銀行の窓口販売による変額年金市場の 拡大と縮小に係る考察
大 塚 忠 義
■アブストラクト
銀行窓販による変額年金市場は,規制緩和により急速に拡大し,リーマン ショックに始まる金融危機のなかで消滅していった。この間の主要なプレイ ヤーの活動および業績の推移を分析することで,市場が拡大,縮小,消滅す るまでの経緯をたどる。
変額年金販売の成功は,解禁直後に販売者に専用商品を提供するビジネス モデルを構築したこと,大幅な市場拡大は,ペイオフの解禁時に元本保証付 変額年金を開発したことにあったと考えられる。
一方,市場の急激な縮小は,消費者が購入を控えたのではなく保険会社が 販売を自制したためと考えられる。この間,商品の特性は大きく変わること なく,変わったのは販売する保険会社であった。
金融危機のなかで,銀行はリスクのほとんど無い元本保証付変額年金の販 売継続を望んだと思われるが,一方で健全性が悪化した保険会社は,銀行と の関係において,商品を改訂したり販売を抑制したりするのではなく,販売 を停止することを選択した。これが変額年金市場消滅の要因であると考える。
■キーワード
銀行窓販,元本保証付変額年金,製販分離
*平成23年12月10日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成24年5月9日原稿受領。
1.はじめに
第二次金融ビッグバンとして,銀行・保険・証券に係る規制緩和が2002年 以降に順次実施された。代表的なものとしては,銀行による保険の窓口販売
(以下, 銀行窓販 という),投資信託の販売,株式の仲介および日本版401 k(個人型確定拠出年金)制度の実施があげられる。特に,個人年金および 投資信託の銀行窓販は成功を収めた。1999年に発売された変額年金は,2002 年の銀行窓販解禁によって市場が開拓されたといえる。実際,銀行窓販解禁 から3年後の2005年には4兆円 規模の市場に拡大した。そして,2008年の リーマンショックを契機に市場から退出する保険会社が相次ぎ,3年後の 2010年には市場はほぼ消滅した。
本稿の目的は,保険商品の販売としてはこのような特異な軌跡をたどった 銀行窓販による変額年金市場の拡大と縮小の要因を明確にしたうえで,市場 が消滅に至った経緯を明らかにすることである。
まず,業界全体の変額年金市場の拡大と縮小の推移を概括する。次に,主 要なプレイヤーの活動を分析することで,拡大の要因を明らかにするととも に,これらの要因が果たした役割と影響について分析する。また,リーマン ショック後の個別会社の業績低下の動きを検討することにより縮小の要因を 分析する。そして,販売に強い影響力を持った銀行との関係において,市場 が消滅するまでに至った経緯を明らかにする。
2.変額年金の業績の推移
1999年4月にアイエヌジー生命が日本で初めて変額年金保険を発売した。
1) 生命保険の業績に係る統計資料で,販売チャネル別に分類されているものは 存在しない。このため,本稿で示している変額年金の契約高は,営業職員チャ ネルやダイレクトチャネル等,銀行窓販以外のチャネルからのものも含まれて いる。しかし,変額年金の販売は,銀行窓販をはじめとする金融機関代理店が ほとんど担ってきたという理解のもと,業界全体および個別会社の業績データ で分析を行った。
同年にはアイエヌジー生命を含め,5社 が販売を開始した。これは,1998 年12月に証券会社による生命保険販売が認められたことを契機としている。
グラフ1は2002年度から2011年度までの生命保険業界合計の変額年金の新 契約高の推移を示している 。変額年金市場は,銀行による年金保険の発売 開始から3年で4兆円を超える水準まで進展した。この間徐々に成長したの ではなく,2005年度の伸びが顕著であった。2005年4月にペイオフの本格解 禁が行われたことが急拡大の要因となったものと考えられる。当時,マスメ ディア等が1千万円を超える預金がある場合は,預金を複数の銀行に分散す ることを勧めた。銀行は富裕顧客が他行に預金を移し替えるのを防ぐために も,自行の提携先が提供する変額年金または投資信託の販売に注力したと考 える。一方,リーマンショックを機に2年間で4.5兆円から2.4兆円へと半減 している。さらに,2010年度は0.7兆円まで減少し,銀行窓販が開始された 2002年度の新契約高を下回り,変額年金市場は消滅したといっても過言では ない水準まで縮小した。
