全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
著者 鯵坂 学
雑誌名 評論・社会科学
号 101
ページ 85‑135
発行年 2012‑06‑15
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012924
要約:日本の近代化の中で明治以降,農山漁村や地方小都市から都市への大量の移住が生 じ,その多くの移住者は大都市圏や太平洋ベルト地帯の都市,最寄りの地方大都市に移り 住んだ。戦前期には,これら都市に移住した人々は,移住した都市における就労や住居の 確保,生活面での情報や援助を得るために家族や親族のネットワークを利用するとともに,
同郷的な「つて」を頼って,厳しい都市での生活を生き抜いていった。戦後も,農山漁村 からの多くの移住者は都市に定住していったが,都市での就業や住居の確保,配偶者の紹 介,厳しい都市生活の中での安らぎや親睦,アイデンティティを得るために,同郷である ことを契機として様々な同郷団体・同郷会を形成していった。また,正月・お盆の帰省に 見られるように,最近までかなりの都市移住者は故郷との関係を何らかのかたちで維持し ていた。
本稿では,筆者が 1995 年〜1997 年に全国の市区町村の役場・役所に対しておこなった 全国市区町村調査により析出された 1,890 の「同郷団体」について公表し,都市−農村関 係におけるその歴史的な普遍性を明らかにすることを目的とする。
キーワード:同郷団体・都市移住・全国市区町村調査・都市−農村関係
目次
1 はじめに
2 都市人口の増加と都市移住 3 都市移住者と同郷団体 4 同郷団体の研究
5 全国市区町村に対する同郷団体調査の経緯 6 同郷会の地域空間的編成
7 おわりに
全国市区町村調査(鯵坂)による同郷会のリスト
1 はじめに
明治中期,大正から昭和初期の戦間期および戦後の高度経済成長期に,農山漁村や地 方小都市から都市への大量の移住が生じ,その多くの移住者は大都市圏や太平洋ベルト
────────────
†
同志社大学社会学部教授
*
2012 年 2 月 28 日受付,2012 年 3 月 7 日掲載決定
資料
全国市区町村にたいする同郷団体調査
(1995〜1997 年)の結果
鯵坂 学
†85
地帯の都市,最寄りの県庁所在地などの地方大都市に移り住んだ。その就業・求人の媒 体は戦前や戦後まもなくまでは,村々をまわる募集人や先に都市へ出ていた親族や同郷 者の「つて」であった。戦前期の多くの移住者にとって都市での生活は一時的なもので あり,彼ら・彼女らは,農村的・農民的な性格を残存させていた。こうした,同郷的絆
・ネットワークの結晶が「同郷会」「郷友会」「郷党」といわれる都市同郷団体であり,
先に移住先の都市に他出していた同郷の有力者を核として形成されていった。本論で は,この同郷団体について筆者が 1995 年〜1997 年に全国市区町村 3,255 の役場・役所 に対しておこなった全国市区町村調査により析出された 1890 の「同郷会」について明 らかにすることを目的とする。また,1984 年に松本通晴により全国の 2,604 の町村役場 に対しておこなわれた全国町村調査のデータとも対照をおこない,戦後の都市における 全国的な同郷会の形成について明らかにする。
2 都市人口の増加と都市移住
日本社会の人口は明治初期以降,第 2 次大戦期を除いて 21 世紀の初頭まで増加傾向 を見せてきた。それは 1872(明治 5)年では約 3480 万人(速水融監修 1992),1920 年 の最初の国勢調査では約 5596 万人,2010 年の国勢調査では 1 億 2805 万人となり,約 3.7 倍に増加している。その中で,表 1 のように農村地域(町村=郡部)の人口は,戦 前期は 4500 万前後で推移し戦後は一時増加し高度経済成長期以降は減少していってい るが,都市地域(市部)の人口は一貫して大幅に増加している
(1)。
表 1 都市・農村別人口の推移
年次
都市人口(千人) 都市人口 の割合
(%)
都市面積 の割合
(%)
人口集中地区(DIDs)
市部 郡部 人口
(千人)
人口の割合
(%)
面積の割合
(%)
1920(大 9)
25(14)
30(昭 5)
35(10)
40(15)
45(20)
50(25)
55(30)
60(35)
65(40)
70(45)
75(50)
80(55)
85(60)
90(平 2)
95(7)
2000(12)
05(17)
10,097 12,897 15,444 22,666 27,578 20,022 31,366 50,532 59,678 67,356 75,429 84,967 89,187 92,889 95,644 98,009 99,865 110,264
45,866 46,840 49,006 46,588 45,537 51,976 52,749 39,544 34,622 31,853 29,237 26,972 27,873 28,160 27,968 27,561 27,061 17,504
18.0 21.6 24.0 32.7 37.7 27.8 37.3 56.1 63.3 67.9 72.1 75.9 76.2 76.7 77.4 78.1 78.7 86.3
0.4 0.6 0.8 1.3 2.3 3.9 5.3 18.0 22.0 23.5 25.3 27.1 27.2 27.3 27.5 27.8 28.1 48.1
40,830 47,261 55,997 63,823 69,935 73,344 78,152 81,255 82,810 84,331
43.7 48.1 53.5 57.0 59.7 60.6 63.2 64.7 65.2 66.0
1.0 1.2 1.7 2.2 2.7 2.8 3.1 3.2 3.3 3.3 全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
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この都市人口の増加は,都市での自然増もあったが,農山漁村(村落:以下「農村」
と総称)や地方都市,朝鮮半島などの植民地から,大都市や地方中心都市(県庁所在都 市など),工・鉱業都市や港湾都市などの新振興都市(町村敬志 1990)への人々の移住
(地域移動)によるものであった
(2)。
黒田俊夫(1979)は,表 2 のように,1920 年から 1970 年までの国勢調査の結果に基 づいて,13 の地方ブロックごとの移動の歴史的変化をまとめている。これによると,
半世紀にわたって人口移動により純増加を持続してきたのは南関東(首都圏)と京阪神
(大阪圏)の 2 地域のみである。戦前の 1920 年から 40 年までの 20 年間で南関東では 259 万の純増,京阪神では 212 万の増加であった。戦後の 1947 年から 1970 年に至る時期 では,南関東は 623 万,京阪神は 321 万の増加をみせている。名古屋を中心とした中京 圏の増加は,1960 年以降である。また,他の地方ブロックの人口は,戦中を除きほぼ 一貫して減少傾向にある。
近代日本では,東京と大阪への人口集中の二極構造がみられるが,戦後は特に南関東 の増加が京阪神の約 2 倍となり,首都圏への集中の傾向が強まっていった。
付言すると,図 1 のように,戦後の大都市圏への人口移動は高度成長期の中期までで あり,1970 年からは急減していった。それ以降 1980 年代には,大阪圏が漸減し名古屋 圏が横ばいの中で,東京圏だけが人口の増加をみせている。また,地方から大都市への 移動は少なくなり,移動の多くが大都市圏どうし,および都市圏内部の移動となってい る。なお,農民の移動研究に詳しい並木正吉(1960)や本田龍雄(1950),野尻重雄
表 2 地方ブロック別の人口移動の歴史的変化
地域 大9〜14 大14〜昭5 昭5〜10 昭10〜15 昭22〜25 昭25〜30 昭30〜35 昭35〜40 昭40〜45
