〈論説〉路上喫煙防止条例による規制--横浜市路上喫煙訴訟を事例として
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(2) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. のであり,主として子どもや妊婦といった住民等の健康保護を目的として いるものであるが,他方, たばこに関する規制については, 各市町村が 制定している都市の美観確保等を目的とした,路上喫煙防止条例,ポイ捨 て禁止条例等も存在する。 本稿で検討する事例は,横浜市の「空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止 等に関する条例」によって,原告(被控訴人,上告人)の路上喫煙禁止地 区における喫煙についての違反が摘発され,過料処分が科されたものであ 受動喫煙防止条例を事例として―」法政論叢5 0巻1号(2013年)1頁以下を参 照。また,兵庫県受動喫煙の防止等に関する条例の制定経緯等についての詳細 は,四方弘道「受動喫煙防止等に関する条例の制定について」地方自治職員研 修45巻10号(2012年)27頁以下を参照。 条例の目的について,神奈川県の受動喫煙防止条例は,受動喫煙が健康へ悪 影響を与えることが明らかであるという前提の下で,①県民,保護者,事業者, 県の責任の明確化,②県民自らの意思によって受動喫煙を避けることができる 環境の整備促進,③未成年者の受動喫煙による健康への悪影響からの保護,と いう方法によって, 「受動喫煙による県民の健康への悪影響を未然に防止するこ と」を目的としており,兵庫県の受動喫煙防止条例は,受動喫煙が,がん,脳 血管疾患,心臓病等の疾患のほか,健康に悪影響があるという前提の下で,① 未成年者及び妊婦をはじめ県民が,たばこの煙にさらされることによる健康へ の危険を避けること,②健康づくりをより一層推進することができるよう,受 動喫煙の防止等について,事業者等への周知を行うこと,が必要であるとして, 受動喫煙防止対策により「県民の健康で快適な生活の維持を図ること」を目的 としている(前掲注,村中洋介「受動喫煙防止条例と喫煙権(喫煙の自由), 嫌煙権」法政論叢50巻1号1315頁)。 市町村が制定する路上喫煙防止条例等については,東京都特別区,指定都市, 中核市を中心とした都市の計94の市および区における制定状況について, 深町 晋也「路上喫煙条例・ポイ捨て禁止条例と刑罰論―刑事立法学序説―」立教法 学79号(2010年)57頁以下において,94市区のうち71市区が制度内容は異なっ ているものの,路上喫煙を取締まる条例の制定をしているとされる。また平成 25年10月18日, 平成2 5年度第2回神奈川県たばこ対策推進検討会・第3回「神 奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」見直し検討部会合同会議, 参考 資料5「県内市町村における路上喫煙の規制等,たばこ関連条例の制定状況一 覧」によれば, 神奈川県内の3 3市町村のうち1 5市町が路上喫煙の規制を条例に よって制定しているとされる( http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/ attachment/637216.pdf)。 ─ ─ 330.
(3) 路上喫煙防止条例による規制. る(以下:本件)。 本稿では,横浜地裁判決(平成26年1月22日,判時2223号20頁・判自383 号82頁)および東京高裁判決(平成26年6月26日,判時2233号103頁,判 自386号65頁)について検討し, 近時の受動喫煙防止条例の制定の背景を 踏まえ,路上喫煙防止条例による規制のあり方について述べる。. 2.横浜市路上喫煙訴訟の概要 横浜市条例の概要 横浜市は,平成7年に,「横浜市空き缶及び吸い殻等の散乱の防止(等) に関する条例」(平成7年横浜市条例第46号:以下「本件条例」,(等)に ついては,平成1 9年の改正によって追加された。 )を制定し,空き缶等の 投棄を禁止し清潔な街,快適な都市環境の確保を掲げていたが,平成19年 横浜市条例第37号による改正によって,屋外の公共の場所(路上等)にお ける喫煙についても禁止することを規定した。 本件条例では,「この条例は, 空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に ついて,横浜市,事業者及び市民等の責務を明らかにするとともに,空き 缶等及び吸い殻等の投棄の禁止,屋外の公共の場所における喫煙の禁止, 空き缶等の回収及び資源化その他の必要な事項を定めることにより,清潔 で安全な街をつくり,かつ,資源の有効な利用を促進し,もって快適な都 市環境を確保すること」を目的としており(本件条例1条) ,このような 目的規定は,従来,路上喫煙防止ないしポイ捨て禁止条例等にみられるよ うな,都市の美観確保ないし生活環境の保全を目的とする趣旨と解するこ 本件に関する先行研究,地裁判決の紹介として,阿部泰隆「政策法学演習講 座57・実例編37路上喫煙禁止条例に違反して喫煙したが無過失の者に過料の制 裁を科すことは適法か」自治実務セミナー53巻4号(2014年)9頁以下。 ─ ─ 331.
(4) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. とができるものである。そうすると,本件条例における目的規定は,神奈 川県公共的施設における受動喫煙防止条例(以下:神奈川県受動喫煙防止 条例)に規定されるような,「県民の健康保護」という, より直接的, 積 極的な法益保護を目的とするものではない点に注意する必要があるかもし れない。 他方,本件条例については,平成19年の改正によって路上喫煙の禁止規 定が追加されたわけであるが, その際に「安全な(街をつく) 」ることを 新たに追加している点については,「安全」という文言から,積極的な法 益保護の観点が考慮されたものであるといえなくもないだろう。 本件条例は, 1条の目的を達成するために,「市長は, 美化推進重点地 区内において,たばこの吸い殻の散乱につながるとともに,市民等の身体 及び財産に対し被害を及ぼすおそれのある屋外の公共の場所での喫煙を禁 止する必要があると認められる地区を喫煙禁止地区として指定することが できる。」(本件条例11条の2第1項)こととして,ここで指定された喫煙 禁止地区内においては,喫煙を禁止し(本件条例11条の3) ,喫煙禁止地. 区内において喫煙した違反者に対しては,2000円以下の過料を科すことと されている(本件条例30条)。 本件条例施行時において,横浜市は喫煙禁止地区として,横浜駅周辺地 区,みなとみらい21地区,関内地区の3地区と指定し,その後,平成22年 までに,新たに鶴見駅周辺地区,東神奈川・仲木戸駅周辺地区,新横浜駅 周辺地区の3地区を指定するとともに,横浜駅周辺地区について指定区域 の範囲拡大が行われている。 なお,本件条例において,公共の場所とは,道路,公園その他の公共の 用に供される場所をいい(本件条例2条5号) , 喫煙とは,たばこを吸う 条例11条の3「何人も,喫煙禁止地区内において,喫煙をしてはならない。」。 条例30条「第11条の3の規定に違反した者は,20 , 00円以下の過料に処する。 」。 ─ ─ 332.
