/Nが1個の分子に働 くカで、次式で表される。
引= ト 。 ( 針 。E2(Z,t)
(2.20)したがって、(グα/グめoが0でなければ、電場Eによって分子振動が励起され る。
次に、分子振動X(z, t)の励起が電磁場に与える効果を考える。 分子振動はエ1 (2.17)で表されるように、Kを角周波数似,で変調する。 その結果、励起光とス
トークス光との聞にエネノレギーの交換が起こる。 その過程を以下に示す。 式 (2.18)に含まれる非線形分極PNL、
4L=K ベ2) 。XW
(2.21)を考慮、して、Maxwell方程式を解く。
分極Pを含むMaxwell方程式は、次のように書ける。
-EEEd p
+ E K
+ の一d + 一3 F 「lL
H × V
(2.22)
V×E= j (AH)
(2.23)分極Pを線形項と非線形項にわけであらわす。
P=KO%LE+PNL
電気伝導度をσ、K= Ko(l+XL)とおけば、式(2.22)は、
(2.24)
グ /牙B
\lxH =σE +'::_KE + ー 」止
a a (2.25)
で表される。 式(2.23)に(Vx)を作用させ、VxVxE= VV .E- V2Eの関係 を用いて、右辺に現れるVxHを式(2.22)で置き換えると、次式が得られる。 た
だし、 そのとき、 V
·
E= 0の関係を用いる。川川 P F一グ υ門 + 刈一グ K M門 + Z一3 σ A E
V(2.26)
簡単のため、z方向に進行する波を考え、 グ/ôx =グ/ôy= 0とする。 また角周波 数ω1及び偽の波を次式で表す。
互い1)ヤ)= �[E朴 (2.27ヲa)
Ej(町)
。 片[
EOj(
z"川
(2.27ラb)ここでi、jは座標x、yを意味する。 また、
吋
ι1) =会
1(札!)ヤ )
=j L P 村
において、
dE-11
(
zl
k . >> d2E_li
や)
dz -1 dz2 (2.29)
、EEノ ハU今コ 今,ム/・1、 c c +
ω e 『・EE'EEE-EE--E」 、EE,ノ 一 ιγ 一'a
E一
ι凡 今,ム+ 、EB,ノ Z 〆'EE、、
るE 一1.2 らrhドl 得
l 一2が=株 、 y rt
#t
関 bv の A 次ぃー;E
ま V
れす
す一 成 、哨ハN
V 2E/aIJ)(z, t)に対しても同形の式が得られる。 この関係を用いれば、E/or1)(z, t) についての式(2.26)は
-EEE」、EE,ノ ・et z /'E11 ω rし 】 N P- rEEEL グ一ダ υ門 『EEBEEEEEEEEEE」 pu c + c k c J + い
11 ρu p
川 2 一
『Ital--Jr・-,Jl』
心 一 7d k 店 一 d 2 A K一 ω l + +
、lノ σ
Z
ω E- μ D
丸 一 2r[
r il
l--tlL 一 一
(2.31 )
が得られる。 ここでグ/グt= i似lとしている。 またω12μok=k.12の関係があるの で、 式(2.31)は次のようになる。
ikl t(zb it-kl)+Cc= - lωl叩 1i 仰 いlt-k_JZ )+ C. C. l
2
L』
-", / _jー(2.32)
一片手ι可
ラマン散乱では、 輯射の全電場を次のように表す。
玲t)=jιFIt-k-l)+伊川+Cじ (2.33)
ストークス光の散乱に対してはω1-偽である。 E_1*についての方程式は、
dEY 一一一一- rz - e
巾ー川ーバ, . . , + . C.C. = _. - . 一 σ 一 2 一 'J | 千 μ K よ o . ι r; * 一
巾_11勺)- 12シぬ 決午.C.