1 北 海 道
2 東 北
3 関 東
⎧北関東
⎨
⎩南関東 4 北陸・東山
5 東 海
6 近 畿
京阪神
⎧⎨
⎩その他
7 中 国
⎧山 陰
⎨
⎩山 陽
8 四 国
9 九 州
⎧北九州
⎨
⎩南九州
−110,191
−144,636
+512,034
−93,261
+605,295
−191,895
+30,982
+410,546
+455,575
−45,029
−79,751
−32,417
−47,334
−90,501
−165,231
−89,145
−76,086
+48,505
−190,239
+509,627
−109,100
+618,727
−181,628
−27,534
+393,610
+434,396
−40,756
−93,619
−25,984
−67,635
−91,757
−59,272
+ 75
−59,347
−24,451
−237,642
+482,206
−136,774
+618,980
−300,161
+ 7,632
+743,137
+778,428
−35,291
−73,447
−54,997
−18,450
−176,899
−185,230
−34,816
−150,414
−56,285
−403,672
+609,173
−141,739
+750,912
−281,239
−16,515
+359,049
+453,379
−94,330
−61,200
−60,806
− 394
−196,896
−145,065
+104,332
−249,397
+116,417
−167,042
+655,536
−246,284
+901,820
−316,720
−53,851
+273,608
+394,786
−121,178
−159,987
−53,900
−106,087
−111,049
−99,105
+29,744
−128,849
+ 44,379
− 474,175
+1,136,386
− 336,316
+1,472,702
− 496,411
+ 35,598
+ 511,054
+ 617,859
− 106,805
− 198,217
− 62,090
− 136,127
− 236,757
− 384,469
− 129,957
− 253,512
− 50,392
− 584,078
+1,235,373
− 344,463
+1,579,836
− 421,361
+ 108,840
+ 622,836
+ 732,197
− 109,361
− 329,288
− 117,020
− 212,268
− 296,543
− 778,642
− 347,170
− 431,472
− 177,106
− 676,982
+1,739,245
− 177,790
+1,917,035
− 397,003
+ 215,501
+ 928,752
+ 947,644
− 20,892
− 312,255
− 128,085
− 184,170
− 277,751
−1,102,070
− 642,234
− 459,836
− 282,322
− 450,519
+1,324,720
− 31,514
+1,356,234
− 322,306
+ 159,012
+ 552,956
+ 515,046
+ 37,910
− 131,566
− 87,722
− 43,844
− 183,065
− 785,411
− 410,632
− 374,779
資料:国勢調査結果と人口動態統計により,各県ごとに計算した純移動量を地域ごとにまとめたものである。
備考:地域区分は次の通りである。東北は青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島の6県,北関東は茨城・栃木・群馬の3 県,南関東は東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県,北陸・東山は新潟・富山・石川・福井・山梨・長野の6県,東 海は愛知・岐阜・三重・静岡の4県,京阪神は大阪・京都・兵庫・の2府1県,近畿その他は滋賀・奈良・和歌山の 3県,山陰は鳥取・島根の2県,山陽は岡山・広島・山口の3県,四国は香川・愛媛・徳島・高知の4県,北九州は 福岡・佐賀・長崎・大分の4県,南九州は熊本・宮崎・鹿児島の3県
出所:黒田俊夫,1979『日本人口の転換構造(増補)』古今書院p.21(見出し修正)
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 87
(1942)によると,戦前の農村から都市に流出する農家人口数を毎年 40 万と推計し, 1920 年から 1940 年までの 20 年間の間に約 800 万人が,農村から都市へ移動したとしてお り,主な移住者は農民層であったことが分かる
(3)。
3 都市移住者と同郷団体
(1)都市同郷団体・同郷会
この地方からの流入層は,近代都市における労働の厳しさと居住・生活条件の劣悪さ のなかで,国家や都市行政による社会政策(方面委員制度・民生児童委員制度や生活保 護制度など)や地域対策(例えば衛生組合の結成や町内会への組織化)に頼るよりも,
親族関係への依存や,同郷者間の相互扶助によって何とか労働・地域生活を維持してい たと推察される。その結果,同郷的ネットワークやエスニック的関係の維持・生成と,
それらを契機としたアソシエーション(都市同郷団体)の形成が生じた。そのため,都 市においても地方的・農村的・個性的な文化,行動様式や集団形成の様式の浸透が見ら れた(R. P. Dore 1962)。
本稿では,市町村やそれよりも狭域(例えば旧行政村や自然村・集落)の出身者が同 郷であることを契機として,移住した先の都市で結成している団体を「同郷会」という 用語であらわし,県の範域の出身者で形成されている県人会とは区別する。そして,同
図 1 わが国の三大都市圏の純移動の推移 総務庁統計局(2000):『住民基本台帳人口移動報告年報』,11 頁による 出所:石川義孝 2001『人口移動転換の研究』京都大学出版会
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
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郷会と県人会を総称する用語として「同郷団体」を用い,さらに故郷性とでもいえる地 域性(=場所性)を持つ小・中学校(町村部や地方都市の高等学校を含む)の同窓会を 含む用語として「同郷諸団体」という用語を使用する(鯵坂 2005)。
(2)同郷会と県人会,同窓会
同郷会と関連を持つ地方出身者の団体として県人会がある。県人会の歴史はおそらく 同郷会より古く明治初・中期にまでさかのぼり,多くの場合は地方出身の有力な人々を 中心として形成され,それらの有力者のさまざまな力を資源とし,県民意識や旧お国意 識に支えられて運営されてきたと思われる。また,大都市をかかえた東京都,神奈川 県,愛知県,大阪府,京都府,兵庫県の出身者による県人会はないといってよい。活動 としては,多くの県人会が親睦を兼ねた総会や忘年会,会報の発行,地元物産展への出 品,高校野球や全国駅伝の応援などをおこなっている。最近では,地方の一村一品運動 によるまちづくりや出身県への協力などのかたちで出身した県行政との関連も強まる傾 向が見えるが,その一方で若壮年層の参加の減少も見られるようである(祖父江 1971
・亀井 1986)。また,東北地方の各県人会は 2011 年 3 月の東日本大震災による被災に
際して,出身県への支援活動も行っている。
これらの県人会と同郷会・郷友会との関係は,形式上は上部・下部組織の関係にある ものもかなりあるが,県人会とまったく関連を持たない同郷会や,関連を持っても組織 上,名簿上であって,参加者の所属意識や活動運営のあり方には独自性を保っている同 郷会も多いと思われる。つまり,同郷会はもっと細やかで,身近な生活や生業,血縁,