(5) 路上喫煙防止条例による規制. ことおよび火の付いたたばこを持つことをいう(本件条例2条6号)とさ れており,例えば,神奈川県受動喫煙防止条例における喫煙の定義等とは 文言の差異はあるものの同旨のものと考えられる。. 本件の概要 平成24年1月28日午後1時30分頃,原告(東京都内で自営業を営む男性, 被控訴人,上告人)が本件条例により喫煙禁止地区に指定されている横浜 駅周辺地区内 にあるパルナード(横浜駅周辺の繁華街に位置する通りの 名称)の歩道上において喫煙をしたところ,巡回中の横浜市の美化推進員 により現認された。ここで,原告は美化推進員から,たばこの火を消すよ う指導され,条例違反の告知を受け,告知・弁明書の弁明欄に記載および 署名を求められたことから,これに応じ記載および署名をした後,その場 において美化推進員より横浜市長の名で,条例に基づき20 , 00円の過料に処 するとの処分(以下:本件処分)を受けた。 これに対して,原告は平成24年3月27日に,横浜市長に対して異議申立 をしたが,これについては平成24年6月25日に棄却する決定がなされ,さ らに,平成24年7月2 3日に神奈川県知事に対して審査請求をしたが,こ れについても平成2 4年12月27日付で棄却する旨の裁決がなされた。 これを受けて,美化推進員に違反を告知された場所に至る道路に,違反 神奈川県受動喫煙防止条例2条6号においては, 喫煙は,「たばこに火をつ け,その煙を発生させることをいう。」と規定されている。 横浜駅周辺の喫煙禁止地区については,http://www.city.yokohama.lg.jp/ shigen/sub-shimin/bika/img/yokohama.gif 参照。 地方自治法2 55条の2において,「他の法律に特別の定めがある場合を除くほ か,法定受託事務に係る処分又は不作為に不服のある者は,次の各号に掲げる 区分に応じ,当該各号に定める者に対して,行政不服審査法による審査請求を することができる。」と規定し,「市町村長その他の市町村の執行機関(教育委 員会及び選挙管理委員会を除く。)の処分又は不作為」については,都道府県知 事に審査請求ができるとされている。 ─ ─ 333.
(6) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 告知をされた場所が喫煙禁止地区に指定されていることを容易に認識でき るような標識等がないにも関わらず,横浜市長が本件処分を行ったことは 違法であるなどとして,横浜市(被告,控訴人,被上告人)に対して処分 の取消しを,神奈川県(被告,控訴審訴外)に対して裁決の取消しを求め て横浜地方裁判所に訴えたものである。 なお, 以下で横浜地裁判決(平成2 6年1月2 2日), 横浜高裁判決(平成 26年6月26日,横浜市控訴)を参照し,路上喫煙防止条例における規制に ついて検討する。. 3.裁判所における判断 横浜地裁判決(平成26年1月22日) 横浜地裁においては,横浜市が「行政上の秩序を保つために秩序違反行 為に対して科される制裁であるという性質上,違反者の主観的責任要件の 具備を必要とせず,客観的違反事実が認められれば,これを科し得る」と 主張する過料処分について,①本件条例30条に基づく科料処分をするため には,処分の相手方に本件条例11条の3違反について故意または過失が必 要であるかどうか,②違反者に故意または過失が必要であるとされる場合, 原告に少なくとも過失はあったかどうかということに加えて,③神奈川県 知事がなした審査請求棄却の裁決の取消事由の有無について争われた。 まず, ①の争点について,裁判所は,「本件条例は快適な都市環境 を確保することを目的としている(1条) 。 市長が,その指定した美化推 進重点地区内において,さらに,たばこの吸い殻の散乱につながるととも なお, 平成2 6年7月4日に最高裁に対して1審原告による上告が行われたと ころである。 判時2223号20頁,判自383号82頁。 ─ ─ 334.
(7) 路上喫煙防止条例による規制. に市民等の身体及び財産に対し被害を及ぼすおそれのある屋外の公共の場 所での喫煙を禁止する必要があると認められる地区を喫煙禁止地区として 指定することができ(1 1条の2第1項) , 喫煙禁止地区での喫煙を禁止し (11条の3),この禁止違反に対して2000円以下の過料をもって臨むことと しているのも(30条),上記の行政目的を達成するため」,「この過料処分 は,喫煙禁止地区において,快適な都市環境にとって有害な屋外の公共の 場所での喫煙を行政上の制裁をもって抑止しようとするものであるから, 行政上の秩序罰としての性質を有する。すなわち,本件条例は,喫煙禁止 地区において喫煙をしてはならないという義務を全ての者に負わせた上で, その義務違反をした者に対して過料という行政上の制裁を加えることによ り,喫煙禁止地区における喫煙を防止し,もって快適な都市環境という秩 序を維持しようとしているのである」として,本件条例による過料処分が 秩序罰としての性質を有するものであり,この制裁によって本件条例の目 的である快適な都市環境を確保するものであるとした。 その上で,「我が国においていわゆる路上喫煙が禁止されている地域は 現在のところ極めて限られているから(公知の事実),そこが喫煙禁止地 区であることを知らないまま喫煙をし,かつ,知らなかったことに過失も ないという場合が当然にあり得る。仮にこの者に対して過料処分をしたと しても,被処分者としては喫煙禁止地区と認識し得なかった以上, 単に 『運が悪かった』と受け止めるだけであり, 今後は喫煙禁止地区において 喫煙をしないようにしようという動機付けをされないから,本件条例30条 の目的とする抑止効果を期待することはで」きず,「本件条例30条に基づ き過料処分をするためには,その相手方に,同条例11条の3違反について 少なくとも過失があったことが必要であると解すべきであって,このよう に解することが過失責任主義という法の一般的原則にも合致するというべ きである」として,本件において過料を科す場合においては,少なくとも ─ ─ 335.
(8) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 過失がなければならないとした。 ここで,横浜市は,秩序罰としての過料は客観的違反事実があれば科し 得るのであり,故意または過失は不要であると主張していることについて は,そのような主張を前提とすると,喫煙禁止地区の告示さえすれば,過 料処分をすることができることになるが,本件条例による喫煙禁止地区指 定の目的は,「当該地区において現実に喫煙をさせないこと」であり,そ うすると,「広報活動によって本件条例の趣旨,内容を周知するとともに, 喫煙禁止地区内やその周辺に標識を設けるなどして,当該地区を訪れよう とする者に対し,当該地区における路上喫煙が罰則をもって禁止されてい るという認識を持たせるための措置をとることが必要であり,本件条例3 条の定める市の責務もこのようなものを含むと解され」,「本件条例の目的 を達成するためには,喫煙禁止地区内において路上喫煙をしようとする者 の認識に働きかけることが必要なのであって,このような働きかけを受け る可能性のない者についても,その認識いかんにかかわらずただ路上喫煙 さえすれば過料処分をすることができるとする被告の主張は不合理であり, 採用することはできない」として,客観的違反事実によって秩序罰として 本件条例において過料を科すことはできないとした。 このことから,本件条例においては,過料処分を科すにあたり,違 反者に故意または過失が必要とされるため,争点②原告に少なくとも過失 があったかどうかが問題となる。 裁判所の認定事実(パルナードには,当該道路が喫煙禁止地区である旨 記載された路面表示と看板がそれぞれ複数存在する。本件違反場所付近に 存在した路面表示は,直径30センチメートル程度の円形のものが2箇所で あり,看板は,短い辺が幅40センチメートル程度の長方形のものが1個で ある。路面表示は,円の中央部に直径20センチメートル弱の禁煙マークが あり,その上部に「喫煙禁止地区 No Smoking Area」,下部に「横浜市 ─ ─ 336.
