情報移転と人材の活用がもたらす効果を中心に
著者 宮本 大
雑誌名 經濟學論叢
巻 66
号 4
ページ 763‑781
発行年 2015‑03‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/00027461
【研究ノート】
研究開発拠点の海外展開と 企業のイノベーション
*―情報移転と人材の活用がもたらす効果を中心に―
宮 本 大
1 は じ め に
2000年代に入り,少子高齢化が進み国内市場の拡大が見込めない一方で,
新興国市場は拡大し,日本企業はより一層の海外展開が求められるようになっ ている.それゆえ,日本の製造業はグローバル市場において,技術力を高め,
イノベーションを興し海外の需要を取り込んでいくことが必要となっている.
このような背景のもと,日本においてもグローバル研究開発の方法やマネジ メントに関する研究が行われるようになっている.岩田(2007)によると,企 業の研究開発拠点の海外展開に関する研究は,海外展開の実態把握から始ま り,活動内容の検討,海外展開に影響を与える要因の研究,海外拠点の管理 体制の考察,さらには研究開発拠点の海外展開の成果に関する検討などが行 われてきた.海外拠点の管理体制の考察までは国内外を含め非常に多くの先 行研究が蓄積されているが,成果研究については特許や海外から本国への情 報移転を成果の指標とし,それらと海外展開とを直接結びつけ検討するに留 まるものが多く,その間に介在する,たとえば,戦略的プロセスや組織的メ
* 本研究はJSPS科研費 24330130の助成を受けたものです.
カニズムは十分に検討されているとはいえないこと,さらには日本企業を対 象とした研究が不足していることが指摘されている.
そこで本研究では,企業調査データを利用して研究開発拠点の海外展開が どのような経路を通じて成果へとつながるのかを,企業の戦略的な取り組み や組織の人材マネジメントのあり方を考慮して検討する.本研究の構成は以 下の通りである.次節では,本研究の分析枠組みと検証仮説を議論し,3節 では分析に利用するデータの特徴を説明した後,仮説を検証していく.最後に,
本研究の知見をまとめる.
2 本研究の分析枠組みと検証仮説
ここでは企業の研究開発活動の海外展開と企業成果について考察した先行 研究をレビューすることを通じて本研究で検討するポイントを議論する.
まず林(2002)は,日米欧企業を対象として特許や科学技術論文のデータベー スを利用して,研究開発の展開地域と特許や科学技術論文といった技術成果 との関係について検討している.主要な知見としては,日本企業による海外 での研究開発活動は,アジアにおいてよりもアメリカやイギリスにおいてよ り成果へとつながること,アジアでの研究開発活動は技術成果にまでつなが る傾向が弱いことなどが確認されている.またこうした特許や論文といった 成果指標だけでなく,海外子会社から本国親会社への逆技術移転を海外展開 の成果とみなして検討を行った研究もある(Håkanson and Nobel, 2000; Gupta and
Govindarajan, 2000など).これら先行研究の共通した知見として,欧米拠点から
の逆移転はアジア拠点からの逆移転を大きく上回ることが明らかにされてい る.つまり,こうした先行研究の知見から海外拠点の設立地域によって親会 社のイノベーションに違いが生じるとことが明らかにされている.この点に ついては,本研究のデータから確認できるかを次節で検証する.
このように研究開発拠点の地域別の違いが企業のイノベーションの差異に 影響していることは明らかにされているが,その理由についての検討は十分
であるとはいえない(岩田,2007;浅川,2011など).また浅川(2011)によると,
これまでの先行研究における技術や知識の逆移転を企業の研究開発活動の海 外展開の成果とするには不十分であり,最終的に逆移転がどのようにイノベー ションを創出するのかが検討されるべきと指摘するとともに,世界中に点在 するナレッジを素早くかつ適切に認知・アクセスし,それを国内拠点に移転・
活用することが重要との観点から,逆移転を促す研究開発拠点のグローバル ネットワークの構築と,国内拠点に集積される情報を組織の共有知として活 用する能力構築を組み合わせた分析フレームワークを提示し,研究開発拠点 の海外展開がイノベーション(成果)へと至る道筋を描いている(第 1 図分析 フレームワークの概要参照).
