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付け鋼技法で製作される博多鋏の調査 −作業場と道具−

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(1)

1.はじめに

 博多鋏は、宋からの帰化人である謝国明がその原型と なる鋏と共に製作技術を伝えたとされ、約700年の歴史 を持つ。その間、様々な改良が加えられ、形態を微妙に 変化させてきた。現在のような形に仕上げたのは、幕末 の頃の博多箔屋番(福岡市博多区冷泉町)の鍛冶屋安河 内宇助

*1

であると言われている。

1-1)

当初、博多で日本 刀を製作していた刀鍛冶師達がその余暇に製作を始めた。

その後、廃刀令に伴って日本刀が製作できなくなるのを 契機に、刀鍛冶師が伝統的技術を用いて鋏をはじめとす る付け鋼刃物を専門に製作した。当時 8 軒ぐらいの鍛冶 屋が存在し、戦前の最盛期には20軒程度になる。しかし、

現在は高柳家(高柳商店)三代目である高柳晴一氏(以 後T氏と記す)が唯一の博多鋏製作者となった。T氏 の祖父亀吉は鍛冶屋安河内宇助の弟子になり、修業の末、

その腕を見込まれて明治20年に商標登録「宇印」を継ぎ、

二代目鋏鍛冶師として独立した。その後父総一郎、T氏 とその鍛冶技術が受け継がれた。

*2

 博多鋏はかつて唐鋏

*3

と呼ばれていたが、明治25年 ごろ福岡県商工課の意見で正式に「博多鋏」

2)

と呼ぶこ ととし、そのまま定着した。また、この鋏の外観として 肩や足

*4

と呼ばれる部分に「二の字」と「菱紋」を刻 印して加飾することに特色があり、「菱足の鋏」

1-2)

と も呼ばれている。

 博多鋏は、鹿児島県種子島で製作されている種子鋏

*5

と同様、日本の伝統的刃物の特徴である極軟鋼に高炭素 鋼が鍛接された付け鋼であり、極軟鋼の柔らかさと高炭 素鋼の硬さを持ち合わせたしなやかで強靭な刃物である。

しかし、これら博多鋏や種子鋏のように付け鋼による製 品は、新素材の開発や製作工程の複雑さ、技術的な難易 度の高さ、経済効率の低さなどから非常に少なくなりつ つある。現在、一般に製作されている鋏は、全て高炭素 鋼(全鋼)によるものやステンレススチール製のものが 多く、セラミックス製の鋏も存在する。

 また、複合材(リキ材)と言われる極軟鋼と高炭素鋼

がすでに接合されている材料を使用し、型鍛造などの製 作方法を採用した職人や産地も多い。その製作方法は鍛 造成形(火造り)

*6

の簡略化を実現させ、量産を可能に した。

 このような状況のもと、博多鋏は伝統的な日本刀製作 技術である鍛接技術(付け鋼)を取り入れ、柔軟で硬い 刃先を持つ刃物として貴重な鋏になりつつある。これら の状況を踏まえ、博多鋏の製作環境と道具の詳細を以下 に記述する。

2.高柳商店の作業場

 高柳商店(元、高柳利器製作所)の作業場は、福岡 市の中心地(博多区冷泉町)に位置し、家屋が密集する 住宅街という条件から平成 3 年に現在の建物に建て替え られた。「福岡県の諸職」福岡県諸職関係民俗文化財調 査報告書(福岡県教育委員会)に、平成 2 年 3 月調査員 三木隆之氏が調査した住まいを兼ねた建て替え前の作業 場の図面が掲載されている。その報告書から、鍛冶師の 生活と仕事の関係を図り知ることができ、また作業場に ある炉(火床)、鍛造機(ベルトハンマー)、バフ(両頭 グラインダー)、木台の 4 点の機械や道具の配置図が示 され、作業内容の概略を想像することができる。しかし、

本研究で新たに建て替えられたT氏の作業場の環境や製 作で使用している機械や道具ならびにその配置などを詳 細に調査した。その結果、製作に関わる機械や道具の配 置を図1の平面図で示し、その詳細を次章で記すことと する。