(9) 路上喫煙防止条例による規制. City of Yokohama」と書かれているが,その大きさからして,歩行者が その文字を読み取ることは困難である。看板は,その上部には,路面表示 と同じ円形のものが描かれ,下部には「喫煙禁止地区 No Smoking Area 罰則(過料2000円)」と横書き3行で書かれているが,地上約2.5メートル の高さに道路の西方に向けて設置されているため,西方から直進してこれ に近づく歩行者でなければ容易に認識することはできない上,「喫煙禁止 地区」の文字以外は小さく,遠方からこれを読み取ることは困難である。) によれば,「本件違反場所付近には, 路面表示が2箇所,看板が1個存在 したことが認められる。しかし,2箇所の路面表示はいずれも直径約30セ ンチメートルと小さいため,歩行者が容易にその文字を読み取ることがで きないのはもちろんのこと,当該路面表示を認識すること自体が困難であ る。しかも,この路面表示には,喫煙に対して過料の制裁があるとの記載 もない。看板は,原告が交差点を右折して進行したパルナード南側の歩道 から道路を隔てて反対側の歩道上に,地上25 . メートルほどの高い位置に道 路の西方に向けて設置されており,その歩道を直進する者のための掲示で あって,反対側の歩道を進行していた原告がこれを認識し,その文字を読 み取ることはできなかった。また,パルナードに進入するまでに原告が通 行した道路には,パルナードが喫煙禁止地区であると注意を促すような掲 示物は一切設置されていない。 そして, 原告は, 交差点を右折してパル ナードの南側歩道に足を踏み入れ,せいぜい10メートルほど進行したとこ ろで推進員から突然声をかけられている」のであって,「原告は, 本件違 反場所が喫煙禁止地区内であることを知らなかったと認められ,かつ,知 らなかったことに過失があるとはいえないというべきである」として,原 告が指導を受けた場所が喫煙禁止地区内であったことを認識しておらず, 掲示物の視認可能性については,神奈川県に対する審査請求における裁決で も, 「歩行者が本件路上喫煙禁止地区内を歩行等する場合に,路面標示を容易に ─ ─ 337.
(10) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. これについての過失も認められないとし,原告に過失が認められない以上, 過料処分をすることはできないから,本件条例による過料処分は違法であ るとした。 争点③の審査請求にかかる裁決の取消しについては,「処分の取消 しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決取消しの訴えの両 方を提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,原 処分の違法を理由として取消しを求めることができない(行政事件訴訟法 10条2項)。 そして, 裁決固有の瑕疵とは, 実体に関する違法ではなく, 裁決の主体,手続等の形式に関する違法をいうのであるから,原処分を適 法とした実体的判断が違法であることは,裁決固有の瑕疵とはいえ」ず, 「原告が主張する本件裁決の違法は, 裁決の手続等の違法をいうものでは なく,知事の判断内容の違法をいうもので,結局は本件処分を適法とした 実体的判断を争うものにすぎないから,裁決固有の瑕疵とはいえない」た め,「本件裁決の違法をいう原告の主張はそれ自体失当である」として, 本件における神奈川県知事の審査請求にかかる裁決については,争われる ものではないとした(控訴審では,この点については争われていない)。. 東京高裁判決(平成26年6月26日) 東京高裁においては,地裁においても争点とされた①本件条例30条に基 づく科料処分をするためには,処分の相手方に本件条例11条の3違反につ. 認識することは困難である」,「請求人が進入したルートにおいて,本件喫煙禁 止地区に入る前に表示物が設置されている状況は確認できなかった」として, 掲示物により路上喫煙禁止地区かどうかを認識することが困難であったことが 指摘されている。 取消処分と裁決の関係については,米子鉄道郵便局事件(最高裁第三小法廷 判決昭和62年4月21日,民集41巻3号309頁,判時1240号136頁)を参照。 判時2233号103頁,判自386号65頁。 ─ ─ 338.
(11) 路上喫煙防止条例による規制. いて故意または過失が必要であるかどうか(主観的責任要件の要否),② 違反者に故意または過失が必要であるとされる場合,被控訴人(原告,上 告人)に少なくとも過失はあったかどうかという点について争われた。 東京高裁は,①の争点について横浜地裁と結論を同じくする判断を した。すなわち,客観的違反事実によって秩序罰としての過料を科すこと はできず,過料を科す場合においても,少なくとも過失がなければならな いとする判断である。 東京高裁においては,「本件条例は, 喫煙禁止地区内での喫煙を禁止し た上,さらに,過料という財産上の不利益を違反者に科すことで,路上喫 煙を防止し,快適な都市環境を確保するという目的を達成するためのもの であり,その主眼が注意喚起をして路上喫煙をさせないことにあることは 明らかである。したがって,注意喚起が十分にされていない状態で喫煙す る者がいたとしても,それに制裁を科すことは本件条例の趣旨を逸脱する ものというべきであり,当該喫煙者が,通常必要な注意をしても路上喫煙 禁止地区であることを認識しえなかった場合,すなわち,路上喫煙禁止地 区と認識しなかったことについて過失がなかった場合には,注意喚起が十 分にされていなかったことになるから,過料の制裁を科すことはできない と解すべきである。本件条例の過料処分が,本来違法行為とされていない 喫煙行為をあえて禁止し,その違反に対する制裁という性質を有すること からしても,違反者に非難可能性がない場合にまで過料の制裁を科すのは 相当でなく,本件条例30条に基づき過料処分をするためには,その相手方 に,同条例11条の3違反について少なくとも過失があったことが必要であ ると解すべきであ」るとして,地裁判決と同様に,横浜市の主張する客観 的違反事実が認められれば過料を科し得るとする主張は認められなかった。 他方,争点②被控訴人の過失の有無については,地裁判決とは異な る結論を導いている。 ここでは,「本件違反場所付近には,路面表示が2 ─ ─ 339.
(12) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 箇所,看板が1個存在したことが認められる。2箇所の路面表示は,直径 約30センチメートルで,被控訴人がパルナードへ進入した方向から交差点 東側歩道上に2枚近接して設置されており,いずれも白地の円形のシート に赤色の円が2本あり,内側の赤色の円は外側の円より線が太く,その中 には黒色でたばこが描かれた上に,赤色で禁止を意味する斜線が描かれて いる」という事実認定を行った。 その上で,「我が国では, 平成14年の健康増進法の制定,平成22年の厚 生労働省健康局長通知などによって,地方公共団体において,受動喫煙防 止のための積極的な取り組みが行われるようになり,神奈川県内の地方公 共団体でも路上喫煙規制条例を制定している市町は15市町,過料または罰 則付き路上喫煙規制条例を制定している市町は9市町あり,被控訴人が居 住する立川市においても JR 立川駅を中心とした半径2 50メートルの範囲内 で一切の路上喫煙が禁止されるなど,受動喫煙防止のための路上喫煙規制 の条例制定などの取組みは,地方公共団体において次第に拡大してきたと 認められ,路上喫煙禁止の表示としては,控訴人の場合と同様に,路面表 示がされることが一般的となっている。被控訴人自身,路上喫煙禁止の条 例制定までは時代の趨勢であり,喫煙場所が制限されることは喫煙者の誰 もが普段から認識しているのが現状であることを認めている。このような 状況に照らすと,あえて路上で喫煙する場合には,その場所が喫煙禁止か 否かについて,路面表示も含めて十分に注意して確認する義務があるとい うべきである。本件において,路上で歩行喫煙をしていた被控訴人がパル ナードに進入する交差点にさしかかった際,路面表示をも十分に注意して 路上喫煙禁止か否かを確認すべきであり,その注意を怠らなければ,路上 喫煙禁止であることを認識することが十分に可能であったと認められるか ら,被控訴人には過失があったといわざるを得ない」として,近時の路上 喫煙に対する意識等をも考慮し,被控訴人の過失認定をし,「被控訴人に ─ ─ 340.
