路 上 喫 煙 条 例
・ ポ イ 捨 て 禁 止 条 例 と 刑 罰 論
︱ ︱
刑事 立法 学序 説︱
︱
深 町 晋 也
Ⅰ は じ め に
Ⅱ 路上 喫煙 条例
・ポ イ捨 て禁 止条 例の 現状 分析
Ⅲ 路上 喫煙
・ポ イ捨 ての 規制 根拠 と刑 罰論
Ⅳ 終 わ り に
Ⅰ
は じ め に 近時、刑 事立 法の ラッ シュ とで も言 える 状況 が生 じて いる
。実 体法 に限 って みて も、 従来 から 規定 され てい る犯 罪に つい ての 法定 刑の 引き
( )
上げ の他
、様 々な 領域 にお いて 犯罪 化が なさ れて
( )
いる
。こ のよ うな 重罰 化及 び犯 罪化 の
1
2
進行
︵い わゆ る刑 罰積 極主 義︶ は、 必ず しも わが 国に 限っ た事 態で は
( )
ない が、 従来
、刑 事立 法が 抑制 的で あり
、か
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つ刑 罰権 の行 使に つい ても 基本 的に は抑 制的 であ った わが 国の 状況 から する と、 近時 の傾 向は 驚異 的と 言え る。 し かし
、こ のよ うな 傾向 に対 して
、学 説が 十分 にそ の役 割を 果た して きた かと 言え ば疑 問で ある
。そ もそ も、 わが 国
の学 説は
、前 述の 刑事 立法 の抑 制的 態度 に対 応し て、 基本 的に は解 釈論 の深 化に 意を 払う 余り
、立 法的 な提 言を 行 わず
、あ るい は刑 事立 法に 関す る理 論的 枠組 みを 構築 して こな かっ た嫌 いが ある
。も ちろ ん、 解釈 論の 展開 にお い ても
、刑 罰権 の適 切な 行使 とい う観 点か ら処 罰の 限界 を巡 って 議論 がな され てこ なか った わけ では ない が、 いか な る処 罰が 望ま しい のか
、あ るい はそ もそ も処 罰す るこ とが 望ま しい のか
、他 の制 裁に 委ね るこ とが 妥当 では ない か とい った 刑事 立法 のあ り方 を巡 って の議 論は
、さ ほど 活発 に行 われ てい たと は言 え
( )
ない
。し かし
、こ のよ うな 学説
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のあ り方 は、 いざ 刑事 立法 が積 極的 に行 われ ると いう 状況 にお いて 適切 な立 法論 的指 針を 提示 し得 ない ため に、 刑 法学 の視 点か らす れば 問題 のあ る立 法に 対し て防 波堤 とし ての 役割 を果 たし 得
( )
ない のみ なら ず、 刑法 学の 視点 から
5
見れ ば望 まし い︵ 少な くと もあ るべ き︶ 立法 を促 進す るこ とも でき ない
。こ うし た刑 法学 の﹁ 置い てき ぼり
﹂状 況 は今 後ま すま す強 まり
、刑 法学 の持 つ意 義が
︵今 まで 以上 に︶ 低下 しか ねな いが
、こ うし た危 機的 な状 況に 対し て 刑法 学が なす べき こと の一 つは
、刑 罰︵ 刑事 制裁
︶の 意義
・機 能を 明ら かに する こと で、 刑罰 がな し得 る役 割及 び その 限界 を示 し、 現在 の社 会に 生起 する 問題 への 解決 のオ プシ ョン を提 示す るこ とで あ
( )
ろう
。
6
本稿 は、 この よう な問 題関 心に 基づ き、 近時 多く の地 方自 治体 にお いて 制定 され
、あ るい は制 定に 向け ての 検討 がな され てい るい わゆ る路 上喫 煙条 例及 びポ イ捨 て禁 止
( )
条例 を素 材と しつ つ検 討を 加え る。 法律 では なく 条例
、し
