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A Reprint and Bibliographical Introduction to ‘Horai-no-Makimono’ ,a

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(1)

1

イ リ ノ イ 州 立 大 学 附 属 図 書 館 蔵 『 蓬 莱 の 巻 物 』 の 翻 刻

並 び に 解

勝 俣 隆

A Reprint and Bibliographical Introduction to

‘Horai-no-Makimono’ ,aMedieval Tale Housedin

Urbana-Champaign Collectionat the Library ofthe

University of Illinois

Takashi KATSUMATA

翻 刻

凡 例

一 、

この翻刻は、アメリカ合衆国のイリノイ州立大学附属図書館貴

重書図書館が所蔵する中世小

蓬莱絵巻

』 (

、 上

巻のみで下巻

欠)の全丁を、原本に基づいて出来る限り忠実に翻刻したものであ

る。

二、翻刻に当たっては、次の方針に拠った。

①漢字・仮名の区別を初め、仮名遣い・宛字唐は、すべて弁ぽん通

りに活字化した。

②従って、漢字の字体は、原本における使用例に従って、旧字体あ

るいは、略字体を使用した。

③誤字・脱字などは、原本のまま記し、特に問題のある場合のみ、

その右側に括弧を付して、細字で注記を加えた。

④本文には

、句

読点を施したが

、濁

音表記は付さなかった

。従

って、

翻刻本文中にある濁音表記は

、原

本に既に付されていたものである。

(2)

2

⑤会話

・ 独

・ 心

中表現とも、原則つぃて

、 『

』 を

付けて示した。

⑥「

く 」

「ゝ」等の踊り字の符号は、原本通りのものを用いた。

⑦本書には、挿絵が五図ある。末尾に縮小して掲載した。

⑧本書は巻子本なので、丁数は示していない。代わりに、一行ごと

、「

」」

のカギ括弧を付けて、行の様態が分かるようにした。その

間隔が狭い部分が集まっている箇所は、いわゆる散らし書きの部分

である。

翻 刻 本 文

蓬莱の巻物

むかしか今にいたるまて、めてたきた」めしにいひつたへ侍へる事

かす

お」ほき其中に、ことにすくれてきとく」なるは、不老 不死

のくすりとて、老たる」かたちを引かへし二たひもとのすかた」と

なし、もとよりわかきともからは、よ」はひをのへて、いつまても

かはらぬ色は

、」

や松のみとりのすゑなかく

、 た

」 も

つ命はか

さりもなし。そも

この」くすりのいつるところをたつぬれは

、」

蓬莱山 にありといふ。しかるに、この山は大海のうちにありて、も

」 仙

人のあつまりすむところなり

。 あ

」 ひ

はこの山を藐

の山とも名つけたり。もろこしのいにしへ五帝 には」第四にあた

らせ給ふ唐堯 と申す」みかと、みつからこの山にみゆきして」四人

の神仙 にあひ給ふ。仙人大によろこ」ひて、不老不死の薬をたてま

つり侍りけり。唐堯すてに都に帰り給ひつゝ、人にほとこしあたへ

んとおほし」めしけれとも、此みかと申すは、これ上」代の聖人

り。五常のみちをたゝし」くして、天理のまことをたうとひつゝ、

(3)

3

人にをしへて

、世

をおさめ此みちをつた

」へ

給ひ

、す

ゑの世まても、

たえさじと」常に心にかけ給ふ。もし此くすりを」人にあたへ、よ

はひ久しく命つきす」は、このくすりをたのみとして、ほしゐまゝ

に世をみだし、五常の道をわす」れては、天理のまことをやふるへ

し。しからは國家もみたれつ、世のしつまる」事あらしと、兼てよ

り、すゑの世を」ふかくおもひ、とをくはかりて、不老不死のくす

りをは、世にひろめ給はす、箱」の内にかくしつゝ驪 といふ山の

内」にうつみをかせ給ひけり。そのくす」りの徳故に、山中大にう

るほひて

、」

木はなはたさかえたり

。又

此くす

」り

の箱 の上には黄精

といふ草生たり

。後

の世の仙人この草をとり得て丹

」を

ねりて服

とかや。長生

不死の」薬草にて、今の世まても黄精は命を」やしな

ふ三百六十種 の草木の中 (赤木、第一 「の」アとす。

(挿絵第一図驪山に埋めた不老不死の薬から黄精という草が生え、

仙人がこの草から丹薬を錬って服す場面)