この枠組みを利用した検証点を説明して行こう.浅川(2011)によると,効 果的なネットワークの構築について,海外拠点が入手する現地の技術や知識 といった情報は,特有の暗黙知や文脈知といった状態で現地コミュニティー に埋め込まれているケースがあり,その入手には現地コミュニティーに深く 入り込む必要がある.また,こうしたネットワークの構築には親会社からの
北米
欧州
アジア
国内
研究開発成果
(特許,新製品)
②集積情報の活用 能力構築
①ネットワーク構築
第 1 図 分析フレームワークの概要
注) 浅川(2011)の議論をもとに著者が作成.ネットワーク構築の小さい○部分は現地の企業や研 究機関など現地におけるネットワークを示す.
指示といった制約が妨げになることがあるという.つまり現地情報の入手に 際し,効果的な現地の情報収集ネットワークづくりには,現地コミュニティー に深く入り込める人材の登用や企業や研究機関との提携などに関して,現地 拠点に必要な権限・裁量を与えることが重要になると考えられる.
次に,海外拠点から集積した情報を活用する組織能力の構築について,研 究開発拠点のグローバルネットワークを通じて国内親会社が入手した情報を イノベーションへとつなげるためには,現地特有の暗黙知や文脈知などのナ レッジを国内拠点内で活用可能な情報へと変換する能力が必要となる.こう した情報の活用には三つの能力があるとされ,一つは,現地特有のナレッジ のよさを失わないよう社内の共有知へと変換する能力,二つ目は,変換した ナレッジを既存のものと組み合わせる能力,三つ目は,新たなナレッジの活 用を顕在化する能力であると指摘する.
このような能力を組織に持たせるためにはどうすればよいのであろうか.
一つの方向性として海外派遣経験者の活用が考えられる.白木(2006)による と,一般的に海外派遣経験者は,派遣先において現地の技術や知識を習得し,
本国拠点へ移転すること,現地と本国拠点との調整,現地において人的ネッ トワークの構築などの業務が課せられている.そして帰国後,派遣先の状況 に通じた人材として本国企業とのパイプ役としての活躍が期待されていると いう.ただし海外派遣経験者がいればよいわけではなく,海外派遣から帰国後,
本国拠点で海外経験がうまく活用されていない経験者もおり,海外派遣から の帰国後の活用状況が重要となる(内藤,2012).つまり,こうした海外派遣 経験者をうまく活用している企業ほど海外拠点から集積した情報を活用する 組織能力が構築され,その結果,イノベーションにつなげることができると 考えられる.また,国内拠点において外国人をうまく活用している企業も海 外から集積される情報を国内拠点のイノベーションにつなげることができる かもしれない.この点についても検討する.
以上の議論より,本研究ではこの分析フレームワークに沿った以下の仮説
を立て,それらを検証していく.
H1 : 研究開発拠点をアジアに展開している企業より欧米に展開している 企業のほうが,多くの成果を生み出している.
H2 : 海外拠点に対して研究開発活動に関わるHRMや提携先選定などに裁 量を与えている企業ほど,逆移転を通じた情報入手が多くなる.
H3a: 国内拠点において海外派遣経験者をうまく活用している企業ほど,
情報移転をより効果的に成果につなげている.
H3b: 国内拠点において外国人技術者をうまく活用している企業ほど,情 報移転をより効果的に成果につなげている.
3 分 析
3. 1 使用データとその特徴本研究で利用するデータは,科学研究費基盤研究(B)「多国籍企業におけ る人材の国際移動によるイノベーション」において,グローバル研究開発の 方法やマネジメントについて実態を把握し,成果を高めるマネジメントのあ り方を検討するために実施した企業アンケート調査の回答結果を利用してい る.この調査は2013年に研究開発を行う海外現地法人をもつ日本企業727社 に郵送し,53社から有効回答を得た.ただし有効回答とは別に38社から海 外拠点がないとの回答があり、それらを除く689社に対する回収率は7.7%で あった1).
