図書館実習の意義
図書館実習事前指導Ⅰ講演録,2015年12月10日
鈴木 均(浦安市立中央図書館司書)
ごあいさつ
改めまして、皆さんこんにちは。ただいまご紹介いただきました、浦安市立図書館の鈴木 と申します。今、ご紹介いただいたように、95 年にこちらを卒業しまして、千葉県浦安市 の市立図書館に勤めてはや 20 年ということになります。ちょうど 30 歳になった頃に、立 教大学の大学院、21 世紀社会デザイン研究科に 2 年間仕事をしながら通わせてもらいまし た。研究科の一期生です。それ以外は、ずっと図書館一筋でやってまいりました。今の日本 で、正規職員で司書の仕事を 20 年間も継続できるというのは、それ自体がとても珍しく、
ありがたい事です。そういった立場から、皆さんに図書館の現場の仕事と、実習への心構え をお話しすることになりました。よろしくお願いいたします。
私の勤務しております浦安市というところは、幸いにして司書という枠で専門職の正規職 員を採用し、基本的に本人の希望がない限り図書館でずっと仕事ができる体制をとってい る、本当に数少ない図書館のひとつです。図書館への就職については皆さんご存知のとおり、
なかなか難しい状況で、浦安も例外ではないので、これからの皆さんの参考になるかどうか はわかりません。しかし、厳しい状況の中でも、こうやってがんばっている図書館があると いうこと、こうであったらいいなあ、という一つの見本として、皆さんにお見せします。
図書館員になるまで
この図書館と私とのそもそもの関わり合いから話していこうかと思います。私自身は図書 館の人になりたいなと一番最初に思ったのは、私の娘くらいの時、小学校 3 年生の時からで、
きっかけは学校図書館です。出身の長野県の学校図書館には PTA の雇用だったんですけど も、学校司書の方がいらっしゃいました。でも 3 年生まで学校図書館は立ち入っちゃいけ なかった、それまでは学級文庫を使うことになっていたのです。私は 3 年生にして初めて、
学校図書館というところに足を踏み入れたのですが、それまで見たこともないくらいたくさ んの本を、自由に読んでいいよと言われた時のうれしさは、今も忘れていません。その時の 感動が今に至るきっかけになっています。最初に手に取ったのが『十五少年漂流記』であっ
いました。読んだ方もいらっしゃるかどうか、85 年に出版された、『図書館の街・浦安』(竹 内紀吉著,未来社,1985, 227p.)という本です。
これは浦安市立図書館を立ち上げた初代の館長さんがお書きになったもので、本当に漁師 町だった浦安に身一つで飛び込んで、図書館の建設に携わり、短期間のうちに日本一と呼ば れるような図書館を作り上げたサクセスストーリーです。プロジェクト X みたいな話なん ですが、田舎の町の中学生だった私はこれを読んで素直に感動し、実際に図書館を見に行っ たり、著者の竹内さんにファンレターを書いたりしたのです。私と、浦安との関わりあいは、
その頃から続きます。
図書館実習
だからこそ、大学生になったとき、図書館実習の実習先には迷わず浦安図書館を選んだわ けです。この年、浦安での実習をめでたく認めてもらった私は、実習の打ち合わせに行った 折に、館長さんに「ここでバイトする口はありませんかね」と聞いたところ「夏の間ならあ るよ」と言うじゃありませんか。「ぜひお願いします!」というので、私と、この年に同じ 司書課程をとっていた浦安に住んでいる女の子がいて、その場で二人とも雇ってもらいまし た。夏休みの間、図書館バイトとして、ほぼみっちりカウンター業務等をこなした上で、9 月 8 日から実習に入り、2 週間楽しみました。
図書館の実習といっても、色々なパターンがあります。
