<更新日:2005/8/8> <石油・天然ガス調査グループ:野神 隆之>
原油市場:原油価格が終値ベースで 1 バレル当たり 62 ドルを突破、一方で 2006 年は非
OPEC 諸国で石油供給が相当量伸びるものの、技術及び政治的リスクが影を落とす
(IEA Oil Market Report、米国 DOE/EIA 他) ① 原油在庫、ガソリン在庫及び留出油在庫はともに平年並み水準を維持しておリ、石油市場における ファンダメンタルズとしては依然として供給過剰な状態が続いている。 ② しかし市場では、2005 年に大西洋圏で発生する、ハリケーンを含む熱帯性低気圧が当初予想よりも 多くなりそうであるとの予報が出たことや、米国で製油所故障が相次いだことなどを受け、原油価格 が上昇、8 月 5 日には終値ベースで WTI1バレル当たり 62.31 ドルの史上最高値を記録した。 ③ 市場では、ハリケーン等の米国メキシコ湾への来襲や製油所の故障に起因する石油需給逼迫懸念 が根強く、今後もこれらの要因はもちろんのこと、原油ないし石油製品在庫状況や、イラン新大統領 の政策の展開等政治的な要因などを材料視し、投機筋主導で原油価格が変動していくことになろ う。 ④ 国際エネルギー機関(IEA)をはじめとする各機関の 2006 年石油需給見通しによると、2006 年も 2005 年並みの経済成長を維持すると見られることから、石油需要は着実に増加すると予想されているが、 一方で非 OPEC 諸国における新規油田の生産開始や、既存油田における増産により、需要増加分 のかなりな部分が充足されるものと概ね考えられている。 ⑤ ただ、一方で油田における技術的要因や政治的な混乱に伴い石油供給量が当初予想通り増加しな いかもしれないといったリスク等を抱えていることに留意する必要がある。 1. 原油市場を巡るファンダメンタルズの状況 国際エネルギー機関(IEA)は 7 月のオイル・マーケット・レポートで過去のデータを含めて 2005 年の 石油需要を日量25~55万バレル(四半期当たり、年間では日量41万バレル)下方修正した。一方でIEA は石油供給については前月の予測を殆ど変更しなかったことから、結果として以前と比べてより一層供 給過剰感が強まった(表 1 参照)。また、度重なるハリケーンや熱帯性低気圧の米国メキシコ湾来襲にも 関わらず、米国への原油輸入は高水準を維持し(7 月 29 日の週には日量 1,096 万バレルと記録的な水 準となった)、一方で製油所の稼働率も高水準となったことから、米国の原油在庫、ガソリン在庫及び留 出油(軽油+暖房油)在庫のどれを見ても平年並みの水準(図1、2、3 参照)となっており、この面からも 原油は市場に十分以上に供給されていることが示唆される。
表1 世界石油需給バランスシナリオ(2005年) (単位:日量百万バレル) 1Q 2Q 3Q 4Q 総需要 83.95 81.92 83.72 85.89 非OPEC生産 50.26 50.62 51.02 52.02 OPEC原油生産 28.80 29.31 29.58 29.58 OPEC NGL生産 4.68 4.68 4.82 4.90 総供給 83.74 84.61 85.41 86.50 在庫変動その他 -0.20 2.69 1.69 0.61 注:2005年7月の推定OPEC原油生産量が以降も継続すると仮定 出所:IEA 図1 米国原油在庫推移(2003~5年) 250 270 290 310 330 350 370 1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 百万バレル 1997-2002実績幅 2003-2005 出所:米国エネルギー省 図 2 米 国 ガ ソリン 在 庫 推 移 ( 2003~ 5年 ) 18 0 20 0 22 0 24 0 1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 百 万 bbl 19 97-20 02実 績 幅 2003- 2005 出 所 : 米 国 エ ネ ル ギ ー省