しかるに、かのほうらいさんと申すは」これより南海 にむかつて三

万餘里

」の

はたうをへて

、そ

の次の大かいをは

」溟海と名つけたり。

水の色くろにして、ふかき事かきりなし。このゆへに」黒海 とも名

つけたり。風吹事なけれ」とも、なみつねにたかくあまり (赤、「かり」)まん

として、たゝへたれは、雲のなみ、けふ」りのなみ、そのたかさ百

餘丈日夜に」さらにやむときなし。世の常の事」には、舟もいかた

も、かよふ事なけれ」は、人間 なかくへたゝりぬ。天仙神力」のと

もからのみ心にまかせてわたる」故に、又はこの海を天池とも名つ

く」とかや。かのめいかいをわたる事又三」万里をうちすきて、ほ

(4)

4

うらいさんの」きしにいたる。この山はじめてあら」はれしそのい

にしへをあんするに、我」てう神代のそのかみ、もろこし三皇」の

第一伏羲 の御ときに大海のそこに六の亀これあり。年をかさね

、」

こうをつみて

、 そ

の大さ一万里なり

。」

るとき

、 六

の亀ひとゝころ

にあつ」まり、海中にたゝよふところの大山」を甲 にのせて、さし

あけたり。もと」より、この山は、もろ

の寶のあつま」りたりし

せいなれは、きれいみめう」の名山なり。なみうちきはの岸 より」

も岸の岩まにいたるまて

、水

しや

」の

のうへに

、め

・ こ

はく・

金銀

」白

玉いろ

の玉のひかり

、さ

なから光

」み

やうかくやくたり。

かくて、年をふる」まゝに、草木おほく生出たり。その」草木のあ

りさま、さらに人間世界の」たねにあらす。花咲みのるよそほ」ひ

色といひ、匂ひといひ、又あちはひのうるはしきは、心もこと葉も

及は

」れ

。上

にはほん天の大くわほうのとくをうけ

、下

には龍宮

へんけ無方 」の所よりあらはれ出し山なれは、なじ」かは、この世

にたくひあらん。そのゝち」あやしきけたもの、めつらしき鳥」か

に生産

す。角のかたち、毛の」色、つはさのよそほひ、鳴さえ

つるこ」ゑ、をのつから天地五行の徳にしたか」ひ、五のてうしみ

たるゝ事なし。我朝」神代のいにしへ、天せう太 (赤、「太神のあまの」いは

戸にとちこもらせ給ひしかは

、」

のうち常闇 の夜となりにけり。そ

のとき八百万 の神たち岩戸の」まへにして、これをなけき給ひて、

い」かにもして、二たひ太神を岩戸より」出し奉らんと、さま

かりことをめ」くらし給ふ。爰に思兼

のみことゝ申す」御神あり。

とをくおもひふかくはかりて

、」

あまの香 久山 のまさかきをねごし」

にして

、上

の枝にはかゝみをかけ

、下

」の

えたには

、し

らにぎ

にぎてを」かけ給ひ、庭火をたき神 をそうし」

(5)

5

挿絵第二図(天の岩屋戸の前での神楽の場面)

