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第 69 回東北・北海道地区大学等高等・共通教育研究会参加報告

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(1)

第 69 回東北・北海道地区大学等高等・共通教育研究会参加報告

佐々木 克 之 内 山   敦 遠 藤   壮

1.研究会の概要

日 時:令和元年8月

29

日(木)・

30

日(金)

会 場:弘前大学

参加者:佐々木 克 之、 内 山   敦、 遠 藤   壮 内 容: 

全体テーマ「連携・共創による高等教育・共通教育の新しい課題の検討」

全体会Ⅰ 基調講演「多元的な視点や思考法の獲得を目指す

弘前大学の教養教育」

講師 弘前大学理事・副学長 伊 藤 成 治 氏 分 科 会 第1分科会 「地域を学ぶ、地域で学ぶ、地域と学ぶ」

第2分科会 「多様な連携による語学教育の取組み」

第3分科会 「キャリア教育の新しい課題」

全体会Ⅱ 事例報告「寿命革命で地域おこしを:弘前大学 COI の挑戦」

講師 弘前大学大学院医学研究科社会医学講座特任教授 中 路 重 之 氏

2.報告事項

(1)研修会参加者は、

105

名であった。

(2)分科会は、第1分科会に内山、第3分科会に佐々木・遠藤がそれぞ れ参加した。

(2)

3.参加報告

(1)全体会Ⅰ

基調講演「多元的な視点や思考法の獲得を目指す弘前大学の教養教育」

本基調講演では、主に

2016

年から新しい体制・カリキュラムのもとで実 施されている弘前大学の教養教育について、その特徴と課題を述べている。

現在の教養教育は、それまでの「

21

世紀教育」のカリキュラムおよび教養 教育に関する組織を見直し、地域志向型人材の育成を行うことを目的とし た教養教育に再編成したものであり、以下の目標を掲げて行われている。

○主体的・能動的学修への転換

○文理融合教育による多元的な視点や思考法の獲得

○国際共通語としての英語能力の獲得

○地域志向性(地域が持つ強みや課題の理解、課題解決への意欲等)の 涵養

○国際性(異文化理解、多文化共生等)の涵養 本報告では、教養教育の特徴について取り上げる。

弘前大学は昭和

24

年に弘前高等学校、青森師範学校、青森医学専門学校、

青森青年師範学校、弘前医科大学を母体として、文理学部、教育学部、医 学部からなる大学として発足し、現在では5学部、7大学院研究科、4研 究所、

12

学内共同教育研究施設等を備える総合大学である。入学者の

1

/

3

は青森県出身者であり、北海道が

1

/

4

、東北・北海道出身者で入学者の

85

%を占める、まさに東北地方および北海道を担う人材の育成が求められ る「地域に貢献する大学」であろう。

弘前大学の教養教育は、「スタディスキル導入科目」、「社会・文化」、

「自然・科学」、「人間・生命」、「学部越境型地域志向科目」、「英語」、「ロ ーカル科目」、「グローバル科目」、「キャリア教育」、「多言語」の

10

の科目

(3)

群で構成され、どの科目群も必修または選択必修(多くは2単位)で学生 は4年をかけて教養教育の必要単位

34

単位を修得することになる。先にあ げた5つの目標を見てもわかるように、教養教育は専門科目の基礎科目で はなく、専門分野の枠を超えて共通に求められる知識や思考法などの知的 な技法の獲得や、人間としての在り方や生き方に関する鋭い洞察、現実を 正しく理解する力の涵養を目的に実施されており、専門科目(同質な集団 での教育)と対極な「学部横断」(異質な集団での教育)を徹底して行っ ている。例えば6人以下の少人数のグループワーク(導入教育)ではメン バーは必ず5学部から最低一人ずつ選び、同じ学部から二人選ぶときは、

二人はそれぞれ違う学科の学生とするなど「異質」なグループでの議論・

討論を徹底して行い、多元的な視点や思考法の獲得を目指している。

以下に、各科目群の概略を記す。

スタディスキル導入教育は「基礎ゼミ」1年次前期と「地域ゼミ」1年次後期 基礎ゼミは、1クラス

15

名以下の少人数グループで実施。内容は、主 体的・能動的学修の体験、初歩的研究倫理観の涵養、グループワークの 体験、資料の検索・収集・整理及び発表、弘前大学における学生生活の 基本ルールの体得を目標とする。