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かも 地方 自治 体ご とに 様々 な規 制内 容・ 規制 態様 を有 する 当該 条例 を検 討対 象と する こと は、 一見 する と奇 異に 映 るか もし れな いが
、こ れに は理 由が ある
。第 一に
、当 該条 例は 地方 自治 体ご とに 様々 な規 制内 容・ 規制 態様 をも っ て制 定さ れて いる が、 その 規制 対象 がタ バコ とい うい わば 市民 の嗜 好に 属す るも ので ある だけ に、 刑罰 の意 義や そ の限 界を 考察 する 上で 格好 の素 材と 言え る。 すな わち
、こ のよ うな
﹁市 民の ライ フス タイ ル﹂ とも 言え る領 域に 刑 事制 裁が 踏み 込ん でい くこ との 是非 や、 他の
︵非 刑事 的︶ 制裁 の導 入の 是非 を考 察す るこ とで
、刑 罰の 意義
・限 界 が見 えて くる もの と考 えら れる
。第 二に
、当 該条 例は まさ しく
﹁市 民の ライ フス タイ ル﹂ に踏 み込 んで いく もの で
ある だけ に、 当該 条例 を制 定す る側 でも 相当 に議 論を 重ね てお り、 その
﹁悩 み﹂ とも 言う べき もの が当 該条 例の 端々 に窺 われ る。 その よう な﹁ 悩み
﹂は
、現 在の 日本 にお ける 刑罰 に対 する 見方
、す なわ ち刑 罰観 を反 映し たも の であ り、 した がっ てそ のよ うな
﹁悩 み﹂ と正 面か ら向 き合 う必 要が ある と思 われ る。 第三 に、 当該 条例 は今 まさ に 多く の地 方自 治体 で制 定さ れ、 また は制 定に 向け ての 検討 がな され てい ると いう 状況 であ るこ とも 見逃 せ
( )
ない
。立
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法的 提言 は、 議論 の趨 勢が 固定 化す る前 にな され るこ とが 望ま しい こと は言 うま でも なく
、当 該条 例を 巡る 状況 が 未だ 流動 的で ある こと に鑑 みれ ば、 現段 階で ある べき 立法 の指 針を 示す こと には 意義 があ るも のと 思わ れる
。
* 北海 道大 学准 教授 の藤 谷武 史氏
、東 京大 学准 教授 の樋 口亮 介氏
、北 海道 大学 准教 授の 得津 晶氏 には 予め 草稿 に目 を通 して 戴き
、そ れぞ れか ら 貴重 なコ メン トを 頂戴 した
。そ れに も拘 らず なお 残る 本稿 にお ける 誤り につ いて の責 任は
、勿 論筆 者に ある
。
︵
︶ 平成 一六 年改 正に より
、有 期の 懲役 及び 禁錮 の法 定刑 の上 限が 一五 年か ら二
〇年 に引 き上 げら れた こと はそ の表 れの 一つ であ るが
、刑 法各 則 1 の犯 罪類 型に おい ても
、平 成一 六年 改正 で法 定刑 の上 限あ るい は下 限が 引き 上げ られ たも のは 数多 い︵ この 点に つき
、佐 藤弘 規・ ジュ リス ト一 二八 五号
︵二
〇〇 五年
︶三 三頁 以下 参照
︶。
︵
︶ 児童 買春
・児 童ポ ルノ 禁止 法、 スト ーカ ー行 為等 規制 法、 臓器 移植 法、 ヒト クロ ーン 規制 法、 DV 防止 法、 組織 的犯 罪処 罰法
、不 正ア クセ ス 2 禁止 法な ど、 枚挙 に暇 がな い。
︵
︶ ドイ ツで の状 況に つき
、井 田良
﹃変 革の 時代 にお ける 理論 刑法 学﹄
︵二
〇〇 七年
︶二 七頁 以下 参照
。
︵ 3
︶ 従来 から この よう な議 論が 盛ん に行 われ てい たの は、 いわ ゆる 経済 犯罪 の領 域で ある
。佐 伯仁 志﹃ 制裁 論﹄
︵二
〇〇 九年
