両院制についての若干の考察
著者名(日) 鈴木 法日児
雑誌名 宮城教育大学紀要
巻 42
ページ 13‑25
発行年 2007
URL http://id.nii.ac.jp/1138/00000073/
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ᴮ 問題
両院制の問題は、わが国では参議院の問題である、
と言ってよい。参議院が存在するから両院制になるの で、存在しなければ一院制になるからである。
一般に、民選議院である下院(身分制議会の第三身 分。かつては「第二院」といわれ、今では「第一院」
といわれる)について、そのありよう
3 3 3 3
はともかく、そ の存在理由自体を問うような議論は、全員集会の直接 民主制論以外には、もはや存在しない。けれども、上 院(かつては「第一院」といわれ、今や「第二院」と
いわれる)については、どういう制度にするかを含め、
その存在理由を問う議論が、一院制論者などから提起 されてきている。すなわち、民意(ᴮ)を反映する下院 があれば、それで十分であって、民意を反映しないよ うな上院は無駄・有害であること、たとえ民意を反映 する上院だとしても、下院に表現された民意と上院に 反映された民意について、軽重をつけ調整することは 困難であって、むしろ混乱を招きかねないことなど が、指摘されている(ᴯ)。従って、両院制(自律的な議 院がᴯつあり、立法権などの権能行使を分担する制度 と定義される(ᴰ))を採用する場合、下院と異なる民意
ᴪ±³ᴪ
ª鈴 木 法 日 児
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Ëåù ÷ïòäó: 衆議院(ôèå Èïõóå ïæ Òåðòåóåîôáôéöåó)
参議院(ôèå Èïõóå ïæ Ãïõîãéììïòó)
両院制(ôèå âéãáíåòáì óùóôåí)
内 閣(Ãáâéîåô)
責 任(òåóðïîóéâéìéôù)
* 社会科教育講座
⑴ 「民意」については種々検討すべき問題がある。「民意」に基づく政治は、民主政治に限らない。リンカーンのことばを借りれば「æïò ôèå ðåïðìå」は、どのような政治においても重要であって、これを軽視する政治は、悪政である。
をどう設定するのか、また、両院の異なる民意の調整 装置をどう設定するのかが常に重要課題になる。
ᴯ 類型
さて、この両院制を、上院のありよう
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に着目して、
大きく分ければ
3 3 3 3 3 3 3
、次のᴰ類型になる(ᴱ)。どの類型でも、
細かく見れば、それぞれにニュアンスが違うことは当 然である。以下、簡単にそのᴰ類型をみておくことに する。
【貴族院型】上院を貴族院とするのは、君主制及び貴 族制が存在しているときであって、そういうものが存 在しないところでは、もともと貴族院を置くことはで きない。モンテスキューが言うように、急進的な下院
(民選議院)と反動的な君主の間で、貴族院に重要な 役割が期待されることもあろう(ᴲ)。しかしながら、英 国のように、君主も貴族(院)も、言うならば「尊厳 的パート」(バジョット)を果たすに過ぎなくなった ときに、その貴族院が、あえて政治的実効的機能を発 揮するならば、かえってみずからの存在理由が問われ ることになる(貴族院改革・下院優越=調整装置)(ᴳ)。 わが国のかつての帝国議会が貴族院と衆議院の両院 制であったことに言及するならば、何といってもま ず、華族(この相当部分が貴族院議員になる)には、
皇室の藩屏としての役割が期待されていたことを看過 することはできない。また、両院対等のようにも見え るけれども、貴族院令(勅令)があり、議院法(これ は「法律」であるから、天皇が帝国議会の協賛―両院 対等―を経て制定する)があることにも留意すれば、
むしろ貴族院優位の側面があったとも言えよう。な お、貴族(華族)のすべてが構成員になるわけではな く、華族以外のものを一定程度含んでいたこと、また、
衆議院議員の選挙が制限選挙から始まっていること、
普通選挙になったときでも女性には選挙権はなかった ことにも注意しておくべきであろう。
