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電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士(工学)の学位申請論文

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貴金属/担体における触媒活性に与える 貴金属粒径と担体の影響に関する研究

伊 藤 淳 二

電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士(工学)の学位申請論文

2013 年 3 月

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貴金属/担体における触媒活性に与える 貴金属粒径と担体の影響に関する研究

博士論文審査委員会

主査 沈 青 助教

委員 豊田 太郎 特命教授 委員 林 茂雄 教授

委員 阿部 浩二 教授

委員 奥野 剛史 准教授

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著 作 権 所 有 者

伊 藤 淳 二

2013 年

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Study on the influence of the size of precious metallic nanoparticles and support materials on catalytic activity in precious metals/support materials

Junji Ito

Abstract

A catalyst is installed within the vehicle exhaust system, and this converts the emissions into harmless materials (water, nitrogen, and carbon dioxide) via various chemical reactions. The purpose of this study is to study the influence of the size of precious metals and several kinds of support materials with regard to catalytic activity in precious metals/support materials, and our aim is to obtain information that will make it possible to decrease the consumption of precious metals. We surmised that the reason that the catalytic activity is different when the size of the particles is different, as described in past reports, is because the lifetime of the excited electrons is different. We first executed a propane oxidation reaction and a CO oxidation reaction to test the catalytic activity to confirm whether the catalysis is different for particles of different size in precious metals/support materials. Secondly, we report on the ultrafast carrier dynamics of precious metals/support materials films characterized using an improved TG technique. Consequently, we identified a tendency that the faster decay of excited electrons leads to a greater oxidation rate. Next, we considered the possible mechanism for this tendency. One of the functions identified as being necessary for generating CO2 at a high rate has been thought to be that the electron in the Pt moves to oxygen for making the Pt-O bond and Pt metal

changes to the Pt+, as described in past reports. We thought this Pt+ should return to Pt metal for the catalyst reaction cycle and the decay time corresponds

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貴金属/担体における触媒活性に与える貴金属粒径と 担体の影響に関する研究

伊 藤 淳 二

概要

自動車には排気浄化用触媒が設置されており、触媒は様々な化学反応で 無害な材料(水、窒素、および二酸化炭素)に変換する為に必須である。 し かし、資源の枯渇化・価格の高騰などにより貴金属の 消費 量を 下げ たい 。 その為には貴金属の活性をさらに高めることが必要である。本研究の目的 は、貴金属/担体における触媒活性に関して貴金属の粒径との担体に関す る影響を研究することであり、これにより貴金属の消費を下げるのを可能 にする情報を得る事である。

まず文献情報から仮説を立てた。CO と酸素の反応(以降 CO酸化反応) の場合に貴金属の粒径が大きい時、触媒活性が向上すると数多く報告され ている。CO 酸化反応の過程には、拡散・吸着・表面反応・脱離があるが、

この中で吸着が律速と考えられている。一般的に COは電子を金属に与え て吸着、酸素は金属から電子を受けて解離吸着する事が知られている。吸 着後表面で反応して CO2を生成するが連続的にサイクルが生じるために は金属内部の電子が速く元の状態に戻ることも重要な 機能と考 えら れる 。 これらの情報から次の仮説を立てた。貴金属内部の電子の緩和がもっとも 遅い為全体の触媒反応速度を支配すると予想されるので、「光によって励 起した電子の緩和が速いほど触媒活性が高い」という仮説である。光励起 の緩和時間はレーザー分光法の一つである過渡回折格子法により計測し て調べた。

最初に金属/担体の中の異なった粒径において、触媒作用が異なってい るかを確認した。結果、白金(以降 Pt)粒径が大きいほど貴金属表面積あ たりのプロパン酸化反応速度が高い事を確認でき文献通りであった。次に Pt 粒径の異なる Pt/Al2O3について過渡回折格子法を用いて Pt の励起電子 の緩和を計測した。結果、Pt粒径が大きいほど励起電子の緩和が速い事が わかった。この二つの結果を合わせると、励起電子の緩和が速いほどプロ パン酸化反応が高い傾向を示す事が明らかになった。これは仮説どおりの 結果となった。また Pt 以外の貴金属としてパラジウム(以降Pd)、ロジウ ム(以降 Rh)も貴金属粒径の影響について調べた。Pd と Rhに関しても

(6)

次に、貴金属/担体において担体の影響について調べた。Pt/担体におけ る担体として CeO2が自動車用触媒として優れ実用化されている。結果、

反応速度に関しては Pt/CeO2が Pt/Al2O3よりも大きく、励起電子の緩和に

関しては Pt/CeO2が Pt/Al2O3よりも速い緩和であった。この結果は担体と

して CeO2が優れている事を説明できる事がわかった。

以上のように、Pt、Pd、Rhにおいて励起電子の緩和が速いほど触媒活 性が高く、現在実用化されている Pt/CeO2のように励起電子の緩和が速く なる触媒とすることによって、貴金属の消費を下げる事を可能にするとい う情報を得ることができた。

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目次

1 章 序論

1

1-1 背景

1-1-1 排気ガス浄化触媒

1-1-2 担体

1-1-3 自動車からの排ガス

1-1-4 排ガス浄化システム

1-1-5 セリアと酸素ストレージ能

1-1-6 貴金属が必要な理由

1-1-7 貴金属を取り巻く状況

1-1-8 触媒活性が変化する因子

1-1-9 粒径と触媒活性

1-1-10 粒径と表面構造

1-1-11 粒径と電子状態

1-1-12 反応を支配する因子に関する仮説

1-1-13 過渡回折格子法

1-2 研究の目的 1-3 本論文の概要

2 章 触媒機能と電子状態評価法

32

2-1 触媒作用

2-1-1 触媒とブラックボックス

2-1-2 触媒表面と吸着

2-1-3 物理吸着と化学吸着

2-1-4 種々の気体の金属表面上への化学吸着

2-1-5 吸着と触媒活性

2-1-6 触媒表面の観察

2-1-7 赤外分光法

2-1-8 排気ガスの検出

2-1-9 質量分析

2-2 過渡回折格子法

(8)

3 章 触媒活性の貴金属粒径と担体依存性

49

3-1 はじめに

3-2 実験

3-2-1 触媒調製

3-2-2 TEM による貴金属粒径測定

3-2-3 CO酸化反応とプロパン酸化反応

3-2-4 転換率による触媒性能評価

3-2-5 表面積あたりの反応速度による触媒活性評価

3-3 実験結果及び考察

3-3-1 貴金属/担体における貴金属の粒径

3-3-2 プロパン酸化反応における貴金属粒径と担体依存性

3-3-3 CO酸化反応における貴金属粒径と担体依存性

3-3-4 考察 3-4 まとめ

4 励起電子の緩和時間の貴金属粒径と担体依存性

70

4-1 はじめに 4-2 実験

4-2-1 試料の作成

4-2-2 TEM による粒径分布

4-2-3 改良 TG4-3 実験結果および考察

4-3-1 Pt粒子径と励起電子緩和時間の関係

4-3-2 Rh粒子径と励起電子緩和時間の関係

4-3-3 Pd粒径と励起電子緩和時間の関係

4-3-4 考察 4-4 まとめ

(9)

