参 考
第1節 会社の特徴
1.総論
〔短答:C 論文:B〕 会社法では,「会社」は,株式会社,合名会社,合資会社または合同会社と定義される(2条1号)。会社は, 「法人性」,「社団性」,「営利性」の3つの特徴を有している。 【会社の3つの特徴】 法人性 自然人以外で権利義務の帰属主体となり得ること 社団性 共同目的を有する複数人の集まりのこと 営利性 ① 継続した営業活動により利益を獲得 ② その得た利益を社員に対して分配すること2.法人性
〔短答:C 論文:C〕 (1) 法人格の制度 ① 法人格の意義・機能 会社は法人とされる(3条)。法人は,自然人以外で権利義務の帰属主体となり得る資格を有し,その資格 を法人格という。権利義務の帰属主体となる資格のことを権利能力といい,権利能力を有するのは,自然人 と法人のみである。 法人格を付与されることにより,会社の構成員である社員とは独立して,会社自体が権利を有し義務を負 うことができる。具体的には,会社の所有物として土地や建物を所有することができ,会社を債務者として 銀行から借入れをすることができる。 社員の意味 社員は,会社に対する出資者であり,会社の構成員である。特に株式会社の社員を株主という。 したがって,日常用語として用いられる従業員という意味ではないので注意する必要がある。② 趣旨 会社法が会社に対して法人格を付与しているのは,① 法律関係の処理の便宜を図ることで企業活動を円滑 にするため,② 権利義務の帰属を実態に即して規制するためである。 (2) 会社の権利能力の3つの制限 自然人の権利能力は制限されることはない。しかし,法人は自然人と異なり,会社の権利能力の範囲が制限 される。 ① 性質による制限 肉体および生命を有する自然人とは異なり,会社は,法律で権利能力を認められた観念的存在である。し たがって,(ⅰ) 親権および相続権のような身分法上の権利,(ⅱ) 選挙権等の公権的権利は制限される。 ② 法令による制限 生まれながらにして権利能力を有する自然人と異なり,会社は法令により権利能力を付与されている以上, 法令によりこれを制限することもできるため,清算時は,清算の目的の範囲内でのみ権利を有し義務を負う (476 条,645 条) ③ 定款の目的条項による制限 自然人とは異なり,会社は,一定の目的をもって設立された社団であるため,「定款所定の目的」により権 利能力が制限される(民法 34 条)。
補 足 (ⅰ) 定款所定の目的の範囲外の行為の効力 会社が行った定款所定の目的の範囲外の行為は,会社の権利能力外であるため,絶対的に無効である(判 例)。 (ⅱ) 定款所定の目的の範囲 ある特定の行為が目的の範囲に含まれる行為か否かを厳格に解釈すると,取引の安全が著しく害される し,また,会社のなし得る行為も限定されてしまう。そこで,取引の安全を図るため「定款所定の目的」 を広く解釈し,定款に記載された目的自体だけでなく,定款に記載された目的には含まれない行為であっ ても,目的遂行に直接的または間接的に必要な行為は,「定款所定の目的」の範囲内に属すると解釈すべき である(判例)。 (ⅲ) 目的遂行に必要な行為であるか否かの判断基準 特定の行為が目的遂行のために必要な行為であるか否かの判断は,取引の安全の観点から,当該行為が 目的遂行上現実に必要であったかどうかという主観的・具体的な観点から決するのではなく,当該行為の 客観的性質に即して,抽象的に判断すべきである(判例)。結果として,目的外行為と判断される取引行為 はほとんどなく,実質的には「定款所定の目的」による制限はないと考えられる。 会社の行う政治献金が会社の権利能力の範囲内か
〔短答:C 論文:C〕 結 論 (判例) 会社の権利能力の範囲内の行為である 理 由 当該行為の客観的性質に即して判断すると,定款所定の目的たる行為の遂行に間接的ながら必要ないし 有益な行為と考えられるため
(3) 法人格否認の法理 ① 意義 法人格否認の法理とは,社員とは本来別個独立の法人格を有する会社について,その形式的独立性を貫く ことが第三者との関係において正義・衡平に反する場合,その法人格の存在を認めながらも特定の事案につ いて,社員とは別人格であることを否定して,社員と会社を同一視する法理である。 ② 根拠 会社法上明文の規定はないが,法人格はそもそも社会的に有用な団体についてその価値を評価して立法政 策的に付与されるものであるところ,権利主体として認めるに値しない場合には,法人格を否認すべきであ る。したがって,権利濫用の禁止に関する民法1条3項を根拠として,法人格否認の法理が認められるので ある。 ③ 適用事例・適用要件 法人格否認の法理が適用されるのは,法人格が法律の適用を回避するために濫用される事例(法人格濫用 事例)と,法人格が形骸化されており,会社の事実がまったくの個人事業である事例(法人格形骸化事例) の場合である。 (ⅰ) 法人格濫用事例 法人格濫用事例に該当するには,1 支配の要件,2 目的の要件を満たす必要がある。 1 支配の要件 会社の背後にあるものが,会社を自己の意のままに単なる道具として支配していること 2 目的の要件 法人格の利用において違法または不当な目的があること (ⅱ) 法人格形骸化事例 法人格形骸化事例に該当するか否かは,支配の要件を満たしていることに加え,① 会社と社員の業務・ 財産の混同,② 社団組織規定の無視,③ 会社と社員の会計区分の欠如などの事実の存否を考慮して判断 する。 ④ 効果 法人格否認の法理が適用された場合,特定の事案の解決に必要な範囲で,会社がその社員から独立した権 利義務の帰属主体であることが否定される。すなわち,法人格否認の法理は,会社解散命令(824 条 1 項), 設立無効の訴え(828 条 1 項 1 号)等の制度のような会社の法人格という存在自体を全面的に否定するもの ではなく,当該特定の事例に限り社員と会社を同一視することを認めるものである。 ⑤ 機能 法人格否認の法理は,会社債権者を保護する機能を有する。すなわち,法人格否認の法理が適用された場 合は,会社債権者は,会社の背後にいる社員に対して責任を追及することができるようになるのである。
⑥ 法人格否認の法理の制限
法人格否認の法理は,一般条項(民法1条3項)を根拠とするものであるから,法的安定性の見地からは, その適用をなるべく避けるのが望ましい。法人格否認の法理の適用は,最後の手段であり,その適用の前に 法律の規定や契約条項の合理的・弾力的解釈により,解決できないかを検討するべきである。
3.社団性
〔短答:C 論文:B〕 (1) 社団とは 社団とは,共同目的を有する複数人の集まりをいう。複数の社員を構成員とした会社は,社団であると解さ れる。 (2) 一人会社 ① 問題の所在・問題提起 社団とは,共同目的を有する複数人の集まりとされることから,社員が1人の会社は認められるであろう か。すなわち,一人会社が認められるか,会社の社団性と一人会社の整合性が問題となる。 ② 規範定立 (ⅰ) 結論 一人会社は認められると解する。 (ⅱ) 理由 1 会社法は,社員が一人になったことを解散事由としていない(471 条,641 条)。 2 一人会社であっても株式や持分を譲渡して社員を複数にすることは可能であり,一人会社は,潜在的 な社団と捉えることができる。 3 実質的な視点からも,100%完全子会社など,一人会社を認める必要と実益がある。 【一人会社は認められるか】 結 論 一人会社は認められる 理 由 1 会社法は,社員が一人になったことを解散事由としていない(471 条,641 条) 2 一人会社は,潜在的な社団と捉えることができる 3 実質的な視点からも,一人会社を認める必要と実益がある4.営利性
