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序文 思言 の第 12 号をお届けする 今号もその内容とレベルに関しては十分なものと言えるかわからないが 読んでくださる方々の評価を俟つ 言語学の進展に何か少しでも寄与するところがあれば幸いである 今回も印刷 刊行に関して東京外国語大学大学院の競争的経費を申請し その援助を賜ることができた 記してお

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(1)

思言

第 12 号

論文

特集:複他動詞構文 (Ditransitive construction) とその周辺に存在する問題点 ―Malchukov et al. (2010) の枠組みをもとにして― ··· 山田 洋平 (3) 複他動詞の意味地図 ···山田 洋平・山田 怜央 (9) ラワン語の格小辞の機能 ··· 大西 秀幸 (23) フィジー語の複他動詞と投擲動詞 ··· 岡本 進 (31)

修士論文 要旨

鄂倫春語の指小・指大表現について ··· 渋谷 ときは (43) ウイルタ語形動詞の修飾用法と名詞用法について ··· 森貝 聡恵 (53)

卒業論文 要旨

ペルシア語の強勢を伴わない接尾辞-i について ··· 石原 拓海 (65) トルコ語における与格/奪格支配動詞 ··· 岡田 唯 (73) 現代東アルメニア語の動詞不定形に対する格選択について ··· 神田 浩輝 (81) スペイン語における名詞句内の形容詞の位置 ··· 小林 光揮 (89) タガログ語の行為者焦点使役動詞について ―日本語との対照から― ··· 小林 由佳 (97) 韓国語の新語における日本語から入ってきた外来語について ··· 陳 陽淑 (105) リトアニア語の状況可能を示す形式について ··· 鈴木 まどか (113) 朝鮮語における -i/ -hi/ -li/ -ki および -cita 形受身文の統語的・意味的特徴 · 鈴木 麻水 (121) 漢越語の使用率―日本語の漢語率との比較― ··· 田中 裕也 (129) ベンガル語における目的格接辞-ke と目的語の定性・有生性 ··· 東頭 拓也 (137) 朝鮮語延辺方言の話し言葉における-(i)ntey について ··· 白 蓮花 (145) トルコ語対格の出現条件 ··· 橋本 直樹 (153) バスク語の自動詞文における能格の出現条件について ··· 福井 夏来 (161) ロシア語の移動動詞における接頭辞の付加可能性とその実態および傾向について ―接頭辞 iz- / vz- を中心に― ··· 堀尾 佑佳 (169) ブラジルポルトガル語の対称詞について ··· 森田 響 (177) 分析的使役動詞 make に関する主語の有生性傾向について ―英語母語話者と日本人英語学習者の比較― ··· 大和 正浩 (185) 日本語の「A の B」型名詞句の英訳表現について ··· 横田 桃子 (193) 閩語福州方言の名量詞について ―統語的特徴を中心に― ··· 劉 琴 (201)

2016 年

東京外国語大学

総合国際学研究科・言語文化学部

(2)

序文

『思言』の第 12 号をお届けする。今号もその内容とレベルに関しては十分な

ものと言えるかわからないが、読んでくださる方々の評価を俟つ。言語学の進

展に何か少しでも寄与するところがあれば幸いである。

今回も印刷・刊行に関して東京外国語大学大学院の競争的経費を申請し、そ

の援助を賜ることができた。記してお礼申し上げる。深く感謝するとともに、

さらに質の高い論集を目指して今後も努力を重ねてゆきたいと考えている。

今回の論文は、2016 年 6 月に行われた日本言語学会 152 回大会で、風間ゼミ

の 院 生 た ち と OB で 行 っ た ワ ー ク シ ョ ッ プ 「 複 他 動 詞 構 文 ( Ditransitive

construction)とその周辺に存在する問題点―Malchukov et al.(2010)の枠組み

を中心として―」が基になったものである。私もいちおうコメンテータを務め

させていただいたが、院生たちを中心にもっぱら勉強し構想の上応募したもの

で、積極的に自ら取り組んでいく学生に恵まれてたいへんありがたく感じてい

る。学生からの刺激を受けて、私自身ももっとしっかり研鑽していきたいと考

えている。

他方、外部から広く投稿を受け付けることは今年度も課題として残されたま

まである。当研究室での研究会に関しても、学内レベルでの公開は行っている

が、これもまだ広く一般から人に聞きに来ていただけるようなレベルには至っ

ていない。外部との交流を深めるとともに、さまざまな刺激を受けてやってい

くようにすること、より広く世界に発信し、通用するような研究体制を構築す

る必要がある。この点も去年の論集から進歩していないが、まずはこの現状を

維持し、論集を継続的に刊行していくとともに、一歩ずつ工夫を重ねてより良

い研究発信の体制を構築してゆきたいと考えている。

今号の編集にあたっては、岡本進君、橋本直樹君が中心になって尽力してく

ださった。ゼミの院生・学部生諸氏もよく手伝ってくれた。ここに記して感謝

の意を表したい。

上記のように拙いままお届けする本号であるが、読んでくださった方々から

は、今後も広く御批判御叱正を賜りたい。今後も改善に努めていくとともに、

前号に御意見を下さった方にはこの場を借りて深くお礼申し述べたい。

2016 年 12 月 19 日

風間 伸次郎

(3)

思言 第 12 号 目次:

論文

複他動詞構文 (Ditransitive construction) とその周辺に存在する問題点 ―Malchukov et al. (2010) の枠組みをもとにして―

Some issues in Ditransitive construction: based on Malchukov et al. (2010)’s work

··· 山田 洋平 (3)

複他動詞の意味地図

Semantic map of ditransitive construction in four languages ··· 山田 洋平・山田 怜央 (9)

ラワン語の格小辞の機能

Accusative particle in Rawang ··· 大西 秀幸 (23)

フィジー語の複他動詞と投擲動詞

Ditransitive Verbs and Throwing Verbs in Fijian ··· 岡本 進 (31)

修士論文 要旨

鄂倫春語の指小・指大表現について

A descriptive study on the Diminutive and Augmentative in the Oroqen Language

··· 渋谷 ときは (43)

ウイルタ語形動詞の修飾用法と名詞用法について

The Modificative and Nominal Usages of Participles in Uilta ··· 森貝 聡恵 (53)

卒業論文 要旨

ペルシア語の強勢を伴わない接尾辞-i について

On the unstressed suffix -i in Modern Persian ··· 石原 拓海 (65)

トルコ語における与格/奪格支配動詞

Turkish verbs which requires dative or ablative ··· 岡田 唯 (73)

現代東アルメニア語の動詞不定形に対する格選択について

Case alternation of infinitive in Modern Eastern Armenian ··· 神田 浩輝 (81)

スペイン語における名詞句内の形容詞の位置

The position of Spanish adjectives in noun phrase ··· 小林 光揮 (89)

タガログ語の行為者焦点使役動詞について ―日本語との対照から― The actor focus causative verb in Tagalog -Based on contrast with the Japanese-

··· 小林 由佳 (97)

韓国語の新語における日本語から入ってきた外来語について

(4)

リトアニア語の状況可能を示す形式について The forms of situational possibility in Lithuanian

··· 鈴木 まどか (113)

朝鮮語における -i/ -hi/ -li/ -ki および -cita 形受身文の統語的・意味的特徴 Syntactic and semantic features of passive sentences by -i/ -hi/-li/ -ki and -cita in Korean

··· 鈴木 麻水 (121)

漢越語の使用率―日本語の漢語率との比較―

Ratio of Sino-Vietnamese – Comparing with the ratio of Sino-Japanese ··· 田中 裕也 (129)

ベンガル語における目的格接辞-ke と目的語の定性・有生性

Suffix -ke and Definiteness/Animacy of Object in Bengali ··· 東頭 拓也 (137)

朝鮮語延辺方言の話し言葉における-(i)ntey について

On locative particle -(i)ntey in (spoken) Yanbian Korean ··· 白 蓮花 (145)

トルコ語対格の出現条件

The occurance condition of Turkish accusative ··· 橋本 直樹 (153)

バスク語の自動詞文における能格の出現条件について

The ergative case in intransitive sentence in Basque ··· 福井 夏来 (161)

ロシア語の移動動詞における接頭辞の付加可能性とその実態および傾向について ―接頭辞 iz- / vz- を中心に―

The possibility of adding prefixes to verbs of motion in Russian, its actual usage and tendencies ― centering on prefixes iz- / vz- ― ··· 堀尾 佑佳 (169)