浦安市立図書館はある意味、教科書的な図書館といっていいと思います。開館以来、もう かれこれ 30 年も経つのですが、この間ずっと日本の図書館としてはトップクラスと言われ 続けています。その理由のひとつは、先ほども言ったように、司書という専門職がずっと採 用されていること。また、狭い街の中のどこにいっても図書館があるような、分館網がこれ ほど整備された図書館はないということ。約 1 億円という、この規模の自治体としては破 格の資料予算をもってずっと運営することができたということなど、いくつかの点で、しか もそれを 30 年続けてこられたという事実が評価されてきました。やはり、そんな図書館は なかなか他にはなくて、図書館の世界で話をすれば、どこへ行っても、「へえすごいね」「羨 ましいね」と言われるのは間違いありません。そうした条件をベースにして、公共図書館と してこういう事をやったらいいですよ、といわれるようなことをほぼ網羅してやっていま す。例えば児童サービス、例えばハンディキャップのサービス、レファレンスなりビジネス 支援なり、集会事業なり、一応それなりのことはやっていると思います。理屈では、どの図 書館でも色々なサービスをやりたいのですが、実際にできているかというと、浦安のように できているところは珍しい。
近年、図書館というものがどんどん変化している事は皆さんもご存じでしょう。新しいサー ビス、新しい形が生まれてきています。一方、浦安市立図書館は、開館後 30 年以上経った 図書館として、新しい図書館と見比べてみると、もしかするとすこし古めかしいように思え るかもしれない。専門職が継続して司書をやっているのはいいのですけど、その分よそに比 べると保守的で、きっちりかっちりやっているけど、遊び心にはすこし欠けるという気もし ます。しかし逆に、そういう図書館だということを自ら認め、うちは老舗で教科書通りやる のでございます、というのがひとつの方針みたいなものとして暗黙のうちに染みついていま す。そのぶん、きっちりかっちり実習生の方にもそれを伝えていこうという傾向にあります。
図書館の実習も、当館は座学が結構あります。実習に行くと現場にどんどん放り出して、
貸出と返却をいっぱいやってもらってという図書館もありますが、浦安市立図書館はそのよ うな図書館ではないと思います。図書館の成り立ちから始まって、色々なサービスの分野に ついて、各担当者を通じて皆さんにきっちり理解していただいた上で、体験していただくと いうかたちになります。私が実習に行った頃もそうだったのですけど、担当者の話を聞くと いうのが半分以上を占めている実習です。現場の人たちの実際やっている仕事を目の当たり にしながら話を聞けるというのはすごくいいチャンスだと思いますし、これを大体一通りこ なすと、日本の公共図書館で、まず標準と呼ばれているサービスをみることができます。我々 としては、学生さんたちに来ていただいて、実習をしていただくので、単なる労働力として 使って帰ってもらったのじゃ申し訳ないと思っています。
図書館に職業体験の期間というのがあります、最近だと中学生や高校生がよく来るので す。中学生や高校生に図書館の体験をしてもらうというプログラムを実施しているわけです けど、当館の担当者曰く「このプログラムはなにしろ職業の辛さ・厳しさを教えなくちゃな らない。なので、楽しく帰るのではなくて色々働いてもらわなければならない。あの箱をこっ ちに運んでもらって、この棚の移動をやってもらって、あとはシール貼りで、午後いっぱい やってもらおうかね」というようなこともないわけではありません。ただ、中学生ならとも かく、大学生にはそんな必要はないと思っているので、そういう実習にはならない予定です。
一方で、例えば現場の仕事、貸出のカウンターに立ってピッピッとやって子どもたちと触 れあってということを期待していると、それよりは、もう少し地味に、お勉強させられる図 書館です。たまたま、私の場合には夏休み中にバイトとして、ずっとカウンターに立ってい たので、そういう部分も含めてやりきったという感じになったのですが。実はカウンターに 立ってピッピとやるような仕事の方が、座って話を聞いているよりも明らかに面白かったり もします。司書にとってはカウンターに立つのは一番の仕事、同時に一番の楽しみですし、
元気のもとなのです。皆さんもやってみると分かると思います。前の館長は常々、「人にあ りがとうと言われるなんて仕事は、役所にはそんなにないよ。」と我々に言っていました。
