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2 研究の方法と結果

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

近年,磁性粒子の産業および生物化学分野への応用が注目されている.磁性粒子とは 酸化鉄をベースとしたマイクロ・ナノ粒子を一般に指し,印加磁場からエネルギーを効 率的に吸収し,熱として放出する特徴を有する.この特徴により,磁性粒子は化学反応 の促進,不活性反応の生起,癌細胞の熱殺傷などへの利用が期待され,現在,粒子開発 から生体応用に至るまで精力的に研究が行われている.これらの研究では温度と発熱量 の測定が必要不可欠であるが,粒子分布に応じた局所的な温度分布や発熱量分布を得る ことは既往の技術では困難である.例えば熱電対や赤外熱放射計を用いた場合,粒子懸 濁液の表面温度もしくは平均温度を測定できるものの,液体内部の粒子近傍の温度分布 を測定することは原理的に不可能である.本研究はこの課題を解決するため,水の近赤 外分光特性に基づいた新たな測定法を開発し,磁性粒子の代表的な応用形態である,壁 面粒子層,粒子含有の微小ゲル滴( micro-gel droplet ),磁性ナノ流体による粒子吸着に対 する有用性を実証することを目的としている.

2 研究の方法と結果

発熱する磁性粒子近傍の温度分布を測定するため,近赤外温度イメージング法を採用 し,磁性粒子の応用形態に対応した実験系を構築した.近赤外温度イメージング法は水 の吸収帯の温度依存性を原理とした,プローブ物質の添加を必要としない方法である.

本研究ではこの利点を活かし,磁場印加時の水の吸光度変化をリアルタイム測定できる ように光学系を改良した.具体的には,ハロゲン光源,狭帯域透過フィルター,レンズ,

および近赤外カメラを用いて,温度感度波長である波長 1412 nm の吸光度画像を取得し た.吸光度は温度と相関があるため,変換モデルによって温度分布を得ることができる.

最初の実験では,マイクロ流路内に形成された sub-mm 厚さの磁性粒子層の誘導加熱 を実施した.層近傍の温度分布を明瞭に捉えることに成功し,上昇温度は加熱レベルと 加熱時間に加えて粒子層厚さに依存することを明らかにした.温度分解能として 0.2°C を得た.多層熱伝導モデルに基づき,温度分布から粒子単位体積当たりの発熱量を算出 した.その値は層厚さには依存せず,加熱レベルに応じて変化することを確認し,発熱 量測定のための実験系として有用であることを示した.

次に,磁性粒子を含有した微小ゲル滴の温度および発熱量を推定した.直径 1 mm 以

下のゲル滴の吸光度画像を様々な加熱条件下で取得し,加熱レベルおよび加熱時間との

相関をまとめた.ゲル滴の場合,その変形度合いや接触壁の熱拡散率に依存した非対称

温度分布が形成されるため,吸光度画像から温度分布をアーベル( Abel )変換のような逆

問題解法によって直接求めることはできない.そこで,数値計算によって得られた温度

と吸光度をデータベース化し,実験結果との比較によってその中から最も確からしい温

度と発熱量を探索する手法を開発した.その結果,球対称仮定に基づく既往の推定手法

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に比べて,ゲル滴形状を反映した温度分布を示し,発熱量のばらつきも小さいものとな った.

最後に,磁性ナノ流体を用いた実験を行った.磁性ナノ流体は磁性ナノ粒子と界面活 性剤を含む水溶性液体で構成され,各材料表面に粒子層もしくは凝集塊を形成する.そ こで先ず,マイクロ流路内の凹凸壁,細胞培養用ゲル,微小樹脂ロッドに対する粒子吸 着の様相を調査した.それぞれに対して近赤外温度イメージング法を適用し,吸光度画 像は吸着量と凝集塊形状に応じた差異を生じ,本方法が温度場の評価とともに吸着量の 評価にも有用であることが示唆された.以上の成果をもとに,本論文では磁性粒子の熱 分析のための実験系を提案し,将来の展望をまとめた.

3 審査の結果

本論文は,近赤外温度イメージング法を応用した磁性粒子の熱測定に関する成果をま とめたものである.マイクロ流路内の磁性粒子層,磁性粒子を含有する微小ゲル滴,磁 性ナノ粒子の吸着層のそれぞれに対して実験装置と方法を開発し,結果と考察が詳述さ れている.近赤外温度イメージング法は,矩形流路など比較的シンプルな対象にこれま で使用され,磁性粒子のような数密度や発熱特性に空間的差異がある対象への適用事例 はなかった.その点で本研究は磁性粒子の熱分析のための新たな方法と発展性を提示し たといえる.

従来,磁性粒子の熱分析は,磁性粒子の懸濁液等で得られた空間および時間的に平均 化された温度および発熱量に基づき行われてきた.一方,本研究の方法は局所的な内部 温度を測定できる点が革新的であり,加えて,誘導加熱デバイス,マイクロ流体デバイ スとの組み合わせが可能という実用性を有している.磁性粒子層と微小ゲル滴の実験で は,サイズや磁場条件による温度の有意な差を示しており,温度分解能も 0.2℃ と実用 上要請される値を十分満足している.これらの温度分布は吸光度画像の単純な変換によ って得られないため,数理モデルと最適化手法の組み合わせによって推定している.特 に,微小ゲル滴に対して開発された,数値計算結果のデータベースから最適な温度分布 と発熱量を探索する手法は,伝熱分野における新たな同定法の提案と位置付けられ,学 術的な意義も有している.

磁性ナノ粒子は多くの分野で応用が期待されているが,吸着や凝集形態が複雑でその

制御は難しい.本研究は様々な材料表面で凝集塊の成長を観察しながら,同時に温度分

布を測定できることを実証した.磁場強度に加えて,粒子数密度や形状が温度分布に与

える影響を可視定量的に明らかにした.この成果は,磁性粒子開発,磁気温熱療法,マ

イクロ化学工学などの磁性粒子の応用分野において本方法が有用であることを証明す

るものであり,本論文ではさらに磁気分離,免疫アッセイ,表面プラズモン共鳴と組み

合わせた使用法にも言及しており,今後の展開を具体的に解説している点は高く評価で

きる.

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以上を総合的に判断した結果,本論文の成果は博士(工学)を授与するに十分値する ものと判断できる.

4 最終試験の結果

本学の学位規定に則り,論文審査委員による論文審査会を 3 回開催し,本論文の内容 および関連分野に関して多角的な視点から審査委員による筆答および口頭の試験を実 施した.また,公開の論文発表会を 2020 年 8 月 17 日に開催し,学内外からの多数の参 加者を得て多角的な討論を行った.なお,論文発表会では会場での聴講人数を制限し,

ウェビナーとしてオンライン配信を同時に行った.以上の審査会および発表会の結果,

申請者は論文内容および関連科目に関して,博士(工学)としての専門知識を十分有す

るものと判断し,合格と判定した.

参照

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