近隣(ムラ)を基礎とした日常的な(そのため女性や子ども,お年寄りの参加も多い)
つながりの結晶なのである。それゆえに,同郷団体を最初に本格的に調査研究した松本 通晴は,集落を基礎とした同郷会・郷友会を同郷団体の原型であるとしている(松本 1994)。
つけ加えれば,小学校や中学校(地方の場合は高校もありうる)の同窓会も同郷的な 結合の結晶の 1 つとなっており,同郷会のメンバーと重なることも多い。これらの同窓 会のクラス会など通常の行事では,男女の役割の差はないか,もしくは女性主導のもの が多いが,伝統のある高校などの同窓会では役員層には中高年の男性がかかわることが 多いと思われる。
(3)初期の同郷団体
筆者の推論では,明治 30 年代までに設立された同郷会の多くは,明治維新後の改革 によって俸禄を失った士族層で東京などに移住した有力者や新しい経済的活動を求めて 東京や大阪に移住した地方の有力商人層を中心とし,主に旧国や郡の範域の出身者で形
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 89
成されたものが多い。これらの中には,それぞれの旧国の藩校を起源とする「中学校」
の卒業生を中心とし,就学のために移住した出身者が多い東京や大阪,京都などの大都 市や最寄りの県庁所在都市で形成されたものがかなりある。その団体のメンバーは大都 市や県庁所在都市に住む出身者だけでなく,もとの地方都市近在に残ったあるいは大都 市より戻った出身者も会員としている場合もあった。これらの人々は大都市に住むもの であれ,在郷しているものであれ,その地方の名士・「エリート」集団であった。後に これらが糾合されて各県人会の核的な組織となった場合もある(祖父江 1971)
筆者が目にしたこれらの事例として,山形県の米沢有為会や奈良県の十津川郷友会
(鯵坂 2009),長野県の上田郷友会(成田龍一 1998),兵庫県の多紀郷友会(奥井亜紗子
2008)などがある。これらは紆余曲折を経て今日まで継続しているものもあるが,私立 三田会(河島真 2011)のように,何らかの事情で持続できなかった団体もある。
(4)近代都市形成以降の同郷団体(同郷会)
明治期を経て,日本の産業資本主義の発展とともに,近代産業に従事する労働者やそ の生活を支える商工自営業者およびその従業者として,多くの人々が大都市や工・鉱業 の発展した新興都市に移住した。これらの就業移動者は,相対的に都市の「中下層」や 不安定就労層を形成した。大正期から昭和以降にこれらの人々により移住先の都市にお いて形成されていった同郷会がある。1980 年代以降に松本や鯵坂,松崎憲三(2002)
らによって調査された多くの同郷会・同郷団体は,これらの都市労働者や都市の自営業 者,都市の中小企業者およびその家族によって形成されたものが多い。
4 同郷団体の研究
(1)都市における同郷的関係の発見
同郷団体・同郷会については,戦前期には柳田國男が「郷友会」と書き(柳田 1929
(1998)),有賀喜佐衛門が「郷党」(有賀 1929(1971))と述べ,宮 本 常 一(1984)が
「郷土人会」といっているように,その存在は日本の「都市社会」の特徴として注目さ れてきた。しかし,社会学や社会諸科学の研究対象としてはほとんどその俎上にあげら れてこなかった。戦後の 1960 年代になって日本政治思想の研究者であった神嶋二郎が 日本文化論を論じる中で,近代日本の群化社会化(マス的状況)のなかでのムラ的状況 を指摘し,擬制村=「第 2 のムラ」の形成(神島 1961)として提起し,同郷団体は社会 諸科学においても注目され始めた。しかし,神島をはじめ社会諸科学では,祖父江の県 人会研究以外には実証的研究は踏み出されないままであった。
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
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(2)松本通晴による同郷団体調査と全国町村調査
農村・地域社会学者であった松本通晴は,1960 年代の京都市西陣地域でのフィール ドワークの中で富山県の利賀村出身者による同郷会である「京都利賀享友会」に出会う
(松本 1968)。利賀享友会は,戦前期に富山県から京都の西陣地区に移住し,ここで撚
糸業に従事していた利賀村出身者により形成された同郷会である。出身者は西陣の産業 においてお互いに助け合いながら,親睦を深め励まし合い,1933(昭和 8)年には大谷 本廟に共同墓をつくり,共同の慰霊行事を行ってきた。終戦直後の 1949 年に同郷的な ネットワークの結晶として「京都利賀享友会」を結成し,また数年後には会館(利賀享 有会館)や会報を発行し,まるで都市の中のムラと思われるような状況を再現してい た。そして,富山県に故郷訪問をおこない,母村である利賀村の人々や利賀村行政とも 密接な関係を維持していた(松本 1970)。
こうしたなかで,松本は旧知の農村社会学者である蓮見音彦からの情報で,兵庫県尼 崎市に鹿児島県の甑島出身者が集住し,そこで多くの同郷会を形成していることを知 る。1980 年初頭から松本の指導のもと筆者を含めた「都市移住研究会」ができ,科学 研究費の助成を得て,尼崎市の甑島出身者による出身集落単位の同郷会の調査と,鹿児 島県の東シナ海に浮かぶ甑島列島の各集落,行政村の役場での調査が行われた。
これらの調査を受けて 1984 年に松本通晴は全国の 2,604 の町村役場に対して,その 出身者が移住先の都市で形成している同郷団体(=同郷会)についての調査をおこなっ ている。この全国町村調査(以後,「町村調査」:(M 調査)と略することがある)によ ると,回答を寄せた全国の町村(52.8%)のうち,出身の故郷を同じくする人々が移住 先の都市で形成している「同郷団体」=同郷会を,集落(自然村)のレヴェル,行政町
・村のレヴェル,あるいはその他のレヴェルで自町村出身者が結成していることを把握 している町村は 43.9% に達していた。さらに松本は,町村役場による回答により明ら かにされた 990 の同郷会の役員に対してアンケート調査を行い,518 団体からの回答を 得ている(松本通晴 1994)。この結果については,一部分しか公表されていないので,
別稿で明らかにしたい。
松本らの一連の研究成果(松本・丸木編 1994)が世に問われた直後に,松本は急逝 してしまい,同郷団体の調査研究は大きな柱を失うことになる。
5 全国市区町村に対する同郷団体調査の経緯
筆者は,松本の全国町村調査を受けて,1995 年夏に全国の市や区(東京都の区)の 役所,町村役場に向けての同郷団体調査を開始した。その意図は,①松本のような町村 役場に対してだけでなく,市や区などのすべての基礎自治体にアンケートをおこなうこ
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 91
とにより,昭和の町村合併により周りの農山漁村部を組み入れていた市部の地域も含め た同郷団体の存在を確認しようとしたこと,②高度経済成長が終わり農村から都市への 移住が急減し,バブル経済を経て農村人口の減少の中で地方から都市への移住者のリク ルートの減少が明白となっていたこの時期の同郷団体の状況を明らかにしようとしたこ とである。
この全国調査を行おうとした端緒は,毎日新聞東京本社が企画紙面「ふるさとかいだ より」で東北 6 県と甲信越 3 県の同郷諸団体の活動の紹介記事を,隔週で本社紙面およ び各県版の紙面でおこなっていることを知り
(5),その記事を入手して同郷団体の普遍的 な存在を確信したからである。そのため,1995 年夏より東北 6 県と甲信越 3 県の市町 村に対して,別紙のようなアンケート調査票(資料 1)と「お願い文」,かつて筆者が 同郷会について書いた小論(鯵坂 1991),返信用封筒を同封して郵送法でおこなった。
資料 1 全国市区町村調査への調査票
同郷団体調査票 95 年〜97 年実施 地域社会研究会
市・町・村 No.