このデータを利用して,分析対象企業における研究開発拠点の海外展開の 状況をみていこう.この調査では,研究開発拠点の拠点数という量的情報の ほかに,海外展開地域や最も重要(以下,主要)な研究開発拠点がどこに設置 されているかがわかる.まず拠点数の平均値をみると,国内の研究開発拠点 は3.58拠点,一方,海外の研究開発拠点総数は5.00拠点と海外のほうが多く,
1) 基本統計は巻末の付表を参照.
回答企業における研究開発の海外展開が進んでいることが伺える(第 1 表参 照).次に地域別の拠点数をみると,北米が1.40拠点,欧州が1.10拠点,そ してアジアが最も多く2.29拠点となっている.しかし主要拠点の地域分布を みると,割合が最も高いのが北米で53社中,半数近くの47.2%となり,欧州 は11.3%,アジアは41.5%であった(第 2 表参照).
3. 2 研究開発拠点の地域と企業成果との関係
ここでは先述した仮説H1を検討する.まず研究開発拠点の地域指標は第 1表に示した地域別拠点数と第2表に示した主要拠点の地域情報を利用する.
具体的には前者は拠点数,後者は地域ダミー変数(基準はアジア拠点)である.
また企業成果の指標として2012年度の国内拠点全体における新製品(新型モ デル含む)のリリース件数と特許出願総数を対数変換したものを利用した2).
2) 新製品リリース件数および特許出願数が0の企業が存在するためすべての企業に1を加算し
て対数変換を行った.
度数 最小値 最大値 平均値 標準偏差
国内拠点数 48 1 20 3.58 3.67
北米拠点数 52 0 9 1.40 1.64
欧州拠点数 52 0 6 1.10 1.33
亜州拠点数 52 0 17 2.29 2.73
その他拠点数 52 0 2 0.21 0.54
海外拠点総数 52 1 32 5.00 5.35 第 1 表 研究開発拠点の基本統計
度数 %
欧州 6 11.3
北米 25 47.2
アジア 22 41.5
合計 53 100
第 2 表 主要研究開発拠点の地域分布
検証の手順として,まず地域指標と成果指標との相関関係をチェックし,そ の後,成果指標を従属変数,地域情報を独立変数,その他必要と考えられる 属性をコントロール変数として重回帰分析を実施した.
まず相関関係からみていくと,新製品リリースはいずれの地域指標とも有 意な相関は確認できなかった(第 3 表参照).一方,特許出願数は北米の拠点 数および主要拠点ダミーと正の相関が,さらにアジア主要拠点ダミーと負の 相関が確認できた.次に,第 4 表の重回帰分析の結果をみると,まず新製品 リリースはやはりいずれの地域指標において効果は確認できなかった.しか し特許出願数は北米主要拠点企業ダミーにおいて正の効果が検出された.つ まりアジア主要拠点企業に比べ,北米主要拠点企業ほど特許出願数が多いと いうことである.
以上の検討より,企業の新製品リリースは海外拠点の地域間による違いは 見いだせなかったが,特許出願数においては,アジア拠点よりも北米拠点に
第 3 表 相関関係(地域と成果)
対数値 新製品数 特許出願数 北米拠点数 0.205 0.575 **
40 42
欧州拠点数 0.124 0.583 **
40 42
アジア拠点数 0.021 0.166
40 42
北米主要拠点D 0.152 0.464 **
40 42
欧州主要拠点D 0.189 -0.08
40 42
アジア主要拠点D -0.254 -0.417 **
40 42
注)** p<0.01
上段:相関係数,下段:標本数
研究開発拠点を設置している企業ほど高い成果を生み出しており,先行研究 の知見とおおむね整合的である.このことからH1は本研究データからもあ る程度支持できるといえよう.