(2.34)
励起光電場E。についても同じ式が得られる。
方で、 分子分極Pは次式で表される。
P =KoNaE=K O NaoE+K O ( \ ��ì X(Z,t戸
δX 人 (2.35)
ここで問題となるのは、 右辺第2項の非線形分極である。 支た分子振動X(z, t) を次式で表すと、
X(z片えや�illJt+ C.C (2.36)
ここでPNL(z, t)は次のようになる。
PNL
(
z,叶
Kペ 2 ) o p e y +
CC?占企IE-l〆戸e〆Uiべ(… l戸吋JZ z 寸 )+ )+ Eι印νυげO♂〆〆feダe1(QJ仰仰川Iべ恥帆例(い例仰ω町州Oげf
またX(z, t)の運動方程式(2.16)を式(2.20)及び式(2.36)を用いて、
やν2-d+iyω己金)eIω=
KO( 竺互 いoE _ 1 * e{(山一1)t竹-k_1)z]
ノ 2 8 m \ éJX ) (2.38)
のように書き直す。なお、式(2.38)右辺では2偽などの高い振動数成分は無視し ている。 この式から、 分子振動は差の角周波数ω=偽ー ω1で励振されることが わかる。 これをXv(z)について解くと、
K (おo
xve)=
「 1E E l v(ko一仁!)z (2.39) 4mい2 ーい 。 -ωー 1)+ i(ω。-ωーl)r I
が得られる。PNL(ω1)は、 式(2.37)から次のように書けるの
九'L (ωト1K刈竺 互いよ *けいの -kot]+
c. c4
V\dfJ 。
=1K刈 生 ) Eo * Xν件{(ι1
-QJ)t -k_1 t ] +
c. c4
V\df } o
ここではko = k_lとしている。 式(2.34)でô2;ôt2をーω12とおけば、
dE . *
1J」 dz =-- 2 El* 刊S _IEc: * XV(Z)
が得られる。 ただし、
1
=σ 長
S_I 十 一l (� ) H (Z ) 。
とおき、 Kμoω12=k.12の関係、を用いている。 同様にして、
(2.40)
(2.41)
(2.42)
dE^ * 1
-
dz
L=一-2
E。*+iSoE-I *x
p*や ) (2.43)
が得られるo Soは式(2.42)のk.1をkoで置き換えた値である。 式(2.41)からラマ ン光の振幅E-lは励起光E。と分子振動の非線形相互作用によって変化すること
がわかる。
ラマン光E-lのゲインを計算するために、ここで、 励起光の振幅E。は物質中 で変化しないと仮定する。 実際、励起光の媒質内での損失は、そのエネルギー に比べて小さいので、このように近似しでもさしっかえない。 さらに Eoの位 相をEo
=
Eo*になるよう仮定する。 式(2.39)を式(2.41)に代入すると、dE
l*dz 2 4mlイーい。-ω-) Y +い。-ω一))r
iS_,Ko
( 釘 。E02
E
l *(2.44)
となるので、振動数的の励起光の存在下で、 角周波数例の光振幅は、
、Ef ハU 〆'E1、、 E 一一 、EE,ノ Z /'E1、 E (2.45)
の形で増幅される。 ただしラマンゲイン係数gは、
(2.46)
であらわされ、E02に比例する。 また式(2.36)、(2.39)から、的ー ω1 仇とおい て、
K^/ゐ\' 一一l
X
や
,f)
= -i; \
òX/
Q_Eι
*(z ,i['的t-(kO-LI)zJ + c.