 鍛冶の作業は金鎚で鉄を叩く内容であり、その騒音が 住宅街にある作業所にとって深刻な問題になる。T氏は その対策として、建物の外壁をコンクリートで覆い、内 壁を防音材で施工、床に吸震ゴムを敷き詰めて鍛造時の 騒音と震動の外漏れを防止している。また、ベルトハン マーの土台となる基礎を建物の基礎から切り離して独立 させ、鍛造時の振動が他に伝わらないように工夫した。

 鍛造を行うスペースは900×900mmの面積で土間よ

付け鋼技法で製作される博多鋏の調査

−作業場と道具−

Investigation of the workshop and tools of Hakata Scissors manufacturers

● 中村滝雄、横田 勝、ペルトネン純子、長柄毅一/富山大学芸術文化学部

NAKAMURA Takio, YOKOTA Masaru, PELUTONEN Jyunko, NAGAE Takekazu / The Faculty of Art and Design, University of Toyama

● Key Words : Hakata Scissors, forging techniques, hammer-welding high-carbon steel, workshop, original tools

資料 平成 19 年 7 月 12 日受理

(2)

り700mm低く穴が掘られ、ベルトハンマーや金床がT 氏の腰の位置

*7

になるように設定されている。T氏が このスペースに入り、一定の場所に居ながらにして、鍛 造や熱処理など加熱に関する作業が行えるように火床・

金床・ベルトハンマー・当型が周辺に配置されている。

 T氏の作業場では多くの鍛冶場でみられる独特の採光 方法

1)

を見ることはできなかった。採光は天井中央に ある小窓と蛍光灯によるもので、全体的に明るさが抑え られ、安定している。作業内容や場所によって手元の灯 りを採用することで対応させ、集中力と作業効率が上げ られるように配慮されていた。また、鍛造時の換気は天 井の中央に排気ファンと火床の熱による上昇気流によっ てコークスの灰などが排出されるように設計されていた。

 おおよそ23m

2

の作業場内は、北東部に鍛造(鍛冶) (写 真1)、南東部に切削・研磨(写真 2 )、部屋の中央と西 南部に加飾や調整、仕上げ(写真 3 )を行うスペースと し、南部に集塵装置が配置されている。

3.博多鋏製作の道具と冶具 3.1 ベルトハンマー

 かつて職人(兄弟子)がいた頃、 向

むこう

づち*8

で荒打ちを 行っていた鍛造を、現在は昭和15年頃導入したベルト

ハンマーに替えて行っている(写真4)。ベルトハンマ ーはモーターの回転運動をハンマーの上下運動に変換し、

バネとベルトによる反動を利用して打撃を与える機械で ある。そのハンマー部と金床部の鏡

*9

手前が斜めにごく 僅か切削されており、足の鍛造など先端が徐々に細くな る形態を打ち延べ易いように工夫されている。ベルトハ ンマーの軸径は直径70mmであり、鏡の右側2/3が平面 に仕上げられ、残りの左側1/3が横方向のカラカミ

*10

に切削成形されていた。通常は平面のみの鏡が使われる ことが多く、鍛造される鉄は四方八方に打ち延べられる。

一方、カラカミで鍛造を行えば、鉄と接する面が少なく 打撃力を狭い面に集中させることができると同時に、鉄 は横方向(幅)にほとんど広がらず、前後の一方向に効 果的に素早く打ち延べることが可能になる(図2)。こ のように、T氏は一つのハンマーに二種類の鏡を設ける 図1 高柳商店の作業配置図

①菱紋用グラインダー ②卓上ボール盤 ③集塵機 ④焼戻し 用油槽 ⑤作業机 ⑥当金 ⑦木台 ⑧整形用角床 ⑨電動ブ ロアー ⑩火床 ⑪金床 ⑫当型 ⑬ベルトハンマーのハン マー部 ⑭ベルトハンマーの本体 ⑮水砥石(小) ⑯水砥ぎ機