【州代表型あるいは地方代表型】アメリカ合衆国議会 の両院制(憲法第ᴮ条第ᴮ節)は、建国のときの「大 いなる妥協」の結果であり、各州代表から成る、言う ならば「国際会議」が、上院となったことは、よく知 られていることである。だからこそ上院議長をどの州 から出すのかが問題となり、結局、副大統領を議長と することになった(第ᴮ条第ᴰ節第ᴱ項)ということ もあった。もっとも、下院では、人口の多い州にはそ れだけ多くの議席が割り当てられ、小さな州はそれだ け少ない議席しか割り当てられないけれども、上院 は、人口の多少に関係がないという面があることにも 注意しておくべきであろう。そして、弾劾裁判権が上 院に専属すること¨第ᴮ条第ᴱ節第ᴳ項©、一定の場合
(大統領が、条約を締結する際、及び一定の公職就任 者を任命する際)には上院の助言と承認が必要である こと¨第ᴯ条第ᴯ節第ᴯ項©以外は、上・下院は対等 である。
第ᴲ共和制のフランス議会は、国民議会(下院)と 元老院(上院)の両院制であり(憲法第²´条第ᴮ項)、
国民議会議員は直接選挙により選出され(同条ᴯ項)、
元老院は、共和国の地域共同体(市町村、県など)の 代表を保障し、国外に居住するフランス人は元老院に おいて代表されることとなっており、間接選挙制であ る(同条第ᴰ項)。
ドイツの場合に言及すると、連邦参議院の構成は、
ラント政府が任免するラント政府構成員によって組織 され(憲法第µ±条)、この連邦参議院を通じて、ラン トは、連邦の立法及び行政並びに欧州連合の事務に協 力する(第µ°条)。しかし、連邦議会と連邦参議院を 総括する名称はなく(第ᴰ章が連邦議会、第ᴱ章が連 邦参議院)、両院制だとしても特殊ではあるが、連邦 議会と連邦参議院があり、双方が立法権等を担ってい るという意味では、両院制と言える(ᴴ)。
なお、以上のように、州(地方)代表を、選挙で選 任するものとそうでないものとがあること、選挙で選
ᴪ±´ᴪ
⑵ 同様の問題は、「民意」を反映する機関が複数になるような制度(議員だけでなく執行部の長も選挙で選出されるときなど)にお いて、またレファレンダムに示された民意と議会(両院)等に示された民意がある場合に、生じる。
⑶ 自律的な議院がᴯつあるという定義では、戦後ドイツの場合、かならずしも両院制にならない。他方、立法権を分担するというだ けの定義では国王なども含まれてくることになる。原田一明「議会制度−議会法学入門」信山社、±¹¹·年、±´±頁参照。
⑷ なお、職能代表型を含めればᴱ類型になる。これは、職能の分類が困難であること、また分類された職能への議席配分に恣意的な ものが介入しやすいことが問題である。
⑸ モンテスキュー「法の精神」。ここで、モンテスキューは、司法はある意味で「無」であり、言わば「有」は、立法と行政を担う 政治的機関であることを示唆しており、君主、貴族院、庶民院のᴰ者関係如何の問題に言及している。
⑹ 英国における、±¹±±年議会法成立の経過を参照のこと。
任するときには、次の民選型に近づくことに注意して おきたい。
【民選型】以上のような両院制については、それなり の存在理由があると言えるが、上院も、下院と同様に
3 3 3 3 3 3
、 民選型になるとき、同じものがどうしてᴯつ必要か、
から問題になる。上院が、下院の「カーボン・コピー」
や「第二下院」では、意味がないどころか、無駄ある いは有害だと見られるからである。そして、ここを、
任期、選挙などにおいて工夫したり、構成に地域性を 加味したり(地方代表型に近づく)したとしても民意 がᴯつになることは避けられないので、最終的な民意
(国家意思)をᴮつにするために一定の調整装置が不 可欠になることは必然である。そこまでして上院をお く理由としては、「補完の府」、「反省の府」等々として、
一層慎重な審議を行うためだと言われたりする。言い 換えれば、急進的になりがちな下院にブレーキをかけ る役割が期待されるとも、あるいは複数(時点)の民 意を汲み上げつつ、政治が、全体として真に民意(ᴵ)
に沿うことが期待されるとも、言うことができよう。
