履修状況と授業評価アンケートによる
21世紀教育における情報科目の分析(第2報)
-情報科目に対する意識や評価の低下傾向-
松 谷 秀 哉
*水 田 智 史
**鈴 木 裕 史
**Hideya MATSUTANI, Satoshi MIZUTA, Yushi SUZUKI
An analytical study of the registration patterns and the student evaluation of teaching for Information Education in General
Education (The 2
ndreport)
*弘前大学大学院医学研究科
Hirosaki University Graduate School of Medicine
**弘前大学大学院理工学研究科
Hirosaki University Graduate School of Science and Technology 要 旨(Abstract)
情報社会の到来にともない、日本の学校教育において小学校から情報教育を積極的に授業に取り入れ るようになり、平成年の高等学校における学習指導要領の改訂により「情報」が必修科目となった。
昨年度からこの学習指導要領による新カリキュラムで履修した高校生の大学への入学が始まった。本学 では高校の新カリキュラムに対応するために、一昨年度に世紀教育(教養の教育)のカリキュラムを 改訂し、情報系科目の改変をおこなった。
我々は今年度も引き続き、新カリキュラムの影響と情報系科目への意識の変化を調べる事を目的とし た同様の調査をおこなった。その結果は、履修者数の減少や授業評価の低下、といった傾向が見られ た。また弘前大学では以前から授業評価アンケートを実施しているが、平成年度後期から新たな設問 項目(「予習・復習」)が加わり、学生の授業に取り組む姿勢を評価できるようになった。この項目では、
情報科目(演習)とそれ以外の科目では顕著な差が示された。
キーワード:教養教育、情報教育、カリキュラム、授業評価
はじめに
日本の学校教育はIT重点政策を背景に情報教育への取り組みが求められるようになり、平成年の 高等学校における学習指導要領の改訂で「情報」が必修科目として設定された1)。昨年度は、この学習 指導要領による新カリキュラムの高校生の大学への入学初年度であった。本学では高校の新カリキュラ ムに対応するために、一昨年度に世紀教育(教養)のカリキュラムを改訂し、情報系科目の改変を おこなった。
我々は昨年度、高校の新カリキュラムの情報系科目への影響について、履修状況と「学生による授業 評価に関するアンケート調査」の結果を分析し報告した2)。結果はこの影響を示唆するものではなかっ た。しかし今年度も同様の調査をおこなったところ、昨年度とは異なる傾向となった。本稿は、今年度 の調査結果を報告すると共にその原因について考察をおこなった。
方 法
対象データは、本学の教養教育である世紀教育の授業履修データと本学で授業評価のために実施し ている「学生による授業評価に関するアンケート調査」の集計結果(以降、授業評価アンケート)であ る。世紀教育の授業履修データは、学生による授業履修登録を教務課世紀教育担当係で集計したも のである3)。なお本報告では、共通教育の振り替えによる履修についてはデータから除外した。授業評 価アンケート調査は、平成0年度から開始したが、年により実施期間、設問形式や内容が必ずしも一致 していなかった。本報告はほぼ統一した形態となった平成年度以降のデータを用いた4),5),6),7),8)。 ただし、平成年度のデータは前期科目のみである。
履修者数の推移については、平成年度以降における世紀教育の全科目と情報系科目においてクラ ス指定のない履修選択が自由な科目(以降、情報科目(選択))の履修者数を集計したものである。こ れは、情報に対する学生の期待や注目度などが履修科目の選択傾向に反映され評価することができる。
情報科目(選択)の具体的な科目名は、平成年度まではテーマ科目「情報」であり、平成年度以降 は、「情報Ⅱ」と「情報Ⅲ」のクラス指定のない科目である。
授業評価アンケートについては、平成年度以降における各学部の全専門科目と世紀教育の全科目 と情報系科目において情報リテラシー教育を目的としたクラス指定された演習科目(以降、情報科目(演 習))について集計したものである。これは、情報に対する学生の意欲や理解度などが評価することが できる。情報科目(演習)の具体的な科目名は、平成年度までは「情報処理演習Ⅱ」、平成年度は「情 報Ⅰ」と「情報Ⅱ(A)①と④」、平成年度は「情報Ⅰ」である。なお、授業評価アンケートの設問 項目は年度ごとに多少の変化があるが、集計に際しては共通する項目のみを集計対象とした。
結 果
履修者数の推移
情報科目(選択)の履修者数の推移を図1に示す。ただし、平成年度における「情報Ⅱ(A)①」