(13) 路上喫煙防止条例による規制. は,パルナードに進入するに当たって路面表示により路上喫煙禁止場所で あることを認識すべきであったのにこれを見落とした過失があり,被控訴 人は,過失によって本件条例1 1条の3に違反した者というべきであるから, 控訴人が被控訴人に対して,本件条例30条に基づく過料処分を科した本件 処分は適法である」(下線部筆者)との結論を導いた。. 4. 路上喫煙防止条例における規制のあり方 地方公共団体の制定する路上喫煙防止条例の目的 路上喫煙防止条例の先駆けとして有名なのが東京都千代田区の「安全で 快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」(平成1 4年千代田区条例 第53号,以下:千代田区条例)であり,区内の地域を「路上禁煙地区」に 設定し,路上喫煙に対して過料を科すほか,吸い殻を含めたポイ捨てにつ いても過料を科すとしたものである。 路上喫煙防止の流れは, 平成4年 の福岡県北野町(現:久留米市)において,「北野町の環境をよくする条 例」(平成4年北野町条例第13号)によってたばこのポイ捨て禁止が定め られたことを嚆矢として,千代田区条例による罰則規定の導入や,本件条 例の制定に至っている。しかしこのように市町村や特別区において制定さ れている路上喫煙防止条例等は,従来,その主たる目的を住民等の健康保 護ではなく,もっぱら都市の美観確保・生活環境保全を目的としているよ うである。 千代田区条例に関しては,ホームページ( http://www.city.chiyoda.lg.jp/ koho/machizukuri/sekatsu/jore/jore.html),千代田区生活環境課「路上喫煙 に No!―ルールはマナーを呼ぶか―」 (ぎょうせい,2003年)を参照。 前掲注,深町晋也「路上喫煙条例・ポイ捨て禁止条例と刑罰論―刑事立法 学序説―」立教法学7 9号64頁。 主として住民等の健康保護を目的とするものに ついては,前掲注,神奈川県条例等を参照。 ─ ─ 341.
(14) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 千代田区条例においては,「この条例は, 区民等がより一層安全で快適 に暮らせるまちづくりに関し必要な事項を定め区民等の主体的かつ具体的 な行動を支援するとともに,生活環境を整備することにより,安全で快適 な都市千代田区の実現を図ることを目的とする。 」 (1条)と規定しており, 神奈川県内市町村において制定されている路上喫煙を規制する条例の目的 を参照してみても,藤沢市きれいで住みよい環境づくり条例(平成19年藤 沢市条例第7号)においては,「きれいで住みよい環境づくりを進めるた めに,市,市民等,事業者及び所有者等の責務を明らかにするとともに, 地域の環境美化の促進及び空き缶の投棄,路上喫煙等の防止に関し必要な 事項を定め,もって快適な生活環境を確保する」 (1条)と規定され,横 須賀市ポイ捨て防止及び環境美化を推進する条例(平成9年横須賀市条例 第14号)においては,「この条例は, 市, 市民等, 事業者及び所有者等が 一体となって,空き缶等及び吸い殻等のポイ捨て並びに路上喫煙を防止す るとともに,美化清掃活動の充実に努めることにより,清潔で美しいまち づくりを目指し,もって快適で安全な生活環境の保持に資することを目的 とする。」(1条)と規定されている。 他方,近時,路上喫煙防止条例を制定している例の中には,住民の健康 保護目的を考慮していると思われるものも存在する。例えば,川崎市路上 喫煙の防止に関する条例(平成17年川崎市条例第95号)においては,「こ の条例は,路上喫煙を防止することにより,市民等の身体及び財産の安全 の確保を図り,もって市民の生活環境の向上に資することを目的とする。」 (1条)と規定し, 相模原市路上喫煙の防止に関する条例(平成2 4年相模 原市条例第9号)においても,「この条例は, 路上喫煙の防止について必 要な事項を定めることにより,市民等,事業者及び市が連携して市民等の 身体及び財産の安全及び安心の確保を図り,もって市民の生活環境の向上 に資することを目的とする。」(1条)と規定しており,神奈川県受動喫煙 ─ ─ 342.
(15) 路上喫煙防止条例による規制. 防止条例や兵庫県受動喫煙の防止等に関する条例(以下:兵庫県受動喫煙 防止条例)のように,住民等の健康保護を主たる目的としていないものの, その趣旨は,住民等の健康保護に他ならないものというべきであろう。 なお,受動喫煙に関する規定を含む法律が制定されたのは,平成14年の 健康増進法の制定が最初であり,健康増進法制定以前は受動喫煙防止に関 する法律は制定されていなかった。 国際的なたばこの害悪に対する取組 みとして各国で受動喫煙対策が行われてきており,わが国においても,神 奈川県受動喫煙防止条例,兵庫県受動喫煙防止条例が制定されてきたとこ ろである。受動喫煙防止という規制により, マイナスの経済効果が生じ る可能性等から条例制定が敬遠されるかもしれないが,国民・住民の健康 保護の観点からはむしろ積極的に受動喫煙の防止が行われるべきとする考 えもあろう。 ここで,受動喫煙防止との関係において, 憲法上の喫煙の. この点,本件条例は,その趣旨からして,住民の健康保護を目的としている ものとはいえず,裁判所においても,条例の目的からして「喫煙禁止地区にお ける喫煙を防止し,もって快適な都市環境という秩序を維持しようとしている」 ものであるとしている(地裁,高裁同文)。 喫煙場所以外での喫煙を禁止する旨の規定がある法律は存在していた。 例え ば,鉄道営業法(明治33年法律第6 5号)34条「制止ヲ肯セスシテ左ノ所為ヲ為 シタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス 一 停車場其ノ他鉄道地内吸煙禁止ノ場所 及吸煙禁止ノ車内ニ於テ吸煙シタルトキ」。 大阪府においても,条例制定の検討をしていたが撤回(平成2 5年2月府議会) , 山形県は平成2 6年2月県議会で「今年度中の制定を検討」としていたが, これ を撤回している。他方,東京都は2020年オリンピックに向けて受動喫煙防止対 策を検討しているともいわれていたが( http://thepage.jp/detail/2014090100000020-wordleaf) ,平成26年10月29日に第1回検討会が開催された(http:// www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2014/10/40oar200.htm)。 前掲注,村中洋介「受動喫煙防止条例と喫煙権(喫煙の自由),嫌煙権」法 政論叢50巻1号1719頁。また,健康権については,下山瑛二先生が,昔からそ の権利の重要性を主張されており,そのような観点から受動喫煙防止の重要性 が主張されうるだろう。下山瑛二『健康権と国の法的責任―薬品・食品行政を 中心とする考察―』(岩波書店,1979年)78頁以下。 ─ ─ 343.
