代名詞化変形と深層構造
著者 中井 康行
雑誌名 主流
号 37
ページ 89‑107
発行年 1976‑09‑25
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014914
代名詞化変形と深層構造
中 井 康 行
I
本論文の目的は,代名詞について Jackendoffや Akmajianが主張して いる仮説1一一代名詞が深層構造からすでに存在しているという仮説一一ー が果して妥当であるか否かという問題を検討することである. J ackendoff は Rossや Langackerらの理論をとらず,代名詞が変形操作によって置 換された上で表層構造に現れるのではなくて,むしろ代名詞は深層構造か らすでに存在していて,代名詞化の構造記述にかなっているものに意味解 釈の規則が適用されて代名詞とその先行詞の coreferentiality(同一指示 性〉が成立すると解釈するのである. しかし McCawleyも指摘してい るように,代名詞が深層構造から存在している可能性は極めて疑わしい2
もし代名詞が深層構造から存在していないという仮説が正当化されれば,
Jackendoffの理論は成立しなくなるが一応彼の主張を見ておこう.
(1) Instead of being produced by transformations
,
pronouns and reflexives wi 1 1
be generated by the base component as lexical items,
marked with the feature [+pro]
,
but lil王e other noun phrases,
unmarked for reference. R巴flexives
,
in addition,
wi 1 l
be marked with the fe乱ture[+reflJ,3しかし(1)の主張は正しいであろうか.思考法則及び推論の過程において二 つの同一指示物に関し一方を代用的に述べることはできても, J ackendoff の言うように,ある名詞(句〉と指示の明示されていない代名詞を,深層
90 代名詞化変形と深層構造
構造から表層構造へ派生させるj段階で「同一指示Jと指定するのは思考論 理に反するものだと言えないだろうか 代名詞という名称から考えても 思考論理は明白である また, この一つの証拠として代名詞化変形には 順行条件に殆んど制約がないのに対して,逆行条件にかなり厳しい制約が あるという事実を指摘してもよかろう. この事実は,代名詞が実は core‑ ferentialな名詞(句〉から派生するという思考論理を裏付けるに十分で ある.従ってここでは,やはり変形操作によって代名詞化が行われるとい うことであり,決して深層構造から存在するのではないという立場をとる ことになる.
E
Jackendoffがその主張を支える根拠のーっとして提案している pro‑ norninal epithets円(代名詞的ののしり語、〉はどう処理すればいいかとい
う問題が生じる.変形操作によって代名詞が導入されるという立場を取る のであるから,この理論の中で pronorninalepithetsを説明できなければ 重要な一般化が得られないことになるというのが Jackendo妊の主張であ る. この主張は勿論正しいが, pronorninal epithetsも変形理論の枠組で 十分処理できる.J ackendoffの例を引用すればぺ
(2) I wanted Char
1 i
e to help rne,
but the bastard wouldn't do it. (3) Irving was besieged by a horde of bills and the poor guycouldn't pay thern.
(4) Although the burn tried to hit rne
,
I can't really get too rnad at Harry.Jackendoffが主張しているように,確かに (2)では Charlieがthebastard に, (3)ではIrvingが thepoor guyに, (4)では Harryが theburnに それぞれ置き換えられた可能性はない.しかしここで注意しなければなら
ないのは (2)一(4)が従来の pronominalization(代名詞化変形〉の構造記述 の条件 つまり (2)と(3)は順行条件に, (4)は逆行条件に合致する一ーを満 たしているという事実である.例えば, (5)においては斜字体の名調と代名 詞的ののしり語は同一人物を指示できない.
