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茨城大学教育学部紀要 ( 人文 社会科学, 芸術 )58 号 (2009)49 69 音楽と文学の関係 Shakespeare 戯曲 Romeo and Juliet に作曲した場合 平良千夏 * 早川和子 ** (2008 年 11 月 30 日受理 ) A Relationship betwee

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音楽と文学の関係

― Shakespeare 戯曲 Romeo and Juliet に作曲した場合―

平良 千夏 *・早川 和子 **

(2008 年 11 月 30 日受理)

A Relationship between Music and Literature:

Tunes Inspired by William Shakespeare’s Romeo and Juliet

Chinatsu TAIRA*, and Kazuko HAYAKAWA**

(Received November 30, 2008) Abstract Ⅰ.はじめに  最近は,「ことばと音楽の素敵な関係」¹)というテーマでコンサートが行われたり,「文学と音楽 の関係」という題で芥川賞作家,川上未映子さんのことが記事になったり ²)と,言葉と音楽の関連 性を考える機会が増えている。  言葉と音楽は,文字が発明される以前の時代から緊密に結びついていた。紀元前 8 世紀頃のギリ シャ時代,音楽は基本的に単声的なものであったが,詩の旋律やリズムと関係が深かったと言われ ている。詩は歌うように朗読されるときに詩としての価値を持つとされ,ギリシャ人たちにとって この 2 つは事実上同義だった。それは lyric(叙情詩)という言葉の語源が lyre という楽器に合わせ て歌う詩のことであるということからも分かる ³)。しかし従来,音楽はそれぞれの作品として独立

茨城大学大学院教育学研究科(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Graduate School of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)

茨城大学教育学部音楽教育研究室(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Laboratory of Music Education, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)

* **

The purpose of this paper is to consider how composers express their feelings and passion in Shakespeare’s Romeo and Juliet and how they interpret the drama by analyzing the scores. We examine an orchestra piece by P. I. Tchaikovsky, a symphony by H. Berlioz, an orchestra suite and a piano suite by S. Prokofiev. They have created their unique music: musical forms, organization of musical instruments, and the time required to perform are all different. They have utilized the drama not only for their artistic idea but also for their respect for Shakespeare.

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して存在すると考えられ,同じ詩に付曲された作品,さらには同じ文学作品をもとに作曲された作 品が多数あることはあまり知られていない。殊にそれらを作曲学的見地から分析した論文や文献は, 日本ではほとんどないといってもよいだろう。詩と音楽の関係については,笹本正樹が,北原白秋 の詩「砂山」に付曲した中山晋平と山田耕筰の作品を比較し⁴),金原礼子がフォーレとフランス詩 人たちについて研究し⁵)ゲオルギアーデスがシューベルトのリートについて研究している⁶。また, エーミール・シュタイガーの公演と論文を集めた『音楽と文学』もあるが⁷),同じ文学作品をもと に作曲された曲同士を比較検討した論文や文献は見つけることができなかった。  そこで本論文では,言葉による芸術とも言える文学作品と音楽の関係を考える新しい分野の研究 となることを目指す。16 世紀から 17 世紀を生きたイギリスの劇作家 William Shakespeare(1564 ~ 1616)の戯曲 Romeo and Juliet(1594 年)は後に多くの作曲家たちのインスピレーションをかきたて るもとになっている。かの有名な L.Bernstein(1918 ~ 1990)のミュージカル Westside Story(1957

年)もこの戯曲が原点になっている⁸)。『ロミオとジュリエット』は,時代や,文化を超えた永遠の テーマである恋愛の物語であり,オペラでは約 40 曲,その他,バレエ音楽や付随音楽と多くの作曲 家たちが様々な形態で作曲している。ロマン派では H.Berlioz(1803 ~ 1869),C.Gounod(1818 ~ 1893),P.I.Tchaikovsky(1840 ~ 1893),近現代では S.Prokofiev(1891 ~ 1853)など有名な作曲家 も多数作曲している。その中でも本稿では,一般的によく知られており,演奏されることが多いチャ イコフスキーの「幻想的序曲《ロメオとジュリエット》」,ベルリオーズの「劇的交響曲《ロメオと ジュリエット》」,プロコフィエフの「管弦楽組曲《ロメオとジュリエット》」を分析・比較検討する。 チャイコフスキー作曲《ロメオとジュリエット》,プロコフィエフ作曲《ロメオとジュリエット》は, テレビでも放送され,聴いたことがある人も多いだろう⁹)。ロシアの作曲家チャイコフスキーとプ ロコフィエフ,そしてフランスの作曲家ベルリオーズが,それぞれどのように戯曲『ロミオとジュ リエット』に向き合い,そしてそれをどのように楽曲として表現したのだろうか。作曲家によるこ の戯曲へのアプローチや表現方法の違い,曲に表れる彼らの思いや願いを明らかにしていく。 Ⅱ.戯曲『ロミオとジュリエット』について

  戯 曲 Romeo and Juliet(1594 年 ) は, イ ギ リ ス 文 学 史 上 最 も 有 名 な 作 家 で あ る William Shakespeare(1564 ~ 1616)の初期の悲劇的恋愛作品である。イタリアの物語を参考にした作品で, 作品のあらすじは以下のようである。  作品の舞台はイタリアのヴェローナ。キャピュレット家とモンタギュー家という敵対する 2 つの 名家があり,キャピュレット家のジュリエットとモンタギュー家のロミオが相思相愛の仲となって しまう。修道士ロレンスの助けを得て,密かに結婚するが,ロミオは決闘の末に追放となってしまう。 ジュリエットは,ロミオとの別れを両親から迫られ,ロレンスに相談したところ一計を授けられる。 それは仮死状態になる薬を飲み,埋葬された後,駆けつけたロミオと一緒に逃げると言うものであっ た。ジュリエットは彼のアドバイスに従い,仮死状態となって墓に埋葬される。しかし,その計画 についての連絡がロミオに届かず,ジュリエットが死んだとだけ聞いて駆けつけ,自らも毒楽を飲 んで自殺してしまう。その後に,目を覚ますジュリエットは,ロミオの死を知ると,ロミオの短剣