3. 3 海外拠点から日本国内への情報移転と海外拠点の裁量の関係
ここではH2について,海外拠点に対して研究開発活動に関わるHRMや提 携先選定などに裁量を与えている企業ほど情報の逆移転が多くなるのかを検 討する.
まず海外拠点を通じた情報移転についてみてみよう.アンケート調査では 過去1年間に主要拠点から日本へ10項目の情報移転の頻度について3点尺度
(1 まったくない,2 たまにある,3 よくある(月一以上))で聞いている.10項目の うち現在の研究開発活動において現地コミュニティーや拠点内にアクセスし なければ入手できない情報とみなせる5項目(「市場の製品・技術ニーズ」「会社
第 4 表 地域別海外拠点と成果との関係
注)** p<0.01,* p<0.05,+p<0.1
新製品リリース数(対数) 特許出願数(対数)
coef. s.e. coef. s.e. coef. s.e. coef. s.e.
機械製造業D 1.717 0.598 ** 1.464 0.593 * 0.453 0.387 0.382 0.366 従業員(対数) 0.250 0.201 0.209 0.201 1.162 0.130 ** 1.139 0.120 **
研究開発者率 4.166 2.150 + 4.518 2.213 * 1.657 1.258 1.926 1.193 北米拠点数 0.581 0.441 0.205 0.290
欧州拠点数 -0.849 0.557 0.168 0.297 亜州拠点数 -0.252 0.163 -0.042 0.116
北米主要拠点D 0.123 0.630 0.737 0.387 + 欧州主要拠点D 1.222 1.304 -0.595 0.683 海外拠点総数 -0.085 0.058 0.060 0.033 +
N 34 34 37 37
Adjusted R2 0.302 0.258 0.777 0.802
F-value 3.448 2.974 22.534 25.944
独自の研究開発方法」「研究開発内容にかかわる知識・技術」「社外から吸収した知識・
技術」「研究開発の進捗状況」)を取り上げた.因子分析をしたところ因子は一つ しか存在しなかったためその因子得点を情報移転量とする.なお、これら5 項目の回答に関する信頼係数αは0.825であり、数値が大きいほど情報移転 量が大きくなるとみなす.
次に海外拠点の裁量については,主要な海外拠点において,HRMに関する 3項目(「研究開発者の採用方針や基準の決定」「研究開発者の育成の方針決定や実施」「研 究開発者の人事評価・処遇の方針決定や運用」),対外ネットワーク構築に関する2 項目(「現地サプライヤー,提携先,共同研究先の選定」「日本以外の他拠点との連携 の実施」)を5点尺度(1 裁量がない,…,5 裁量がある)で聞いている.これら5 項目を因子分析にかけたところ,項目内容通りにHRMに関する裁量と対外 ネットワーク構築に関する裁量の二つの因子が抽出され,それぞれの因子得 点をHRM裁量指標,ネットワーク裁量指標とする.なお、これら5項目の 信頼係数αは0.799であり、数値が大きいほど海外拠点の裁量が大きいとみ なす.
検証の手順として,まず情報移転量と二つの裁量指標との相関関係をチェッ クし,その後,情報移転量を従属変数,裁量変数を独立変数,その他必要と 考えられる属性をコントロール変数として重回帰分析を実施した.
まず相関関係からみていくと,海外拠点における研究開発者の採用・育成・
評価処遇といったHRMの裁量と情報移転量との間に有意な相関関係は見い だせなかったが,海外拠点がどんな企業と提携するか,どんなサプライヤー を選定するかについてのネットワーク裁量は情報移転量と正の相関が検出さ れた(第 5 表参照).次に,第 6 表の重回帰分析の結果をみると,情報移転量 に対して,HRM裁量,ネットワーク裁量ともに有意な効果は検出されなかっ た.ただし地域間の差異,とりわけ北米とアジアには明確な差異があり,ア ジア拠点よりも北米拠点に多くの海外拠点をもつ,もしくは主要拠点がアジ アの企業よりも北米の企業のほうが多くの情報移転を行っていることが示さ
れた.この地域間の違いは先述した逆移転に関する先行研究の知見と整合的 であり,H1をサポートする結果である.