(大) ⑰両頭グラインダー ⑱両頭グラインダー ⑲水研ぎ場

⑳鍛造・熱処理などの作業スペース

図2 異なるハンマーの鏡による鍛造効果

この図は、ハンマーの鏡の形と圧延方向(金属の動き)を示した。

左側の図はベルトハンマーの鏡が平らであり、金属が四方八方 に打ち延べられて広くなる度合いが大きくなる。一方、右の図 はベルトハンマーの鏡が凸状(カラカミ)であり、金属が一方向 に打ち延べられて長くなる度合いが大きくなる。

図3 ベルトハンマーによる打ち延べと均し

①打ち延べ:アールのついたカラカミ(鏡が二次曲面になった蒲 鉾型)で打つと前後方向に効果的に打ち述べることができる。

②均し:鏡が平らなハンマーで打つと表面の凸凹が消える。

(3)

ことにより、カラカミで素早く打ち延べ、もう一方で鎚 跡の凹凸を平面に整形して表面を仕上げ、荒打ち鍛造を 効果的に進めることを可能にした(図3)。そして、加 熱温度と鍛造する箇所を適切なタイミングで二種類の鏡 を使い分け、短時間で鋏の形態に鍛造成形する。

 また、ハンマー部を金床部(W90,D63mm)手前よ り9.6mm前方に設定して刃側(図 4 穂の上部)に段差 を作らず

*11

、穂と足部境目の段(アゴ部)を容易に鍛 造成形できるようにし、足の形態の荒打ちを行う(図 4 、 写真 5 )。

3.2 火床

 火床は550×550mmのスペースにコークスを燃料と し、空気が送風されて鉄の加熱が行われる(写真6)。

コークスの大きさは一辺20mm立方程度であり、小玉が 使用される。この大きさのコークスは刃物を扱う多くの 鍛冶師が使用しており、被加熱物の表面になるべく多く また均等に接して加熱ムラの防止と素早い加熱を可能に する。

 現在、送風はかつての鞴

*12

に替えて電動ブロアーを 使用し、火床の左側に送風口である羽

ぐち*13

(写真7)

を設けて行われている。羽口は耐熱性を考慮して耐火粘 土が使用され、耐久性を持たせるために通常のものより 厚く作られている。送風の調整はスイッチと弁の開閉で 行われ、鍛造工程に合わせて行われる。T氏はこの操作 によって加熱温度を調節し、鍛造効果と経済性を考慮し て頻繁に行う。また、時折コークスのノロ(燃え滓

かす

)を 鉄の火掻き棒によって除去し、通風を確保して鉄を加熱 する。

 なお、この火床は鍛造の他、焼鈍や焼入れに使用する 鉛の溶融、焼戻しにも使用される。

3.3 金床

 鍛造用の金床は火床とベルトハンマーの間に設置され、

土間に500mm程度埋められて振動による移動や過大な 騒音の防止対策がとられている。鏡はその表面に高炭素 鋼が鍛接されており、その大きさが170×50mmで土間 から85mm出ている

*14

。その形は鉄が良く打ち延べら れるように鏡の面が僅かに丸味を帯び、凸面である(写 真8)。

 修正および整形用の金床(角床)は中央にある作 業机の上に置かれている。その大きさは125×70×

H125mmであり、鏡(上面)の中央が平面である。右 側に幅15mm深さ 4 mm程度の浅い溝があり、その中央 に四角の穴があいている(写真 9 )。鏡の周辺は、それ ぞれ端の中央付近に1.5mm程度のなだらかで異なった 窪みがある。これらの溝や窪みは穂の反り修正や微妙な 形態の調整をする時に使用される。また、四角い穴は切 り鏨が設置できるように設けられており、目釘に用いる 鉄棒の切断に使用される。この金床は穂の修正の他、博 多鋏の特徴である菱形など文様の刻印や目釘のカシメ

15

を行う時にも使用される。

3.4 木台と当金

 木台は直径約210mmであり、上面には金床同様さま ざまな浅い溝や窪みが設けられている(写真10)。この 溝や窪みは焼入れ後に穂などの曲がりを修正するために ある。