その通り、お客さんから感謝の言葉をもらい、笑顔をもらい、それを次の仕事に生かしてい く、というカウンターは、一秒でも長くそこにいたいと思わせる場所です。それは分かるの ですけど、せっかく全体像を見られる機会だと思いますので、ぜひそこを掴んでいただけた らいいと思います。
実習のそれぞれの図書館によって、受け入れの態勢なり、条件なり、色んな立場も違いも あります。正直人手が足りなくて、来てくれる者なら猫の手でも借りたい図書館、実習生と いう労働力をあてにする図書館もまだまだあると思うので。そこで見られるものの違いも きっとあると思いますので、それを踏まえて選んでいただいた方がいいかなと思います。
図書館の仕事と記録
今日持参しましたのは、私が実習した 93 年度の実習日誌です。
日誌を私も久しぶりに取り出して見てみましたけど、
なかなか面白いですね。やっぱり 20 年前、自分がどん な気持ちで、今の自分の職場を目にしたか、そこでど んなことを考えたか振り返ってみると、やはり過去の 写真を見るようにちょっと恥ずかしい。一方で、「なる ほど、こんなことを思っていたんだな」という発見が あります。色々な意味で、浦安の図書館は 20 年間そん なに変わっていないのです。私もずっと浦安一筋で、
他の館のことを全然知らずに来ているといえばそうな のですけども、変わったことと変わらなかったことと いうのを改めて見てみますと、狭いところからずっと 見続けるのと、広く浅く見るのと、どちらがいいとい うわけではない。ここから私は「図書館」をずっと見 てきたのだなという気がいたします。
やはり記録、記録、記録ですね。実習の間というのは、
本当に一瞬で過ぎてしまいます。私自身もこの時の事、記憶としてはすっ飛んでいますけれ ども、こうやって記録がちゃんと残っているということはなかなかたいしたものです。今、
あなた方が見ていることを、あなた方の目で記録できるのは、今のあなた方しかいません。
私が今、同じように見ても、同じ記録はとれないでしょう。毎年、実習の方がいらっしゃる と、皆さんこういうのを持ってこられるので、我々も書いたものを見せてもらうんですけれ ども、やはりそれぞれすごく発見があります。おなじところに 20 年も経つと見えないもの がいっぱいあるんですよね。皆さんのような方が図書館の中に入ってきてくださって、第三 者的にレポートしてくださることというのは、私たちにとっても非常に参考になりますし、
重要なことだという風に思っています。
記録の大切さというのは日々の業務の中でも意識しています。実は 8 年くらい前に『St.
Paul s Librarian』(No.22, 2007, p.14-16) に文章を書かせていただいたことがあります。
当時も、実習生に向けて書けという依頼で作文を書いたのですが、その原稿を引っ張り出し て見ました。「実習日誌の 12 年後」というタイトルで、この時点で私はこの実習日誌のこ とを思い出してどんなことを考えたかなということが書いてありました。見るとやはり、記 録をとれって書いてあるのですね。私自身も仕事の中で、記録をその都度とることはとても 大事なのだろうなと思ってきました。この時の私は分館に勤務していまして、その分館の仕 事の記録をとるということをすごく意識的にやってきたということが書いてあります。
図書館の仕事は、本を保存していくように、永続的に残るものであると皆さん思われるか もしれないんですけども、むしろ日々刻々と変わっていきます。確かに本は滅びませんが、
私たちの仕事は本を買って皆さんに提供して、それを保存していくことでもあると同時に 日々それを捨てていくということでもあります。浦安の図書館は毎年大体 8000 万円から 1 億円近くの予算をいただいて本を購入してきたわけですけども、書庫なんかとっくの昔に いっぱいなんです。年間 5 万冊の本を買うと 5 万冊の本を捨てなくちゃいけない。今の私 の仕事の半分くらいは、本をどれだけ捨てるかということをやっているようなものです。
そういう観点からみると、私たちの仕事も、決して手の中にとどまることなく、さらさら と流れていってしまうというのが現状です。そういった中で、どこかしらちゃんと踏みとど