問 1 貴市町村出身者による同郷団体(同郷会や県人会)の有・無をお教えください。
1.有る ──────→ その数は 団体
2.無い
3.わからない・把握していない
問 2 ではその同郷団体についてお教えください。一つだけある場合には A の欄に,二つ以上ある場合
は B・C・D・E の欄にもお書きください。
A
同郷団体名[ ]
・代表者の氏名と住所[氏名 住所 TEL ]
・どの都市圏にあるのですか
1.東京圏に 2.その他の都市圏(具体的な都市名 )
・貴市町村のどの地域の出身者によって結成されているのですか。
1.市町村全域の出身者による 2.市町村域の一部地域の出身者による 3.その他(具体的に )
B
同郷団体名[ ]
・代表者の氏名と住所[氏名 住所 TEL ]
・どの都市圏にあるのですか
1.東京圏に 2.その他の都市圏(具体的な都市名 )
・貴市町村のどの地域の出身者によって結成されているのですか。
1.市町村全域の出身者による 2.市町村域の一部地域の出身者による 3.その他(具体的に )
C
同郷団体名[ ]
・代表者の氏名と住所[氏名 住所 TEL ]
・どの都市圏にあるのですか
1.東京圏に 2.その他の都市圏(具体的な都市名 )
・貴市町村のどの地域の出身者によって結成されているのですか。
1.市町村全域の出身者による 2.市町村域の一部地域の出身者による 3.その他(具体的に )
※D・E は省略 全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
92
その結果として 8 割を超える市町村からの回答があり,意を強くした筆者は全国に向け た調査を行うことにした。調査の対象は膨大であり,費用も労力もかなりのものであ り,さらに職場も移動になったので,調査は以下のように数回に分けておこない,終了 までに 2 年余がかかった。
◇全国調査の経緯
〈広島大学在職時〉
1995 年 7 月 調査票作成
1995 年 8 月 第一次調査(東北)開始,各自治体へ発送
1995 年11月 第一次調査その 2(甲信越)開始,各自治体へ発送
〈同志社大学在職〉
1996 年 8 月22日 第二次調査(北海道,四国,九州・沖縄)開始,各自治体へ発送 1996 年11月 8 日 第三次調査(北陸,中国)開始,各自治体へ発送
1997 年 3 月12日 第四次調査(中部,関西)開始,各自治体へ発送 1997 年 7 月16日 第五次調査(関東)開始,各自治体へ発送 1997 年10月 すべての調査票の回収を終了
(4)1997 年12月 院生・学生の助力を得て調査票の整理・データ入力,解析を開始 1998 年11月以降,日本社会学会,関西社会学会,地域社会学会の大会で報告,大学の 紀要においても幾つかの論考を発表
1999 年より大阪加賀浴友会およびその出身地である石川県小松市・加賀市の周辺集落 の調査実施の開始
2000 年 松本通晴の全国町村調査および同郷団体調査の調査票データの整理入力を開 始
2001 年 6 月13日に『全国調査の手順と集計結果』が完成
2002 年より奈良県十津川村と北海道新十津川町の出身者による同郷会の調査を開始 2005 年 2 月に日本学術振興会の出版助成を得て,『都市同郷団体の研究』(法律文化社)
発刊
2009 年 3 月に同志社大学出版助成を得て,『都市移住者の社会学的研究』(『都市同郷団 体の研究』の増補改題)(法律文化社)発刊
以下では,『全国調査の手順と集計結果』(2001 年 6 月)に基づいて,都市同郷団体 の地域空間構造の実相を明らかにし,本稿の最後に筆者の全国調査によって明らかとな
った 1,890 に及ぶ同郷団体(同郷会)のリストを公表する。
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 93
75 %〜
50 〜 75 % 25 〜 50 % 0 〜 25 %
6 同郷会の地域空間的編成
(1)全国市区町村調査の結果
全国市区町村調査(以後,「市区町村調査」:(A 調査)と呼ぶことがある)は,1995 年の夏から 97 年の秋にかけて全国の 3,255 の市区町村(東京の 23 区を含む,北方領土 のものは含まない)にアンケート調査票(資料 1)を郵送するという方法でおこなわ れ,2,654 の市区町村から回答(回答率 81.5%)を得た。出身者による同郷会(県人会
・同窓会は含まない)が「有る」ことを把握している自治体は 41.5%(市部:30.2%,
町村部:44.6%)であり,町村部を中心にかなりの自治体の出身者が移住先の都市で同 郷会を結成していることが判明した。都市部でも,3 割を超えた市でその出身者が移住 先の都市で同郷会を形成していることが分かった。その理由としては,おそらく町村合 併により元の村や町の区域が市部に編入されていったこと,また地方都市の場合,市と して成立していてもその出身者には同郷的な絆が醸成されていることなどが考えられ
図 2 都道府県別に見た市区町村出身者の同郷会の結成率
出所:鰺坂学,2009,『都市移住者の社会学的研究−『都市同郷団体の研究』増補改題−』法律文化社,p.77 全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
94
1,000 団体 300 100 10 1
る。市区町村の回答によると,本稿の最後に公表するように市町村単位に見ると 1,924 の同郷会が明らかとなった。詳細に点検すると,複数の市町村(p.134 の付表を参照)
にまたがって組織されている同郷会が 25 団体(59 市町村が重複回答)あり,重複数 34 を除くと純粋に 1,890 の同郷会の存在が明らかになったことになる。
同郷会を形成している出身者の地域は偏在をみせており,比率が高いところをあげる と,北海道・東北(青森を除く)・信越,北陸・中国の島根・四国の高知・南九州の諸 県が際立っている(図 2 および鯵坂 2009 参照)。過疎地域指定の市町村と非指定の市区 町村を比較すると,出身者による同郷会の形成が「有り」としているものが過疎地域で
62.7%,非過疎地域では 29.9% であり,より農山漁村的な地域の出身者によって同郷会
が形成されていることが判明した。ただ,非過疎地域でも約 3 割の地域の出身者が同郷 会を結成していることには気をつけておかねばならない。
松本通晴の全国町村調査や筆者による新潟県や石川県の調査,沖縄県八重山地方の出 身者の調査(東京八重山郷友会 1996),石原昌家による沖縄県那覇市における研究(石 原,1986)札幌市教育員会の研究(札幌市教育委員会文化資料室編 1990)などの先行
図 3 同郷会が形成されている都市
出所:鰺坂学,2009,『都市移住者の社会学的研究−『都市同郷団体の研究』増補改題−』法律文化社,p.78
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 95