(5) *The poor guy didn't realize that J
σ
ck had his wife died. さて次に注意すべき事実は, (2)一(4)からも分るように pronominalepi圃 thetsが [ +De:finite]であるという事実である.語葉項目挿入変形が完了して深層構造が派生された段階で,意味解釈の重要な部分が決定される時,
pronominalizationの帯造記述に合っている名詞〔勾〉は[+Anaphoric] と指定されることになる.そしてそれ以後この問題になっている文に変形 が適用されて, すべての意味解釈がなされる表層構造で, ζの[十Anaph‑
oric]という素性が作用するという仮説を立てることができる. もしこの 理論が正しいとすれば, pronominal epithetsに関する議論は代名詞の深 層構造における存在を保障する根拠にはならないことになろう
E
LeesとKlima以来の変形操作による reflexivization8 (:再帰代名詞化 変形〉において問題となるのは, J ackendoffも指摘している通り9,picture nouns (絵画名詞〉における reflexives(再帰詞)の出現である Jackendoff の提出している例を取り上げて考察してみよう10
(6) John showed Bill a picture of himsel
f .
(7) *John showed Bill Mary's picture of himsel
f .
彼の理論では himselfや himといった所謂代名詞を深層構造からすでに 入れておく訳だが, 奈
i
字体の slot( わ り に himself,himまた他のい かなる語葉項目も入り得る可能性がある. しかし(6)において himselfを92 代名詞化変形と深層構造
lexical insertion transformation (語葉項目挿入変形〉の段階で決定し得 る根拠は何であろうか.筆者には何も無いように思われる.J ackendoffが この slotにhimselfを入れておくことができるのは,後の章、図に反して (6)の文の問題の名詞が主語と同一指示的である為にはhimselfがこのslot に入っている必要があるということ, さらにこの slotが再帰代名詞化変 形の構造記述にかなっているという事実を知っているからに龍ならない.
Jackendoffは再帰代名詞化変形の構造記述を示し11 意味解釈の規則が適 用される時にこの記述を用いるのであるが,実はこの構造記述を彼の主張 する tableof coreference (同一指示の目録〉の規則を適用する前に使用 しているのである12 従って彼の理論には避けがたい自己矛j言があること を否定できない. つまり次のことを主張したいのである. [
+
Anaphoric] という指定を受けた名詞(匂〉はその指定に基づいて深J菅構造から表層構 造が派生するまでに代名詞に換置されるのである.この逆は上の理由によ り不可能である. もしそれを敢えて主張するというのであれば,それは極 めて不自然な仮定だと言わざるを得ない. また,この slotに Johnとい う語嚢項目ではなく himselfを深層構造以前の語葉挿入変形の投階で決定 できる条件または保障が何も無いのであるから円 いかなる語葉項目も入 り得る訳であり, 例えば, her, herself, him, himself, themselves, ours‑ elvesのどの一つが入っていてもいいのである. 結局 Jackendoffの理論 の不備は,深層構造が派生じた後に彼が主張する意味解釈の規則が適用さ れる段階になって始めて coreferentialであり得ない代名詞を含んだ文を 不適格として非文法的と判定することにある.この意味で、深j菅構造ですで に代名詞を入れておくという理論は二重の不必要な手続きを必要とし,文 法を複雑にするだけである.なぜ、なら,もし深層構造以前に先行詞と同じ 語葉項目が入っており,深層構造が派生した段階で意味解釈の重要な部分 が与えられる時に[十Anaphoric]の素性指定がなされるとすれば, たと えば John‑Johnという同一指示関係において, 一方が he,his, him,代名詞化変形と深層構造
himselfといった代名詞に置き換えられる可能性はあるが,逆に she,her, herself, they, their, themselvesといった代名詞に置き換えられる可能性
は全く無い.従って,以上の理論には Jackendo妊の理論に生じるような こ重の手続きは生じないことになる.
さて我々が再帰代名詞の深層構造における存在を否定すると同時に,変 形操作を経て表層構造に代名詞が現れるという立場を保持するなら,絵画 名詞(句〕の中に現れる再帰代名詞はどう扱えばいいかという問題が生じ
る.また Jackendoffが提出している例を取り上げて検討してみよう14
(8) John told Bil1 a story about himself.
(8)における himselfはあいまいで John,Bil1の両方をその先行詞として 指示できる.
( 乱1ary's
(9) *Tom told Dick イ
f
story about himself .