まって、自分の立ち位置を見出していくためには、記録をとっていくというのがとても重要 だろうと思っています。
その記録も様々なレベルがあります。この実習日誌のような記録、メモというレベルのも の、統計や様々な数字、図書館で毎年作っている年報のような冊子。こういうものの蓄積が まさしく記録には違いない。私たちも、こういう記録を作っていくことが仕事の過半なんじゃ ないかと思うくらいに、毎日記録を作っています。
同時に、公式なかたちにならない記録というのがあります。私が分館でやっていた記録と は、お客さんとこんな話をした、このお客さんが今日も来た、延々そういう記録をとってい たのですね。それこそ、お客さんはこの本を読んで面白いと言った、というようなことです。
私の分館にいた時の記録としては膨大なデータのファイルがあります。もっともこれは絶対 秘密のファイルなのですが。
図書館の仕事としては、誰に何を貸したかというようなことが公式に記録に残ることは決 してありません。それは読書の自由という意味でも、当然のことですよね。返した瞬間にそ の本を誰が読んだかという記録はどんどん消えていきます。でも同時に、例えば児童図書館 員としての私は、あの子がこんな本を読んで大きくなったのだな、あるいは、あの子がこの 本はこんな風に面白いと言ったのだなということは、はっきり頭の中に残っていって、それ があるから次ができる。子どもの話だけではなく、大人の利用者に対しても、そういうのを 両方しっかりとふまえながら、日々仕事をしていっているつもりです。
私は図書館の仕事っていうのは、お客さんありきの仕事であり、そのお客さんたちとどう いう繋がりを作っていくかという意識の持ち方に、基本があると思っています。一方で図書 館というかたちのあるものは、日々刻々と更新されていきます。お客さんとの関係性という 目に見えないものと、図書館というモノのカタマリのありようを擦り合わせて、一番いい状 態に持って行くというのが図書館の仕事です。だからこそ、そういう日々の記録の積み重ね みたいなものがやっぱり仕事の中でも絶対重要であるだろうという風に私は思います。
浦安市立図書館という図書館
皆さんに具体的なイメージを持っていた だくために写真を持ってきました。
これが浦安市ですね。浦安市というとこ ろはなかなかおかしなところで、こういう 新市街のすごいビル群もあれば旧市街には こ う い う 漁 師 町 み た い な と こ ろ が 今 で も 残っています。皆さんから見るとディズニー
ランドの街というイメージになっていると思うん ですけど。それは浦安市のほんの一面にすぎませ ん。
浦安市はこの狭いエリア、4 キロ四方くらいし かない市域の中に、この図書館の他に 7 つの分館 を持っています。日本の公共図書館の現在の姿を 作った『市民の図書館』(日本図書館協会編,同 協会,1976, 168p.)という有名な本があります。
この中で公共図書館を発展させるために「全域 サービス」ということが提唱されました。誰でも どこでも図書館が使えるようにしようという構想 で、町中に図書館網を張り巡らせるということを 勧めました。浦安市はその点に関しては、本当に日本でもこんな場所はないだろうなと思う ところです。小さな市の中に 7 つの分館と中央図書館とがあって、本当に市内どこからで も図書館に行かれる、しかもその分館にそれぞれ私たちのような専門職の司書が少なくとも 1 名は張り付いて、それぞれの運営をしているという体制になっています。
中央図書館はこんな感じです。だいぶ古 い写真ですが、来ていただくと分かります が、あまり変わっていません。最近、新し い図書館はいっぱいできていて、建築的に も美しい図書館がいっぱいありますが、浦 安の図書館はその走りです。まず、小学校 の体育館 2 つ分あるという広々としたフ ロア。30 年経っているとはパッと見では 分からない、手の入っている図書館かなと 思います。
これが中央カウンターです。浦安市立 図書館は中央のカウンター、児童のカウ ンター、レファレンスのカウンター、書 庫のカウンター、と 4 つのカウンターを 持っていて、それぞれに人を配置してい ます。
