基礎学力を支えるフィンランドの学校・教育制度 : 就学前教育から大学教育までの全教育視察から
著者 酒井 宣幸, 杉山 孝, 村山 功, 益川 弘如, 矢崎 満夫
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 17
ページ 11‑22
発行年 2009‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00006940
静岡大学教 育学部附属教育実践総合センター紀要
No。
17 p.11‑22 (2009)〈論 文〉
Educational systenl ofFlnland which guarantee basic acadelnic abiltties
‐
Repo■ ofinspection tour hm preschool to miversity education―̲ Nobunisak誠
*,Takashi Sttiyama*,Ism Murayma*, Hiroyuki Masukawaホ ホ
and Mitsuo Yazakiホ
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キー ワー ド: PISA調 査 フィンラン ド教育 教育制度 授 業デザイ ン 教員 の力量形成
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イ 学 村
基 酒
1 は じめ に
2000年に実施 された OECDによる
PISA調
査 にお け る好成績が 明 らかになつて以降、 フィンラン ド教育 に 注 目が集まつている。 日本国内では、フィンラン ド教 育について紹介す る文献お よび論文が数多 く執筆 され、最近ではフインラン ド教育に関わつてきた教師経験者 や教育行政の立場か ら執筆 されたものも出版 され始め てい る。それ らは、諸外国の統治下にあつた歴史か ら 母語 を大切 にす る国民性 があること (Rilkka 2008)、
憲法により基礎学校から大学修了まで無償の教育が保 障 され教育機会 が均等であること (Heikki 2007)、
教師の質の高さ
(佐
藤2005)等
か らフィンラン ド教 育の実情 とその優秀 さを論 じている。現在静岡大学では、平成
21年
4月 の教職大学院開 設 を目指 し、教職大学院の望ま しい在 り方や養成す る 教師像、授業の在 り方な どについて調査研究を してい るところだが、その一環 としてフィンラン ドの教育事 情について視察・ 調査を行つた。 フインラン ドでは、タンペ レ市教育委員会での間き取 り調査 を始 め、ネ ウ ボラ、就学前学校、基礎学校、高等学校、大学、市立 図書館等 と、一貫 した教育の流れ を視察す ることがで きた。
本稿 では、今回の視察で観察・ 聞き取 り等で明 らか になつた教育現場の実情を報告 し、その中で確認でき たフィンラン ド教 育の特徴 について述べつつ、PISA 調査で好成績 を収めた要因を 「教育制度」 「授業デザ イ ン」 「教員の力量形成」等の視点で考察する。
* 附属教育実践総合センター
** 教育学部情報教育講座
今回の調査研究を通 して判明 したフィンラン ド教育 における
PISA調
査の好結果の要因を整理す ると、以 下の ことがいえる。・ フィンラン ドの好成績の要因を考察するにあたって は、 「学力下位層の少なさ」について着 目する必要 がある。
・ 就学前教育か ら大学までの無償で提供 される、平等 性 を基本理念 とした教育を背景 とし、基礎学校 にお ける
10年
生の設置、学級内での補習授業、特別支 援教育、外国人準備学級等、学力下位層の減少 を図 ることに重点を置いている教育制度が確立されてい る。・ 基礎学校において
1学
級の児童生徒数が少な く、一 人ひ とりの学習状況 を把握 し、きめ細やかな指導が できる体制が整っている。・ 学校・教師に求められている役割の範囲が明確で、
教師が授業実施に専念できる環境が整 っている。
・優秀な人材が教員養成大学に集ま り、教育実習 を重 視 したカ リキュラムを通 して力量の高い教師が育成
されている。
さらに、今後の研究課題 としては以下のことが挙げ られ る。 これ らの課題については、今後多 くの授業分 析・教師 との面談等を行い、児童生徒の学力形成の過 程お よび教師の力量形成・ 授業実践等について、よ り 踏み込んだ調査・研究を進めることで、明 らかに して いけるもの と考えられる。
酒井宣幸・杉 山 孝・村 山 功・益川 弘如・矢崎満夫
'「学校 が楽 しい」 とい う児童 生徒が少ない とい う課 題 があ り、それ は、文化背景 とともに、学校 におい て教師・ 友人 との絆 を培 う活動 が少ない ことが要因 ではないか と推測 できる。
・ 一斉学習 を基本 とす る授業 の様 子か らは、 日本 と の大きな相 違 が見 られ ない。今後 、単元間の繋が りや構造、教 えてい る事実等 を詳細 に分析す るこ とで、 日本 の教師が授 業改善 に利 用可能 な具体的 な知 見を得 るこ とができる と考 えられ る。
・ 教師になつた後 の力量 向上 につ いては、 日本 とは 考 え方 の相違 があると推測 できる。
2 PISA調査で示 された学力観 とフィンラン ドの 成績
ここでは、まず
PISA調
査では どんな力を学力 と して測 ろうとしていたかをま とめながら、フィンラ ン ドの成績について整理す る。周知の通 りt PISA調査 とは 「
OECD生
徒の学力到 達度調査」の こ とであ り、読解力、数学的 リテ ラ シー、科学的 リテラシーの3分
野 (2003年調査で は問題解決能力 を含む4分
野)に
ついて調査が行わ れている。 この調査では、多 くの国で義務教育修了 段階にあたる15歳