2) 出典 商品研究シリーズ 変額年金・個人年金 (新日本新聞社)
3) 変額年金の発売開始は1999年であるが,生命保険協会が定額年金と変額年金 を区分して公表するようになったのが2002年であった。
(億円)
(出典) 生命保険事業概況 (生命保険協会)より筆者作成 (グラフ1) 新契約高
次に,変額年金を販売した保険会社数 をみる(グラフ2)。1999年度5 社が販売を開始し,2002年度には21社に増加した。2002年度末の生命保険会 社数は42社であったので,半数の会社が変額年金を販売したことになる。一 方で,これほど急拡大した市場に半数の会社が参入しなかったという事実は,
横並び意識の強い生命保険業界ではめずらしいともいえる。変額年金市場へ の参加は,既存の会社だけではなく,変額年金専業の保険会社の設立という 形でも行われた 。その後,2008年まで保険会社数に大きな変動はない。
2009年以後は変額年金市場からの撤退が相次ぎ,2010年3月末で14社,
2012年3月末で9社に減少している。なお,三井生命は2009年4月に,ハー トフォード生命は2009年5月に,アイエヌジー生命は8月にそれぞれ変額年 金の発売停止を公表した。
4) 生命保険事業概況 によると2008年以降年間数百件程度の新契約が計上さ れている会社が散見されるが,これらの会社は販売を行っていない会社に分類 した。
5) 2011年度末で,ハートフォード,三井住友海上メットライフ(2011年4月に 三井住友海上プライマリー生命に社名を変更),東京海上日動フィナンシャル,
第一フロンティア,T&Dフィナンシャル,アリアンツ,クレディ・アグリコ ル,ソニーライフ・エイゴンの9社である。なお,現在では,これらの会社は 販売商品の多様化やチャネルの拡大に努めている。
(出典) 商品研究シリーズ 変額年金・個人年金 (新日本新聞社)より筆者作成 (グラフ2) 変額年金販売会社数
同期間の保有契約高の推移を示したものが表1 である。新契約高の伸び を反映して保有契約高の伸びも大きい。保有契約高については,2010年度を 除いて前年を下回ることなく進展を示している。2010年度は大幅な新契約の 減少の影響で前年を下回っている。
特筆すべき事項は,総資産に対する保有契約高の割合の伸びが顕著である ことである。変額年金の積立金に対応する資産は公表されていないので,こ れに近い概念として,総資産に対する保有契約高の割合を観察する。銀行で の変額年金の販売開始から8年経過した2009年度には,この割合が9.3%ま で伸長した。生命保険業界全体の総資産が伸び悩んでいるなかで,変額年金 市場に参入した外資系,損保系を中心とした半分程度の数の会社では総資産 が大きく伸展したことを意味している。
3.変額年金市場の拡大の要因
変額年金市場の始まりは,規制緩和による金融機関代理店チャネルの拡大 6) 年度間の比較のためかんぽ生命の総資産額は除いた。
(億円)
(出典) 生命保険事業概況 (生命保険協会)および インシュラアランス統計 号 (保険研究所)より筆者作成
2010年度 191,901 2,239,044 8.6%
2007年度 160,875 2,138,992 7.5%
8.3%
9.3%
2,051,420 2,118,023 169,633
196,642 2008年度
2009年度
2004年度 58,621 1,915,230 3.1%
5.1%
6.6%
2,098,791 2,202,170 106,402
144,918 2005年度
2006年度 2003年度 2002年度
31,634 13,005
1,843,299 1,798,310
1.7%