〔短答:B 論文:B〕 営利性とは,① 継続した営業活動により利益を獲得し,かつ,② その得た利益を社員に対して分配するこ とをいう。②で示されている利益の分配方法としては,剰余金(利益)の配当および残余財産の分配がある。 会社は,営利性を有すると解されている。株式会社においては,会社の営利性から,株主に剰余金配当請求 権および残余財産分配請求権の全部を与えない旨の定款の定めは,その効力を有しないものとされている(105 条2項)。参 考 補 足 参 考
第2節 会社の種類
1.社員と社員権
〔短答:A 論文:A〕 (1) 社員の意義 社員とは,社団である会社の構成員をいい,会社の出資者である。特に,株式会社の社員を株主という。 (2) 社員による出資 出資とは,財産,労務または信用を提供することをいう。社員は会社の出資者であるため,会社に対して, 財務,労務または信用を提供する義務を負う。 (3) 社員権 社員は会社に対して社員権を有する。社員権は,① 会社から経済的利益を受けることを目的とする権利(自 益権)と,② 会社経営に参加することを目的とする権利(共益権)に分けることができる。特に,株式会社の 社員権を株主権という。2.社員の責任
〔短答:A 論文:A〕 社員の責任は,社員の会社に対する出資責任と,社員の会社債権者に対する責任に分けることができる。 (1) 社員の会社に対する出資責任 株式会社において,株主は,その有する「株式の引受価額」を株式会社に対して出資しなければならない。 また,合名会社,合資会社および合同会社において,財産を出資する場合には,定款に定めた「出資の価額」 を会社に対して出資しなければならない。 持分会社 合名会社,合資会社または合同会社を総称して,持分会社という(575 条1項)。 出資の目的 無限責任社員は,財産,労務および信用のすべてが出資の目的として認められる。これに対して,有限責任社員はその責任 が限られており,出資の目的は評価可能なものでなければならないため,出資の目的は金銭等の財産出資に限られている(34 条1項,63 条1項,208 条1項2項,576 条1項6号かっこ書)。(2) 社員の会社債権者に対する責任 会社は,法人格を有するため,事業に必要な借入れを行う場合には,会社が債務者となって借入れを行い, その返済も会社の財産から行うことになる。万が一,事業を失敗し会社が倒産した場合にも,まずは,会社財 産をすべて金銭に変えて,その金銭をもって借金の返済に充てることになる。 ここで,社員の会社債権者に対する責任は,① 直接責任または間接責任,② 無限責任または有限責任とい う2つの視点で分類することができる。 ① 直接責任と間接責任 直接責任とは,社員が会社債務につき,会社債権者に対して直接弁済する責任を負うことである。簡潔に いえば,社員が会社の借金を会社債権者に対して代わりに弁済しなければならないことをいう。そのため, 会社債権者は,社員に対して,直接,債務の弁済を請求することができる。ただし,社員が会社債権者に対 して弁済する責任を負うといっても,あくまで会社が債務を弁済することができない場合の二次的な責任で ある。 間接責任とは,社員は会社債務につき,会社債権者に対して直接弁済する責任を負わないが,社員の出資 した財産が会社の財産となり,会社債権者に対する担保になることで間接的に会社債権者に対して責任を負 うことである。そのため,会社債権者は社員に対して,直接,債務の弁済を請求することはできない。
② 無限責任と有限責任 無限責任とは,社員が,会社債務につき,自己の全財産をもって会社債権者に対して債務を弁済する責任 を負うことをいう。 有限責任とは,社員が,会社債務につき,一定の額を限度に会社債権者に対して債務を弁済する責任を負 うことをいう。ここでいう「一定の額」とは,株式会社の場合には「株式の引受価額」であり,持分会社の 場合には「出資の金額」である。
補 足
3.会社の種類
〔短答:A 論文:A〕 (1) 株式会社と持分会社 会社法は,会社を,株式会社,合名会社,合資会社または合同会社と定義し(2条1号),後三者(合名会社, 合資会社または合同会社)を総称して,持分会社としている(575 条1項)。したがって,会社は,まず大きく 分けて株式会社と持分会社に分類することができる。 (2) 社員の責任と会社の種類の関係 ① 株式会社 株式会社は,間接有限責任社員のみからなる会社である(104 条)。すなわち,株式会社の株主は,会社に 対して株式の引受価額を限度に出資義務を負担する責任を負うのみで,会社債権者に対しては何ら責任を負 わない。 ② 合名会社 合名会社は,直接無限責任社員のみからなる会社である(576 条2項)。すなわち,合名会社の社員は,会 社債務につき,会社債権者に対して無限に直接弁済する責任を負う。 ③ 合資会社 合資会社は,直接無限責任社員および直接有限責任社員からなる会社である(576 条3項)。すなわち,合 資会社の社員は,会社債務につき,直接無限責任社員であれば,会社債権者に対して無限に直接弁済する責 任を負い,直接有限責任社員であれば,会社債権者に対して出資の価額を限度に直接弁済する責任を負う。 ④ 合同会社 合同会社は,間接有限責任社員のみからなる会社である(576 条4項)。すなわち,合同会社の社員は,会 社に対して出資の価額を限度に出資義務を負担する責任を負うのみで,会社債権者に対しては何ら責任を負 わない。 会社法施行後の有限会社の取扱い 〔短答:B 論文:C〕 「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)」の施行により,有限会社法は廃止された(整備法1条2 号)。したがって,会社法施行後の有限会社の設立は認められない。これは,廃止前の有限会社法(旧有限会社法)の規定に よる有限会社とほぼ同様の会社形態を株式会社においても実現できるようになったためである(最低資本金制度の廃止や柔軟 な機関設計の許容等)。 しかし,有限会社は非常に広く利用されていたので,旧有限会社法において定められていた特有の規定(取締役・監査役の 任期がない等)を会社法施行後も有限会社であった会社(旧有限会社)に認める必要がある。したがって,旧有限会社は,会 社法施行後も旧有限会社法で定められていた特有の規定の適用を受けながら,会社法の規定による株式会社として存続する ものとされた(整備法2条1項)。当該規定により存続する株式会社は,その商号中に有限会社という文字を用いなければな らず(整備法3条1項),「特例有限会社」と称される(整備法3条2項)。 この点,特例有限会社については,第 13 章 特例有限会社 において詳述する。参 考 参 考 参 考 参 考 【会社の種類と社員の責任】 持分会社 株式会社 合名会社 合資会社 合同会社 直接 無限
○
○
有限○
間接 無限 有限○
○