圃lthe newspaper'sJ (Maryヲs
帥 Tomtold Dick ~ Harry's ~ story about him. lthe newspaper's)
制 Johnsaw a picture of himself in the post office. 同 *Johnsaw a picture of him in the post 0伍ce.
同
Johntold Bi 1 1
Harry's story about himself . M
John showd Bil1 his picture of hi・ηzself.(8)一闘の例文は LeesとKlimaの規則の適用によって説明できるかも知 れないが,同と (14)は不可能である. というのは, 同においては,himse
ぴ
,は Harryのみを指示し,同においてはs 再帰代名調は hisのみを指示す るからである.Jackendoffは絵画名詞の句構造を次のように考えている15
94 代名詞化変形と深層構造
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D~ヘ\可
NP
~\N
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D i c L r e B l l l
この伺の句構造において N は Sentence(文〉の丁度 VPC動詞句)に相 当するものであり Sに cycle(循環〉があるのと同様に NP(名詞句〉
にもまた cycleを認めるという仮説を立てる.このN という概念は明ら かに統辞論に関するものであるから,今までの変形理論に組み入れても何 の矛盾も生じないものと思われる.この概念を LeesとKlimaのreflex‑ ivizationの規則に組み入れ, 彼らの理論を修正することで, それまでの 修正前の規則では説明できなかった例, たとえば同の nonambiguity(非 あいまいさ〉の説明がつく.すなわち同の深層構造は同のごとく示される.
(16)
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上でも指摘した通り, NPに cycleを想定することにより, また再帰代名 詞化変形は福環的に適用される規則であるから, まず NP3内でこの規則 が適用されることによって N の中の Harryがhimselfに強制的に変え られる Jackendoffによる非常に重要な指摘‑ N Pにも cycleを認め
るーーは逆に LeesとKlimaの規則の妥当性を一層確実にした訳である.
以上の議論は LeesとKlimaの再帰代名詞化変形の条件を用い, さ らに Jackendoffの指摘を導入し, NPのcycleを認めることにより従来 から説明されなかった絵画名詞(句〉の中の再帰詞の出現を説明できるこ とを明らかにした. しかし以下は NPのcycleを認めただけではまだ不 十分で説明不可能な例である.
間 Tombelieves that there is a picture of himself hanging in the post office.
同 Tommad邑 theclaim that the picture of himself hanging in the post 0伍ceis a fraud.
同 Thatthe picture of himself in the newspaper is ugly enrages Charlie.
側 Thefact that there is a picture of hi・mselfhanging in the post o伍cefrightens Tom.
制 Thepicture of himself that John saw hanging in the post 0伍ce was ugly.
倒 Thedescription of himself that John gave the police was a pack of lies.
制一闘は Jackendo貨が指摘しているように,再帰代名詞化変形の環境に も代名詞化変形と同様 command(統御)という概念を導入する必要があ ることを示す例である.このcommandという概念の導入には賛成できる が,その範囲を構成素文の中の絵画名詞のみに隈定ずる必要があると思わ れる.
以上の考え方を持って伺一例の説明がつく.しかし似‑闘はどうであろ うか. 伺と伺の再帰代名詞の出現を考察するに当り, まず一通り Jack‑ endoffの説明を見ておくことにしよう. 制と仰では再帰代名詞がその先
96 代名詞化変形と深層構造
行詞よりも前方にあり,しかも上のS部点に存在するというのが彼の主張 である.関係節変形が適用された段階で彼は次のような句構造標識を与え ることになる.