0.7%
③ ① /②
② 総資産
①
VA
保有契約高(表1) VA保有契約高の推移と総資産に対する割合
であることは衆目の一致するところである。そして,2005年のペイオフ解禁 をきっかけに市場は大幅に拡大している。
しかし,市場の拡大は,このような外的要因のみによっておこったのでは なく,金融機関代理店が積極的に保険商品の販売に取組む仕組みづくり,銀 行の顧客のニーズに合致する商品の開発という市場拡大に向けた保険業界の 基本的な努力による影響も大きかったと考える。具体的には,前者は, 販 売者に専用商品を提供するビジネスモデル ,そして後者については 元本 保証付変額年金の開発 をあげる。
本章では,まず個別会社の業績の推移をもとにこれらの要因が果たした役 割とその影響について分析する。次に,銀行窓販に係る規制緩和の背景・変 遷を概括したうえで, 販売者に専用商品を提供するビジネスモデル と
元本保証付変額年金の開発 について分析する。
⑴ 販売上位社の業績の推移
変額年金の累計販売高上位4社である,外資系のアイエヌジー生命,ハー トフォード生命および損保系の三井住友海上メットライフ生命,東京海上日 動フィナンシャル生命の業績の推移をみることにより,前述した二つの要因 が業績にどのような影響を与えたかを分析する(グラフ3)。
業界全体の業績は,2002年から2005年に間に急拡大し,その後3年間は微 増または横ばいで推移している。しかし,会社ごとにみると業績の推移には 大きな差異がある。これを2002年からの3年間と2005年からの3年の2つの 期間に分けて分析する。
2000年12月に日本での営業を開始したハートフォード生命は,日本に進出 して1年で変額年金のリーディングカンパニーとしての地位を築いた。そし て,2002年の銀行窓販解禁を機に急拡大した。これは,ハートフォード生命 が,金融機関代理店に提供したビジネスモデル(後述)が広く受け入れられ たためであると考える。
個人年金市場は,1999年に販売が開始され2002年に規制緩和を受けて急拡
大したわけではないことが,各社の業績をみるとわかる。会社別に見ると,
ハートフォード生命は2002年,三井住友海上メットライフ生命は2003年,ア イエヌジー生命は2004年,そして東京海上日動フィナンシャル生命は2005年 から急拡大している。
これは,ハートフォード生命の成功に影響されて,既に変額年金を発売し ていた外資系保険会社がビジネスモデルを改めたためであると思われる。次 に損保系生保が追随した。親会社の損害保険会社はもともと販売面で銀行と のつながりが強かったためキャッチアップは速かった。一方,伝統的国内生 保の対応は分かれた。追随したのは,住友生命,三井生命,T&Dフィナン シャル等である。やがて,このビジネスモデルは,銀行,証券会社に広く受 け入れられ,変額年金保険販売の標準的なビジネスモデルとなっていった。
続いて,2005年から3年間を分析する。この間の業界全体の業績は微増ま たは横ばいであるが,上位会社別にみると大きなシェア変動があったことが わかる。東京海上日動フィナンシャル生命は,2004年に東京海上ホールディ ングスの傘下に入った 後,2年間でハートフォード生命を抜いて業界トッ プとなっている。同時に,ハートフォード生命,アイエヌジー生命の業績が 下落し主要なプレイヤーが入れ替わっている。
東京海上日動フィナンシャル生命の躍進の原動力となったものが,2005年 6月に発売された 年金受取総額保証付変額個人年金 という商品であった。
年金受取総額保証付変額個人年金 は,年金受取額総額で基本保険金額
(=一時払保険料)の100%を保証する変額年金保険であった。この商品の発 売により,変額年金はハイリスクハイリターンの金融商品であるイメージが 払しょくされ,ペイオフ解禁後の預貯金の代替商品として銀行顧客を中心に 広く受け入れられた。その後,銀行は元本保証付変額年金を中心に販売する
