BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:CurriCulum aLndTeachngNi o.37(2001)55‑60
親 の価値意識 と子育 て
後藤 ヨシ子'
(2001年3月15日受理)
ValueConsciousnessofParentsand Child Care
YoshikoGOTO (Received,March15,2001)
は じめに
現在社会 の変化のテ ンポは極 めて速 く,か っての何十年間 の変化 よ り, 今 日の1‑ 2年 間の変化の方が はるかに著 しいという例 もめず らしいことで はない。 しか し教育 ・育児 に おいては, どんなに社会が変化 しようとも時代 を越えて変わ らない価値のあるもの (不易) があると考え られ る。 しか しまた同時 に社会 の変化 とと もに変 えて い く必 要 が あ る もの (流行) に,柔軟 に対応 してい くことも,一方大事 な事柄で もある。価値観,価値意識 は, 人間 とその生活 にとって,何 を望 ま しい もの と し,何 を望 ま しくない ものと見なすかといっ た観念である。家庭 にお いて は基本 的 な社会化 が お こなわれ るが, その過程 において親 (保育者) は, 日々の育児行動 において,子 どもに大事 な一定の価値観,文化を伝達 して い ると考える。 いわゆる人間 にとって, また人生 において,何 が大事 で あ るか を意識す ると 否 とにかかわ りな く子 どもに伝えている。 とい うよ り親の もって い る価値意識 が親 の知 ら ない間 に子 どもによって学 びとられ るとい う事であるか もしれない。
そ こで今回 は,現在価値観の多様化 ・流動化す る中,幼児 を もっ親 は, どの よ うな価値 意識を もち,子 どもの社会化や育児 にかかわ っているか,大 学生 の価値意識 の資料 を含 め 考察 した。
研究方法
対象 は,長崎市内幼稚園3‑ 5歳児を もつ保護者 (母親)326名,長崎大学教育学部3年 次生252名(男子学生74名,女子学生178名)。調査実施時期 は平成11年7月〜10月である。
調査内容 は,保護者 に対 しては 「育児の中で,親が子 ど もに伝 えた い事 や, 身 につ けさ せたい事柄,特 に生 きてい く上で, また人間にとって大事 だ と思 う事柄 や, 心 の糧 に して いることを教えて下 さい (諺で もよいです) (簡単な言葉で, い くつで もよいです)。」と自 由に記述 を していただいた。大学生 に対 しては 「将来,親 の立場 にな った とき, 子育 ての 中で,子 どもに伝えたい, あるいは身 につけさせたいと思 う価値観 (人 間 に と って, また
*長崎大学教育学部家政教育講座
人生 にとって大事 と考え る事柄) は何ですか (諺で もよいです) (簡単 な言葉で, い くつ で もよいです)。」と,保護者 と同様 に自由記述 にて回答 を得 た。 資料 の集計 には, 糸 山 ・藤 木の考案 した連想用集計 ソフ トを用 いた。親 あ るいは大学 生 が価 値 あ る事 柄 と考 えて い る 言葉 や諺での自由記述内容を個人別 にすべての文言 をパ ソコ ンに入 力 し集 計 した。 同時 に 記述 内容 に関 して,今回 は以下 の通 り13のカテ ゴ リ‑に分類 を した.
