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雲 仙 岳 に火 山性 土石 流 を発 生 させ た 1993年6月18日 の雷 雲 の 降 雨 特 性

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(1)

雲 仙 岳 に火 山性 土石 流 を発 生 させ た 1993年6月18日 の雷 雲 の 降 雨 特 性

荒 生 公 雄 ・住 吉 千 秋 長崎大学教育学部地学教室 武 田 喬 男 ・藤 吉 康 志

名古屋大学大気水圏科学研究所 岩 崎 博 之*

気象庁気象研究所 (平成6年3月15日 受理)

Characteristic Features of the Thunderstorm over Mt. Unzen on 18 June 1993 Which Caused a Volcanic Debris Flow

Kimio ARAO, Chiaki SUMIYOSHI

Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki 852, Japan Takao TAKEDA, Yasushi FUJIYOSHI

Institute for Hidrospheric-Atmospheric Sciences

Nagoya University, Nagoya 464-01, Japan

and

Hiroyuki IWASAKI

Meteorological Research Institute, Tsukuba 305, Japan

(Received March 15, 1994)

Abstract

An intensive thunderstorm occured on 18 June 1993 over Unzen-Shimabara region, which caused a very severe debris flow, was studied by the observation of RHI radar from the viewpoint of the evolution of thunderclouds and the prevention of disaster.

The main results of this study are as in the following.

(1) The thunderstorm which was in active for six hours consisted of six giant rain cells.

Each giant cell also consisted of several sub-cells and supplied the rainfall of about 50mm per hour and 20mm per 10 minute at the mature stage.

(2) All the giant cells moved form WSW to ENE with a velocity of 60-70km/h. This direction and speed agreed with the conditions of upper atmosphere.

(3) Both the one-hour precipitation and the total amount of rainfall were largest at the east coast of Shimabara Peninsula, because the rain cells originated at the western sea region at a distance of 30-40km from the west coast and developed during their travels to the east.

*現 在 群馬大学教育学部地学教室

(2)

24 荒生公雄・住吉千秋・武田喬男・藤吉康志・岩崎博之

1.はじめに

 筆者らは,名古屋大学大気水圏科学研究所の気象用RH Iレーダー(諌早市に設置中)

による降雨観測と島原半島一円の雨量調査とに基づいて,雲仙岳周辺に火山性土石流を発 生させる降雨に関する調査研究に取り組んでいる。1993年6月18日未明から19日午前中ま での大雨によっても(雲仙岳測候所の36時間総雨量335.5mm),雲仙岳周辺に大規模な土石 流が発生し,それまでの被害を一層拡大させた。すなわち,同年4月28日の大規模土石流

(水無川流域の土砂流出量95万㎡)によって,すでに厚さ2〜3mの土砂に埋まっていた 水無川周辺の家屋の2階部分が,6月18・19日の土石流(水無川流域の土砂流出量96万㎡)

で完全に流出し,従来の住宅地は土石の氾濫原と化した。また,18日早朝の土石流では国 道57号線の水無川橋(鋼鉄製)も流失した。1993年末までに水無川流域で発生した土石流 のうちで,1993年の4月28日と6月18日の土石流は最大規模であり,このような土石流に 関与した降雨の特性を明らかにしておくことは今後の防災対策に有用である。それゆえ,

本報では,特に6月18日の未明から早朝にかけて島原地方を襲った雷雨に限定して,降雨 の状況を報告する。ささやかな成果の一部なりとも災害防止や監視業務の一助となれば幸 いである。

 ところで,1993年の九州北部地方は6月2日に梅雨入りし,7月26日に一時的に梅雨明 けが発表された。しかし,8月の終わりに気象庁が再検討した結果,同地方の梅雨入りは

5月29日と訂正され,あわせて「梅雨明けの日は確定できない」と公表された(栗原,

1993)。実は,九州北部地方に限らず,九州南部から東北北部までの広い地域で「梅雨明け 日が決められない年」となり,全国的にも異常な冷夏であった。特に,九州地方では大雨 と日照不足による農作物被害が続出し,鹿児島・宮崎県地方ではそれらに台風による被害 も加わった。夏季の島原地方の降雨も平年よりはかなり多く,長崎県気象月報(1993)に よれば,雲仙岳測候所の月別降水量,平年値および平年比は次のとおりである。