7) 2004年2月にスカンディア・インシュアランス・カンパニー・リミテッドか ら東京海上日動火災保険へ発行済全株式を譲渡し,同年4月にミレアホールデ ィングス(現東京海上ホールディングス)へ発行済全株式を譲渡すると共に現 社名に変更した。
ようになった。
2006年にシェアを失ったアイエヌジー生命とハートフォード生命も2007年 には商品のタイプを変更して,減少傾向に歯止めをかけている。すなわち,
この間に起こったことを正確にいうとリーディングカンパニーが変わったの ではなく,主要な商品タイプが元本保証型に入れ替わったのだといえる。
⑵ 銀行窓販に係る規制緩和
保険商品の銀行窓販に係る規制緩和の変遷をたどってみる。日本版金融ビ ッグバン構想は,1996年に金融行政を市場原理にもとづく透明なものにし,
市場自体の構造改革を成し遂げることを目的として発表された。同年に発表 された経済審議会 我が国金融システム活性化のために では, 金融商品 あるいは保険商品のクロス・セリングについても大幅に規制緩和を行う と された。
しかしながら,1990年代における生命保険業界は,長期間にわたる低金利 の継続および株価・地価の下落の影響を受けて,いわゆる逆ザヤ問題に苦し んでいた。1997年に日産生命が破綻したことにより,消費者の生命保険業界 に対する不信感が高まり,2001年までに中堅生命保険会社6社が破綻した。
このような状況下で,銀行と保険の相互参入に係る規制緩和は先送りされ,
(出典) インシュラアランス統計号 (保険研究所)より筆者作成
(グラフ3) 会社別新契約高(その1) (億円)
第二次金融ビッグバンのプログラムの一環 として,銀行窓口での保険商品 の販売は,2001年以降暫時認められていった。
このうち,2002年10月の個人年金保険等の解禁が相当量の販売につながっ た規制緩和であり,2007年12月の規制緩和が全面的な開放であるといえる。
すなわち,1996年の日本版金融ビッグバン構想の公表から,実質的な解禁ま で6年,全面実施までに11年以上の歳月を要したこととなる。
逆ザヤ問題を抱えていなかった外資系生保や損保系生保にとっては,規制 緩和は業績拡大のチャンスであり,実施までの期間において十分な準備を行 っていたものと考えられる。
⑶ 販売者に専用商品を提供するビジネスモデル
独立代理店は損害保険会社,損保系生保,および多くの外資系生保にとっ ては主たる営業チャネルであり,独立代理店による保険募集は典型的な製販 分離モデルである。
募集代理店は,保険会社との委託契約によって,保険募集を媒介するもの である。保険会社の規模やメーンの募集チャネルによって異なるが,保険会 社は,数千から数万の代理店と契約している。これは,製造者が数多くの販
8) 銀行窓口での投信・株式の仲介は1998年12月に認められた。
定期保険,平準払終身保険,長期平準払養老保険,医療・介護保険,
自動車保険,
2007年12月 2005年12月
一時払終身保険,一時払養老保険,保険期間10年以下の平準払養老保 険(法人契約を除く),貯蓄性の生存保険,積立傷害保険,積立火災 保険,個人向賠償保険
個人年金保険,財形保険,年金払積立傷害保険,財形傷害保険 2002年10月
2001年4月 住宅ローン関連信用保険,長期火災保険,債務返済支援保険,海外旅 行傷害保険
販売が認められた保険種類 (表2) 銀行窓販の解禁状況 実施時期
(出典) 金融庁
HP
より引用し筆者作成売者に商品を提供する構造と同一である。一般的にこの関係において,製造 者側に製造物の品質,価格に関する決定権がある。そして,販売者は製造者 を選択する権利を有している。
代理店はその規模によって千差万別であり,代理店も大規模であれば保険 会社への発言力も強くなる。また,従来から,代理店の意見を商品開発・サ ービスに反映する保険会社も多くみられる。しかし,それらは募集チャネル としての範囲を超えるものではない。また,大規模代理店のなかには,保険 会社と独立の関係を持っているところもある。大規模代理店は,複数の保険 会社と委託契約を締結し,保険募集行為以外にも営業担当者の教育,新契約 事務・販売管理業務の支援,保険販売キャンペーンやツールの作成,商品説 明資料・各社の商品の比較資料の作成等,保険会社の業務を代行しているも のもある。