児(対
象学年は、 日本において は高等学校1年
生であるが、フィンラン ドは基礎学 校9年
生を中心に7年
生か ら10年
生まで と幅があ る)を
対象に、それまで学校や様 々な生活場面で学 んできたことを、将来、社会生活で直面するであろ う様々な課題に活用する力が どの程度身に付いてい るかを測定す ることを目的 としている(「
生きるた めの知識 と技能③」 国立教育政策研究所)。
つま り、獲得 してきた知識の量でな く、それ らをいかに 実社会・ 実生活に活かせるか とい うことを測 ろ うとしているわけである。
ここで示 されている学力は、学習指導要領
(現
行 お よび2008年
3月告示新学習指導要領)が
めざす と ころの 「生きる力」 と同様の方向性 をもつ ものである と考えられているが、その趣 旨が社会、学校現場に浸 透 している とは言い難い(中
央教育審議会2008年
1月答 申
)。 PISA調
査についての報道をみても 「国 際調査で 日本の順位が低下 した」 とい う結果のみが強 調 され、示 されている学力観 を始めその趣 旨が社会に 紹介 されてきた とは言えないのが現状である。表 1〜
3の
とお り、フィンラン ドは2000年
の調査 以降、いずれの調査においても好成績を収めている。この好成績 に よ り、 フィンラン ド教育に注 目が集 まつたわけであるが、改めてその成績分布
(表
4)を見てみると、フィンラン ドは他の成績上位国に比べ、
学力下位層が非常に少ない とい う特徴が見える。一般 的に 「フィンラン ドの子 どもは学力が高い」 とい う表 現が用い られ るが、この結果か らは 「フィンラン ドに は、学力下位層の子 どもが非常に少ない」 とい う表現 の方がよりその特徴を的確 に表 しているだろ う。 この
ことか ら、フィンラン ドの好成績の要因について考察 する上では、この 「学力下位層の少なさ」について着
目する必要があるといえる。
表
l PISA2000年
調査…平均得点の国際比較順
位 読解 カ 数 学 的 リテラシー 科 学 的リテラシー
1 フィンランド 日本
韓 国
カナダ
韓 国
日 本ニユージーランド ニュージーランド
フィンランド
オースに刈ア フィンランド イギリス
アイルランド オースに対ア カナダ
日本 (8位
)
順
位 読解 カ 数 学 的リテラシー 科学 的リテラシー
1
韓 国 台 湾 フィンランド
フィンランド
フィンランド 書 港
3 香 港 番 港
カナダ4
カナダ韓 国 台 湾
5
ニュージーランドオランダ
エストニア日本 (15位) 日本 (10位)
日本
(6位)
(「
生きるための知識 と技能」より作成)表
2 PISA2003年
調査―平均得点の国際比較(「 生きるための知識と技能②」より作成 )
表3 PISA2006年 調査― 平均得点の国際比較
(「
生きるための知識 と技能③」より作成)
3 フィンラン ドの教育制度
フィンラン ドの教育制度お よびタンペ レ市の教育に ついて、タンペ レ市教育委員会・基礎教育学校経営部 長
Veli―
Matti Kanerva氏 より話を得た。1)フィンラン ドの学校教育体系
フィンラン ドでは図1のよ うに
6歳
から就学前教育 として学校教育が始まる。 7歳か ら16歳
までが、基 礎学校 であ り、この期間が義務教育である。10年
目 は、進学 も就職 も決まっていない生徒のためのもので、任意で補習プ ログラムを受講す ることができる。在籍 者は、タンペ レでは第
9学
年の5%ほどである。16歳
か らは、一般教養 を学び大学をめざす高等学 校か職業専門学校へ進学することになる。 さらに、希 望があれば高校か らは大学または高等職業専門学校へ、職業専門学校からは高等職業専門学校へと移動す るこ とも可能で、普通高校からでも職業学校からでも、大
順
位
読解カ数学 的リテラシー 科 学的 リテラシー 問 題解 決能 力
フィンランド
香 港 フィンランド 韓 国 韓 国
フィンランド 日 本番 港
カナダ
韓 国 香 港
フィンランドオ…ストラリア オランダ
韓国
日 本リヒテンシュタイン リヒテンシュタイン リヒテンシュタイン ニユージーランド
日本
(14位)
日本 (6位)
基礎学力 を支 えるフィンラン ドの学校・教育制度
学入 学 資格試 験 を うけ、大学 、専 門大 学、職 業教 育機 関に進 学す る ことがで きる。
NAT10NAL CORE CURRICULW"は
10年
ご とに改訂 され 、 それ に基づいて市町村 のカ リキュラムが定 め ら れ 、 さ らに学校 ごとに作成 され てい る。a.就学前教育(Pre―School Education)
6歳
か ら始 まる教育 である。義務教 育ではないが、自治 体 は全 ての子 どもに提供す る義務 を負 つてお りか つ無 料 で提 供 されてい るた め、現在 は
98%の
子 ども が参加 してい る。保 育所の中に併設 され てい るこ とが 多い。 教育 目標 は特 に設 定 してお らず 、基礎 学校 へ入 学す る準備 と して、集 団へ の適応 、子 どもに よる差 を 減 らす ことを 目指 してい る。教科領域 は法律 で定 め ら れ てお り、遊 ボ環境 を整 え、 同 じ年齢 の子 どもた ち と 協力 し合 うこ とや学校 生活 にスムー ズに適応 で きるこ とを 目的 としている。科 目はないが、言語 とイ ンタラ クシ ョン(相
互作用)、
数学、倫理 、哲学、環境 、 自 然科 学 、健 康管理、体 の動 きの発達 な どの教科領 域 を 遊 び の 中の要素 に取 り入れ てい る。 また、現在 の フィ ンラン ドでは、近所 に同年齢 の子 どもが少 ないので、同午齢 の子 どもたち と会 う機会を 与 える場 に もなって い る。
b.