1993年6月降水量 1164.5mm(平年517.4mm)平年比2.25   7月 〃  976.5 (〃 608.7)  〃 1.60   8月 〃  772.0 (〃 267.6 )  〃 2.88 3カ月合計 2913.0 (〃1393.7)  〃 2.09

 ちなみに,同測候所での1991年および1992年の3カ月降水量(6〜8月)は,それぞれ,

1143.5mmと890.5mmであり,両年ともに平年よりも寡雨であった。それゆえ,1990年秋から の雲仙・普賢岳噴火以降でみれば,1993年は本格的な大雨をもたらした最初の年に当たっ ていたと言うことができる。

2.気象の概況

 第1図は1993年6月18日09時の地上天気図である。17日のうちに九州北部まで北上した 梅雨前線は,この時,対馬付近から中国一近畿を結ぶ線上にあり,九州地方は前線の暖域 側に位置していた。調査の対象とする降雨の時間帯は18日03〜09時であるから,降雨時の 気象状況は第1図とほぼ同じである。実際に,長崎大学教育学部屋上の地上風は深夜から

(3)

動側皿

聰㊧・

   1004

10 1516

1008

1016

1004

1008

κ(P−8−

      09h 第1図 1993年6月18日9時の地上天気図

●1

●2

 ●3    

    8

●4

   ●7

●5

 ●6        17

 ●●●12

9911 14●116 聖33

        31●.323435

.13    ・18    .36       19   28   37               20 ●●●27

      2126 98

      22 ●  ●  ●39

       24 2940●

       41     23   45 43        46●  42        47       48

第2図・解析に利用した雨量計の位置と番号 一貫してSSWを主風向とし,平均3〜5m/sの風速が卓越していた。また,18日09時の 上空の風向と風速は,

  福岡:700hPa面255。31kt(57km/h);500hPa面250。39kt(72km/h)

  鹿児島:700 〃  245。35kt(65km/h);500 〃  250。37kt(68km/h)

となっており,福岡と鹿児島の高層風は非常によくそろっていた。さらに,東シナ海上の 高層観測を中心とする森川ほか(1994)と,熊本県の状況を調査した石田尾(1994)の解 析によれば,九州付近の下層950〜800hPaには高温多湿な下層ジェット(45kt)が存在す

る一方で,上層500hPaには北から一6。C以下の寒気が流入していたために,大気は十分に 湿潤で,しかも非常に不安定な状態になっていた。なお,この日の豪雨は熊本・大分両県 にまで広がり,杖立温泉(熊本県)では土砂災害が発生した。

3.降水量の分布

 第2図は調査対象とした雨量計の位置を示し,図中の番号は第1表の観測機関または観 測地点の番号と一致する。第1表はこの日の降水量の一覧表である。また,第3図は18日 03〜09時の6時間雨量分布である。さらに,第4図は雲仙岳に比較的近い5地点の降雨強 度の時系列である。これらの資料から降雨の特徴をまとめれば次のようになる。

 第1表から明らかなように,最も強い雨は04−05時頃に,有明町第4分団詰所(番号30,

1時間97mm)と島原市中野(同33,最大1時問96mm)に出現した。同時刻において西海岸で 雨量が最も多い地点は千々石町役場(18;1時間47.5mm)であったが,第2図で容易に確 認できるように,地点番号18,30および33はほぼ一直線上にある(1時間82mmであった番 号31もその線上にある)。また,千々石町役場と島原市中野の雨量記録からは最大10分間降 水量の起時も得られ,千々石町で04時30−40分(雨量9.5mm),島原市中野で04時50分一〇5時(同 21.5mm)となっていた。さらに,あとで示す第8図から,この雷雲の移動速度は約60km/h

と推定できる。

 第4図に示されているように,島原市中野の降雨強度には,0410−20にも顕著なピークが

(4)