給ひけり。又はかりことをめくらして、常世の國よりも長鳴 をも

と」めよせて、岩戸のまへにてなかせら」れしに、太神の御心なた

まらせ給ひて

、」

二たひいは戸を出させおはしましけり

。」

されは、

常世の國といふは、ほうらいさん」の事なり。なかなきとりと申す

、」

れ庭とりの事也

。こ

のとり

、世

の中

」に

おほき物にて侍れは、

人さらに」めつらしからすおもへとも、あかつきこと」の時をたか

へす八こゑをとなふるそ」のきとくは、又よの鳥にくらへかたし

。」

まことに仙境

の名鳥なれは、神世に」も猶もてなし給ひ、いまにつ

たへてや」しろ

に、庭とりは飼 給へりける (赤木、ナシ)。又すいにん天皇の

御とき、田道間守」といふ臣下に仰せて、常世の國の香菓 をもとめ

させ給ふに、まもりすなは」ち勅 ちよめいをうけたまはり、常世の國」

にゆきむかふて、かくのみをもとめ得て」みかとにこれをたてまつ

りき。か」くのみと申すは、今我てうに植とゞ」めて目出度ものに

もてはやす橘 たち

」 の

事なり

。 右

近衛の陣のまへに

」 た

ちはなを

」 う

らるゝ」も」このゆへと」聞え」たり

。」

挿絵第三図(田道間守が常世の國の香菓 (橘)を献上する場面)

しかるに

、 こ

れより天上に太淸宮

」・

玄宮 ・太 眞宮 なとゝて

、 そ

かみ

」世

界はしまりしそのいにしへより

」こ

のかた

、長

不死の大仙

天帝 」の都あり。この内にすみ給ふ天仙 ・」飛仙 のともから、は

るかにこの山を見」そなはし

、 『

れしやう

のれい地也

。』

」 と

て、

(6)

6

あるひはめいかいのなみをふむ」事、陸地 をゆくかことく、あるひ

は蒼

の空をかける事とりのとふかこ

」 と

くに

、 天

上よりあまく

たり此山に」すみたまへは、十方諸國の仙人も」みなこの山にゆき

かよひて、たのし」みをきはむとかや。かゝりけれは、天仙」ひせ

んの神力によりて

、宮

殿 ろう

」か

く重々 にして七寶をちりはめ

」つ

ゝ、

をのつから出生せり。十二の玉ろ」う九重 の玄室 、ひたりには瑶

池あり

。」

右にはみとりの泉 いつみあり。池のうちには

、」

五色 の魚 あり。

其外になを方 ・員岱 ・閬風 ・玉圃 とて

、 宮

殿 をならへ

、」

楼観た くは

る木をきしれり。又溟 の」の波の内に大蜃 のはまくりありて

、」

をはく。その氣にしたかふて、五色の」雲そらにたなひき、雲の

うへに三つ

」 の

宮殿 あり

鳳のいらかたかくそひえ

、」

虹のうつはり

なかくわたかまれり。すへ」てあらゆるくうてんろうかくごんしや

う」きれいいふはかりなし。めなうのはし」ら・こはくのなけし・

さんこのらんかん」黄金 のたる木・しやこのすたれには眞 」珠 のや

うらくをかけ、すいしやうの戸・」たいまいのかき・瑠璃 のかはら

をならへた」り。らんじや・沉 の香 のにほひ、とこし」なへにし

て、絶る事なし。庭には金銀」のいさこをしき、池には八徳の水を

たゝへ」たり。池のみきはには、ほうわう・くじやく・」かれうひ

ん其外色音 もめつらかなるも」ろ

の鳥あつまりつゝ羽 さきをな

ら」へて、さへつるこゑきくに心そすみ」わたる。さきみたれたる

花の色、なり」こたれぬる菓 このみの匂ひ四方にくんじ

、」

かゝやきて、

たくひは更にあるへからす

。」

もろ

の仙人、花にたはふれ、水に

あ」そひ、樂 をそうし舞 をなし、四しゆの」肉

・ 五

の更

火棗・

を食 しよくとし

、」

玉醴

・金漿

の天上のこんずの酒、たま」のさかつ

きをかたふけ、たのしみにほこる」有さま、たとへむかたはなかり

(7)

7

けり。

挿絵第四図(大蜃が気を吐いて楼閣が出現する場面、並びに、鳳凰

や迦陵頻 が飛び回る図)

