養殖共済が果た している役割 と今後 の課題
‑長崎県戸石町を事例 として‑
前 潟 光 弘*,濱 田 英 嗣
The Accomplishments of a Fish Culture Mutual Association and its future
(A case study of Toishi town of the Nagasaki Prefecture)
Mitsuhiro MAEGATA, Eiji HAMADA
According to the sea bream culture of the Toishi town of the Nagasaki Prefec- ture, there exists among the fish culture operators dissatisfaction concerning the mutual association.
For this matter the views of the interviewed 12 members of the Toishi town fish culture operators were taken into consideration. These includes the accomplishments of the system of mutual association in terms of its role and fulfillment.
According to the conclusion, the Toishi town aquaculture operators do not seem to pay much attention to the system of mutual association, based on the fact that there has been a decline in loyal membership. In this case the actual need for the system of mutual association has become meaningless where insurance payments to the members is unsatisfactory thus generating insincerity to the association. Although there are still new entries into the association, the fact underlying compulsory membership (for persons who need to borrow money) as well as obligatory member- ship (for a group of persons who wish to join) contribute to the problems.
In order to restore the system it is necessary to culture other species of fish besides the sea bream and the yellow tail that could contribute to the benefit of the association. It is also necessary to identify the remedy to diseases which strain the available funds. For this matter the mutual association and the aquaculture operators need to jointly work out a satisfactory solution so as to give hope to the existence of the system of mutual association.
Key wards: 戸 石 町;養 殖 共 済 制 度;養 殖 共 済 離 れ:養 殖 共済 へ の強 制加 入;養 殖 魚 の
病 害
1。 は じ め に
長 崎 県 戸 石 町 は タ イ を 中心 と した養 殖地 区で あ るが,同 地 区 で は養殖 業者 の養 殖共 済 に対 す る不 満 め声 が高 い。
養殖 共済 制度 とは,台 風 な どの災 害 に よ り,養 殖 中 の水産 動植物 や そ の養殖 に供用 中の養殖 施 設が 被 った損 害 に対 して共済組 合 が共済 金 を支 払 って,翌 年の着 業 資金 を確保 で きる ようにす る共済 の こ とで あ る。 その意 味で,収 益 リス クヘ ッジ策(養 殖 業 者
*長 崎 大学 海 洋生 産 科学 研 究 科(〒852長 崎 市 文教 町1‑14)
表1 養殖魚の販売金額に占める共済対象外魚種の販売金額及びその比率
S.56 S.57 S.58 S.59
養殖業者
a b b/a a b b/a a b b/a a b b/a
A 705 400 56.7 674 560 83.1 766 656 85.6
1829 ︐
、192 10.5
B 437 0 791 0
1056 ︐
165 15.6 1,266 374
1】『
Q9・.5
C 218 129 59.2