と「情報Ⅱ(A)④」は対象から除外した。この2科目はクラス指定がなされ、平成年度には「情報Ⅰ」
となっている。
図1 情報科目(選択)の履修者数の推移
図1から、世紀教育のカリキュラム改訂にともない情報科目における履修動向が大きく変化した事 がわかる。これはテーマ科目から外れたことによる情報系科目の取得単位数が減少したためであり、必 然的な結果である。また、年ごとに緩やかではあるが減少する傾向が見られる。
平成年度以降における情報科目(選択)の履修者数の推移について、演習形式と講義形式に分けた ものを図2に示す。講義形式の履修者数は総数および学部構成の割合ともにほとんど変化はなかった が、演習形式の履修者数は総数が昨年に比べて半減、学部構成の割合も変動している。なお授業数は、
平成年度における演習形式の授業数は5クラス、講義形式の授業数は5クラスであった。平成年度 における演習形式の授業数は4クラス、講義形式の授業数は5クラスであり、授業数についてはほぼ同 じである。1クラスあたりの平均受講者数は、講義形式では約0人、演習形式では平成年度が約人、
平成年度が約人、となる。これについては再度、考察で議論する。
図2 授業形式による情報科目(選択)の履修者数
授業評価アンケート
情報系科目における授業評価アンケートの実施状況(実施授業数や回収率など)は、年度や科目など により多少の変動がある。特に平成年度の授業評価アンケートの実施状況は、現在の「情報Ⅰ」にあ たる「情報処理演習Ⅱ」(前期)はクラス中8クラスが未実施(未実施率は約%)であった。また アンケートの回収率も平均で約%であり、特に4クラスにおいて回収率が0%前後と非常に低くかっ た。それ以外の年については、未実施率は0%以下、アンケートの回収率は約0%前後であり、全体を 評価するための統計量としては特に問題はない。なお、授業評価アンケートの実施状況についての詳細 は参考文献4),5),6),7),8)を参照して頂きたい。
平成年度からの授業評価アンケートにおける世紀科目の全科目と情報科目(演習)について集計 したものを図3と図4に示す。図中の誤差棒は各授業ごとの評価の平均値に対する標準偏差である。
世紀科目の全科目では「説明」と「準備」の評価において多少のバラツキがあるものの、全体的にはこ の5年間でほとんど変化はない。一方、情報科目(演習)では今年度は全体的に評価が低く、平成年 度以降は年ごとに評価が低下する傾向が見られる。特に「時間」と「満足」の項目については、全科目
(図3)ではほとんど変化がないが、情報科目(図4)では低下が目立つ。
平成、年度の授業評価アンケートの情報科目(演習)について学部ごとに比較したものを図5に 示す。ただし、この値は「明確」、「理解」、「構成」、「説明」、「準備」、「時間」、「満足」の平均をクラス
図3 21世紀科目の全科目における授業評価アンケート結果の推移 㪇㪅㪇
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図4 情報科目(演習)における授業評価アンケート結果の推移 㪇㪅㪇
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図5 情報科目(演習)における授業評価アンケートの学部ごとの比較 㪇㪅㪇
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ごとに求め、クラスごとの平均値を構成する学部の人数で重み付けてをおこない、各学部の値を算出し たものである。理工学部を除いた全学部で評価が一様に低下している事がわかる。特に医学部医学科に おける低下が顕著である。
平成年度後期の授業評価アンケートから、学生自身の授業に取り組む姿勢を見る観点から「予習・
復習」の項目が追加された7)。平成年度前期における世紀科目の全科目と情報科目(演習)、全学 部の専門科目について集計したものを図6に示す。また、世紀科目の演習や実習・実技科目について 集計したものを図7に示す。いずれの図においても、先に見たように情報科目(演習)の評価が低いが、
特に「予習・復習」の低さは顕著である。
図6 平成19年度前期の授業評価アンケートにおける全専門科目と21世紀の全科目と情報科目(演習)の比較 㪇㪅㪇
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図7 21世紀科目における実習・実技系科目の評価 㪇㪅㪇
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(スポーツ、音楽・美術)
考 察
「結果」で示したように情報系科目は履修者数や授業評価アンケートのいずれにおいても減少・低下 傾向が見られた。もちろん、データ自身の統計的なふらつきや誤差などもある。履修者数の変動は授業 の時間割による影響も大きい。特にテーマ科目や必修科目などとの時間帯の重複は大きな影響がある。