6 章 総括 95

6-1 本研究の総括

6-2 展望

・発表状況

謝辞 98

関連論文の印刷公表の方法及び時期 99

著者略歴 100

(10)

1章 序論

1-1 背景

1-1-1 排気ガス浄化触媒

文明の発達した現代社会において、我々はもう自動車なしの生活は考えられ ない.世界的にみても振興国を中心としたモータリゼーションの高まりを背景 に、自動車保有台数の大幅な増加が見込まれている.しかし、その一方で環境 問題が世界的な問題となってきており、車がこれらの問題の根源の1つとして その利用形態が問われている.長期的にみれば、電気自動車や燃料電池自動車 などへ移行していくと思われるが、まだまだハイブリッド車を含む内燃機関が 動力の中心であり、限られた資源を有効活用しながら環境保全を図っていくた めに、排気浄化触媒研究が果たすべき役割は非常に大きい.

1960 年初頭のカリフォルニアでは、ロサンゼルスでのスモッグ問題を契機に

HC(Hydrocarbon、炭化水素)および CO(一酸化炭素)の大幅な削減を要求し

た、いわゆるマスキー法案が可決された。さらに、1967 年に出されたより厳し いカリフォルニア州大気浄化法 ( Clean Air Act )は、世界的に環境保全に対 する意識を高め、1970年のアメリカ連邦規制 ( “マスキー法”の法制化 ) の 原動力となった。このマスキー法は、当時未規制状態に近かったガソリン自動 車の排気中の汚染物質である、HC、CO、NOx(窒素酸化物)を 90%低減する 事を目標にしたもので、COと HCに関しては 1975 年、NOxに関しては 1976年 に規制を達成するように決められた。マスキー法における排ガス規制値は極め て厳しく、また、対策期限も限られていたため、自動車排ガス浄化に触媒を利 用する技術が一躍脚光を浴びる事になった。以来、この規制をクリアする技術 として触媒の研究開発が始まり、現在の自動車排気ガス浄化触媒の基礎として いまも活き続けている。

自動車に触媒が初めて搭載されたのは 1974 年で、アメリカの 1975 年モデル 規制あるいは日本の昭和 50年規制に対応したものであった。最初に実用化され た触媒は、排ガス中の HC と COを酸素 (O2) と反応させて無害な二酸化炭素 炭素 (CO2) と水 (H2O) にする、いわゆる酸化触媒で、触媒の形態は白金

(Pt)やパラジウム(Pd)のような貴金属 をアルミナに担持し たペレットタ イ

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のが主流である。

1-1-2 担体

担体は活性成分をその表面に担持して触媒性能を十分に発揮させるために必 要な触媒成分の一つで、大部分の実用触媒に使われている。活性成分の分散状 態(=比表面積=活性成分密度)を適切に保持するためだけでなく、触媒全体 の熱的・機械的性質、表面積、細孔構造などをコントロールするために必要で ある。また、触媒反応の一部に直接関与して反応を促進したり、あるいは望ま しくない副反応を抑制したりする場合もある。よく用いられるのは、アルミナ

(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ゼオライト、酸化チタン(TiO2)、活性炭である。

担体の選択は実用触媒にとってきわめて重要で、そのおもな選択基準は以下 のとおりである。

(ⅰ)担体自身の表面積、細孔構造、熱的・機械的安定性

担体自身の表面積が高いほど活性成分の分散は一般に良好である。高価な貴 金属粒子を実用触媒として利用できたのは貴金属粒子を数 nm 以下に安定的に 担持できたからである。細孔内の物質移動現象が、活性・選択性に及ぼす影響

(12)

は大きく、触媒全体の細孔構造は主に担体の形状や細孔構造で決まる。たとえ ばゼオライトを担体としてゼオライトの結晶内部に活性点を担持すると、ゼオ ライト細孔サイズを通過した分子が活性点に到達し反応が可能になり、選択性 が向上する。また、使用温度で担体がすぐに凝集しては活性成分も凝集しやす くなり好ましくないし、担体は図 1-1に示したハニカムからはがれやすくなる。

その意味から熱的・機械的安定性は重要である。

(ⅱ)活性成分との化学的親和性・反応性

熱処理、あるいは実環境下での雰囲気耐久試験下では、担体と活性成分の 固相反応による変化、焼結反応、揮散などがある。

(ⅲ)触媒反応過程に一部関与

触媒反応は一般に複合反応でいくつもの素過程からなるが、担体が触媒と してその一部を促進する事がある。

1-1-3 自動車からの排ガス

ガソリンエン ジンを対 象とした排 ガス規 制成分である 炭化水素 (HC)、一 酸 化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx) などの組成は、燃焼方式の他、主に空気と 燃料の混合比、残留ガスや排気ガス再循環 (EGR: Exhaust Gas Recirculation ) ガ ス量、点火時期によって決まる。通常、燃焼での HC は火炎が消失するクエン チ部における未燃焼部分に由来すると言われ、一般的に燃料が希薄(リーン)

な空燃比(A/F)ほど燃焼は良好で濃度は低下する。ここで、F はエンジン燃焼 室に吸入されたガソリンの重量であり、A は同じく空気の重量である。A/F 比 率が 14.6ではガソリンは理論的に完全燃焼して CO2と H2Oになる。

CO は A/F の影響が支配的でありエンジン速度、負荷の影響はさほど強くな

い。NOxは A/F と燃焼温度の影響を強く受け、EGR量が多い場合ほど、残留ガ ス量が多い。低負荷、点火時期遅角側で燃焼温度が低下するため、濃度は低下 する。また、NOx 濃度は A/F が16程度で最大となり、それより燃料が濃い時(リ ッチ)や、燃料がリーンの時では低下する。副室を用いるなど燃焼方式を変更 する事で点火プラグ付近が高温になる事を抑制しNOx生成を低下する事もでき る。

図 1-2 に A/F に対する HC、CO、NOx 濃度の関係を示した 1。ガソリンエン

(13)
(14)

これらの排ガスを化学反応の設計技術と材料技術によって浄化するのが自動 車触媒である。地球温暖化をめぐる世界的な環境への要請は強く、燃費および 有害ガス排出の面から、各国で厳しい環境規制が実施され、また将来もその強 化が予定されている。このような事情から、自動車業界では、排ガス処理技術 の高度化に多くの努力を払ってきており、今なお、すぐれた環境技術として発 展し続けている。

1-1-4 排ガス浄化システム

現在主流の三元触媒システムは、HC と CO の酸化と同時に NOx を還元して 浄化するものである。図 1-3 には、現在の三元触媒システムの概要を示す。こ のためには排気ガスを理論空燃比近傍に制御する事が必要で、電子式燃料噴射 装置とその制御コンピューター、O2センサー等が組み合わされている。さらに、