こうした情報移転量の地域間格差の結果の背景として,拠点の地域別設立 理由と海外拠点から国内拠点へ移転される情報の地域間格差を見ておこう.
第 5 表 相関関係(情報移転と裁量)
第 6 表 情報移転と裁量の関係 情報移転量
HRM裁量 0.020
50 ネットワーク裁量 0.282 *
50 注)* p<0.05
上段:相関係数,下段:標本数
注)* p<0.05,+p<0.1
情報移転量
coef. s.e. coef. s.e.
機械製造業D -0.046 0.349 -0.039 0.337 従業員(対数) 0.164 0.101 0.134 0.091 研究開発者率 1.718 0.948 + 1.666 0.923 + 北米拠点数 0.426 0.179 *
欧州拠点数 -0.110 0.196 亜州拠点数 -0.225 0.077 *
北米主要拠点D 0.753 0.282 *
欧州主要拠点D 0.664 0.459
海外拠点総数 -0.014 0.026
HRM裁量 -0.243 0.195 -0.247 0.190 ネットワーク裁量 0.160 0.204 0.126 0.196
N 41 41
Adjusted R2 0.225 0.215
F-value 2.489 2.607
まず海外拠点の設立理由について,「現地の市場ニーズをとらえる」という 理由は欧米・アジアのいずれも企業選択割合が7割を超えており,海外拠点 を展開する一般的な理由と考えられる(第 7 表参照).次に,欧米では「現地 の技術情報や研究のシーズを探索する」が約9割の企業におよび,さらに北 米は「先端的研究の実施」という理由も多く,研究・技術開発情報の入手と いう傾向が他地域に比べて強いことが伺える.一方,アジアは「現地向け製 品の研究開発プロセスの一部を現地拠点で行う」や「現地で,サプライヤー,
共同研究先,アライアンス先を探索する」という理由を選択する企業が多く,
技術情報を入手するという理由は他地域に比べ弱い傾向がみられた.
こうした地域間の理由の差は,伝達される情報に違いを生み出している(第
8 表参照).情報移転量の合成に使用した主要拠点から日本へ移転される知識
第 7 表 地域別の海外拠点設立理由(選択企業割合)
注)平均の右横の数値は地域内の順位を示す.
欧州 北米 アジア
平均値 平均値 平均値 現地の市場ニーズをとらえる 0.88 2 0.74 2 0.76 1 現地の技術情報や研究のシーズを探索する 0.91 1 0.87 1 0.46 4 先端的研究や先行研究を行う 0.47 6 0.72 3 0.13 8 現地における政府や標準化委員会等への対応を
行う 0.50 5 0.36 7 0.33 6
現地で,サプライヤー,共同研究先,アライア
ンス先を探索する 0.63 3 0.67 4 0.65 3 現地向け製品の研究開発プロセスのほぼすべて
を現地拠点で行う 0.06 9 0.21 8 0.17 7 現地向け製品の研究開発プロセスの一部を現地
拠点で行う 0.50 4 0.54 5 0.74 2 日本/グローバル向け製品の研究開発プロセス
のほぼすべてを現地拠点で行う 0.09 8 0.15 9 0.11 9 日本/グローバル向け製品の研究開発プロセス
の一部を現地拠点で行う 0.41 7 0.49 6 0.46 5
標本数 32 39 46
第 8 表 主要拠点から日本へ移転される知識・技術情報の地域格差
注)標本数は,欧州=6,北米=25,アジア=20.