また誤差については、授業評価アンケートについて使用したデータは個々のクラスごとに集計した平均
値であるため、クラスにおける母集団の分布が不明であり残念ながら詳細な評価はできない。ただ、い ずれのデータにおいても情報系科目に対して、履修者数の減少や評価の低下が見られることには注意す る必要がある。
このことは、情報そのものに対する興味の低下とも考えられる。情報社会といわれている中で「情報 に対する興味の低下」といったことは考えづらいようにも思えるが、日常生活において身近な存在ほ ど、その存在が当たり前すぎて興味が薄れることはよくある。総務省の平成年度の通信利用動向調査 では、~歳における携帯電話の利用率は約0%、メールやインターネット利用も盛んにおこなわれ インターネット利用率も約0%となっている9)。最近、授業を担当していて、以前に比べて学生自身の 情報系科目に対して興味や学習意欲の低下を感じられることがある。実際、授業評価アンケートの「予 習・復習」の項目では他の科目に比べて情報科目(演習)は顕著に低く、興味や学習意欲の低下が裏付 けられる結果となった。ただ残念ながら、この設問は平成年度後期から新たに加えられた項目のた め、この意識に対する変化・推移の検討はできない。
また、情報系科目に対する興味や学習意欲の低下に対するもう一つの大きな要因は、学習指導要領の 改訂による高校における「情報」の必修化である。高校における「情報」の内容は、ワープロの操作や インターネットの活用などといった情報リテラシーが中心であり、一部を除き本学の「情報Ⅰ」の内容 と重複する部分が多い。このような状況では、興味や学習意欲が低下するのも当たり前といえる。前回 の報告において、「情報Ⅰ」の内容として、アカデミック・スキル、情報セキュリティや情報倫理を強 化することを述べたが、学生にとってはこれらも「いまさら...」なのかもしれない。しかし、最近の学 生レポートは「インターネット検索+コピー&ペースト=完成」というようなものが一般化している現 状からすると、とても上記の事柄を習熟しているとは言い難い。情報化における利便性の恩恵のみを謳 歌し、本来、思考を活性化する道具・材料となるべきものが、逆に思考が欠如する方向に作用している。
そして多くの学生は、このことに気付いていないのが現状である。
今後、上記の議論やこの状況を踏まえて、再度、情報教育の内容を検討し充実させていく必要がある と考える。
まとめ
平成年度に引き続き、世紀教育の履修状況と「学生による授業評価に関するアンケート調査」の 結果から情報系科目の分析・評価をおこなった。
授業評価アンケートでは平成年度後期から新たに「予習・復習」の項目が加わり、学生の履修科目 に対しての興味や学習意欲を評価できるようになった。情報科目(演習)における「予習・復習」は、
世紀科目や専門科目の平均と比べて顕著に低い値であった。この要因として、中学・高校生などの若 い世代への情報機器や情報の利用・活用が普及・浸透したことが考えられる。一方、この普及・浸透は 学生に対して思考を短絡化させるなどの影響も出ている。今後、上記の議論やこの状況を踏まえて、再 度、情報教育の内容を検討し充実させていく必要があると考える。
参考文献
1)文 部 科 学 省、 新 学 習 指 導 要 領、 http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301.htm、
.
2)松谷秀哉、水田智史、鈴木裕史、世紀教育の情報科目に対する傾向の変化、世紀教育フォーラ ム 2:-、00.
3)弘前大学学務部教務課世紀教育担当係、private communication.
4)弘前大学、平成年度(前・後期) 授業方法改善のための学生による授業評価に関するアンケー ト調査報告書、00.
5)弘前大学、平成年度(前・後期) 授業方法改善のための学生による授業評価に関するアンケー ト調査報告書、00.
6)弘前大学、平成年度(前・後期)「授業方法改善のための学生による授業評価に関するアンケー ト調査報告書」、00.
7)弘前大学、平成年度(前・後期)「授業方法改善のための学生による授業評価に関するアンケー ト調査報告書」、00.
8) 弘前大学、平成年度前期「授業方法改善のための学生による授業評価に関するアンケート」集計 結果について、http://www.hirosaki-u.ac.jp/jimu/gakumu/gakunai/hyoka19-1/index.html、00. 9)総務省、通信利用動向調査(平成年度調査)、http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/statistics/
statistics05.html、00.