又ひとつのうてなあり。栢梁臺

と名」付たり。高さ五丈のはたほこ

のうへに」白かねのばんありて、天子にむかふてさ」さげたり。秋

の夕の白露を盤 の中に」うけとゝめて、これをねるに、糖 となる

。」

これをもちひて、煉 の君 とせり。又青 とて雪霜まても、

」こ

ろからに命をのふるくすりとなる

。」

ひとつのくうてんあり。

七ほうをちり」はめて二重に軒をかまへたり。のきの」上にがくあ

り。長生殿と打たり。御殿 」のまへに門あり。門のがくには不老門

と」かきたりけり。殿のまへには白 大椿 をうへ」たりけり。八千さ

いを春とし八千歳を」秋とすとしるしたり。ちきりのふかき」たと

へにも八千世をこめし玉つはき、かは」らぬ色とよみたりける。哥

の心もこれ」そかし。かの長生殿のうちには不老不死」のくすりあ

り。これ天帝のおさめ給」ひしところ也。こかねのうてなの上」に、

るりの壺 にいれ給ひ

、 前

にはもろ」

の花をそなへ

、 常

にめいかう

をた」きつゝ、八人の天仙日夜に番をつとむれ」は、門には又、十

六人のきじんありて」かたくこれをまもるとかや。このくすり」の

にほひ

、あ

まねく四方にくんしつゝ

、」

路をさして

、さ

かのほれは、

空に」は五しきの雲たなひき天人常に」やうかうす。此くすりをぶ

くすれは、か」たちいつもわかやかに、よはひかたふく」こともな

、命

もさらにかきりなし

。」

れはもろこしの麻 と云仙人はその」

かみ継母 のさんけんによつて年十五」と申せし時、父母の家をにけ

(8)

8

出て山に」こもりし女なり。をのつから仙術をさと」りえて、ほう

らいさんにいたりつゝ」不老不死のくすりをなめたり

。」

れより三

百餘さいの後、張 ちやう重花 といふ人に

挿絵第五図(麻 が張 ちやう重花 に出遭った場面

。)

山中にして」ゆきあひ」つゝ」むかしの」事をかたり」ける。其時

の」かほかたち」更にむかしに」たかは」すと也」

解 題

平成一八年九月一日から八日まで、日本学術振興会科学研究費補

助金に拠り海外に所蔵される中世小説(お伽草子・室町物語)関係

の伝本を調査するため、米国を訪れ、イリノイ州立大学附属図書館

Library of the University of Illinois at Urbana-Champaign )の 貴重書図書館(Rare Book and Manuscript Library )において、古

典籍の調査をした

。そ

の時閲覧した中世小説の中で

、と

くに注目し、

翻刻をして紹介したいと思っていた「蓬莱の巻物

」(

蓬莱物語)を、

ここに紹介する。

丸付きの数字の意味は、次の通りである。①写本・版本の区別。

②所蔵者整理書名。③所蔵者整理番号。④外題。⑤内題。⑥刊写年

保存状態

保存形態

表紙の生

・ 色

・ 模

見返し。

⑪料紙。⑫装丁。⑬数量。⑭表紙寸法。⑮字高または匡郭。⑯表紙

以外の紙

遊紙の丁数

)。

本文の行数

絵の状態・数量

(9)

9

の他(奥書・蔵書印・入手の経緯、気づき等

)。

① 写本

② 蓬莱の巻物(Horai no Makimono

xPL790.H6

④ 「蓬莱の巻物

」(

題箋、16.0

× 3

.2糎

)(

原装・単郭・

墨書・左肩

)。

なお、閲覧時

、「

蓬莱の巻物」の「蓬」の字の部分

が剥落していたので、担当者に知らせておいた。

⑤ なし。

⑥ 近世前期。

⑦良好。

⑧ 桐箱(40.5

× 8

.0

× 7

.6糎)入り。但し、この桐箱

自体は、大学が用意した新しいものと推測される。

⑨ 深緑色の布地。但し、退色が著しい。金襴花唐草模様。

⑩ 金網目。

⑪ 鳥の子。料紙は金泥で草花模様等を描いた美麗なもの。

⑫ 巻子本。奈良絵巻。

⑬ 一巻

。(

上巻のみで

、 下

巻はなし

。)