エンジン本体、点火系、排気系、燃料供給系などあらゆる部分で最適化が図ら れ、これは低エミッション、低燃費、ドライバビリィティー、動力性能等の多 くの要求を最高のバランスで実現できるシステムとして優れている。

三元触媒システムでは、図 1-4 に示すように触媒入口ガスを精密に理論空燃 比(A/F=約 14.6)に制御する事が必要であり、空燃比制御手段として排ガス中 の酸素濃度を測定する酸素センサーを用いたフィードバック法が利用されてい る。O2 センサーは固体電解質の一方の電極を排気側、他方を大気側とする一種 の濃度差電池であり、理論空燃比付近で急変する出力特性を持つ。

この出力特性を用い、酸素不足側(リッチ)では燃料を減量し、酸素過剰側

(リーン)では燃料を増量する事で理論空燃比となるようにフィードバック制 御する。しかし、O2 センサーの出力に若干の遅れがあるため、A/F 制御過程で の排気組成は理論 A/F を中心に僅かにリッチ側と僅かにリーン側とを 1 秒程度 の周期で変動している。A/F 制御条件下における A/Fの振れ幅は O2センサーの 温度 ( あるいは時間遅れの特性 ) により異なるが、A/F単位で 0.2程度に収 まる。この振れ幅は図 1-4 に示したように、三元成分の転換率の高い A/F 領域 に対応している事が分かる。この領域は、通常、“ウィンドウ”もしくは“ウィ ンドウ・ゲイト”と呼ばれ、三元触媒の特性評価に際し重要な目安となる。最 近では、O2 センサーに代り空燃比を連続量として計測できる広域帯空燃比セン

(15)

いる 2。とくに、触媒中に含まれるセリウム元素は必要不可欠な材料であり、後 に述べるような酸素ストレージ能:OSC(Oxygen Storage capacity)によって、

制御系全体の設計にも影響するような大きな役割をもつ。

1-1-5 セリアと酸素ストレージ能

(1)セリアの役割

セリウム材料は、現在では、貴金属と並んで自動車触媒に不可欠な材料とな

った。排ガス浄化反応は、エンジンから放出された酸化性ガス ( NO、O2 ) と 還元性ガス ( HC、CO、H2、NH3 ) が複雑な酸化・還元反応の連鎖によるた め、主たる活性材料である貴金属のほかに、各素反応に特有の触媒作用を有す る助触媒が考えられてきた。なかでも、セリウムをはじめとする希土類金属酸 化物は、しばしばそれらの反応を促進する物質として研究されてきた。これま での研究から、自動車触媒におけるセリウム元素の主な役割として、①金属触 媒の耐久性を向上する、②水性ガスシフト反応等の反応を促進する、③酸化雰 囲気下では酸素を蓄積し、還元雰囲気下では酸素を放出する“酸素ストレージ 能(OSC)”を持つ、などが挙げられる 35。このうち、酸素ストレージ能(OSC)

は、現在のエンジンシステムにおいて非常に重要な役割をはたしている。

(16)

(2)セリアの機能

排ガス浄化システムの中でも述べたように、自動車触媒における浄化性能の 実際的な制御方法は各エンジン設計によって多少異なるものの、エンジンの作 動条件によって変動する空燃比(A/F)を一定の狭い幅に抑える事に特徴がある。

酸素センサーにより A/F を保ち、最適の燃焼条件と排ガス浄化のための反応条 件をつくりだしている。具体的には図 1-4 におけるウインドウとよばれる範囲 に制御している。しかし、排ガス中に含まれる僅かな有害ガスは、実際には貴 金属表面や助触媒表面に吸着し、その上で触媒反応を起こす事によって浄化さ れる。したがって、これら一連の素反応は、かなりミクロな空間でガス組成な どの反応条件が維持されなければならない。これは、マクロに制御された A/F 値だけでは十分に浄化触媒性能を発揮させる事ができないため、触媒層自身に、

A/F 値を制御するような機能が必要である。このような機能を達成しているのが、

自動車触媒の酸素ストレージ能(OSC)と呼ばれる機能である。

(3)セリウム酸化物の作用機構

二酸化セリウムは4価のセリウムイオンよりなる酸化物で、セリウムイオン の価数変動、

Ce(4+)→Ce(3+)に伴うレドックス反応により、三酸化二セリウムに変化 するとされている。

2CeO2 → Ce2O3 + O2

実際の排ガス浄化触媒上で起る反応を表 1-1 に示す。ここで、酸化反応は本 来、酸素過剰下(リーン)で、還元反応は酸素不足下(リッチ)で起こるが、

排ガス触媒上ではこれらの素反応は一連の反応として観察され、最終的に CO2、 N2、H2O の無害なガスを生成する反応となる。二酸化セリウムは、酸化反応に 対しては酸素を放出し、還元反応に対しては酸素を吸収して、これらの反応を アシストする。排ガスのリッチ・リーン変動による素反応変化はきわめて複雑 であり、触媒反応の研究として、CO-NO反応系や、NO-H2反応系などさまざ まな反応系について、Pt、Rh など貴金属成分の違いや、セリウムをはじめとす

(17)

これらの総合的な結果として触媒にあらわれるため、さまざまな観点から研究 が進んでおり、最近では、とくにセリウム酸化物の固体状態の面からその成果 が多くあらわれるようになった。

山本らはセリウム-ジルコニウム酸化物の中での酸素の動きを、KEKフォトン フ ァ ク ト リ ー ・ ア ド バ ン ス ト リ ン グ(PF-AR)の 「DXAFS(Dispersive= 分 散 型 XAFS)」装置を用いて観察した 6。DXAFS とは EXAFS法の応用測定法であり、

EXAFS とは X 線の吸収により構造の情報を得る事ができる手法である。X 線を

分散型に する事 により ナノ 秒の時 間分解能になっ た。実 験には 、セ リウム(Ce) とジルコニウム(Zr)の複合酸化物のナノ粒子を用いておりこの複合酸化物は、酸 素の吸蔵・放出に伴って、構造が Ce2Zr2O7と Ce2Zr2O8との間で変化する。酸素 の吸蔵・放出過程に伴って、触媒中のセリウムイオンの周りと、ジルコニウム イオンの周りの酸素の動きを DXAFS 法で調べた。触媒に酸素が取り込まれると ナノ粒子に含まれるセリウムイオンは一気に酸化される。これは、773K では、

200 ナノメートルのナノ粒子全体が1 秒で変化する速さである。一方、近傍に存 在するジルコニウムイオンの周りの変化はこれよりずっと遅い事がわかった。

セリウムイオンとジルコニウムイオンの周りで、酸素の吸収・放出の速さが異 なる事を明らかにした。また、八島らは、高温中性子回折データを精密解析に よって、セリウムージルコニウム酸化物の不規則構造を可視化し、セリウムー ジルコニウム酸化物の高い触媒活性の要因の一つが不規則構造によるものであ る事を明らかにした 7。X線の代わりに中性子線を用い、さらに、最高 1550℃