出資の履行時期等 合名会社および合資会社の社員の出資の履行時期およびその履行の程度については,会社法上,制限は設けられていない。 したがって,社員となる段階で出資義務をすべて履行することは求められていないのである。 これに対して,株式会社の株主および合同会社の社員は,株主または社員となる段階で出資義務をすべて履行することが求 められている(34 条1項,63 条1項,208 条1項2項,281 条1項2項,578 条,604 条3項)。 直接無限責任 直接無限責任社員は,出資の履行の有無やその履行の程度にかかわらず,会社が債務を弁済できない場合は,当該債務額の 範囲内において無限に会社債権者から直接責任を追及されることとなる。 直接有限責任 直接有限責任社員は,会社が債務を弁済できない場合は,出資義務が未履行の範囲内において,会社債権者から直接責任を 追及されることとなる。 例えば,1,000 万円の出資義務を負う直接有限責任社員(すなわち,1,000 万円を限度に会社債権者に対して責任を負う直 接有限責任社員)が,既に 600 万円の出資を履行している場合においては,当該社員の出資義務の未履行分は 400 万円となる。 この場合において,会社が債務を履行できない場合は,当該社員は,400 万円の範囲内において,会社債権者から直接責任を 追及されることとなるのである。 間接有限責任 間接有限責任社員は,会社が債務を弁済できない場合であっても,会社債権者に対して何ら責任を負わない。なぜなら,間 接有限責任社員は,社員となる段階で出資義務をすべて履行しており,出資義務の未履行分がないためである。補 足
4.公開会社・非公開会社
〔短答:A 論文:A〕 会社法においては,株式会社を公開会社と公開会社でない株式会社(非公開会社)に区別し,それぞれ異な る規制を設けている。 (1) 公開会社 公開会社とは,その発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会 社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう(2条5号)。 (2) 非公開会社 非公開会社とは,その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認 を要する旨の定款の定めを設けている株式会社をいう。 公開会社 〔短答:A 論文:A〕 公開会社の典型例は,定款で定められている全部の株式に譲渡制限がない株式会社である。これは,2条5号で定められて いる公開会社の定義の中の「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要す る旨の定款の定めを設けていない株式会社」に該当する。 次に,種類株式発行会社において,定款で定められている一部の株式の内容に譲渡制限がない株式会社も公開会社である。 これは,2条5号で定められている公開会社の定義の中の「その発行する一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得 について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」に該当する。例えば,定款で2種類の株式(A種 類株式・B種類株式)を定めている株式会社において,A種類株式については譲渡制限があるが,B種類株式については譲渡 制限がない場合,当該株式会社は公開会社となる。参 考 参 考 参 考 上場会社 上場会社は,会社法上の用語ではないが,一般に金融商品取引所に株式を上場している会社のことをいう。上場会社は,全 部の株式について譲渡制限がないのが一般的であると考えられるため,公開会社と上場会社の概念は一致しない。すなわち, 公開会社の方が上場会社の概念よりも広い。 定款 定款とは,会社の組織や活動などを定めた根本規則である。すなわち,会社が内部的に定めたルールが定款である。 定款については,第5章 設立において詳述する。 譲渡制限株式 譲渡制限株式とは,簡単にいうと,譲渡をする際に会社に承認が必要な株式のことである。これを発行する場合には,定款 にその定めをする必要がある。 譲渡制限株式については,第4章 株式において詳述する。
第3節 社員の経営権
1.所有と経営の一致
〔短答:A 論文:A〕 所有と経営の一致とは,会社の実質的所有者である社員自らが会社経営を行うことをいう。持分会社におい ては,社員が会社の業務を執行するため(590 条1項等),所有と経営が制度的に一致しているといえる。2.所有と経営の分離
〔短答:A 論文:A〕 所有と経営の分離とは,会社の実質的所有者である社員は会社経営に直接関与せず,会社経営を経営の専門 家である経営者に委任することをいう。株式会社においては,株主が無個性であることを前提としているため, 株主に業務執行権はなく,会社経営は取締役または執行役に委ねられているため(326 条1項,348 条1項,363 条1項,418 条等),所有と経営が制度的に分離されているといえる。参 考 参 考
第1節 株式会社の意義と2大特質
1.株式会社の意義
〔短答:A 論文:A〕 株式会社とは,社員の地位が株式という均等に細分化された割合的単位の形をとり,会社に対して株式の引 受価額を限度に出資義務を負担する責任を負うのみで(104 条),会社債権者に対しては何ら責任を負わない社 員のみからなる会社である。2.株式会社の2大特質
〔短答:A 論文:A〕 株式会社は,大規模な事業を行うことが可能となるように制度設計がなされている。そのためには,社会に 散在する遊休資本を集積する必要があるため,株式会社は,「株式」と「間接有限責任」という2大特質を有す る。 社会に散在する遊休資本の集積 社会に散在している遊休資本とは,「無個性」な人が所有している「少額のお金」のことである。ここで,「無個性」な人と は,ごくごく普通の人を想定している。つまり,特にお金持ちでもないし,また,リスク許容度が高いわけでもない。さらに, 経営のノウハウを有してもいないし,土地,建物または特許権など特別な資産を有してもいるわけでもない。そのようなごく ごく普通の人のことである。そして,世の中の大多数の人が,この「無個性」な人であり,少額のお金しか投資に回すことは できない。したがって,大規模な事業を行う会社を作ろうと思ったら,大多数の「無個性」な人から,「少額なお金」を集め るシステムを構築するしかない。そのシステムこそが,「株式」と「間接有限責任」という2大特質を有する株式会社なので ある。 合同会社との関係 合同会社の社員の責任は株式会社と同様に間接有限責任となっており,この点で,間接有限責任を株式会社のみの特質であ るとはいえないが,一般的に,株式会社の特質として論じられる。参 考 (1) 株式 ① 株式の意義 株式とは,均等に細分化された割合的単位の形をとる株式会社の社員たる地位をいう。 ② 社員の地位を細分化する趣旨 細分化するということは,細かく分けることである。社員の地位を細分化することにより,少額の資金し か出資に充てることができない投資家からも資金を集めることできるようになるのである。 ③ 社員の地位を均等な割合的単位にする趣旨 均等な割合的単位にするということは,一つひとつを均等にすることである。社員の地位を均等な割合的 単位にすることにより,社員の地位を無個性化し,株式会社の内部関係の処理の簡易化を可能にしているの である。さらに,社員の地位の譲渡を円滑に行うこともできるのである。 細分化と均等な割合的単位 (1) 細分化 無個性の人から少額のお金を集めるには,株式をとにかく細かくしてあげればよい。