Cδmmγ
(2.47)
が得られる。分子振動の位相(kO-k.1)zは分子振動似,の進行によるものではなく、
励起光とラマン光の電場の積EoE-l*exp {i(ko-k1)z}によって生じる。
強いストークス光の放出によってv = 1状態の分子数が増大し、それによっ てアンチストークス光の放出が起きる。 そしてその放出の方向は入射光に対し て円錐方向になる。 このモデルに従って解析を行う。 アンチストークス光に対 する方程式は、式(2.34)と同様に表せる。 即ち、この光州=偽+ø.,の増幅に関 するんL(偽)は式(2.37)によれば、
凡(叫) = ! KoN (主) 0 xや戸P
で表せるので、 E1(z)に対する方程式は式(2.34)、(2.41)と同様に、
iω12MoN|到 字字L》eピU仰仰汁円 J べ伽仰糾い(何例伴川叫州叶川tト内-引k]z ) =一一 」与; ドE1eピe i (l1lJ.tべ伽付仲(糾仲仲川町叩朴t ト一
a.必Z L
(2.48)
が得られ、 ÚJJ.=偽+仙の条件が成立する。 多くの物質はωlの光に対して透明 なため損失が無視でき、1=0としてよい。 また、ストークス光の誘導放出とア ンチストークス光は無関係であるとすると、Xv(z)の解として式(2.34)がそのま
ま用いられる。 よって式(2.49)は次式で表される。
._.
2 I μ o ].. T ( θ α\ 2
2 = ω l A O U? 。 E川仰いo-k_l)中} (2.50)
この式から、アンチストークス光叫=向+仇が空間的に成長するためには、
2kO = k_1キk
(2.51 )の条件が必要であることがわかる。 通常の分散媒質ではk1 + k1 > 2koが成立す るので、一方向に進む光ωぃ 偽および例に対しては、式(2.51)は成立しない。
3次元的に考えた場合、式(2.51)が成立するためには、図2.1に示すように、ア ンチストークス光が励起光に対して角度βの円錐方向に放出されなければなら
k, ___ k, 〆/β
k。 k。
図2.1 アンチストークス光発生時の位相整
ないことがわかる。 高次のアンチストークス光の放出に対しては、 いままで述 べた過程を繰り返すことによって説明できる。
本研究の実験条件を考慮すると、 式(2.50)は次のように表せる[23]0
S2N2 1 KL2町L
'sinc'(生 (2 . 52)
(2ctε02ylASYlsYl L \ 2 )
ここで、Ijは光強度、 ωは角周波数、 ぬは真空の誘電率、 njは屈折率、
xJ3RM
は四波ラマン混合による3次の非線形感受率、 L1kは位相不整合である。 i=L, S,
ASは、 それぞれ励起光、 第1ストークス光、 第1アンチストークス光を意味 する。 アンチストークス光は、 励起光強度の2乗、 第1ストークス光強度の1 乗に比例して発生する四波ラマン混合により発生する。 式(2.52)では、んぶんくく hと仮定した場合に成立する。
2.3
実験装置
本実験で用いた実験装置を図2.2に示す。 まず、 アルゴンイオンレーザー (S pectra Physics社: Model 206 0-7S)でモードロック ・ チタンサファイアレー ザー(Spectra Physics社: Tsunami)を励起し、 波長827nm、 パルス幅100ps、
繰り返し82恥任fzのピコ秒パノレス光を発生させた。これを、Q田スイッ チNd:YAG レーザー(S pectra Physics社: GCR・6、 波長532nm、 パルス幅 6 ns、 パルスエ ネルギー800mJ、 繰り返し10Hz)を励起光とする再生増幅器(Spectra Physics 社)で増幅し、 パルス幅100ps、 パノレスエネルギ--50mJの赤外光出力ノ勺レス
Monochromator
Power Supply Output
ρ』nr ・--且nuuw a c
&E.曜日.mvh ・・且司-aDd ed o
H2 Picosecond
Ti:Sapphire Laser
Nd:YAG Laser
Prism
図2.2 ピコ秒チタンサファイアレーザーを用いた実験装置