わが国は、戦後、日本国憲法において、この民選型 の上院(参議院)をおくこととなった。すなわち、上 院(参議院)も、下院(衆議院)と同様、全国民を代 表する選挙された議員で構成されることになったので ある。
わが国会の両院制については、章を改めて、詳しく 見ておきたい。
ᴰ 日本国憲法の採用している両院制
国会については、一院制案もあったが、結局のとこ ろ、衆議院と参議院の両院制になったことは周知のこ とであろう。この経緯には言及しないが、参議院も、
衆議院と同様に、「全国民を代表する選挙された議員 で組織」されることとなった(憲法´³条)(ᴶ)。以下、
両院に関する規定を逐条的に見ておくこととする。厳
密ではないが、( )括弧は、両院対等の場合を、〔 〕 括弧は、相違(優越を含む)がある場合を示すことに する。
(ᴮ) 皇室の財産授受については、国会の議決が必 要である(ᴵ条)。両院対等である。
(ᴯ) 衆議院と参議院とで構成される(´²条)国会 は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関で ある(´±条)。もっとも、後述するように、法律案は 両院で可決されたとき法律になるのが原則であるが、
例外として衆議院の優越がある。が、衆議院が最高機 関になり、参議院が最高機関でなくなるわけではない だろう。
〔ᴰ〕 任期等について。´µ条によれば、衆議院議員 の任期はᴱ年である。但し、解散の場合には、任期満 了前に解散の時点で、任期は終了する。他方、´¶条に よれば、参議院議員の任期はᴳ年である。但し、第ᴮ 期の参議院議員の半数はᴰ年の任期とし(±°²条)、以 後、ᴳ年任期になる。ᴰ年ごとに半数を改選する。
任期の長短、解散の有無、参議院議員の半数交代(衆 議院議員の全員交代)は明々白々である。いくつか注 意しておきたいことがある。第ᴮに、任期満了の選挙 はᴱ年毎(衆議院・全議員)とᴰ年毎(参議院・半数 の議員)なので、±²年毎に、衆参の選挙が行われるこ とになっている。が、もちろん、衆議院解散があるの で、実際には、このようにはならない。第ᴯに、注意 しておきたいのは、国会の解散ではなく、衆議院の解 散だということである(±°)。第ᴰに、衆議院の場合、
任期が原則で、解散の場合には例外的に任期が期間満 了前に終了するということである。しかし、実態は、
期間満了前に任期の終了するケースがほとんどであ り、任期満了のケースは、むしろ例外的である。この 点について、本稿筆者は、かねて疑問を述べてきたと ころである(±±)。第ᴱに、このような相違が、どうい う制度目的に由来するのか、という問題である。憲法 自体は、相違に言及するのみで、どうしてそのような
ᴪ±µᴪ
⑺ 前田英昭「国会と政治改革」小学館、²°°°年、²µ頁は「(連邦)参議院議員を邦の代表者の兼務とし、その権限を弱くしてあるので、
正確には二院制とは言いがたい」という。
⑻ 「真に民意」と述べたが、ルソーの言葉を用いれば「一般意思(総意)」ということになろう。
⑼ 経緯に関しては、±¹´¶年ᴯ月にGHQから提示された案では、一院制であったこと、両院制の場合でも上院を民選議院とすること が肝要だったことは、留意してよいであろう。また、憲法上、参議院議員もまた「代議士」になったと言えるが、今でも「代議士」
というと、衆議院議員のみを意味する。
⑽ 帝国憲法でも衆議院の解散であった(第ᴴ条)。イギリス議会は、庶民院の解散ではなく、議会の解散である。
⑾ 衆議院の解散が¶¹条の場合だけかどうかについて、無限定説がほとんど定説になっているが、筆者は限定説が妥当だと考えている。
拙稿「衆議院解散権について」紀要±·巻など参照。
相違をおいたのかについて格別言及してはいない。と もあれ、衆参両院をおく以上はどこかに相違をおかな ければならないので、こういう相違をおいただけのよ うでもある。
このような相違の結果、民意を問う機会が、①ᴰ年 ごとの半数改選の通常選挙(参議院)、②ᴱ年ごとの 任期満了総選挙(衆議院)、そして③解散―総選挙(衆 議院)のᴰつになっていることは重要だと思われる。
また、衆議院の場合には、全議員の構成に民意が反映 されると言えるけれども、参議院の場合には、半数の 議員の構成に反映される民意と残り半数の議員の構成 に反映される民意との、言わば二つの民意の合成にな ることにも注意しておきたい。なお、ᴰつの機会の「民 意」を比較して、③が最重要であるかのごとく、軽重 を論じることはできないことにも注意しておきたい。