踏書薔笹を実扉事 (Basic EducatiOn)入 学時の条件 はな く、
9年
間、学費・ 食事 。用 具全 てが無料の義務教育である。最近 の10年
間で小 中学 校 を統合 してきてい る。子 どもが所属す る学校 は、最 寄 りの学校 で あるこ とが原則 とな ってい る。 学校教 育 の 目標 は 「責任 ある社会 の一員 と して育て るこ と」 で あ り、全ての子 どもは基礎 学校 を修 了 した こ とで進学 で き る能力 を保障 され てい る。修 了の基準は、全科 目 で最低 限の水準 を達成す ることであ り、ほ とん どの子 どもは基礎 学校 を修 了す る。10年
生 は義務 教育 で は な く、まだ 自分 の進路が決 まっていない生徒 に対 して 時間 を与 える とともに、 自分 の希望進路 に進 む要件 を 満 たす よ う成績 を上 げ るた めに も う1年学習す る場 と して設定 され ている。 フィンラン ドにお いて も、基礎 学校 を卒業 して、就職 も進 学 もせず にニー トにな る者 が存 在 し、10午
目の学級 を設 け るこ とで対 策 してい る。c. 高等戦 教 育 (Upper SecOndary Education) 基礎 学校 を卒業 した こ とが入 学条件 である。各校 に 定員 があるが、入学試験はな く基礎学校 卒業時の成績 の点数 で入学の是非が決定す る。現在 は、基礎 学校卒 業 の約
55%の
生徒 が高等学校 へ進 学 してい る。 全 国 規模 で学校 を選択 で きるが、近 隣の学校 に進 学す る場 合 が多 い。教科書 は 自費 で あるが、昼食費 を含 めそれ 以外 の学費 は無料 であ る。 基本 的 に3年
間 で卒業す る が、あ くまで推奨数字 である。大学 と同 じよ うな講座tllであ り、単位 を全 て修得す ることで卒業 とな る。卒
業後 の進学先 は大学 が多いが、高等専 門学校 に進 む生 徒 もい る。
d. 珊発男蕉弓書を吏(Vocational Education and Training) 基礎学校卒業 が条件 となってい る。高等学校 と同様 無料 の学校 である。職業技術 を習得す るこ とが 目標 な ので、職業の部 門によ り重視 され る教科が異 な っ てい るが、職業学校 の勉強 と同時に普通科 の勉強 も行 つて い る。高等専 門学校 だけでな く大学への進学 も可 能 で ある。職業のスキル が身 に付いてい ることを示す こと が、卒業のための重要 な要件 になってい る。
e.高等専 門学校 (Polytechnics)
職業専門学校 の上に位置 してい る。職業社会 と密接 につ ながってお り、実際の企業 で実習 を行 つてい る。
よ り職業に近接 した具体的な学問 を学ぶ。学費 は無料 である。
f. プ電喘白 (University)
フィンラン ドは小 さな国だが、大学は
20校
あ り人 日の割 に多い とい える。大学問がお互いに協力 関係 を結び、将来的には大学数を減らす方向にある。学部・
学科があり、他の国と同じような制度をとつている。
数年前に、ヨーロッパの中で制度が共通化された。
g, 月ヽA議女
¥事
tAdult Education)フィンラン ドでは、教育は生涯続 くものと考えてい る。資格を得るためでな く、職業で必要な能力 を育て ることを目指 しているが、失業率を下げる目的もある。
競争社会では常に労働者の学ぶ機会が必要であ り、ま た、時代により職業を変 え得 ることが必要になってい る。多様な教育が、様々な教育施設等の中で行われて いる。
2)タンペ レ市の基礎教育
2007年秋 の時点で、タンペ レ人 口
20万
人の うち、約 18,000人
(1校
あた り平均300人
程度)の
児童生 徒が基礎学校に在籍 している。若い家庭は周辺の町に 居住 していて、児童生徒数の減少 を招いている。市街 地の地価や家賃の上昇がひ とつの原因となっていると 考えられる。49の
学校 に1,400人
の教員49人
の校長 (head teacher)が勤務 してお り、拠点 となる学校 には、地 域の学校 を統括す る校長が配置 されている。9年
間一貫 した教育をするために、ガヽ学校 と中学校 を統合 して基礎学校 として運営 している。現状では、従前の校舎 を使 っているため、別々の校舎で運営 され ていることが多いが、小学校 と中学校の協力関係が構 築 され、生徒同士、教師同士の協力体制 を作ることに つながっている。
基礎学校への入学は
7歳
で、秋 に新学期が始まる。基本的に、子 どもたちは在住 している地域の学校へ入
酒井 宣幸・杉 山 孝 ・村 山 功・益川 弘如・矢崎満夫
学す るが、入学時には近隣の数校の中から自分の都合 に合 う学校 を選択する。 当該児童がいずれの学校に入 学するのが適切かを、その数校の校長が話 し合い最終 決定をす る。ただ し、希望の言語を扱つていない とい う理由か ら別の地域の学校 に入学す ることも可能であ る。外国語で教える学校 には、 ドイツ語、英語、フラ ンス語、スウェーデン語の学級がある。また、特色あ る学校 として、音楽や美術、スポーツを中心に教 える 学級 を設置 している学校 がある。学級の人数はまちま ちだが、法律では「教育が成 り立つ数でなければな ら ない」 とされ、人数は限定 されていない。現在のタン ペ レの基礎学校における1学級の平均的な児童生徒数 は18人であるが、教科 により2〜 32人とばらつきが ある。