表 3 同郷会が形成されている都市(圏)
重複あり 重複なし
東京圏 958 944
京阪神都市圏 343 326
中京圏 67 67
その他の道府県庁所在地 358 356
その他の都市圏 119 119
町村 19 19
特に設立地がない・全国に会員がいる 8 8
特定の都道府県内 31 30
N.A. 15 15
外国 6 6
計 1924 1890
表 4 同郷会が形成されている道県庁所在都市など(詳細)
県庁所在都市 その他の都市 町村
札幌市 131
青森市 5
盛岡市 2
仙台市 26
秋田市 6
山形市 3
福島市 3
新潟市 4
金沢市 7
長野市 2
津市 1
鳥取市 1
松江市 6
岡山市 3
広島市 34
徳島市 2
高松市 1
松山市 14
高知市 16
福岡市 16
佐賀市 2
長崎市 12
熊本市 10
大分市 6
宮崎市 7
鹿児島市 23
那覇市 13
重複( )
北海道函館市 5
小樽市 1
旭川市 7
室蘭市 2
釧路市 6
帯広市 9
北見市 2
留萌市 1
苫小牧市 5
稚内市 4
江別市 1
紋別市 1
根室市 2
滝川市江部乙町 1
富良野市 1
伊達市 1
青森県八戸市 1
むつ市 1
宮城県石巻市 1 秋田県大曲市 1
本庄市 1
山形県米沢市 1
鶴岡市 2
酒田市 1
福島県会津若松市 4
原町市 1
群馬県藤岡市 1 埼玉県秩父市 1 福井県勝山市 1 山梨県都留市 1 長野県松本市 2
駒ヶ根市 1
飯山市 1
岐阜県高山市 8
静岡県浜松市 1
沼津市 1
富士宮市 1
浜北市 1
愛知県豊橋市 1 三重県伊勢市 1 和歌山県御坊市 1
新宮市 1
鳥取県米子市 1 島根県出雲市 2 岡山県倉敷市 1 広島県福山市 1 山口県岩国市 1 愛媛県宇和島市 1 福岡県北九州市 2
大牟田市 1
・熊本県荒尾市
田川市 1
長崎県佐世保市 3
島原市 1
大村市 1
大分県佐伯市 1 宮崎県都城市 1
延岡市 3
日向市 1
鹿児島県川内市 1
串木野市 1
名瀬市 2
指宿市 1
沖縄県宜野湾市 1
平良市 1
石垣市 2
名護市 1
石狩町 1
北海道江差町 1 北海道余市町 1 北海道天塩郡 1 北海道美幌町 1 北海道厚真町 1 北海道茅室町 1 福島県三島町 1 北海道豊頃町 1 石川県鶴来町 2 岐阜県明智町 1 岐阜県萩原町 1 岐阜県下呂町 1 岐阜県古川町 1 岐阜県国府町 1 岐阜県神岡町 1 島根県宍道町 1 宮崎県門川町 1
計 356 計 119 計 19
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
96
研究から見ても,実際にはもっと多くの市町村の出身者が移住先の都市で同郷団体を結 成していることが判明している。調査票による郵送調査の限界といえるが,自治体側の 姿勢などにより同郷会の有無の把握がなされていない場合がかなりあると推察される。
出身者が同郷会を結成している都市圏を見てみると,図 3 のように出身した地方によ る差や市部と町村部の違いはあるが,東京を中心とした首都圏(以後,東京圏とする),
京阪神圏と最寄りの道庁・府庁・県庁所在都市が多い。この調査では全国で 1,890 もの 同郷会の存在が確認されたが,その形成されている都市を詳しくみると,表 3・4 のよ うに東京圏に 944,京阪神圏に 326,名古屋圏に 67,地方では札幌市圏に 131,広島市
に 34,仙台市に 26,鹿児島市に 23,高知市・福岡市・那覇市・高松市・長崎市・熊本
市に 10 以上の同郷会が形成されている。また,地方の中小都市や町にも形成されてお り,アメリカなど海外に形成されているとするものも若干あった。
同じ市町村出身者が複数の都市圏に団体を形成している場合がかなりある。表 5 から
表 5 地方別にみた同郷会が形成されている都市
東京圏 京阪神都市圏 都道府県庁所在地 その他 合計
N % N % N % N % N %
北海道 市 部 22 47.8 8 17.4 13 28.3 3 6.5 46 100.0
町村部 83 33.9 − − 116 47.3 46 18.8 245 100.0
東 北 市 部 49 75.4 3 4.6 7 10.8 6 9.2 65 100.0
町村部 197 71.9 3 1.1 41 15.0 33 12.0 274 100.0
関 東 市 部 2 100.0 − − − − − − 2 100.0
町村部 28 87.5 − − − − 4 12.5 32 100.0
甲信越 市 部 40 83.3 3 6.3 3 6.3 2 4.2 48 100.0
町村部 133 81.1 3 1.8 3 1.8 25 15.2 164 100.0
北 陸 市 部 17 47.2 16 44.4 − − 3 8.3 36 100.0
町村部 39 47.0 32 38.6 7 8.4 5 6.0 83 100.0
東 海 市 部 4 50.0 2 25.0 − − 2 25.0 8 100.0
町村部 12 19.7 1 1.6 1 1.6 47 77.0 61 100.0
近 畿 市 部 4 40.0 6 60.0 − − − − 10 100.0
町村部 18 23.4 52 67.5 1 1.3 6 7.8 77 100.0
中 国 市 部 13 56.5 5 21.7 4 17.4 1 4.3 23 100.0
町村部 48 29.1 63 38.2 38 23.0 16 9.7 165 100.0
四 国 市 部 5 62.5 − − − − 3 37.5 8 100.0
町村部 18 22.2 23 28.4 34 42.0 6 7.4 81 100.0
九 州 市 部 36 49.3 18 24.7 9 12.3 10 13.7 73 100.0
町村部 172 45.6 95 25.2 70 18.6 40 10.6 377 100.0
沖 縄 市 部 5 45.5 3 27.3 2 18.2 1 9.1 11 100.0
町村部 13 37.1 7 20.0 9 25.7 6 17.1 35 100.0
注:N(団体数),%(パーセント)(市町村で重複する団体を含む)
出所:鯵坂学,2009,『都市移住者の社会学的研究−『都市同郷団体の研究』増補改題−』法律文化 社,p.79
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 97
わかるように,北海道の町村部,東北・甲信越の市部および町村部では,東京圏と道庁
・県庁所在地に主に団体を形成し,2 拠点構造を示している。東海は「その他」に含ま れる名古屋圏にかなりの集積をみせている。北海道の市部,北陸・近畿・中国の市部お よび町村部,四国の町村部,九州・沖縄の市部および町村部では,東京圏,京阪神圏,
道庁・府庁・県庁所在都市に同郷会を形成しており,3 拠点をもつものがかなりある。
また,北海道・東北・甲信越・九州の町村部では,これら以外の地方中心都市にも同郷 会が形成されていることは大変に興味深い。