(16) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 自由,嫌煙権といった点も議論のあるところではあるが,本稿においては 詳細な検討を行わない。. 地方公共団体の制定する路上喫煙防止条例における規制の内容 路上喫煙防止条例における規制の内容については,本件条例が,喫煙禁 止地区での喫煙を禁止し(11条の3),この禁止違反に対して2,000円以下 の過料を科す(30条)として,喫煙禁止地区での喫煙(違反行為)につい て過料処分を科すこととしているが,以下で他の地方公共団体の条例にお いての規制内容と若干の比較をする。 路上喫煙防止条例に関しての規制の内容について,千代田区条例では, 21条1項において「区長は,特に必要があると認める地区を,路上禁煙地 区として指定することができる。 」と規定し, この「路上喫煙禁止地区に おいては, 道路上及び区長が特に必要があると認める公共の場所(以下 「道路等」という。)で喫煙する行為及び道路等(沿道植栽を含む。)に吸 い殻を捨てる行為を禁止する。」 (21条3項)として,指定地区内での喫煙, 吸い殻を捨てることを禁止し,24条において,「次の各号のいずれかに該 当する者は,2万円以下の過料に処する。推進モデル地区内において第 9条第1項の規定に違反し,生活環境を著しく害していると認められる者, 第21条第3項の規定に違反して路上禁煙地区内で喫煙し,又は吸い殻を 捨てた者(前号に該当する場合を除く。)」と規定し,違反者に対する罰則 規定を設けている。 喫煙の自由,嫌煙権については,前掲注,村中洋介「受動喫煙防止条例と 喫煙権(喫煙の自由),嫌煙権」法政論叢50巻1号613頁参照。そのほか,大 沢秀介「嫌煙権訴訟」ジュリスト1 037号(1994年)181頁以下,神奈川県受動喫 煙防止条例についての内容とその憲法的問題点の検討について大沢秀介, 葛西 まゆこ,大林啓吾編『憲法.com』(成文堂,2010年)211頁以下等を参照。 なお,過料の額については,当面2,000円とされている( http://www.city. chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/sekatsu/jore/kisenaiyo.html)。 ─ ─ 344.
(17) 路上喫煙防止条例による規制. 川崎市路上喫煙防止条例では, 5条において,「市民等は, 路上喫煙を しないよう努めるものとする。」として,喫煙者全体への路上喫煙防止の 努力義務を規定した上で,「市長は,市民等の身体及び財産の安全の確保 を図るため,路上喫煙を特に防止する必要があると認める区域を路上喫煙 防止重点区域(以下「重点区域」という。)として指定することができる。」 (6条)として,路上喫煙防止重点区域を定め,8条において「市民等は, 重点区域において路上喫煙をしてはならない。ただし,市長が別に定める 場所においては, この限りでない。 」として, 指定された地区内での路上 喫煙を禁止している。同条例8条に違反した場合は,同条例10条の罰則規 定により,2万円以下の過料が科されることとされている。 小田原市きれいなまちと良好な生活環境をつくる条例(平成6年小田原 市条例第19号―平成21年小田原市条例第16号による改正により歩きたばこ 禁止等が規定された)においては,「市民等は, 第12条第1項の環境美化 促進重点地区内において,灰皿が設置されている喫煙場所以外で喫煙(火 のついたたばこを所持する行為を含む。)をしてはならない。 」(10条5項) と規定し,違反者に対しては行為の中止等の勧告を行い(同条例1 0条の 2),これに従わないときは,2万円以下の罰金が科せられる(同条例28条 2号)。 各市町村の条例によって,規制の内容は異なり,喫煙禁止地区の指定の あり方(公的な喫煙所の設置があるかどうか等)や罰則について,罰則な し,罰金,過料の違いも存在する。この点について本稿で詳細な比較を行 川崎市の条例では2万円以下の過料を科すとする規定となっているが, 実際 の徴収額は,20 , 00円となっている(川崎市の条例に関するパンフレット http:// www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000028/28962/rihuretto.pdf, 前掲注,平成25年10月18日会議参考資料5「県内市町村における路上喫煙の 規制等, たばこ関連条例の制定状況一覧」http://www.pref.kanagawa.jp/ uploaded/attachment/6 37216.pdf)。 ─ ─ 345.
(18) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. うことはしない。 ちなみに,神奈川県受動喫煙防止条例については,同条例8条において 「何人も, 喫煙禁止区域(次条第1項又は第2項の規定による措置により 設けられたものに限る。 以下同じ。 )内においては,喫煙をしてはならな い。」と定めており, ここで喫煙禁止区域とされた区域には,禁煙義務と される第一種施設 と禁煙または分煙義務とされる第二種施設 が設定さ れ, ここで喫煙禁止とされる区域において禁煙・分煙といった措置を講 前掲注,深町晋也「路上喫煙条例・ポイ捨て禁止条例と刑罰論―刑事立法 学序説―」立教法学7 9号60頁以下において, この中で取り上げている94の市区 における,罰則なし,罰金,過料の比較を参照。また,神奈川県内の条例によ る罰則状況については,前掲注,平成25年10月18日会議参考資料5「県内市 町村における路上喫煙の規制等,たばこ関連条例の制定状況一覧」( http:// www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/6 37216.pdf)参照。 第一種施設として禁煙義務とされる施設は,幼稚園,小中学校,高校,大学 等の教育施設,病院,薬局等の医療機関,劇場,映画館,観覧場,集会場,公 会堂,寺社仏閣,火葬場,展示場,体育館,水泳場,ボーリング場,公衆浴場, 百貨店,スーパーマーケット,公共交通機関の待合所等,公共交通機関の車両 等,図書館,動物園,老人ホーム,保育所,官公庁等である。 第二種施設として禁煙または分煙義務とされる施設は,飲食店,キャバレー, カフェ,ナイトクラブ,ホテル,旅館,ゲームセンター,カラオケ,ダンスホー ル,マージャン店,パチンコ店,場外馬券売り場等及び,第一種施設に該当し ないサービス業を営む店舗(クリーニング店,質屋,古物店,理容所,美容所, 旅行代理店,不動産店,法律事務所,行政書士事務所,司法書士事務所,公認 会計士事務所,社会保険労務士事務所,税理士事務所,弁理士事務所,探偵事 務所,その他これらに類する施設)である。 ※ただし風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条6項に規定 する店舗型性風俗特殊営業及び同条9項に規定する店舗型電話異性紹介営業を 営む店舗については,第一種,第二種施設に含まないとされる。 神奈川県受動喫煙防止条例においては,適用除外認定施設(条例20条),特例 第二種施設(条例21条)が設定されており,適用除外認定施設には,会員制ク ラブやシガーバー等が対象として含まれ,特例第二種施設には,風営法2条1 項1号から7号までに掲げる営業の用に供する施設, 食品の調理場を除く床面 積が100m2 以下の飲食店,事業用の床面積が700m2 以下のホテル,旅館が含ま れ,これらの施設については,条例による規制について努力義務とされる。 ─ ─ 346.