タンペ レ市では、現在800人の児童生徒が特別支援 教育を受けるか、その資格 をもつている。他 の子 ども も通 常の学級の中で補助教育を受けている。特別支援 が必要な子 どもは、通常学級で教育 を受けるのが基本 だが、通常の学級では指導が困難な子 どもについては、
地域の特別学級や タンペ レ市全体をカバーす る特別支 援学校が用意 されている。特別支援学校には、学習障 害、集 中力欠如等、なん らかの問題 を抱えている子 ど もが通 つている。特別学級 と特別支援学校いずれで指 導 をす るかは、学校 と専門家 とがチームを組み、保護 者 と話 し合いながら決定する。
3)教員の業務
基礎学校の うち、小学校
(第 1学
年か ら第6学
年) の教師は学級担任制であり、全ての科 目を担当 してい る。中学校(第 7学
年か ら第9学
年)の
教師は、教科 担任制であり、高校で教 える資格 も所有 している。教 師の給料は、フィンラン ド社会の中では平均的な額だ が、教師は社会的評価が高いため、教員志望の学生が 多い。また、週の労働時間が合計27時
間(授
業が24 時間、通常の業務が3時
間)で
、その時間以外は自由 に使 える上、年間の勤務 日数は190日 と休 日が多 く自 由な時間が多 くとれることも、数多 くの学生が教員 を 志望す る理由になつている。教育学部では、修士課程 を必須 としてお り、5年
間学んでいる。近年、学校現場では、学力・ 学習に対する教師の意 識 が変わつてきた。以前は、例えば子 どもができない ときは、子 どもの能力・態度のせいだと考えていたの が、現在では、 どんな子 どもに対応 しても、その子に 合 うよ うな教育の仕方 を見つけなければな らない と考 えるように意識改革がなされてきた。一人ひ とりに合 うよ うな挑戦を与えることができるように教師が教育 されてきている。
4)地域の教育 レベルの差
フ ィ ン ラ ン ドで は そ れ ぞ れ の 学 校 が NAT10NAL CORE CURRICULUM"に 定 め られ た評 価 基 準 に 基 づ い て 子 ど もた ち を評 価 して い る。 全 て の学校 で 同 じ レベ ル
の教育が行われ、都市部の教師 も郊外の教師も教育 レ ベルは同一で、同じ給料を支給 されている。学校差は 出ていない と考えてお り、学校 同士を比較することは していない。ただ し、都市部 と郊外では母親の教育 レ ベルの差による学力の差があることが明らかになって きている。
5)教育制度、学校・ 教師に求 め られ る役割 から見 た学力を支える要因
以上の教育制度・ タンペ レ市の基礎教育の実態から、
PISA調
査の好結果に結びついていると思われ る要因 について整理 してみる。一つ 目の特徴 として挙げられ ることは、上位の子 ど もを伸ばすことよりも底上げを図ることに重点を置い ている教育制度が確立されているとい う
̀点
である。基 礎学校 10年 目、学級内での補習授業、特別支援教育 は、全て子どもたちの学力 を下支えす るための制度で ある。 「フィンラン ドは人 口が少なく、一人も取 り残 す ことなく、全ての生徒が大切 とい うことになる。一 番能力の高い人を伸ばす ことを第一に考 えるのでな く、子 どもたちみんなが一緒に進学 。進級できるよ うにす ることを基本的な考え方 としている。」 とい う
Veli一
Matti Kanerva氏 の言葉が、フィンラン ド教育の姿勢を端的に表 している。
補習授業については NATIttAL CORE CURRICULllM FOR BASIC EDUCAT10N 2004"(以下 コアカ リキュラ
ム とよぶ
)の
中にも明確 に位置づけられている。コア カ リキュラムの中には、 INSTRUCT10N FOR PUPILS NEEDINC SPECIAL SUPPORT"(「特別支援教育」 コアカ リキュラム 第
5章 )に
ついても記述があるが、それ以外に、学習が困難な状態にある児童生徒に遅れ を取 り戻すための指導を行 う Remedial teaching"
(「
補習授業」 コアカ リキュラム 第4章
一第4
項)に
ついても明記 され、その中には 「適切な頻度 と 範囲」 「児童生徒の保護者 との相互理解」等について 示 されている。国が定めるコアカ リキュラムにあえて「補習授業」を明示する姿勢にフィンラン ドの基礎教 育の特徴が表れているといえるだろ う。
もう一つの特徴は、学校・教師に求められている役 割の範囲が日本 と異なる
.点
である。Veli―
Matti Kanerva氏 より、フィンラン ド教育に おける現在の課題 についての話を得た。その中で印象 的だつたのが、 「質問紙調査の回答か ら、『 学校が楽 しい』 と答えている子 どもが少ない とい う課題が明 ら かになったJと
い う点である。 この課題については、Riikka(2008)も その著書の中でも触れてお り、渡邊 (2005)によれば、フィンラン ドにおいて教育課題 とし て現在改善策についての検討が行われているとい うこ とである。
Veli―
Matti Kanerva氏 によると「現在 タ ンペ レでは、この課題について学校 と連携す る相手を 探 している最中である」 とのことだつた。つまり、今 日的な課題が社会で話題になるたびに学校教育で取 り基礎学力を支 えるフインラン ドの学校 。教育