という高温で中性子回折測定を行う事によって、酸素イオンの分布を観測した。

得られたデータを情報理論による最大エントロピー法と結晶構造解析手法の一

(18)

つであるリートベルト法を組み合わせた解析を行い、結晶構造内の酸素イオン の複雑な分布を導き出し可視化した。その結果、セリウムージルコニウム酸化 物の高い触媒活性の要因の一つが結晶の不規則によるものである事を明らかに した。このように、結晶構造、表面活性サイト、貴金属との相互作用、反応中 間体など、触媒と材料の観点からも、多くの研究が続けられている。

1-1-6 貴金属が必要な理由

貴金属の作用機構

一例として Pt を例に挙げる。Pt は酸化物の状態として PtO、PtO2の状態が ある。酸素と反応が進む事により下記の(1-1)、(1-2)式の反応が右に進行する。

酸素が不足した り、還元 剤が酸素よ り多 くなると(1-1)、(1-2)式の反応は左に 進行する。図 1-5 に酸素の結合の強さが反応に起因するという研究について示 す。山形の酸化活性序列として一般的に知られている 8。横軸は金属の状態から 1 モルの酸化物が形成されるに要するエンタルピーにおいて酸素原子あたりで 算出した値を示す。たとえば(1-3)式で示す鉄から酸化鉄への標準生成エンタ ルピーを示す。このエネルギーを酸素 1 原子当たりに換算すると197/3=69とな る。この値は酸素原子 1 個が金属と結合しているエネルギーとみなしている。

この数字を酸素との結合力の指標としている。

図 1-5 の縦軸は触媒性能の指標としてエチレンと酸素の共存下においてエチ レンが 1.8%%減少した時の温度である。この図を書く手順は以下である。①まず 実験として触媒にエチレンと酸素の両方を通過させ、各温度で(1-4)式に示す化 学反応が生じるがその際のエチレンの濃度を触媒の出口で検出する。炭化水素 の検出器は一般的な排気ガス分析装置で用いられている FID(水素炎イオン化

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反応の開始温度を相対的に比較するためである。通常 10%%以内とする。

(化学反応)

(転換率の計算)

自動車用触媒としては図1-5の場合、エチレン 1.8%を示す温度(=活性が開% 始する温度)が低いほど良い。始動時では、エンジンから排出された未燃 HC、

CO、NOxなどの有害成分は、触媒の温度が低いため排ガスの熱で加熱され、浄

化機能が発揮されるまでの数秒の間、浄化されずに大気に放出される。したが って、できるだけ低温で反応が開始する元素が好ましい。この反応開始温度と、

酸素との結合の関係は山型になっており、Pt や Pdが最も低い温度から反応を開 始し、かつ Pd や Pt の酸素の結合力がエチレン酸化には適切な強さである事を 示している。Pd やPt より酸素との結合力の強いFe や Niなどの遷移金属は適し ていない。またそれより酸素結合力の弱い Ag や Auでは弱すぎて適していない 事を示している。このような理由から貴金属が必須成分と言われている。

(20)

1-1-7 貴金属を取り巻く状況

前述したように自動車の環境技術においては貴金属の貢献度は極めて高いも のとなっている。図 1-6 に示すように貴金属は使用量が年々増え続けている 9。 厳しい排気ガス規制をクリアするために多くの貴金属が必要とするためである。

2011 年の統計では、貴金属の総需要に対して白金(Pt)は 40%% パラジウム(Pd)

は 70%%、ロジウム(Rh)では 80%%を自動車用途(排出ガス浄化触媒)が占めて いる

貴金属の使用量が多いと資源枯渇を引き起こし、極端に自動車の価格が高騰 する事が懸念される。図 1-7 には例として Pt の高騰する状況を示す 10。このよ うな状況の中、本研究テーマは貴金属の消費をできるだけ下げるために、少な い貴金属でも反応速度を向上させたいねらいから始まった。民間企業・大学で は、触媒に使われている貴金属の消費をできるだけ下げるために研究は日々継 続されている 11~18

(21)
(22)

1-1-8 触媒活性が変化する因子

1-1-6 で転換率の計算方法について示したが、最も自動車用排ガス触媒として

好ましいのは転換率 100%である。貴金属量の制限がなければ% 100%近く浄化は% 容易である。しかし実際には自動車の排気ガス用触媒としての浄化性能を達成 するために最低限の貴金属量となるように制御して作成している。この貴金属 量は実験で得られた貴金属量あたりの反応速度がわかっているため貴金属量が 制御できている。しかし貴金属量あたりの反応速度は重量が同じでも 2 つの因 子で変化する(図 1-8の②)。その因子は、貴金属表面積あたりの反応速度と重 量当たりの貴金属表面積である。前者は一つの活性点の性質を示し、後者は活 性点の数を示す。

前者と後者の因子として分離するには、両方にかかわる貴金属表面積を求め れば、触媒反応によるガス変化速度(momol/l/sseec)や触媒中の貴金属量(c gg)は既知 であるのでこれを使って計算する。この貴金属表面積は、「CO 吸着による分散 度測定法からの表面積測定法」または「TEMによる平均粒径からの表面積算出」

という方法で求められる。分散度測定法についてはここでは割愛する。「TEM に よる平均粒径からの表面積算出」を説明する。TEM によりまず金属粒子の粒径 に対しての個数を数える。望ましいのは 100 個以上の観察である。次にこの粒 径分布から数平均粒子径を求める。この平均粒子径から貴金属を球状としたと きの表面積を求める。これを貴金属表面積とする。

ただし、粒径の減少に伴い、表面積あたりの活性が同時に悪化してしまう事 が数多く報告されている。この事は、私たちが表面積を増やしていきたいとい う狙いで粒径を小さくしていくと、性能が優れないものとなっている事を示す。

次に粒径が異なるときの現象について報告されている事を説明する。

1-1-9 粒径と触媒活性

Pt/Al2O3に関して、粒径が大きくなる程 CO酸化は速くなり、活性化エネルギ

ーが小さくなるという報告がある19。以下活性化エネルギーについて説明する。

(1)活性化エネルギー20

自然に起こる化学反応はすべて、エネルギーが減少する方向、言い換えると、

安定な物質ができる方向に進む。したがって、エネルギーの減少量の少ない反

(23)

この山の高さを活性化エネルギーといい、その高低が反応速度を決める事にな る。山が高ければ、山を越える反応物分子の数が少なく、山が低ければ、越え る分子数が増える。

触媒なしで A と B が反応して AB になるには、反応速度論では図 1-9 に描い たように活性化エネルギーよりも大きい熱運動エネルギーを持つ分子が遷移状 態になり、生成物になると考える。熱運動をしている分子のうち、活性化エネ ルギーより大きなエネルギーを持つ分子の数は、統計力学によって計算できる。

そこで反応の速度 kは次式で与えられる。

k = A exp (-E/RT) (1-6)