仮に,出資額1億円の株式会社を作ろ うと考えた場合において,2株しか発行しないのであれば,株式は1株当たり5千万円ということになってしまい,出資をし て株主になることができるのは,5千万円を投資に回すことができるお金持ちのみということになる。これに対して,1万株 発行すれば,1株当たり1万円となり,ごくごく普通の人からも出資を受けることができるのである。 (2) 均等な割合的単位 社員の地位を無個性化するためには,株式の一つひとつを均等にしてあげればよい。仮に,株式一つひとつの大きさが異な れば,多数の株主の資本参加が予定される株式会社において,議決権の行使や剰余金の配当等の場面における内部関係を処理 しきれなくなってしまう。これに対して,株式の一つひとつを均等にすれば,議決権の行使の場面においても1株1議決権, 剰余金の配当の場面においても1株 100 円というように,株式会社と株主との内部関係を簡易なものとすることができる。 また,株式を無個性なものとしておけば,他の者への譲渡も容易となる。このように,社員の地位の譲渡を円滑に行うこと ができるような環境を整えることによって,多数の株主の資本参加が可能となるのである。
参 考 (2) 間接有限責任 ① 株主の責任 株式会社の社員である株主は,会社に対して株式の引受価額を限度に出資義務を負担する責任を負うのみ で,会社債権者に対しては何ら責任を負わない(104 条)。これを,株主有限責任の原則という。 このように,株主は会社債権者に対して直接責任を負うことはないので,その責任は間接有限責任である。 ② 株主の責任を間接有限責任にした趣旨 株式会社が社会に散在する遊休資本を集積し,大規模な事業を行うことを可能にするためには,多数の者 が安心して会社に出資することができるようにする必要がある。そこで,株主の責任を株式の引受価額を限 度に出資義務を負担する有限責任とすることで,出資に伴って被る可能性のあるリスクを限定し,多数の者 が安心して出資することができるようにしているのである。 間接有限責任 社員の地位を「株式」という均等に細分化された割合的単位にしても,それだけでは,ごくごく普通の人は安心して会社に 出資することができない。たとえば,社員が直接無限責任を負っている場合を想定すると,会社債務について会社財産をもっ て弁済することができない場合,自己の全財産をもって会社債権者に対して債務を直接弁済する責任を負わなければならなく なってしまい,株式の引受価額を投資に回す余裕がある者も出資を躊躇してしまう。 そこで,株主の責任を,会社債権者に対して直接責任を負うことなく,株式の引受価額を責任限度額とする間接有限責任と したのである。
第2節 資本金制度
1.総論
〔短答:A 論文:A〕 (1) 資本金の意義 資本金とは,会社財産維持の基準となる計算上の一定の金額をいう。 (2) 資本金制度の趣旨 株式会社の社員たる株主は有限責任を負うにすぎないから(104 条),会社債権者にとっては,会社財産のほ かには債権を回収する際に引き当てられるものは存在しない。そこで,会社債権者を保護するために,資本金 という会社財産維持の基準となる計算上の一定の金額を定め,当該資本金の額に相当する会社財産を維持させ るという資本金制度が設けられているのである。 (3) 資本金の算定方法と公示 ① 算定方法 株式会社の資本金の額は,原則として,設立または株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対 して払込みまたは給付した財産の額とされる(445 条1項)。ただし,例外として,払込みまたは給付に係る 額の2分の1を超えない額は,資本金として計上しないことができる(同条2項)。その場合において,資本 金として計上しない額は,資本準備金として計上しなければならない(同条3項)。 ② 公示 資本金の額は,株式会社の貸借対照表に計上される。それに加えて,資本金の額は株式会社の登記事項と されている(911 条3項5号)。2.資本原則
〔短答:A 論文:A〕 (1) 資本充実の原則 ① 意義 資本充実の原則とは,資本金の額に相当する財産が現実に会社に拠出されることを要請する原則である。 ② 具体的な規制 (ⅰ) 資本金の算定 株式会社の資本金の額は,原則として,設立または株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に 対して払込みまたは給付した財産の額とされるため(445 条1項),資本金の額に相当する財産は,現実に 会社に拠出されていることとなる。 (ⅱ) 全額払込み・全部給付制度 設立または株式の発行の場面において,株主となる者は,その出資に係る金銭の全額の払込み,または, 金銭以外の財産の全部を給付しなければならない(34 条1項,63 条1項,208 条1項2項)。 (ⅲ) 払込取扱機関における金銭出資履行の強制 設立または株式の発行の場面において,金銭出資の履行は,払込取扱機関において行うことが強制され ている(34 条2項,63 条1項,208 条1項)。このように,第三者機関における出資の履行を強制するこ とにより,払込みの確実性を確保しているのである。 (ⅳ) 預合いの規制 預合いをした取締役等には預合罪が科される(965 条)。また,預合いに応じた者は応預合罪が科される (965 条)。 (ⅴ) 現物出資に対する検査役の調査 設立または株式の発行の場面において,現物出資をする場合は,原則として,裁判所に対し,検査役の 選任の申立てをしなければならない(33 条1項,207 条1項)。参 考 (ⅵ) 現物出資の不足額填補責任 現物出資財産の価額が著しく不足する場合は,発起人,取締役等に不足額填補責任が課せられている(52 条,103 条1項,213 条)。 (ⅶ) 出資の履行を仮装した場合の責任 出資の履行が仮装された場合は,株式引受人,発起人または取締役等に払込みを仮装した出資に係る金 銭の全額の支払責任等が課せられている(52 条の2,102 条の2,103 条2項3項,213 条の2,213 条の 3,286 条の2,286 条の3)。 立案担当者の見解 株式会社においては,株主が現実に出資した財産に基づいて資本金の額が決定されるので(445 条1項),伝統的な意味で の資本充実の原則は,会社法では採用されていないというのが立案担当者の見解であるが,資本金の額に相当する財産が現実 に会社に出資がされているという意味で,資本充実の原則が実現されていると考えている。 (2) 資本維持の原則 ① 意義 資本維持の原則とは,資本金の額に相当する財産を現実に維持することを要請する原則である。 ② 具体的な規制 (ⅰ) 財源規制 剰余金の配当等による会社財産の社外流出は,分配可能額の範囲内でのみ行うことができるという財源 規制が設けられている(461 条,446 条)。 (ⅱ) 準備金の積立ての規制 剰余金の配当をする場合には,株式会社は,資本金額の4分の1に達するまで,当該剰余金の配当によ り減少する剰余金の額に 10 分の1を乗じて得た額を準備金として計上しなければならない(445 条4項)。 (ⅲ) 出資の払戻しの禁止 株式会社においては,出資の払戻し(資本金を原資として会社財産を株主に返還すること)は禁止され ている。