これが中央図書館の奥にある開架の書 庫です。最初に建てた中央図書館がすぐ に 容 量 が 足 り な く な っ て し ま っ た の で、
その奥に書庫を増築したのです。ここは 開 架 の 書 庫 と い う 誰 で も 自 由 に 入 れ る、
けれども書庫であるというコンセプトで、
出 来 た 当 初 は す ご く 珍 し か っ た の で す。
公共図書館の運用としては見所のひとつ ですので、ぜひ見ていただければと思い ます。
これは子どもの本のカウンターです。私 も 20 年司書をやっていますけども、半分 は分館にいまして、分館の職員は、大人 も子どもも同時に相手にしなければなら ないので、当然に児童サービスの担当で もあるという事になっています。その残 りも基本的にはずっと児童担当を離れた ことはないんです。子どもの図書館が一 番、私にとっては所属として長いといえ ます。
こちらの写真が分館です。7 つの分館が あり、それぞれ少しずつ個性があります けれども、パッと見そんなに変わりませ ん。浦安市立図書館としての共通カラー が、どの分館にもあります。大きさはそ んなに大きくありません。分館ひとつは 5 万冊くらいの規模です。分館の年間の貸 出冊数は 10 万冊から多いところで 30 万 冊くらい。5 万冊の図書館で 30 万冊貸す というのはなかなか大変なことです。
分館のよいところは、それぞれの地域 の個性、住民の顔が直接見えるところです。浦安市立図書館の自慢はこの分館網全体で、中 央図書館以上の貸出しをしているところです。見学にいらっしゃる方は中央図書館だけ見て 帰る方が多いですが、実習にいらっしゃると、何日か分館に行ってそこの体験もしていただ くことになっています。
これは駅前の図書サービスコーナーです。こ こは予約しておいた本を受け取ったり、返却 をするための専用のコーナーですが、朝 7 時 から夜 9 時まで開いています。シルバー人材 センターの方に委託していて、図書館の職員 はおりません。予約はネットで登録して、受 取は駅前のこちらのコーナーという使い方が すごく増えているところでもあります。
ネット予約が典型的なものですが、自動貸 し出し機であるとか、便利さを追求するとい う点でははどんどん便利なシステムができ て、私たち職員の手を離れつつあります。
では我々職員は何をしているのかということがどうしても問われてきます。浦安の図書館 の場合には、例えば児童サービスの一環として小学校・幼稚園・保育園へ出掛けて行って、
本の読み聞かせをしたりお話をしたりということに、かなり力を入れてやっています。「市 民の図書館」という本の中で、「全域サービス」と並んで提唱されているのが「児童サービス」
と「貸出し」ですが、「児童サービス」に力をいれますと図書館に色んなものが返ってきます。
貸出冊数としても返ってきますがそれだけではない。街を歩いていると「あっ図書館の人だ」
と言われるのはやはり子どもたちのところに行っているからだとおもいます。個人として見 ればこれだけで嬉しくて、「児童サービス」を私は大好きなのですが、図書館の役割として 見ても、こういう子どもたちにどうやって本を読んでもらうかというようなことは、近年す ごく注目され、重視されるようになっています。将来の読者を育てる事、「本を読む」「図書 館を使う」という習慣を身に着けさせること、それを浦安市立図書館ではこの 30 年、意識 的にやり続けてきたと思います。小学校や幼 稚園・保育園に年間で 2000 回近く行ってい るのです。それはもう、職員総出で、毎日誰 か外に出掛けているような状態になっていま す。私も分館勤務の間はずっと、毎週 1 回以 上、今はちょっと児童を離れていますので、
それでも月に何回か、小学校・幼稚園・保育 園に出掛けていって、読み聞かせや、ストー リーテリング、ブックトークをやっています。
実習に来ていただければもちろんこういうの を見学していただけると思います。
全国的に、これら児童向けのサービスの注 目度は上がっている割に、実情をみればほとんどがボランティア頼みで、職員で回している 図書館はごくわずかです。もちろんボランティアの人と上手く協力していくというのも図書 館の役割ですけども、自分たちでできない事を何でも任せていて良いわけではありません。