図3 米国留出油(軽油+暖房油)在庫推移 80 100 120 140 160 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 百万バレル 1997-2002実績幅 2003-2005 出所:米国エネルギー省 2. 7 月中旬から 8 月初めの原油市場の推移 しかしながら、原油価格は 7 月中旬から 8 月上旬にかけても WTI で 1 バレル当たり概ね 55~60 ドル 超の水準で推移した(図 4 参照)。この価格を支えたのが、ハリケーン等の天候条件、製油所の故障、イ ランを巡る緊張等であり、またこれらに伴う原油ないし石油製品の供給途絶懸念に乗じた投機資金の流 入であったと考えられる。 図4 原油価格の推移(2 00 3 ~5年) 2 0 2 5 3 0 3 5 4 0 4 5 5 0 5 5 6 0 6 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 2 3 4 5 6 7 8 ドル / バレル WTI B re n t Dubai 7 月10 日前後にはハリケーン・デニス(Dennis)が米国メキシコ湾に来襲したことから、同地域での石油 生産量の約96%に当る日量143 万バレルの生産が停止した他、米国メキシコ湾唯一の VLCC 受入施設 である LOOP(Louisiana Offshore Oil Port、受入能力日量 90 万バレル程度、米国外から VLCC で輸送さ れてきた原油を受け入れたり、小規模タンカーに積み替えたりする機能がある)が2日間程度閉鎖された。 その後ハリケーンが通過した 7 月 12 日においても同地域での総生産量のうちの約 57%(日量約 86 万 バレル)が依然として停止したままであったとの情報や、続いて熱帯性低気圧エミリー(Emily)が大西洋
圏で発生したことから、再びメキシコ湾の石油生産地域が影響を受ける可能性があるとの懸念が発生し たこと、ハリケーン・シンディ(Cindy、7 月上旬に米国メキシコ湾に来襲)により、7 月 5 日に LOOP が閉鎖 され、原油輸入が減少した可能性があることから、原油在庫が減少しているとの予想などを受け、7 月 12 ~13 日には原油価格は上昇、WTI は一時 1 バレル当たり 61 ドル台となった。ただ、ハリケーン・デニス は結局米国メキシコ湾における石油・天然ガス生産施設の中心地域の東側を通過したため、実際の施設 への影響は軽微なものに留まったとの発表があったこともあり、石油供給減少に係る懸念は後退した。ま た7 月13 日に発表された米国の石油統計では、留出油在庫の増加が予想を大幅に上回った(160~200 万バレルの増加予想に対し、実際には 319 万バレルの増加)。また国際エネルギー機関が同日中国を 含めて世界の石油需要を日量 41 万バレル下方修正したことや、熱帯性低気圧エミリーはハリケーンへと 勢力と強めたものの、米国メキシコ湾の石油生産施設への影響は限定的なものになるのでないかとの見 方が広がったことから、一転下落に転じ、7 月 20 日前後には一時 1 バレル 57 ドルを割り込んだ。 しかしながら、7 月 21 日に中国で元を切り上げる決定が下されたことから、短期的には中国の石油購 買力が増大すること、新たな熱帯性低気圧の発生に市場の注目が集まったことから原油価格は反転した。 また、7 月 28 日には米国において BP のテキサス州テキサス・シティ(Texas City)製油所の水素化精製 (Hydrotreating)施設で火災が発生し、当該施設の操業が停止(原油精製処理量が日量 7 万バレル低下 したと伝えられる)したこと(因みに同製油所は 3 月 23 日にも火災が発生し 15 名が死亡した)や、同日 Murphy のルイジアナ州 Meraux 製油所で火災が発生し軽油脱硫装置が操業停止したこと、さらに Valero の St. Charles(ルイジアナ州)及び Corpus Christi(テキサス州)両製油所や Marathon のテキサス・シティ 製油所で改質装置(Reformer)が停止したことなどが重なったことから、石油製品需要に供給が追いつか ないではないかとの懸念が増大し、7 月 30 日には 1 バレル当たり再び 60 ドルを突破し一時 61 ドルに到 達した。加えてイランが自国の核開発計画実施を再開すると表明したことから、それが核兵器開発に繋 がることを懸念する米国との緊張が高まり、結果として石油供給に影響が出るといった不安感が高まった ことや、8 月 2 日には気象予報機関が 2005 年のハリケーン・シーズンにおける暴風雨の発生について、 当初予想を上回る 21 個の熱帯性低気圧が発生しそのうち 11 個がハリケーンになる(平年は 6 個のハリ ケーンを含む 10 個の熱帯性低気圧が発生)との予報が発表されたこと等の要因により、原油価格が高騰、 8 月 3 日の取引時間中に 1 バレル当たり 62.50 ドルの史上最高値を記録した。