(19) 路上喫煙防止条例による規制. じなかった施設管理者・事業者に対しては,指導・勧告,命令を経て過料 の罰則が,ここで喫煙禁止とされている区域において喫煙をした者や県の 立ち入り調査に施設管理者が拒否した場合は,直ちに過料の罰則が科され る。 兵庫県受動喫煙防止条例については,同条例16条において,「何人も, 受動喫煙防止区域(第10条第1項,第11条第1項,第12条第1項前段又は 第13条第1項の規定により設けられる喫煙区域を除く。次項において同 じ。)において喫煙してはならない。 」と定めており,神奈川県の条例同様, 喫煙が禁止される区域が設定されその区域内において喫煙することは禁止 されるものとなっている。条例の規制対象となる施設の管理者は,条例9 条に基づく受動喫煙の防止として,受動喫煙防止区域内では喫煙すること ができないよう措置をとることが求められる。ここで対象となる施設は, ほとんどが神奈川県の条例と同じ形態の施設であるが,兵庫県の条例にお いては神奈川県の条例に規定されていない,観覧場の屋外の観客席,動物 園,植物園,遊園地,都市公園等の敷地内という屋外空間においても規定 を設けており,観覧場については受動喫煙防止の努力義務を課し,動物園 等については,施設において未成年者が多く集まる地域については受動喫 煙防止義務を課している。 兵庫県の条例においては, 罰則規定として, 神奈川県受動喫煙防止条例2 3条において罰則規定が設けられており, 施設管 理者が義務に従わなかった場合等は5万円以下の過料, 喫煙禁止区域内で喫煙 した者は2万円以下の過料の罰則規定が設けられている。 兵庫県受動喫煙防止条例においては,受動喫煙の防止措置として,小中学校, 高校,幼稚園等については建物,敷地内の全域,大学,高専,薬局,はり師, 官公庁施設であって庁舎以外の施設等については,建物内の公共的空間,病院, 診療所,官公庁庁舎,児童福祉施設等については建物内の全域において禁煙の 措置が義務づけられる(当面の間は既設喫煙所での喫煙が認められるが今後喫 煙所の設置も禁止される)ほか,これら以外で神奈川県の条例によって規制対 象とされる施設について,喫煙所の設置は認められるものの,分煙,一部喫煙 等の義務が課されている。 ─ ─ 347.
(20) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 指導・勧告,命令を経た後に適切な対応を行わなかった者(施設管理者) に対して30万円以下の罰金,立ち入り検査時の虚偽報告等を行った者に対 して20万円以下の罰金,立ち入り検査を拒み,妨げる等を行った者に対し て10万円以下の罰金の規定を設けている ほか,受動喫煙防止区域(禁煙 が求められる区域)内において喫煙した者に対して2万円以下の過料の規 定を設けている。. 路上喫煙防止条例における規制としての過料 各地方公共団体の条例によって路上喫煙(受動喫煙)の規制のあり方は 様々であるが,ここでは,本件条例に基づき過料が科されたことにつき, 路上喫煙防止条例において過料を科すにあたって,本件との関係において 違反者の主観的責任要件が必要とされるのかどうかについて検討する。 そもそも,過料とは,行政罰 の一つである行政上の秩序罰とされるも のである。行政上の秩序罰とは, 「行政上の秩序を維持するために,秩序 違反行為に対して科する制裁である。普通,過料と称する一種の金銭罰を その制裁とする。この意味での秩序罰も,行政法規によって人民に課せら 兵庫県受動喫煙防止条例23条。 兵庫県受動喫煙防止条例25条。 行政罰とは,行政上の義務違反に対して,一般統治権に基づいて制裁として 科す罰の総称とされる(田中二郎『法律学全集6 行政法総論』 (有斐閣,1957 年)405頁)。 川口公隆「簡易裁判所の取扱う過料の諸問題」司法研究報告書17輯4号(司 法研修所,1967年)1頁など参照。 「行政罰として過料を科する場合を広く行政 上の秩序罰ということができる」 (前掲注,田中二郎『法律学全集6 行政法 総論』412頁), 「行政上の義務違反ではあるが,直接的には社会的法益を侵害し たり民集の生活に悪影響をもたらさない,軽微な形式的違反行為に対して科さ れる過料という制裁をいう」 (原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂版)』 (学 陽書房,2011年)236頁), 「行政上の義務違反に対しては,刑罰ではなく行政罰 としての過料が科されていることがあり,このような過料は,秩序罰と呼ばれ ている」(佐伯仁志『制裁論』(有斐閣,2009年)10頁)。 ─ ─ 348.
(21) 路上喫煙防止条例による規制. れた行政上の義務違反に対して科せられる制裁であることにおいては,一 般の行政刑罰と異なるところはないが,秩序罰は,単純な行政上の義務違 反の懈怠によって,行政上の秩序に違反し行政目的の達成に障害を生ずる 危険があるに止まる場合に,その秩序維持のために科せられる制裁である 点」 が特色とされる。 この行政上の秩序罰としての過料は,地方自治法によって地方公共団体 が科すことができる行政罰の一つである。地方自治法14条3項において, 「普通地方公共団体は,法令に特別の定めがあるものを除くほか,その条 例中に,条例に違反した者に対し,2年以下の懲役若しくは禁錮,100万円 以下の罰金,拘留,科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する 旨の規定を設けることができる。 」として, 条例によって過料を含む罰則 規定を設けることができるとされるほか,長の定める規則における過料, 分担金,使用料等の徴収に関する条例における過料 が,地方公共団体の 科すことのできる過料として規定されている。 国の法律違反にかかる過料については,非訟事件手続法に基づき,過料 に処せられるべき者の住所地の地方裁判所において科せられるものである が,地方公共団体の科す過料については,地方公共団体の長がこれを科し, 期限内に納付されない場合には,地方税の滞納処分の例により徴収する。 こうした,行政上の秩序罰としての過料についての一般的な定めはなく, 前掲注,田中二郎『法律学全集6 行政法総論』422頁。 地方自治法1 5条2項「普通地方公共団体の長は, 法令に特別の定めがあるも のを除くほか,普通地方公共団体の規則中に,規則に違反した者に対し,5万 円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。」。 地方自治法2 28条2項「分担金, 使用料, 加入金及び手数料の徴収に関して は,次項に定めるものを除くほか,条例で5万円以下の過料を科する規定を設 けることができる。」。 地方自治法231条の3。なお,過料に処せられる際,不服がある場合には,異 議申立等を行うことができる(地方自治法255条の3。本件においても,異議申 立,審査請求がなされたところである)。 ─ ─ 349.
(22) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 刑罰ではないため,刑法総則の適用もない。このため,過料についてどの ような理論を適用するかは,個別の法律等により定めがあるものを除き, 行政罰の性質に照らして理論的に考察されるものとされている。 行政上の秩序罰としての過料については,刑法総則の適用がないことか ら, 本件において横浜市が主張したように,「行政上の秩序を保つために 秩序違反行為に対して科される制裁であるという性質上,違反者の主観的 責任要件の具備を必要とせず,客観的違反事実が認められれば,これを科 し得る」ものであるのかどうか, すなわち過料を科す場合に,「刑罰と同 様,行為者の故意・過失,違法性の認識といった主観的要件が必要とされ るかどうか」が問題となる。 これについて,通説では消極的,つまり主観的要件を不要と解するもの であり,裁判所においても, 「秩序罰としての過料については,実定法上 総則的規定を欠き,この点如何なる法理を適用すべきか明らかではないが, 前叙のようにその性質が行政上の秩序を保つために秩序違反行為に対して 科する制裁であることに鑑みれば,違反者の主観的責任要件(故意又は過 失)の具備はこれを必要とせず,単に客観的に違反事実が認められればこ れを科し得ると解するのが相当である」(以下:浦安地裁判決)と示され るように,過料を科す場合には客観的違反事実があれば良いとされてきた。 このような立場は,田中二郎,磯崎辰五郎などによって主張されてきたが, 前掲注,田中二郎『法律学全集6 行政法総論』425頁,磯崎辰五郎「行政 罰」田中二郎・原龍之助・柳瀬良幹編『行政法講座第2巻 行政法の基礎理論』 (有斐閣,1964年)247頁。 前掲注,原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂版)』236頁。 浦和地裁決定昭和34年3月17日,下級裁判所民事裁判例集10巻3号498頁。 前掲注,田中二郎『法律学全集6 行政法総論』425頁,前掲注,磯崎辰 五郎「行政罰」田中二郎ほか編『行政法講座第2巻 行政法の基礎理論』2 47 頁。磯崎辰五郎「行政罰」においては, 「行政罰たる過料は,原則として,苟く も客観的法規違反があればこれを科すことができ, 行為者の主観的条件の有無 を問題としないものといえるであろう」と述べている。 ─ ─ 350.