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を用いて,後を追って自殺してしまう。この2人の死によって憎しみあっていた両家が和解する ¹⁰) なお,音楽作品では《ロメオとジュリエット》と表記されている。 Ⅲ.チャイコフスキー作曲 序曲《ロメオとジュリエット》 1)チャイコフスキーと序曲《ロメオとジュリエット》について  P.I.Tchaikovsky(1840 ~ 1893)は 1840 年,ロシア中部に生まれた。チャイコフスキーは,ヴァー グナーやブラームスの音楽に疑問を持ち,音楽の表現上の価値を,直感的に感じ取れる分かりやす い要素に求めていた ¹¹)。それゆえに,多くの人々を引きつける作品を多数残している。  この作品は 1869 年に作曲された,チャイコフスキーの初期の作品で,バラキレフの指導を受け, バラキレフの序曲《リア王》の構成を模範としている。この曲の作曲,そして改訂がチャイコフスキー の成長を促したと言われている。現在演奏されるのは 1880 年の改訂版を用いることが多い。  序曲《ロメオとジュリエット》は,序奏,コーダ付きのソナタ形式で書かれており,物語の筋立 ては両家の争いと2人の恋愛に限定され,それがソナタ形式の2項対立の構造と結び付けられてい る ¹²)。楽器編成は,ピッコロ,フルート2,オーボエ2,コーラングレ,クラリネット2,ファゴッ ト2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン3,テューバ,ティンパニ,シンバル,大太鼓,ハー プ,弦5部で,演奏時間は指揮者によって多少の差はあるものの約 20 分である。ピアノ編曲版も 出版されている。 2)楽曲分析  この曲は次のように構成されており,情景が思い浮かべやすく,叙情的なメロディーは聴衆をひ きつけてやまないが,楽曲構成的にもモティーフの活用等が工夫されている。 序奏 第1小節から第 111 小節 主調:嬰ヘ短調 提示部 第 112 小節から第 272 小節  主調:ロ短調  第1主題の提示(第 112 小節から第 115 小節) ロ短調 Fl, Vn   確保(第 151 小節から第 154 小節) ロ短調 Fl, Tp, Vn  第2主題の提示(第 184 小節から第 189 小節) 変二長調 Cor, Va, Cor-Ing  副次的な主題の提示(第 192 小節から第 211 小節) 変ロ短調  第2主題の確保(第 213 小節から第 218 小節) 変ニ長調 Fl, Ob          (第 235 小節から第 240 小節) 変ニ長調 Fl, Ob, Cl 展開部 第 273 小節から第 352 小節  主調:嬰ヘ短調  再現部 第 353 小節から第 484 小節  主調:ロ短調  第1主題の再現(第 353 小節から第 356 小節) ロ短調 Fl, Tp, Vn  副次的な主題の再現(第 367 小節から第 388 小節)ホ短調 Ob, Cl  第2主題の再現(第 389 小節から第 396 小節) ニ長調 Picc, Fl, Va, Vc  第2主題の再現(第 411 小節から第 419 小節) ニ長調 Picc, Fl, Cl, Fg, Vn, Va,Vc

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 第 1 主題の再現(第 446 小節から第 449 小節) ロ短調           (第 454 小節から第 457 小節) ハ短調 コーダ 第 485 小節から第 522 小節  主調:ロ長調          序奏部(第 1 小節から第 111 小節)は,アンダンテ・ノン・タント・クワジ・モデラート,嬰へ 長調・4/ 4拍子で,ロメオとジュリエットの愛を実らせようとする僧ロレンスのテーマ(譜例1) が,クラリネットとファゴットのコラールで提示されることで始まる。この旋律が序奏部のもっと も大切な旋律になっている。  譜例 1    提示部(第 112 小節から第 273 小節)は,アレグロ・ジュスト,ロ短調・4/4 拍子と指定され, 第1主題(譜例 2)がトゥッティで現れる。これはモンタギュー家とキャピュレット家の根強い対立, そして両家の激しい決闘をよく表している。  譜例 2  第 176 小節から 183 小節では,ロ短調の平行調であるニ長調の属七の和音が登場し,第2主題が, 短調のソナタ形式の原則どおり主調の平行調で現れることを予期させている ¹³)。しかし,実際には, 第2主題(譜例3)は半音低い変ニ長調で現れる。コーラングレとヴィオラによって,ロメオとジュ リエットの愛の表現がロマンティックに語られ,この曲全体の魅力的要素を示している。また第 2 主題は,オリエンタリズム的語法が用いられ,これによりヴェローナの恋人たちはヨーロッパ人で はなくペルシャ人なのかと批判されたほどであった ¹⁴)  譜例 3