 一般に焼入れ後の高炭素鋼は、金床のような硬い物質 に当てると割れが生じるので、打撃による震動を吸収す る木台の上で修正が行われる。全鋼の刃物の場合、たと え木台であっても打撃を与えると破損するが、付け鋼の 場合極軟鋼の柔らかさによって修正が可能になる。この 性質は付け鋼刃物独特の優れた点である。

 また、木台に設置されている当金は足の曲げ調整のた めに使用される。

3.5 グラインダー

 両頭グラインダーは 3 基設置されている。生研ぎ

*16

や焼入れ後の荒研ぎ、ならびに本研ぎを行う♯60の砥 石( 幅25mm、 径350mm) と 仕 上 げ を 行 う ♯220の 金剛砂を膠で付けた布製の円盤(幅20 ~ 25mm、径 250mm)が取り付けられている。なお、♯60の砥石に は切削のときに発生する熱を冷却するために水が供給さ れる(写真11)。特に焼入れ後の切削においてその硬度 が低下

*17

しないよう冷却に配慮が必要となる。

 光沢を出すバフは青棒(酸化クロウムと蝋の混合物)

と言われる研磨剤が円盤(馬糞紙といわれるボール紙)

にこすり付けられ、最終的な仕上げに使用される(写真 図4 アゴの鍛造(ハンマー部と金床部の関係)

金床部よりハンマー部が手前(図ではハンマー部の右側)に出て いると、穂の上部(刃側)が平らに打たれ、相対する下部に金属 が移動してアゴの形(段差)ができる

ハンマー部

金床部

刃側

(4)

12)。

 また、菱紋部(肩の角)の加飾をする両頭グラインダ ーが作業机の奥に設置されている。厚さ 3 mmの切断用 砥石 3 枚を使用し、等間隔で 3 箇所を切削するため各砥 石の間に同じ厚さの板を挟んでグラインダーに取り付け られる。

3.7 火箸とヤットコ

 火箸は全長320mmであり、加工物を材料の横から掴 んでも真っ直ぐになるように目釘(支点)から先部が 曲がっている(写真13)。この火箸を使用することによ って、長い棒状のものでも加熱部分つまり加工部分の近 くを掴むことができ、安定した作業を行うことができる。

これらは職人が使用し易いように工夫し、自らの手で製 作したものの一つである。

 写真14で示すヤットコは鍛接を行う時、高炭素鋼を 穂のウラの決められた位置に設定するための道具でもあ る。写真をよく見ると目釘より先部(材料を掴むところ)

の側面が段になっているのが確認できる。この段差をア ゴの段差に合わせてアゴからの長さを測り、高炭素鋼を 常に同じ位置に設定できるように工夫した道具である。

手前の段差と奥の段差に長さの違いがある理由は、鋏の サイズに合わせた鍛接を行う時に使い分けるためである。

3.6 鍛造用ハンマーと当型

 鍛造用ハンマーは写真15に示すような片鎚であり、

全長255mm、鉄部の長さ105mm、重さ900g、鏡のサ イズ径32mmである。仕上げならびに修正用のハンマー は全長250mm重さ270gである。

 写真16に示す当型は、鍛造用金床とベルトハンマー の間に設置されている。この当型の上に穂の表を当てて 乗せ、穂のウラからハンマーで当型手前境目の上を打つ。

その打撃によってV字型をしている当型の段差が穂の表 に打ち出され、それが座と刃シノギ、ムネシノギの境目 となり、後の鍛造成形の目安となる。

 また、写真17で示す鏨は、博多鋏の装飾を彩る「二 の字」「菱紋」と登録商標「宇印」の刻印である。

3.7 先代の道具

 この他、現在は使用されていない先代の道具がT氏に よって保存されていた。かつての製作方法や仕上げ方法 を知る上で貴重な道具であり、参考として紹介する。

3.7.1.銑

せん

 電動グラインダーが普及する前は、付け鋼による刃物

(銑)によって金属の切削が行われていた。両端にある ハンドルを握り、中央にある刃を前後させながら主に押

すときに切削を行う。その時、被切削物の焼鈍は大変重 要な熱処理であり、この工程を経なければ硬さが残留し て切削不能などのトラブルを招く。(写真18)