アメリカでは,1990年代から銀行は個人年金販売の主要なチャネルとなっ ており,銀行は個人年金販売に係る付随業務として営業担当者の採用・教育,
新契約事務・販売管理のバックアップ,保険販売キャンペーン・販売ツール の作成を行っている(村上(1996))。これらの業務は基本的には大規模代理 店が行なっていることと同一である。
しかし,これらはどれも製販分離における販売者の権限の範囲の拡大と販 売者の独立性の確保の問題であり,ハートフォードが行なったビジネスモデ ルとは異なっている。
ハートフォード生命は,日本進出にあたり販売基盤を持たないこと,およ び知名度がないことを補うために,国内金融機関と提携関係を結び,マーケ ティングに関わる業務も委託した。ハートフォード生命が日本で代理店に委 託したことは,個々の業務についてはアメリカの銀行が行なったことと同じ であるが,当初,販売代理店は提携関係にある日興証券だけであっため,そ の関係は1対1のパートナーであった。そして,日本のマーケットに詳しい 日興証券が営業方針・営業目標の策定等の販売面に関する業務全般を執行す ることとなり,これに係り商品設計にも関与した。こうして,日興証券は製
造者の一員として活動し,ハートフォード生命と共同で商品を開発した。
販売された商品は日興証券の名称を冠につけた専用商品となり,これを自 社の顧客に自社の営業組織で販売することで,他社との提携商品である変額 年金の販売に成功した。その成功以後,ハートフォード生命と代理店契約を 結んだ金融機関は,自社の専用商品 の開発と日興証券と同じ広さの権限を 求めた。このように販売者が製造者の一員として商品開発に参画し,それぞ れが専用商品を開発・販売するというビジネスモデルが一般化し,ハートフ ォード生命の成功につながった。そして,他社も同様の提案をすることによ って,市場の拡大につながっていった。
⑷ 元本保証付変額年金の開発
変額年金は運用の状況によっては元本が減少するリスクのある金融商品で あるが,なんらかの最低保証が組み込まれることが一般的である。最低保証 のタイプは,保証する事象別に次の4つのタイプに大別できる(表3)。
9) 当初は商品特長に若干の差異を設けていたが,やがては名称と募集資料のみ が異なるだけの専用商品も多くみられた。
10)
GMIB
とGMWB
は実質的には同じ効果を持っているが,GMWBの方が 一定期間経過後,毎年一定額の減額の最低保証 を約定する。例えば,契約日から1年経過した ら,その後20年間にわたり一時払保険料の5%の引出を最低保証するというタイプである。
最低引出額保障(GMWB)
guaranteed minimum withdrawal benefit
最低年金保証(GMIB)
guaranteed minimum income benefit 年金の最低支払額を約定する。
最低年金原資保障(GMAB) guaranteed minimum annuity benefit
年金支払開始時において年金に移行するための 年 金 原 資 の 最 低 移 行 額 を 約 定 す る。な お,
GMABが付加されている変額年金では,年金 支払時に積立金が特別勘定から一般勘定に移行 される。
死亡給付金の最低支払額を約定する。
(出典) 筆者作成 最低死亡保障(GMDB)
guaranteed minimum death benefit
(表3) 最低保証の4タイプ
初期にアイエヌジー生命やハートフォード生命が販売した商品は最低死亡 保証のみが付加されていた。そして,特別勘定を活用して株式投資をするこ とにより高利回りが望める金融商品であることを強調していた。その後追随 した多くの会社も同様であった 。