︶二 五七 頁以 下参 照 4
。
︵
︶ こう した 例と して 特に 挙げ なけ れば なら ない のは
、児 童ポ ルノ を巡 る刑 事的 規制 であ ろう
。こ とに 保護 法益 の不 明確 さは
、解 釈論 にお いて 大 5 きな 問題 を引 き起 こし てい る。 仮に
、児 童ポ ルノ 提供 罪︵ 七条 一項
︶あ るい は所 持罪
︵七 条三 項︶ の保 護法 益を 個人 的法 益と 解す るの であ れば
、当 該児 童ポ ルノ の提 供、 所持 の時 点︵ より 正確 には 法益 侵害 結果 発生 時︶ で当 該児 童が 一八 歳未 満で ある 必要 があ ろう
。し かし
、こ の よう に解 する ので あれ ば、 検察 は当 該児 童ポ ルノ の被 写体 とな って いる 人間 が、 児童 ポル ノの 作成 時に 一八 歳未 満で ある こと を立 証す るの み なら ず、 被告 人の 実行 行為 の時 点で もな お生 存し てお り、 かつ 一八 歳未 満で ある こと を立 証し なけ れば なら なく なる
。他 方、 社会 的法 益と 解 する ので あれ ば、 わい せつ 物販 売目 的所 持罪
︵刑 一七 五条
︶と の比 較か ら明 らか なよ うに
、お よそ 他人 に流 通す る可 能性 がな いよ うな 所持 を 犯罪 化す るこ とは でき ない こと にな ろう
。深 町晋 也・ 平成 一八 年度 重要 判例 解説
︵二
〇〇 七年
︶一 七四 頁以 下も 参照
。
︵
︶ 刑罰 の意 義・ 限界 を示 しつ つ、 制裁 を多 様化 して 適切 で効 率的 な制 裁制 度を 構築 すべ きと する もの とし て、 佐伯
・前 掲注
︵
︶を 参照
。
︵ 6
︶ 以下
、両 条例 をま とめ て示 す際 には 当該 条例 と呼 称す る。 また
、当 該条 例の 具体 的な 内容 につ いて はⅡ を参 照の こと
。
︵ 7
︶ 本稿 が執 筆さ れた 二〇
〇九 年︵ 平成 二一 年︶ にお いて も、 数多 くの 条例 が制 定さ れ、 また 改正 され てい る。 例え ば、 江東 区︵ 江東 区歩 行喫 煙 8 等の 防止 に関 する 条例
。平 成二 一年 三月 一三 日公 布︶
、滋 賀県 大津 市︵ 大津 市路 上喫 煙等 の防 止に 関す る条 例。 平成 二一 年三 月二 三日 公布
︶、 愛媛 県松 山市
︵松 山市 歩き たば こ等 の防 止に 関す る条 例。 平成 二一 年一
〇月 九日 公布
︶な ど。
Ⅱ
路上 喫煙 条例・ポ イ捨 て禁 止条 例の 現状 分析
ઃ 前 提 本稿 で検 討対 象と する 路上 喫煙 条例
・ポ イ捨 て禁 止条 例と は、 基本 的に は以 下の よう な内 容を 有す る。 すな わ ち、 路上 喫煙 条例 につ いて は、 当該 地方 自治 体の 首長 が一 定の
﹁路 上禁 煙地 区﹂ を指 定し
、当 該地 区内 では 路上 で 喫煙 する 行為 を禁 止し
、そ れに 違反 した 場合 には 一定 の制 裁を
( )
科す
。ま た、 ポイ 捨て 禁止 条例 につ いて は、 公共 の
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場所 にお いて タバ コの 吸い 殻を 捨て る行 為を 禁止 し、 それ に違 反し た場 合に は一 定の 制裁 を
( )
科す
。こ のよ うな 内容
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を有 する 条例 は、 全国 の地 方自 治体 にお いて 制定 され てお り、 全て を網 羅的 に検 討す るこ とは 困難 であ るの みな
( )
らず
、本 稿の 目的 にも 必ず しも 合致 しな い。 そこ で本 稿で は、