以上のように見ると,松本の町村調査の結果と筆者による市区町村調査の結果は基本 的に一致するといえるが,最寄りの地方中小都市や町にも同郷会が形成されている事例 が一定あることは,その歴史的ローカリティを想像させて興味深い。
(2)全国市区町村調査(鯵坂)と全国町村調査(松本)により明らかとなった同郷会の 関係
本稿の最後に載せた全国市区町村調査(A 調査)により判明した同郷会と,松本が 行った全国町村調査(M 調査)により判明した同郷会との対応関係を対照してみた。
M 調査は 1984 年現在の 2,604 町村に対しておこなわれたが,A 調査では 2,566 の町村 と 668 の市区の合計 3,255 が対象として調査がなされている
(6)。M 調査の時点から A 調査の時点に約 11 年から 13 年の隔たりがあることにより,その間に町村合併により市 になったり,人口増のため町から市へ昇格したり,村から町になったりした自治体もあ り,合計で 38 の町村(町:7,村:31)が減少していることが判明した。そのため,A
図 4 全国市区町村調査(鰺坂)と全国町村調査(松本)による同郷会の対照関係 全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
98
調査と M 調査のカバーした町村の範囲は異なるところがある。そのことも配慮して作 られたのが図 4 である。これにもとづくと,A 調査と M 調査の両方で回答を得た町村 で判明した 732 の同郷会の内,469 団体(62.7%)が,M 調査が把握した団体と A 調 査のそれとはおおよそ同じであると推察され,248 団体(33.8%)が M 調査のものと A 調査のそれとは一致しないと判断された。
これは何を意味しているのであろうか。一つは,12 年の間に休止,解体してしまっ たものが一定あった一方で,新たに結成されたものもかなりあったということ。二つ目 に,調査票に回答した町村役場の担当者が変わり,その担当者の同郷団体に対する「認 知」「認識」にかなりの差異があった,ということであろうか。なお,鯵坂調査では多 くの町村から回答が得られたために,862 団体もの新たな同郷会が発見され,同郷団体 の普遍的な存在がさらに明らかとなったことも確認しておきたい。
7 おわりに
二つの全国調査に基づき同郷会の状況を検討してきたが,地方出身者とくに就業移動 により大都市圏に移住してきた人々にとって,同郷的関係とその結晶としての同郷会 は,都市での生き抜き・定住のためのリゾーム,インキュベーターの 1 つとなってきた のではないだろうか,と考えられる。また,松本調査との対照から,同郷団体の普遍的 な存在が一層確信できた。高度経済成長期の後半に結成された会や,70 年代から 80 年 代に活動のピークを迎えた団体も多く,都市化とともに同郷的関係が弱まるのではな く,強化された面があることも確認された。これらの人々は,一方では居住する都市に おいてさまざまな近隣関係を持ち,地域集団や職場集団のなかでも活動をおこなってい るのが現状であろう。これらの活動,近隣関係,職場関係のあり方に,同郷会や県人会 での経験が何らかのかたちで影響しているかもしれない。
なお,これらの都市移住者によるネットワーク形成や同郷団体の存在を確認すること で,近代・現代における都市化や都市社会形成の過程を,L. ワースを代表とするシカ ゴ学派の見解であるアーバニズム論(都市性・都市的生活様式の一方的展開や浸透,第 2 次的な関係の優位,コミュニティの解体)とは異なる視点から提起できるのではない か,ということがある。「都市社会は空間的には密接であるが,社会的には疎遠ではあ る」というシカゴ学派のテーゼは,「都市社会は空間的には密接であるが,社会的には 疎遠な傾向を持つ。しかし,他方で都市を生き抜いていくために,様々な新たなネット ワークが形成されるとともに,都市移住する前のムラ的な人間関係も利用され,生かさ れている」と修正すべきであろう。近代的・現代的な都市化における都市と農村の「相 互」浸透の位相を見ておく必要があるのである。
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 99
筆者のそれ以降の調査でも,京阪神圏には多くの地方の出身者が同郷団体を結成して いることが判明している。また,東京都だけでなく大阪府にも全国のほとんどの地方の 県人会が結成されており,この事務局が各県の大阪事務所におかれていることもわかっ ている。さらに最近の研究成果では,大阪都市圏の在日朝鮮・韓国人のなかにも同郷会 や宗親会[高,1998;伊地知,2000]がつくられ,活発に活動していることが明らか にされている。ただ,地方からの移住者が減少し,同郷団体の会員も高齢化にみまわ れ,二世三世の参加も少なく,その活動の停滞がいわれるものも増えてきている。
一方で,近年研究が進んでいる中国人や韓国人,アフリカ系の人々,日系ブラジル人 やペールー人などの新外国人移住者についてもみても,諸社会の出身者のネットワーク やエスニック・ビジネスが形成されていることが明らかとなっている。同郷団体は移住 と定住,都市−農村関係だけでなく,エスニシティ研究にも関連を持っているといえよ う。
最後に,1999 年からの平成の町村合併の嵐により,1995 年 4 月に 3,255 あった市区 町村は 2012 年 3 月現在で,1,700 までにほぼ半減した。特に過疎の深刻化により限界集 落も増え(鯵坂 2011),それらを基礎としていた村は激減し,町も減少してもよりの市 に合併され,新たな市は多くの農村部を含んだ広域的な自治体となった。こうして,昭 和に出来た多くの同郷会は,寄るべき集落と村や町を喪失した。一方で,東日本大震災 のような農山漁村地域を中心とした災害では,大都市圏に移住した出身者による支援が まだ生きていることも確認されている。
本稿の最後に「全国市区町村調査(鯵坂)による同郷会リスト」を掲載することによ り,明治・大正・昭和にわたって移住先の都市・地域において形成され活動してきた同 郷団体(同郷会)の普遍的存在を確認したい。
注
⑴ 1953 年施行の昭和の大合併により町村部分を合併させて市に昇格した地域もあるので,行政的な意味 での市部を「都市」,町村部(郡)を「農村」とすることには注意が必要である。そのため,60 年以 降は人口集中地区(DID)という概念で統計も取られている。また 2000 年前後に始まった平成の大合 併により,市部を「都市」とする指標はますます地域の実態を表さないことになっている。
⑵ 戦前期の人口移動は,初期には北海道への移住(北海道)や,次いで朝鮮半島や台湾,樺太南部,中 国東北部(旧「満州」),ハワイ・北米,南米,アジアへの移住や(蘭信三 2008)などもかなりの数に 上っており,移住が農村から都市への方向の移住ばかりでないことにも気を付けておく必要がある。