加)
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ここで彼はある一つの意味的規則を想定する.たとえば闘の句構造標識の Determiner (決定詞〉の位置に文の主語をこの規則が複写し, ζの規則は 再帰代名詞化変形よりも先に適用されるものとする.そうすれば闘のよう に関係節の先行詞の位置にある絵画名詞の中に現れる再帰代名詞は説明が できることになる16 しかしこの主張をじっくりと考え直してみると,す ぐ分るように NPのcycleを認めかつ Detの位置に文の主語(闘の句 構造標識では John)を入れておくということは逆に LeesとKlimaの 規則を正当化するものではないだろうか. なぜなら NPのcycleを認め Johnを Detの位置に入れることにより simplex(単式〉の cycleとい う条件を自然に作り出していることになるからである.故に彼の理論はこ の点でも明らかに自己矛盾に陥っていることになる.また,もし彼が想定 しているad‑hoc(その場限りの〉な意味的規則一一ーつまり文の主語を Det の位置に複写する規則一ーが無ければ,彼の議論は成立しない.彼の議論 の最大の自己矛盾は次の点にある.代名詞を語業項目として深層構造以前 の段階から入れておくと主張しておきながら,仰の句構造標識において,
この句構造標識が変形部門の関係節変形の出力であるという事実にもかか わらず17 Xという dummy symbol (代役記号〉を入れておくという点 である. ζの主張が彼の理論に合わないことは自明の理である.倒の句構 造標識が関係節変形を蒙った後の構造であるという事実から考えあわせる と,この段階でXという未知数が入っているということは彼の主張に相反 するものである.
変形理論で伺,伺を生成できるには,何らかの説明が与えられねばなら ないことになるが,この点を次に考察してみよう.筆者は伺の深層構造を 次のように考える.
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S2の段階でまず再帰代名詞化変形が適用される. この為に NP4の John が強制的に himselfに変えられることになる.次に NP2 とNP4の同一 性から関係節変形が適用されるのと同時に NP4 は お の 最 も 左 方 に 移 動 する. ここまでの操作は NP2とNP4の深層での同一性によってなされ るが,N九 は ま だ thatに変形されない.というのは, NP2とNP4のN の中の PPに差異が生じているからであって, NP2では Johnが入って
98 代名詞イヒ変形と深層構造
おり, NP4では himselfが入っているからである. 故にここで必要とさ れる規則は NP2のNの中の Johnを himselfに置き換える強制的な規 則である. NP2の Johnと NP4の himselfは深層構造ですでに同一指 示という指定を受けているのであるから,この保障のもとに置き換えが起 っても問題は生じないa もう一つの考え方は NP2を消去して NP4を NP2のもとの位置に複写し NP4のもとの位置には thatを入れるとい う考え方も成立する訳だが, どちらが妥当かは今後の検討を待たねばな らない18 いずれにせよ, 乙の規則を upwardre:flexive replacement transformation円(上方再帰代名詞置換変形〉とでも仮に呼んでおこう.
こういう類の規則の必要性は制に示されるような表層構造の制約によるも のと思われる.
闘 いかなる言語においても表層構造で同文中にこっ(又はそれ以上〉
の語棄項目がすでに coreferentialであるという指定を受けている時,
一方を除いて地方が代用形に置き換えられるか又は消去される19
制の制約によって制は阻止されることになる.
M
*The description of John that John gave the police was a pack of lies.次に制,倒を考えてみよう.
。
カ
*Thedescription of him that John gave the police was a pack of lies.倒 ?The description of John that he gave the police was a pack of lieso
制においてんzmとJohnは同一指示的ではない. なぜなら制は upward re:flexive replacementの条件に合っているのにこの規則の適用を受けて
いないからである.同は,同様にこの規則の条件にかなっているが,適用 を受けずに関係節変形が適用された後に代名詞化変形の構造記述が構成さ れてその規則の適用を受けるので ,Johnとheは同一指示的であり得る が9 側よりも主主に可受容性が低いと言える.
以上,絵画名詞における再帰代名詞の出現を考察して来たのであるが.
ここで絵画名詞における再帰代名詞の出現の環境を総括しておくことにす る.
(
29) Re丑exivization
SD: X‑NP1‑Y‑NP2‑Z (NP1=NP2)
SC 1: X‑NP1‑Y‑NP2十Refl‑Z conditions:
① NP1とNP2が同ーの cycle(S, NP)に在る時.
② NP2が絵画名詞の中にあり,その絵画名詞が NP1の存在する母 型文に埋め込まれた構成素文に在る時.