地域学ゼミは、1チーム5、6人×

15

チーム(の

90

人以下)のクラ スを3学部から1名ずつ選ばれた計3名の教員で担当。学生が学部横断 チームの一員として自分の役割を認識し行動できること、また他者の役 割を判断し適切に働きかけることができること、地域の問題に関する資 料の検索・収集・整理ができること、地域が有している課題が発見でき、

その課題に対し解決案を提案できることを目標とする。

学部越境型地域志向科目(2年次以降)

基礎ゼミおよび地域学ゼミを修得していることが履修条件。青森に関 する内容について専門知識を活用して学んでいく学生参加型学修。学部

(4)

横断型のクラス編成。

課題解決に向けた実践として

1.エクスカーション(主として調査・実習を中心とするもの)

コミュニティと地域活動、子供・子育てと地域、市民参加と住民 自治、弘前と都市形成、青森の海洋資源と産業化

2.地域創生orコミュニティ・デザイン(主として街づくり実践にか かわるもの)

地域再生のための経営と会計、地域創生・起業実習、青森のアー トマネージメントと文化交流戦略、アプリの開発演習などの内容 で実施している。

英 語

Listening,Reading(1年次前期)、Speaking,Writing(1年次後 期) 初・中・上級の習熟度別クラス分け

IntegratedA(2年次前期):国際共通語としての英語

IntegratedBLevel1(2年次後期)、IntegratedBLevel2(3年 次前期):一般学術雑誌目的の英語

IntegratedC(3年次前期):キャリア英語 多言語(1年次以降)

ドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、朝鮮語、日本語の 6言語を開講(レベルⅠ〜Ⅲを設定)ローカル科目(1年次前 期)

青森の歴史・文化・特色について知ることを目的とする。青森 の行政、経済・産業、文化、歴史、芸術、民族・芸能、自然な どの内容を学ぶ。

キャリア科目(1年次後期以降)

(5)

具体的な説明はなかったが、1年次のローカル科目等で青森へ の興味・関心を高めた後で、地域社会のかかわりの中で将来ビ ジョンを考えられる科目が用意されているようである。

「グローバル科目」、「人間・生命」、「社会・文化」、「自然・科 学」もあるが詳しい説明はなかった。

<所感>

弘前大学における教養教育は他の国立大学と同様に2年次で履修を終了 するのではなく、専門を学びながら3年次や4年次でも履修するというの が特徴(現在では、ほとんどの大学で同様のカリキュラムを実施している ので特徴とは言えない気もする)である。地域志向型人材の育成にかける 弘前大学の活動・努力は確実に成果として現れるだろうと感じたが、一方 で専門基礎教育からの脱却として教養教育で専門科目の基礎教育を止めた ことによる学部専門教育への影響についても知りたいところではある。後 で知ったのであるが、弘前大学では今回の教養教育の再編成において学部 専門教育の基礎科目を削除せず、それを残したまま種々の新しいカリキュ ラムを教養科目内に設置し、この4年間実施していたのである。来年度以 降は、科目・人件費の削減(具体的に何百時間、非常勤何百人分削減)と いう数値もあがっているようで、各学科が自分の学科の基礎科目を担当し、

非常勤教員が大幅に削除された上で、今まで以上に学部の教員の協力を仰 いでこの4年間実施してきた内容を来年度以降も維持していけるのかどう か甚だ疑問である。ただ、弘前大学が蛸足大学ではなく一箇所に5学部が 集まっている大学なので、教養教育に携われる教員を十分確保できる可能 性はあるだろう。

[文責 内 山]

(6)

(2)分科会

第1分科会「地域を学ぶ、地域で学ぶ、地域と学ぶ」

【趣旨】

第1分科会は、地域に関する教養教育についての分科会で、世界で活躍 する人材育成も大学の重要な責務であるが、同時に地域に根ざし地域の持 続的活性化に貢献する人材を育成することも大学の重要な責務である。こ のため、大学において、地域の自然や分野、社会的経済的特性などを学修 し、地域特性や地域課題を深める教養教育を行い、学生の地域志向を高め ることが望まれる。

また、地域に関する教養教育は、現場が大学周辺に存在しているわけな ので、学内に閉じこもることなく地域の中で実践することにより、教育効 果の向上が想定される。学生にとって地域と直接接触することは学生の主 体的学修を育む面でも大きな効果を有すると期待される。