一方,東京海上日動フィナンシャル生命が開発した 年金受取総額保証付 変額個人年金 は,運用期間満了時点で積立金が基本保険金額を下回った場 合に年金受取額総額を保証するGMIBタイプの変額年金保険であった。こ の商品の発売により,変額年金は投資信託に類似したハイリスク・ハイリタ ーンの金融商品というイメージから中途解約をしない限り元本が保証される ハイブリッド商品へと変貌した。その後の商品開発は,GMIBからGMAB へと,さらには据置期間の短縮,保証割合を100%以上に設定する等,保証 の大きさを競う方向へと向かっていった。
このように,変額年金の銀行チャネルでの成功は,銀行の顧客に変額年金 を無リスクの金融商品であると認識させたことにあるといえる。死亡保障の 最低保証のみが付加されている初期の変額年金では,このような市場の拡大 を見込むことはできなかったと思われる。
変額年金はアメリカで開発され我が国に紹介された。しかし,わが国では ペイオフ対応商品という市場ニーズの中で開発が進んだ結果,両者の商品の 特性に差異が生まれた。アメリカでの一般的な商品の構成は,最低保証のな い基本部分(naked VAと呼ばれる)を購入し,それに数種類の最低保証 の中から付加するものを顧客が選択する方式をとっている。いわゆる特約方 式である。これに対し,当初から日本で売られている変額年金にはなんらか の最低保証が組み込まれており着脱することができない仕組みになっている。
初期の最低保証は死亡保証のみであったが,最低年金原資保証が付加される ようになっても同様の組込み形態であった。最低年金原資保証や最低引出額
GMIB
より利便性が高い。11) 三井生命は1999年7月に
M
‑VA
という名称でGMAB
が付加された変額年 金を発売したが,市場への影響は限定的であった。保証のような積立金に対する保証は死亡保証のコストとは比較にならないほ ど大きいが ,組込み形態を継続することに関し議論は生まれなかった。
両者には大きな差異がないように見える。しかし,保証コストのディスク ローズの面で大きな隔たりがある 。わが国の場合は最低保証コストを含め た保険関係のコストを一つに纏めて開示しており,それぞれの内訳は不明で ある。アメリカでは特約方式で区分されているので,それぞれの保証の価格 が顧客に明確にわかる。保証の度合いが最も厚い最低年金原資保証の費用は 最も高く,かつ金融危機後は市場の動向を反映し高騰した。
この違いにより,アメリカにおいては,変額年金はオプション料を支払え ばリスクを回避できるハイリスク・ハイリターンの商品であるが,わが国で は変額年金はオプションを組込むことによりリスクを排除した金融商品とな った。収益がでた場合は顧客に分配され,損失が出たら保険会社が保証する という商品性は,有配当の一時払養老保険と同一である。すなわち,変額年 金の銀行チャネルでの成功は,銀行の顧客に変額年金を無リスクの金融商品 であると認識させたことにあるといえる。
4.変額年金市場が縮小・消滅した理由
⑴ 市場縮小の推移
リーマンショック後の業界全体の業績は,グラフ1でみたとおり大きく落 ち込み,2010年度は規制緩和前の水準まで縮小した。上位4社の業績は,グ ラフ3でみるとおり,業界全体の動きとほぼ同一である。
一方,変額年金を積極的に販売した国内生保は,それとは異なる業績の推 移をしている(グラフ4)。選択した4社のうち,住友生命,三井生命,T
&Dフィナンシャル生命は銀行チャネルの開始当初から積極的に変額年金を 販売した。また,第一生命は2007年から子会社による変額年金販売を行った。
12) 最低死亡保障のコストは概ね年0.1%以下だが,最低年金原資保証の場合は 1〜2%程度必要である。
13) 法規制上においては,ディスクローズの範囲は日米でほとんど差異がない。
第一フロンティア生命とT&Dフィナンシャル生命は2008年から新契約が 伸びており,2009年に最高額となっている。住友生命についても上位4社に 較べると2008年の新契約の減少度合いは小さい。そして,2009年には盛り返 している。しかし,2010年にはこれらの会社も大きく業績が落ち込んでいる。