(23) 路上喫煙防止条例による規制. 他方で主観的責任要件としての故意・過失を必要とするとしている説も多 い。 故意・過失の要件が必要であるとする見解の中でも,秩序違反に対する 行政制裁であれば,「罪刑法定主義の原則, 責任主義の原則,および罪刑 均衡原則」が行政制裁一般に妥当するとするもの, 法律や条令について 全く不知の者について客観的違反事実によって制裁を科すのは適当ではな く,「法の不知による違反行為についても, 行為者に不注意があったこと が最小限度必要とされる」とするもの, 「行為者に責むべき事由の存する ときに限」り,「あらゆる過料につきこれを処罰するには,『正当な理由が なく……』という文言のあるなしにかかわらずこれを必要とする」もの などがある。 従来,刑法総則の適用がなされず,客観的違反事実によって科すことが できるとされていた過料であるが,その制裁としての性質を考慮して,故 意・過失の要件を必要とするものがあり,本件においても,地裁,高裁判 決では,過料を科すにあたって故意・過失の要件を必要とするとした。本 件における裁判において,横浜市は前述浦安地裁判決を引用し,過料につ いて故意・過失の要件を必要とせず,客観的違反事実によって科すことが できる旨主張していたが,判決では,事例が異なるため従来の理論をその まま適用できるものではないとしていることを考慮すると,過料の制裁的 性質や程度によっては従来の客観的違反事実によって過料を科すとする見. 前掲注,佐伯仁志『制裁論』18頁,宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論 〔第5版〕』(有斐閣,2 013年)248頁同旨。前掲注,阿部泰隆「政策法学演習 講座5 7」自治実務セミナー53巻4号11頁においては, 行政処分であっても制裁 的なものは,責任主義が妥当するとしている。 前掲注,原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂版)』236頁。 前掲注, 川口公隆「簡易裁判所の取扱う過料の諸問題」司法研究報告書1 7 輯4号37頁。 ─ ─ 351.
(24) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 解では不十分であるのかもしれない。 思うに,国の法律によって科される科料については,その構成要件,違 反者の態様が規定されていることが,地方公共団体の条例や規則において 定められる過料についてはその要件等が法律のそれに比して明確ではない 等があることから, 本件のような条例による過料を科す事例において, 違反者が過料を科される明確な要件等がない場合には,客観的違反事実の みによって過料を科すことはできないとするのであろう。 そうすると,地方公共団体の条例や規則によって科される過料について は,国の法律による秩序罰としての過料とは異なる性質であることを前提 として,本件において裁判所が示したように,故意・過失の要件を必要と されるものと解されるのであろうか。 しかしながら,過料が科される違反事実について故意・過失が要件とさ れる場合,違反者が「知らなかった,認識できなかった」と主張された場 合に,無過失として過料が科されない可能性があるという問題がある。違 反者が意図してそのような主張をする場合もあるとすれば,一律に客観的 違反事実によって過料を科すことができるとすることも,違反者に過料を 科すことによって違反の抑止効果を持たせるという意味においては一定の 理解を得ることもできるかもしれない。このような場合に備えて,原田尚 彦先生が指摘される「法の不知」と関係するところでもあるが, 違反者 に「知らなかった」とはいわせないという姿勢をもって法律や条例の周知 をする必要があるのだろう。 従来からの過料の性質等(故意・過失の要・不要等)の検討にあたっては, 法律による規定について検討されているものであって, 条例において規定され る過料について直接的に検討されているものではない。 前掲注,原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂版)』236頁。 千代田区条例においては, 「知らなかったとは言わせない」ために周知を行っ た。そのような千代田区の取組みについて,北村喜宣『行政法の実効性確保』 (有斐閣,2008年)2734頁参照。 ─ ─ 352.
(25) 路上喫煙防止条例による規制. 過料を科す場合の過失の認定基準 本件にいては,過料を科す場合にも故意・過失の要件が必要とされたた め,本件原告(被控訴人,上告人)が路上喫煙をした行為について故意ま たは過失があったかどうか争点となった。 1審横浜地裁においては,「2 箇所の路面表示はいずれも直径約30センチメートルと小さいため,歩行者 が容易にその文字を読み取ることができないのはもちろんのこと,当該路 面表示を認識すること自体が困難である。しかも,この路面表示には,喫 煙に対して過料の制裁があるとの記載もない。看板は,原告が交差点を右 折して進行したパルナード南側の歩道から道路を隔てて反対側の歩道上に, 地上25 . メートルほどの高い位置に道路の西方に向けて設置されており,そ の歩道を直進する者のための掲示であって,反対側の歩道を進行していた 原告がこれを認識し,その文字を読み取ることはできなかった」とし,喫 煙禁止地区に立ち入って10メートル程度の地点で美化推進員より指導を受 けたものであり,「原告は,本件違反場所が喫煙禁止地区内であることを 知らなかったと認められ,かつ,知らなかったことに過失があるとはいえ ないというべきである」とした。 他方,2審東京高裁においては,平成14年の健康増進法制定以後,各地 方公共団体において,受動喫煙防止の取組みがなされ,神奈川県内におい ても約半数の市町が路上喫煙防止条例を制定していたほか,被控訴人(原 告,上告人)の居住する東京都立川市においても JR 立川駅周辺において 路上喫煙の禁止が定められていることなどから,被控訴人に相当の注意義 務が存在したことが認められ,被控訴人が路面表示等を見落としたことに ついて過失があったとした。 このような裁判所の判断からすると,「違反者が知らなかったとはいわ せないとする姿勢」を地方公共団体が示すことは必要で,路上喫煙防止条 例や路上喫煙の禁止に関する広報,啓発活動を行うことの重要性は理解で ─ ─ 353.
(26) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. きる。しかしながら, どこまでの活動を行うことが求められるのかは明 確でないし,明確でないからといって不必要な活動にまで公金を支出する ことは許されない。むしろ,条例の告示とともに,路面表示,標識の設置 を一般大衆に分かるようにすることがなされていれば十分ともいえる。本 件条例を制定した横浜市においては,路面表示,標識ともに設置されてお り,その表示の仕方も不十分ではないと思われる。個人的見解としては, 横浜市の路面表示は他の地方公共団体と比しても見やすく,大きさについ ては一回り小さいと感じられるかもしれないが,非喫煙者を含めた一般大 衆が認識するには十分であると考える。 横浜市では,横浜駅周辺等に喫煙ルームが設置されるなど,他の地方公 共団体よりも先進的にたばこ規制が進められ,横浜市のある神奈川県では 全国初の受動喫煙防止条例が制定され多くの場所において喫煙の規制がな されていることは周知の事実である。 近時,都道府県における受動喫煙防止条例制定の検討がなされ,各市町 村においても路上喫煙防止条例が多数制定されていることを考慮すると, 喫煙者には,ここで喫煙をして良いかを確認する義務があるというべきで あろう。むしろ,喫煙が喫煙者の周辺他者の健康等に対して不利益を与え るものである以上,周辺他者に受忍義務が存在するような場合 であれば 千代田区の取組みについて,前掲注,千代田区生活環境課「路上喫煙に No!―ルールはマナーを呼ぶか―」前掲注,北村喜宣『行政法の実効性確保』 2734頁参照。 地方公共団体よっては,路面表示のみによる啓発の場合もある。 ただし,路面表示において過料を科されることが明示されていない点は,喫 煙者に対して不十分な表示とされよう。また,路面表示が劣化によって認識し にくい場合については,不十分な表示とされ,認識に関しての過失認定が困難 であろう。 マンションのベランダにおける喫煙による健康被害について, マンションと いう共同生活の場においては, 「被告がベランダでの喫煙をやめて,自室内部で 喫煙をしていた場合でも,開口部や換気扇等から階上にタバコの煙が上がるこ ─ ─ 354.