さらに、地域に関する教養教育が学生の成長に効果を有するのみならず、

学生の立場で考え方や行動が地域への良い刺激となり、地域活性に資する ことが期待される。

地域に関する教養教育について幅広く情報交換し、議論するのがこの分 科会の趣旨である。

【話題提供・発表者(敬称略)】

1.大学の学びを活かした地域活動

−郡山女子大学短期大学部地域創生学科の試み−

郡山女子大学短期大学部 桑 野   聡 2.地域志向教育における「震災復興に関する学修」

岩手大学 脇 野   博

(7)

3.教養教育と山形大学「エリアキャンパスもがみ」のフィールドラー ニング

山形大学 小 田 隆 治 4.洞爺湖町での地域総合交流協定を活かした酪農学園大学の取り組み 

〜自然環境保全から地上創生へ〜

酪農学園大学 吉 田   磨 5.問題解決を基盤とした新しい全学教育カリキュラムの構造

福島大学 鈴 木   学 6.地域と共に進める方言保存・継承活動

八戸工業大学 岩 崎 真梨子

話題提供1

郡山女子大学短期大学部の地域創生学科は、家政科福祉情報専攻・生活 芸術科・文化学科の3学科が統合されて出来た学科で情報・ビジネス系、

アート&デザイン系、文化・歴史系の多用な科目を、ユニット製の緩やか なまとまりで学ぶことができる。提供者からは、この学科で2年かけて実 施される「地域創生ゼミナール」(1年次)と「地域創生プロジェクト演 習」(2年次)について報告がなされた。

地域創生ゼミナールでは、「地域を学ぶ」(授業7回)で福島の課題、歴 史、歴史遺産の活用、アート活動、食文化、宗教と伝統文化、女性などの 切り口から、本学科で学ぶ専門知識と地域を繋ぐ糸口を学ぶ。次に、「地 域活動を学ぶ」(授業3回程度)で、行政や民間など様々な地域活動の実 例を外部講師から伺う。次に、「地域活動を考える」(7回程度)学生が中 心となりプロジェクトを実現していくプロセスをグループ活動で学ぶ。大 学際において「地域創生学科を紹介する」ことを目的とした企画を計画し、

実施する。最後に「モデル演習とプレゼン練習」(

10

回程度)次年度に実

(8)

際に実施する地域活動プロジェクト案の紹介を聞き、アンケートでグルー プ分けし次年度の実施に向け準備を行う。

「地域創生プロジェクト演習」は2年次の1年を通して行う地域活動プ ロジェクトで、次のような8つのプロジェクトが展開されている。アート 活動を活かした学内外のブロンズ像清掃活動や企業などの依頼を受けた壁 画制作、伝統手すき和紙保存会と協力した学習とイベント活動、新聞社と 協力して実施される街のパン屋さんの取材と新聞記事作成、地域で活躍す る女性の聞き取り調査、地域の祭りの新聞記事調査、地域博物館施設との コラボ活動、地元地域の魅力発見(観光協会や商工会議所との共同活動)

である。

話題提供2

岩手大学の1年次の基礎ゼミナールの一環として行われている「震災復 興に関する学修」について報告がなされた。岩手大学では、1年前期の基 礎ゼミナール、後期の初年次自由ゼミナール、1・2年次の地域科目、2 年次以上の地域課題演習と高学年まで地域をテーマとするカリキュラムが 教養教育および共通教育に配置されている。震災復興に関する学修は岩手 県の地域を学ぶ上で避けて通れない東日本大震災の復興について1年次前 期に全員が履修する必修科目であり、学生が実際に被災地に出かけ地域を 見る、聞く、感じる、考えることにより、時間の経過とともに変化する地 域の課題を抽出し、被災からの復興や防災のあり方等、現時点での課題解 決に向けた方策を検討し、さらには復興の先を見据えた地域創生のあり方 を考える基盤を培うことを目的とする。教育効果よりも毎年

1

,

000

人の学 生が被災地に赴き、ボランティア活動をしながら被災地の現状を調べる活 動を6年間継続して実施している社会貢献に意味があるように思えた。

(9)

話題提供3

山形大学における「エリアキャンパスもがみ」のフィールドラーニング の

13

年の歩みについて報告がなされた。最上地区は山形県において高等教 育機関が全くない地区であり、

2005

年に最上8市町村の首長と山形大学で 包括協定を結び、最上地区全体を山形大学のバーチャルなキャンパスと見 立てて連携活動を行うこととなった。その翌年から教養教育の一環として