〔ᴱ〕 議員定数¨´³条ᴯ項©、議員及び選挙人の資格
(´´条)、議員の選挙に関する事項(´·条)のᴰ点が 法律事項になっていること。法律事項という限りで両 院対等であるが、この法律についても、後述するよう に、衆議院の優越がある。
法律で定めるとしても、ᴯつの議院をおきながら、
全く同じように定めることが期待されているとは思わ れない。もちろん、しかし、全く異なるように定める ことが期待されているとも思われない。これらの点で 全く同じように定めても、賢明かどうかはともかく、
憲法に違反するわけではない。任期等について、憲法 は、明白に異なるようにしているからである。いずれ にせよ、衆議院の優越が機能するとすれば、衆議院の 考えが立法化されることになろう。
実際に、法律の定めるところを確認しておこう。
a まず議員定数について。変遷があるが、現行は、
衆議院議員´¸°人、参議院議員²´²人である(公職選挙 法ᴱ条ᴮ項及びᴯ項)。両院対等という考えを貫き、
全く同数にしてもかまわないが、衆議院の優越を強 調・拡大して、参議院議員の定数を極端に少なくする ことも可能である。とはいえ、一方の議員定数をゼロ にすることは、一院制にしてしまうことを意味し、憲 法に違反する。議院の規模をどのように設定するのか
については、いろいろの考え方があろう。人口・選挙 人人口の(推移を含む)問題があるし、可能な限り多 い方がよいという考え(直接民主制の発想に近づく)
もあろうし、反対に、議論可能な人数にしようという 考えもあろう。両議院の議員定数の総数をどの程度に するか、定数バランスをどうするかなどの問題もあろ うが、それを憲法に違反するとはいえない(±²)。 b 選挙人の資格(選挙権)は、衆参とも同じになっ ている(公職選挙法ᴶ条ᴮ項)。
c 議員の資格(被選挙権)は、衆議院議員は²µ歳 以上、参議院議員は³°歳以上となっている(公職選挙 法±°条ᴮ項ᴮ号及びᴯ号)。参議院を「良識の府」に、
という議論の根拠のᴮつはここにあるであろうか(±³)。
「良識の府」のもう一つの論拠は、全国区にあったと 思われるが、すぐ後で見るように、今では、変更され て比例区になっている。
d 選挙について、簡単にみておきたい。衆議院議 員の総選挙は、³°°の小選挙区から³°°人の議員を(公 職選挙法別表第一参照)、ブロック毎の比例代表選出 議員として±¸°人の議員を(公職選挙法別表第二参照)
選出する。「小選挙区選出議員及び比例代表選出議員
ごとに」ᴮ人ᴮ票である(³¶条)。小選挙区においては、
政治団体若しくは個人が立候補を届け出る(¸¶条ᴮ 項、ᴯ項及びᴰ項)。比例代表の場合には、政治団体 が順位を付した名簿を届け出る(¸¶条のᴯ)。
他方、参議院議員通常選挙は、選挙区選出議員とし て±´¶人の半数(·³人)、全都道府県を通じて行う比例 代表選出の議員として¹¶人の半数(´¸人)を選出する。
「選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに」ᴮ人 ᴮ票である(³¶条)。選挙区においては、個人が立候 補を届け出る(¸¶条のᴱ第ᴮ項及び第ᴯ項)。比例代 表の場合は、政治団体が、順位を付さないで名簿を届 け出る(¸¶条のᴰ)。
細かい点では、相当に異なるけれども、並立制であ ること、一方が比例選出であること、政治団体に届出 を認めていることのᴰ点は、同じだと言ってよいであ ろう。
しかしながら、参議院が、衆議院の「数の政治」、
ᴪ±¶ᴪ
⑿ 率直に言って、筆者は、議員定数を現行よりもずっと少なくしてもよいのではないかと考えている。人口減の傾向もあるし、市町 村合併、財政赤字という事情もあるからである。
⒀ 「良識」が参議院についてだけ言われることには、衆議院との対比だとしても、違和感がある。衆議院議員もまた「良識」を求め られるだろうからである。
言い換えれば、党派中心の政治と異なる「理の政治」