tll度
扱 うことを求める日本 と違い、アオンラン ドでは新た な課題 に取 り組む場合には、学校外か ら人材な リシス テムな りを取 り入れるとい う考え方 をするとい うこと がいえる。 │
さて、 「『 学校が楽 しい』 と答えている子 どもが少 ない」 とい う調査結果は何を示 しているのだろ うか。・ ここでは、 猥本 とフィンラン ドとにおける学校教育に 求め られている役割の違いについて考えなが ら、現時 点で考え得 る要因について整理 してみたい。ただ し、
今回の視察では、――・・部の教育関係者 からの間き取 り調 査 しか行 えていないので、あくまでも推測の域を出な いことを断つてお く。
一つは、勉強に対する文化的な とらえ方であると考 えられ る。 フィンラン ドはプロテスタン ト派の文イれが 基本 にあ り、仕事 。勉強は参挙力 してや るもので楽 しむ
│ものではない とい う考え方が国民の意識の根底にある ために「学校が楽 しい
Jと
答 える子 どもが少ないので はないか とい う分析である。も う一つは、 日本でい うところの特別活動のような 学習活動以外の要素が教育課程内に少ないことである。
筆者
(藩
井)が
小学校教員 として勤務 してきた経験 を顧みると、学校が楽 しい と感 じている子 どもたちは、学業成績 もきることながら、学級での人間関係、特に 友人関係が良好であるであることを理由に挙げること が多い。また、学校行事やクラブ活動、部活動、体み 時間等を含 め楽 しい活動があるか らとい う国答 も多 く 見 られ る。つま り、学校生活の うち、学力の充実以外 の要素が子 どもの心情に大きく影響 しているとい うこ とである。 日本では
t特
別活動に代表 され るよ うに「望ま しい集団活動」 「よりよい生活や人間関係 を築 く」 ことを目的 としている活動が数多 く存在 し、教師 も、良好な人間関係を築 くことで、子 どもたちに楽 し く学校にきてはしいとい う意識 を強 くもつている。
一方、フィンラン ドでは、基本的に授業以外の部分 で教師 と子 どもたちが共に活動す ることはほとん どな い とい う。授業が終了 した後は自由なので、教師も職 場 を離れて帰宅す るとい うことである。また、 日本の よ うに体み時間に一緒になつて遊ぶ姿は見 られず、ラ ンチタイムも別々にとることが通常である。特別活動 とい う位置づけはなく、Fllえば 「運動の 日
Jと
銘打つ て轟 目退 ごす ことはあらでも、 日本の運動会のように 全校挙げて取 り組む行事ではないそ うである。学校で の部活動はなく、アイススケー トやサ ッカー等t地
域 や クラブチームに所属 して活動 している子 どもが多い よ うである。高等学校に至つては、 日本の大学のよ う な単位制をとっているために学年や学級 自体が存在 し ないるNiettela(2005)に よれば、卒業後 に同窓会 を開くことは、アィンラン ドではめらたにないよ うである。
以上のよ うに、学習活動以外の教員 籍友人 との絆 場 連帯意識 を培 う活動が少ないことが、 「学校 が楽 し い」 とい う回答が少ない要因の一つではないか と推測 され る。また、このことを学習面か ら考えると、 辞本
と比ベラィンランドの教師な麟 実施 ぼ動購苺実施を 含め )に 専念する状況であり:そ れが PISA調 査の好
成績の要因の一端を担つている可能性 もあると推測で きる。轟 鬱織≫鬱ン ド鰊吻饉賤綺 . :
今回、フィンラン ドの福祉社会の一端であるネ ウボ ラ、読書文イヒを支える市立図書館 を視察 した、また、
就学前学校、基礎学校、高等学校で実際の授業風景を 観察することができた。 どの場所でも関係者の対応ぶ りか らは、 自国の教育制度の充実に自信 をもつている 様子が伺 えた。
ここでは、その中か ら基礎学校の機業の様子を報告 す ることを通 して、
PISA調
査 の好結果 に結びついて いると思われ る要因について考察する。1)蓬礎学校の実惰 │ │
タンメラ基礎学校、 ヨハンネス基礎学校の2つの基 礎学校の授業な観察、両校の校長および教育関係者か ら聞き取 り調査を行つた。以下、それぞれの学校の様 子 を報告する。
議
:タ
ンタラ基礎学校 .│ ■ │①学校の概要 │ ‐
学校は 100年 以上前め建物 と60年前に建て られた ものであつたが、
4年
前に改修 し備晶も新たなものに 更新 され学校 内はされいに整備 されていた。②授業風景
タンメラ基礎学校
(小
学校)では(3年生の本工 場手芸、
4年
生の数学の授業を参観 した。 どの学級 も 20名 前後の規模の学級であつた。3年
生の本工授業では、男性教師の機導のもと、本 二の道具の基礎的な使い方や本の性質などを学習 して いた(図
2)。 1学級 を半分に分け、手芸鈴授業 と前1 鱚211隆瞼攀畿 議鼈1本轟誦鶉鼈:‐■■
│ │ │ ││
機期で交代する形にならている
:歩人数藩教えでし ヽ た
が、
3年
生の子 どもたちがのみやかんなな どを使 うて実習していたなもう轟方吟手芸め授業ではtミ
│ャンの 使い方の導入時間であつたので、紙を布に見立てで活
動 を していた。全 ての児童 が
3年
生 か らこの授業 を受 けてお り、週2時
間が当て られ てい る。 │この学校 では、特色 ある学級 として、美術 の特別学