⑭ 33.4

× 9

62.6糎(他に軸の直径2.7糎。桑の木製)

⑮字高26.5糎。

⑯ 継紙は、見返し以外に二〇枚ある。25糎前後四枚。50糎

前後十三枚、93糎前後二枚。軸装の余り部分3.3糎一枚。

⑰ 一行15字程度。

⑱ 全5図。内容については、後述する。

⑲ イリノイ州立大学の所蔵本は、Joseph Koshimi Yamagiwa

(一九〇六~一九六八

) の

旧蔵であったものが多い

。 氏

、 ミ

(10)

10

ガン州立大学の東洋言語部門の教授で、堤中納言物語や平治物語

の英訳(Edwin O.Reischauer 氏との共著もある。第二次世界大

戦中は、約一五〇〇名の米兵に日本語教育を施した人物でもある。

但し、氏の旧蔵書には

、「

J.K.YAMAGIWA 」の所蔵印【紫】があ

るはずだが、本書には、それが見あたらないので、YAMAGIWA

氏の旧蔵書でないかも知れない。

本書は、中世小説『蓬莱物語』の一本である。本書には、次のよ

うな伝本がある。

①赤木文庫旧蔵絵巻二軸

。(

室町時代物語大成巻十二』所収

②京都大学文学部美学研究室蔵奈良絵本二帖

(『

室町時代物語集』

第五

、『

近古小説新纂』所収)

③ベルリンアジア美術館蔵本奈良絵巻二軸

(『

西ベルリン本お伽

草子絵巻集と研究』所収)

④パリ国民図書館蔵奈良絵本二冊

⑤ニューヨーク公立図書館蔵奈良絵本二冊

⑥寛文四年度々市兵衛刊絵入本二冊(天理図書館蔵

。『

室町時

代物語集第五

』『

室町時代物語大成巻十二』所収)

⑦天理図書館蔵写本一冊

⑧実践女子大学蔵奈良絵本横本二冊

これらの諸本の中で、イリノイ州立大学所蔵本の本書は、旧赤木

文庫蔵本と、本文はほぼ同文であるが、微妙な違いがある。

ア、草木の中 (赤木、第一 「の」アとす。

(11)

11

旧赤木は

、「

草木の中の第一とす

。」

イ、なみつねにたかくあまり (赤、「かり」)まん

として

旧赤木は

、 「

みつねにたかくあかり、まん

として」であって、

此の方が本文としては、分かり易い。

ウ、天せう太 (赤、「太神のあまの」いは戸にとちこもらせ給ひしかは、

旧赤木は

、 「 天

照大神の

、あ

まの岩戸に

、と

ちこもらせ給ひしかは

、」

である

。「

の」の有無は、特に優劣には関わらない。

エ、庭とりは飼 給へりける (赤木、ナシ)

旧赤木は

、「

庭鳥はかひ給へり」で

、「

ける」はない。これも、本

文上の優劣はない。

挿絵について

第一図は

、本

文の『驪 といふ山の内」にうつみをかせ給ひけり。

そのくす

」 り

の徳故に

、 山

中大にうるほひて

、」

木はなはたさかえ

たり。又此くす」りの箱 の上には黄精 といふ草生たり。後の世の仙

人この草をとり得て丹

」を

ねりて服 すとかや

。長

不死の」薬草に

て、今の世まても黄精 は命を」やしなふ三百六十種 の草木の中 (赤木、第一 「の」ア

とす。』に対応した部分で、驪 に埋めた不老不死の薬から黄精 が生

え、仙人がこの草から丹 を作り、それを他の仙人たちに示してい

る場面である。

第二図は、『我朝」神代のいにしへ、天せう太 (赤、「太神のあまの」いは

戸にうちこもらせ給ひしかは

、」

のうち常闇 の夜となりにけり。そ

のとき八百万 の神たち岩戸の」まへにして、これをなけき給ひて、

(12)