参 考 参 考 立案担当者の見解 会社財産は日々変動するものであり,これに合わせて資本金の額の評価替えがなされるわけでもなく,また,株主に追加の 出資義務を課すわけでもないので,「資本金の額に相当する財産を現実に維持することを要請する原則」とされる資本維持の 原則は存在しないとするのが立案担当者の見解である。 しかし,資本金制度は,株主に対する出資の払戻しを禁止し,資本金の額に相当する財産について債権者の株主に対する優 先的地位を与えることにその本質があることから,「資本金の額に相当する財産が現実に会社に維持されていない場合には, 剰余金の配当等をすることができない原則」と定義すれば,資本維持の原則は,会社法において実現されていると考えている。 (3) 資本不変の原則 ① 意義 資本不変の原則とは,会社が自由に資本金の額を減少することができないとする原則をいう。 資本維持の原則は,資本金の額を基準として会社財産の維持を図るものであるから,この基準となる資本 金自体の減少が自由に許されるならば,それに伴い会社財産の減少も許してしまうことになる。そこで,資 本維持の原則を無意味にしないために,資本不変の原則が必要となる。 ② 具体的な規制 (ⅰ) 株主総会の特別決議 株式会社が資本金の額を減少させる場合には,原則として株主総会の特別決議が必要となる(447 条1 項,309 条2項9号)。 (ⅱ) 債権者異議手続 株式会社が資本金の額を減少する場合には,当該株式会社の債権者は,当該株式会社に対し,資本金の 額の減少について異議を述べることができる(449 条)。 (ⅲ) 資本金の額の減少無効の訴え 資本金の額の減少手続に瑕疵がある場合には,株主等,破産管財人または資本金額の減少について承認 しなかった債権者は,資本金の額の減少無効の訴えを提起することができる(828 条1項5号,2項5号)。 資本確定の原則の不採用 旧商法下では,① 資本充実・維持の原則,② 資本不変の原則,③ 資本確定の原則の3つの原則が資本三原則といわれて いた。そのうち,③ 資本確定の原則は,会社法下では採用されていないのが明らかである。 資本確定の原則とは,株式会社の設立または株式の発行の際に,定款に定められた資本金の額または増加資本金の額に相当 する株式全部の引受けがなされなければならないという原則である。これは,あらかじめ定めた資本金の額または増加資本金 の額に相当する資金拠出者が得られない限り,設立または新株の発行の効力を否認して,無責任な設立または増資がなされる ことを防止しようとしたものである。しかし,会社法下では,資本金の額は定款の絶対的記載事項とされておらず,その代わ り,定款には,「設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(27 条 4 号)」が記載され,その「最低額」以上の出
参 考 資がなされているときは,設立が認められる。また,会社成立後の募集株式の発行等の場面においても,発行予定株式数の 全部について引受けがなくても,引受けおよび払込みがあった部分について募集株式の発行等の効力が生じるものとしている (208 条 5 項,209 条) 。 最低資本金制度の廃止 旧商法下では,株式会社の資本金の額は 1,000 万円(有限会社については 300 万円)を下ってはならないという最低資本金 制度が導入されていた。すなわち,旧商法下では,株式会社を設立する際には,1,000 万円以上の出資金額が必要だったので ある。 しかし,会社法下ではこの最低資本金制度は廃止された。これは,設立時から当該最低資本金額の拠出を要求することは, 起業の妨げになるという批判があったためである。しかし,会社債権者保護の観点より,株式会社の純資産額が 300 万円を下 回る場合には,剰余金の配当はできないこととされている(458 条)。 また,出資額は1円以上であることが必要と解されているが,資本金の額は,出資額から設立費用等を差し引いて定めるこ ととされているため,設立時の資本金は0円となることもある(会社計算規則 43 条1項)。そして,出資額から設立費用等を 差し引いた金額がマイナスになる場合は,その他利益剰余金がマイナスとなる(会社計算規則 43 条4項)。 【資本原則】 資本充実の原則 資本金の額に相当する財産が現実に会社に拠出されることを要請する原則 【具体的規制】 (ⅰ) 資本金の算定 (ⅱ) 全額払込み・全部給付制度 (ⅲ) 払込取扱機関における金銭出資履行の強制 (ⅳ) 預合いの規制 (ⅴ) 現物出資に対する検査役の調査 (ⅵ) 現物出資の不足額填補責任 (ⅶ) 出資の履行を仮装した場合の責任 資本維持の原則 資本金の額に相当する財産を現実に維持することを要請する原則 【具体的規制】 (ⅰ) 財源規制 (ⅱ) 準備金の積立ての規制 (ⅲ) 出資の払戻しの禁止 資本不変の原則 会社が自由に資本金の額を減少することができないとする原則 【具体的規制】 (ⅰ) 株主総会の特別決議 (ⅱ) 債権者異議手続 (ⅲ) 資本金の額の減少無効の訴え
参 考
第1節 機関総説
1.機関の必要性
〔短答:C 論文:B〕 会社は,法人とされるため(3条),自然人と同様に権利義務の帰属主体となりうる資格を有している。しか し,会社は,実体を有する自然人と異なり,観念的存在,すなわち実体が無く人々の意識の中に存在するに過 ぎないため,自ら意思決定をし活動することはできない。そこで,一定の自然人(取締役等)または自然人に より構成される会議体(取締役会等)のする意思決定や活動を会社自体の意思決定や活動と認める必要がある。 このように,会社の意思決定や活動をする者として法により定められている自然人または自然人により構成 される会議体を会社の機関という。 自然人と会社の相違(意思決定・活動) 自然人は,自らの頭を使って意思決定をして,自らの肉体を使って活動をする。これに対して,会社は観念的存在に過ぎ ないため,頭もなければ肉体もなく,自ら意思決定をし活動することができない。そこで,会社の代わりに意思決定や活動 をする自然人や自然人による合議体である「機関」が必要となるのである。補 足
2.定義
〔短答:B 論文:B〕 定義 公開会社 その発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会 社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう(2条5号)。 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう(2条6号)。 ① 最終事業年度にかかる貸借対照表(※)に資本金として計上した額が5億円以上であるこ と ② 最終事業年度にかかる貸借対照表(※)の負債の部に計上した額の合計額が 200 億円以上 であること 取締役会設置会社 取締役会を置く株式会社または会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会 社をいう(2条7号)。 会計参与設置会社 会計参与を置く株式会社をいう(2条8号)。 監査役設置会社 監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の 定めがあるものを除く)または会社法の規定により監査役を置かなければならない株式会社を いう(2条9号)。 監査役会設置会社 監査役会を置く株式会社または会社法の規定により監査役会を置かなければならない株式会 社をいう(2条 10 号)。 