ブラジルポルトガル語の対称詞について

Treatment in Brazilian Portuguese ··· 森田 響 (177)

分析的使役動詞 make に関する主語の有生性傾向について ―英語母語話者と日本人英語学習者の比較―

The Animacy Status of Subject in the Use of Analytical Causative MAKE by Native and JEL Student ··· 大和 正浩 (185)

日本語の「A の B」型名詞句の英訳表現について

The English Translation of Japanese "A no B" ··· 横田 桃子 (193)

閩語福州方言の名量詞について ―統語的特徴を中心に―

The syntactic feature about the nominal classifiers of Min Chinese 's Fuzhou dialect

(5)
(6)
(7)
(8)

特集:複他動詞構文 (Ditransitive construction) とその周辺に存在する問題点

―Malchukov et al. (2010) の枠組みをもとにして―

趣旨説明

山田洋平 (東京外国語大学大学院) キーワード:複他動詞,意味地図,類型論 1. はじめに

この特集1は、複他動詞構文 (ditransitive construction) を類型論的に論じた Malchukov et al. (2010) をきっかけとして、各報告者がそれぞれ専門とする言語について見出だした複他動 詞構文とそれに関連する現象を論じるものである。 複他動詞構文とは、英語について学校文法でいう第四文型 (SVOO) のような、目的語項 を二つ取る構文のことを指す。このような構文を取る代表的な複他動詞としては英語の give「与える」が挙げられるが、一般に「複他動詞構文」と言ってもどんな動詞が、どの ような方法でこれを表すかは言語により様々である。様々な言語の類型を示すうえで複他 動詞構文という研究分野はまだその創始の段階にあると言え、憂慮すべき問題は多岐にわ たる。本特集が一種のたたき台として、今後の研究の進展に寄与すれば幸いである。 本稿は次節2. において Malchukov et al. (2010) について紹介し、複他動詞構文についてそ の類型的諸特徴と、以降の個別報告で問題とする基本概念を導入する。なお例文に付され た例文番号やグロス、和訳、下線は特に断りのない限り筆者による。 2. 複他動詞構文の諸特徴 以下では、Malchukov et al. (2010) の枠組みをもとに複他動詞構文の諸特徴を整理する。 2.1. では Malchukov et al. (2010) よりそもそも複他動詞構文とは何であるのか述べる。その 上で、複他動詞構文の類型に関して考えるべき問題として 2.1. では格配列のパターン、2.2. では統語操作における振る舞いについて簡略にまとめる。Malchukov et al. (2010) はこうし た諸特徴について様々な言語の例を挙げながら説明した後、複他動詞構文の個別言語での 現れを意味地図で図示している。2.3. ではこの意味地図について概説する。 2.1. 複他動詞構文とは

Malchukov et al. (2010: 1) は複他動詞構文を複他動詞、A 項 (Agent)、T 項 (Theme)、R 項

1 この特集は、2016 年 6 月 26 日に慶應義塾大学三田キャンパスにて日本言語学会第 152 回大会で行われた 同名のワークショップに基づき再構成したものである。再構成にあたってはワークショップのコメンテー ターの風間伸次郎先生をはじめ、来場者の方々からの貴重なご意見ご質問を反映させていただいている。 ここで各個別報告を代表して略式ながら皆様へ御礼申し上げたい。

(9)

(Recipient-like) からなる構文であると定義している2。Malchukov et al. (2010) はこのような

構文の述語となる典型的な複他動詞として「与える」を挙げている。

(1) 英語

Mary gave John a pen. PN to_give.PAST PN INDEF pen

メアリー (A) はジョン (R) にペン (T) をあげた。 Malchukov et al. (2010: 1) (2) ドイツ語

Ich gab dem Kind den Apfel. 1SG.NOM to_give.PAST DEF.N.DAT child DEF.M.ACC apple

私 (A) は子供 (R) にリンゴ (T) をあげた。 Malchukov et al. (2010: 3) (3) 西グリーンランド語

(Uuma) Niisi aningaasa-nik tuni-vaa.

(that.ERG) PN money-INS.PL to_give-IND.3SG>3SG

彼 (A) はニーシ (R) にお金 (T) をあげた。 Fortescue (1984: 89) (1) の英語ではいわゆる第四文型、すなわち目的語項を二つ取る (二重目的語) を取ってい る。他方 (2) のドイツ語では、R 項が与格を取ることで T 項 (対格) と区別されている。(3) 西グリーンランド語では T 項が道具格で現れ、R 項は無標である。R 項の現れる形式に違 いはあるが、いずれもここでは複他動詞構文として扱う。Malchukov et al. (2010) はほかに、 lend「貸す」、hand「手渡す」、sell「売る」、return「返す」など動作主が対象を有性の受け 手の所有権に移動させることを表す動詞が典型的な複他動詞構文を成すとしている。 なお、他動詞、A 項、O 項 (Object) からなる言わば「普通の他動詞構文」(transitive construction) について、本特集では複他動詞構文と区別する意味合いで単他動詞構文 (monotransitive construction) と呼ぶ。

2.2. 格配列のパターン

他動詞構文における被動者 (P: patient) と複他動詞構文における直接目的語項 (T: theme) 及 び間接目的語項 (R: recipient) がどのように対応するかで indirective タイプ (T=P≠R) や secundative タイプ (T≠P=R)、neutral タイプ (T=P=R)、tripartite タイプ (T≠P≠R) に分類できる。 indirective タイプでは、単他動詞構文の P 項と複他動詞構文の T 項が同一の形式 (格や一致 など) でマークされる。次のドイツ語の例では、(4)「リンゴを食べた」の「リンゴを」と 2 項の意味役割に基づく定義に留まり、形式面での定義はされていない。これを表す言語表現が言語ごと に多様であり、類型論的に考察する上での限界が垣間見える。例えば (1) の英語の例に見るような二重目 的語を取るかどうかを形式面の定義とする可能性もあるだろうが、本特集で扱われる言語の中にはこうし た構文を取る言語が無い。Malchukov et al. (2010) では各言語において「与える」など典型的な複他動詞と 言いうる語がどのような構文を取るかといった点から個別言語的に複他動詞構文を決定しているようであ る。本特集においても凡そこれに倣っている。

(10)

(2)「子供にリンゴをあげた」の「リンゴを」が同じ対格で現れている (当該名詞句の定冠 詞が対格形 (ACC) になっている)。

(4) ドイツ語 単他動詞の例

Ich aß den Apfel. 1SG.NOM to_eat.PAST DEF.M.ACC apple

私はリンゴ (P) を食べた。 Malchukov et al. (2010: 3)

(2) [再掲]ドイツ語 複他動詞の例

Ich gab dem Kind den Apfel. 1SG.NOM to_give.PAST DEF.N.DAT child DEF.M.ACC apple

私 (A) は子供 (R) にリンゴ (T) をあげた。 Malchukov et al. (2010: 3)

これに対しsecundative タイプとは、単他動詞構文の P 項が複他動詞構文の R 項と同一の

形式になるものを指す。次の西グリーンランド語の例では、(5)「よそ者を殺した」の「よ

そ者を」と (3)「ニーシにお金をあげた」の「ニーシに」が共に絶対格 (ゼロ) でマークされ

る。

(5) 西グリーンランド語 単他動詞の例 Piita-p takurnartaq tuqup-paa? PN-ERG.SG stranger kill-INT.3SG>3SG

ピータ (A) はよそ者 (P) を殺したのか? Fortescue (1984: 192)

(3) [再掲] 西グリーンランド語 複他動詞の例 (Uuma) Niisi aningaasa-nik tuni-vaa.