⑶ この論点については,蘭 由岐子(蘭 由岐子 1994)を参照のこと。
⑷ それぞれの調査票郵送時は,それぞれの時点で既に出版されている年度版の『全国市町村要覧』を参 照し,対象役場・役所を確認した。
⑸ 伊藤敏安(現 広島大学教授)氏からの情報であったと記憶している。
⑹ 鯵坂の全国市区町村調査は 2 年余にわたって行われたため,この間に市と町が 3 ずつ合計で 6 つ増え,
村が 6 つ減少している。
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
100
参照文献
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全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 101
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奥井亜紗子,2008,「篠山市の同郷団体と『郷土』意識」浅野慎一ほか編『京阪神都市圏の重層的成り立ち
−ユニバーサル・ナショナル・ローカル』昭和堂
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札幌市教育委員会文化資料室編,1990,『さっぽろ文庫 54 県人会物語』北海道新聞社.
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関 孝敏,1994,「『都市移住とファミリズム』(Ⅱ)──合衆国におけるアパラチア地域研究を通じて」
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────,2009,『家族と都市移住』古今書院.
徳野貞雄,2008,「農山村振興における都市農村交流,グリーン・ツーリズムの限界と可能性──政策と実 態の狭間で」日本村落研究学会編『年報 村落社会研究』農山漁村文化協会,43.
*修正(『都市移住者の社会学的研究』掲載の文献リストの間違い)
関 孝敏,2008,「都市移住をめぐる諸問題──社会学的意味に注目して」『北海道大学文学研究科紀要』
北海道大学,125.
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果
102
全国市区町村調査(鰺坂)による同郷会のリスト
都 道 府県
団体
コード 自治体名 団体名 代表者居住地 所在の都市圏(詳細)
M調査で の自治体 の回答
M調査で
の同一団 体の有無
M調査における 団体名 北
海 道
0001函館市 北海道道南会 東京都杉並区 東京圏 0002函館市 函館をおもう会 大阪市 大阪市 0003函館市 宮城県函館臥牛会 仙台市 仙台市 0004函館市 名古屋「函館をおもう会」 愛知県尾張旭市 名古屋 0005函館市 博多五稜会 福岡市 福岡市 0006函館市 岩手巴会 岩手県盛岡市 盛岡市 0007小樽市 東京小樽会 東京都渋谷区 東京圏 0008小樽市 関西小樽会 大阪市 大阪市 0009旭川市 東京旭川会 東京都新宿区 東京圏 0010旭川市 関西旭川会 大阪市 大阪市
0011室蘭市 関西室蘭会 大阪市 関西(大阪市,神戸市,京都 市,堺市,明石市,豊中市他)
0012室蘭市 東京室蘭会 東京都中央区 東京圏 0013釧路市 在京釧路会 東京都千代田区 東京圏 0014帯広市 東京帯広会 未記入 東京圏 0015帯広市 関西帯広会 未記入 関西圏(大阪市)
0016北見市 東京北見会 東京都新宿区 東京圏 0017北見市 札幌北見会 札幌市 札幌市 0018北見市 関西北見会 神戸市 大阪圏 0019夕張市 東京夕張会 東京都渋谷区 東京圏 0020夕張市 札幌ゆうばりの会 北海道江別市 札幌市近郊 0021網走市 東京網走会 東京都北区 東京圏 0022網走市 札幌網走会 札幌市 札幌市 0023留萌市 東京「留萌の会」 東京都千代田区 東京圏 0024苫小牧市 東京とまこまい会 東京都千代田区 東京圏 0025美唄市 東京美唄会 東京都世田谷区 東京圏 0026美唄市 札幌美唄会 札幌市 札幌市 0027美唄市 江別美唄会 北海道江別市 江別市 0028紋別市 東京紋別会 東京都 東京圏 0029紋別市 札幌紋別会 札幌市 札幌市 0030名寄市 東京なよろ会 東京都小金井市 東京圏 0031名寄市 札幌なよろ会 札幌市 札幌市 0032三笠市 東京三笠会 千葉県松戸市 東京圏 0033三笠市 札幌三笠会 札幌市 札幌市 0034根室市 根室会 神奈川県厚木市 東京圏 0035根室市 札幌根室会 札幌市 札幌市 0036根室市 在釧根室会 北海道釧路市 釧路市 0037滝川市 東京滝川会 東京都港区 東京圏 0038砂川市 東京砂川会 東京都千代田区 東京圏 0039歌志内市 札幌歌志内会 札幌市 札幌市 0040深川市 東京深川会 東京都目黒区 東京圏
0041深川市 関西深川会 大阪府守口市 大阪市を中心とする関西地区 0042富良野市 東京ふらの会 東京都千代田区 東京圏
0043登別市 東京登別げんきかい 東京都町田市 東京圏 0044伊達市 札幌伊達会 札幌市 札幌市 0045伊達市 東京伊達会 千葉県流山市 東京圏 0046伊達市 関西伊達会 大阪府堺市 大阪市
0047石狩町 東京石狩会 千葉県松戸市 東京圏 2
0048松前町 東京地方松前会 神奈川県海老名市 東京圏 1 ○ 東京松前会
0049松前町 さっぽろ松前会 札幌市 札幌市 1 ⊖ 札幌松前会
0050松前町 さっぽろ小島会 北海道広島町 札幌市 1 ×
0051松前町 さっぽろ大島会 札幌市 札幌市 1 ×
0052松前町 函館松前会 北海道函館市 函館市 1 ◎ 函館松前会
0053松前町 釧路松前会 北海道釧路市 釧路市 1 ×
0054知内町 知内ふるさと東京会 千葉県習志野市 東京圏 2 0055知内町 知内ふるさと札幌会 北海道広島町 札幌市 2
0056木古内町 東京木古内会 神奈川県座間市 東京圏 1 ×
0057木古内町 札幌木古内会 札幌市 札幌圏 1 ○ 木古内札幌会
0058上磯町 東京上磯会 神奈川県逗子市 東京圏 1 ×
0059上磯町 さっぽろ上磯会 札幌市 札幌市 1 ⊖ 札幌上磯会
0060七飯町 東京ふるさと七飯会 東京都多摩市 東京圏 2
0061恵山町 根室郷友会 北海道根室市 根室市 1 ○ 根室尻岸内郷友会
0062南茅部町 室蘭南茅部友の会 北海道室蘭市 北海道室蘭市 9
0063砂原町 茅部会 埼玉県志木市 東京圏 9
全国市区町村にたいする同郷団体調査(1995〜1997 年)の結果 103
都 道 府県
団体
コード 自治体名 団体名 代表者居住地 所在の都市圏(詳細) M調査で の自治体 の回答
M調査で
の同一団 体の有無
M調査における 団体名 北
海 道
0064砂原町 砂原会 札幌市 札幌市 9
0065森町 東京森会 未記入 東京圏 1 ?