平均値 標準偏差 有意差 市場の製品・技術ニーズ 欧州 2.50 0.548
北米 2.32 0.476
アジア 2.05 0.686
会社独自の研究開発方法 欧州 2.00 0.000
北米 1.92 0.702 欧>亜
アジア 1.60 0.598
研究開発内容にかかわる知識・技術 欧州 2.17 0.408
北米 2.52 0.586 米>亜
アジア 1.75 0.550
社外から吸収した知識・技術 欧州 1.83 0.408
北米 2.28 0.542 米>欧・亜
アジア 1.85 0.587
研究開発の進捗状況 欧州 2.33 0.516
北米 2.72 0.458 米> 亜
アジア 2.30 0.657
や技術を地域別にみてみると,各地域で設立理由として一般的な市場の製品・
技術ニーズでは地域間で有意な違いは見られなかったが,他の4項目はいず れも,アジア拠点は他地域とりわけ北米に比べて情報移転の頻度が少ないこ とが示され,設立理由に沿った情報移転の傾向が確認できる.先の地域間の 成果の違いはこうした情報移転の違いが反映している可能性を示唆する.
3. 4 情報移転と人材マネジメントがもたらす効果
ここでは国内拠点において海外派遣経験者や外国人技術者をうまく活用し ている企業が海外拠点からの情報移転を効果的に成果につなげているかを検 討する.
まず海外派遣者や外国人技術者といった人材マネジメントに関する指標に
ついてみていく.この点について調査では,海外派遣経験者や外国人の活用 に関する5項目(「帰任者は海外派遣の経験を活かすことのできる業務を担当してい る」「帰任者は海外の知識・技術・文化を職場に導入し広めている」「帰任者は海外拠 点とのブリッジとして活躍している」「海外とのコミュニケーションの際には外国人が 中心になる」「外国人は海外拠点とのブリッジとして活躍している」)について5点尺 度で聞いている.先の分析同様,因子分析を実施し,海外派遣経験者の活用 と外国人の活用の二つの因子を抽出した.それぞれの因子得点を海外経験者 活用指標と外国人活用指標とする.なお、これら5項目の信頼係数αは0.710 であり、数値が大きいほどうまく活用できているとみなす.
次に,仮説H3は,海外拠点から入手し国内拠点に集積された情報を,国 内拠点に有益な形に変換し組み合わせ,より効果的に活用するのが海外派遣 経験者であり外国人である,と想定しているから,単に成果指標と情報移転 量および活用指標との関係をみるだけではなく,情報移転量と活用の交互作 用についても検討することが重要となる.それゆえ変数は,成果指標を従属 変数,それぞれ情報移転量と活用指標を独立変数とするのに加え,情報移転 量と活用指標との交差項も独立変数として用いる.この場合,H3が真である ならば交差項は有意な正の効果が示されると考えられる.重回帰分析の結果 を第 9 表に示した.
まず情報移転量は四つのすべての推計において有意な正の効果が示された.
情報移転が増えるとそれに応じて企業のイノベーションが高まるといえよう.
次にH3aの海外派遣経験者の活用は新製品リリース件数に対して効果は見い だせなかったが,特許出願数に対しては有意な正の効果が示された.さらに 情報移転量との交差項は新製品,特許ともに正の効果が示され,これは海外 派遣経験者を適切に活用できている企業は海外から移転された情報をより効 果的にイノベーションに結び付けることができていることを意味する.では H3bの外国人の活用についてみると,外国人の活用も特許に対しては正の効 果があるが,新製品に対しては効果がみられなかった.逆に交差項は新製品
に対して正の効果を示した.以上より,海外派遣経験者の活用に関するH3a は支持され,さらに外国人の活用のH3bも部分的に支持されるといえよう.
この節の最後に地域間格差について触れておこう.第9表の結果を見る限 り,企業のイノベーションは情報移転や人材活用に関する変数を入れて分析 すると,外国人活用の特許の検証モデルにおいて欧州主要拠点ダミー変数が 負の効果を示したものの,それ以外はこれまで先行研究や本研究における分 析が示してきたアジアよりも北米の効果が高いという地域間格差が消失して いる.このことから地域間でイノベーションへの寄与が異なるは,その地域 ごとの拠点の目的に応じた情報移転の差異が影響しているものと考えられる.