「フィールドワーク:共生の森もがみ」(現)「フィールドラーニング」が 開講され現在も継続している。この科目は、課題探求能力の育成、社会性 の涵養を目標に、宿泊型現地体験型学習、少人数教育、現地講師、寄付授 業、地元の子供の参加を特色とする授業のようである。

授業の流れは、オリエンテーションにおいて現地講師による説明会、学 生の希望調査(作文)と決定、事前指導(大学)、現地体験1泊2日(土、

日)を2回、LMS(学習支援システム)による記録提出、合同発表会

(事前指導を含む)である。例年、前期は

16

プログラム、後期は

10

プログ ラム程度が各市町村から授業案として提示されているようである。提供者 は、「フィールドラーニング」の成功の理由として

10

数年継続して実施し ていることによる進化が大きいことを挙げていた。進化した例としては、

当初は地域の提供、学生の提案型授業だったが、学生のプロジェクト開 発・実施型授業へと進化していったことである。現地講師のフィールドラ ーニングへの主体的な関りと教育スキルの向上、フィールドラーニングの 質の向上などが示された。実際、最上地区では山形大学だけでなく他県と の交流、自治体や民間企業との連携(研修等)、留学生の受け入れなど活 発に行われているそうである。

話題提供4 

酪農学園大学の洞爺湖町での取り組みについて報告がなされた。教養教

(10)

育ではなく4年間、更に大学院博士前後期までの9年間全ての学年に地域 の抱える問題に関する科目が設定されており、非常に驚かされる内容であ った。酪農学園大学は洞爺湖町と

2009

年に地域総合交流協定を結び、町か ら廃校になった成香小学校を無償で貸与され酪農学園大学教育研究センタ ーとして使用している。洞爺湖マラソンで知られる洞爺湖は現在中島およ び湖が増えすぎたエゾシカによる深刻な環境汚染に見舞われている。さら に湖では持ち込まれた特定外来生物の内田ザリガニも繁殖し、湖の生態系 への影響も甚大である。エゾジカは人間が

60

年ほど前に一つがいを中島に 放し、更に別人が

55

年前に中島に妊娠したメスジカを一頭中島に放した3 頭が、現在では数百頭を超える数まで増殖している。人間の無責任な行動 が及ぼす甚大な影響に衝撃を受けた。

酪農学園大学教育研究センターを利用するカリキュラムとして、新入生 合宿オリエンテーション(希望者向け)があり、毎年

200

名程度が参加

(内容は、2年〜4年次に実施される実験・実習の体験)し、自然環境学 実験・実習(2年次):湖および中島を1日かけて幅広くフィールドワー クを行う。修士1年が特別演習として、本実習を計画・運営。生命環境学 実験実習(3年次)エゾジカ捕獲(狩猟)などを行っている。

2009

年〜

2019

年までに

32

実習、

65

題の研究がこのセンターにおいて実施されてい る。

酪農学園大学では、これらの野外フィールド実習、室内実験、環境情報 解析演習の3つを合わせた総合フィールド教育システムを、その実践と評 価を繰り返しながら構築している。また、学生と洞爺湖町との交流も、洞 爺湖マラソンへ毎回

100

名以上のボランティア参加、現地自治会の盆踊り や神社祭りへの参加、お祭りでの交流会参加など活発に行われており、連 携開始から洞爺湖町へ就職した学生が

10

名を超えるなど地域を担う人材育 成としても成功していると思われる。 

(11)

話題提供5

本年度新入生より展開されている全学教育新カリキュラムについて報告 がなされた。ただ、現在実施されている授業の内容についての報告は無く、

新カリキュラムの全体像、設置科目、開講セメスター、各プログラムにお ける履修基準表、新カリキュラム実施に向けた運営体制や新しい教育運営 組織図などが報告された。来年度以降に、新カリキュラムについて伺う機 会があれば伺いたい。

話題提供6

八戸工業大学の岩崎氏が有志学生と結成した方言研究会の方言保存・継 承活動の活動報告がなされた。分科会の趣旨と少しかけ離れている気がし たが、それは岩崎氏も感じているようで、本来報告するほどの研究成果や 実践経験があるわけではないので、配布する参考資料等は無いとのことで あった。報告では、方言(南部方言)のアンケート調査(市の研究活動の 一環)と方言アプリケーションの作成とアプリケーションを用いた体験報 告について簡単に説明がなされた。方言アプリケーションは工学部学生な らではの音声認識ツールを利用した標準語を南部方言に翻訳するという優 れものらしい。地域の祭りや大学際などで体験コーナーを開設すると好評 のようである。言われてみれば納得であるが、(南部)方言を認識し標準 語に変換するアプリの作成は非常に難しいようである。アプリはすばらし いが、方言と標準語の対応表をしっかり作成する方が大切ではないかと思 うが、学生の自主性を重んじる研究会の活動報告なのだろう。全体として 報告1と報告4の活動が抜き出ているように感じた。

