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特集[ サンタ・クローチェ教会大礼拝堂の壁画修復プロジェクト ]
盛大なプロジェクト完成記念式典
日伊共同プロジェクト:「聖十字架物語」の壁画修復
ヴェッキオ宮殿でフィレンツェ市主催の記念式典
6 月 6 日の朝 10 時、金沢大学からの参加者たちは数々の世界史 の舞台となったフィレンツェ共和国の議事堂、ヴェッキオ宮殿内を
フィレンツェの百合章を授与される中村信一学長
記念式典会場のヴェッキオ宮殿 ヴェッキオ宮殿前にて
フィレンツェの百合章を授与される宮下孝晴教授
感謝の意を述べるレンツィ市長
Photo: Takaharu Miyashita
フィレンツェ名誉市民の鍵章を 授与される黒田哲也氏 2004 年 6 月に金沢大学はサンタ・クローチェ教会大礼拝堂の壁
画修復プロジェクトを国立フィレンツェ修復研究所、サンタ・ク ローチェ教会と協力して進める合意書を交わし、1380 年代に描か れたアーニョロ・ガッディの「聖十字架物語」の壁画を 6 年の歳 月をかけて修復してきました。その面積は畳 500 畳分にも相当す る 820 ㎡、大礼拝堂の高さはローマのシスティーナ礼拝堂 (21m) を超える 26mで、その大きなスケールゆえにこれまで修復の手が なかなか伸びなかったという壮大な壁画連作です。いうまでもな く、このプロジェクトは人間社会研究域の宮下孝晴教授(フレス コ壁画研究センター長)に東京の篤志家から壁画の修復に役立て てほしいという莫大な寄付の申し出があり、それを受けて金沢大 学が日伊共同プロジェクトを立ち上げ、当時の国立大学には前例 のない国際貢献事業に乗り出すことになったことに始まります。
案内された後、宮殿内の二百人広間で開催される記念式典に参列 しました。フィレンツェの紋章である赤い百合の花を彩った旗が いくつも掲げられた広間に、マッテオ・レンツィ市長が緑、白、
赤のイタリア国旗のたすきを掛けて登場、イタリアにしては珍し く定刻通りに開会となりました。市長の右には国立修復研究所長 のアチディーニさん、左にはサンタ・クローチェ教会のマルカン トニオ神父さん、そしてサンタ・クローチェ教会財産管理部代表 のフスカーニさんが壇上にそろうと、まず、明るい笑顔が魅力的 な若きレンツィ市長が立ち上がり、「この三色のたすきを肩から掛 けると、私はマッテオ・レンツィという一個人ではなく全フィレ ンツェ市民の代表となります」という宣言から式典は始まりまし た。市長は 3 月に東日本を襲った大災害に対し、「フィレンツェの 親しい友人である日本が未曾有の災害から一日も早く立ち直って くれるように祈っています」という言葉とともに、このフィレン ツェ美術に対する日伊共同修復プロジェクトへの感謝を次のよう に語りました。
「芸術の都と称されるフィレンツェがルネサンスから 5 世紀を経 て、今なお美しく輝いているのは、大きな災害に見舞われなかっ
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第 3 回
中世フレスコ壁画技法に見る、失われた絵画技術
金沢大学 人間社会研究域 教授 大村 雅章
◇所属 : 人間社会研究域 学校教育学系 ◇専門分野 : 絵画表現 / 絵画技法および材料学
◇研究課題 : 矩形図像による連続性の表現 / フレスコ画、 テンペラ画による中世絵画技法の再現 / 絵画材料の基礎研究
Q. 最初に「聖十字架物語」を見たときの印象はいかがでしたか?
Q.実際に 600 年前の壁画を前に模写された時の感想は?
2005 年、最初の調査でフレスコ壁画を足場から間近に見て衝 撃が走りました。それまで図版や遠目に見ていたものとはまった く別物で、またそれまで 認識していた描画法とも違うものがそこ にはありました。祈ることで見えなかった目から鱗が落ちたとさ れるキリスト 12 使徒の一人、まさに聖パウロの心境で す。
まず描き方に無駄がないのと同時に、現代人には再現不能な筆 使いも確認できました。それまでのフレスコ画のイメージが見事 に覆され、特に 14 世紀に描かれた絵画のレベルの高さと作品の 存在感に圧倒されたのと、イタリア壁画の奥深さに気が遠くなっ たのを覚えています。
フレスコ画というのは性質上、非金属系の顔料しか使えないの で、環境的には優しい反面、色数はすごく制限されます。しかし、
現代では産業革命以降の 19〜20 世紀に印象派が登場して以来、
絵の具の色数は爆発的に増え、色彩を自由気ままに用いることが 可能になりました。ところが比較してみても、中世フ レスコ壁画 の色彩が劣っているかというと、実はその逆で中世の壁画の方が 色彩豊かに見えました。
column 私のおすすめフレスコ壁画
第3回 や は り 大 家 は う ま い !
金沢大学 理工研究域 環境デザイン学系 教授 五十嵐 心一
Q. 先生にとって、このプロジェクトの意義は?
不思議なことなのですが、たとえばシノピア(明色ブラウン)
の顔料を同じように塗っても、アーニョロ・ガッディの手にかか れば鮮やかな赤に見えます。まるで マジックのようですが、これ は単純に現代の描き手の技能と感性が退化してしまったのではな いかと。中世当時におけるマエストロたちの絵画技術が、完 全に 失われてしまったことを今一度考えなければならないと感じてい ます。
Photo: Takaharu Miyashita 一押しというからには、数多く観た中からこれだというものを推薦したい。しかし、実際には、これまで観たフレスコ画はほんの わずかしかない。昨年 9 月の研究調査旅行では、目を肥やそうと、ひたすら多くの美術館や教会でフレスコ画を観て回った。しかし、
何の予備知識もなく見学者順路に従って眺めるだけでは、「そうかこれもフレスコ画、こっちもそうか。 でも知らない画家だな。」で 終わってしまう。ただ、それでも一つ確実に思えたことがある。小中高の美術や世界史の教科書に出てきたような画家の絵は うま いのである。周囲の展示物とは違うぞという印象を持たせる。有名人であること、大作であることを知っていて観に行ったというバ イアスを差し引いても、素人目にもなるほど、すごいと感じさせる。
ということで、私のお勧めは、バチカン美術館のシスティーナ 礼拝堂にあるミケランジェロ作の「最後の審判」と一連のフレス コ画(右図)である。堂内に入りそれを仰ぎ見たときは、3 時間も 炎天下で並んで入館した甲斐があったと思わせた絵である。壁面 から天井一面にわたって広がり、首がつかれるほど大きくて、いっ ぱい人が描いてあって、何とも言えない感動がある。おもわず、
美術館出口のショップで絵葉書を買い、素人のくせに「やはりミ ケランジェロはうまい。」と一言書き添えて日本宛てにその場で投 函してしまったフレスコ画である。
Photo: Takaharu Miyashita