SC 2: X‑NP1十Refl‑Y ‑NP2‑Z
NP1が絵画名詞の中に在り, その絵画名詞が関係節の先行調であ る場合.
(upward reflexive replacement transformation) 百
Akmajianはその論文20の中で興味深い事実に言及している.彼は代名 詞 it刊が,
(30) Pratt roasted a pig in th邑五replacelast year
,
but none of his friends rea1ize it.制 Prattroasted a pig in the五replacelast year
,
and Whitney did100 代名詞化変形と深層構造 it too.
倒 Prattroasted a pig in the五replacelast year
,
and Whitney tried it with a game hen.の三例においてそれぞれその示す意味内容に相違があるという事実に着眼 し, ζういう代名詞の解釈に focus(焦点)と presupposition(前提〉の 概念を導入する21 さらに彼は例 闘の代名詞の解釈に先行詞節の前提が 付与されるものと主張している22 Chomsky‑Jackendoffの focusとpre‑ suppositionの概念は, ある universeof discourse円23(発話の世界〉
において話し手と聞き手が共通して持っている報報が「前提」であり,聞 き手には与えられていない情報が「焦点」である.この為に focusは表層 構造で音韻表示がなされる時に emphaticstressと highpitch (強勢と 高い調子の発音〉が置かれることになる. Chomsky‑Jackendo妊の概念を 用いて,例えば制を分析すると次のように倒の先行詞を含む節は倒に,そ
して代名詞を含む節は倒にそれぞれ対応することになる.
倒 presupposition:
[X roasted a pig in the五replacelast year] focus: [X= Pratt]
(3~ presupposition :
[X roasted a pig in the五replacelast year] focus: [X=京市itney]
Akmajianは倒と倒を分析するに当り,"paired foci " 24 (対になった焦点〉
という概念を導入する.そして倒と倒では PrattとWhitneyが paired foci円になっている訳である.側のように対照となるべき pairedfoci "
のない例文においては, 次に示す原理で取り扱うことができると Akma‑
jianは主張している.
伺 Withrespect to sentences in which there are no paired foci. then
,
a reasonable hypothesis at this stage Is that the anaphoric clause is assigned the entire semantic reading of the antecedent clause.25簡単に言えば, pairedfocI円のない代名詞を含む節の解釈には先行詞を 含む節の全ての解釈を付与するといいというのである.
さて AkmajianもJackendoffと同様に代名詞を基底部門ですでに生成 しておくという立場を取っているが,例えば it"といった代名詞の解釈 は上で見た通りであるa 側 闘の例文の如く, 代名詞を含む文の解釈に focus と presuppositionがいかに関係していようとそれだけでは代名詞 が基底からすでに存在しているという根拠にはならない.逆に代名詞を基 底から生成しておかずに変形理論から導く方が説明的な妥当性が得られる
ことは以下の議論からも明らかである.例えば倒の深層構造は倒のごとく に示される.
(36)
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102 代名詞化変形と深層構造
。。の深層構造から明らかに言える事実は,彼が主張している伺の仮説が 最早不要だということである. なぜなら S4と S2の向一性は実は深層構 造の段階からすでに保障されているのである. とすれば Akmajianの指 摘している pairedfoci円のない代名詞を含んだ節の解釈に先行詞を含 む節の前提が付与されるという事実は完全に説明されたことになる.全く 同ーの文に同じ前提が付与されるのは当然のζとである26 従って変形理 論による説明には Akmajianの理論に必要な闘の仮説は不要になる.
次に変形理論を用いた理論では倒はいかに説明できるかを考えてみよう.
(3~ の深層構造は伺に示される句構造標識に代表されるものである.