[話題提供1〜6文責 内山]

(12)

第3分科会「キャリア教育の新しい課題」

【趣旨】

キャリア教育の実施は比較的新しい課題であり、各大学では共通教育へ の導入方法について様々に取り組まれていることと推察する。この研究会 においても、過去に幾つかの発表が行われており、その一端をうかがい知 ることができる。しかしながら、まだ教育方法が固まっているとは言えな いようである。

一方で、平成

27

年度から「知(地)の拠点大学による地方創生推進事業」

いわゆる COC +事業が始まった。この事業に参画している大学には、地方 公共団体や企業と協働して学生にとって魅力のある就職先の創出が課せら れている。つまり、COC +事業はキャリア教育に大きな影響を与えている ことは間違いないであろう。

このような状況を踏まえると、キャリア教育に関して新しい課題が発生 し、これまで以上に多くの課題があるように思う。そこで、広範な事例紹 介や話題提供を頂くことにより、キャリア教育に関しての議論を交える機 会としたい。

【話題提供・発表者(敬称略)】

1.郡山女子大学のキャリア教育の試み

郡山女子大学 堀   琴 美 2.大学におけるキャリア教育の課題への一視座

−大学生の意識調査から−

北海道情報大学 五 浦 哲 也 3.初年次キャリア教育における遠隔アクティブラーニングの試み

小樽商科大学 田 島 貴 裕 

(13)

4.キャリア教育における現状と課題

−東北大学全学教育の事例から−

東北大学 高 橋   修 5.協同学習を取り入れた教養化学の授業展開(5)

−認知と態度(チームで働く力)の同時伸長−

酪農学園大学 大和田 秀 一  6.社会が求める人材に近づける技術者倫理教育

室蘭工業大学 安 居 光 國        7.地域定着促進に向けた体験型キャリア教育の実証事業について報告

八戸学院大学 井 上   丹  8.弘前大学におけるキャリア教育の展開と課題について

弘前大学 石 塚 哉 史 

話題提供1

堀琴美氏(郡山女子大学)「郡山女子大学のキャリア教育」では、郡山 女子大学で取り組まれているキャリア教育について報告がなされた。郡山 女子大学家政部ならびに短期大学では、共通基礎科目として「キャリアデ ザインⅠ」を開講し、大学で学ぶ専門知識を社会で活かすための基礎力と して「つくる力」(創造力、論理的思考力、表現力)と「かかわる力」(主 体的行動力、コミュニケーション能力、倫理・道徳観)の育成に努めてい る。授業開講当初は自己分析・自己理解をもとに学生各自がキャリアプラ ンニングを実体験することに重きを置いていたが、授業内容の改編を重ね、

建学の精神や授業の受け方などの初年次教育や円滑なコミュニケーション をとるためのアサーション・トレーニング等を導入している。また近年で は、女性の生き方を学生各自に主体的に考えさせる機会を新たに取り入れ ているとの報告があった。

(14)

話題提供2

五浦哲也氏(北海道情報大学)「大学におけるキャリア教育の課題への 一視座−大学生への意識調査から−」では、大学入学時の学生を対象とし た意識調査の結果と大学キャリア教育の課題について報告がなされた。こ の報告では、意識調査の結果をもとに、キャリア教育は大学のみで担うの ではなく、小学校・中学校・高等学校、そして高大接続と系統的・計画的 に実践する必要があるとの報告がなされた。

話題提供3

田島貴裕氏(小樽商科大学)「初年次キャリア教育における遠隔アクテ ィブラーニングの試み」では、学生同士のコミュニケーションを重視した 大人数によるアクティブラーニング手法の開発と実践について紹介され た。小樽商科大学では、初年次キャリア教育科目として「総合科目Ⅱ(大 学の学びと社会)」が開講されている。この授業では、大学卒業後のキャ リアを見据えながら、大学での学修や研究、課外活動など大学生活を有意 義に過ごすために必要な学修動機および学修目的を学生自らが認識し、獲 得することを目的としている。この目的達成のため、小樽商科大学では、