ここで Aは頻度因子とよばれ、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、T は絶 対温度であらわした反応温度である。E は触媒固有の値を有する。両辺の対数 をとって整理すると次式になる。

log k = log A - E/2.303RT (1-7)

この関係式は、理論よりも先にアレニウスが実験式として導いており、アレ ニウス式と呼ばれる。実験によって活性化エネルギーを求めるには、この式が 使われる。この式からもわかるように、化学反応の速度は、反応温度が高くな ると急速に速くなる。

(24)

(2)触媒があるときの活性化エネルギー2 0

触媒が化学反応を促進するのは、反応物を吸着して活性化するためである。固 体表面への分子の吸着には、分子間力による弱い結合の物理吸着と分子と表面 との化学結合ができる化学吸着(活性化吸着ともいう)がある(図 1-10)。詳細 は第 2 章でも説明するが簡単に述べる。

吸着のうちでも触媒作用で重要な役割を果たすのは化学吸着であり、分子内 の原子と原子との結合力より吸着力の方が強い場合には、分子が分解して吸着 する解離吸着が起こる。次にこの吸着がどのようにして反応の活性化エネルギ ーを下げる(反応速度を速くする)のかを説明する。

先に例に挙げた Aと Bの反応を触媒を使って行う。そうすると、反応ははる か低温で起こり、アレニウス式を使って求めた活性化エネルギーも小さくなる。

(25)

A → A(a) (1-8) B → B(a) (1-9) A(a) + B(a) → AB (1-10)

このように、「触媒が活性化エネルギーを下げる」というのは、見かけ上の話 であって、内容はそれほど単純ではない。触媒によって水素とヨウ素の反応の 活性化エネルギーが下がるという事は、素反応(1-8)~(1-10)の活性化エネルギー のいずれもが、触媒がないときの活性化エネルギーより小さいという事である。

言い換えると、触媒が反応物を吸着する事により、無触媒反応の遷移状態に相 当する状態が、より安定に(低エネルギーで)つくられた事になる。

一般に、粒径が異なっている時、表面原子の配位数は異なる。 図 1-12 に示 す様に平面的な表面に配置された原子は5配位であり(テラス)、段差に配置さ れた原子は4配位であり(ステップ)、角に配置された原子は3配位である(キ ンク)。粒径が大きくなる程テラスの割合が増える事がわかっている 1 3。一方、

キンクやステップに配置された原子の比率は減少する 21 。Pt 表面のテラス構造 の原子比率が多いとき、CO酸化の反応効率が高い事が知られている 21 ~2 5

また、Pt 粒径が異なっている時、異なった表面原子の配位数に加えて、表 面の原子対内部の原子の数の比率は変化する。 図 1-13 は異なった粒径の概念 図を示す。一般に、粒径が異なっているとき、全容積に対する表面の比率は変 化する。

(26)
(27)

図 1-13(a)で示す状態は、全容積に対する表面の比率が図 1-13(b)の状態のも のより低いケースの例を示す。 この図 1-13(a)の状態は、分散が低いと言う。

FT-IR を使用する研究によると、Pt/Al2O3の表面で CO を吸着された後に酸素を 導入する時に表面に CO2種が観測される。Pt/Al2O3の Pt の分散が高い時(図 1-13 の(b))CO2 種が観測される時間が長く、分散が低い時(図 1-13 の(a))、CO2 種が生成する時間が短い事が知られている 26。IR の結果は、粒径が大きくなる ほど CO 酸化が速くなるというこれまでの結果を考慮すると、CO2種を生成する までの過程が律速段階と示唆される。図 1-14 には一般的な CO 酸化のメカニズ ムを示すが、CO2種までが律速という事は吸着過程が律速と推察される。

1-1-10 粒径と表面構造

このように粒径が異なると表面積あたりの活性が異なる事がよく知られてお り、表面構造としては CO としては平面状(テラス状サイト)に吸着した場合 がもっとも反応しやすいと言われている 11

(28)

1-1-11 粒径と電子状態

粒径と電子状態に関する文献が少ない。一般的に触媒反応は酸化還元反応で あり、電子の授受である。図 1-15 に示すように、金属において電子が最も抜け 易いのは電子が充填した最高のエネルギー、つまりフェルミ準位付近の電子で あり、最も入りやすいのは空の軌道のエネルギーが最低の準位と言われている

27。(フロンティア軌道理論)

粒径と電子の抜けやすさの関係が調べられている。抜けやすさの指標は光電 子分光法(XPS、UPS)によって計測されている。

XPS では内核軌道の束縛電子を無限遠方に飛び出させるエネルギーを測定す る事で、最外殻の電子の抜けやすさを推定する。たとえば PtO2では内核のメタ ル Pt では逆に電子が多く束縛するエネルギーが弱い。このような方法で電子を 外部に与えやすいかを推定している。

XPS による電子の与えやすさが触媒活性改良指針となっている一例を示す。

図 1-5においてエンタルピーが高い Feの改良方向性は、Fe と Oの結合を弱くす る事であると読み取る事ができる。Feの改良によりCO の酸化活性が低

(29)

温化したが、その理由に改良品は XPS により Fe2p 結合エネルギーが Fe メタル 側へ電子状態が変化したためにFeとOとの結合が弱くなったと報告されている

28。この事は電子を与えやすい状態にする事で触媒活性が向上したと考えられる。

しかし、Ptでは XPS による電子を与え易い傾向は報告されていない。Pt 粒径 が大きい程 XPS により Pt の Pt4f 軌道の電子が少ない傾向を示している。この 事実から、最外殻の 5d 電子の束縛エネルギーが強いと推定されている 29 ,30。こ れは Pt 粒径が大きいほど電子が抜け難い事を表し、1-1-8で述べた多くの文献で 言われている『Pt粒径が大きい程活性が高い』事を説明できない。

EXAFS によっても電子状態が議論されている。EXAFS では、内殻軌道の X

線を吸収し内殻電子から放出する光電子が隣接原子に散乱を受けて定常波とな り、その定常波は構造によってきまるので隣接原子の距離や割合を知る事がで きる。同時に X 線吸収量から電子密度の大小が比較できる。Pt/Al2O3 の Pt 粒 径を大きくして Pt-Pt結合を増加させ配位数を意図的に上げていくと、Pt の電子 密度が下がるという報告がある 31。これは Pt 粒径が大きい程電子が抜け難い傾 向である事を示している。理由はおそらく表面における電子の再分布と考えて いる。図 1-16に表面における電子の再分布の様子を示す 32

電子は平滑化するような分布をする事でエネルギーを減少させようとする。し たがって図の様に電子がステップの部分で負電荷がたまる。よって一般には平 らな面よりも凹凸がある面では電子が取り出しやすい状態にある。しがって粒 径が小さいほど凹凸面が増加するので電子が取り出しやすい。逆に粒径が大き い程電子が取り出し難いという事と説明される。

いずれにしても以上の様にXPS、EXAFS を用いた文献に従えば、Pt では粒径 が大きくなるほど電子が抜け難い事を表しており、『Pt 粒径が大きい程活性が高 い』事を説明できない。