酒井宣幸 嵯杉 曲 孝 儘村 山 功 軽益り│1弘4「J鬱 矢崎満夫
級が設置 されてい機。 議年時に選ばれた子 どもたちが、
通常学級の
2倍
の過4時
間鍮美術の構業 を受 けでひそ。こめ 鐸は、筆の使しヽ方を学んでしヽた。 この学級 を担当 す る数新は、学畿握儀 として、美術以外の援業 も担当
している。
も う一つの特徴 として、この学校には英語 と ドイツ 語の学織鮮設け各れてい発ことが挙げられ 機。 ドイッ 議の授業は、学校外での話動を行つていたので、援業 を歩観す 患ことはできなかもた。英語学級では、
4年
傲の第数の援業者参議 した。 この詰間は、教科書の練 習間麗 な鱗 く授業であつたが、教科書はアィンテン ド 議 の教科書 を英語議 したものであ̀。
こ母学緩では同 講 と餞瑾以外は実議で授業 なしてい儀.援業影態は、
聞本でもよく見 られは一養学習の形 をとってわ り、数 師ぶ全体を り3‑‐ ドしなが あ援業が進 められていた。簡 寵 な解いた児童が、数編の所に行って機鑢 な受 けてい る姿は 置本 と共通するところがあ嗜た。
議
t
嘉ナヽシ率スIな学崚⑮饒
̲の
機要 │7歳
か ら 菫3歳
までめ子 どもが通って鶯 り、cつ
の 糧常の学級、3つ
命モンテ ップー ソ学級t慾
つの外国 人撃警学級があ機。1〜 鵞年生は遍 麗0時間砕授業、│
3〜 4年
生は23時闇、3〜 6発
生懸25時
間(必
修で ある英語以外砕外国語 を選択 した場合は、 さなに3時
蘭増)の
授業を行ってしヽる。 導年生か 攀外国語教育が 始 ま儀ガ、選択できる言語まま、英語、 ドイツ講、 薄シ ア議であ亀。英語‡ま必修て、選択の方法によっては 6 年生蓑では 機つまで学ぶことができ場。の授業鷺量
渡ハ ンネス基礎学校では、
3学
生の環境学、6年
生 の社会、外国人準備学級、常ンテ ップ…「 学機の授業 者参議 した。また、市立図書館で本 を鶯 つて帰校 した 機学生の様子 も見 感ことができた。 ど中学緩 も児童数 齢 名前後翁学級糟あった。3年
生の環境学の援業では、教科書を参考に しなが ら一ヽ人ひ と りが難近な種物 について購べ学習 を推 ぬ プV・・―クブック‡も書き込級溝動を行 っていた。(図
3) 数時‡こは、学緩全捧で 「生鞠 と非豊輸雄わいで整理す 卜Jと
い う逢とだった。子 ども爾̲m―の話 し合ぃゃ教師 が机聞錯種をや りやす だす もため‡こ豊〜 鵞ダけ母轟翁字 型で机 を離置 してしヽた。6年
生は、社会覇・の学習で交通費金 ‡こついで学 んで いた。(図
4)担任教 師 は教卓前 に座 り、児童 が驚l朦
に教科書 を欝み進 めていた。慇板 にはメモ書 きの よ う な もり しかな く、板書 を重視 してひ 感 とは考 え られ喩 か った。
晰 蝶 隧颯鑢骰 吻鰺 露狡魏昴瘍曖鰺 ‐
議年豊まま
t市
立腐書館燿ゝ怒本を鸞 り帰絞 した鋒だつ た。絵本や図鑑等、一人ひ とり母児童が難機のあ儀本 を数冊僣 りできていた。図鑑な ど自分で読む ことがで きないものについでは、家の人 と共に読み進めるとい や進とだつた。援業の様子まま見ることざでき鍮かった パ、音講母取経 なついで話 を開 くことが で きた。 担儀 教 師 は 、 音 畿 を重 視 して お り、
家庭学習 と して音議 カー ドを持 た警継続 練習 なさ管 ていた。
また、轟櫨 ‡こノS‐‐ト の使 い方 を議述 して 児童 な機導 しよ うと してひ 感点 も、 薄本 の数室の風景 と非常 に似逼 つて神 機。
(図
3)この学級 にはアスペル ガー で饉 鍍 舎児 童 メ 豊名 澱 り、
躙 鰊 蝙魏漑蠍 凩鑢 囃鶉鋏 刺激 を統制す るためについたてで穣覚藤
J激
な少なくし た状態を設定 し学習 をしていた。障害暖軽υゝ子 どちは、必要な支援や方法 をとりなが あ通常学級仰中で学習―l‐
ることを基本 とす るとい うことだった。
こ翁学校傷特色である骨ンテ ッソー ン学級は、1)鵞 年、8,4年、5,6年の複式の 議学級があ り、子 ども白 数が 菫遍間母計画を立で、同一の学機の中で各 自が 自 己議題に沿っで学んでいる.実雛鍮授業でl‐■、一人 も しくは数名母少人数のグループで、本な読んだ り畿具 を用いて数学の間題 を邊ま した りなどしていた。学び 残す通とはないかァか難‡こなったが、数師 と共に計画を 提め、 磁遮問単位で どのよ うな学習をしたか議録 を致 しているためにそ ういつたことは起 ころない とい うこ 蝠 了 鳳隋餞賤 彦躁 渥礫核鑢聰鰺鰺
基礎 学力 を支 えるフィンラン ドの学校・教育制度
とであった。個々の子 どもの学習の過程は 自由である が、学年における達成 目標 は全員が同 じでなければな らない とい うことである。通常の小学校課程の免許を もつている 3名 の教師がいるが、 うち2名はイタ リア で教授法を学んで専門の資格を得ているとい うことで ある。
この学校 に
3つ
ある外国人準備学級は、現在 タンペ レ市 に5箇
所ある準備学級 の1つで、外国か ら来た子 ども達のために設定 されている。 この学級 は10名
以 下の少人数 で構成 されてお り、1年間で通常の学級で 学べ る能力 を身に付けることを目標 としている。 この1年
間を過 ごした後、家か ら最寄 りの学校に通 うこと にな る。 ヨハンネス基礎学校の外国人準備学級には現 在10カ