(that.ERG) PN money-INS.PL to_give-IND.3SG>3SG

彼 (A) はニーシ (R) にお金 (T) をあげた。 Fortescue (1984: 89)

これらの他に単他動詞構文のP 項と複他動詞構文の R 項 T 項が全て同じ形式でマークさ

れるneutral タイプ (例えば英語ではいずれも対格で示される) や、全て異なる形式でマーク

されるtripartite タイプ (ただし稀) などがある。図示すると次のようである。

図1: 複他動詞構文の配列図 (Malchukov et al. 2010: 5, 7)

(11)

indexing なのか言語によって異なることも問題にしている。flagging とは、配列が格や接置 詞などによって名詞側に示されることであり、ここまで挙げてきた英語、ドイツ語、西グ リーンランド語はいずれもflagging の仕組みを有している。 indexing とは、配列が一致によって動詞側に示されることであり、(3) (5) に見る西グリー ンランド語でもこの仕組みが現れている (動詞接辞に見られる 3SG>3SG がこれを示してい る)。その他に (1) の例に見る英語のように、名詞側にも動詞側にも形式上示されず、語順 によって配列が示される例もある。 2.3. 統語的操作における複他動詞構文の振る舞い Malchukov et al. (2010: 25-) では統語的操作を行ったときに、複他動詞構文のどの項が他 動詞構文の被動者と同じように振る舞うかを検討している。例えば indirective タイプの言 語であっても、受動文に関しては主語に昇格させやすい項は単他動詞の P 項と複他動詞の R 項であるという。これは単他動詞構文を受動文にするときに昇格する項と、複他動詞構 文を受動文にするときに昇格する項が同一である (P=R) ということであり、secundative タ イプ的になりやすいと言える3 (6) 英語 (能動態)

They gave the sweets to the children. 3PL to_give.PAST DEF sweet.PL to DEF child.PL

彼ら (A) は子供ら (R) にお菓子 (T) をあげた。 Malchukov et al. (2010: 29)を変形 (7) 英語 (受動態)

a. The children were given sweets. DEF child.PL to_be.PAST.PL to_give.PP sweet.PL

子供 (R) はお菓子 (T) を与えられた。 Malchukov et al. (2010: 29) b. ? The sweets were given children.

? DEF sweet.PL to_be.PAST.PL to_give.PP child.PL

お菓子 (T) は子供 (R) に与えられた。 Malchukov et al. (2010: 29)

他にも相互態や順行/逆行の操作もsecundative タイプになりやすいという。

逆に、抱合や逆受動、さらに名詞化した際に属格で示される項 (Mary gave the book to the boy に対して Mary’s gift of the book to the boy / * Mary’s gift of the boy (of) the book) は、T 項由 来の操作 (P=T) すなわち indirective タイプを取りやすいという。次の南ティワ語は複他動詞 構文において Indirective タイプも secundative タイプも取りうる言語であるが、動詞が抱合

できるのはT 項のみであるという。

3 あくまで傾向であり、例えば例 (7) の和訳に見るように日本語では T/R いずれの項も受動文において昇 格できる (neutral タイプである)。

(12)

(8) 南ティワ語

a. Ti-khwien-wia-ban seuanide-’ay. 1SG.3SG.R-dog-to_give-PAST man-to

私は男に犬をあげた。 Malchukov et al. (2010: 42 {Allen & Frantz 1983: 306f}4)

b. Ta-khwien-wia-ban seuanide. 1SG.3SG.R.3SG.T-dog-to_give-PAST man

私は男に犬をあげた。 Malchukov et al. (2010: 42 {Allen & Frantz 1983: 306f})

2.4. 複他動詞構文を取り得る動詞や標示の多様性と意味地図 典型的な複他動詞構文を取る動詞は閉じた体系を成すことが多く、「与える」を中心と してどのような動詞が複他動詞構文を成すのかは言語により様々である。さらに R 項の標 示が他にどのような意味役割を担いうるかも言語ごとに異なる様相を見せる。Malchukov et al. (2010) はこれを意味地図上に示し類型論的な特徴を示そうとしている。これについて詳 細は次の「複他動詞の意味地図」に譲る。 参考文献

Fortescue, Michael D. (1984) West Greenlandic. London: Croom Helm.

Malchukov, Andrej, Martin Haspelmath and Bernard Comrie (2010) Ditransitive constructions: a typological overview. In Studies in Ditransitive Constructions A Comparative Handbook. Berlin/New York: Walter de Gruyter GmbH & Co. KG

4 Allen, Barbara J. & Frantz, Donald G. (1983) Advancements and verb agreement in southern Tiwa. In Perlmutter, David M. (ed.), Studies in Relational Grammar, Vol. 1, 303-316. Chicago: University of Chicago Press. 筆者未見

(13)

Some issues in Ditransitive construction: based on Malchukov et al. (2010)’s work Yohei YAMADA

(Tokyo University of Foreign Studies)

This special issue is based on Malchukov et al. (2010)’s work, and each paper discusses an issue in ditransitive construction of a particular language. Malchukov et al. (2010) enumerate some features in ditransitive, such as case alignment and encoding strategies, and further present semantic maps on it.

(14)

複他動詞の意味地図

山田洋平・山田怜央 (東京外国語大学大学院) 1. はじめに 本稿ではまずMalchukov et al. (2010)の提案する 2 種類の複他動詞に関する意味地図を提 示する。その後、それを研究対象となる4 言語(モンゴル語、アイルランド語、ラワン語、 フィジー語)に適用させてそれぞれの相違点を見る。 1.1. 本稿の構成 2 節では、R 項の意味地図を紹介した後、研究対象となる 4 言語の複他動詞構文に現れる R 項の意味役割の範囲を意味地図に示す。この中で、特に他の 3 言語と比べると R 項が取 りうる格の機能が比較的広いモンゴル語の事例を取り上げ、複他動詞構文の定義が難しい ことを述べる。 そして続く 3 節では、動詞意味タイプの意味地図を提示し、研究対象となる上記 4 言語 のデータをそれに適用させて示す。その様相はやはり言語によってまちまちだが、それで も Malchukov et al. (2010)の提案する意味地図を逸脱するものではないということが分かる。 最後に4 節で、Malchukov et al. (2010)の意味地図に含まれていないが、複他動詞と考える ことができそうなさらなる可能性を提案し、今後の課題を示す。 1.2. 対象言語 本稿で対象とする言語は①モンゴル語、②アイルランド語、③ラワン語、④フィジー語 の 4 言語であり、それぞれの言語につき複他動詞構文の意味地図を考える。系統的にはそ れぞれモンゴル語族、インド・ヨーロッパ語族、チベット・ビルマ語族、オーストロネシ ア語族に属する言語であり、いずれも互いに系統関係を持たない言語である。地理的な分 布については次頁の図1 を参照のこと。

(15)

図1:言語地図 これらの言語の類型論的な特徴(語順)および複他動詞構文の特徴(flagging と indexing それ ぞれにおける基本的な各配列のタイプ)を次の表 1 に示す。それぞれの言語のデータについ ては表 1 で示す報告者が提供したものである。モンゴル語、ラワン語、フィジー語はそれ ぞれの言語の話者からエリシテーション調査を行い、アイルランド語については辞書など から用例を収集した。 表1:本 WS で対象とする言語一覧 言語名 語順 flagging indexing 報告者

① モンゴル語 SV/APV indirective N/A 山田洋平

② アイルランド語 VS/VAP indirective N/A 山田怜央

③ ラワン語 SV/APV secundative secundative 大西秀幸 ④ フィジー語 VS/VPA indirective indirective 岡本進

① ②

(16)

2. R 項の意味地図 2.1. Malchukov et al. (2010)による R 項の意味地図 Malchukov et al. (2010)は R 項が取る形式がどのような意味範囲まで担いうるか、ケチュ ア語(ケチュア語族)、エマイ語(ニジェール=コンゴ語族)、エウェン語(ツングース諸語)の 事例を挙げて次の図 2 のような意味地図を示している。図は Haspelmath (2003)の与格意味 地図に加え、三項動詞を取りうる malefactive source (被害の起点、「彼から金を盗った」)と patient (被動者、「彼を棒でぶった」) が右に枝を伸ばしている。ここでは R 項が担う典型的 な意味役割 recipient を中心として、連続を成す意味役割を線で結ぶことで示されている。

secundative タイプの分布を見せるエマイ語では recipient から左へ分布が伸びて patient 被動 者に伸びている。左上の malefactive source はいわゆる二重目的語構文など典型的な複他動 詞構文に現れやすいものであるという。エウェン語はrecipient から右上は beneficiary、右下

へは goal と location まで伸びる。ケチュア語では典型的な複他動詞構文は向格で成され、

受益を表す属格形式が隣接するpossessive も担うという。

(17)

2.2. 各言語での R 項の意味地図 2.2.1. モンゴル語 以下、図3 がモンゴル語における R 項の意味地図である。 図3:モンゴル語の与位格と方向格の意味地図 モンゴル語の複他動詞構文はいわゆる他動詞文に R 項が追加されたものであると考えら れる。R 項は「与える」のような動詞の場合には与位格(DAT: dative-locative)で標示され(例 文(1))、「投げる」のような動詞の場合には方向格(DIR: directive)で標示される(例文(2))。 1) Би дүүд R тэр номыг T өгсөн. bi düü-d ter nom-iig ög-sön