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第 192 小節からは,副次的な主題(譜例4)が弱音器をつけた弦楽器によって奏でられ,甘く切な い愛に満ちた雰囲気をかもし出している。  譜例 4  展開部(第 273 小節から第 352 小節)は,第1主題(譜例2)の最初のモティーフに始まり,第 1主題の展開とロレンスのテーマ(譜例1)が登場する。第 331 小節からは,激しい両家の決闘が 全楽器で 12 小節間にわたって ff で壮大かつ力強く奏された(譜例5)後,まるでロレンスがこれ を諌めているかのようなシーンを経て,再現部へと続く。今まで抑えられていた金管楽器が華々し く活躍するのもこの展開部である。  譜例 5  再現部(第 353 小節から第 484 小節)は争いの気分が高潮したまま入り,第1主題(譜例2)が ロ短調,ff で再現され,副次的主題も第 367 小節よりロ短調で再現され,続いて第2主題(譜例3) も変二長調で再現される。しかし,この第2主題は第1主題によって打ち消され,第 446 小節から の第1主題(譜例2)の確保に導かれる。その後,ロレンスのテーマ(譜例1)と第 1 主題(譜例 2) が数回奏でられたのち,コーダに入る。  コーダ(第 485 小節から第 522 小節)は,再現部の主調であったロ短調の同主調であるロ長調を 主調としている。ティンパニとコントラバスが主音である h 音 ¹⁵)を刻み,ファゴットと弦楽器は 第2主題(譜例3)の断片を奏でる。やがて,木管楽器が序奏と同じコラール風のメロディーを再 現し,ハープが分散和音をアルペッジョで奏し,曲を徐々に盛り上げていく。最後の4小節は,全 楽器が最強音でロ長調Ⅰの和音を奏で,壮大かつダイナミックに曲は終了する。この4小節は,不 幸な両家の争いの歴史の終焉と,両家とって大切な存在であったロメオとジュリエットの悲壮な叫 びを表していると思われる。このコーダは,悲劇の最終場面でありながらも長調で明るくなってい

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るのは,天国での2人の永遠なる幸せ,両家の和解と発展を祈るチャイコフスキーの願いが込めら れているからであろう。戯曲『ロミオとジュリエット』に共感し,芸術作品として高い価値を与え たからこそこの名曲が誕生し,長く人々に親しまれることになった。 Ⅳ.ベルリオーズ作曲《ロメオとジュリエット―合唱,独唱,及び合唱レチタティーヴォのプロ        ローグ付きの劇的交響曲》         1)ベルリオーズと交響曲《ロメオとジュリエット》について  Hector Berlioz(1803 ~ 1869)はフランス,リヨン郊外に生まれた。この曲が作曲されたのは 1839 年,《幻想交響曲》,《イタリアのハロルド》に次ぐ第3番目の交響曲である。彼の作品のオー ケストレーションにおいて管楽器が最大限に発揮されているのは,彼の音楽の学習が管楽器(フルー ト)から始まったことに根ざしている。作曲の動機は,1827 年に英国劇団によるシェイクスピアの 戯曲をみて,大きな影響を受け,ジュリエット役の Harriet Smithson に憧れたことであり,その後ベッ リーニの I Montecchi ed i Capuletti をみて意思が固まったのだといわれている。合唱,独唱の歌詞は Emile Deschamps によるものである ¹⁶)  楽器編成は,独唱(アルト,テノール,バス),小合唱,合唱(ソプラノ2部,テノール2部,バ ス2部)。フルート2(1はピッコロ持ち替え),オーボエ2(1はコーラングレ持ち替え),クラリネッ ト2,ファゴット4,ホルン4,トランペット2,コルネット2,トロンボーン3,テューバ,オフィ クレイド ¹⁷),ティンパニ 2 対,大太鼓,シンバル,古代小シンバル,トライアングル2,タンブリン2, ハープ2,弦 5 部(最低 15 − 15 − 10 − 14 −9)。初演は 1839 年 11 月 24 日,パリ音楽院のホールで, ベルリオーズ自身の指揮と 200 人の演奏者によって行われた。その後,改訂が行われ,1857 年に出 版された。演奏時間は,指揮者によって異なるが約1時間 35 分である。 2)楽曲分析  この曲は,以下のような楽章構成になっている。 第 1 楽章(第 1 小節から第 199 小節+第 1 小節から第 337 小節 536 小節)  管弦楽+独唱+小合唱 第2楽章(第 1 小節から第 414 小節)  管弦楽のみ 第3楽章(第 1 小節から第 389 小節)  管弦楽+合唱 第4楽章(第 1 小節から第 769 小節)  管弦楽のみ 第5楽章(第1小節から第 39 小節) 管弦楽+合唱 第6楽章(第 1 小節から第 227 小節)  管弦楽+合唱

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第7楽章(第 1 小節から第 457 小節)  管弦楽+独唱+小合唱+合唱 各楽章を詳細に分析すると以下のようになる。 第 1 楽章(第 1 小節から第 199 小節+第 1 小節から第 337 小節 計 536 小節)  第 1 楽章は,イントロダクション,プロローグ,ストロフ,スケルツェットによって構成され, 管弦楽と合唱,独唱によって成り立っている。  先ず,199 小節にわたる長大なイントロダクションだが,2管編成の管弦楽によって奏され,第 1楽章のメインである存在感をいかんなく発揮する。ロ短調・2/2 拍子のメインテーマ(譜例6)が, 弦楽器でフーガ的に展開されることから開始され,両家の争いが描き出される。  譜例 6  やがて,トロンボーンとオフィクレイド ¹⁷)が領主エスカラスの戒めを表すかのように響き渡る。 そして第 171 小節より,弦楽器だけになり静かに終わる。  プロローグは,モンタギュー家とキャピュレット家の対立,ロメオとジュリエットが愛し合って いることが,98 小節にわたりアルトとテノールのソロと合唱によってレチタティーヴォ的に説明さ れる。舞踏会の主題(譜例7)が,イ長調,2/2 拍子で提示されるとともに,第3楽章で繰り広げ られるジュリエットの主題(譜例8)も提示される。  譜例 7  譜例 8  ストロフは,ト長調,6/8 拍子でハープのアルペッジョに乗って,96 小節間にわたりロメオとジュ リエットの陶酔的な愛が歌われる(譜例 9)。