26

第1表

      荒生公雄・住吉千秋・武田喬男・藤吉康志・岩崎博之

1993年6月18日の降雨記録

6月18日 1時間雨量(mm) 18日03〜09時 6時間値 最大1 最大10

番号 観 測 機 関

日雨量(mm) 03−0404−0505−06 06−0707−0808−09 03−09時 時間雨

(mm)

分間雨

(mm)

1 建設省大村 42 0  3  1 0  2  7 13 9

2 大村(アメダス) (50) 一  一  1 0  3  10 (14) (13)

3 五家原岳(アメダス) 70 1  0  0 0  3  14 18 16

4 建設省小野 64 0  0  0 0  3  10 13 18

5 建設省本野 35 1  0  0 0  4  5 10 7

6 建設省清水 33 0  1  0 1  3  0 5 7

7 高来町役場 28.0 0  0.5 0 0.5 2  2 5 6

8 小長井町役場 27.0 0  0.5 0.5 0  1  5 7 5

9 県総合農林試験場 25.0 1  0  0 1  2  0.5 4.5 5.5 1.5

10 諌早消防署 (9.5) 一  〇  〇 0  0  0 0 (5.0) (2.0)

11 諌早市役所 22.0 1  0  0 0  3  0 4 5.0

12 建設省諌早出張所 25 2  0  0 1  2  0 5 4

13 飯盛町役場 38.0 7  1  0 0.5 1  3 12.5 9.0 3.5

14 建設省夫婦木 41 7  1  0 2  0  6 16 7

15 森山町役場 37.0 5.5 2.5 0.5 O  l.5 5.5 15.5 5.5

16 愛野町役場 57.5 13  17.5 1 1.5 2.5 1 36 29.5

17 島原北消防出張所 51.5 7  2.5 4.5 2  0.5 1 17.5 20.0 18 千々石町役場 108.5 10  47.5 10 8.5 2  8 86 47.5 9.5 19 小浜町富津小学校 100.0 12.5 17.5 10 10  7  8 65 27.5 8.0

20 建設省小浜出張所 108 16  7  9 12  25   5 74 25

21 小浜消防署 93.0 17  4  11.5 17  7.5 3.5 60.5 20.5 8.5 22 小浜町役場 101.0 14   4  13.5 27.5 10   0.5 69.5 28.5 12.5 23 南串山町役場 46.0 4.5 2.5 16 12.5 0.5 0 36 16.0

24 建設省札原 137 14  5  25 46  8  5 103 46

25 絹笠山(アメダス) (33) _       一       _ 一      一      一

(13)

26 雲仙岳測候所 181.5 16.5 12  33.5 46.5 22  6 136.5 48.5 23.5

27 建設省雲仙 101 13  10  16 19  14  3 75 19

28 普賢岳くアメダス) (40) 17  一  一 (17) (17)

29 建設省俵石 125 9  6  17 45  15  4 96 45

30 有明町第4分団詰所 187 6  97  30 10  5  9 157 97 22

31 有明町清掃センター 182 9  82  33 12  9  9 154 82 22

32 島原研修センター 163.5 13.5 47.5 32 17.5 14  6.5 131 54.5 17.5 33 島原市中野 174.5 0.5 93  40 6  5.5 9.5 154.5 96.0 21.5 34 島原振興局 165.0 5  43.5 27 22.5 21  22.5 141.5 47.0 35 島原市役所 176.0 3.5 48.5 30 24.5 20.5 25.5 152.5 48.5 36 島原消防署 193.5 4  47  37 30  21  29 168 50.5 12.0 37 九州大学島原観測所 195.0 10.5 29.5 40.5 31.5 39  16.5 167.5 43.5 38 深江(アメダス) (38) 5  9  16 一      一      一 (30) (16)

39 深江町役場 83 4.5 4  10 37.5 8.5 0 64.5 44.0 13.0 40 布津消防出張所 85.5 5.5 1.5 12 41.5 5  0.5 66 48.5 15.0

41 布津町役場 31.5 2  2  2.5 8.5 0  0 15 11.5

42 島原南消防出張所 28.0 2  0  1.5 2  0  0 5.5 9.0

43 有家町役場 24.0 3  1  0.5 2.5 0  0.5 7.5 9.5

44 西有家町役場 13.5 2  1.5 1 1.5 0  0 6 4.5

45 北有馬町役場 30.0 3.5 1。5 1 7  0.5 0 13.5 8.0 5.5 46 有馬消防出張所 一      一      一

47 南有馬町役場 16.0 0.5 1  0 3  0  0 4.5 4.0

48 口之津(アメダス) 17 2  1  0 1  0  0 4 3

(5)