12

い」かにもして、二たひ太神を岩戸より」出し奉らんと、さま

かりことをめ」くらし給ふ。爰に思兼

のみことゝ申す」御神あり。

とをくおもひふかくはかりて

、」

あまの香 久山 のまさかきをねごし」

にして、上の枝にはかゝみをかけ、下」のえたには、しらにぎて・

青にぎてを」かけ給ひ、庭火をたき神樂をそうし」給ひけり。又は

かりことをめくらして、常世の國よりも長鳴 をもと」めよせて、

岩戸のまへにてなかせら」れしに、太神の御心なたまらせ給ひて

、」

二たひいは戸を出させおはしましけり。』に対応した部分である。こ

こでは、本文通りに、思兼

のみことが、謀を巡らし、神楽を奏して

いる場面が描かれて居る。他には、旧赤木本は、本書とほぼ同じ構

図で、思兼神が描かれている。この場面は、通常、他本では、天宇

受売命が舞を舞う場面になっている。しかしながら、天宇受売命は

本文には登場しないので、思兼

のみことが中心にいて

、「

あまの香

久山 のまさかき」に「かゝみ(鏡

)」

「白にぎて・青にぎて」を付

けて舞っている姿が描かれている本書の挿絵は、その意味で、本文

にかなり忠実であると言えよう。長鳴 も、鳥居の上で鳴いている

様子が描かれている。また、本書は、赤木旧蔵本と似ているが、鳥

居の下に本書では、女性と子供が描かれている点が大きく異なる。

この女性が誰かは問題となるが、一つの可能性としては、天宇受売

命を描いたのかも知れない。もし、そうであれば、天宇受売命が舞

を舞う伝本と繋がりが出てくることになろう。いずれにせよ、本書

は、挿絵と本文の一致が見られるという点で、優れた特長を持つと

言えよう。

第三図は

、 『

又すいにん天皇の御とき

、 田

道間守

」 と

いふ臣下に仰

(13)

13

せて、常世の國の香菓 をもとめさせ給ふに、まもりすなは」ち勅 ちよ

いをうけたまはり、常世の國」にゆきむかふて、かくのみをもとめ

得て」みかとにこれをたてまつりき。か」くのみと申すは、今我て

うに植とゞ」めて目出度ものにもてはやす橘 たち」の事なり

。』

に対応

している。絵では、常世国から田道間守が香実、即ち、橘の実を天

皇に献上している場面が描かれている。勿論、古事記・日本書紀の

田道間守伝説では、田道間守が常世国からトキジクノカクノコノミ

を持ち帰った時に、垂仁天皇は既に崩御していた訳だから、本書の

話は、原話とは異なる。これは、第二図の場面でも、天宇受売命が

登場しないなど、古事記・日本書紀の原話とは異なる内容が描かれ

ているので、本書の独自の表現であろう。なお、中野幸一氏蔵『蓬

莱絵巻』では、枝に四つほど実の生った小さい実を田道間守が捧げ

ているが、本書では、大きな実一つを台に載せて献上している点が

異なる。この場面、古事記の原話では、次のようにある

かれ、多遅摩毛理、つひにその国に到りて、その木の実を採

り、かげ八かげ、矛八矛をもちて、将ち来し間に、天皇すでに

崩りましき。しかして、多遅摩毛理、縵 、矛四 を分けて、

大后に献り、縵 四縵 ・矛四矛をもちて、天皇の御陵の戸に献り

置きて、その木を実を擎げて叫び哭びて白ししく

、 「

世のとき

じくのかくの木の実を持ち参上りて侍ふ」と、つひに叫び哭び

て死にき。そのときじくのかくの木の実は、これ今の橘ぞ。

日本書紀では

、 「

の香

、八

竿八

」と

あるが

、 「

縵 四縵

、矛

」の記述はない。これから考えれば、中野幸一氏蔵『蓬莱絵巻』

(14)