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 譜例 9  スケルツェットでは軽快なリズムのもと,愛の妖精女王マブのことが歌われる(譜例 10)。  譜例 10 第 2 楽章(第 1 小節から第 414 小節)  第2楽章は,「ロメオただひとり,憂鬱,音楽会と舞踏会」と標題がつけられた前半部(第1小 節から第 129 小節),「饗宴」と標題がつけられた後半部(第 130 小節から第 414 小節)の2つの部 分によって構成される。管弦楽のみによって成り立つ楽章で,主な旋律は譜例7と譜例 11 である。  弦楽器の情熱的な序奏に始まり,ロメオのジュリエットへの愛を表すと思われるような憧れに満 ちた旋律(譜例 11)が木管によってへ長調,4/4 拍子で提示される。  譜例 11 やがて,舞踏会のリズムが現れ,舞踏会の主題(譜例7)と譜例 11 が重なり,打楽器も多種類加 わり,管弦楽によって鮮やかな舞踏会の光景が目に映るように描かれる。管弦楽法に長けていたベ ルリオーズらしさがよく表れている部分である。 第3楽章(第 1 小節から第 389 小節)   「澄み切った夜,ほの暗く静寂な夜のキャピュレット家の庭園」と標題がつけられた前半部(第 1小節から第 123 小節)と,「愛の情景」と標題がつけられた後半部(第 124 小節から第 389 小節) の2つの部分によって構成されている。  イ長調,6/8 拍子。冒頭,弦楽器が pppp で和音を奏で,そこに木管楽器も加わることによってこ の曲は始まる。豪華だった舞踏会は終わり,静まりかえった様子がよく表されている。小合唱が,

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2部に分かれて,楽しかった舞踏会の思い出をしみじみと歌い,その後,「愛の庭」(第 124 小節か ら第 389 小節)に入る。  再び,イ長調,6/8 拍子でジュリエットの主題(譜例8)は何度も繰り返され,ロメオとジュリエッ トが語り合う「愛の庭」が表情豊かに描かれている。後半では譜例7の陰で弦楽器が 16 分音符の 細かなリズムを刻み,後の悲劇を予想させ,ジュリットの主題(譜例8)がだんだんディミヌエン ドし,静かに消えるように第3楽章は終わる。 第4楽章(第1小節から第 769 小節)  「愛の妖精女王マブ」と標題がつけられ,軽快でスケルッツォ的な曲である。ヘ長調,3/8 拍子。 管弦楽のみで演奏される。この楽章での主な旋律は譜例 12 で,それが,弦楽器や木管楽器によって 奏でられながら展開する。中間部では,ヘ長調・3/4 拍子の楽句(第 354 小節から第 417 小節)を 挟みながら,再び 3/8 拍子へと戻り,最後はホルン,打楽器も加わり華やかに終わる。  譜例 12 第5楽章(第1小節から第 142 小節)  この楽章は「ジュリエットの葬送」と標題がつけられ,悲しみに満ちた曲である。この楽章では, 主な旋律である譜例 13 がホ短調・4/4 拍子で,先ず弦楽器でフーガ的に展開され,次に木管楽器で も同様に展開される。第 68 小節よりホ長調へと転調し,キャピュレット家の合唱でもこの主題は 登場し,第 113 小節より再び弦楽器で展開され,曲はクライマックスに近づいていく。  譜例 13 キャピュレット家の合唱は,ソプラノ,テノール,バスに分かれて,ジュリエットを送る歌を歌っ ている。 第6楽章(第 1 小節から第 227 小節)  「キャピュレット家の墓地におけるロメオ」(第1小節から第 47 小節),『目覚め』(第 48 小節から 227 小節)と標題がつけられたこの楽章での主な旋律は,譜例 14 と譜例 15 である。  最初は,ホ短調・2/2 拍子で,弦楽器と木管楽器によるあわただしいリズムによって墓地へ急ぐ ロメオが描かれる。それが,高潮した後は,充分に休符を含んだ弱音の和音が響く(第 34 小節か ら第 47 小節まで,全ての小節にフェルマータがついている)。  次の「目覚め」では,嬰ハ短調・12/ 8拍子で,感傷的な旋律(譜例 14)が繰り返し奏でられる。

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 譜例 14 ところが後半では,弦楽器のトレモロとクラリネットの断片的なパッセージによって不気味な様子 がかもし出される。やがて第 90 小節より,イ長調・2/2 拍子でロメオと再会したジュリエットの喜 びが華々しく描かれる(譜例 15)。舞踏会の主題(譜例7)を思い起こさせるような華やかさである。  譜例 15    この後第 148 小節からは,弦楽器と管楽器の断片的な音型の繰り返しによって,第6楽章は悲し げに終わる。 第7楽章(第1小節から第 457 小節)  この楽章は「フィナーレ」(第 1 小節から第 135 小節)「アリア」(第 136 小節から第 369 小節)「和 解の誓い」(第 370 小節から第 457 小節)という3つの部分によって成り立つ。  イ長調・2/2 拍子の金管楽器によるファンファーレによって幕を開け,モンタギュー家,キャピュ レット家の合唱により,墓地での出来事を悲しむ。その後,第 44 小節から第 135 小節では,ロレ ンスのレチタティーヴォでロメオとジュリエットが結婚していたこと,そして,ジュリエットが仮 死状態になる薬を飲んで仮死状態で墓に埋葬され,迎えにきたロメオと一緒に逃げるという計画に ついて説明する。  第2部分の「アリア」は,変ホ長調・3/4 拍子でロレンスのアリアが歌われる(譜例 16)。  譜例 16 その後,第 238 小節からニ長調に転調し,両家の口論を合唱によって表わし,両家の争いを表す主 題(譜例6)が,弦楽器,木管楽器でフーガ的に展開されている。  最後の「和解の誓い」では,ロ長調・9/8 拍子でロレンスが神に誓って歌い(譜例 17),続いて両 家の合唱,そしてプロローグで使われた小合唱も加わり,打楽器をまじえた全楽器による華々しい