国の子 どもたちがいる。 この学級の 目標は、フィンラン ド語で行われている通常学級の授業に参加 できるようにすることであ り、入級 当初か らフィンラ ン ド語で授業を行っている。一番難 しいケースは、自 分の母語 もままな らない低年齢の子 どもに対 してフィ ンラン ド語 を教える場合である。 も う一つの 目標は、
他の学級の子 どもと統合 してい くことで、常に通常の 学級 とのつなが りをつ くるよ うに努力 している。外国 からやつてきた子 どもたちは、教育省か らの予算 によ
り
4年
間特別教育を受 ける権利 を有 している。いずれの教室 も、カーテ ン、色鮮やかな掲示、備品 等、明るく落ち着いた環境 が整 えられているのが印象 的だつた。反面、どの教室でも計画的な板書は見 られ なかつた。 また、 日本 と異な り、机の高 さが全て同じ で、低学年では体格に合わないからか、いすの上に正 座を してい る子が多かつた。
c.授業以外の学校生活の様子 、聞き取 り調査か ら 見る基礎学校 の実情
①学校生活
2時
間 日と3時
間 目の間の長い休みに、グラウン ド で子 どもたちが様々な遊びをしていた。その様子 を3 名ほ どの教師が見回 りをしていた。 グラウン ドは さほど広 くなく、アスファル トまたは砂・小石で覆われて いた。学級 によつて始業時間がまちまちなので、 この 時間か ら登校する児童 もいる。従つて、下校時間も子 どもによつて異な り、 日本で通常行われている朝・帰 りの学級指導の時間は存在 しない。一定の時刻に始業 す る日本 と異な り、同一学級であつても受ける授業に よつて登下校時間が異な り、また曜 日によつても変動 するので、子 どもも親 も確認が必要である。
保健室は 日本のそれ より狭 く、子 どもたちの健康管 理や調子の悪い子の対応が主であ り、保健室登校な ど の子 どもへの対応は していない。 タンメラ基礎学校で は、不登校や教室に行 けない子 どもはほとん どいない とい うことであつた。保健室の教師は、看護師の資格 に加 えて学校の保健 についての資格 をとつている。通 常の規模の学校 の場合は、複数校を掛け持 ちで勤務 し ているため
1校
に勤務す るのは週2〜
3日 である。ランチタイムは、ランチルームにおいて学年 ご と交 代で昼食 をとる学校が多い。視察 した学校では、片付 けはきちん とでき、食器 を片付けるときにも係の人に 挨拶を しっか りしていた。完全給食で、かつ無料 であ るが、現在全国的に給食費が削減 されてお り、内容的 に十分でなくなっていることが問題 となっているよう である。
②授業形態
他のタンペ レの基礎学校でも、今回視察 した授業 と 同様一斉学習 を基本 とし、学習状況によって臨機応変 にグループや個人学習 を取 り入れ る授業形態をとって い る。 しか し、前述 の よ うに、学級の児童生徒数が
20名
前後 と少人数 であるために子 どもの活動 を非常に把握 しやすい状態にある。
③学級編制 と学級担任
基礎学校1〜
6年
生は学級担任制であり、 1〜6年
もしくは3〜 6年
まで担任が持ち上がるのが通例 であ る。教師は、原則 として学校 に雇われ 日本のように異 動す ることが少ないため、同 じ学校に長期間勤めることになる。
学級お よび担任 を固定す ることは、一人ひ とりの子 どもの様子がよく分か りきめ細やかな対応ができると い うメ リッ トがあるとフィンラン ドでは考えている。
④能力別 によらない学校・ 学級編成、特別支援
フィンラン ドの教育制度の基本は、同 じ条件で平等 ヽ な教育を子 どもたちに施す とい うことであ り、ほ とん ど全ての子 どもが、 自治体が経営 している公立学校 に 通 つている。
70年
代の始 めには能力別 の学級が存在 したが、現在は廃止 されてお り、同じ学級の中で個に 応 じた教育をす るとい う方法に変えている。子 ども一 人ひ とりに合つた課題 を用意 して教えるとい うことは 大変なことであるが、教師の力量を高めることで実現している。
問題 をもつている子 ども達に対 しては、入学当初の 段階か ら着 目して支援 している。保護者は特別支援教 育に対 して抵抗 を感 じてお らず、自然に受け止めてい る場合がほとん どである。特別支援が必要であるかど うかの判断は、保護者が子 どもの様子に気づいて申請 す る場合、子 ども自らサポー トして欲 しいと願い出る 場合、学校の教師が観察の中か ら判断する場合 と様々 である。
⑤教科 と横断的な学習
フィンラン ドの基礎学校の教科は表3の通 りである。
PISA調
査で着 目された読解力について関心が高い が、残念なが ら視察の中で国語科(フ
ィンラン ド語)の授業を参観す ることができなかつた。今回の視察の コーディネーターおよび通訳である藤井み どり氏 (タ
ンペ レ市で 日本語教師 として勤務
)に
よると、国語科 の授業では、発想力 をつけた り、話を創作 した りする 言語学習が積極的に行われていることだつた。宿題は ヮー クブ ック (教科書 に準拠 した書 き込み形式の も の)を
進 めるとい う学習が多いそ うである。酒 井宣幸・杉 山 孝・村 山 功・益川 弘如・ 矢崎満夫
フィンラン ドには 日本のような総合的な学習の時間 はないが、実生活・ 実社会 と学習 とのつなが りを意識 す る場面 として、環境教育、国際教育等の形で教科横 断型の学習を教科領域の中に含み実施 している。また、
Environmental and natural Studies(自 然科学