学生同士のコミュニケーションを重視した大人数によるアクティブラーニ ング手法の開発と実践を行っている。具体的には、1人の教員がメイン教 室とサテライト教室にて同時に授業を行う遠隔授業によって大人数による アクティブラーニングを実施していることが紹介された。また、授業アン ケートによると、メイン教室とサテライト教室で理解度、満足度ともに差 がないことが報告された。

話題提供4

高橋修氏(東北大学)「キャリア教育における現状と課題−東北大学の

(15)

事例から−」は、東北大学の1〜2年生を主対象としたキャリア教育につ いての紹介と現状と課題について報告がなされた。東北大学では、1〜2 年生を主対象にキャリア教育科目として①ライフ・キャリアデザインⅠ

(進路と大学生活を考える科目)、②ライフ・キャリアデザインⅡ(自己理 解を深める科目)、③ライフ・キャリアデザインⅢ等(社会とのつながり を考える科目)が開講されている。これらは教室内での座学が中心であり、

キャリア意識・職業意識の醸成やキャリアプランニング能力の向上が重点 的な到達目標となる。さらに、

2016

年度からフィールドワークを伴う PBL 科目(フィールドワーク実践:地域とビジネス)、

2019

年度からインター ンシップ科目(インターンシップ事前学習およびインターンシップ実習)

を開講し、社会人基礎力やコンピテンシーの開発・向上を目的とする科目 が追加された。報告では、これらの科目の現状として、受講者が少ないこ とやキャリア教育の効果が実証されていないこと等が挙げられた。今後の 課題として、キャリア教育の必要性を学生に認識させることや、どのよう な教育が学生のキャリア意識醸成、キャリアプランニング能力、社会人基 礎力の向上につながるのか効果を測定し実証する必要があるとの報告がな された。

[話題提供1〜4文責 遠藤]

話題提供5

報告者の大和田秀一氏は、過去4年に渡って「協同学習を取り入れた教 養化学の授業展開」を報告されており、今回は全

15

回の授業終了時点での LTD 話し合い学習法(LearningThroughDiscussion、協同学習の手法の一つ)

への理解度と学修成果の関係について報告がなされた。

定期試験の際の設問「LTD 話し合い学習法における予習の位置づけ・意 義を説明してください」に対する解答文章中に含まれる記述を、その内容

(16)

から「仲間との学び」、「1人での学び」、「過程プランの有効性」に分類し て集計した結果、LTD における予習の位置づけを個人思考、集団思考の両 面でよく理解している者ほど学習成果が上がることが分かったという。

大和田氏は、今回の結果により社会人基礎力の「3つの力」のうちの一 つ「チームで働く力」への理解が深まった受講者ほど教養化学の学習成果 が上がったことを示し、このことはいわゆる“キャリア科目”以外の教養 科目でキャリア教育の実質を積み上げていくことの可能性を示しているの ではないかと推測している。

今回取り上げられた「社会人基礎力」は、経済産業省が

2006

年に提唱し たものであり、その「3つの能力」には、「チームで働く力」の他に「前 に踏み出す力」、「考え抜く力」があるが、これらの能力を発揮するにあた って、自己を認識してリフレクション(振り返り)しながら、目的、学び、

統合のバランスを図ることが、自らのキャリアを切り開いていく上で必要 と位置づけられている。

この「社会人基礎力」の養成に関して、本学の教養教育は医学または薬 学の専門教育(キャリア教育)以外であっても、各担当教員がシラバスの 一般目標(GIO)や到達目標(SBOs)において様々な工夫を凝らして講義 を展開していることなどから、「チームで働く力」のみならず、他の能力 をも十分培うことに貢献していることを感じた。

話題提供6

「技術者倫理」という講義は、世界の高等教育機関で技術者育成におい て開講され、教授者および研究者の専門は倫理学、哲学、心理学、社会学、

工学、理学、医学などと多様であることから、文系科目、理系科目どちら とも言えないそうである。報告者の室蘭工業大学では、理工学部の複数の 教員が中心となり、倫理学の教員と企業講師がオムニバス形式で講義を行

(17)

っており、①「専門が異なることで専門を持つことの意義を知る」、②

「実践経験のある企業講師による本授業の重要性の認識とアップデートな 課題への対応力が身につく」という2つの効果があるという。講義では、

グループ討論により解決法の提案と絞り込みを経験したり、知識の欠如を 認識し学外にヒントを求めたりしており、評価については多面的評価を採 用し知識、討論・プレゼン力のほか倫理的な解決法の提言力を評価してい るとのことであった。