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管弦楽の響きによってこの曲は幕を閉じる。ベルリオーズの平和への切なる願いが力強く,激しく, 壮大に訴えかける。  譜例 17  以上のように,ベルリオーズ作曲《ロメオとジュリエット》は,7つの楽章によって構成され, それぞれの楽章が自由な形式によって成り立っている。また,譜例 6,7,8,11,12,13,14,15, 16 の9つの主題がイディー・フィクス(ライト・モティーフ)として繰り返し使用され,声楽をも 含む自由な形式によるこの交響曲に統一感をえるのに重要な役割を果たしている。ベルリオーズは, ベートーヴェンの音楽に触発されて交響曲を作曲するようになったのだが,彼の交響曲は多くの人 がベートーヴェンの交響曲についてとらえていたような純粋な器楽曲としての交響曲とは異なり, 楽章構成,編成ともに自由な「器楽の劇」である。合唱,独唱を伴い,オペラの領域に踏み込んで いるが,彼には交響曲的な構成をとるという意図が念頭にあり,説明的な部分は声楽を用いて作曲 し,主要な部分は器楽で表現している ¹⁸)  第4楽章に「愛の妖精女王マブ」というシェイクスピアの物語でもマーキューシオの話の中に出 てくるだけのものであり,ましてや物語の展開にはまったく関係のないものを取り入れたのは,お そらく古典的な交響曲の間に挟まれるスケルッツォを念頭に置いたからではないかと考えることが できる。  ベルリオーズはこの曲を,彼の才能を認め,多額の金銭を与えることによって彼の芸術家として の命及び地位を確保してくれた N. Paganini(1782 ~ 1840)に捧げるために作曲した。それは,『ロ ミオとジュリエット』という戯曲が芸術作品として価値あると判断したことだけでなく,どこか自 分の境遇と重なる部分があったからではないだろうか。それは,2人の恋愛とベルリオーズとパガ ニーニの芸術家同士の互いに認め合う純粋な愛情が重なるのかもしれないし,争いから和解への過 程が困難を乗り越え芸術家としての自分の発展と重なるのかもしれない。 Ⅴ.プロコフィエフ作曲 管弦楽組曲《ロメオとジュリエット》 1)プロコフィエフと管弦楽組曲《ロメオとジュリエット》について  S. Prokofiev(1891~1953)は,1891 年,ウクライナ南部に生まれた。大学卒業後,1933 年に祖国 に帰国するまでヨーロッパやアメリカを拠点に作曲,演奏活動を続け,帰国後はソヴィエト作曲家 として当局に協力する作品をたくさん残している。この曲もそのひとつである。この曲は,マリイー ンスキイ劇場用に依頼され,1934 年から 1935 年にバレエ音楽として作曲されたものを,その魅力 的なところを集めて作曲者自身が管弦楽組曲として編曲したものである ¹⁹)  楽器編成は,ピッコロ,フルート2,オーボエ2,コーラングレ,クラリネット2,バス・クラリネッ

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ト2,テナー・サクソフォーン,ファゴット2,コントラファゴット,ホルン4,コルネット,ト ランペット2,トロンボーン3,テューバ,ティンパニ,大太鼓,小太鼓,トライアングル,シン バル,タムタム,タンブリン,シロフォン,マラカス,鐘,ハープ,チェレスタ,ピアノ,マンドリン,ヴィ オラ・ダモーレ(使用は任意),弦5部である。演奏時間は,指揮者によって多少違うものの,第 1 組曲約 26 分,第2組曲約 24 分,第3組曲約 26 分である。  この論文の元となる卒業論文 ²⁰)では第3組曲まで分析したが,本稿では紙面の制限の関係上, 第1組曲のみを掲載することとし,第2組曲及び第3組曲は別な機会に公表することとした。 第1組曲 第1曲「フォークダンス」(第 1 小節から第 265 小節)  バレエ音楽でも第2幕の冒頭を飾る曲。ニ長調・6/ 8拍子でⅠの和音が4回連打された後,オー ボエとコーラングレがニ長調の陽気な舞踏のメロディー(譜例 18)を奏でる。ヴァイオリンが高音 でこれに呼応するかのごとくメロディーを奏でる。  譜例 18 やがて,弦楽器,木管楽器,ピアノも加わり,踊りの音楽は華やかさを増し,踊り仲間が増え,次 第に熱気にみちた情景が繰り広げられる。やがて,クラリネット,フルートによって活気あふれる メロディー(譜例 19)が登場し,金管楽器,打楽器も加わり全楽器が活躍しだし,民衆の踊りは最 高潮に達する。  譜例 19 第 257 小節より,サクソフォーンとファゴット,チェロが譜例 17 を奏で,それが弦楽器に吸い込 まれたかに見えたとたん,驚かすかのような ff の和音の連打で第 1 曲は終了する。 第2曲「情景」(第 1 小節から第 93 小節)  弦楽器による 2/4 拍子のリズム(譜例 20)を特徴とし,このリズムが1曲を通して奏でられる。  譜例 20

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曲全体を通しての主たるメロディーは譜例 21 だが,ファゴット,ヴァイオリン等のソロで奏でら れるこのメロディーは単純であまり面白みがない。  譜例 21 これらのリズムやメロディーから,人々が帰ってしまい閑散とした街の情景を想像することができ る。最後は,譜例 21 がファゴットによって奏され,それが消えたかと思うと,全楽器の驚かすよ うな ff の一撃で曲は終わる。 第3曲「マドリガル」(第 1 小節から第 82 小節)  第1ヴァイオリンによって,ト長調でロメオの主題(譜例 22)が提示される。ここでは,第1ヴァ イオリン,ヴィオラ,チェロのヘテロフォニーによって豊かな和声が作られ,これがロメオの優雅さ, 高貴さをよく表されている。  譜例 22 フルートによって,ハ長調で奏でられるジュリエットの主題(譜例 23)は,フルートの音色や跳躍 進行がジュリエットのあどけなさを強調している。  譜例 23 この 2 つの主題は,転調を繰り返し,第 59 小節からは,2 人の愛を表す主題(譜例 24)がハ長調 で奏され,壮大な愛の世界が表現される。  譜例 24