を得た。 このとき、 このレーザー光の偏光は完全に直線偏光ではなく、 楕円偏 光成分を含んでいた。 これを励起光とし、 ラマンセル(長さ30 cm)中のラマ ン媒質である水素ガス(圧力10 atm)に集光レンズ(焦点距離30 cm)で集光 して、 誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合を発生させた。 ラマンセルの窓は石 英製並行平面基板(厚さ10 mm)を使用した。 散乱効率を向上させるため、 励 起光がラマンセル内を2度通過するダブルパス方式を採用した。 ラマンセノレよ り発生した多色レーザー光のスペクトルを分光器(日本分光: CT-25CP)及び 光電子増倍管(浜松ホトニクス: R1477)を 用いて測定した。 光電子増倍管よ り出力された電気信号を積分器により 積算し 記録した。 励起光パルス幅は、 フ ォト ダイオード(浜松ホト ニ ク ス; Model C4258)と高速オシロスコープ (Iwatsu : Model SAS-601 8)を用いて測定した。
2.4
結果及び考察
図2.3に発生した多色レーザー光のスペクトルを示す。 Fで表記された基本波 スペクトルの周囲に、 四波ラマン混合により発生した高次誘導回転ラマン光が 多数発生している。 各発振線の波長を表2.1 に示す。 図2.3では第2回転スト ークス光から第15回転アンチストークス光までが確認できる。 さらに光電子 増倍管への印加電圧を増加して分光感度を向上させると、 第 27アンチストー クス光までが確認できた。 検出器の感度限界が930 nmまでのため、 長波長域 では、 これ以上高い次数のストークス光は測定できなかったが、 アンチストー クス光の発生本数を考慮すると、 より高次のストークス光も発生していること が推測される。第5"'"'8次回転アンチストークス線が 2本に分裂したように見 えるが、 これは表2.1からもわかるとおり、 それらの回転線と非常に近い発振 周波数で、 振動アンチストークス光及び振動・回転ラマン光が発生しているた めで あ る 。 本研究で行って い る よ うな 高 次 回 転 ラ マ ン 光 発 生実験に
kS232ω乙定-ω出
500 600 700 800 900
Wavelength (nm)
図2.3 高次回転ラマン光スペクトノレ
表2.1 図2.3中の各発振線スペクトノレの波
純回転次数 回転波長(nm) 振動波長(nm)振動・ 回転波長(nm)
-2 916
869
。 827 827
789
2 754
3 722
4 693 690
5 665 663
6 640 639
7 617 615
8 596 594
9 576 574
10 557
11 539
12 523
13 507
14 492 490
15 479
16 465
17 453
18 441
19 430
20 420
21 410 407
22 400
23 391
24 382
25 374
26 366
27 358
kC何回国一ω吉岡れま判定方出
-10 -5 。 5 10
Time
(fs)
図2.4 図2.3のスペクトノレのフーリエ変換により得られた超短パルス光の時間波形
おいては、 通常、 基本波から約4155cm・1の周波数差を持つ第1振動ラマン光、
及び振動・回転ラマン光の発生強度は、それらと同一周波数帯域に発生する基 本波からの純回転ラマン光強度よりもかなり高し'[13-15]。しかしながら、 本実 験では高い光強度の純回転ラマン光を発生することに成功した。その原因につ いて以下に考察する。
図2.3に示される多数のアンチストークス光は四波ラマン混合により発生し、
高次アンチストークス光の発生効率に、 式(2.52)も示すとおり、 基本波強度及 び第1ストークス光強度が非常に大きな影響を及ぼす。 本研究では、 以前の研 究[13・15]のような、第1ストークス光に相当するシードレーザー光をあらかじ め基本励起光と時間的空間的に重ねて水素ガスに集光するこ色励起法を採用 せず、 第1ストークス光は、 楕円偏光となっている基本波からの誘導回転ラマ ン散乱により発生している。 よって、 四波ラマン混合が起こる前段階としての 誘導回転ラマン散乱の発生効率が、高次回転ラマン光発生に強い影響を与える と考えられる。 ここで式(2.12)、 (2.13)、 及び微分ラマン散乱断面積(daldf2)は 第1ストークス光周波数偽の4乗に比例する。 一方、第1ストークス光の発 生強度Isは、 伶の 1乗に指数関数的に場加する。