すなわち,リーマンショック後の金融危機を機に再び変額年金市場の主要 なプレイヤーが入れ替わったといえる。もっとも今回の交代の理由は,既に 多くの変額年金を販売した会社が市場から退出したからである。それまで販 売が伸びていなかった会社は,金融危機前に締結した契約が少ないため最低 保証部分の責任準備金積増額が少なかったので,金融危機後においても変額 年金資産を保有することが可能であったと思われる。このため,上位社とは 全く逆の行動をとることとなった。
業界合計の保有契約高については,2008年以後も増加傾向にある。これは 解約が非常に少なかったことを同時に意味している。同時期に金融機関扱の 投資信託の残高が大きく減少していることと比較するとその差は顕著である
(グラフ5)。契約者および販売者が変額年金をリスクのある金融商品と見做し ていなかった証左でもある。会社ごとにみても保有契約が減少しているのは,
新契約の販売停止を公表したハートフォード生命と三井生命のみであった。
(億円)
(出典) インシュラアランス統計号 (保険研究所)より筆者作成 (グラフ4) 会社別新契約高(その2)
次に,2008年9月に発生したリーマンショックの影響をみるため,四半期 で新契約高の推移を観察した(グラフ6)。2008年1〜3月期は変額年金の 販売高が最も多かった期であり,その後減少し2010年1〜3月期にはほぼ半 分に減少した。グラフ1では2008年度に新契約高が急激に落ち込んでおり,
リーマンショックの影響が大きいように伺えたが,四半期ごとにみることに よって契約高が徐々に減少していることが分かる。すなわち,リーマンショ ックのために販売が落ち込んだというより,その後のいわゆる金融危機の影 響で販売が逓減していったという表現のほうが正確であると思われる。
(グラフ5) 変額年金と投信金融機関扱残高の推移 (兆円)
(出典) 投信金融機関扱残高は投資信託協会資料より引用し,筆者作成
(グラフ6) 四半期毎の新契約高
(出典) 生命保険事業概況 (生命保険協会)より筆者作成
(億円)
保有契約についても2008年9月以後の推移に注目するため,2007年3月末 から四半期ごとの動きを観測した(グラフ7)。これによると2008年9月期 から2010年3月期までの間で前期に比べて保有契約高が減少したのは,リー マンショック直後の2008年12月期だけであり,それ以外は微増を続けている。
⑵ 市場縮小要因
従来,変額年金市場は,他の金融商品と同様にリーマンショックに端を発 した金融危機により,市場リスクに晒されてその規模が縮小したと考えられ てきた。しかし,他の金融商品と異なる点は,変額年金市場の縮小に際して は,消費者が購入を控えたのではなく,保険会社が販売を自制したことが業 績の推移より推察される。
2008年以降上位4社の新契約高は大きく減少した。2009年には4社とも販 売停止またはそれに準じる水準まで新契約を減らして国内会社にシェアを奪 われている。この間の上位4社のソルベンシーマージン比率の推移をみると 2008年度に財務の健全性が大きく毀損していることがわかる(表4)。一方,
2009年度は改善または横ばい傾向となっている。すなわち,上位4社は変額 年金の販売を停止することによって健全性の悪化を食い止めたと考えられる。
(グラフ7) 四半期毎の保有契約高
(出典) 生命保険事業概況 (生命保険協会)より筆者作成
(兆円)
銀行は,金融危機により市場リスクが高まっており自行の顧客に投信等を 薦めづらい時期に,リスクのほとんどない変額年金の販売を継続することを 望んだと思われる。一方,元本を保証することで市場リスクを保有する保険 会社にとっては,販売を継続するには,市場環境に対応した適正な保証コス トへ料率を改定すること,および保証に係るリスクを軽減するために保証内 容を改訂することが必要となる。そして,販売を継続したとしても,新契約 引受額を自己資本から逆算されるリスク許容度の範囲内になるように販売抑 制が必要となる。もし,銀行との関係において販売政策を保険会社がもっと コントロールできる状態であれば,販売継続のために必要な措置を実行でき たかもしれない。しかし,実際は,保険会社は市場リスクをコントロールす るための行動を十分に取ることができなかったものと推察される。銀行から の要請によったものか,保険会社間の競合の結果であるかは明らかではない が,リーマンショック後も提供される商品の特性は大きく変わることなく,