+地
理
)と
い う教科 を1〜4年
で扱つている。 この教科は 身の回 りの動植物や交通安全等を取 り上げてお り、 5 年生以降の生物地学・物理化学へ とつながる。③い じめ ,不 登校への対応
い じめが発見 された場合は、す ぐに対処 していく。
まず担任が対応するが、必要に応 じて専門家 を集 めて チームで対応す る体制が整 っている。い じめ対策の
チームは、学級担任の教師はその中心となり、校長、
保健の教師
:精神科の医師で構成される。不登校や保 護者との トラブルや学校内での問題についても、校長
や担任だけが対応するのではなく、精神科の医師も加 えたチームで一緒に解決するシステムになつている。⑦成績評価
コアカ リキュラムで成績の基準が決まつてお り、そ れに基づいて成績評価 を行つている。成績評価は、 日 ごろの授業の様子、テス トによつて行われ る。成績は
4〜 10で
表 され、基本的にペーパーテス トで評価 し、そこに 日頃の学習状況 。学習過程を加味 して加減す る。
い くらペーパーテス トの点数がとれていても学習態度 が悪い と低 くなる。 フィンラン ドにはテス トがない と い う認識は間違いである。
2)学校・ 授業の風景から見た学力を支える要因 今回観察 した授業か らは、残念ながら、少人数 によ る授業、補習授業、外国人準備学級 を除いては PISA 調査の好成績 を裏付ける要因を明らかにす るには至 ら なかつた。一斉学習 を基本 とした授業風景があま りに も日本 と似通つているからである。また、授業記録等 か ら分析 された資料が存在 しない とい うことか らも授 業の特徴 を提 えることができていない。 日本の授業研 究では授業記録 を分析す るとい う手法が一般的である が、フィンラン ドには校内研修 とい う概念がないか ら か、授業記録 とい うもの 自体が存在 しないではないか と考えられる。 `
今後は、環境学や数学、国語 といつた複数の教科 を 横断的に分析す るとともに、多数
(多
教員・多教科・特定授業を長期的
)の
授業を記録・分析 し、授業者 の インタビューデータを対応 させてい くことで、子 ども たちの学習プロセス とそこに関わる教師の営みを詳細 に解明 してい く必要がある。一見 して 日本 と大きく変 わ らない授業が展開されているとい うことは、単元間 の繋が りや構造、教 えている事実等を分析することで、教材の提示順序、構造、関連づけ方、 「教科」の枠に 捕 らわれない教科横断的な内容の構造や繋が りの中に 日本の教師が授業改善に利用可能な具体的な知見を得 ることができるはずであると考えられる
̀さ
らに、カ リキュラムや リソースを用いてどう授業を展開 しているのか、教授法を分析することで、後述す る教員の力 量形成についても研究が深まることが予想 される。
5 教師の力量形成
PISA調
査の結果がよかつたのは教師の質の高さに 起因す る(佐
藤2005)と
い うことがいわれている。今回の視察では、残念ながら実際の授業・学校現場に おける営みか ら教師の力量の高さについて検討するだ けの資料が得 られなかつた。従つて、教師の力量形成 が どのよ うになされているかについて、大学での教員 養成、教員になつた後の研修 とい う
2点
か ら考察する。1)大学における教員養成
タンペ レ大学において、教育学部部長 Eero Ropo 氏から教員養成について話を得た。
a.タンペ レ大学の概要
タンペ レ大学は、フィンラン ドでは平均的な規模の 大学で あ り、約 15,000人の学生が在籍 している。
2,000人の職員がお り、その うちの約 1,000人
(講
師 含む)が
教員である。総合大学で、社会、文学、経済、行政、教育、情報、医学な どの学部がある。小中学校 の養成機 関 としては新 しく、1860年代か ら存在 した 養成機関が、1974年 に大学に編入 した。
教育学部では、就学前幼児教育、保育所の教職員養 成を町の中心部の施設で、小学校教員養成 をハメ リン で、中学校教員養成 をメインキャンパスで行つている。
学生数は、幼児教育50人、小学校教育65〜75人、教 科教育 140人 である。幼稚園教諭は学士
(3年
)、 小学 校教諭以上は修士(5年)の取得が必須である。b,小学校教員養成課程
3年
間の学士 (180単位)と 2年
間の修士 (120単 位)を
学ぶ。 フィンラン ド国内で小学校教員を養成 している大学は
10箇
所にあ り、全国に散在 している。内容 は、一般 教養 が
20単
位 、専 門教 養 は教 育 学 (Education science)で あ り、基本的な教科25単位、専門的な教科30単位、応用の教科が80単位
(応
用の 内、40単位は修士論文)と
なっている。教員養成では実習を重視 してお り、実習は
4段
階に 分かれている。単位数は18〜28単位である。・ 実習1(1年次):2週間程で、大学 に併設 された 附属小学校 において学校の運営や内容 について観察 す る。
゛実習2(2年次):理論的な学習に密接に結びつい ているそれぞれの科 目について実習を行 う。
・ 実習3(3年次):より応用的なもの とな り、授業 等を学生 自身が考えて実現す る実習を行 う。
・実習4(4年次):附属小学校を離れ一般の公立校 において実際の授業を企画・ 実施す る内容 を
3週
間 行 う。小学校教員養成学科で重要なことは、様々な学問に