1-1-12 反応を支配する因子に関する仮説

電子の抜け易さが反応を支配している可能性が低くなった事から、他の因子 が反応速度を支配すると考えられ、図 1-15 の概念図を基にして CO 酸化におけ る電子授受について考える。COが金属 M に吸着する場合は図 1-17で示すよう に、金属 M と CO 分子が一つの分子であるという分子軌道法の概念により、金 属 M の空いている軌道に CO の電子が供与してσ結合をする事が知られている

33。この考え方を図 1-15 にあてはめると図 1-18 の様に、CO は空の軌道の一番 低い軌道に電子を供与し吸着すると考えられる。次に酸素が吸着する場合につ いて考える。図 1-19 には酸素吸着おけるエネルギー変化を示す。CO と異なり

(30)

解離吸着して表面に吸着する。吸着時には金属からの電子の供給により以下の 反応式で吸着する。

O2(gas) +4e- → 2O2 -(ads)

この考え方を図 1-15 にあてはめると図 1-20 に示すように、O2は Pt のフェルミ 準位付近の電子を供給され解離吸着すると考えられる。

COとO2の化学反応は、以下のステップであると考えられており活性サイト

(31)
(32)

つまり吸着するサイトは同一であると考えられている 34。これはラングミュー アヒンシェルウッド機構とよばれている。

Step Ⅰ: 直線状 CO吸着種の生成

CO(gas) ⇔ Linear CO(ads) Step Ⅱ : 酸素の解離吸着

O2(gas) ⇔2 O(ads) Step Ⅲ 直線状 CO吸着種の酸化

Linear CO +O(ads)→CO2(ads) Step Ⅳ CO2の脱離

CO2 (ads) → CO2 (gas)

したがって、ガスの反応ステップとしては、COと O2が吸着した(図1-21 左)

後、反応し CO2を生成する(図 1-12 の中)。再度 COと O2が吸着し反応が継続 するためには電子が緩和する過程(元に戻る)が必要だと考えられる(図 1-21 の右)。O2の解離吸着過程が律速であるという報告 1 9や COの吸着過程が律速だ

(33)

1-1-13 過渡回折格子法

図 1-21 で示した『電子の緩和過程が速いほど反応速度が速い』という関係が あるかを調べるために、本研究で過渡回折格子法を用いた。原理等詳細な事項 は次章以降で述べるがここで簡単に述べる。

図 1-22には貴金属のバンド構造の模式図を示す 3 6。本研究で取り扱う Ptの電 子配置は(5d)9(6s)(6p)0 である。Rhでは(4d)8(5s)(5p)0 Pdでは(4d)10 (5s)0(5p)0 軌道が重なっている。図 1-23 で過渡回折格子法の測定による励起と緩和の模式 図を示す。本実験では 470nnmm(約2.6eVeV)の光をパルス的に照射する事により主に d 電子を励起する。このエネルギーは SPバンド内での励起である 37。励起光は すぐオフにするので励起電子はエネルギーの高い軌道の状態から徐々にエネル ギーを放出しながら、エネルギーの低い状態に移動し、最後は元の位置に戻る。

この緩和プロセスと緩和時間をピコ秒レベルで計測するのが過渡回折格子法で ある。

1-2 研究の目的

これまでの研究結果から粒径が大きい程活性点の性能は高い事を述べてきた が、実エンジンを用いて Rh の粒径を変えて表面積あたりの反応速度を調べた。

図 1-24 にその結果を示す。エンジンから排気ガスは HC、CO、NO が主であるの で、それぞれに対し Rh 表面積あたりの反応速度を求めた。エンジンからの排気 ガス雰囲気は酸化成分と還元成分が釣り合った化学量論比である。確かに粒径 が大きい程反応速度は増加する事がわかった。

(34)
(35)

図 1-25に担体上の金属の大きさと排ガス接触の概念図を示す。粒径が大きい 程 Rh の表面積当たりの反応速度が上がるという現象は、概念で示すと図 1-25 の①から②への変化である。さらに粒径が大きくなると表面積が減り、表面積 あたりの反応速度によっては好ましいが、ガスが活性点に接触する確率が下が りいずれは転換率が下がる。図 1-26 に粒径と転換率の関係を示す。粒径が大き いほど転換率は下がる事がわかる。粒径が大きいだけでは排ガス浄化触媒とし ては好ましくない。転換率を上げるためには図 1-25の②から③の状態に表面積 を増加する事が容易に考えられる。つまり貴金属の使用量を増加する事である がこれは貴金属削減とは逆の方策であり好ましくない。もっとも好ましいのは、

図 1-25 の①のように粒径をできるだけ小さく、かつその粒径で活性を向上する 事である。そのために、粒径が大きいと活性が高い理由を調べ、その結果を粒 径の小さい場合に適用する事により活性を向上する事である。その結果改良前 と同じ性能を出すための貴金属が減り、貴金属使用量が削減できると考える。

(36)
(37)

したがって、本研究の目的は、粒径の異なる貴金属(Pt、Pd、Rh)を用いる 事で、また担体を Al2O3、CeO2、TiO2を用いる事により d 軌道電子の緩和時間 と CO酸化活性および C3H8酸化活性の関係を調べ、図 1-20で示した励起電子の 緩和時間を速くする事により触媒性能は向上するという仮説を検証し、触媒改 良の方向性を示す事である。

1-3 本論文の概要

本論文は 6 章で構成される

第 1 章・・・本研究の背景と目的を述べる。まず自動車触媒について歴史と仕 組みをわかりすく解説した。次に貴金属がなぜ必要であるか、なぜ担体に貴金 属が担持されているかなど解説した。また本研究はなぜ貴金属粒径で反応速度 が異なっているが発端であるが、どこまで研究がすすみ、不明な点はどこかを 明瞭にした。その背景から本研究に至る経緯、期待している現象について述べ た。

第 2 章・・・原理:触媒作用の機能や排ガスの測定法について説明する。また、

本研究では電子の緩和を観測するために改良型過渡回折格子法を使用するが、

まずその基本を簡単に説明する。

第 3 章・・・粒径と触媒活性の関係を調べた結果を述べる。触媒の反応速度は 反応ガスの供給律速にならないように(供給が反応の律速段階とならないよう に)、反応率が低いところで議論するのが一般的である。したがってまず最初に 転換率を調べ、議論できる温度を探す事が第一段階である。次にその反応率と 表面積を使って表面積あたりの反応速度を計算する。ここでは目的でも述べた 様に、すでに多くの研究がされている貴金属の粒径を変えた触媒では表面積あ たりの反応速度が異なり、粒径が大きいほど表面積あたりの反応速度が高いと いう知見が再現できた事について説明する。また、同じ貴金属粒子径でも担体 の種類によって活性が違う事を明らかにし、担体との相互作用がある事を確認 する。