1.愛 ・自己肯定 に関す る事柄
例 えば,愛情,愛す ること,愛 され ること, 自分 を愛 す ること, 自分 を好 きにな る, 自 分を信 じること,望 まれて生 まれた こと,人 を思 いや ること,思 いや り, や さ しさ, 等, 心 の温 かみに関す る事柄や 自分 の存在 に関す る自己受容, 自己肯定 に関す る事柄 を含 む。
2.性格 ・行動 に関す る事柄
例 えば,明 るい心,快活,素直, た くま しい,心の強 さ, 積極 性, 我慢 強 さ,等 を含 む。
3.人間関係 に関す る事柄
例 えば,友達関係 に関 して (友達 と仲良 く,友達 をっ くる, 友達 を大切 に, た くさん の 友達 をつ くる),兄弟 に関 して (兄弟仲良 く,兄弟姉妹 の大切 さ), 親子 関係 ・祖 父 母 に関 して (親子 の秤,親子 コ ミュニケーション,何で も親 に話す, 親 へ の感謝, 祖父 母 を大 事 に),他者 との関係 ・他者理解 に関 して (人 との信頼関係,相手 の気持 ちを考 え る, 相手 の 立場 に立つ,相手 の身 にな って行動す る,人 の痛みがわか る, 人 の話 はよ く聞 く, 人 の嫌 な ことは しない),等 を含む。
4.健康 に関す る事柄
例 えば,健康 である,健康 なか らだをつ くる,体力をつ ける, 心身 の健 康, 元 気 にす ご す,等 を含 む。
5.礼儀 ・あいさつ に関す る事柄
例 えば,礼儀作法,礼儀正 しく, あいさつをす る,言葉遣 い, 食事作 法 ,等 を含 む。
6.社会規則 ・道徳 に関す る事柄
例 えば,善悪 の判断,社会のルール,交通 ルール,人 に迷惑 をか けな い, 道徳 心 ,等 を含 む。
7.基本的生活習慣 の自立 に関す る事柄
例 えば,基本的生活習慣, しつ け,整理整頓, あとかたづ け, 自分 の事 は 自分 です る等 を含 む。
8.生命 に関す る事柄
例 えば,命 の尊 さ,生命の大切 さ,等 を含 む。
9.生 き方 ・人生観 に関す る事柄 (諺や教訓 も含 む)
例 えば,夢 を もつ,夢 に向か って頑張 る, チ ャレンジ精神, プ ラス思考 , 失敗 は成功 の もと,継続 は力 な り,時 は金 な り,全力をつ くす,有言実行, 苦 あれば楽 あ り, 七転 び八 追,人生山あ り谷 あ り,等 を含 む。
10.自己の確立 ・自己実現 に関す る事柄
例 えば,意志 の主張,意思表示がで きる, 自分の意思 を もつ, 自分 の考 えを もつ, 自分 の意見 を しっか りもっ, 自分 らしさ, 自己実現,等を含 む。
ll. 自然 ・環境 に関す る事柄
例 えば, 自然 との触れあい,環境‑の関心,地球環境,等 を含 む。
後藤 ヨシ子 :親の価値意識 と子育て 57
12.遊 び ・学習 に関す る事柄
一例 えば,元気 に遊 ぶ,遊 びをた くさん させ る, よ く遊 びよ く学 ぶ, 学 習 の必 要性 , 学 習 意欲,知 的能力,学力, 思考力,等 を含 む。
13.特 にない
研究結果
1.幼児 を もつ母親 の価 値意識 の内容
幼児 を もつ母親 が人 間 に とって, また人生 に とって価値 あ る事 柄 と して, 子 ど もに伝 え たい と思 う内容 につ いて, その割合 の高 い順 に上位6位 まで に番 号 を記 して い る。 全 体 的 に,第1位 は 「愛, 自己肯定」 に関す る事柄 (66.0%)で あ った。 ほぼ7割 の母 親 が, ど の よ うな社会 や時代 にお いて も価値 あ ることと思 うことは, 人 間 に と って愛 情 と信 頼 を基 本 とす る思 いや りや 自己存在への信頼感情 に関す る内容 で あ った。 第 2位 は 「人 間 関 係 」 に関す る事柄(42.9%)で あ る。今 日少子社会 の中,人 間 関係 の薄 さが 懸 念 され, 現 在 社 会 にお け るス トレスの大 きな要因 と もな って い る仲 間 との関係 や親 子 コ ミュニ ケ ー シ ョン, 他者理解 に対 す る内容 が示 されて いた。第3位 は 「性格 ・行 動 」 に関 す る事 柄(32.8%)で あ り,子 ど もの人格形成 の要素 と して大事 な内容 と親 は考 え て い る こ とが わか る。 つ いで 第 4位 に 「社会規則」,第 5位 に 「礼儀 ・あい さつ」,第 6位 に 「基 本 的生 活 習 慣 」 と続 い てお り,社会 のルールや生活習慣 の 自立 の形成 が幼 児 期 に は大 事 な発 達 課 題 で あ る こ と と の関連 がみ られた。他方 幼児 に とっての遊 び は生活 その ものであ り, また遊 びの もっ意 義 は幼児期 において は大事 な要因 と考 えが ちで あ るが,価値 意 識 にお いて の順 位 は低 く 「遊 び ・学 習意欲」 に占め る割合 はわずか8%にす ぎなか った。 また人 間 に と って大 事 と考 え る事柄 は 「特 にない」 とい う母親 が6.4% いた。