3.7.2. 銘彫り台

 木台に刻まれた溝に鋏を嵌め込み、布が巻かれた針金 で移動しないように押さえ、銘を彫る作業を行った。か つて鋏の表面が磨かれていたため、その表面に傷がつか ないように木台の上で行われていた。(写真19)

3.7.3.磨き台

 平面の木板に鋏を固定し、硬度の高い金属棒で擦って 仕上げを行う。写真20の向かって右側のフックに磨か れた金属棒の先端を差し込み、先支点の梃子を利用して 擦りつける道具である。硬い金属棒で擦ることによって、

軟かい金属表面(極軟鋼の部分)の切削痕などを消失 させる。その時「酸化膜と炭粉を混合したキドと言われ る磨き剤を使用していた」とT氏はいう。この道具から、

かつて博多鋏の表面仕上げが鏡面であり、現在とは異な っていたことが分かる。

4.おわりに

 鍛冶職は鉄製の道具を製作する職種であり、自らの製 作に必要な道具を作ることができる環境にもある。し たがって、その製品の特徴となる特殊な道具を自ら作り、

また既製品道具に工夫を加えることも可能である。これ らのことから、鍛冶職人がそのような道具を多々所持し ていると考え

*18

、筆者らはこの観点からT氏の製作道 具を詳細に調査、記録をすると同時に、博多鋏の特徴を 探り出す目的で道具の観察を行った。調査した道具の中 に「菱足」と言われる特徴的な表面加飾をする道具(鏨)

のほか、工夫された道具をいくつか記録した。しかし、

それらは視覚的な特徴や作業を効果的かつ効率的に行う ものであり、いずれも博多鋏の機能や鋏の構造を左右す るような本質的な特徴に繋がる要因になるものではなか った。

 鍛冶仕事の基本は、鍛造、熱処理、切削であり、どの 作業場においてもその内容は変わらない。そのため、T 氏の作業場で特殊な道具が使用されていなくても不思議 ではない。しかし、筆者らはこれら道具の調査と共に鋏 の寸法などを記録していく中で、他産地の付け鋼鋏や一 般の鋏とは異なる点が、博多鋏の特徴を現しているので はないかと注目した。それは、①鋏の全長が184mmに 対し、刃渡りの長さが65.5mmと約1/3で比較的短い 

②刃渡りの長さに対して、穂の中央部の肉厚が3.3mm

と比較的厚い ③刃の交差による擦り合わせ抵抗

*19

まり回転に必要な力が56.7gであり、他産地の付け鋼

(5)

鋏より比較的少ない力で回転できることである 。こ れら 3 つの相違点が鋏の機能や構造的な特徴に繋がるの ではないかと考えている。

 以上のことから筆者らは、博多鋏の特徴を探り出すた めに、今後さらにそれらの相違点を究明すると同時に、

鋏の構造や形態を作り込む製作工程の調査を行い、また 製作中のT氏の作業動作なども含めた複合的な考察を行 う必要性を感じた。

 なお、本研究は科学研究助成金(基盤研究C、課題番 号16500636 研究代表者:中村滝雄)による成果の一 部である。また、伝統的鍛冶技法による付け鋼鋏の調査 を行うにあたり、高柳晴一氏(博多鋏製作者:高柳商店)

にご協力を賜りました。ここに感謝申し上げます。

注釈

* 1.参考文献『日本の伝統工芸 第二巻』 (講談社)、 『博 多の心』(朝日新聞福岡総局編)では安河内宇作 と記されている。

* 2.博多鋏の歴史、背景などに関わる文献は、主に『福 岡県の諸職 福岡県諸職関係民俗文化財調査報告 書』(福岡県教育委員会 平成 2 年 3 月)を参考 にした。