その後も製油所故障と熱 帯性低気圧(ないしハリケーン)発生による米国での石油製品供給懸念が根強く、それが原油価格にも 影響し、1 バレル当たり 60~62 ドル台で推移していたが、8 月5 日にはベネズエラ国営石油会社PDVSA の本社建物近くで爆発があったことなどを受け、1 バレル当たり 62.31 ドルで取引を終了、終値ベースで の史上最高値となった(なお、8 月7 日の時間外取引では 1 バレル62.69 ドルと史上最高値を更新した)。 他方 OPEC のアハマド議長は原油価格の高騰を受け、7 月 8 日に、7 月 9 日から日量 50 万バレルの
追加増産に係る OPEC 加盟国との協議を再開する旨表明したが、現在に至るまで追加増産に係る決定 は下されていない。OPEC 加盟国の中には次回総会(9 月 19 日にウィーンにて開催予定)まで追加増産 に係る決定は下されないのではないかとの見方も浮上している。 3. 今後の見通し 今後も引き続き、原油、ガソリン及び留出油の在庫変動状況(実際には絶対的な水準自体は高いので あるが、例えば在庫減少幅が予想を上回っていた場合、石油製品や原油の価格が上昇するということが ありうる)、IEA や米国エネルギー省、OPEC などによる世界の石油需給見通し、米国等の製油所の稼動 状況、熱帯性低気圧やハリケーンの発生状況や進路、そしてそれに伴う米国メキシコ湾沖合における石 油生産施設や陸上の製油所、LOOP 等の石油受入施設への影響などに左右されよう。ただ、米国のドラ イブ・シーズンに伴うガソリン需要期は通常 9 月上旬までであり、ガソリン在庫に係る市場の関心は徐々 に薄れ、むしろ冬場の暖房油等留出油在庫に対する関心が高まっていくものと思われる。また、OPEC の高水準の石油生産量(2005 年 7 月の石油生産量(原油に一部超重質油等をくわえたものであると考え られる)は 1979 年12 月以来の高水準であるとも伝えられる、なお原油生産量は表2 参照)や製油所の稼 動率上昇もあり、原油や石油製品の在庫水準自体は豊富であるものの、一方で OPEC の余剰生産能力 や製油所の余剰精製能力が減少していることから、ハリケーン等の米国メキシコ湾来襲で同地域の石油 生産活動や精製活動が大きな影響を受けるといった非常時に、冬場に向けて増大していく需要を満た すだけの十分な供給がなされないのではないかいった懸念は市場に根強い状況にある。またイランや ナイジェリア等国内の政情不安や国際的な緊張の高まりに伴い原油等の供給懸念が増大することもあり うる。またイラクをはじめとしてテロ活動等が原油価格に影響を及ぼす場面も考えられよう。 2005年3月16日 からの生産枠 2005年7月1日 からの生産枠 生産枠増加量 2005年6月生産量 2005年7月生産量 原油生産能力 余剰生産能力* アルジェリア 878 894 16 1,350 1,350 1,350 0 インドネシア 1,425 1,451 26 935 935 1,000 65 イラン 4,037 4,110 73 4,000 4,000 4,000 0 クウェート 2,207 2,247 40 2,370 2,380 2,500 120 リビア 1,473 1,500 27 1,650 1,650 1,650 0 ナイジェリア 2,265 2,306 41 2,450 2,480 2,480 0 カタール 713 726 13 790 790 800 10 サウジアラビア 8,937 9,099 162 9,500 9,545 10,500 955 UAE 2,400 2,444 44 2,310 2,365 2,550 185 ベネズエラ 3,165 3,223 58 2,120 2,125 2,200 75 合計 27,500 28,000 500 27,475 27,620 29,030 1,410 *:2005年6月の原油生産能力が2005年7月も継続したと仮定、但しナイジェリアについては7月の生産量水準まで引き上げ 出所:OPEC、IEA他(2005年7月生産量は筆者推定) 表2 OPEC10加盟国原油生産量(日量千バレル)