1SG younger.brother-DAT that book-ACC to.give-PERF

「私は弟に本をあげた」[recipient] 2) Би түүн рүү R чулуу T шидсэн.

bi tüün rüü čuluu šid-sen

1SG 3SG DIR stone to.throw-PERF

「私は彼に石を投げた」[goal] 一部の移動動詞の項となる方向格は省略されることがあるが、複他動詞構文における受 け手項がいずれの格も付されずに現れることは無い。方向格は接触動詞については被動者 を表示することができる。与位格が表す beneficiary はモノの授受を含意する場合に限定さ 方向格 与位格

(18)

れるらしい。

また与位格という名に表されている通り、(3)のような位格としての location の用法もあ る。goal を表す与位格と方向格の使い分けはどのように行われるのかよくわからない。 3) Би Дарханд амьдарч байна.

bi darxan-d amjdar-č bai-na

1SG PN-DAT to.live-SIM to.be-NPST

「私はダルハンに住んでいる」 Kullmann and Tserenpil (2005) 4) Би сургууль руу явсан.

bi surguulj ruu jaw-san

1SG school DIR to.go-PERF

「私は学校に行った」 2.2.2. アイルランド語 以下、図4 がアイルランド語における R 項の意味地図である。 図4:アイルランド語の前置詞 do ‘to’, i ‘in’の意味地図 アイルランド語における複他動詞構文とは、基本語順 VAP で示される他動詞文(例文(5)) にR 項が追加されたものであると考えられる。もっとも典型的な R 項である recipient は通 常、前置詞 do ‘to’によって標示される(例文(6))。ただしこの前置詞は recipient に限らず、 beneficiary も表しうる(例文(7))。goal や location には、場所を表す前置詞 i ‘in’, ar ‘on’などが

do ‘to’

i ‘in’, ar ‘on’

(19)

用いられる(例文(8)および例文(9))。

なお、下記のうち、例文(8)のみ辞書の記述からの引用だが、その他は全てオンラインコーパ スから得たものである(辞書・オンラインコーパスそれぞれの情報については、稿末の参考文献 一覧に記載)。

5) Bhris an naíonán an buidéal.

break.PST DEF.SG infant.SG DEF.SG bottle.SG

「その子供はその瓶を割った」[単他動詞文]

6) Thug Brian an t-airgead T do na daoine R.

give.PST PN DEF.SG money.SG to DEF.PL person.PL

「ブリーアンはその人たちにそのお金をあげた」[recipient] 7) rinne mé bricfeasta T do C R.

make.PST I.SG breakfast.SG to PN

「私はC のために朝食を作った」[beneficiary] 8) Chuir sé airgead T sa1 bhanc R.

put.PST he.SG money.SG in+DEF.SG bank.SG

「彼はお金をその銀行に入れた」[goal]

9) Chuir Róisín muga caifí T ar an mbord beag R

put.PST PN mug.SG coffee.PL on DEF.SG table.SG small.SG

「ローシーンはコーヒーのマグをその小さな机の上に置いた」[goal]

goal や location における前置詞の使い分けは、名詞の特性などによってなされる。それ は、英語などの西欧語における前置詞の使い分けとある程度対応するものであろう。

(20)

2.2.3. ラワン語 以下、図5 がラワン語における R 項の意味地図である。 図5:ラワン語の=sə̀ŋ の意味地図 具体的な例文を含め、詳細はこの後の個別報告にて紹介するので、ここでは意味地図を 挙げるだけに留める。 2.2.4. フィジー語 以下、図6 がフィジー語における R 項の意味地図である。 図6:フィジー語の前置詞 vei / ki ‘to’の意味地図 vei / ki ‘to’ =sə̀ŋ

(21)

フィジー語では「与える」などの授受動詞では、前置詞 vei または ki を用いて R 項を示 す。なお、どちらも英語の‘to’に当たるような前置詞であるが、前者は人名及び代名詞に、 後者は普通名詞に用いられる。 これに対し、「投げる」などの投擲動詞などではsecundative タイプのような分布も見られ るという。 具体的な例文を含め、詳細は個別報告にて紹介するので、ここでは意味地図を挙げるだ けに留める。 3. 動詞意味タイプの意味地図 3.1. Malchukov et al. (2010)の動詞意味タイプの意味地図 Malchukov et al. (2010)は次に、同じ格でも動詞の意味タイプによって意味役割が変わると いう可能性について触れている。例えばロシア語の動詞o-darit’ ‘give as a gift’は、次の例文 (10)のように R 項に対格、T 項に具格を取る。それに対して類義語である(po-)darit’は例文 (11)のように R 項に与格、T 項に対格を取る。なお、(10)と(11)はどちらも辞書に記載され ているものである。

10) Я одарил детей R игрушками T.

Ja odar-il-ø det-ej igrušk-ami

I.SG.NOM give.PFV-PST-M child-PL.ACC toy-PL.INST

「私は子供たちにおもちゃをばらまいた」

(子供たち=対格、おもちゃ=具格。secundative 型格配列)

[木村他(編) (1995: 675)2]

11) Я подарил ему R авторучку T.

Ja podar-il-ø emu avtoručk-u

I.SG.NOM give.PFV-PST-M he.SG.DAT fountain_pen-SG.ACC

「私は彼に万年筆を贈った」 (彼=与格、万年筆=対格。indirective 型格配列) [木村他(編) (1995: 213)] このように、動詞の意味タイプによって格配列に違いがあるということを、ジャミンジ ュン語(オーストラリア諸語、neutral タイプ)、フィンランド語(ウラル語族、向格を用いた indirective タイプ)、西グリーンランド語(エスキモー=アレウト語族、具格を用いた secundative タイプ)の事例を挙げて図 7 のような意味地図を示している。 2 対照のため、不定形で記載されていた用例を、筆者が(11)と同じ「完了体過去男性単数」に活用させて示 してある。日本語訳もそれに合わせて多少の変更を加えた。

(22)

図7:Malchukov et al. (2010)による動詞意味タイプの意味地図

この意味地図を見てみると、中心にGIVE が置かれ、そこから 5 つの経路(path)が伸びて

いる。

1 つ目は「向格(allative)経路」であり、SEND – THROW – PUT / PUSH と続く。2 つ目は 「具格(instrumental)経路」で、FEED – HIT と続き、この両者の間には SPRAY / LOAD が配 置される。上半分に目を向けると、3 つ目に「受益(benefactive)経路」が SELL – BUILD と 伸び、4 つ目に「被害(malefactive)経路」が TAKE AWAY へと伸びており、その間に BREAK

が配置される。さらに5 つ目の経路として、発言系の動詞をふくむ TELL – SAY という経路

(23)

3.2. 各言語の動詞意味タイプの意味地図 3.2.1. モンゴル語

モンゴル語では R 項に与位格を取る動詞の範囲が広く、GIVE, SELL, SAY, TELL, FEED, SPRAY までをカバーする。右下に伸びる「向格経路」の SEND, THROW, PUT / PUSH につ いては方向格が用いられ、SPRAY の位置で与位格とオーバーラップするという。また、 PUT に関しては与位格との置き換えも可能であると思われる。 調査の意図を外れたデータであったため、下の図8 では与位格に含めていないが、TAKE AWAY についての調査では与位格を用いて「泥棒にお金を無くす」という表現が得られた。 与位格が用いられたという点で複他動詞的であると言える。 図 8:モンゴル語の動詞タイプの意味地図 3.2.2. アイルランド語 アイルランド語は以下図 9 に示す通り、複雑な様相を呈している。R 項に前置詞 do ‘to’

を取るのは GIVE, TELL, BUILD のみで、右下の「向格経路」の SEND, PUT / PUSH および SPRAY / LOAD では、R 項に方向を表す何らかの手段を取る。

問題となるのは前置詞le (第一義には‘with’)を用いたものだが、これには 2 種類が考えら

れる。この前置詞が表しているものは、FEED, HIT に関しては T 項寄りの具格的な用法だ

が、対してSAY, SELL, THROW に関しては R 項を表している。なぜこのような奇妙な体系

になっているのだろう。

このことについて、Müller (2000: 198)によると「古アイルランド語の fri ‘towards’と la ‘with’は現代アイルランド語の le に合流し、as-beir fri ‘says to’は現代語で deir le ‘say with’と なった」とのことである。つまりSAY, SELL, THROW の 3 つの動詞が取る le を fri ‘towards’ に由来するものと考えると、さほど奇妙ではなくなるだろう。