今回の報告から、この講義担当者が倫理学教員だけではなく、企業から 講師を招聘している点が印象に残った。実践経験から多くの現場情報を含 めた問題点等が提供されることによって学生の理解・意欲向上につながる と思えたからである。また、この講義の評価法について触れておられたが、

評価者は誰か、採用した目的は何か等について、もう少し詳細な報告が欲 しかったところである。

話題提供7

八戸圏域8市町村に在籍する約

3

,

000

人の学生が、卒業後県外に流出す る傾向が高い現実を捉えて、地域定着促進に向けた体験型キャリア教育の 実証事業を行った結果についての報告がなされた。

2018

年8・9月の夏休 み期間中に全5日間の実習型集中プログラムとして実施され、最初の2日 間は導入研修としてオリエンテーションや社会人との交流会、その後2日 間で体験学習、最後1日が振り返りと成果発表とした。この事業は、学生 が就職だけではなく、地域での生き方(キャリア)を考えることを目的と し、1つの地域で1つの業務を2日間連続で体験するように地域の産業復 興や地域課題解決の業務体験、地元の食材を使った食事を体験し、地元住 民との交流を通して自分が生活するイメージを持ってもらうというコンセ プトで4種類のプログラムを構築したという。

(18)

終了後の振り返りワークシート結果によると、地域のまちや人に対する 印象について全員がプラスの変化になっており、その理由として「地域に ついて再発見した」や「地域の人との交流」が多く、在学中に地域で経験 したいことの設問に対しては、「地域への貢献、地域との交流、地域を知 る」や「自己成長できるような経験をしたい」が多かったそうである。

若者が地域に定着するような取り組みは、少子高齢化が進み、「地方創 生」が叫ばれている中、とりわけ後継者不足に悩みを抱える地方にとって は、非常に有効な手段であると思われる。特に大学がキャリア教育の一環 事業として地域をもっと知るための実習型(体験型)集中プログラムを実 施していることは、大変興味深かった。今回の参加者は実施期間等の問題 もあり、

17

名と少なかったようであるが、今後も継続して実施して欲しい 取り組みの一つであった。

話題提供8

弘前大学では

2016

年度より、必修科目を含むキャリア教育科目のカリキ ュラムを全学的に展開している。弘前大学教育推進機構「キャリア教育の 推進〜自らの生き方を見つけ、実現する力を育成する〜」(

2013

年5月1 日付文書)によると、「キャリア教育の実施は、地域の活性化を支える高 い教養と幅広い知識を有する社会人としての必要な力を育成した上で、職 業観の涵養や社会に参画する意欲・態度の意識形成、専門的職業人として の役割や意義についての理解を図るものとしている。このような取り組み を通じて、弘前大学の卒業生として社会に羽ばたくためのキャリア発達を 促す。従って、本学ではキャリア教育の取り組みを、社会全体の中での人 生の在り方を見つけ、実現するための『生き方教育』と位置付けて行って ゆく」とされている。

1年次では全学部の学生が必修科目の「キャリア形成の基礎」を履修し、

(19)

2年次では各自の関心に応じて「地域」、「女性」、「創業」のテーマごとに 設定されたキャリア形成に関する科目「キャリア形成の発展」(選択必修 科目)を履修、3年次では「社会と私」(必修科目)を履修することで、

1年次に履修した内容を発展させるほか、就業体験としてのインターンシ ップへの参加準備や働く現場としての業界研究を行っているとのことであ った。

今後の課題としては、①学生の専攻に応じたキャリア形成の選択肢の更 なる掲示(例えばキャリアアップとしての大学院での学びの機会など)、

②全科目の専任教員による担当、③学生の履修希望に応じた科目群の整理

(選択必修となっている2年次科目)を挙げておられた。

弘前大学ではキャリア教育の取り組みを社会全体の中での人生の在り方 を見つけ、実現するための「生き方教育」と位置付けており、キャリア教 育の充実は学校教育の重要な課題の一つと捉え、単に就職活動にとどまる ものではないとのことであった。

これらの講義は、キャリアセンターがキャリア教育(教養教育として)