第 9 表 情報移転と人材活用の効果
海外派遣経験者の活用 外国人の活用 新製品(対数) 特許(対数) 新製品(対数) 特許(対数)
coef. s.e. coef. s.e. coef. s.e. coef. s.e.
機械製造業D 1.479 0.518 ** 0.753 0.319 * 1.487 0.531 ** 0.524 0.308 + 従業員(対数) 0.084 0.177 1.022 0.103 ** 0.108 0.187 1.060 0.105 **
研究開発者率 3.114 1.952 0.122 1.083 2.421 2.054 1.174 1.040 北米主要拠点D -0.231 0.583 0.303 0.343 -0.412 0.607 0.305 0.351 欧州主要拠点D 0.982 1.136 -0.603 0.585 0.912 1.166 -1.295 0.608 * 海外拠点総数 -0.069 0.048 0.081 0.027 ** -0.054 0.051 0.062 0.028 * 情報移転量 0.574 0.333 + 0.660 0.200 ** 1.153 0.394 ** 0.545 0.223 * 海外経験者の活用 0.359 0.274 0.528 0.224 *
情報×海外派遣 0.864 0.240 ** 0.264 0.151 +
外国人の活用 -0.293 0.372 0.442 0.219 + 情報×外国人 0.597 0.259 * 0.136 0.162
N 32 36 32 36
Adjusted R2 0.517 0.872 0.478 0.866
F-value 4.811 28.23 4.257 26.87
注)** p<0.01,* p<0.05,+p<0.1
4 ま と め
本研究は企業の個票データを利用して研究開発拠点の海外展開がどのよう な経路を通じて成果へとつながるのかを海外派遣経験者の活用という組織の 人材マネジメントのあり方と情報移転を促す海外拠点の対外的なネットワー ク構築における戦略的取り組みを考慮して検討してきた.
得られた主要な知見は以下の通りである.まず地域と企業の新製品リリー スや特許といった成果を直接的に結びつける場合,アジアよりも北米に拠点 がある企業ほど成果が高まることが示された.また海外拠点にHRMやネッ トワークの構築に対する裁量を付与しても情報移転量が増加することは確認 できなかった.ただし情報移転が行われることは企業の成果を高め,さらに 海外派遣経験者や外国人の活用,とりわけ前者の活用は幅広い企業の成果に 対して情報移転の効果を高める相乗効果をもつことが明らかとなった.また 情報移転や人材活用の差が欧米アジアの3地域間による企業イノベーショ ンの差異となることも示唆された.以上の知見より,海外からの逆移転は新 製品のリリースと特許のアウトプットをともに増やす効果をもち、現地情報 を入手するために研究開発拠点を海外に展開していくことは企業のイノベー ションに効果がある。また、海外に研究開発拠点を展開する場合,逆移転の 効果をより高いレベルで享受するためには国内拠点に集積される情報を速や かに活用するための適切な人材配置などのマネジメントも合わせて進めてい く必要がある.
最後にいくつかの課題を述べておこう.本研究には分析データのサンプル サイズが小さいという問題がある.そのため分析結果の頑健性を検討するこ とが容易でない状況を生み出している.また海外に研究開発活動を展開して いない大部分の企業に比べてイノベーションが活発なのかという点を考察す ることができていない.これらの点については現在の調査データからは対応 ができないため,別途調査を実施し検討することが必要である.また本研究
では海外拠点が収集する情報を増やすための戦略として対外的なネットワー ク構築における裁量の付与を検討したが効果は検出されなかった.このこと からも海外拠点が現地の重要な情報に素早く適切にアクセスし多くの情報を 入手するためにどのような施策が効果的なのかを検討する必要もあろう.今 後の課題としたい.
付表 記述統計量
度数 MIN MAX AVE. S.D.