前置詞 do ‘to’の使用域は BUILD が取る benefactive 的な要素にまで伸びるが、反対側の TAKE AWAY では malefactive 的な要素に別の前置詞 ó ‘from’が現れる。

与位格

(24)

図 9:アイルランド語の動詞タイプの意味地図

3.2.3. ラワン語

ラワン語では、複他動詞的な振る舞いを見せるのは GIVE のみであり、2 節で述べた通 り、R 項が対格小辞=sə̀ŋ を取り、さらに動詞は R 項に一致する。SAY, TELL についても R 項が対格小辞を取るが、動詞は R 項に一致しない。

FEED, SELL, BUILD は R 項を benefactive 的な dəpət「~のために」が示すが、反対に TAKE AWAY が取る malefactive 的な要素には奪格が用いられる。

SEND, THROW, PUT / PUSH, SPRAY / LOAD はそれぞれ向格や位格などが用いられる。

図 10:ラワン語の動詞タイプの意味地図

3.2.4. フィジー語

フィジー語ではR 項に vei / ki ‘to’を用いる動詞の範囲が非常に広く、GIVE を中心に左へ 向かいTELL, SAY、右へ向かい SELL, BUILD, SEND, THROW, PUSH (ただし PUT では不可)

向格/位格 dəpət「~のために」 方向 do ‘to’ le ‘with (?)’ =sə̀ŋ

(25)

までがこの形式でカバーされる。

FEED, HIT と SPRAY / LOAD に関しては e という前置詞が現れるが、前者は具格的な意

味を持つのに対し、後者では位格的な意味を持つ。この 2 つを同じものと見るべきか、と

いう点には一考の余地があるかもしれない。

前置詞vei / ki ‘to’の使用域は BUILD が取る benefactive 的な要素にまで伸びるが、反対側TAKE AWAY では malefactive 的な要素に別の前置詞 mai ‘from’が現れる。

図 11:フィジー語の動詞タイプの意味地図

4. さらなる可能性

ドイツ語は複他動詞に関して、Malchukov et al. (2010)が示すように与格・対格を持つ indirective タイプの言語であり、geben ‘give’などに関してはそのように振舞う。しかし lehren ‘teach’という動詞は R 項・T 項ともに対格の二重対格(neutral タイプの配列)を用いる。 ここではMalchukov et al. (2010)が先行研究として挙げている Plank (1987)から例を引用する。 12) Frl. Schmidt lehrt die Mädchen R das Stricken T.

Miss PN teach.PRS.3SG DEF.PL.ACC girl.PL.ACC DEF.N.SG.ACC knitting.N.SG.ACC

「シュミット嬢はその少女たちに編み物を教えている」 [Plank (1987: 41)] 日本語で考えてみると、「彼は生徒に日本語を教える」では与格・対格という配列を用 い、二重対格「*彼は生徒を日本語を教える」は非文となる。だが、R 項・T 項の片方を落 とした単他動詞構文ならば「彼は日本語を教える」「彼は生徒を/に教える」のように、 複他動詞におけるR 項・T 項のどちらも対格で示すことが可能である。 英語に関しても状況は日本語とある程度対応していると考えられるが、このことから 「教える」という動詞は、複他動詞としてまた違った特性を持っているはずである。この e (道具/場所) vei / ki ‘to’

(26)

グループの動詞を仮にTEACH として、Malchukov et al. (2010)が提示する意味地図上のどこ に配置されるだろうか。

略号一覧

1: first person GEN: genitive PFV: perfective 3: third person INST: instrumental PL: plural ACC: accusative M: masculine PN: proper noun DAT: dative(-locative) N: neuter PST: past DEF: definite NPST: non-past SG: singular DIR: directive PERF: perfect SIM: simultaneous

参考文献

木村彰一他(編) (1995)『博友社ロシア語辞典 改訂新版』東京:博友社

橋本勝 (2010)『ニューエクスプレス モンゴル語 (CD 付)』東京:白水社

Malchukov, Andrej. Martin Haspelmath and Bernard Comrie (2010) ‘Ditransitive constructions: a typological overview’. In Malchukov, Andrej. Martin Haspelmath and Bernard Comrie (eds.) (2010) Studies in Ditransitive Constructions A Comparative Handbook. Berlin/New York: Walter de Gruyter GmbH & Co. KG

Müller, Nicole (2000) Agents in Early Welsh and Early Irish. Oxford: Oxford University Press Plank, Frans (1987) ‘Direkte indirekte Objekte: Was uns lehren lehrt’. In Leuvense Bijdragen, 76:

37-61

Kullmann, Rita and Dandii-Yadamyn (2005) Mongolian grammar. 3rd revised edition. Улаанбаатар : Admon.

オンライン資料

Foclóir Gaeilge-Béarla (http://www.teanglann.ie/ (Retrieved 25/09/2016)) Online Edition of Niall Ó Dónaill (1977) Foclóir Gaeilge-Béarla. Daly City: Colton Book Imports

(27)

Semantic map of ditransitive construction in four languages Yohei YAMADA, Leo YAMADA

(Tokyo University of Foreign Studies)

In this paper, we consider ditransitive constructions in four languages – Mongolian

(Mongolic), Irish (Indo-European), Rawang (Tibet-Burman) and Fijian (Austronesian), based on the description of Malchukov et al. (2010).

Here, the two types of semantic maps will be presented.

i) The first one concerns the R argument of ditransitive constructions in the four languages. In Mongolian, the case denoting the R argument is called dative-locative, and it denotes also the location, as implies this terminology. In Irish, the R argument is expressed by the preposition do ‘to’, which can denote also the beneficiary. Regarding the last two of the languages – Rawang and Fijian, see the individual papers.

ii) The second one concerns some variations of ditransitive verbs in the four languages. In Mongolian and in Irish, the results do roughly accord with the description of Malchukov et al. (2010), note that Irish has a little complexed distribution because of the polysemy of the

preposition le ‘with’ or ‘toward’. Again, regarding Rawang and Fijian see the individual papers. At the end of the paper, we give a further possibility of ditransitive constructions: the verb ‘teach’ can take an accusative case both for the R argument and for the T argument in the monotransitive construction in Japanese; in German, which has the indirective type case

marking in general, the verb lehren ‘teach’ can take two accusative cases for the R argument and the T argument in the ditransitive construction.

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ラワン語の格小辞の機能

大西 秀幸

(東京外国語大学大学院)

キーワード: チベット-ビルマ, 複他動詞, 定性, differential object marking

1. はじめに

本稿では、Malchukov et al.(2010)が提案する配列タイプを個別言語の記述に援用する際に 起こりうる問題点をラワン語の対格小辞の分布を土台にしてとりあげる。

ラワン語ではP 項と R 項が対格で示され1、T 項は必ず絶対格で示される。すなわちラワ

ン語は格標示の点において P 項と R 項を同様に扱いながら T 項を別に扱う。これは

Malchukov et al. (2010) が指摘するところの secundative タイプの配列の特徴と一致する。そ の一方で、ラワン語はP 項が対格小辞で示されるときには DOM (differential object marking)

がみられるのに対し、R 項を標示するときには DOM がみられないという点も指摘できる。 この違いが生まれる理由をそれぞれの項を標示する対格小辞の機能の違いに求めた場合、 P 項、R 項、T 項は機能の違う小辞で別々に扱われるということになり、これはむしろ tirpartite タイプの配列の特徴といえる。 1.1. ラワン語ダル方言の概観 1.1.1. 言語概況 ラワン語(Rawang)は、ミャンマー連邦共和国・カチン州(Kachin state)の北部でラワ ン人によって話されている言語で、チベット-ビルマ語(Tibeto-Burman)のうち中央チベッ ト・ビルマ語群、ヌン語支(Nungish)に属する言語である(Ethnologue 参照)。ラワン語 には70 ほどの変種が存在することが Morse (1988) で指摘されているが、本稿で記述の対象 とするのはダル方言である。特に断りのない限り本稿でラワン語と表現するのは「ダル方 言」を指す。本稿で挙げている例文はすべてラワン語方言母語話者による発話で、文法的 に適格か否かの判断も行ってもらっている2 筆者によるこれまでの調査でダル方言には (1) のような特徴があることが分かっている。 1 以下、「対格で示される」というのは対格小辞が付加されるということを意味する。 2 もちろん、本稿で挙がっている例文の適格性についての責任はすべて筆者にある。