中国の石油純輸入量は 2005 年の 1~6 月は前年同期比 7%減と 2004 年(前年同期比 55%増)に比 べて著しく低調であった。これは中国政府が国内の石油製品価格を低く抑制しているために精製・販売 業者の精製や販売に係るマージンが低下し、従って原油や石油製品の輸入が減少するとともに国内より も高い価格で販売できる国際市場へ向け輸出が増大していることによるものであり、今後中国政府が国 内価格引き上げを実施(実際 7 月 23 日には中国政府はガソリン小売価格を 6.4%、軽油小売価格を 6% 引き上げた)すれば、7 月 21 日に行われた中国元の実質的な元切り上げに伴う中国の石油購買力増大 と併せ、再び中国の精製業者による大量の石油輸入を引き起こすのではないか、と多くの市場関係者が 予想している。しかし一方元引き上げや中国国内における石油製品価格の引き上げにも関わらず、中国 の石油輸入業者のなかには、例えば原油輸入数量を引き上げるつもりはない(中国連合石油(Unipec) は中国最大の原油輸入業者であるが、今後も原油輸入数量を引き上げる計画はないと伝えられる)とす るところもあるなど、この点においては不透明性がかなりある点に留意する必要がある。なお、元の切り 上げであるが、理論上は短期的には元建ての輸入価格が下落することから石油需要が増大する反面、 中長期的には中国製品の国際競争力を殺ぐことから、経済減速に伴い石油需要を減少させる方向に作 用することになるが、現在のところ 2%程度と極めて低率の切り上げとなっていることから、その効果は当 面限定的なものになる可能性が高い。 一方、米国では原油価格高騰にも関わらず国内経済が好調であり、ガソリンや留出油需要が高水準 であると言われていたことから、投機筋は、原油及び石油製品在庫が豊富にあるにも関わらず、前述し た要因と併せてこれを材料視し、先物市場に資金を投入、結果として原油価格が高騰したものと考えら れる。しかしながら 7 月下旬に米国エネルギー省が 2004 年の石油需要を上方修正したことに伴い、2005 年の石油需要伸び率が相対的に低下したと伝えられることもあり、米国石油需要統計の今後の推移に注 意する必要があろう。 原油価格を予測している機関の原油価格予測を見てみると以前に比べて価格を引き上げているとこ ろが多く、多少のばらつきはあるものの、2005 年後半は概ね WTI で 1 バレル当たり 55~60 ドルと見込 んでいる。 4. 2006 年の石油需要と供給の延び 現時点では 2006 年は 2005 年と同様の経済成長を達成すると予想されている(IMF では「世界経済見 通し」(2005 年 4 月発行)で 2006 年の経済成長は 2005 年(4.3%の経済成長率)並みの 4.4%となると予 想している)こともあり、2006 年の世界石油需要は、どの予測を見ても 2005 年並みか 2005 年を上回る成 長率(量的には日量130~200 万バレル程度、因みに IEA は 2005 年の石油需要増加量を日量158 万バ レルと予想されている)と予想している(図5参照)。特に石油需要の伸びが著しいのは中国をはじめとす
るアジアなどの非 OECD 諸国である。ただ、アジア諸国の一部では既に原油価格高騰が経済成長に影 を落としつつあり、このようなことを考慮すると 2006 年の世界の石油需要はむしろ下振れリスクを抱えて いるものと考えられる。 図5 各機関による20 06 年の世界需要及び非OPEC供給*の増加量の予測 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 I EA EI A O P EC A B C I EA EI A O P EC A B C 日量百万バ レル *:OPECのN GL等生産量、精製による体積増加を含む 出所:各機関発行資料より作成 世界需要 非OPEC石油供給 注:A とB はコ ンサルタント、Cは投資銀行 一方供給は 2005 及び 2006 年において新規の油田生産開始等が相次ぐこともあり、2006 年には非 OPEC 諸国での供給量も相当量増大すると予想される。