D 873 0 1,372 0
1695 ︐
341 20.1
1129 ︐
168 14.9
E 205 0 819 0 645 0 855 120 14.0
F 392 0 845 0 186 0 623 0
G 399 0 542 0 470 0 463 0
H
1267 ︐
0
1712 ︐
0
2312 ︐
410 17.7
2403 ︐
170 7.1 1
1269 ︐
0
2265 ︐
0
2029 ︐
395 19.5 2,254 364 16.1
J 128 0 622 0 508 82 16.2 698 257 36.8
合 計 5,675 400 7.0
9641 ︐
560 5.8
9666 ︐ 2049 ︐
21.2 11737 ,
1774 ︐
15.1
注1)a:全ての養殖の販売金額
注2)b:タイ・ハマチ以外の魚種の販売金額 注3)戸石漁協資料より作成
にとって将来に対する)の一つである。にもかかわ らず,共済制度が必要であろうと思われる個人養殖 業者が養殖共済に加入することを敬遠している。
そこで今回は戸石町養殖業者12名へ行った聞き 取り調査を考慮に入れながら,共済制度が戸石町 で果たしている役割と機能,問題点,及び今後の課 題について考察していく。
II.戸石町における養殖の現状
戸石町で魚類養殖業がスタートしたのは昭和45 年である。その後10年間は共済対象魚種であるタイ,
ハマチの養殖であったものが,昭和56年にはA養殖 業者がアジの養殖を行っている。しかしこの年は1 業者だけであり,販売金額にしても全養殖の販売金 額のわずか7%にすぎない。表1に全養殖魚種の販 売金額に占める共済対象外魚種の販売金額とその比 率を示した。これによると,昭和58年忌ら共済対象 外魚種の養殖が大幅に増加しているのがわかる。昭 和58年から養殖が開始されたのはヒラメである。こ のヒラメ養殖を中心に最近ではフグ養殖も加えられ,
昭和63年には共済対象外魚種の販売金額が全体の30
%を占めるまでに至っており,今後ますますこの割 合は増加する傾向にある。
養殖業者がハマチ,タイ以外の魚種を扱うように なってきているが,現状の養殖共済制度では対象魚 種がタイ,ハマチに限定されており,したがって現 場の魚類養殖業の変化に養殖共済制度が対応できて
いない。共済離れの要因の一つはここにある。
III.共済がはたしている役割と機能
(1)共済加入の状況
戸石町における養殖業者の経営体数に占める共 済加入数の割合は表2に示す通りであり,養殖経営 桁数は昭和58年の37経営体をピークに次第に減少傾 向にある。共済加入率については昭和59年が16。2%
と最低であり,昭和62年の93.5%が最高である。し かし,昭和62年の加入者数29名の中には漁業近代化 資金を借りたための強制加入者及び義理加入者が22 名も含まれており,積極的に加入しているのは24.1
%であることを考慮しておく必要がある。
(2)加入・非加入の理由とその背景
加入・非加入の背景には,まず漁場の優等地・十
王2 養殖共済加入率の動向 単位:件,%
養 殖 共 済
年次 経営体数 加入数 共済加入数/養殖経営口数
S. 58 S. 59 S. 60 S. 61 S. 62 S. 63
OO7民﹂411り乙9σ9σ90300 5ρ07−09Qゾり乙 −.−り乙−
89. 3 16. 2 48. 6 29. 4 93. 5 61. 3
注)戸石漁協業務報告書より作成
単位:万円,%
S.60 S.61 S.62 S.63
a b b/a a b b/a a b b/a a b b/a
2000 ︐
779 38.9 1,917
1470 ︐
76.7 665 407 61.2 1,453 955 65.7
284 77 27.1 290 65 22.4 329 0 374 55 14.7
1,221 239 19.6
1189 ︐
182 15.3
1040 ︐
335 32.2 943 0
759 327 43.1
1191 ︐
206 17.3 502 0 534 73 13.7
1701 ︐
0
1238 ︐
0 795 0 1,193 162 13.6
181 0』 664 134 20.2 189 0 308 0
2607 ︐
769 29.5 2,075 403 19.4 4,175 2,342 56.1
2155 ︐
875 40.6
2382 ︐
892 37.5
2715 ︐
575 21.2 2,588 277 10.7
3063 ︐
974 31.8
603 88 14.6 679 147 21.7 574 121 21.1 989 295 29.8
11736 ,
3171 ︐
27.0 11,958
3182 ︐
26.6 10856 ,
3482 ︐
32.1 11011 ,
3389 ︐
30.8
等地の差があげられる。戸石町の漁場は,戸石地 区と牧島地区とに分けられる。戸石地区における漁 場は湾奥部であり,汚水処理場や生活用水等による 汚染問題も発生し,漁場が汚れているため白点病な どの病害が発生しやすく,台風などの被害も受けや すい。これに対し牧島地区の漁場は,外海に面して おり,早変わりも良く病気が出にくい上に,台風時 には牧島自体が風よけの役目をし,その効果は昭和 62年の台風時にも全く被害を出さなかったほどであ る。このため,牧島地区の養殖業者は共済を重要視 していない傾向にある。要するに,両地区は利用漁 場が異なり,経営レベルでの収益リスクに違いがあ