機械製造企業ダミー 53 0 1 0.430 0.500 従業員(対数) 51 3.91 11.64 7.845 1.700 研究開発者率 44 0.00 0.93 0.195 0.186
北米拠点数 52 0 9 1.400 1.636
欧州拠点数 52 0 6 1.100 1.332
アジア拠点数 52 0 17 2.290 2.732 海外拠点総数 52 1 32 5.000 5.350 北米主要拠点ダミー 53 0 1 0.470 0.504 欧州主要拠点ダミー 53 0 1 0.110 0.320 アジア主要拠点ダミー 53 0 1 0.420 0.497 新製品(対数) 40 0 6.91 2.782 1.917
新製品数 40 0 1000 98.15 233.11
特許(対数) 42 0 9.41 4.311 2.431 特許出願数 42 0 12,154 674.0 1950.3 情報移転量 50 -2.25 1.57 0.000 0.916 市場の製品・技術ニーズ 51 1 3 2.240 0.586 会社独自の研究開発方法 50 1 3 1.800 0.639 研究開発内容にかかわる知識・技術 51 1 3 2.180 0.654 社外から吸収した知識・技術 51 1 3 2.060 0.580 研究開発の進捗状況 51 1 3 2.510 0.579 HRM裁量 53 -3.11 0.82 0.000 0.964 研究開発者の採用方針や基準の決定 53 1 5 4.000 1.109
【参考文献】
浅川和宏(2011)『グローバルR&Dマネジメント』慶応義塾大学出版会.
岩田智(2007)『グローバル・イノベーションのマネジメント』中央経済社.
白木三秀(2006)『国際人的資源管理の比較分析―「多国籍内部労働市場」の観点から』
有斐閣.
内藤陽子(2012)「海外派遣からの帰任―組織への再適応とその決定要因」『日本労働 研究雑誌』(独立行政法人労働政策研究・研修機構)第626号,75―88ページ.
林倬史(2002)「企業間競争のグローバル化と特許戦略」『組織科学』第35巻第3号,
4―14ページ.
Gupta, A. K. and V. Govindarajan (2000) “Knowledge Flows within Multinational 研究開発者の育成の方針決定や実施 53 1 5 4.190 1.020 研究開発者の人事評価・処遇の方針決定や運用 53 1 5 4.250 1.072 ネットワーク裁量 53 -3.14 1.11 0.000 0.998 現地サプライヤー,提携先,共同研究先の選定 53 1 5 3.960 0.940 日本以外の他拠点との連携の実施 53 1 5 3.400 1.149 海外経験者活用 50 -1.85 1.94 0.000 0.999 帰任者は海外派遣の経験を活かすことので
きる業務を担当している 51 1 5 3.750 0.956 帰任者は海外の知識・技術・文化を職場に
導入し広めている 51 1 5 3.490 0.987 帰任者は海外拠点とのブリッジとして活躍
している 52 1 5 3.940 0.978
外国人活用 50 -2.93 1.59 0.000 0.943 海外とのコミュニケーションの際には外国
人が中心になる 50 1 5 2.160 0.976 外国人は海外拠点とのブリッジとして活躍
している 50 1 5 2.900 1.093
情報×海外経験者 48 -1.94 3.43 0.233 0.970 情報×外国人 48 -0.62 6.6 0.380 1.101
Corporations,” Strategic Management Journal, Vol. 21, No. 4, pp. 473―496.
Håkanson, L. and R. Nobel (2001) “Organizational Characteristics and Reverse Technology Transfer,” Management International Review, Vol. 41, No. 4, pp. 395―420.
(みやもと だい・同志社大学経済学部准教授)
The Doshisha University Economic Review, Vol. 66 No. 4 Abstract
Dai MIYAMOTO, Corporate Innovation and the Overseas Expansion of Research and Development Bases
In this research note, we examine the relationship between the overseas expansion of research and development bases and corporate achievements from the viewpoint of human resource management. For example, we consider the utilization of researchers and engineers that have experienced overseas R&D activities and corporate strategic initiatives concerning the construction of information gathering networks in overseas bases.
The main findings are as follows. Information transfer from overseas bases contributes to an increase in corporate achievements. Additionally, the appropriate utilization of overseas experience has a synergistic effect that increases the contribution of information transfer.