IEA によれば、石油供給量は英国や米国等で 日量 51 万バレル減少するものの、ロシア(BP-TNK と Lukoil による増産、サハリンⅠプロジェクトにおけ る生産開始、ユガンスクネフチガス(かつてYukosの生産子会社であったが現在はRosneftが保有してい る)による増産等により日量 39 万バレルの石油供給量増加)、カザフスタン(テンギス油田におけるガス 圧入プロジェクトにより日量 7 万バレル増加)、アゼルバイジャン(ACG プロジェクトと BTC パイプライン により日量 12 万バレル増加)、アンゴラ(Kinzoba 等の深海部油田の開発・生産移行により、日量 28 万バ レル増加)、スーダン(Adar/Yale 油田の生産開始により日量 18 万バレル増加)、ブラジル(Albacora Leste プロジェクトにおける Barracuda 及び Carratinga 油田の生産開始等により日量 28 万バレル増加)、 カナダ(Suncor 及び Sincrude といったオイルサンドプロジェクトにおける生産増大により日量24 万バレル 増加)、ノルウェー(日量 6 万バレル増加)等で日量 188 万バレル程度石油供給量が増加すると考えられ ており、非 OPEC 諸国全体としては日量 137 万バレル石油供給が純増する模様である(図 6 参照)。
図6 2 0 0 6 年の石油供給増加構成 ( 非OPEC 諸国) -1,000 -500 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 日量千バレル ロ シ ア アン ゴ ラ ブ ラ ジ ル カナダ スー ダン ア ゼ ルバイジ ャ ン カザフ スタン その他増加 英国 その他減少 出所: I EA 以上のような状況を考慮すると 2006 年は世界石油需要も相当量増大するが、非 OPEC 諸国の石油供 給も相当量増加するものと考えられる。結果として、OPEC 産油国に対する石油供給要求量(所謂 Call on OPEC と言われるもの)は、2005 年から 2006 年にかけて、米国エネルギー省(DOE/EIA)のように日 量100 万バレル程度増加するとの予測もあるものの、全般的には 2006 年の対前年比増加量は概ね限定 的な水準に留まる(図 7 参照)。少々乱暴な議論ではあるが、現在 OPEC の生産能力は IEA の予測によ ると日量 3,150 万バレルであり、仮にその数字を用いた場合、OPEC の生産能力が現在のまま 2006 年ま で全く増加しなかったとしても、世界石油需要を何とか賄える計算になる(なお、一部機関は 2006 年の OPEC の原油生産能力は 2005 年に比べて日量 100 万バレル程度増強されると予測しており、一方 IEA の世界石油需給予測を用いると、OPEC 生産量が 2005 年 7 月の水準を維持したと仮定する場合、2006 年の石油需給は供給過剰となることが予想される、表 3 参照)。
図7 各機関によるOPEC原油生産要求量( Call on OPEC)の予測
2 6 2 7 2 8 2 9 3 0 3 1 3 2
IEA EIA OPEC A B C
日量百万バレル
2005 2006
出所:各機関発行資料より作成 注:A とB はコ ンサルタント、Cは投資銀行
表3 世界石油需給バランス シナリオ( 2 0 0 6 年) ( 単位: 日量百万バレル ) 1Q 2 Q 3 Q 4 Q 総需要 85.72 83.79 85.41 87.56 非O PEC生産 52.32 52.15 52.21 52.89 O PEC原油生産 29.58 29.58 29.58 29.58 O PEC N GL生産 5.04 5.09 5.18 5.26 総供給 86.95 86.82 86.97 87.74 在庫変動その他 1 .2 3 3 .0 3 1 .5 6 0 .1 8 注: 2 0 0 5 年7 月の推定OPEC 原油生産量が以降も継続すると仮定 出所: IEA このように現時点では 2006 年も引き続き世界石油需要に見合うだけの世界石油供給が行われる可能 性が高いとの予想が一般的であるが、一方で、世界石油供給増大に対するリスク要因もかつてに比べて 増大しつつあるとも考えられる。そのようなリスク要因に挙げられるものとして、まず最初に挙げられるの が、技術的リスクである。石油供給予測は世界各国における各油田の生産計画に基づき行われることが 多いが、これはもちろん油田の生産開始が計画通りに行われることを前提としており、例えばそれが技 術的要因等で遅延してしまった場合、その分だけ石油供給低下が起こる可能性がある。