る。
さらに加入・非加入は年により,養殖業者により 異なっており,例えばF,K養殖業者の場合,昭和 61年までは共済に入っていたが,被害もなく歩留ま
りもよかったため翌年は共済に加入しなかった。す ると台風がやってきてそれぞれ1,100万円,5億6千 万円の被害を出してしまった。また,調査した養殖 業者のうち10経営体は昭和58年目では共済に加入し ており,支払金以上の受取金をもらっていたにもか かわらず昭和59年に加入したのはわずか3経営体で あり,かなり流動的なことがうかがわれる。
また,大雨による養殖魚の大量へい死や台風によ って大被害を受けた翌年には共済加入者が増加して いる。昭和62年の台風は養殖業者に多大の被害を与 えた。表3は台風前後の年における共済掛け金の変 化を示したものである。昭和62年には強制加入(義
表3 台風前後における共済掛け金の
増加率 単位:円,倍
養 殖 S.62年度 S.63年度
業者名 S. 63/ S. 62
BCDEFGKLM
29,46929,469 450,223 29,469 29,469 44,831 15,313 885,885 29,469
648,945 456,539 9,115
0
521,163 2,520
4,840,338 2,798,153 886,941
22.0 15.5 0.o o
17.7 0.1 316.1 3.2 30.1
合計 1,543,597 10,163,714 6.6 注)戸石漁協「個人別自己負担及び共済金一覧表」より作成
理加入)程度の共済掛け金でしがなかった養殖業者 の7名のうち5名は昭和63年には前年比15.5
〜316.1倍に掛け金をアップしている。ただし,共済 加入がかなり流動的であることを考えると,次年度 以降も同額あるいはそれ以上の掛け金があるかどう かは疑わしい。
次に漁業近代化資金(制度融資)借り入れと強制 加入の問題があげられる。漁業近代化資金を借りた 場合,返済期間である5年間は養殖共済への強制加 入が義務づけられる。養殖業者の中にはL養殖業者 のように漁業近代化資金を借りてはいるものの,養 殖共済というものを積極的に評価して加入している 人もいるものの,大部分の人たちはしかたなく加入
しているのが実状のようである。
さらに現在漁業共済への加入は,個人契約ではあ るが,1免許1加入区制が取られている。1免許1 加入区制とは,養殖共済に加入する場合1加入区内 の養殖業者全員が加入しなければならない制度のこ
とである。そのねらいは,まとめて入れば国の補助 がある,養殖管理における相互監視,加入促進を促 すことにある。しかし,現実にはこの制度のために 義理加入というものが存在するようになってきてお
り,共済制度への不信感を増長している
聞き取り調査による養殖共済への加入・非加入の 理由としては,共済加入者は①不漁及び災害への備 え,②過去に不漁や災害で困ったことがある,③資 金借入の条件となっているから,④義務加入だから,
⑤皆が入っているから,⑥漁協で進められた等とな っている。これによると,積極的に加入している養 殖業者も一部いる(但し,税金対策を含む)反面,
しかたなく加入している養殖業者も多いようである。
これとは逆に共済非加入者の理由としては,①掛け 捨てだから,②掛け金の割に共済受取金が少ない,
③掛け金が高い,④共済対象魚種を養殖していない という意見があげられた。
聞き取り調査の結果,企業体経営及びL養殖業者 のような大規模個人養殖業者は,共済を積極的に評 価しているものの,中・小規模養殖業者は共済を敬 遠しつつあるように,経営規模により共済制度のと
らえ方が異なっていることが判明した。
ど経営状態が厳しいということも「共済離れ」の要 因の一つであろう。
IV.養殖業者からみた共済制度の問題点とその背景
(1)共済加入者による評価
共済制度について問題点の背景にはまず共済につ いての基本的な考え方が共済組合側と生産者側で食 い違っていることがあげられる。共済組合側は共済 は生産保険であり,生産原価を補償するものである という基本的考え方に立つのに対し,生産者側は共 済は生活を補償してくれるものであるというとらえ かたをしている。そのため,支払われる共済金に対
しての不満が多いようである。
さらにここで問題となるのは,病害についての補償 をどうするかということである。現制度では白点病 等で死亡した魚についても,その死亡率が15%以上 であれば共済金が支払われる。しかし近年では台風 などによる災害等と比較して,病害は恒常的なもの になってきており,養殖業者の中には病害による死 亡を最初から計算しているところもでてきている。
そうなった場合,共済組合側としては「そこまで共 済で面倒をみなけれぼならないのか」という問題が 生じてきており,病害以てん補を作り,共済でみる のは台風などの自然災害だけでよいのではないのか,
という考えも出されている。
(3)共済受取金の使途
共済の目的は, 本来養殖生物や養殖施設など「物」
の損害を保険するものであり,当然支払われた共済 金は被害にあった「物」の補充に当てられ,したが って翌年の養殖経営を円滑にするためのものである。