* 3.種子鋏も中国から伝えられた唐鋏が原型である。

* 4.博多鋏の各部の名称であり、刃の部分を「穂」、

穂から持ち手に変わる部分を「肩」、持ち手を「足」

という。

* 5.既報「鹿児島県・種子鋏の製作に使用される道具 とその形態について」高岡短期大学紀要Vol.19、

「伝統的鍛冶技法による種子鋏の製作工程につい て」富山大学芸術文化学部紀要Vol.1を参照。

* 6.この内容は、鉄を火によって加熱し、成形する熱 間鍛造を言う。金工の専門誌では「火造り」と表 現されているが、ここでは一般に言われている鍛 造という言葉を使う。

* 7.金鎚で打ち延べる時、腰の位置で打つと最も効果 的に力を伝達できるといわれている。

* 8.鍛造するとき、横座(主たる鍛造者)と金床を挟 んで対面し、大きな金鎚で打つ(荒打ち)人を言う。

* 9.鍛造を行う時、金鎚で打った面がそのまま反転し て被鍛造物に痕跡として残る。したがって、美し い面に仕上げるために金鎚の打つ面を鏡のように 綺麗にすることからこのように言われる。金床の 場合、上面が金属の当たる面となり、その面を鏡 と言う。

*10.打つ面である鏡が二次曲面になった蒲鉾形をいう。

*11.ハンマー部と金床部の端をそろえて鍛造を行うと、

挟まれた部分が細くなり、挟まれない部分がその ままの幅で残るため、被鍛造物の上下に同一の段 差ができる。

*12.箱に吸気用、排気用の二つの口と弁を設け、その 中を板状のピストンを往復させる。その往復運動 によって空気を移動させる送風機。吹子とも言う。

*13.送風機(ブロアー)から送られる空気の出口。コ ークスの熱で破壊しないように耐熱性の粘土で作 られる。

*14.金床は震動によって移動しないように、地中に埋 められるほか重さ(大きさ)も必要とされる。鏡 の面が製作者の腰の位置になるように高さ調整さ れる。T氏の作業場では50cm程度埋められた。

*15.目釘となる鉄の丸棒の両端を金鎚で打ち広げ(据 え込み)、二つのパーツを一つに組み上げる操作。

*16.使用している鋼の焼入れ前(硬化させる前の状態)

を「生」といい、その時に行われる研ぎをいう。

*17.高炭素鋼は焼入れによって硬さが与えられている。

しかし、その後の加熱温度によっては硬さが失わ れ(焼きが戻るともいう)軟化してしまうので、

切断能力も失われてしまう。そのため可能な限り 熱を加えないようにする。

*18.既報「鹿児島県・種子鋏の製作に使用される道具 とその形態について」高岡短期大学紀要Vol.19  を参照。

*19.擦り合わせ抵抗は刃の交差、アイの面を回転させ たときに発生する抵抗である。はかりの上で一方 の足を固定し、他方を手で動かして測定を行った。

測定値は切断する一般的なスピードで回転させて 測定し、200回の平均値とした。

*20.この 3 点を含めた調査結果は、参考文献の「鹿児 島県・種子鋏の製作に使用される道具とその形態 について」(高岡短期大学紀要 Vol.19)におい て表としてまとめた。

引用文献

1-1:『福岡県の諸職 福岡県諸職関係民俗文化財調 査報告書』、福岡県教育委員会、p37、平成 2 年 3 月

1-2:『福岡県の諸職 福岡県諸職関係民俗文化財調 査報告書』、福岡県教育委員会、p37、平成 2 年3月

2:『博多の心』、朝日新聞福岡総局編、葦書房、p250、

昭和51年 2 月20日  参考文献

1)『福岡県の諸職 福岡県諸職関係民俗文化財調査報

(6)