表1 幼児 を もっ親 の価値意識 (性別) (%)(複数 回答)
男 児 女 児 計
1.愛
2.性格 ・行動 3.人 間 関 係 4.健 康 5.礼儀 ・挨拶 6.社 会 規 則 7.生 活 習 慣 8.生 命 9.生 き 方 10.自 己 確 立 ll. 自然 ・環境 12.遊 び・学 習意欲 13.特 に な い
104(64.6)① 56(34.8)@ 74(46.0)@ 9( 5.6) 45(28.0)@ 51(31.7)㊨ 42(26.1)⑥ 13( 8.0) 26( 16.1) ll( 6.8) 2( 1.2) 16( 9.9) 8( 5.0)
111(67.3)0 51(30.9)④ 66(40̲0)@ 9( 5.5) 52(31.5)@ 51(30.9)④ 27( 16.4) 14( 8.5) 32( 19.4)⑥ 23( 13.9)
6( 3.6) 10( 6.1) 13( 7.9)
215(66.0)① 107(32.8)@ 140(42.9)② 18( 0.3) 97(29.8)@ 102(31.3)④
69( 21.2)⑥ 27( 8.3) 58( 17.8) 34( 10.4) 8( 2.5) 26( 8.0) 21( 6.4) 反応語総数 (平均) 457( 2.8) 465( 2.8) 922( 2.8)
人 数 161 165 326
なお子 ど もの性別 の違 いによ って親が考 え る価値 内容 は, 上位 1‑ 2位 は共 通 で あ った が,上位3位 において,男児 を もつ母親 は 「性格 ・行動
」
を あ げ, 他方 女児 を もつ母 親 は「礼儀 ・挨拶」 をあげていた。 また第6位 において も男児 を もつ母親 は 「基本的生 活 習慣」 杏,他方女児 を もつ母親 は 「生 き方」 を価値 とす る考 えを示 されて お り, 子 ど もの性 別 に よ る若干 の相違 がみ られた (表 1)0
2.大学生 の考 え る価値意識 の内容
「将来親 の立場 にな った時
」
とい う前提 の もとに自由記述 にて回答 をえた。大学 生 の考 え る価値意識 の内容 につ いて, その割合 の高 い順 に上位6位 まで の番 号 を記 して い る。 全 体 的 には,上位第 1位, 2位 ともに幼児 を もつ母親 と共通 した 「愛, 自己肯 定」 (82.9%), そ して 「人間関係」(79.0%)に関す る事柄 で あ った。 子 育 て の体 験 や世 代 間 の相違 はあ る に しろ,人間 にとって価値 ある事柄 と考 え る内容 は共通 であ る ことが示 されて いた。 中 で も女子学生 の 「愛 ・自己肯定」に関 して は,9割 の学生 が, そ して 「人 間関係 」 にお いて も親 の 4割 に対 し, 8割 の大学生が人間関係 が大事 で あ ることの認 識 を しめ して いた。価値意識 に関す る反応語 の総数 は,大学生 の方 が よ り多 く平均4.1個 ,中で も女子学生 (4.4 個) の方が男子学生(3.4個)よ りも多 い。他方幼児 を もつ母親 は2.8個であ った。
表2 大学生 の価値意識 (性別) (%)(複数 回答)
男 子 女 子 計
1.愛
2.性格 ・行動 3.人 間 関 係 4.健 康 5.礼儀 ・挨拶 6.社 会 規 則 7.生 活 習 慣 8.生 命 9.生 き 方 10.自 己 確 立 ll. 自然 ・環境 12.遊 び・学習意欲 13.特 に な い
46(62.2)(9 25(33.8)⑤ 44(59.5)③ 5( 6.8) 10(13.5) 21(28.4)⑥
3( 4.0) 4( 5.4) 46(62.2)(9 17(23.0)
4( 5.4) 26(35.1)④
1( 1.3)
163(91.6)(9 109(61.2)@ 155(87.1)@
16( 9.0) 32( 18.0) 42(23.6) 8( 4.5) 6( 3.4) 125(70.2)③
62(34.8)@ 5( 2.8) 57(32.0)⑥
0
209(82.9)(9 134(53.2)㊨ 199(79.0)@ 21( 8.3) 42(16.7) 63(25.0) ll( 4.4) 10( 4.0) 171(67.9)③