0066森町 札幌森会 未記入 札幌市 1 ◎ 札幌森会
0067長万部町 札幌長万部会 札幌市 札幌市 2
0068長万部町 東京・ふるさと長万部会 東京都北区 東京圏 2
0069江差町 江差同郷会 札幌市 札幌市 1 ◎ 江差同郷会
0070江差町 東京江差会 東京都杉並区 東京圏 1 ×
0071上ノ国町 札幌上ノ国町人会 札幌市 札幌市 1 ○ 上ノ国町人会
0072上ノ国町 江差上ノ国同人会 北海道江差町 北海道檜山郡江差町 1 × 0073上ノ国町 上ノ国鉱山会 北海道函館市 北海道函館市 1 ×
0074乙部町 東京おとべ会 千葉県流山市 東京圏 1 ×
0075乙部町 さっぽろ乙部会 札幌市 札幌市 1 ×
0076乙部町 根室乙友会 北海道根室市 根室市 1 ×
0077乙部町 はこだて乙部町親交会 北海道函館市 函館市 1 ○ 乙部町親交会
0078熊石町 札幌熊石会 札幌市 札幌市 1 ◎ 札幌熊石会
0079熊石町 釧路熊石会 北海道釧路市 釧路市 1 ×
0080大成町 東京久遠会 千葉県船橋市 東京圏 9
0081大成町 札幌大成会 札幌市 札幌市 9
0082奥尻町 東京奥尻会 東京都渋谷区 東京圏 9
0083奥尻町 札幌奥尻会 札幌市 札幌市 9
0084奥尻町 函館奥尻会 北海道函館市 函館市 9
0085瀬棚町 サッポロ瀬棚三杉会 札幌市 札幌市 1 ○ 札幌・瀬棚三杉会
0086瀬棚町 東京瀬棚会 神奈川県大和市 東京圏 1 ×
0087今金町 さっぽろ今金会 札幌市 札幌市 2
0088寿都町 東京寿都の会 横浜市 東京圏 1 ◎ 東京寿都の会
0089寿都町 札幌寿都会 札幌市 札幌市 1 ◎ 札幌寿都の会
0090寿都町 さっぽろ磯谷会 札幌市 札幌市 1 ×
0091寿都町 札幌歌棄会 札幌市 札幌市 1 ×
0092寿都町 函館歌棄会 北海道函館市 函館市 1 ◎ 函館歌棄会
0093黒松内町 札幌黒松内会 札幌市 札幌 1 ◎ 札幌黒松内会
0094黒松内町 熱郛会 札幌市 札幌 1 ×
0095蘭越町 札幌磯谷会 札幌市 札幌市 1 ×
0096蘭越町 蘭郷志会 札幌市 札幌市 1 ×
0097蘭越町 目名会 札幌市 札幌市 1 ×
0098留寿都村 羊蹄山麓会 東京都新宿区 東京圏 1 ◎ 羊蹄山麓会
0099喜茂別町 札幌喜茂別会 札幌市 札幌市 9
0100喜茂別町 室蘭喜茂別会 北海道室蘭市 室蘭市 9
0101倶知安町 さっぽろ倶知安会 札幌市 札幌市 1 ×
0102共和町 東京ふるさと共和会 東京都東村山市 東京圏 2
0103共和町 札幌ふるさと共和会 札幌市 札幌市 2
0104岩内町 東京ふる里岩内会 埼玉県大宮市 東京圏 9
0105岩内町 札幌岩内会 札幌市 札幌市 9
0106神恵内村 札幌神恵内会 未記入 札幌市 1 ◎ 札幌神恵内会
0107神恵内村 札幌珊内会 未記入 札幌市 1 ○ 珊内会
0108神恵内村 東京神恵内会 未記入 東京圏 1 ×
0109積丹町 札幌しゃこたん会 札幌市 札幌市 3
0110余市町 東京余市会 東京都港区 東京圏 1 ◎ 東京余市会
0111北村 東京北村会 東京都中野区・[事]
千葉県大原町
東京圏 2
0112奈井江町 札幌奈井江会 札幌市 札幌市 1 ×
0113奈井江町 東京奈井江会 埼玉県越谷市 東京圏 1 ◎ 東京奈井江会
0114由仁町 東京由仁会 東京都足立区 東京圏 1 ○ 由仁会〔東京〕
0115由仁町 札幌由仁会 札幌市 札幌市 1 ○ 由仁会〔札幌〕
0116長沼町 東京ふるさと長沼会 横浜市 東京圏 2
0117長沼町 札幌ふるさと長沼会 札幌市 札幌市 2
0118浦臼町 東京浦臼会 東京都台東区 東京圏 1 ×
0119新十津川町 新十津川望郷会 北海道砂川市 札幌市,砂川市,滝川市,美 唄市,深川市等
9
0120秩父別町 札幌秩父別会 札幌市 札幌市 1 ○ 秩父別会
0121秩父別町 東京秩父別会 川崎市 東京圏 1 ×
0122雨竜町 東京雨竜会 東京都町田市 東京圏 1 ×
0123雨竜町 札幌圏雨龍人会 札幌市 札幌市 1 ○ 札幌雨竜会
0124雨竜町 江部乙町雨竜会 北海道滝川市 滝川市江部乙町 1 ×
0125北竜町 さっぽろ北竜会 札幌市 札幌市及びその近郊 1 ⊖ 札幌北竜会
0126沼田町 東京沼田会 東京都港区 東京圏 1 ×
0127沼田町 札幌沼田会 札幌市 札幌市 1 ○ 沼田会