銀行市場に提供され続けた。変わったのは販売する保険会社であった。つま り,財務の健全性が悪化した会社は,商品を改訂したり販売を抑制するので はなく,販売そのものを停止することで,健全性の悪化に歯止めをかけたも のと考える。そもそもハートフォード生命がはじめたビジネスモデルは販売 の主導権を販売者が握るものであるのだから,これは当然の帰結であったと いえるのかもしれない。
つまり,株式市場や投信市場等,他の金融商品市場と異なり,変額年金市 (表4) 会社別ソルベンシーマージン比率の推移 (%)
(出典) 各社の 決算の現状 (ディスクローズ誌)より筆者作成
2007年度 2008年度 2009年度 991.6 679.6
1029.4
ING
生命820.2 807.7
1449.7 ハートフォード
1058.0 729.6
1398.8 三井住友メットライフ
1275.3 1057.5
1157.5 東京海上日動フィナンシャル
場が消滅するほどに減少した要因は,拡大の要因として挙げた 販売者に専 用商品を提供するビジネスモデル と 元本保証付変額年金の開発 が市場 の縮小においても影響したと考える。
5.おわりに
銀行窓販による変額年金市場は,銀行窓販解禁という規制緩和により急速 に拡大し,リーマンショックに始まる金融危機のなかで市場が消滅していっ た。一般の生命保険商品を伝統的販売チャネルで販売しているのであれば,
このような事象は経験することがなかったと思われる。保険会社が市場リス クを保有する元本保証付変額年金の特殊性ゆえのことであり,その拡大と縮 小の経緯は保険会社のリスク管理を検討するうえで貴重な事例を提供してい ると考える。
この変額年金市場の拡大と縮小の要因を分析するなかで筆者が疑問に思っ たことは,リーマンショックという避けがたいイベントによって,保険会社 が販売を停止し市場から退出していったのは,経営判断の誤りによるものな のか,それとも,リスクに対する認識と対処が不十分であったからなのかと いう点である。
類似した事例としては,80年代後半から90年代前半にみられた個人ローン と変額終身保険を組み合わせた相続話法と,バブル期における個人ローンと 定額個人年金の前納一括払の組合せ販売をあげることができる。どちらも短 期間に市場が拡大しその後一気に縮小した。また主な販売チャネルが銀行で あったことも,変額年金販売と同じである。
植村(2008)は,日産生命の破綻の一因となったとされる定額個人年金の 前納一括払について, 販売の主導権を金融機関が握り,コントロールが利 かなくなったという面もあった と述べたうえで,日産生命の破綻の原因と して経営判断の誤りを指摘している。また,小川(2005)は,生保創業期に おいて複数の保険会社が特定銀行を販売代理店とし,やがてその銀行を介し た乱脈な融資等により破綻に至った事例を紹介している。そして,特定銀行
への営業依存度を増すことによって経営の根幹にかかるリスクが誘発された ことが破綻の要因であると指摘したうえで,リスクを排除できる経営姿勢の 確立を求めている。
このように,銀行を販売チャネルとし,販売を急激に拡大した結果破綻に 至った事例では,破綻の原因は経営判断の誤りにあるとされている。しかし ながら,筆者は,少なくとも今回の変額年金の市場消滅の原因は,経営判断 の誤りというより,リスクの存在に対する認識が不十分であったため正しい 判断ができず対処が遅れたことが原因ではないかと考えている。次のステッ プとして,このリスクを特定しどのような特性を持っているのかを研究して いくことを計画している。
(筆者は武蔵大学大学院経済学研究科博士課程)
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