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1993年6月18日

6時問雨量(03〜09時)

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第3図 6月18日の6時間雨量分布     (3〜9時)

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1993年6月18日 冨津 1淳校

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島原研修センター

島原市中野

璽仙岳測償所

島原消防署

時  刻

第4図 5地点における雨量の時間変化(6月18日    3〜9時)

  上部の3地点は長崎大学のデジタル雨量計によ   る1分間ごとの降雨強度を示す。

  下部の2地点は10分間雨量による降雨強度で,斜   線部は10分間10mm以上であることを示す。

ある(10分間20㎜)。また,千々石町にも0350・0400(同8mm),0400・10(同9mm)のピーク があった。このように,千々石町と島原市中野の04−05時頃の降雨には約20分の時間差で 明瞭な対応があり,強い雨域が千々石町からさらに発達しながら有明町および島原市北部 へ進行したことを示唆する。第4図の島原市中野の降雨強度の変化は0410−0510の1時間に 強雨のピークが二つ存在し,これらによって最大1時間96mmを観測した。この1時間を前 半と後半の時間帯に2等分すると,前半で46mm,後半で50㎜となる。そこで,整理の上,

これらの雷雨をそれぞれN1,N2と呼ぶことにする(Nは北側の意味)。

 上の記述がやや長くなったことには理由がある。実は,当日のRH Iレーダーの運転開 始時刻が04時40分であったから,上に述べた雷雲N1はレーダー観測にはかからず,N2

はちょうど島原半島にさしかかったところを捕捉し始めたという事情があり,これら二つ の雷雲の活動の様子を雨量の記録から補う必要を感じたからである。

 一方,雲仙岳測候所(26)の降雨を10分間10mmの基準値でみると,0520−50(30分間28.5

㎜)と0620−50(30分間に42mm)に二つのピークがある(第4図)。また,島原消防署(36)

の場合には顕著なピークはないが,10分間10mm前後の中程度の降雨がやや長く継続し,そ のために6時間雨量ではこの地域の極値(168mm)となった(第3図)。島原消防署の最大

1時間雨量(50.5mm)は,0440−0540に観測されたもので,比較的小さな二っの降雨のピー クを含んでいた(第4図)。

 第3図の6時問雨量図についても若干説明を加える。当然のことながら,海上には雨量 計がないから,海上に張り出した等雨量線にはあまり意味がない。しかし,海上に等雨量 線を書き入れないと分布の傾向がわかりにくくなるから,レーダーの情報を参考にしなが ら,あえて書き込んだものである。このときの雨は島原半島の中央部で多く,しかも西側 よりも東側(島原側)で多い。中央部でくびれた形状の分布になるのは,第1表の島原研

(6)

28 荒生公雄・住吉千秋・武田喬男・藤吉康志・岩崎博之

修センター(32)と島原振興局(34)の 雨量が周囲よりやや少なかったためであ り,このような分布はレーダー観測の合 成結果(第9・10図)ともよく一致する。

また,この時間帯の諌早市周辺の降雨は 非常に少なく,レーダーサイトが雨に打  2go       230たれないという好条件のもとで,島原半 島に来襲する雷雨を観測することができ ・膨       260た。

4.R H lレーダーの観測結果

おσ O  Io

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320

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 名古屋大学RH Iレーダーは鉛直回転

(6回転/分)を主とし,方位角回転を従

とするもので,探知範囲は半径50km,高  第5図 名古屋大学レーダーの位置と探知範囲        A−Bは第7図の断面線を示し,それはレーさ15kmである。第5図に示すように,諌        ダーサイトからの最短距離が23kmで,真北か 早市北部の高台(標高約180m)から東南     らの方位角が67である。