を担当しているそうであるが、キャリア教育の他にも進路・就職相談およ びガイダンス・企業説明会等のキャリア支援を行っているとのことであ り、今後の課題として挙げておられた3点については、担当者増員も含め て大変難しい問題であろうと推測される。

[話題提供5〜8文責 佐々木]

(3)全体会Ⅱ

事例報告「寿命革命で地域おこしを:弘前大学 COI の挑戦」

講師 弘前大学大学院医学研究科社会医学講座特任教授 中 路 重 之 氏 この事例報告では、青森県が日本一の短命県であることから、産官学民

(20)

を挙げた短命県返上活動により寿命革命で地域おこしをするという弘前大 学の事業が、

2013

11

月に文部科学省の事業である革新的イノベーショ ン創出プログラム(COI 拠点研究事業)の拠点の一つに選ばれた経緯から 現在までの事業の取り組みが紹介された。

公表された国勢調査の直近データ(平成

27

年)によると、都道府県平均 寿命ランキングで青森県は男女ともに最下位であり、男女合計の最長寿県 は長野県であった。両県の年代別死亡率(全死因)をみると、全年代で青 森県の死亡率が長野県を上回り、がん、心臓病、脳卒中の3大生活習慣病 が主要な死因となっていた。そこには、①生活習慣が悪い、②健診受診率 が低い、③病院受診が遅い・通院状況が悪いなどの背景があり、その根幹 には社会力があるという。県民一人ひとりの健康に対する知識と意識(健 康教養)で青森県が長野県に劣っていると考えられ、健康リテラシーの普 及が急務であると述べられた。さらに青森県は

40

60

歳代の死亡率が高 いが、これも3大生活習慣病の死亡率の高さによる。生活習慣病には

20

30

年の潜伏期間があることから、中年の死亡率を減らすには若者がいる学 校(健康教育)・職場での対策が重要であることを強調しておられた。

弘前大学 COI のテーマは「認知症・生活習慣病とビッグデータ解析の融 合による画期的な疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発」である。こ の COI には日本一の短命県から脱出するために、青森県下の産官民と強く 連携して短命対策・健康づくり活動を行い、また約

40

の企業が県内外から 参画しているとのことであった。この COI には2本の柱があり、ひとつは 世界一の測定項目数(約

3

,

000

)を誇る「岩木健康増進プロジェクト」で ある。このプロジェクトで得られたエビデンスの活用、加えてそのプラッ トフォームに集結した人材が連携することで、次のステップ、つまり社会 実装(2つ目の柱の短命県返上)に結びつけるということであった。

短命県返上(健康づくり)は、県全体の動きが不可避であり、まさに

(21)

“健康づくり”が町づくり・地方創生の主要テーマとなりうる時代が到来 した。各職種が広い視野もとに強く連携していくことが求められている。

その中心にあるのが地方大学の大きな役割であると述べ、また大学の本文 は学生教育であり、前述のような活動に学生をできるだけ参加させ、臨場 感のある社会学習を行うことが肝要であると述べられていた。

このような事業推進過程について、時間制限がある講習会等では説明し きれないご苦労があったと推測される。この事業で特徴的な「岩木健康増 進プロジェクト」のビッグデータは、分野の垣根を超えた多因子的解析を 可能にする網羅的データであり、今まで

14

年間にわたり測定した

2

,

000

項 目×

1

,

000

人のビッグデータであるとのことであった。昨年度の実施例を 挙げると、被検者が

20

94

歳までの

1

,

056

名、検者(延べ)は医師

350

名、

健康リーダー(有資格者)

300

名、大学スタッフ・学生

950

名、COI 参画企 業

650

名が

10

日間(5月

26

日〜6月4日;6:

00

15

00

)連続で、こ の大規模住民合同健診を実施したそうである。一つの項目と他の

2

,

000

項 目との関連性が検討できるメリットから多くの研究者(他拠点の大学等)、

企業が連携して社会医学を中心として多様な分野・領域研究テーマへ広が り、多数のエビデンスを構築できるという。この事業の素晴らしい点は、

単独のフィールドでの発展は難しいため、産官学民(企業、行政、大学、

地域住民)を連携させて健康づくり対策を行っている点であり、また大学 がその中心的役割を担い、実践の場に学生を巻き込んでいる点にあると感 じた。それらはすべて地方創生、町づくりにつながる事業であり、青森県 の短命県返上だけではなく、人類の健康づくり(寿命革命)に大きく貢献 できる事業になることを大いに期待したい。

[文責 佐々木]

(22)

参照

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