第 4 章・・・粒径と励起電子緩和時間の関係を調べた結果について述べる。

緩和時間を計測するために試料作製手順を説明する。Pt、Rh、Pd の粒子は外部 メーカーに作成を依頼したコロイド溶液を用いて、種々の担体に吸着させて担

(38)

持している。担持した後の粒径の測定は、触媒でよく用いる CO 吸着による方法 も考えたが、CO は担体にも吸着する可能性があるため一番信頼性の高い TEM に より貴金属の粒子を観測して平均を出すという手法を用いた。いずれの貴金属/

担体サンプルも粒径が大きくなると寿命が短い事がわかった事について説明す る。また粒径が異なるとなぜ緩和時間が異なるのかに関しても考察をした。

第 5 章・・・・第 3 章と、第 4 章で得られた結果から電子緩和時間と活性の関 係について述べる。緩和時間が速いほど活性が高いという結果となり仮説通り であったが、この関係の妥当性をさらに詳細に考察した。具体的には活性化エ ネルギーや、酸素分圧依存性などから酸素の解離吸着が律速である可能性が高 く、その観点から金属内部の電子緩和について考察し、触媒活性をうまく説明 できる事について述べた。

第 6 章・・・・本研究の全体を総括する。また今後の展望について述べる。

以上の構成である。

(39)

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(41)

2章 触媒機能と電子状態評価法

2-1 触媒作用 1

2-1-1 触媒とブラックボックス

CO と H2の合成ガスを 250℃に加熱しても何の変化も起こらないが、それに

たとえば Pd/SiO2触媒を入れるとメタノールが高収率で得られる。反応が進んで

いる様子は、生成してくるメタノールを分析するか、あるいは COや H2の原料 ガスの減少の様子を調べれば良い。触媒を用いない場合には、反応が進行しな いから触媒表面で何らかの作用が起こっている事は容易に想像できる。昔から 触媒上でなにが起こっているか不明であるためにブラックボックス(暗箱)に 喩えられていた(図 2-1)。その理由はブラックボックスの中を覗きみる手段が ほとんど無かったからである。近年ようやくブラックボックスの中を覗く手段 が少しずつ出現してきた。

図 2-2に、気相の反応物が固体触媒によって生成物となる過程を示す。次の 4 つのステップにわけて考える事ができる。

1) 拡散:反応気体が拡散して触媒表面に近づく

2) 吸着:反応気体が触媒表面と相互作用をもつ。つまり吸着が起こる 3) 反応:反応物の分子が吸着によって結合が緩んだり、切れたり、他の吸着

した分子と結合したり、この上で原子や分子の組み換えが起こる。すなわ ち触媒の表面で反応が起こる。

4) 脱離:新しく生成した分子が生成物として気相に脱離していく

(42)

このようなステップが繰り返されることにより反応が進行する。図 2-3 に、気 相だけで反応が進む場合と触媒上で反応が進むときの反応の違いを示す。気体

(43)

2-1-2 触媒表面と吸着

冷蔵庫の脱臭剤として活性炭が用いられているが、これはにおいの成分が活 性炭に吸着されるためである。また着色した液体に活性炭を加えると脱色され る事はよく知られており、吸着現象はわれわれの身近でも多くみられる事であ る。

触媒反応が起こる時気相より反応気体が拡散して触媒表面に近づいていった 際、その触媒の様子をまず調べる。Pt 触媒を例として取り上げる。Pt 触媒での Pt 原子の並び方は図2-4に示す様になっていると考えられる。Pt 結晶の内部(バ ルク)にある Pt 原子は、隣どうしでお互いに手を取り合って結合は飽和してい るが、表面上に露出している原子は手があまっている。つまり配位不飽和な状 態にある。このようにバルク中にある原子と表面にある原子とでは大きく性質 が異なっており、表面にある原子は極めて活性であるため、そこではいろいろ な現象が起こる。すなわちここで述べようとしている触媒作用や吸着作用のみ でなく、腐食、接着、発光、潤滑などの作用が起こり、また近年では半導体素 子などの製造も表面と深い関係がある。

(44)

2-1-3 物理吸着と化学吸着

次にこのような構造をもった Pt 表面に室温で COを導入したとする。COの圧 力は明らかに減少し、Pt 上に COが吸着した事がわかる。すなわち COは表面の Pt 原子と手をつないで吸着したわけである。この時には CO は Pt と化学的な力

(共有結合)(お互いの電子のやり取りがある)で吸着している事から、化学吸 着と呼んでいる。

CO の代わりに H2を導入すると、H2は CO と異なり二つの原子に分かれて吸着 している事がわかる(詳しくは後述する)。この場合には乖離吸着と呼んでいる。

もちろん乖離吸着も化学吸着である。

い ま ま で の 話 は 室 温 付 近 で の 話 で あ る が 、 も っ と 低 温 、 例 え ば 液 体 窒 素

(-196℃)の温度に冷却して H2を導入すると、化学吸着のほか分子状 H2のまま の状態で表面に積み重なって吸着する事が観察される。この場合には表面原子 との直接の結合ではなく、弱い電気的な力(ファンデルワールス力という)で 吸着してい ると考え られる。 このよう な 吸着を物理 吸着と呼 んでいる 。図 2-5 には、物理吸着と化学吸着の違いを示す。物理吸着は低温でのみ起こり吸着力 も弱い。これに対して化学吸着は表面の原子と直接の結合が行われるために吸 着力も強く、触媒作用と直接関係すると考えられている。

固体表面の状態の研究や吸着の研究は、最近の新しい測定法の著しい発展に 伴って大きく進歩してきた。これらの詳細についてはあとで述べる。

(45)

2-1-4 種々の気体の金属表面上への化学吸着

きれいな金属の表面に室温でいろいろな気体を導入して、圧力の変化から化 学吸着が調べられた。その結果を表 2-1 に示す。この表からわかるように、金 属の種類により、化学吸着が起こる気体が異なる。吸着がおきやすい気体の順 は、

O2 > C2H2 > C2H4 > CO > H2 > CO2 > N2

となる。O2 はほとんどすべての金属と化学結合する(金のみは例外)活性な気 体である。N2は吸着がもっとも起こりにくい安定な気体である。グループ Aに 属する金属はほとんどの気体を吸着する極めて活性の高い金属であるが、E の グループの金属上では酸素のみが化学吸着する。A や B グループに属する金属 は通常遷移金属(第一遷移金属:Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni 第二遷移 金属:Y、Zr、Nb、Mo、Te、Ru、Rh、Pd)と呼ばれ活性は高いが、グループ D や E に属する非遷移金属の活性は低い。

この表で興味ある事は、触媒活性と吸着との関係である。Fe や Os は窒素も 水素も乖離吸着する事ができるからアンモニア合成触媒として可能性があるが、

Pt は水素には活性であるが窒素の吸着は起こらない。したがってアンモニア合 成反応の触媒としては役に立たないだろうと予想する事ができる。このように、

吸着の実験からある程度その金属の触媒作用との関連性を推定する事ができる。

(46)