東約25kmに雲仙岳を捉える位置にある。

レーダーサイトから見て南半円内には障害となる地物がなく,晴れてさえいれば,東の熊 本県の丘陵側から雲仙岳,さらに長崎半島の山並みを一望でき,真南には天草の山々を遠 望できる。第5図のラインA−Bは第7図のエコーの鉛直断面図の測線で,この場合ライ

ンは〈方位角67。,最短距離23km>と特定できる。ところで,このラインを北側に約8kmほ ど平行移動させると,千々石町から島原市中野に至るラインと一致し,北側の雷雲N1と N2もラインA−Bとほぼ平行な移動経路を示していた。

 第6図はレニダー開始時刻から08時53分までの2km−CAPPI図の時系列である。レー ダーアンテナの方位角回転はおよそ5。刻みであったから,1枚のCAPPIを作図するのに

6〜7分かかっている。その所要時刻は各図の左上に示している。なお,第6図ではエコー 強度25dBZ以上のエコーのみを表示している。この図を概観すると,07時頃までは明瞭な ライン状エコー示し,その形を保ちながら,非常にゆっくりと東へ進んでいるように見る こともできる。しかし,注意深く点検してみると,個々のセルは第5図に示したラインに 沿って東北東に進んでいた。また,ライン状ヱコーの走向は,セルの移動方向の方位角N 67。Eよりもやや小さく,およそN60。Eであった。ただし,07時過ぎからはエコーがライン 状の形が崩れ,ばらばらに散在するエコーになっていた。

 第7図はラインA−B上のエコー強度の鉛直断面の時系列である。横軸はライン上の距 離を表すが,中央のO kmはレーダーサイトから下ろした垂線の位置であり,この図では小 浜町南部の海岸付近にあたり,その右手側13−14km付近が雲仙岳にあたる。また,図示し た時間帯は04時44分から06時54分の2時間のみで,1時間が9画面で構成されている。第

7図の(その1)および(その2)にそれぞれ一つずつ鉛直方向に伸びた強いエコーが存 在している。その最初のものをS1,あとのものをS2と呼ぶことにする。S1もS2も

よくみると,複数のセルから構成されているが,ここでは大きな一団の雷雨エコーにのみ

(7)

注目することにする。

 S1は最初の画面(0444−0451)の一22km付近に小さい姿をすでに現し,成長しながら東 進し,約45分後の05時30分頃に雲仙上空に達していた。すなわち,雲仙岳測候所の〈0530−

50>の降雨のピークはS1の雷雲によってもたらされた。次に,S2についてみると,最 初の出現はく0536−0534>の時刻である。しかし,その1画面前は探知範囲外であるから,

それより前に小規模ながらすでに出現していた可能性もある。いずれにしろ,S2も同じ コースを辿り,最先端は06時20分(45〜50分後)に雲仙上空に達したことを示している。

この時間も雲仙岳測候所の〈0620−50>の強雨とよく一致する。さらに,S1,S2の位置 の移動から容易に移動速度が求められる。すなわち,第7図(その1)から,S1は1時 間で約65km移動したことになり,(その2)からS2も1時間に約70km移動している。

ただし,S2は島原半島を横断するあいだに二つに割れたようにみえる。移動速度の推定 にはそのうちでも先行するエコーを対象とした。ところで,S2の成熟段階での1山型か ら2山型への変容は興味深い。大気の状態や地形の効果などによって説明され得るのかも 知れないが,同時にある程度大きく成長したセルは条件によっては「自己増殖的に」新し いセルをそばにつくると考えることもできる。このことは今後の課題の一つとしたい。

 第8図はN2の雷雨の鉛直断面図(67。,15km)であり,S2と同様に明瞭な2山型を示 している。これを注意深く点検すると,島原市中野(水平距離20km付近)の降雨強度とよ く対応する。特に05時10分の一時的小雨(第4図)は二つの強いエコーの谷間にあたって いたことが読み取れる(第8図)。また,この図の後段左手側には次のセルN3が出現して

いる。

 この他に,図には示していないが,S3として識別可能なやや強いセルが08時頃に島原 上空に達しており,これは第4図の島原消防署の〈0800−10>の降雨と符合する。さらに,