会計監査人設置会社 会計監査人を置く株式会社または会社法の規定により会計監査人を置かなければならない株 式会社をいう(2条 11 号)。 監査等委員会設置会社 監査等委員会を置く株式会社をいう(2条 11 号の2)。 指名委員会等設置会社 指名委員会,監査委員会および報酬委員会(指名委員会等)を置く株式会社をいう(2条 12 号)。 ※ 会計監査人設置会社の特則の要件(439 条前段)に該当する場合にあっては,同条の規定により定時株主総会に報告され た貸借対照表をいい,株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては,会社成立の日における貸借対照表(435 条1項)をいう。 取締役会設置会社の定義の補足 〔短答:C 論文:C〕 取締役会設置会社は,「取締役会を置く株式会社」または「会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会社」 をいう(2条7号)。ここで,前半の「取締役会を置く株式会社」とは,現に取締役会を置いている株式会社のことを指す。 これに対して,後半の「会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会社」とは,会社法の規定(327 条1項) により本来は取締役会を置かなければならない株式会社が取締役会を置いてない場合の当該株式会社のことを指す。 これは,監査役設置会社(2条9号),監査役会設置会社(2条 10 号)および会計監査人設置会社(2条 11 号)において も同様である。 なお,会計参与,監査等委員会および指名委員会等については,設置が強制されることがないため,現にそれを置いてい る株式会社のみが,会計参与設置会社,監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社である(2条8号,11 号の2, 12 号)。補 足
3.機関設計
〔短答:A 論文:A〕 (1) 機関設計における株式会社の4分類 株式会社は,公開会社であるか否か,大会社であるか否かという観点から,① 公開大会社,② 公開非大会 社,③ 非公開大会社,④ 非公開非大会社の4つに分類することができる。 (2) 機関の設置 会社法では,すべての株式会社に設置を義務づけているのは株主総会と取締役のみであり(295 条,326 条 1項),それ以外の機関(取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人,監査等委員会および指名委員 会等)については,一定のルールを設けたうえで,定款で定めることにより設置することを認めている(326 条2項,327 条,328 条)。 機関設計のルールの全体像 〔短答:B 論文:A〕 公開会社は,株主が頻繁に変動し無個性であることが想定される。また,大会社においては,その規模が大きいことから, 会社債権者等の利害関係者が多数存在することが想定される。したがって,会社法は,株主や会社債権者といった利害関係 者を保護するために,これらの会社の機関設計について,一定の厳格なルールを設けているのである。 これに対して,公開会社でも大会社でもない株式会社(非公開非大会社)については,大幅な定款自治の許容により機関 設計の多様化を認めている。 (3) 機関設計のルール ① 公開会社,監査役会設置会社,監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社は,取締役会を置か なければならない(327 条1項)。 ② 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役を置かなけ ればならない。ただし,非公開会社である会計参与設置会社については,この限りでない(同条2項)。 ③ 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役を置かな ければならない(同条3項)。 ④ 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は,監査役を置いてはならない(同条4項)。 ⑤ 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は,会計監査人を置かなければならない(同条5項)。 ⑥ 指名委員会等設置会社は,監査等委員会を置いてはならない(同条6項)。 ⑦ 公開大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役会および会計監査 人を置かなければならない(328 条1項)。 ⑧ 非公開大会社は,会計監査人を置かなければならない(同条2項)。(4) 機関設計のルールの趣旨 ① 取締役会設置義務 (ⅰ) 公開会社 公開会社は,取締役会を置かなければならない(327 条1項1号)。 公開会社においては,株主が頻繁に変動し無個性であることが想定されるため,株主が会社経営にあた ることは困難であり,また,会社経営について自ら参加する意思も能力もないことが多い。そこで,会社 経営の合理化を図ると同時に,株主に代わる会社経営の監督を期待して,取締役会の設置が義務づけられ ているのである。 (ⅱ) 監査役会設置会社 監査役会設置会社は,取締役会を置かなければならない(327 条1項2号)。 業務執行について取締役会を置かないという簡易な機関設計を採用したにも関わらず,監査について監 査役会という複雑な仕組みを置く需要は想定しにくいため,これを認める必要はない。したがって,監査 役会設置会社は,取締役会の設置が義務づけられているのである。 (ⅲ) 監査等委員会設置会社 監査等委員会設置会社は,取締役会を置かなければならない(327 条1項3号)。 監査等委員会設置会社は,取締役会の業務執行者に対する監督機能の強化を目的とする機関設計の株式 会社制度であるためである。 (ⅳ) 指名委員会等設置会社 指名委員会等設置会社は,取締役会を置かなければならない(327 条1項4号)。 指名委員会等設置会社の委員の選定および解職の権限は取締役会にあるなど,指名委員会等設置会社に 関する会社法の規定は取締役会の存在を前提としているからである(400 条2項,401 条1項等)。 ② 監査役設置義務 (ⅰ) 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く) 1 原則 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役を置かな ければならない(327 条2項本文)。 取締役会設置会社においては,業務執行の決定を取締役会が行い,株主総会の権限は制限されている (295 条2項,362 条2項2号参照)。そこで,株主の代わりに取締役を監督する仕組みが必要となるが, 取締役会は,取締役同士の密接な結び付きにより監督機能を十分に果たすことができない。したがって, 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,原則として監査役 の設置が義務づけられているのである。