できることなら直接、子どもたちとつながっていきたい。そのこと自体に大きな意味があり ます。図書館の仕事はなんでもそうですけど、サービスは全部繋がっていくのですね。児童 サービスの一環としてどんな本を読み聞かせをするか、ということが、棚に並べておく本に つながっていく。よみきかせやおはなしの反応が、次の本の選択につながっていく。こうし て全部繋がっていくことを考えていくと、なかなか人任せにはできない。私たちは一応そう
思ってきたので、一所懸命自前で何とかしようとやってきています。
この中央図書館、数年後には大規模な改修が必要になっていて、それをどうするのかとい うことが課題に挙がっています。例えば、来ていただければ分かりますが、この柱の隅にバ ケツが置いてあります。一昨年、大雨が降った時に雨漏りした水が入りまして、この木の床 がべこべこに剥がれて大変なことになったのです。30 年以上が経過して、対処しなければ ならないことも色々あります。
図書館の職員体制
皆さんの就職にも絡んでくると思うのですが、浦安市立図書館は幸いに司書という専門職 を正規職員で雇って、ずっとその仕事をし続けることができたというのは、私としてはすご く有り難い点だと思いますが、同時にこの 10 年以上新規採用がほとんどありません。2006 年に採用して以来、正規職員の採用はなく、実質的にはその間足りなくなった人手は「専門 非常勤」という名前で、司書の資格を持っている非常勤職員の方を、いわゆる普通のアルバ イトの人とは別枠で採用して、仕事を手伝っていただいているという状態にあります。
ただ、その制度が始まってすでに 10 年以上経つんです。そうした中で、専門非常勤と正 規職員との格差が明らかにあります。月給で 3 倍、ボーナスなどを含めた年収ベースでは おそらく数倍違うのです。元々、制度が始まった 10 年前くらいの想定では、司書の資格があっ て、司書の仕事がやりたいけれども、採用の口がないという方々には、専門非常勤という枠 でお仕事をしていただいて、でもこれで浦安の図書館で何年か勉強していただいたら、チャ ンスを見つけて次の職場に、正規職員の採用があればそこ移っていただく、いわば踏み台に していただければいいかなということだったと思います。
現に浦安から次へ羽ばたいていった人も何人もいる一方で、仕事として 10 年近く勤め続 けてこられた方もいらっしゃいます。そういう中でこれだけ格差があって、にもかかわらず、
業務の上ではベテランとして、図書館業務の中核を担っていただいている。このことは果た してどうなのか、日々悩みのあるところです。そういったところは、中に入って色々と話を 聞いたり色んなところを見たりしていただけると、見える部分もあるでしょう。
採用と待遇の問題は、皆さんの方がむしろ切実に感じているはずです。現に司書の正規職 員の採用というのは、国全体として考えたら明らかに減っていますよね。図書館自体が、指 定管理や民間委託によって、地方公務員が正規職員としてする仕事ではなくなりつつある部 分もあって、果たしてどうなっていくのかなというのは正直不安です。ただ、地方公務員と して自治体の職員が図書館を自分の手で運営し続けていくということは、私は絶対に手放し たくない、手放すべきではないと思っています。
自治体にとっての図書館
図書館というのは、街にとって色々な使い方ができる、すごく有効なツールです。それを どう使うか、うまく使って街をどんな街にしてくのか、それを決めるのは「公」の仕事だと 思います。「公」というのはお役所という意味ではありません。念のため。例えばあなたが すごくいい車を持っているとします。それを自分で好きなところに運転するのと、運転手に 頼んでお任せにするのでは、たとえその運転手がどんなに上手な運転手だとしても、ちょっ と残念だと思いませんか。その車で何がしたいか、どこに行きたいかを知っている人が自分 でハンドルを握りたい。自分たちでコントロールできる、ということが、自治体が直接、図
その中でも採用と待遇の話題であれば、職員をどう確保していくか、働いている方々に、