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さてここで表層構造における didit too"が派生するにはこつの変形を 考えなければならない.第一の変形規則はらと S3のVPの同一性から S3のVPを[+Anaphoric]と指定し同時に too"を挿入するものであ るa 第 二 の 規 則 は お の VPを名詞化する規則であり, これに伴って,
[+PRO]
の動詞を元の roasted"の位置に挿する規則である.この [十PRO]
の動詞は後に do円に置き換えられるものである27 すなわち,第二の規則が適用された段階で制は闘のごとく変形されるものと思われる。
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代名詞化変形と深層構造
j i
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制}
結局 Akmajianの主張している説明一一一focusとpresuppositionを導入 したもの一一『は上記のごとし変形論で簡単に説明ができるものと思われ る.倒の派生句構造標識を見てくると最早 Akmajianの説明一一 paired foci押のある先行詞節と照応節の解釈は9
presuppositionを照応節の意味解釈にするーーが不要 paired focus円を先行詞節か ら取り出した後の
になることは明白である.
V
I‑VIで論じて来たことは代名詞が深層構造では生成されず,変形操作 そして変形 によって表層構造に現れるという立場を述べることであった.
理論に根ざした説明の方が主主に妥当性があるということが確認されるので ある.
注
1 代名詞を深層構造からすでに生成しておくという理論については,下記の参考 文献を参照.Ray S. Jackendoえ AnInterpretiv巴Theoryof Pronouns and Reflexives" (Reproduc巴dby the Linguistics club in Indiana Univ., 1968). Ray S. Jackendoff, Semantic Interpretation in Generative Grammar (Cam明 bridge, Mass.: The M. 1. T. Press, 1972). Adrian Akmajian, The Role
104 代名詞化変形と深層構造
。
fFocus in the Interpretation of Anaphoric Expressions, "
A Festschriftf i
町Mo灯isHalle, edited by S. A. Anderson and P. Kiparsky (New York: Holt, Rinehart and Winston, Inc., 1973).
2 McCawleyは extraposition(外置化変形〉の問題に関連して極めて示唆的な 意見を提示している.extrapositionによって表層に現れる it"は代名詞化変形 の出力であるから深層から存在する筈がないというのである
. σ .
D. McCawley,Where do Noun Phrases Come From?" Grammar and }v1eaning [Tokyo : Taishukan Publishing Company, 1973], p. 147ふ
3 Jackendoff, Semantic Interpretation仇 GenerativeGrammar, p. 108. 4 McCawleyは次のように非常に洞察に富んだ意見を述べている.
lndices and the knowledge in which they figure play a role in the choice of pronominal forms. In English the choice between he, she, and it or b巴tweenωho and which depends on one's knowledge of the intended referent of th巴nounphrase rather than on the lexical items involved in the antecedent rioun phrase. . . . the di妊erentchoice of pronouns in
(a) My neighbor hurt himself. (b) My neighbor hurt herself.
corresponds to whether the speaker's knowledge about the ind巴x of the token of my neighbor in the sentence contains the information that that individnal is male or is female."この引用文からも明らかなように代名詞の決 定には性,数などの情報が必要であるが, Jackendo妊の理論はこの点について何 の説明もできない.(McCawley, The Role of Semantics in a Grammar,"
Unh‑ersals in Linguistic Theo1ッeditedby E. Bach and R. T. Harms [New York: Holt, Rinehart and Winston, Inc., 1968], pp. 139‑140).
5 代名詞とその先行詞についての概念は, Jespersen, Curme, BloomfIeldらにお いても凡等しく考えられている. 彼らの概念の本質は substitution"(置き換 え)である.
6 Jackendoff, Semantic Interpretation i河GenerativeGrammar, p. 110. 7 代名詞化変形の構造記述に合っている名詞(句)なら pronominalepithetsで
なくても[十Anaphoric]の指定を受ける可能性がある. 例えば, 次の例文の斜 字体の名詞句は[十Anaphoric]であるが,もしこの名詞句に強勢が置かれると疑 いなく先行詞の Charlieを指示することができる.
(i) 1 wanted Charli・eto help me, but the miser would not do it. 結局, pronominal epithetsの問題はfeaturespeci五cation(素性指定〉の問題で 処理できるものと思われる.また pronominalepithetsが [
+
DefInite]でなければならないという事実もこの解決法を支持するものである.[十Anaphoric]は 当然、[十De五nite]を含んでいるからである.