北側のコースでもN2のあとに,N3(第6図の0513に長崎港外の高島付近にあったエ コー)が長崎市南部一橘湾一千々石一国見(第6図0613)へと動いている。ただし,N3 は橘湾上で最盛期を迎え,島原半島にはあまり強い雨をもたらさなかった。

 以上のように,6時間の間に,十分に発達した雷雲(複数のセルから成る)が少なくと も6系統あったことになり(ただし全部が雷雲であったかは不明),それらが比較的狭い領 域(幅20km)に集中して来襲した。しかも,・それらは北側のコースと南側コースに振り分

けられたような経路を移動していた。そのため,第9図と第10図のCAPPIの合成図の上で は,強いエコー域が明瞭な2本の筋を形成し,その分布は第3図の陸地の雨量分布とよく 一致する。ただし,第9・10図の時間帯は04時44分から07時34分であるから,北側のコー スではN2の後半とN3によるエコーの合成であり,南側ではS lとS2のエコーの合成 による結果である。また,このようなエコーの分布やその変化の様子は,同じ時間帯の気 象庁南部福岡合成図とよく一致するとともに,気象衛星「ひまわり」から得られた九州上 空の雲頂温度分布の時間的な変化ともよく対応していることが確かめられた。

5.ま

(1)1993年6月18日の早朝に島原地方で活動し,雲仙岳周辺に土石流を発生させた雷雨は,

次々と東北東進する六っのかなり巨大な降雨セルによってもたらされた。それらのセルの

(8)

30 荒生公雄・住吉千秋・武田喬男・藤吉康志・岩崎博之

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 第6図(その1)名大レーダーエコーの2km−CAPPI図(6月18日04時43分〜06時54分)

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(9)

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第8図 千々石一島原市中野を結ぶ線上のエコーの鉛直分布(6月18日04時44分〜05時29分)

   黒:35dBZ以上,縞:30〜35dBZ,斑:25〜30dBZ,白

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(13)

移動方向はN67。Eで,速度は60〜70km/hであり,上空の風向・風速とよく一致してい た。また,セルの移動経路には二っのコースがあり,それらは8kmの間隔で平行な線を成

していた。

(2)個々のセルの発源域は長崎半島先端部かその周辺の海域で,セルは東方に進みながら橘 湾上で成長し,島原半島に上陸したが,島原半島の西海岸側よりも東海岸側で成熟段階に 達し,東海岸側に多量の雨を降らせた。

(3)個々の大型のセルによって,およそ50mmの雨量がもた・らされ,1時間のあいだに二つの セルが進入した場合には,約100mmの雨量となった。また,セルの通過に伴う最大10分間雨 量は20〜23mm程度であった。

(4)個々のセルの成長段階では十分孤立的な単独の大型セルであったが,さらに大きく成長 したセルは,進行方向に二つに分裂または増殖する傾向を示した。また,大型のセルは実 質的に複数のセルから構成されていた。

 本研究を遂行するにあたり,雲仙岳測候所,長崎海洋気象台,福岡管区気象台からはさ まざまな資料を御提供いただいた。また,対象地域の多数の雨量観測機関からも貴重な観 測資料を提供いただいた。さらに,観測と資料の整理には,小浜町立富津小学校,国立大 学島原共同研修センター,河田誠氏,岩永政太郎氏,藤山雅照氏および碇由起子嬢に多大

な御協力を賜ったσ上記の各機関と各位に厚くお礼申し上げます。

 本研究には,平成5年度文部省科学研究費補助金〈一般研究(B)>,同年度名古屋大学 大気水圏科学研究所共同研究経費および同年度長崎大学教育研究特別経費(特別分)から 御援助をいただいたことを明記し,関係各位に感謝の意を表します。

参考文献

石田尾拓司,1994:梅雨期における巨大積雲のメソ解析,日本気象学会九州支部講演要旨集,No.15,11・

 13.

栗原弘一,1993:日本の天候<1993年夏〉,気象,1993年11月号,34−37.

長崎海洋気象台,1993:長崎県気象月報,1993年6〜8月号。

森川 滋,立花房男,田代知二,1994:長風丸特別観測による梅雨前線活動の解析,日本気象学会九州支  部講演要旨集,No.15,14−16.

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