どういう処遇を保証していくかということも含めて、考える責任が、正規職員にはあります。
浦安市立図書館の形も今お話したとおり、決して理想形とは言えないのです。『図書館戦争』
の映画を観て、何が一番フィクションかというと、図書館に正規職員で採用されて、ちゃん と先輩後輩がいて、それでランクアップしていくなんていうところです。でも、そういう制 度を作っていくとしたら、私たちが自分で作らなければならない。その責任を感じています。
公務員試験の問題
最後に、公務員試験に関して言うと、今、言えることは、一にも二にも三にも年齢制限で す。年齢制限にさえ引っかからなければ、とにかくチャンスはまだまだ充分あると思います。
一方、年齢制限に引っかかってしまうと、今の日本の地方公務員制度の中で、就職すること はきわめて難しくなります。だから、図書館の仕事がしたくて、一時的に例えば非常勤職員 になる、一時的に委託業者に採用してもらって図書館の仕事をしていくというのはそれでい いと思うのですけれども、もし、正規の公務員として図書館の仕事がしたいのであれば、と にかく一刻も早く受験した方がいいと思います。身の回りでも、図書館の仕事がしたくて非 常勤職員でずっといたけれども、ずるずる気がついたら 28 歳を越え 30 歳を越え、試験自 体がもう受けられなくなっていたというケースが本当に多いのです。私自身も、わが身を振 り返って、例えばあそこで 1 年浪人していたらとか、今でも時々考えます。もちろん、公 務員が本当にあなたにとっていい仕事なのかどうか、また、人生の中で色々繰り返すであろ う回り道の、どれがよいのか悪いのか、そんな事はわかりません。あくまでも、テクニカル な問題として、年齢制限には気をつけて、という事だけです。
受験にどうやって通ったか、本当に私も謎ですね。ただ、ここへ来て、オリンピックが近 づいてきて、景気が全体的に良くなってきているのだそうです。公務員の採用状況などは、
皆さんの方がよくご存じだと思いますが、景気がよくなると相対的に公務員の人気が落ちま すので、この何年かは狙い目かもしれません。司書資格での採用というのが少ないのはもち ろんですが、同時に、司書が自治体からいなくなることについて、困ると思っている人たち ももちろん自治体の中にいますから、いわゆる行政職として採用されて、司書の資格を持っ ていますというのは充分 PR ポイントになると思います。実際に司書採用自体、近年は少し 増えているようにも見えますが、採用する側として見た時には、例えば司書なら司書の、そ れしかしませんという人は、後々使いにくくて採用しにくいだろうなという風に正直思いま す。地方自治体の公務員は、色々な部署を回されて、色々な仕事をやらされるものですが、
それも、その人次第です。ある分野で、例えば税金なら税金、社会教育なら社会教育、入っ てその仕事でこれこそ天職だと思ってやっていると、そういうのって見られていますよね。
私の見る限り、そういう人があまり変なところにぽんと異動させられるようなことはありま せん。それは私の見ているのが小さな自治体だからかもしれませんけれども、地方公務員の 在り方というのも色々です。そうした中で、司書職としての採用かどうかというのは、私自 身も、必ずしもそうではなくても良いのかなと思い始めているところです。もっとも、私が 司書でなくて良いかと言われたら、嫌だと言いますけどね。言いますけど、採用の在り方と しては色々な方法があると思います。視野を広く持っていただいて、就職に臨んでいただけ ればいいかなと思います。
自慢するわけじゃないですけど、受験時の倍率 140 倍だったのですよ。司書採用の枠で、
大講堂いっぱいになって、でも受かった 3 人は、よく言うのだけど、「どうしてこの 3 人な んだろうね」っていうの、謎です。一次試験は単純にセンター試験みたいな感じなので、一
次試験はある程度のことがクリアできれば、点がとれていればいいのですが、二次試験は、