補 足 2 例外(免除される場合) 非公開会社である会計参与設置会社においては,取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指 名委員会等設置会社を除く)であっても監査役を置かなくてよい(327 条2項ただし書)。 非公開会社の場合,株主が頻繁に変動することは想定しにくいため,株主による監督をある程度期待 することができるし,また,公認会計士や税理士といった資格を有する会計参与が取締役と共同して作 成した計算書類等について,重ねて監査役の監査を要求する必要は少ないからである。 監査役の設置が免除される要件 〔短答:B 論文:C〕 327 条2項ただし書は,取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)であっても,非公 開会社が会計参与を設置する場合は,監査役の設置義務を負わない旨を規定している。しかし,後述するが,大会社は,会 計監査人の設置義務を負い(328 条),会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は, 監査役の設置義務を負う(327 条3項)。したがって,取締役会設置会社が非公開会社であって,会計参与を設置した場合で あっても,当該株式会社が大会社に該当するならば,監査役の設置義務を負うこととなる点に注意してほしい。 (ⅱ) 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く) 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役を置かな ければならない(327 条3項)。 会計監査人と監査役は会計監査業務の面で密接に関係するためである(398 条参照)。また,業務執行機 関からの会計監査人の独立性を確保するためには,監査役が必要不可欠だからである(344 条,399 条等)。 ③ 監査役設置の禁止 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は,監査役を置いてはならない(327 条4項)。 監査等委員会設置会社は監査等委員会に,指名委員会等設置会社は監査委員会に取締役等の職務執行の監 査権限を付与しており(399 条の2第3項1号,404 条2項1号),監査役が存在すると監査権限が重複して しまうからである。 ④ 会計監査人設置義務 (ⅰ) 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は会計監査人を置かなければならない(327 条5項)。 監査等委員会や指名委員会等は,内部統制システムを利用して会社の業務執行に対する監督等を行うも のであるところ,会計監査人が置かれないと,企業の財務報告の信頼性を確保する仕組みの構築が難しく, 監督等を十分に行うことができないと考えられるからである。 (ⅱ) 大会社 大会社は会計監査人を置かなければならない(328 条)。 大会社は規模が大きいことから,多数の株主や債権者等の利害関係者の存在が想定されるため,当該利 害関係人の保護を図る趣旨で,会社の計算書類等の適正性の確保が必要となるのである。
⑤ 監査等委員会設置の禁止 指名委員会等設置会社は,監査等委員会を置いてはならない(327 条6項)。 監査等委員会は,指名委員会等と機能が重複するからである。 ⑥ 監査役会設置義務 公開大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,監査役会を置かなければな らない(328 条1項)。 公開大会社は,多数の株主や債権者等の利害関係者が存在すること,および,株主が頻繁に変動すること が想定されるため,監査役会の設置を義務づけることで,監査体制の強化を図っているのである。
【公開会社における機関設計】 取締役会 監査役 監査役会 監査等 委員会 指名 委員会等 会計監査 人 会計参与 大会社 1 ○ ○ ○ ○ △ 2 ○ ○ ○ △ 3 ○ ○ ○ △ 非大会社 4 ○ ○ △ 5 ○ ○ ○ △ 6 ○ ○ ○ △ 7 ○ ○ ○ ○ △ 8 ○ ○ ○ △ 9 ○ ○ ○ △ 【非公開会社における機関設計】 取締役会 監査役 監査役会 監査等 委員会 指名 委員会等 会計監査 人 会計参与 大会社 10 ○ ○ △ 11 ○ ○ ○ △ 12 ○ ○ ○ ○ △ 13 ○ ○ ○ △ 14 ○ ○ ○ △ 非大会社 15 △ 16 ○ ※ △ 17 ○ ○ △ 18 ○ ○ 19 ○ ○ ※ △ 20 ○ ○ ○ △ 21 ○ ○ ○ △ 22 ○ ○ ○ ○ △ 23 ○ ○ ○ △ 24 ○ ○ ○ △ ※ 定款により,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができる。
・すべての株式会社は株主総会および取締役を置かなければならない(295 条,326 条1項)。 ・公開会社は,取締役会の設置義務が課され,さらに,監査役(監査役会を含む),監査等委員会または指名 委員会等の設置義務も課される(327 条1項1号,2項本文)。 ・大会社,監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は,会計監査人の設置義務が課される(327 条5項,328 条)。 ・公開会社であるか否か,大会社であるか否かを問わず,株式会社は,監査等委員会または指名委員会等を 設置して監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社となることができる(326 条2項)。 ・非公開会社(監査役会設置会社および会計監査人設置会社を除く)は,定款により,監査役の監査の範囲 を会計に関するものに限定することができる(389 条1項)。 ・取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は,原則として監査役の 設置義務を負うが,非公開会社が会計参与を置いた場合は,監査役の設置義務が免除される(327 条2項た だし書)。 ・会計参与は,いずれの機関設計においても任意に設置可能な機関であるが,取締役会設置会社(監査等委 員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)が監査役を置かない場合(327 条2項ただし書)は,会 計参与を置く必要がある(表中 18)。
補 足 補 足
4.公開会社の機関設計