告書』、福岡県教育委員会、平成 2 年 3 月

2)「鹿児島県・種子鋏の製作に使用される道具とその 形態について」、中村滝雄・横田勝・ペルトネン純子、

高岡短期大学紀要Vol.19、平成16年 3 月

3)「伝統的鍛冶技法による種子鋏の製作工程について」

中村滝雄・横田勝・ペルトネン純子、富山大学芸術 文化学部紀要Vol.1、平成18年12月

4)『日本の伝統工芸 第二巻』、講談社、昭和52年 3 月22日

5)『九州の工芸地図』、後藤完一、葦書房、昭和54年 3 月20日

6)『福岡県の工芸 伝統と現代』、今泉篤男・河北倫明

監修、昭和59年 2 月 6 日

(7)

写真1 鍛造スペース(鍛冶)

鍛造と熱処理を行うスペースであり、右下が火床、中 央左が金床、左がベルトハンマー、椅子の後に火箸な どの道具が置かれている。

写真3 加飾、調整、仕上げを行うスペース 中央に穂の修正や菱紋などの刻印・目釘のカシメが行 われる金床、その右には刻印用・修正用の金鎚がある。

金床の奥に木台がある。

写真5 ベルトハンマー(上:ハンマー部、下:金床部)

ハンマー部は金床より9.6mm手前に出ており、左1/3 が凸状に加工されている。金床部の鏡は手前を少し下 げて斜めに加工されている。

写真6 火床

燃料は一辺20mm程度の小玉コークスを使用している。

左下に羽口があり、電動ブロアーによって送風する。

写真2 切削・研磨スペース(一部)

中央にあるグラインダーには金剛砂を接着している羽 布が取り付けられている。左側に粒度の粗い金剛砂、

右側に粒度の細かい金剛砂が接着されている。

写真4 ベルトハンマー

かつて向鎚で行っていた鍛造(荒打ち)を行う機械で

ある。モーターの回転を上下の運動に替え、バネ・ベ

ルトの反動を利用している。昭和15年に導入された。

(8)

写真7 羽口

中央の穴から空気が送風される。周りは耐熱性の粘土 で作られ、耐久性を増すために厚く作られている。

写真9 金床(修正用及びけ整形用)

刻印や組立てなどを行う。鏡の右側に目釘棒を切断す る鏨を設定する四角い穴があり、溝や周辺に僅かな凹 面(窪み)を作って穂の修正などに使われる。

写真11 両頭グラインダー(切削用)

♯60の砥石が装着されている。切削は概ねこのグラ インダーで行う。ホースから冷却用の水が供給される。

写真13 火箸

支点から先の部分が斜めに曲がっていて、長い棒でも 加熱した加工部の近くを掴むことができる。

写真8 金床(鍛造用)と当金型

右側に鏡が凸状の鍛造用金床があり、左にシノギの位 置を打ち込む当型が設置されている。

写真10 木台と当金

木台の上面に様々な凹面を作って、熱処理した後の穂 の修正で使用する。また、当金によって足曲げの微調 整を行う。

写真12 両頭グラインダー(研磨用)

酸化クロウム粉を付着させ、仕上げ研磨に使用する。

材質は馬糞紙といわれるボール紙の一種を使用している。

写真14 ヤットコ

先端部の側面に段を設け、アゴからの距離を測って高

炭素鋼の位置を決定する工夫がされている。手前と奥

の長さの違いは、鋏のサイズに対応している。

(9)

写真15 鍛造用ハンマー

鍛接・鍛造(穂の成形)に用いるハンマー。

写真17 加飾用の刻印

左から二の字、菱紋、登録商標「宇」印

写真19 銘彫りの道具

木材の上面にある溝に鋏をはめ込み、布の巻いてある 針金で押さえて銘を彫る。針金は足で引っ張って押さ え込む。(先代の道具)

写真16 当型

座と刃シノギ、ムネシノギの境目を決定するための当 型である。

写真18 銑(三種)

両端のハンドルを手で握り、中央の刃の部分で切削を 行う。(先代の道具)

写真20 磨き台と磨き棒

木台についている金属製の輪に磨き棒の先端を掛けて 支点とする。それを前後移動させて鋏の表面を磨く。

この時「キド」といわれる粉末を用いたと言われる。 (先

代の道具)

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