(29)

(1) ラワン語ダル方言の言語的特徴 基本語順: SV, APV, ARTV 語類: 名詞類(名詞(普通名詞、指示詞、代名詞)、数詞)、動詞(自動詞、他 動詞)、副詞類、小辞(格小辞、類別小辞、文末小辞など) 1.1.2. 複他動詞文について ラワン語の複他動詞構文についてくわしく論じた記述はほとんど見つかっておらず、数 少ない記述も他動詞構文の項目の中で、数個の例文を挙げている程度である。その中でマ トワン方言を対象にした LaPolla (2011: 5) には「複他動詞といえるのは zì「与える」と ə̄l 「紹介する」の 2 つだけであり、その他の複他動詞は専ら他動詞からの派生によって作ら れる。」との記述があるが、この点は筆者によるダル方言の調査によっても確認されてい る。以下、筆者の調査をもとにして複他動詞構文についてまとめる。複他動詞構文は格配 列と動詞の態に現れる人称・数の一致によって定義できる3 格配列 複他動詞構文の R 項は、単他動詞構文と同じく対格で示される。 (2) 単他動詞構文

ʔəpūŋ=í ʔədū=sə̀ŋ ʔədūl-ʔù=ʔē. PN=ERG PN=ACC 殴る-3P=NPT

「アプンはアドゥを殴る。」

(3) 単他動詞構文

ʔəpūŋ=í ʔədū=sə̀ŋ lēgābok zì-ʔù=ʔē PN=ERG PN=ACC 本 与える-3P=NPT 「アプンはアドゥに本をあげる。」

人称・一致 複他動詞構文の動詞の人称・数は T 項でなく R 項の人称・数に一致する。 (4) 単他動詞構文

ŋànìŋ=sə̀ŋ lēgābok tiʔ=bok laʔ-è-zì-nìŋ.

PN=ACC 一=CL(BOOK) IMP-N1-与える-1PL

「我々に一冊の本をください。」 1.2. Secundative タイプの配列について 複他動詞の R 項と T 項のどちらが単他動詞の P 項と扱われるかに関して、Mulchukov et al. (2010)では類型論的に以下に示すような分類がなされている。(5)に示す。 3 ラワン語では他の語との関係を名刺の側に標示するということができるという点で Nichols (1989) で指摘 されているところのDouble-marking language の特徴を持つといえる。

(30)

(5) Mulchukov et al. (2010) の分類 Indirective タイプの配列 R 項 を P 項 と T 項 か ら 区 別 し て 扱 う (T=P/R) secundative タイプの配列 T 項を PR 項から区別して扱う(T/P=R) neutral タイプの配列 TPR 項を同様に扱う(T=P=R) tripartite タイプの配列 TPR 項を区別して扱う(T/P/R) 2. ラワン語の格配列はsecundative タイプか (2) と (3) に示したように、P 項と R 項はいずれも対格で示される。一方 T 項は必ず T 項 は必ず絶対格で示される。この言語事実を見るとラワン語の格配列は secundative タイプの 配列とみることができるかもしれない。 3. 対格小辞=sə̀ŋ の分布に見る機能的差異 ここで対格小辞=sə̀ŋ についてより詳しくみていく。1.1.2 で示したように、=sə̀ŋ には単他 動詞構文においてP 項を示す機能と複他動詞構文において R 項を示す機能がある。一方で =sə̀ŋ の分布に目を向けると、P 項に付加されるか R 項に付加されるかによって、3.1 と 3.2 で述べるような違いがみられる。 3.1. P 項の標示 対格小辞=sə̀ŋ は P 項に付加されるが、P 項であれば必ず=sə̀ŋ に付加されるということで なく、以下に示すような条件によって絶対格との選択がなされる。 3.1.1. 定性との関係 P 項が定のとき必ず対格で示され、P 項が不定のとき必ず絶対格で示される。(6)と(7)に 実例を示す。 (6) P 項名詞句が不定と解釈されるので、必ず絶対格で示される (a) àŋ=í tiʔpè sət-ʔù.

PN=ERG 誰か 殺す-3P

「彼は誰かを殺した。」

(b) *àŋ=í tiʔpè=sə̀ŋ sət-ʔù. PN=ERG 誰か=ACC 殺す-3P

(31)

(7) P 項名詞句が定と解釈されるので、必ず対格で示される (a) àŋ=í wē=gʉ́ ʔəgʉ́=sə̀ŋ sət-ʔù.

PN=ERG その=CL (ANIMAL) 犬=ACC 殺す-3P

「彼はその犬を殺した。」

(b) *àŋ=í wē=gʉ́ ʔəgʉ́ sət-ʔù. PN=ERG その=CL (ANIMAL) 殺す-3P

3.1.2. 名詞句のタイプとの関係

P 項が代名詞であれば必ず対格で示される。(8) に実例を示す。 (8) P 項が代名詞なので、必ず対格で示される

(a) kàŋ=í àŋ=sə̀ŋ sət-ʔù. 虎=ERG 3SG=ACC 殺す-3P

「虎は彼を殺した。」

(b) *àŋ=í àŋ sət-ʔù. PN=ERG 3SG 殺す-3P

逆にP 項が代名詞でなく、不定と解釈されるものなら、必ず絶対格で示される。 (9) に実

例を示す。

(9) P 項が代名詞でなく、不定と解釈されるので絶対格で示される (a) kàŋ=í ʔəsàŋ sət-ʔù.

虎=ERG 人 殺す-3P

「虎は人を殺した。」

(b) *àŋ=í ʔəsàŋ=sə̀ŋ sət-ʔù. PN=ERG 人=ACC 殺す-3P 3.1.1 と 3.1.2 で例示したように、P 項が対格で示されるのは、P 項が代名詞のとき、ある いは定名詞句のときである。「対格で示される」ということは対格小辞が付加されるとい うことである。つまり対格小辞は P 項が代名詞のときか、代名詞でなければ定名詞句に付 加されるということになる。対格小辞の分布から対格小辞の機能を考えたとき、ラワン語 の対格小辞について (10) に示す仮説が立てられる。 (10) 仮説①ラワン語の対格小辞の機能 対格小辞=sə̀ŋ は、代名詞か定名詞句に付加されて、その名詞句が P 項であることを示す。 3.1.3. 話題化との関係 ラワン語では「~については」のように談話の中で話し手が特に語りたがっている要素 は、話題化小辞(=nēr)を付加したうえで文頭に移動させるのが一般的である。この操作 を話題化と呼ぶ。P 項が話題化されるときは、必ず絶対格で示される。(11) に実例を示す。

(32)

(11) P 項が代名詞なので、必ず対格で示される (a) àŋ=nēr kàŋ=í sət-ʔù.

3SG=TOP 3SG=ACC 殺す-3P

「彼は虎が殺した。」

(b) *àŋ=sə̀ŋ=nēr kàŋ=í sət-ʔù. 3SG=TOP 3SG=ACC 殺す-3P

(11) で示した現象は P 項にだけみられる。たとえば A 項を話題化するときには、能格で示 しながら話題化の操作を行うことができる。(12) に実例を示す。

(12) kàŋ=í=nēr àŋ=sə̀ŋ sət-ʔù. 虎=ERG=TOP 3SG=ACC 殺す-3P 「虎が殺した。」 この現象を仮説①と関連させて説明する。話題化されたときに対格で示せないのは、対格 小辞が定 P 項に付加されるからである。名詞句が話題化されていれば意味上、定であるこ とが前提となるため、さらに定であることを示す小辞をつけることができない。 3.2. R 項の標示 次に対格小辞が R 項に付加される場合の分布をみる。単他動詞構文においては、名詞句 のタイプや、定不定、あるいは話題化されているか否かによって対格か絶対格かが選択さ れていたが、複他動詞構文においてはそのような現象がみられない。たとえば (6) で示し たようにP 項が代名詞でなく、不定名詞句の場合、P 項は必ず絶対格で示される。 (6)(再掲) P 項が代名詞でなく、不定と解釈されるので絶対格で示される kàŋ=í tiʔpè=sə̀ŋ sət-ʔù.