79(31.3)⑥
⑤.1rhu、、rJ一1いht6543203︻Ⅶ川UrHLUrⅦ19218
反応語総数 (平均) 252( 3.4) 780( 4.4)
人 数 74 178
後藤ヨシ子 :親の価値意識と子育て 59
表 3 幼児を もつ親と大学生の価値意識 (%)(複数回答)
幼 児 の 親 大 学 生
1.愛
2.性格 ・行動 3.人 間 関 係 4.健 康 5.礼儀 ・挨拶
6.社 会 規 則 7.生 活 習 慣 8.生 命 9.生 き 方 10.自 己 確 立 ll. 自然 ・環境 12.遊 び・学習意欲 13.特 に な い
215( 66.0)(9 107(
3
2.8)③1
40(4
2.9)@18( 0.3) 97(
2
9.8)⑤1
02(3
1.3)④69(21.2)⑥
27( 8.3)
58(17.8)
34(10.4) 8( 2.5)
26( 8.0)
21( 6.4)
209(82.9)① 134(53.2)④ 199(79.0)② 21( 8.3) 42(16.7) 63(25.0) ll( 4.4) 10( 4.0) 171(67.9)@
79(31.3)⑥ 9( 3.6) 82(32.5)⑤
1( 0.4) 反応語総数(平均) 922( 2.8) 1,032( 4.1)
人 数 326 252
さらに幼児を もつ母親 との相違 は,大学生が現実 に直面 してい る 「生 き方」 に関 す る事柄 が, どち らか といえば男子学生 に, また 「自己確立 ・自己実現」に関 す る事柄 は女子学生 によ り上位の順位 にあ り, しか もこれ らの内容 は,青年期 の発達課題 と も大 き く関連 して いる事柄であった。 また 「遊 び,学習意欲
」
に関す る事柄が, 第 5位 に示 されて い る こと ち,大学生 にとって現実的な事柄 として学習への取 り組み ・達 成行動 は, 心 の中 に大 き く 受 けとめ られ価値 ある事柄 と考 え られていることが伺えた (表2,3)0おわ りに
人間にとって, また人生 において何を価値 ある事柄 と考え るかは,世代間の相違 にお いて その内容 にも相違が生 じることが当然考え られる。人間の本質 そ の もの は変 わ らな くて も 時代や とりま く生活環境が変わればそ こに生 きる人間の物事 の受 け とめ方, 考 え方, 行動 の起 こし方 も変わ って くる。世代間の帝離がおきることも当然 といえ る。 また親子間 の常 識や価値意識の帝離 も,今 日の親子関係のあ り方 を考 える上 での大 きな課題 と して あ る こ とも事実である。今回 は幼児 を もつ母親を対象 に,子育て中の親の立場 と,そ うでない大学生 の立場 にいるもの との価値意識の内容 について比較を試みたが,育児の経 験 の有無 や世代 の 違 いはあって も上位1位 「愛 ・自己肯定」,2位 「人間関係」においては,共 に同 じく共通 した価値内容であった。人生経験や世代を越えて人間 にとって価値 と考 え る内容 にお いて は共通 に指摘で きるものがあること,そ して一方では 「幼児」 お よび 「青年期」 とい った 各発達段階において,現実 に直面 している発達課題 とも強 く関連 が あ る ことが浮 き彫 りに
された。
親の価値意識 は子 どもに何を期待す るか,子 どもへの期待像, 親 自身 の人生観, 人 間観
とも深 い関連があると考えている。 さらに親の もっ価値意識 が 日々の子育 ての中で,実際 にどのように子 どもに伝え られているか とい う課題 もある。
価値観 の多様性 ・流動化がいわれる中,戟 (保育者) は子育 てを通 して, まず は子 ど も に大事 な価値観を伝達 しているという視点,自覚 を もって行動す ることが必要 で あ ると考 える。今後 カテゴ リーの分類 につ いてさ らに異 なる視点か ら検討 を加 え る等, 考察 を深 め ていきたいと考えている。
文献
1)山村賢明:多様化 ・流動化す る価値観 と子 ど もの教育 児童心理 ,36巻6号,32‑42,1982 2)糸山景大 ら:教科教育学研究 のモデル化 と授業設計理論 教科教育学研究第14集 ,
71‑86,第‑法規,1996
3)岩井勇児 :揺れ動 く親 の子育て 児童心理 36巻6号 133‑139,1982 4)竹内 清 :核家族時代 と子 どもの教育 児童心理,36巻6号,126‑132,1982
5)山極 隆:不易 と流行をどう考え るか 「組合的な学習 の実践」 教育開発研究所 28‑29,
1997