何でこの 3 人を選んだのかという、その基準はわからない。確かに面白い 3 人にはなって いるのですけど、でも分からないです。その分からない 3 人が 20 年も一緒に仕事をしてい くと、それぞれにベテランの図書館員に育っていくわけですから、採用というのも不思議な ものだと思います。人事を尽くしたら、あとは運と、縁にたよるのみです。皆さんのご健闘 をお祈りします。
質疑
Q. 立教大学文学部英米文学専修 3 年の A と申します。私も某県の司書の採用を目指してい るんですけれど、浦安市で図書館でアルバイトされたことや実習に行ったことが採用に関係 があったなと感じたことはありますか?最初のファンレターなども。
A. どうなのでしょう。公務員試験というのも本当にどこまでそういう影響があるのか分か らないのですよね。ただ、いわゆるコネ採用みたいなものは全くありません。昔はそういう 話も聞きましたが、とっくに今はそういう時代ではなくなっています。しかし、特に二次試 験以降に入ってくると色んな意味で、熱意とか評判とか色んな情報を向こうも集めているの で全く影響はないとは言わないかなと思います。紹介なら紹介、役所の上司なりが知ってい て、この学生はすごくいいはずだ、みたいな情報は、向こうも集めているし、こちらも流し ているので、そういうことが二次試験以降になれば色んな影響が出てくる可能性がありま す。自治体の規模にもよりますが、それはあると思います。
Q. 法学部 3 年の N といいます。先ほどの、分館が、所蔵が 5 万冊で年間 30 万冊を貸し出 す館もあるという点が気になったのですが、まずおそらく蔵書の回転率がいいということ と、結構、連絡便がたくさん乗っているんじゃないかなと考えたんですが、そういう理解で よろしいでしょうか。
A. そうですね、図書館は連絡便が一日一回全館を巡回していますので、貸出に関して全部 の図書館は一体の運用になっています。どの図書館であってもこちらに運んでくることは可 能ですし、リクエストで予約しておいてそこで借りるというケースも多いです。30 万冊貸 す分館は、先ほどみた新市街の大団地のど真ん中にあって、立地条件はすごくいいですね。
あそこはそんなに広い図書館ではないのですけれども、地域性といっていいと思いますが、
我々もびっくりするような貸出があります。
Q. 文学部日本文学専修の M です。ちょっと改装が必要だと仰っていたと思うのですけど、
今後、何か改装するとなった時に、建物に修繕するとなった時、今の図書館と何か違うこと をやろうとか、変えていこうというところがあったら教えていただきたいです。
A. 今それを盛んに議論をしているところです。どういうところを変えていくのかというと ころにも色々な意見があります。例えば、今の中央図書館は、基本的に貸出し中心で、貸出 ししたら帰ってもらえばいいということで作られているんです。自習室も最小限で良くて、
どんどん来てどんどん帰っていく場所なのだということだったのですけど、最近の図書館の 場合にはひと頃よりも滞在型と言われることが多くなっています。館内にいる人がどのくら い気持ちよく使えるかということをある程度考えざるを得ない。学習室であるとか、座席で あるとか、ネット環境であるとか、やはり一日来てじっくり調べ物をしたり勉強したりする
もう一つは、何しろ本を入れる場所が全然足りないので、書庫を増やすか本棚を増やすか という議論もあります。さっきも見たあの大きなフロアのこの広々した感じは、これで本棚 を高くしたら台無しだなと私は思っています。棚を増やせばいいというものでもないのです が、そのへんは色々な意見があると思いますね。
基本は雨漏りしないこと、冷暖房が効くこと、放送が聞こえること、それからやっぱりコ ンピュータ関係ですかね。浦安市立図書館はコンピュータを入れたのが日本でもきわめて早 い図書館なのですけども、それだけに、コンピュータの配線関係は本当にスパゲッティもい いところなのですよ。何がどこに繋がっているか誰も分からない状態なので、それらをきれ いにすっきりしないといけません。
いまや箱物をおいそれと建て替えられる時代ではなくなってきましたので、改修したうえ で、さらに 30 年使える図書館にするというのが目標です。とはいえ、どんどん期日が迫っ てきているので大変なんです。