虎=ERG 誰か=ACC 殺す-3P

「虎は人を殺した。」

一方でR 項は非代名詞で不定名詞句であっても必ず対格で示される。(13) に実例を示す。

(13) ʔəpūŋ=í tiʔpè=sə̀ŋ lēgā zī-ʔù. PN=ERG=TOP 誰か=ACC 本 与える-3P 「アプンは誰かに本を与えた。」 このように R 項は定性に関係なく、どんな名詞句であっても必ず対格で示される。この分 布から=sə̀ŋ の機能について (14) に仮説を示す。 (14)仮説② ラワン語の対格小辞の機能 対格小辞=sə̀ŋ は複他動詞構文内の中核項の標示において生じうる曖昧性を解消する (disambiguation)ために機能する。

(33)

複他動詞構文の場合、T 項と R 項が明示されているときに、どちらにも標示がなければ二 つの名詞句の文法機能が曖昧になる。(15) に実例を示す。

(15) (a) ʔəpūŋ=í àŋ=sə̀ŋ ʔədū zī-ʔù. PN=ERG=TOP 3SG=ACC PN 与える-3P 「アプンは彼にアドゥを差し出した。」

(b) ʔəpūŋ=í àŋ ʔədū=sə̀ŋ zī-ʔù. PN=ERG=TOP 3SG PN=ACC 与える-3P 「アプンはアドゥに彼を差し出した。」 (15)(a)では、àŋ「彼」に対格小辞が付加されることで、R 項であると解釈できるし、(b)で はʔədū「アドゥ」に対格小辞が付加されることで、R 項であると解釈できる。 このように複他動詞文の場合、A 項が能格、T 項が絶対格、R 項が対格という形で常に区別 して示されることになり、格標示における曖昧さがなくなる。 =sə̀ŋ が複他動詞構文において、曖昧性解消のために機能していることの傍証として R 項 を話題化したときに、=sə̀ŋ が現れないということがあげられる。3.1.3 で述べたように P 項 が話題化されると対格で示すことができない。一方で R 項が話題化される場合も対格で示 されない。(16) に実例を示す。

(16) ʔədū=nēr ʔəpūŋ=í lēgā zī-ʔù. PN=TOP PN=ERG=TOP 与える-3P

「アドゥにはアプンが本を与えた。」 R 項が話題化されたときに対格で示すことができないことを仮説②に関連付けて説明す る。R 項には話題化小辞が付加されることで他の項との曖昧性が解消できるため、対格小 辞による曖昧性解消の必要がなくなり、対格小辞が付加できない。 4. ラワン語の格配列の再考 ラワン語において P 項と R 項はいずれも対格で示され、T 項が絶対格で示され、 secundative タイプの格配列を見せているように見える。しかし、対格小辞の機能に注目す ると別の見方もできる。対格小辞は P 項に付加されるときに名詞句のタイプ(代名詞か否 か)や定性との関連で絶対格との選択がなされるが、R 項に付加されるときはそのような 選択がみられない。この分布の違いは、音形が同じで別の機能を持つ小辞がそれぞれの項 に付加されていることによるのかもしれない。すなわち P 項には仮説①の機能を持つ小辞 が付加され、R 項には仮説②の機能を持つ小辞が付加されている。そのように考えるなら ば、ラワン語はP 項と T 項と R 項が共時的には機能の異なる小辞が付加されていることに なり、secundative タイプの格配列でなく、tripartite タイプの格配列を見せることになる。 もちろん、上述の考え方は 1 つの解釈であり、対格小辞のより詳細な分布をみることで、 傍証を積み重ねていく必要がある。しかしMalchukov et al. (2010) が示す類型論的なタイプ を使って、個別言語の記述を行った際に表出した問題点の1 つと考えている。

(34)

略号一覧 *: 調査協力者によって非文法的と判断された例文 ERG: 能格 -: 接辞境界 NEG: 否定 =: 接語境界 NPT: 非過去 [ 空白 ]: 語境界 P: P 項 1: 話し手人称 PN: 固有名詞 2: 聞き手人称 PL: 複数 3: 人称 Q: 疑問 A: A 項 R: R 項 ACC: 対格 SG: 単数 ALL: 向格 TOP: 話題化 CL: 類別 参考文献

LaPolla, Randy, J. (2011). On transitivity in two Tibeto-Burman languages. Studies in Language, 35 (3), 636-649.

Malchukov, Andrej, Martin Haspelmath and Bernard Comrie (2010) Ditransitive Constructions: A Typological Overview. In: Malchukov, Andrej and Martin Haspelmath and Bernard Comrie (eds.) Studies in Ditransitive Constructions: A Comperative Handbook, 1- 64. Berlin/New York: De Gruyter Mouton.

Morse, Stephen A. (1988). Five Rawang dialects compared plus more. Prosodic analysis and Asian linguistics: to honor R. K. Sprigg, ed. By David Bradley, Eugnie J. A. Henderson and Martine Mazaudon, 237-250.

(35)

Accusative particle in Rawang Hideyuki ONISHI

(Tokyo University of Foreign Studies)

The object NP of transitive clause is marked by either the accusative and the absolutive. Accusative marking can be found in the object NP of ditransitive verb (R argument). According to Malchukov et al. (2010), this type of accusative can be regarded as secundative type case alignment.

In spite of this regard, Accusative/absolutive marking in transitive clause can be regarded as Differential Object Marking, but in ditransitive clause, Accusative marking can’t be regarded as DOM.

In this regard, Rawang type of accusative can be regarded as not secundative type case alignment but tripartite type case alignment.

(36)

フィジー語の複他動詞と投擲動詞

岡本 進 (東京外国語大学大学院) キーワード:複他動詞,意味役割,名詞抱合 1. はじめに フィジー語はオーストロネシア語族、東マラヨ・ポリネシア語派、オセアニア諸語に属 す言語で、基本語順はVPA である(Ethnologue より要約)。本稿の目的は、フィジー語の複 他動詞は、通言語的にどのように位置づけられるかを考察することである。 本稿の例文・図表番号、グロス、文字飾り、先行研究の日本語訳については、特に断り のない限り筆者によるものである。出典を明記していない例文については筆者が作例した ものであり、それらについてはすべてフィジー語母語話者であるLG 氏(男性、1962 年生ま れ)の確認を取っている。 2. 単他動詞 単他動詞は、動詞語根に他動詞派生接尾辞-Ci, -Caki が付加された形式で表される1。こ

れらの接尾辞は3 人称単数の目的語標示-a との音融合により、-Ca, -Caka となる(Schütz 1985: 132)。(1)は-Ci が動詞語根に付加された単他動詞文である。

(1) au na moku-t-a PREDICATE [ na i vakatawa ]P

1SG FUT strike-TR-3SG ART guard

「わたしは羊飼いを打つ」 (新約聖書: マタイによる福音書 26 章 31 節2)

3. 複他動詞

3.1 節で典型的な複他動詞について述べ、3.2 節ではそれと異なる振る舞いをする別の種 類の動詞(投擲動詞)について述べる。

1C は子音(ゼロを含む)を表し、どの子音が現れるかは動詞ごとに語彙的に定められている(Milner 1956:

27)。本稿では、-Ci, -Caki の付加された他動詞をそれぞれ -Ci 他動詞、-Caki 他動詞のように言及する。

2本稿における聖書からの引用とその日本語訳は、それぞれ Rokovada et al.(eds.)(2010) “Nai Vola Tabu Vakadewataki Vou” と共同訳聖書実行委員会(編)(1988)『聖書 新共同訳』による。

(37)

3.1 典型的な複他動詞

Malchukov et al.(2010: 2)は、‘give’, ‘lend’, ‘hand’, ‘sell’ など、物理的な譲渡を表す動詞を 典型的な複他動詞であるとしている。本小節ではこのような動詞について見る。

フィジー語の solia ‘give’ の配列は indirective(T=P≠R)タイプである。以下、具体例を見 る。(2a)、(2b)に見るように、T 項は動詞の -a と一致しており、(1)の単他動詞の P 項と同 様のふるまいをしている。(2b)では R 項は前置詞で標示されている。