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第4曲「メヌエット」(第 1 小節から第 86 小節)  キャピュレット家の舞踏会へ招かれた客たちが登場するときの曲。ロ長調・3/ 4拍子で,シンバ ルの強打とともに,木管楽器で華やかなメヌエット(譜例 25)が始まり,キャピュレット家の舞踏 会は幕を開ける。第 29 小節からのコルネットとホルンによる表情豊かなトリオを経て,譜例 25 の 豪華なメヌエットが再現する。  譜例 25 第5曲「仮面」(第 1 小節から第 39 小節)  この曲は以下のような構成で,2 部形式である。 第1小節から第4小節  序奏   第 22 小節から第 29 小節 b 第5小節から第 13 小節  a      第 30 小節から第 37 小節 a″ 第 14 小節から第 21 小節 a′     第 38 小節から第 39 小節 コーダ  1曲を通して奏でられる8分音符のリズム(譜例 26)を特徴とする。  譜例 26  ヴァイオリン,クラリネット,フルートによって奏されるターンを特徴とした譜例 27 の旋律は 繰り返し現れるが,仮面舞踏会に参加したマーキューシオ等若者たちの明るく,くったくのない様 子を表している。  譜例 27 第6曲「ロメオとジュリエット」(第 1 小節から第 149 小節)  ラルゲットのゆっくりした楽句の後,第 19 小節より変イ長調でロメオの主題(譜例 22)が現れる。 その後,弦楽器のスル・ポンティチェッロに導かれて,フルートがハ長調でジュリエットの主題(譜 例 23)を奏する。ジュリエットの主題が,弦のスル・ポンティチェッロによって切れ切れになるの は,ジュリエットがうきうきして軽やかに登場する光景を描いたようにも思える。その後,2人の 愛を表すメロディー(譜例 24)が現れる。さらに,愛を表すメロディー(譜例 28,譜例 29)が現れ, この3つの愛の主題が重なり合って曲は進んで行く。

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 譜例 28  譜例 29 愛の気分が高まったところで,第 126 小節からは 2 本のクラリネットの掛け合いが始まる。まるで 愛する2人を表しているかのようだ。この時,オーボエ,第 1 ヴァイオリンで奏でられるメロディー (譜例 30)はロメオの主題である。  譜例 30 第7曲「ティバルトの死」(第 1 小節から第 201 小節)  この曲は3つの部分によって構成されている。第1部分(第1小節から第 71 小節)は,弦楽器 による激しい戦いを表すメロディー(譜例 31)と,不気味な半音階的な和声進行が特徴である。  譜例 31 第2部分(第 72 小節から第 107 小節)は,弦楽器が 16 分音符で上行,下行を繰り返し(譜例 32) 戦いの激しさを連想させる。  譜例 32

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第 154 小節から第 168 小節で,g 音,b 音,d 音,f 音,a 音 ¹⁵)の5和音が 15 回連打された後,第 3部分(第 108 小節から第 201 小節)は金管楽器によって奏でられる寂しげな弔いの音楽である。 戦いの後に,シェイクスピアの物語にはない弔いの音楽(譜例 33)を加えるところは,この悲劇を いくらかでも和らげようと願うプロコフィエフの真情が感じ取れる。  譜例 33 Ⅵ.比較と検討  文学と美術作品との関連については,多く研究されている。シェイクスピアの戯曲が 18 世紀半 ば頃から 20 世紀はじめくらいまで,画家たちの尽きることのないインスピレーションの源となり, J. Constable(1776 ~ 1837),F. Delacroix(1798 ~ 1863)など多くのヨーロッパの画家たちがシェ イクスピアの戯曲を題材とした絵画を残している。ジョン・クリスチャンは「聖書を除けば,シェ イクスピア以上に西洋の美術に影響を与えた文学的源泉は思いつかない」とまで述べている ²¹)。イ ギリス・ロマン主義運動(18 世紀後半から 19 世紀初頭)が加速していくにつれて,最初はイギリ ス絵画だけであったこのような傾向が国際的に広がり,19 世紀に入ると音楽作品にも同様の傾向が みられるようになった。音楽作品における《ロメオとジュリエット》は,1778 年の Georg Anton Benda(1722~1795)のジングシュピール《ロメオとユリエ》以降しばらくは作曲されず,1836 年の George Alexander Macffarren(1813 ~ 1887)の《ロメオとジュリエットのための序曲》以降は, ベルリオーズ,グノーをはじめ多くの作曲家によって様々な形態で作曲されている。  また,シェイクスピアの他の作品については,戯曲『真夏の夜の夢』を元に作曲された F. Mendelssohn(1809~1847)の劇音楽《真夏の夜の夢》は有名であり,『マクベス』『リア王』などの 戯曲も,それぞれ複数の作曲家によって作曲されている。イギリス文学史上でもシェイクスピアは, 最も有名な作家であり,後世の多くの作家たちに多大な影響を与えているが,彼は,同時に西洋の 画家や作曲家たちにも大きな影響を与えていることが分かる。  今回筆者は,『ロミオとジュリエット』をもとに作曲された音楽作品の中でも,一般的によく知 られた作曲家である,チャイコフスキー,ベルリオーズ,プロコフィエフの作品を取り上げ,楽曲 分析を通して,それぞれの作曲家によるこの作品へのアプローチや表現方法の違いを明らかにした。  チャイコフスキー,プロコフィエフはロシアの作曲家であり,ベルリオーズはフランスの作曲家 である。また,チャイコフスキー,ベルリオーズは音楽史の区分でロマン派に属し,プロコフィエ フは近現代に属している。3 人の曲の特徴をあげると,つぎのごとくである。  チャイコフスキー作曲《ロメオとジュリエット》は,もっとも大衆に親しまれている曲であるが, この曲が多くの人に親しまれる理由は,物語を連想させやすい楽曲構成,2人の愛を表すロマン ティックな甘いメロディー,そして豊かな管弦楽の響きにあるのではないだろうか。この曲は,物