14

で「四つほど実の生った小さい実」が描かれているのは、古事記の

「縵 、矛四 」を意識した可能性がある。中野幸一氏蔵『蓬莱

絵巻』は、天の石屋戸の場面でも、本文にはない天宇受売命を描い

ていて、記紀神話の本文により忠実である。従って、本書は中野幸

一氏蔵『蓬莱絵巻』と違って、記紀の本文ではなく、あくまで本書

の本文により忠実な挿絵を描こうという意志が絵師にあったと推測

出来よう。

第四図は、『又溟 の」の波の内に大蜃 のはまくりありて

、」

はく。その氣にしたかふて、五色の」雲そらにたなひき、雲のうへ

に三つ

」 の

宮殿 あり

鳳のいらかたかくそひえ

、」

虹のうつはりなか

くわたかまれり。すへ」てあらゆるくうてんろうかくごんしやう」

きれいいふはかりなし。めなうのはし」ら・こはくのなけし・さん

このらんかん」黄金 のたる木・しやこのすたれには眞 」珠 のやうら

くをかけ、すいしやうの戸・」たいまいのかき・瑠璃 のかはらをな

らへた」り。らんじや・沉 の香 のにほひ、とこし」なへにして、

絶る事なし。庭には金銀」のいさこをしき、池には八徳の水をたゝ

へ」たり。池のみきはには、ほうわう・くじやく・」かれうひん其

外色音 もめつらかなるも

」 ろ

の鳥あつまりつゝ羽 さきをなら

」 へ

、さ

へつるこゑきくに心そすみ

」わ

たる

。さ

きみたれたる花の色、

なり」こたれぬる菓 このみの匂ひ四方にくんじ

、」

かゝやきて、たくひは

更にあるへからす。』とある部分に対応している。

本文では

、 大

の気が吐いた五色の雲の上に

、 「

つの宮殿

」 が

ることになっているが、挿絵では、五色の雲の上には、二つの宮殿

しかない。本書の構図は、旧赤木とほぼ同じ構図である。一方、中

(15)

15

野幸一氏蔵『蓬莱絵巻』では、本文通り、三つの宮殿が描かれてい

る。どうしてこうなったかというと、本書の絵師は、この蜃気楼と

は別に、左側に亀の背に乗った蓬莱山が描かれていて、その上に宮

殿が描かれているので、その宮殿を数に入れれば、三つの宮殿とな

ると考えたのではなかろうか。なお、蓬莱山は本書において、次の

ように描写されていた。

『かのほうらいさんと申すは

」・

この山はじめてあら

」 は

れしそのいにしへをあんするに、我」てう神代のそのかみ、も

ろこし三皇」の第一伏羲 の御ときに大海のそこに六の亀これ

あり。年をかさね

、」

こうをつみて、その大さ一万里なり

。」

るとき、六の亀ひとゝころにあつ」まり、海中にたゝよふとこ

ろの大山」を甲 にのせて、さしあけたり。

つまり

、六

匹の亀が支えているという描写である

。し

かしながら、

本書の挿絵第四図の蓬莱山では、亀が五匹で支えており、本文と齟

齬がある

。 こ

れは

、 中

国の伝説では

、 例

えば

、『

列子

』 湯

問篇に次の

ようにある。

帝恐流于西極

、失

羣仙聖之居

、乃

命強使巨鼇十五挙首而載之。

迭為三番、六万歳一交焉。五山始峙而不動。

ここでは、仙人の住居の流失を恐れた天帝が、十五匹の亀に、五

匹が三交代で六万年ずつ、首を挙げて五山を支えるようにさせたこ

とが描かれている。この場合は、一匹の亀は一度に五山の一つを支

えるのだが、五匹で一つの山を支えると誤解したのかも知れない。

五匹で支えるなら、五

× 三

=一五で、三山しか支えることが出来な

(16)