8 R. B. Lees and E. S. Klima, "Rules for English Pronominalization," Modern Studies in English εdited by D. A. Reibel and S. A. Schane (Englewood Cli妊s,New Jersey: Prentice‑Hall, Inc., 1969), p. 152.
9 Jackendoff, 01う.cit., pp. 131‑135. 10 Ibid., p. 138.
11 Ibid., p. 136.
12 もしもそうでないとすれば context‑fr句(文脈自由〉の lexicalInsertionの 段階で context‑sensitive(文脈依存〉の代名詞を挿入しうる根拠が無い.
お もしこの指摘が誤りで,深層構造からすでにhimselfを入れておくことが可能 であるような条件一ーしかも himselfを決定し得る従来の変形理論の構造記造を 用いない一一ーがあれば, Jackendoffはそれを明示すべきである.またそういった 条件がない限
ι
代名詞が深層構造から存在するという仮説が立証されたことに はならない.語葉項目挿入変形の段階が context‑freeである以上,代名詞him‑ selfというような context‑sensitiv巴の語棄を語蒙項目挿入変形の段階で決定できる条件はまだ全く知られていないと筆者には思われる.
14 以下の例文は全て Jackendoff(1972)から引用したものである.
15 Jackendoff, op. cit., p. 135. 16 Ibid., pp. 163‑168.
17 関係節変形は変形部門の変形規則であるから鱒の句構造標識は深層構造を示し たものではない.
18 Emmon Bachは変形操作の上で類似した規則を想定している. 例えば He saw a philosopher."という文を導くのに彼は次のような深層構造を考えている.
(i) He saw someon色 whois a philosopher,
(i)に wh‑relb色"を消去する変形と philosopher"を消去して someone"
に置き換えることにより Hesaw a philosopher."を導き出すのであるが, こ の分析の利点は Langendoen(1969)に詳しく述べられている.(Emmon Bach,
Nouns and Noun Phrases
, "
Univer叩 ls i:月 Li:河guisti,ヒTheory.D. T. Lang‑endoen, The Study
0 /
Syヮltax[Tokyo: Kinseido Ltdη1971], pp. 76‑78ふ 19代名詞があらゆる言語に存在することは事実である(JosephH. Greenberg,Some Universals of Grammar with Particular Reference to the Order of Meaningful Elements
, "
Universalsザ La河guageedited by Joseph H. Green‑ berg [Cambridge, The M. 1. T. Press, 1963], p. 96を参照)20 Akmajian, op. cit.側一例の{列l文は同書p.215.から引用したものである.
106 代名詞化変形と深層構造
21 Akmajianのfocusとpresuppositionは本質的に Chomskyの概念と同じで ある.(Noam Chomsky, Deep Structure, Surface Structure, and Semantic Interpretation
, "
Studies 0河Semanticsiπ Generative Grammar [Th巴Hague:Mouton, 1972]を参照.) 22 Akmajian, op. cit., p. 220. 23 Ihid., p. 217.
24 Ibid., p. 222. 25 Ibid., p. 222.
26 勿論表層構造での強勢などを考慮外にしての話である.
27 この場合 do"の出現をいかに処理すればいいかという問題が残る. 一つの 処理法は Akm乱jian白身も指摘しているように次のような方法であり, 彼は以 下の事実を指摘している. *PrattKnew the answ己rand Vifhitney did it too."こ の文が非文法的なのは2 それぞれの節の主動詞によってPrattは nonagentive"
(非行為者〕の解釈を,そして Whitneyは agentive"(行為者の〕解釈を受 けるからである.つまり doit too"の先行詞節は agentive"の解釈の可能 な文である必要性があることになる. この事実を裏返せば3 agentive"の解釈 がなされる文に anaphoric"な表現を付加する場合その文に do."が出現しな ければならないということである. (尚, Akmajian, op. cit句 p.222を参照.)
参 考 文 献
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