①東 京都 特別 区︵ 二三 区︶
、② 政令 指定 都市
︵一
( 11 )
九市
、︶
③中 核市
︵四
( )
〇市 を︶ 中心 とし た都 市︵ 五二 市︶
、に つい て当 該条 例の 有無 及び 内容 を調 査し
、そ れに 基づ
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いて 現状 分析 を行 うこ とに する
。 また
、当 該条 例は 規制 内容
・規 制態 様に おい て様 々な もの があ るが
、本 稿に おい ては 特に 罰則 の有 無及 び内 容と いう 観点 から の類 型化 を行 うこ とに する
。本 稿の 関心 は、 当該 条例 が規 制対 象と して いる 路上 喫煙 やポ イ捨 てが 刑 事制 裁を 科す に値 する よう なも のか 否か とい う点 にあ り、 その 観点 から すれ ば、 罰則 に着 目し た類 型化 を行 うの が 最も 便宜 だか らで ある
。当 該条 例に つい ては
、大 まか に分 けて
、① 罰則 を伴 わな い
( )
もの
、② 違反 した 場合 に
( )
過料 を
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科す
( )
もの
、③ 違反 した 場合 に罰 金を 科す
( )
もの があ る。 これ に加 えて
、④ そも そも 条例 自体 が存 在し ない 場合 も含 め
16
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て、 以下 では 分類 する こと にす る。
路上 喫煙 条例
・ポ イ捨 て禁 止条 例の 現状
⑴ 路上 喫煙 条例 の概 観
①罰 則規 定の ない 条例
:
︻東 京都 特別 区︼ 荒川 区、 江東 区︵ 但し 公表 あり
、︶ 新宿 区、 世田 谷区
、台 東区
、中 央区
︵但 し公 表あ り︶
、豊 島 区、 中
( )
野区
、練 馬区
、文 京区
︵但 し公 表あ り︶
、港 区︵ 努力 規定
︶、 目黒 区︵ 一二 区︶
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︻政 令指 定都 市︼ 仙台 市、 浜松 市︵ 努力 規定
、︶ 相模 原市
、堺 市︵ 努力 規定
︶︵ 四市
︶
︻中 核市 その 他︼ 埼玉 県川 口市
、埼 玉県 所沢 市、 神奈 川県 横須 賀市
、静 岡県 三島 市︵ 努力 規定
︶、 長野 県上 田 市、 長野 県松 本市
︵努 力規 定︶
、滋 賀県 大津 市、 京都 府八 幡市
︵努 力規 定︶
、香 川県 高松 市、 愛媛 県松 山市
、 福岡 県久 留米 市︵ 努力 規定
、︶ 鹿児 島県 鹿児 島市
︵一 二市
︶
②過 料規 定の ある 条例
:
︻東 京都 特別 区︼ 千代 田区
、板 橋区
、杉 並区
、品 川区
、足 立区
、大 田区
、葛 飾区
、北 区、 墨田 区︵ 九区
︶
︻政 令指 定都 市︼ 札幌 市、 千葉 市︵ 間接 罰方 式︶
、さ いた ま市
︵間 接罰 方式
︶、 横浜 市、 川崎 市、 静岡 市、 新潟 市、 名古 屋市
、京 都市
、大 阪市
、神 戸市
、岡 山市
、広 島市
、北 九州 市、 福岡 市︵ 一五 市︶
︻中 核市 その 他︼ 栃木 県宇 都宮 市、 埼玉 県川 越市
、千 葉県 船橋 市︵ 間接 罰方 式︶
、千 葉県 柏市
、千 葉県 我孫 子市
︵間 接罰 方式
︶、 富山 県富 山市
、岐 阜県 岐阜 市、 岐阜 県高 山市
︵間 接罰 方式
︶、 兵庫 県姫 路市
、兵 庫県 西宮 市、 奈良 県奈 良市
︵間 接罰 方式
、︶ 山口 県下 関市
、長 崎県 長崎 市、 熊本 県熊 本市
、大 分県 大分 市、 宮崎 県宮 崎市
、