16

いので、これは過ちである。しかし、一五

÷ 三

で五と計算したこと

は十分あり得ることで、その意味では、本書の絵師は、こうした中

国の伝説にある程度通じた人物であったと推測されよう。なお、本

書の本文の六匹の亀も

、『

列子

』 の

六万歳

」 の

」 か

ら来ている

かも知れない。

第五図は、『此くすりをぶくすれは、か」たちいつもわかやかに、

よはひかたふく

」 こ

ともなく

、 命

もさらにかきりなし

。」

れはもろ

こしの麻 と云仙人はその」かみ継母 のさんけんによつて年十五」

と申せし時、父母の家をにけ出て山に」こもりし女あり。をのつか

ら仙術をさと」りえて、ほうらいさんにいたりつゝ」不老不死のく

すりをなめたり

。」

それより三百餘さいの後、張 ちやう重花 といふ人に山

中にして

」 ゆ

きあひ

」 つ

」 む

かしの

」 事

をかたり

」 け

。 其

時の」

かほかたち」更にむかしに」たかは」すと也』に相当する。

三百年経っても、一五歳の時のままの姿であったと本文は作り、

挿絵も実際に若々しい姿で描かれているので、その点において、確

かに挿絵の通りであろう

。 た

麻姑は

、 「

の手

」 で

有名なよう

に、鳥のように長い爪をしており、これで痒いところを搔いてもら

うと非常に気持ちよかったことが知られている。中国の『神仙伝』

には、次のようにある。

麻姑鳥爪。蔡経心中念言、背大痒時、得此爪以爬背、当佳。

つまり

、こ

こでは

、本

、鳥

のような長い爪が描かれるべきだが、

挿絵を見ても、特に長い爪を描いたふうには見えず、その点では問

(17)

17

題があろう。

(1)イリノイ州立大学附属図書館の所蔵する古典籍については、

詳しくは、拙稿「イリノイ州立大学附属図書館所蔵中世小説関係

古書籍書誌調査報告

」(

教育実践総合センター紀要』第六、長崎

大学教育学部附属教育実践総合センター、平成十九年三月

)、

に、拙著『中世小説の発生と展開、影響についての研究―挿絵と

本文の両面―

』 (

成十六年度~十九年度科学研究費補助金〈基盤

研究(C

)〉

研究成果報告書(平成二〇年三月)を参照されたい。

(2

)「

増訂室町時代物語類現存本簡明目録

」(

御伽草子の世界』

奈良絵本国際会議編

、 三

省堂

、 一

九八二年八月

) 並

びに

、 『

室町時

代物語大成巻十二

』 (

角川書店

、 横

山重・松本隆信編

、 昭

和五九

年二月)所収「蓬莱物語」の解説に拠る。

(3)引用は

、『

古典集成古事記

』(

西宮一民、新潮社、一九七九

年六月)に拠る。

(付記。本書の閲覧並びに翻刻にあたっては、イリノイ州立大学附

属図書館(Library of the University of Illinois at

Urbana-Champaign )のアルマン・ブレグマン氏(Alvan Bregman )に、また、氏のブリティッシュ・コロンビア大学移籍後 は、デニス・J・シアーズ氏(Dennis J. Sears )のお世話に

なりました。ここに両氏に対して、篤く御礼申し上げます。また、

長崎大学教育学部のブラウン(Brown )先生にも英訳でお世話にな

りましたことに謝意を呈します

。)

(18)

18

Supplementary Note

With deepest gratitude to Profs.Alvan Bregman and Dennis

J.Sears for their help in this research, and for the reprint of the

rare book housed at the Library of the University of Illinois )

( 追記。本稿は、既発表論文が査読を経て新たに掲載されるものです。

本文は一部訂正したところがあります)

挿 絵

第 一 図

(19)

19

第 二 図

(20)

20

第 三 図

(21)

21

第 四 図

(22)

22

第 五 図

参照

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