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語の展開を追うのではなく,それを自分の中で昇華し,音楽としての美しさを第1に考えて作られ ている。形式は,序奏,コーダつきのソナタ形式で,第1主題は両家の対立,第2主題は2人の愛 を表す。この2つの主題が絡み合い,そこにロレンスのテーマが加わって音楽は展開していく。音 楽形式の中で最も重要であるソナタ形式の中で,激しい戦いの主題とロマンティックな愛の主題を 対立されることで,物語を聴衆が連想しやすいように作曲されている。僧ロレンスは原作の中で, 登場回数は少ないが,ロメオとジュリエットの悲劇を生み出す元凶である。チャイコフスキーも, ロレンスの役割を大切なものとして捉えていたことがロレンスのテーマが登場することからもうか がえる。  この曲のコーダは,悲劇でありながら長調で明るく,さらに最後に全楽器の最強音で鳴り響かせ ていることから,戦いの終焉を告げ,天国での2人の幸せ,つまり平和を願うチャイコフスキーの 思いが表れているのだと考える。展開部で大規模に展開される戦いの主題は,2人の愛の主題,平 和を願う彼の思いを引き立たせている。  ベルリオーズは劇的交響曲として《ロメオとジュリエット》を書いている。この曲は2管編成の オーケストラに加えて,独唱や大規模な合唱を含み,オペラティックな曲である。大規模な管弦楽 の使い方にはベルリオーズらしさを感じる。この曲は標題交響曲であるので,楽譜に記された標題 から彼が表そうとしている情景を読み取ることができる。ロメオ,ジュリエット,そして舞踏会を 表すメロディーがイディー・フィクス(ライト・モティーフ)として何回も繰り返されることは, 聴衆が情景を思い浮かべやすく,また自由な形式で構成されたこの曲に統一感を与えるのに大きな 役割を果たしている。  シェイクスピア作との相違点を考えてみると,シェイクスピア作では,ロメオの死後にジュリエッ トが目覚めるのだが,この曲では,毒を飲んだロメオがまだ生きているうちにジュリエットも目覚 め,2人で抱き合って息絶えるというようになっている。また最後は,全楽器の華々しい響きとと もにロレンスがモンタギュー,キャピュレット両家が和解を神に誓って歌う。シェイクスピアの物 語の悲劇性を緩和し,両家の和解と繁栄そして何より平和を願うベルリオーズの思いが込められて いる。  第4楽章には,話しの筋と関係のない「愛の妖精の女王マブ」が加えられている。「ベルリオー ズがあえてこの部分を取り上げたのは,ただ単にオーケストレーションの題材として食指を動かさ れただけでなく,おそらくこの悲劇全体を,マブが魔法でロメオに見せた「夢の物語」であったと 解釈していたからかもしれない ²²)。」  ほぼ同時代のフランスの作曲家であるグノーのオペラ《ロメオとジュリエット》でも,「マブ女 王のバラード」が第1幕中の1曲として取り上げられているというのは興味深い。これは当時のフ ランスの『ロミオとジュリエット』の捉えかたを反映しているのかもしれないが,それを断定する には歴史的研究も必要であり,本稿ではそこまで言及しないが,この時代のヨーロッパ美術界では, 多くの画家たちが妖精を題材にした絵を描き,妖精趣味とも言える傾向があったことは事実である ので,その影響ともとらえることもできるのではないだろうか。ベルリオーズの場合は,伝統的な 交響曲のスケルツォを念頭に置いたものだろうが,これがかえって両家の決闘から生まれる2人の 悲恋という重い内容を引き立たせている。  プロコフィエフは,チャイコフスキーの約半世紀後のロシアを生きた作曲家だが,彼はバレエ音

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楽として《ロメオとジュリエット》を作曲している。そして,バレエ音楽を更に管弦楽組曲やピア ノ組曲に編曲している。今回,筆者が分析したのは管弦楽組曲だが,これはバレエ音楽の魅力的な 部分を集め編曲している。元来がバレエ音楽であったため,「民衆の踊り」「騎士たちの踊り」,舞 踏会に招待された客達が踊る場面など,踊りの音楽が多く,バレエを加えたときの美しさを念頭に 置きながら作曲されているということがよく分かる。  音楽的な特徴としてはまず,随所に見られる頻繁な転調や複調性,第2組曲第1曲の冒頭で登場 するクラスター ²³)など他の2人の作曲家との時代の相違を感じることができる。ベルリオーズで はそれぞれ 1 つだったロメオ,ジュリエットを表すイディー・フィクス(ライト・モティーフ)だが, プロコフィエフではロメオとジュリエット,そして2人の愛のさまざまな性格が,複数のモティー フによって表され,それがライト・モティーフとして組曲中で繰り返し使用されている。さらに, 乳母やマーキューシオ,ティバルトなど脇役にも目を向け,特に乳母やマーキューシオのモティー フは,彼らの性格をよく描写しているというところに彼の特徴がある。2管編成のオーケストラに 加えて,ピアノやサクソフォーン,鐘,マラカスが使われている。プロコフィエフはその曲の中で, ロメオとジュリエットの悲劇をあまり深く掘り下げず,客観的に 2 人を観察しているという印象を 受ける。死を表す曲の中にも憧れに満ちたメロディーが現れるなどから,天国で結ばれるであろう 2 人へのプロコフィエフの願いを感じることができる。  この曲は,ロメオがジュリエットと出会う前にロザラインに恋することなど,物語の展開に関係 のないエピソードはカットされながらも,シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に最も忠実 な形で作曲された曲であり,悲劇的過ぎると当時は批判されていた。  原作との相違点として最大のものは,「アンティーユの娘たちの踊り」という,原作にはないこ とが 1 曲として取り上げられているということである。アンティーユはカリブ海に位置するフラン ス領の島で,その温暖な気候からヨーロッパの人々の憧れの島であり,小説や映画の舞台としてし ばしば使われてきた。なぜアンティーユがここで登場したかは定かではないが,音楽的にはこの曲 の異国情緒あふれるメロディーによって,前後の曲を引き立たせる作曲上の工夫になっている。  3曲の特徴を比較すると,表1のようになる。