例えば BP が米 国メキシコ湾で計画していた Thunder Horse 油・ガス田は 2005 年 10 月に生産を開始する予定であった が、先般来襲したハリケーン・エミリーによって掘削装置が傾いてしまうという事態が発生し、従って生産 開始が当初予定から遅れる見通し(3~6 ヶ月遅延すると伝えられる)となったため、この分だけ 2005 年 (生産開始遅延の状況如何によっては 2006 年も)の世界供給予想は下方修正されことになろう。また、こ れは OPEC 産油国の場合であるが、Shell が開発を推進しているナイジェリアの Bonga 油田についても 2005 年第三四半期から第四四半期へと生産開始が遅延する他、サハリンⅡプロジェクトの石油生産開 始も当初の2006年から2007年へと延期される旨伝えられる(なお、これらのプロジェクトの遅延理由等の 詳細については明らかにされていない)。 次に挙げられるのが、政治的リスクに伴う石油供給低下の可能性である。ベネズエラはチャベス政権 誕生以来、2002 年 12 月から 2003 年 1 月まで実施された PDVSA での大規模ストライキで技術者等を大 量に解雇した結果、同社の技術力等が大幅に低下した他、最近でも石油探鉱・開発に対する投資が不 足している旨指摘されていることに加え、同国で活動する外資企業に追徴課税を通達するなど、同国で の石油生産維持とそのために必要な石油探鉱・開発投資等に関し先行き不透明感が漂っている。またイ ランについても 2005 年7 月に超保守系で強硬派のアフマディネジャド(Ahmadinejad)大統領候補が当選、 同国での石油探鉱・開発事業において国内企業を優先するといった動きが予想されると伝えられている 他、核開発プログラム再開を表明するなど、今後同プログラムに反対する米国との緊張が高まり、それが
石油供給途絶に繋がるといった不安も増大している。イラクにおいても米国がイラク国内でイラク人によ る治安部隊を設立後、米国軍を撤退させるとの情報があるが、設立された治安部隊は同国のシーア派及 びクルド族を統治することは出来ても、スンニ派を統治することは不可能であるとの指摘もあり、その結果 国内が混乱し、それが石油供給に影響することも考えられる。またナイジェリアでも 2007年の大統領選を 控えて政情が悪化しつつと言われている他、部族間紛争に伴う暴動の可能性が依然としてあり、万一暴 動が激化した場合には 2003 年 3 月のように石油供給が低下する恐れがある(因みに、2003 年 3 月の暴 動時には一時日量 80 万バレル超の石油生産が停止したと伝えられる)。 サウジアラビアでは 8 月1 日にファハド国王が死去、即座にアブドラ皇太子が国王、スルタン国防相が 皇太子にそれぞれ就任し、同国の石油生産には何ら影響はなかったが、アブドラ国王及びスルタン皇 太子ともに高齢で、しかもスルタン皇太子以降の王位継承については不透明な部分があり、この点にお いて国内が混乱する要素が存在する。ロシアやカザフスタンも国外企業に対する投資環境が懸念され ており、外資を中心とした石油探鉱・開発投資が抑制され、それが石油供給低下に繋がる恐れがある。 このように技術的及び政治的リスク要因が多数存在することから、今後世界の石油供給量も状況によ って下振れするリスクを抱えており、世界の石油供給を考える際には、以上のようなリスク要因を踏まえ つつ、適宜見通し等を修正していく必要性があるという点に注意が必要である。 さらに、今後考慮しておく必要がある事項として、精製部門での問題が挙げられよう。非 OECD 諸国を 中心として、今後輸送部門における石油需要が増大していくと予想されることから、ガソリンや軽油といっ た軽質石油製品をより多く生産しなければならなくなってくると思われるが、世界の製油所がそのような 消費者側からの要求に円滑に応えることが出来るかどうかという点については不透明な部分が残ってい ることも否定できない。このような精製部分を通じた石油製品需給上のミスマッチが生ずると軽質石油製 品価格が高騰し、それが原油価格に影響するといった事態も考えられよう。さらに米国を中心として最近 精製設備が老朽化し、故障等が頻発しているとの指摘もあり、この点についても石油需給、そして石油製 品及び原油価格上のリスクと言うことができるかもしれない。