誘導振動ラマン散乱と誘導!日 転ラマン散乱に関するそれぞれの発生ゲインについて式(2.13)を用いて比較す ると、 ラマンライン幅('"'-'0.03 cm・1)に対して励起光ライン幅(> 0.1 cm・1)が 十分大きいため、 A偽ot, .L1úJvib→d伐としてよい。 ここで、 grotI gvib =叫ot I 仇ib= 1.45であるため、第1ストークス光発生強度の比は式(2.12)より、Is.rot I Is,vib = exp(1.45) = 4.26となる。 また、 励起光が楕円偏光であるため、(daldf2)叫が高く なり、さらに第1回転ストークス光が第1振動ストークス光よりも高効率で発 生するのに優位な実験条件となる。 次に、 式(2.52)より、 アンチストークス光 の発生ゲインは、 I/Is/.L1ØRに比例するため、IAs.rot I IAs‘vib = Is.rot I Is、vibとなり、
振動アンチストークス光よりもはるかに高い変換効率で回転ランチストーク
ス光が発生することになる。 この効果は、励起光並びに全体の散乱光の発振周 波数帯域が長波長域にシフトするに従って大きくなる。 本実験では励起光とし て用いたチタンサファイアレーザーは、通常この種の実験に用いられる可視ま
たは紫外励起レーザーと比較して、 より長波長域に発振ノくンドをもつため、 回 転ラマン光の選択的発生という目的に対して、極めて有利となることがわかっ た。
次に、 励起光のライン幅と尖頭出力の関係に関して、 過去の研究と比較検討 した。 励起光のパルス当たりのエネルギ-- êpが一定の場合、 その尖頭出力IL
はパルス幅Aらの減少に対して反比例して増加する。
Ir =� f
臼 L1t
p
(2.53)
ここで、 励起光がフーリエ限界パルスであると仮定すると、Aらが減少するに 従って、 式(l.2)より、 励起光のライン幅Aλは増加する。
本実験で励起光として用いたピコ秒チタンサファイアレーザーは、ほぼフー
リエ限界パノレスであると仮定してよく、従来用いられていたナノ秒レーザーと 比較して2'"'"'3桁大きな尖頭出力を持っているにもかかわらず、Aλ に関して は、 従来のナノ秒レーザーとほぼ同等の値となっている。
第1ストークス光強度Isは、 式(2.12)からわかるように、ILに対して指数関 数的に増加する。 一方、 基本波と第1ストークス光の四波ラマン混合より発生 する第1アンチストークス光の強度は、 式(2.52)に示されるように、IL2Isに比 例する。
本実験で用いたピコ秒励起光は、 従来のナノ秒励起光に対して、 約102倍の尖
頭出力を持っているため、 四波混合発生効率が高くなり、高強度の高次ストー クス光及びアンチストークス光を得ることが出来たと結論できる。
図2.3の多色レーザーの各回転ラマン光の位相が同期すると仮定して、 以下
の式を用いて、Fourier合成した場合に形成される超短パルス光のパルス幅を求 めたところ、5 fsの値が得られた。 そのときの時間波形を図2.4に示す。 これ は現在の最短記録である5 fsパルス[3-4]とほぼ同等の値である。
2.5
まとめ
本研究では、高出力100ピコ秒チタンサファイアレーザーを励起光とする水 素中の誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合によって、 -2次�27次の誘導|ロ 転ラマン光を同時に発生することに成功した。 この多色レーザーは、 各散乱光 の発振周波数間隔が587cm・1と、 あまり大きくないので、励起光であるチタン サファイアレーザーの発振波長を掃引する事により可視全域の周波数成分を 発生することができ、分光分析用光源として極めて有用であると期待できる。
また、Fourier合成により5 fsの超短パルス光が発生する可能性を有しているこ
とを示した。
本研究では、フーリエ限界パルスを励起光とした場合、高次回転ラマン光発 生に対して、励起光ライン幅の増加による負の効果よりも尖頭出力増加の効果 の方が大きいことを示した。 これにより、 将来、 より短パルスのフーリエ限界 フェムト秒励起光を用いることにより、多色レーザー発生効率のさらなる高効 率化が予測される。 また、 それによって、 高次回転ラマン光の位相同期により 1 fs以下の極限の超短パルス光発生が期待される。