2-1-5 吸着と触媒活性

触媒作用が起こるためには、触媒表面に反応物が化学吸着する事が最初のス テップである事は既に述べた。そして気体がどんな金属上に化学吸着するかと いう事もわかってきた。次に吸着と触媒作用との関係について示す。

いま水素と酸素より水を合成する反応の触媒について金属の Cu と Al の場合 を考えてみる。まず金属 Cu上では 150℃くらいに加熱すると酸素は容易に乖離 吸着し、Cu表面は酸化銅となる事がわかる。

ここで(g)は気相、(a)は吸着を示す。この酸化銅を水素気流中で 170℃に 加熱すると、酸化銅は容易に還元されてもとの金属 Cu に戻り、同時に水が生成 する。このような反応を繰り返してやれば酸素と水素から水が発生する。すな わち酸化還元の触媒反応が起こる。

次に銅の代わりに金属 Alを用いると、酸素の吸着は容易に起こる事が知られ ている。

Al 上の吸着酸素は極めて安定で水素気流中 2000℃以上に加熱して初めて Al に還元されて水が生成される。すなわち、このような場合には良い触媒とはな り得ない事がわかる。

上の例からもわかるように触媒が活性であるためには、表面に反応物が化学 O2(g)+Cu → CuO(a)

CuO(a) +H2(g) → Cu +H2O(g) O2(g) + H2(g) → H2O(g)

O2(g)+Cu → CuO(a)

CuO(a) +H2(g) → Cu +H2O(g) O2(g) + H2(g) → H2O(g)

O2(g)+Al → AlO(a)

AlO(a) +H2(g) → Al +H2O(g) O2(g) + H2(g) → H2O(g)

(47)

2-1-6 触媒表面の観察

これまでは触媒反応にもっとも関係の深い吸着作用と、触媒の活性について その概要を述べてきた。そして触媒の表面で起きている事はブラックボックス として述べたが、次にブラックボックスを開いて中を調べる。

反応が進行している時に、触媒の上でどのような事が起こっているかがわか らなかったが、近年少しずつ覗く事ができるようになってきた。歴史的に最も 古く現在もなお重要な 方法である赤外 分 光法(infrared spectroscopy 以降 IR 法とよぶ)について述べ、ブラックボックスのなかでどのような事が起こって いるかを調べる。

2-1-7 赤外分光法

吸着のところで述べたように、反応気体が触媒上に吸着したか否かは、圧力 変化や重量変化で容易にわかる。しかしどんな状態で吸着が起こるかは、これ だけではわからない。吸着状態を調べるもっとも有効な方法が IR法である。

この方法はアメリカの Texco 石油会社の Eischens という人達のグループによっ て始められた方法で 1954 年の事である。

【測定原理】

透明なフィルムに黒いマジックで絵をかいて光で照らすと絵の部分は光が吸 収されて透過しないので黒い影となる。この場合透過率は 0 となる。通常の光 は可視光といって目に見えるが、この赤色より外側にある光(これを赤外光と 呼ぶ)は目で見えない(図 2-7)。

(48)

この赤外光で分子に照射すると、分子は赤外光を吸収して、余剰の赤外光は 通過する。分子の構造によって赤外光を吸収する様子が異なるので、その吸収 を調べると分子の構造がわかる。赤外光の検出には熱電対などが用いられてい た。その分光器の概要を図 2-8 に示す。光源より出た光はプリズムによって分 光されて単色の光となり試料(ここでは CO2の気体試料)を通過する。

一般にこのような分子の振動は4000 ccmm--11から100 ccmm--11のところに吸収が起こ る。通常横軸に波数を取り、縦軸に透過率(%)をとったスペクトルとしてレコー% ダーに記録される。波数ν(ccmm-1-1)は波長(λ)の逆数として表される。例えば、

光の波長が 2.5×10-4 ccmmであるときの波数は 4000 ccmm--11である。赤外分光器は、

1950 年代には赤外の分光のために食塩などのプリズムが用いられた。1960 年代 にはいり、これに代わり金属表面上にきり刻まれた格子(グレーティング)が 用いられるようになり分解能が向上した。1970 年代では、プリズムやグレーテ ィングとは全く異なる光の干渉法(マイケルソン干渉法)が採用され、干渉図 形をコンピューターにより解析する事により、赤外スペクトルを得るフーリエ 変換赤外分光器が利用されるようになった。従来の分光器に比して、2 桁程度、

高速で高感度での測定が可能である。

実際の計測例について説明する。塩化白金酸(H2PtCl4)や硝酸ニッケルの水 溶液中に、適当な量の微粉末の SiO2を混合し蒸発乾固をして触媒が作られた。

それぞれここでは Pt/SiO2、Ni/SiO2 と表記する。この粉末を直径 20mmmm、厚さ 0.5mmmmの円盤状ディスクに成型し、試料を真空にして加熱できる IRセル中にお

いて 250℃で水素によって還元すると、茶色であった Pt や Niの試料は還元によ

り黒色になる。このようにつくられた Pt/SiO2、Ni/SiO2 上にCO を導入すると、

図 2-9に示すような COの吸着したスペクトルが初めて観測された。これからわ かるように CO の吸着状態が金属の種類によって異なる事がわかった。これは ブラックボックスのなかを覗いてみる事に成功した事になり、この成功は世界 中の触媒研究者の注目を集めた。この研究が発表されて以来、IR 法は今日に至 るまで、触媒上に吸着した分子の研究を行う中心的な方法となって広く用いら れている。

2-1-8 排気ガスの検出

(49)
(50)

図 1-13(a)で示す状態は、全容積に対する表面の比率が図 1-13(b)の状態のも のより低いケースの例を示す。 この図 1-13(a)の状態は、分散が低いと言う。 FT-IR を使用する研究によると、Pt/Al 2 O 3 の表面で CO を吸着された後に酸素を 導入する時に表面に CO 2 種が観測される。Pt/Al 2 O 3 の Pt の分散が高い時(図 1-13 の(b))CO 2 種が観測される時間が長く、分散が低い時(図 1-13 の(a))、CO 2 種が生成する時間が短い事が知られてい
図 1-25 に担体上の金属の大きさと排ガス接触の概念図を示す。粒径が大きい 程 Rh の表面積当たりの反応速度が上がるという現象は、概念で示すと図 1-25 の①から②への変化である。さらに粒径が大きくなると表面積が減り、表面積 あたりの反応速度によっては好ましいが、ガスが活性点に接触する確率が下が りいずれは転換率が下がる。図 1-26 に粒径と転換率の関係を示す。粒径が大き いほど転換率は下がる事がわかる。粒径が大きいだけでは排ガス浄化触媒とし ては好ましくない。転換率を上げるためには図 1-25 の
図 2-13 に過渡回折格子法の概念を示す。図 2-14 に過渡回折格子法の装置図を示 す。
図 3-5、図 3-6 に示した。
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参照

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関東総合通信局 東京電機大学 工学部電気電子工学科 電気通信システム 昭和62年3月以降

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