しかし,今回行った聞き取り調査による.と企業経営 の養殖業者と個人の養殖業者ではその差が明確に現 れている。企業経営の養殖業者についてみると,こ れらの大規模な養殖業者は共済受取金を共済本来の 目的に添って被害にあった「物」の補充に当ててい る。これに対して,個人の養殖業者の場合は共済受 取金が借入金の返済や次回の共済の掛け金へ回され るなど共済本来の目的にそぐわない形で使用されて おり,経営の再生産メカニズムに共済制度がビル
ト・インされていない。
つまり共済に加入し,被害が発生して共済金をも らえてもそれが生産的活動のための資金として充当 できないのが実状である。共済制度が機能しないほ
(2)共済非加入者による評価
非加入者による共済制度への評価として最も重要 だと思われるのは,共済金への不公平感である。聞 き取り調査による結果では,「養殖規模の大きいとこ ろに多額の補償が出ている」,「自分の魚は少ししか 死んでいないのに,他の養殖業者から死んだ魚を借 りてきて写真を撮り被害を大きく見せている」等の 解答を得た。これが事実であるかどうかは別にして,
こういつた不信感をもたれるような共済制度では今 後加入者が増加するとは思われない。不信感を払拭 するためには,共済組合側が共済制度の正しい理解 を得るために養殖業者とコミニュケーションを密に とる必要がある。
非加入者からの要望としては,共済対象魚種を現 在のハマチ,タイからヒラメ,フグにも広げてほし いということである。つまり,共済組合側が養殖業 者へのニーズにあった対応をしなければ,今後さら に共済離れに拍車がかかるであろう。
(3)災害時における共済の位置づけ
戸石町におけるここ10年の災害は,昭和57年の 長崎大水害と昭和62年の台風による被害である。こ
こでは昭和62年の台風被害を例にとって,被害にあ った後どのようにして経営を立て直したかという点 から考えてみると,確かに共済加入者は非加入者に 比べ共済受取金を経営の立て直しの一部として使用
しているものと考えられるが,共済受取金額の合計 が約6千万円であったのに対し,長崎市の「台風12 号被害漁業者特別資金」の融資額は約6億円である。
この金額から判断して,台風等によって発生した大 災害時には共済は養殖業者にとって大きな役目を果 たしたとはいいがたい。ここにも共済離れの一端が
うかがわれる。
V.共済制度の今後の課題
(1)漁業近代化資金と強制加入
養殖業者が漁業近代化資金を借入した場合,強制 的に共済へ加入しなければならないことは先に述べ たが,戸石漁協の資料及び養殖業者への聞き取り調 査によって明らかになったことは,聞き取り調査し た12名の養殖業者のうち,昭和62年度に「共済に加 入していた」のはわずか2名である。残りの10名は
「共済に加入していなかった」としている。このう ち,台風被害を受けなかった2名を除き,以下「共済 には加入しておらず,台風の被害をうけた」8名に ついて述べていく。彼らは台風により,少ない業者 で6〜70万円,多い業者で5億6千万円もの被害を 受けている。当然彼らは「共済に加入していない」
のだから共済金をうけとることは出来なかったので ある。しかし戸石漁協の資料によると,共済に加 入していないはずの8名のうち6名は15,313円か ら44,831円までの共済掛け金を支払っているのであ る。これはどういったことであろうか。彼らは漁業 近代化資金を借りているのであるから,共済加入は 義務であり,掛け金を支払っているはずである。に もかかわらず「加入していなかった」とするならば,
漁業近代化資金を借りた場合,本人の意思に関係な く掛け金を差し引かれているとしか考えられない。
もし彼らが自分が共済に加入していると知っていれ ば,当然被害を報告し,多少なりとも共済金を受け 取っているはずである。
このようなことから判断して,共済組合側が共済
制度というものについて,養殖業者に対してしっか りとした説明がなされていないものと思われてしか たがない。このままでは養殖業者の「共済離れ」は 進む一方である。そうならないように,養殖業者が 理解できるような共済制度の確立が望まれる。
(2)今後の共済の在り方について
養殖業者が望む共済とはいかなるものであろうか。
これまでも述べてきたが,現状の魚類養殖に見合っ た共済制度作りが必要であろう。その一つは先にも 述べたように,共済対象魚種を増やすことである。
養殖魚種が多様化してきているのに対象魚種がハマ チ,タイだけでは共済自体が先ぼそりの感がしてな らない。次に考えられるのは,現在一つになってい る災害と病害を分けて考える必要があるであろう。
災害の場合,その最たるものは台風であろうから,
これまでのように期間を1年間にするのではなく,
台風シーズンを中心に期間を半年にして掛け金を少 なくするといった方法も考えられる。次に病害であ るが,現在病害は慢性的になっており,共済制度が 病害に対する保険のようになってきている。これで
は共済組合自体の存続が危ぶまれる。病害について は,慢性的な地域ではさらに掛け金を高くするなど の対策を立てる必要があるであろう。
本来,共済組合は協同組合的要素を備えているべ き組織である。つまり,営利を追求するのではなく,
漁民を守り,育てる機能を持っているはずである。
にもかかわらず,協同組合的な面を発揮せず,ビジ ネスライクでやっているところに欠点がある。養殖 共済制度が養殖業者から見直されるためには,共済 組合が原点に戻り,本来在るべき姿を取り戻す必要 がある。