(27) 路上喫煙防止条例による規制. ともかく,路上や公園,公共施設等の敷地など一般大衆の利用する公共の 場においては,喫煙は抑制されるべきではないだろうか。. 5.おわりに(都市の美観確保とたばこによる住民への健康被 害防止のための条例制定権) 本件においては,訴訟の争点として,条例違反者に過料を科す場合にお いて故意・過失を要件とするのかどうか,またこれを要件とする場合に, 本件の事例において少なくとも過失が認められるかどうかという点が示さ れていた。これらの点については「4.路上喫煙防止条例における規制の あり方」において検討してきたところであるが,ここでは,たばこ規制と 条例の関係から,本件条例のような路上喫煙防止上条例による規制のあり 方の点から検討をする。 本件条例のような路上喫煙防止条例は,その目的を都市の美観確保等と していることは前述してきたところであるが,たばこ規制については,こ れを住民の健康保護の観点から規制している例もある。 路上喫煙を「人の生命・身体・財産などに対する侵害(あるいはその危 とを完全に防止することはできず,互いの住居が近接しているマンションに居 住しているという特殊性から,そもそも,原告においても,近隣のタバコの煙 が流入することについて,ある程度は受忍すべき義務があるといえる」とし, その上で受忍限度を超える違法かどうかが争われるものとされた。 (名古屋地裁 判決平成24年12月13日,判例集未登載) なお,上記名古屋地裁判決においては「自己の所有建物内であっても,いか なる行為も許されるというものではなく,当該行為が,第三者に著しい不利益 を及ぼす場合には,制限が加えられることがあるのはやむを得ない。そして, 喫煙は個人の趣味であって本来個人の自由に委ねられる行為であるものの, タ バコの煙が喫煙者のみならず,その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を 及ぼす恐れのあること,一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは,いずれ も公知の事実である」として,たばこの害悪や程度によっては喫煙による第三 者への不利益となるものとしている。 ─ ─ 355.
(28) 近畿大学法学 第62巻第3・4号. 険)」を前倒しした犯罪として構成することは可能であり, 「路上喫煙は, 不特定多数人が行き来する公共の場所における喫煙行為であり,こうした 不特定多数人に火傷を負わせる危険性のある行為として法的規制の対象と することは十分に可能である」 ともされるように,路上喫煙による火傷等 の危険性があることからの規制も可能であろうが,むしろ,たばこによる 煙害つまりは受動喫煙による健康被害を根拠にして規制することも可能で あろう。そのような意味において,路上喫煙等の規制の目的は,住民の健 康保護とされるべきものではないだろうか。 受動喫煙については,その危険性が従来から指摘されてきているところ であり, 神奈川県受動喫煙防止条例, 兵庫県受動喫煙防止条例において 前掲注,深町晋也「路上喫煙条例・ポイ捨て禁止条例と刑罰論―刑事立法 学序説―」立教法学79号64頁。 前掲注,深町晋也「路上喫煙条例・ポイ捨て禁止条例と刑罰論―刑事立法 学序説―」立教法学79号71頁。 平成4年に発表された U.S. Environmental Protection Agency(EPA―米 国環境保護庁)による“Respiratory Health Effects of Passive Smoking: Lung Cancer and Other Disorders(受動喫煙の呼吸器への健康影響:肺がん及び他 の呼吸器疾患)”において,受動喫煙の健康への危険性が指摘されたほか,近年 では,平成18年の U.S. Department of Health and Human Services(HHS― 米国保健福祉省),Centers for Disease Control and Prevention(CDC―疾病 予防管理センター)ほかによる“The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke: A Report of the Surgeon General(たばこ煙への不 随意曝露の健康影響:公衆衛生総監報告書)2 006”において受動喫煙の健康へ の危険性が指摘されている。 http://apps.nccd.cdc.gov/osh_pub_catalog/ PublicationList.aspx 参照。U.S. Department of Public Health Service. Health Consequences from Smoking: A Report of the Advisory Committee to the Surgeon General of the Public Health Service. PHS Publication No.1 103. Rockville, MD: U.S. Department of Health Education, and Welfare, Public Health Service, Centers for Disease Control,(1964), U.S. Department of Health and Human Services. The Health Consequences of Smoking for Women. A Report of the Surgeon General. U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, Office of the Assistant Secretary of Health, Office on Smoking and Health,(1980),U.S. Department of Health ─ ─ 356.
(29) 路上喫煙防止条例による規制. 公共施設等において禁煙,分煙の措置をとることとされている。ここでは, たばこの煙による受動喫煙被害が,屋内においては密閉空間で煙が充満し 煙害が増すことから,飲食店等も含めた施設の屋内空間において禁煙,分 煙の措置を講じている。 しかしながら,屋外空間における受動喫煙についても危険性が指摘され ており,兵庫県受動喫煙防止条例においては,屋外観覧場や動植物園等, 神奈川県受動喫煙防止条例において規制されていなかった屋外においても 規制がなされていること等, 受動喫煙防止の要請は, 屋内に限られるも のではない。住民の健康を保護することを目的として規制を行うのであれ ば,あらゆる公共的空間がたばこ規制の対象となるものであり,住民の健 康権 や人格権的健康権 の保護のために受動喫煙防止は積極的に求めら れるものであろう。 and Human Services. Reducing the Health Consequences of Smoking:25years of Progress: A Report of Surgeon General. DHHS Publication No.(CDC) 898411. Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, Centers for Disease Control, Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Office on Smoking and Health,(1989), Hirayama, T. Lifestyle and Mortality: A Large-Scale Census Based Cohort Study in Japan, Contributions to Epidemiology and Biostatistics Vol.6. Karger (Basel),(1990), Smoking Kills: A White Paper on Tobacco. Presented to Parliament by the Secretary of State for Health and the Secretaries of State for Scotland, Wales and Northern Ireland by Command of Her Majesty, (1998),厚生省編『喫煙と健康―喫煙と健康問題に関する報告書〔第2版〕』 (健 康・体力づくり事業財団,1993年)。 定岡直・柳沢茂・中根卓・八上公利・小口久雄・笠原香「環境タバコ煙の暴 露状況調査」信州公衆衛生雑誌4巻1号(2009年)7273頁。 前掲注,村中洋介「受動喫煙防止条例と喫煙権(喫煙の自由),嫌煙権」法 政論叢50巻1号15頁。 健康権については,前掲注,下山瑛二『健康権と国の法的責任―薬品・食 品行政を中心とする考察―』78頁以下参照。 前掲注,村中洋介「受動喫煙防止条例と喫煙権(喫煙の自由),嫌煙権」法 政論叢50巻1号1213頁。 ─ ─ 357.
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