〔短答:A 論文:A〕 (1) 総論 株式会社は,社会に散在する遊休資本を集積し大規模な事業を行うため,株式制度と株主有限責任の原則(104 条)を採用しており,さらに,公開会社にあっては株主が頻繁に変動し無個性であることが想定されるため, 株主が会社経営にあたることは困難であり,また,会社経営について自ら参加する意思も能力もないことが多 い。 そこで,公開会社では,会社経営の合理化を図ると同時に,株主に代わる会社経営の監督を期待して,取締 役会の設置が義務づけられているのである(327 条1項1号)。すなわち,株主は株主総会において会社の基本 的重要事項の決定を行うが(295 条2項),その他業務執行の意思決定については経営の専門家に委ねることで (362 条,363 条1項,399 条の 13,349 条,416 条,418 条,420 条),所有と経営の分離の程度を制度的に進 めているのである。 所有と経営の分離の程度 〔短答:B 論文:A〕 株式会社は,株主が無個性であることを前提としているため,株主に業務執行権はなく,会社経営は取締役または執行役 に委ねられている(326 条1項,348 条1項,363 条1項,418 条等)。したがって,所有と経営が制度的に分離されていると いえる。 そのうえで,公開会社においては,取締役会の設置が義務づけられ(327 条1項1号),さらに,取締役が株主でなければ ならない(株主でなければ取締役となることができない)旨を定款で定めることができないという制限を設けることで,所 有と経営の分離の程度を制度的に進めているのである(331 条2項本文)。また,同様に,公開会社である指名委員会等設置 会社では,執行役が株主でなければならない(株主でなければ執行役となることができない)旨を定款で定めることができ ない(402 条5項本文)。 所有と経営の分離の根拠条文 〔短答:C 論文:B〕 指名委員会等設置会社以外の株式会社における所有と経営の分離の根拠条文については,株式会社において取締役を必置 機関と定める「326 条1項」,業務執行機関を定める「348 条,349 条,362 条,363 条1項,399 条の 13」,および,公開会社 における取締役の資格に関する定款自治の制限を定める「331 条2項本文」が挙げられる。また,指名委員会等設置会社であ れば,執行役を必置機関と定める「402 条1項」,業務執行機関を定める「416 条,418 条,420 条」,および,公開会社にお ける執行役の資格に関する定款自治の制限を定める「402 条5項本文」が挙げられる。 この点,答案に記述する際には,網羅的に挙げることができないため,特に強調したい条文に関して「等」を付して指摘 すればよい。単に,株式会社において,所有と経営が制度的に分離されていることを示したいのであれば,「株式会社におい ては,所有と経営が制度的に分離されている(326 条1項等)」だけでよいだろう。(2) 公開大会社 ① 機関設計の特徴 公開大会社は,多数の株主や債権者等の利害関係者が存在すること,および,株主が頻繁に変動し無個性 であることが想定される。また,公開会社であるため,取締役会の設置が義務づけられており(327 条1項 1号),株主は株主総会において会社の基本的重要事項の決定をするが(295 条2項),その他業務執行の意 思決定については経営の専門家に委ねることで(362 条,363 条1項,399 条の 13,349 条,416 条,418 条, 420 条),所有と経営の分離が制度的に進められている。 したがって,公開大会社においては,多数の利害関係者を保護するために,企業統治(コーポレートガバ ナンス)を最も強化しなければならないため,機関設計について最も厳格なルールが設けられている。 ② 機関設計 (ⅰ) 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外 ・公開会社であるため,必ず,取締役会を置かなければならない(327 条1項1号)。 ・監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社であり,公開会社である ため,必ず,監査役を置かなければならない(327 条2項本文)。 ・監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外の公開大会社であるため,必ず,監査役会お よび会計監査人を置かなければならない(328 条1項)。 (ⅱ) 監査等委員会設置会社 ・監査等委員会設置会社であるため,必ず,取締役会を置かなければならない(327 条1項3号)。 ・監査等委員会設置会社であるため,必ず,会計監査人を置かなければならない(327 条5項)。 ・監査等委員会設置会社であるため,必ず,監査等委員会を置かなければならない(2条 11 号の2参 照)。 (ⅲ) 指名委員会等設置会社 ・指名委員会等設置会社であるため,必ず,取締役会を置かなければならない(327 条1項4号)。 ・指名委員会等設置会社であるため,必ず,会計監査人を置かなければならない(327 条5項)。 ・指名委員会等設置会社であるため,必ず,指名委員会等を置かなければならない(2条 12 号参照)。 (3) 公開非大会社 ① 機関設計の特徴 公開非大会社は,株主が頻繁に変動し無個性であることが想定されることから,取締役会の設置が義務づ けられており(327 条1項1号),所有と経営の分離の程度が制度的に進められているため,株主の代わりに 業務執行を監査する監査役(監査等委員会設置会社においては監査等委員会,指名委員会等設置会社におい ては監査委員会)の設置が義務づけられている(327 条2項本文,4項)。
② 機関設計 (ⅰ) 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外 ・公開会社であるため,必ず,取締役会を置かなければならない(327 条1項1号)。 ・監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社であり,公開会社である ため,必ず,監査役を置かなければならない(327 条2項本文)。 (ⅱ) 監査等委員会設置会社 公開大会社と同様である。 (ⅲ) 指名委員会等設置会社 公開大会社と同様である。
5.非公開会社の機関設計
〔短答:A 論文:A〕 (1) 非公開大会社 ① 機関設計の特徴 非公開大会社は,非公開会社であるため,株主が頻繁に変動することは想定しにくいが,大会社であるた め,多数の株主や債権者等の利害関係者の存在が想定される。したがって,多数の利害関係者の保護を図る ため,会計監査人および監査役(監査等委員会設置会社においては監査等委員会,指名委員会等設置会社に おいては監査委員会)の設置が義務づけられている(328 条2項,327 条3項4項)。 ② 機関設計 (ⅰ) 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外 ・大会社であるため,会計監査人を置かなければならない(328 条2項)。 ・監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外の会計監査人設置会社であるため,監査役を 置かなければならない(327 条3項)。 (ⅱ) 監査等委員会設置会社 公開大会社と同様である。 (ⅲ) 指名委員会等設置会社 公開大会社と同様である。(2) 非公開非大会社 ① 機関設計の特徴 非公開非大会社は,株主が頻繁に変動することは想定しにくく,株主や債権者等の利害関係者も少数であ ることが想定される。したがって,自由な機関設計が認められている。 ② 機関設計 (ⅰ) 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社以外 ・監査役会または会計監査人を設置した場合を除き,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定す る旨を定款で定めることができる(389 条1項)。 ・取締役会を設置した場合であっても,会計参与を設置することで,監査役の設置義務が免除される(327 条2項ただし書)。 (ⅱ) 監査等委員会設置会社 公開大会社と同様である。 (ⅲ) 指名委員会等設置会社 公開大会社と同様である。
補 足