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Ⅶ.終わりに  本論文では,シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』をもとに複数の作曲家が作曲した 曲を分析・比較検討し,作曲家によるこの作品へのアプローチや表現方法の違い,作曲する際の動 機や曲に表れる彼らの思いや願いを明らかにすることを目的として研究を進めてきた。  今回取り上げたのは,チャイコフスキー作曲「序曲《ロメオとジュリエット》」,ベルリオーズ作 曲「劇的交響曲《ロメオとジュリエット》」,プロコフィエフ作曲「管弦楽組曲《ロメオとジュリエッ ト》」だが,それぞれ序曲,交響曲,管弦楽組曲と曲の形態が違い,楽器編成,所要時間等も全く違う。 つまり,それぞれの作曲家が,独自の音楽としての《ロメオとジュリエット》を書いているが,そ の動機となるシェイクスピア作品へ感動,殊に戯曲『ロメオとジュリエット』への感動は共通して いる。1曲1曲すべてに魅力があり,それぞれの作曲家の思いや願いが強く表れているということ が解明できた。  本研究は,楽曲を主として楽曲構成の面から比較検討したものであるが,今後は和声学や対位法, 作曲技法の点からも詳細に分析すること,また美術作品との関係も視野に入れることが必要である。  本論文は,卒業論文 ²⁰)の1部をまとめたものであるが,本研究が,同じ文学作品に複数の作曲 家が付曲,作曲した曲という観点から「文学と音楽の関係」を捉える先行論文となり,今後この分 野の研究が多くの研究者によって取り上げられることを期待している。また,今後この研究が深め られることによって,一般愛好者の音楽に対する理解がより深められ,愛好心をより強く持つこと ができるようになるための一助となれば幸いである。                1)川崎洋介 (Vn),ヴォルフラム・ケッセル (Vc),ヴァディム・セレブリャーニー (Pf)演奏「ことばと音楽の   素敵な関係」パンフレット(水戸芸術館,2008 年 2 月 29 日) 2)芥川賞受賞,川上未映子「文学と音楽の関係」(2008 年 2 月 13 日,毎日新聞夕刊,特集ワイド) 3)D.J. グラウト,C.V. パリスカ著,戸口幸策,津上英輔,寺西基之共訳『新西洋音楽史上』(音楽之友社,1998),pp. 22 4)笹本正樹「白秋詩童謡の分析 (3)」『高松大学紀要』37(2002)pp. 17-34 5)金原礼子『ガブリエル・フォーレと詩人たち』(藤原書店,1993) 6)ゲオルギアーデス著,谷村晃,樋口光治,前川陽郁訳『シューベルト 音楽と抒情詩』(音楽之友社,2000) 7)エーミール・シュターガー著,芦津丈夫訳『音楽と文学』(白水社,1998) 8)浜野政雄監修『最新 高校の音楽Ⅰ』(音楽之友社,2001)pp. 101 9)NHK 教育テレビ日曜 21 時から 22 時「N 響アワー」より。チャイコフスキー作曲「序曲《ロメオとジュリエット》   に関しては,2008 年 4 月 27 日(日)に,プロコフィエフ作曲「管弦楽組曲《ロメオとジュリエット》については,   2008 年 9 月 21 日(日)に放送されている。

10)William Shakespeare, Romeo and Juliet の翻訳に関しては,小田島雄志訳『ロミオとジュリエット』(白水社,   1983)や中野好夫訳『ロミオとジュリエット』(新潮文庫,1951)など,いくつか出版されている。

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  2005)がある。 12)フランシス・マーク著,森田稔,梅津紀雄,中田朱美訳『ロシア音楽史《カマリースカヤ》から《バービイ・   ヤール》まで』(春秋社,2006)pp. 126 13)ソナタ形式とは,器楽の楽式の中で最も大切な形式で,提示部,展開部,再現部の 3 部分によって成り立つ。   場合によっては,序奏やコーダが加わることもある。原則的に,提示部においては,主調が長調の曲では,   第 2 主題は主調の属調で現れ,主調が短調の曲では,主調の平行調で現れる。再現部においては,長調・短   調の曲双方とも第1主題,第2主題は主調で現れる。 14)フランシス・マーク著,森田稔,梅津紀雄,中田朱美訳『ロシア音楽史《カマリースカヤ》から《バービイ・   ヤール》まで』(春秋社,2006)pp. 137 15)音名の表記。ここでは,音の高さまでは特定しない。 16)ベルリオーズに関しては,久納慶一『ベルリオーズ<大作曲家 人と作品 (16)>』(音楽之友社,1967) 17)オフィクレイドは現在では,テューバによって代用される。 18)柴田南雄,遠山一行総監修『ニューグローブ世界音楽大事典』(講談社,1994)pp. 393 − 394 19)プロコフィエフの伝記には,井上頼豊『プロコフィエフ<大作曲家 人と作品 (31)』(音楽之友社,1978)がある。 20)平成 19 年度,茨城大学卒業論文「音楽と文学の関係―同一の詩及び戯曲に異なる作曲家が付曲,作曲した   場合―」 21)東京新聞社編集『西洋絵画のなかのシェイクスピア画』(印象社)p10 − 11 22)大野和士指揮,東京交響楽団演奏,ベルリオーズ作曲《ロメオとジュリエット》プログラム(サントリーホー   ル,2006 年 7 月 21 日)p24 23)tone cluster 長・短・2度,微分音などで隣接した音群が同時に鳴らされた響き,およびこれを用いた技法。   調的な機能を持っていない点で和音とは区別される。海老沢敏,上三郷祐康,西岡信雄,山口修監修『新編   音楽中辞典』(音楽之友社,2002)pp. 468 より。

参照

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