(2) a . sa tala-ø-a mai PREDICATE [ e dua na tamata ]P [ na Kalou ]A

ASP send-TR-3SG hither 3SG one ART man ART god

「神から遣わされた一人の人がいた (lit. 神が一人の男を送った)。」

(新約聖書: ヨハネによる福音書 1 章 6 節)

b. dou soli-ø-a ga PREDICATE [ vei ira ]R [ na kaa+kana me+ra kani-ø-a ]T

2PA give-TR-3SG only to 3PL ART thing+eat SUB+3PL eat-TR-3SG 「あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい」

(新約聖書: マタイによる福音書 14 章 16 節)

3.2. 投擲動詞

Malchukov et al.(2010)は、3.1 節で述べたように、‘give’ にあたる動詞を典型的な複他動詞

としているが、‘throw’ にあたる動詞(以下投擲動詞とする)についても、記述は少ないもの の、考慮している(Malchukov et al. 2010: 49, 54- 55 など)。本小節では投擲動詞について述べ る。 Dixon(1988: 217)は、‘ditransitive’ という術語を用いていないものの、フィジー語ボウマ ー方言において、これらの動詞は「3 つの「参与者」が必然的に関わらなければならない 活動を表す動詞」であるとし、複他動詞の一種であることを示唆している。 投擲動詞は、T 項の種類や投げ方によって異なる語根を持つという点で興味深い(表 1)。 表1: 投擲動詞の例 viri-ka (石、ボールを)投げる rabo-ka (投石器で)投げる kolo-va (棒、棍棒を)投げる dia-ka (ナイフを)投げる (Schütz 1985: 139 より抜粋)

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もう一つ興味深いのは、3.1 節で見た典型的な複他動詞が indirective(T=P≠R) タイプの配 列であるのに対し、このような投擲動詞の -Ci 他動詞形はすべて、secundative(T≠P=R) タイ プの配列であるように思われる点である。(3)では、動詞の目的語標示は(明示的な名詞句

はないものの)R 項を示し、T 項は前置詞 e で標示されている。

(3) (...) ka vaka-viri-k-a PREDICATE [ e+na vatu ]T

and FREQ-throw-TR-3SG with+ART stone 「(都の外に引きずり出して)石を投げ始めた」

(新約聖書: 使徒言行録 7 章 58 節)

投擲動詞は他動詞接尾辞-Ci だけでなく、-Caki も付加されうる。投擲動詞の-Caki 他動詞 形はT 項を目的語に取るので、indirective タイプの配列である。

(4) (... ) rau viri-tak-a tiko PREDICATE [ na no-drau lawa ]T [ ki wasaliwa ]R

3DU throw-TR-3SG CNT ART PC-3DU net to ocean 「(...)湖で網を打っている (のを御覧になった)」 (新約聖書: マルコによる福音書 1 章 16 節) 4. 考察 前節で見たように、同じ-Ci という他動詞接尾辞が付加されていても、典型的な複他動詞 と投擲動詞で配列が異なっている。すなわち、前者はindirective タイプであるが、後者は secundative タイプである。この相違について本節で考察する。 4.1. -Ci 他動詞目的語の意味役割 結論から述べると、投擲動詞の-Ci 他動詞形の目的語は recipient ではない。たとえば、 (5)の gone「子供」はボールを受け取ることを含意しない。受け取ることを含意しないとい うことから、(5)の gone「子供」の意味役割は recipient ではなく goal であるといえる。

(5) e aa viri-k-a PREDICATE [ na gone ]goal [ e na polo ]T

3SG PST throw-TR-3SG ART child with ART ball

(39)

-Ci 他動詞が goal を目的語に取ることは、(6)のような移動動詞からも明らかである。

(6) era lako-v-a PREDICATE [ na raba ni vuravura ]goal (...)

3PL go-TR-3SG ART width of earth

「彼らは地上の広い場所に攻め上って行って、(...)」

(新約聖書: ヨハネの黙示録 20 章 9 節)

加えて、(7)のように -Ci 他動詞は location も目的語に取りうる。

(7) eratou qoli-v-a PREDICATE [ na vanua oqoo ]location

3PA fish-TR-3SG ART place this

「彼らはここで釣りをする」 (Milner 1956: 26)

以上のことを踏まえ、Malchukov et al.(2010: 52)の R 項の意味地図を用いて-Ci 他動詞が

取りうる目的語の意味役割を表すと図1 のようになる。

malefactive source beneficiary possessor

recipient patient goal location 図1: -Ci が表す目的語の意味役割( 線内) -Ci 他動詞は、patient だけでなく、様々な意味役割の名詞句を目的語にとり、そこには goal も含まれる。しかし recipient は目的語として実現できないので、必ず前置詞で標示さ れる。次小節ではrecipient を標示する前置詞について詳述する。

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4.2. 前置詞 vei / ki

Newman(1996)によれば、通言語的に recipent は goal と同様の扱いを受けうる(Newman 1996: 88- 89)。フィジー語の recipient と goal についてもこのことが当てはまり、前置詞 vei / ki で標示される3(8)は goal の例である。

(8) erau lako tiko PREDICATE [ ki na i teitei ]goal

3DU go CNT to ART garden

「彼らは庭に行っている」

(Schütz 1985: 346)

(9)は recipient の例である。3.2 節で述べたように、投擲動詞の-Caki 他動詞形は indirective タイプの配列であり、recipient は vei で標示される。

(9) e aa viri-tak-a PREDICATE [ na polo ]T [ vei Jone ]recipient

3SG PST throw-TR-3SG ART ball to PN 「彼はチョネにボールを投げた(チョネはキャッチした)」

以上のことを踏まえ、Malchukov et al.(2010: 52)の R 項の意味地図を用いて vei / ki の表す

範囲を示すと、図2 のようになる。

malefactive source beneficiary possessor

recipient

patient goal

location

2: 前置詞 vei / ki の意味地図( 線内)

(41)

4.3. 抱合

Malchukov et al.(2010: 43)によれば、複他動詞構文において、R 項ではなく T 項が抱合さ

れる傾向がある。フィジー語においても、T 項の抱合が観察される。(10)はその例である。

フィジー語の抱合は、(i)-Ci, -Caki の欠如、(ii)名詞句の冠詞 na の欠如、(iii)動詞語根と名詞 句の隣接性という3 点で特徴づけられる(Aranovich 2013: 479- 480)。(10)では動詞 soli が接 尾辞-øi なしで現れ(通常の他動詞文では(2a)のように soli-ø-a という形式で用いられる)、T 項であるkaa ni loloma が抱合されている4

(10) (...) ni o sa soli [ kaa ni loloma ]T PREDICATE (...)

when 2SG ASP give thing of love 「(...)あなたは施しをするときには、(...)」

(新約聖書: マタイによる福音書 6 章 2 節)

R 項の抱合は、recipient では許容されないが(11)a、goal では許容される(11)b。

(11) a.* au aa soli [ gone ]recipient PREDICATE b. au aa viri [ gone ]goal PREDICATE

1SG PST give child 1SG PST throw child

(「子供に与えた」を意図) 「私は子供に投げた」 フィジー語の複他動詞構文の抱合について、次のようにまとめることができる。目的語 がT 項の場合、抱合可能である。目的語が R 項の場合、goal であれば抱合可能であるが、 recipient であれば抱合不可能である。 5. おわりに 本稿ではフィジー語の投擲動詞を複他動詞として分析し、典型的な複他動詞構文との相 違を明らかにした。その結果を踏まえると、複他動詞構文と投擲動詞構文の配列は、それ ぞれ次頁の図3、図 4 のよう図示できる。 4フィジー語では、(10)のように、名詞語幹のみならず名詞句も「抱合」されうる。音韻的に一語を構成 しているとは言えないため、(10)のような形式を名詞抱合とみなさない立場もある(Gerdts 1998 など)。こ の問題については稿を改めて論じる。

図 1: 複他動詞構文の配列図 (Malchukov et al. 2010: 5, 7)
図 1:言語地図    これらの言語の類型論的な特徴 (語順)および複他動詞構文の特徴(flagging と indexing それ ぞれにおける基本的な各配列のタイプ )を次の表 1 に示す。それぞれの言語のデータについ ては表 1 で示す報告者が提供したものである。モンゴル語、ラワン語、フィジー語はそれ ぞれの言語の話者からエリシテーション調査を行い、アイルランド語については辞書など から用例を収集した。  表 1:本 WS で対象とする言語一覧  言語名  語順  flagging  indexing
図 2:Malchukov et al. (2010)による R 項の意味地図
図 7:Malchukov et al. (2010)による動詞意味タイプの意味地図
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参照

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