を行うところだという考えは、政治団体が衆・参双方 で立候補届出に関与することを認めた現行法のもとで は、すっかり否定されていると言わなければならない だろう。賢明かどうかについては疑問なしとはしない が、これを憲法違反ということはできない(±´)。 (ᴲ) 両議院の議員の特権(歳費を受ける権利・´¹ 条、不逮捕特権・µ°条、免責特権・µ±条)。いずれの 議員も同じ特権を有する。が、「法律の定めるところ により」歳費を受ける権利があるので、法律で差異を 設ける可能性があることは否定できないが、同額にす るのが適当であろう。他方、µ°条の「法律の定める場 合」(院外の現行犯の場合及び院の許諾のある場合:
国会法³³条)については、実際上、差異を設ける意義 はとぼしいと思われる。
(ᴳ) 両院同一会期であること。その理由として は、①「国会を召集する」(ᴴ条ᴯ号、µ´条ᴮ項、·°条)
のであって、議院を召集するのではないこと、②また、
衆議院が解散されたとき、参議院は同時に閉会となる こと(µ´条ᴯ項)(±µ)、③さらに、国会の会期中(µ°条)、
国会の常会¨µ²条©、国会の臨時会¨µ³条©という表現に なっていることをあげることができる(±¶)。
〔ᴴ〕 衆議院が解散されたときには、国会は(参議 院は同時に)閉会となり、解散の日から´°日以内に衆 議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から³°日以内 に、国会(特別会)が召集される(µ´条)。この特別 会では、選挙結果の如何にかかわらず、内閣は総辞職 しなければならない(·°条)。もっとも、衆議院議員 の任期満了後の総選挙の場合でも、その後の国会(臨 時会。国会法ᴯ条のᴰ)において、同様に内閣総辞職 となる(·°条)。
解散の場合にはµ´条の規定があるのに、任期満了の 場合にはそれに相当する規定がないということは興味 深い。内閣が衆議院を解散したときに、総選挙をしな い、あるいは総選挙をしても国会(特別会)を召集し ない、ということを許すことはできないからだと思わ れる。が、任期満了のときに、内閣が、総選挙や国会 召集を阻止するようなことは、およそありえないこと だと考えたのであろう。
参議院議員の通常選挙についても、その後の国会召 集についても、憲法は格別言及していない。公職選挙 法が、選挙の時期について規定し(³²条)、国会法が、
臨時会を召集しなければならないと定めている¨ᴯ条 のᴰ©。しかも、参議院の通常選挙後の臨時会で、選 挙結果如何にかかわらず、内閣が総辞職しなければな らないのかどうかについては、どこにも何も規定はな い(±·)。
〔ᴵ〕 そして、衆議院解散から国会(特別会)召集 の間は、衆議院不在の(衆議院議員がいない)言わば 空白期間(国会閉会中)である。この期間に、国に緊 急の必要があれば、内閣は、参議院に緊急集会を求め ることができる(µ´条ᴯ項。ᴰ項参照)。
なお、衆議院議員と参議院議員の任期満了の場合に は、そのような空白の期間が生じないように、選挙日 程をきめることになっている(公職選挙法³±条及び³² 条参照)。
〔ᴶ〕 資格争訟の裁判(µµ条)は、両議院が各々行 う。具体的にどういうふうにこの裁判を行うかは、両 議院で異なる可能性がある。
(±°) 議事及び議決の定足数と議決方法¨µ¶条©は、
両議院とも同じである(±¸)。
(±±) 両議院の会議の公開等(µ·条)。本会議につ
ᴪ±·ᴪ
⒁ 前田・前掲、µµ頁は、「 参議院は、衆議院のように 「 数 」 が物をいうのでなくて、「質」が問題とされるのである。一般に言われる 「 良識の府 」 とは、このようなことを指して言うのであって、参議院議員にだけ衆議院議員以上の「良識」を求めるという趣旨では 決してない 」 と言う。しかし、「良識」も「質」も「理」も「数」(定足数や多数決)も、両院共通のことではないだろうか。なお、
前田・前掲、´¸頁以下には「政府の参議院工作」が紹介されている。興味深いものがある。しかしながら、もちろん、参議院には、
会派を認めない、あるいは認めたとしても党議拘束を禁止するなど独自の工夫の余地があるが、議院規則などの問題であろう。
⒂ もっとも「参議院の閉会」という表現には疑義がある。議院の閉会があるかのような表現だからである。衆議院が解散されたとき、
「国会が閉会になる」というべきであろう。
⒃ 休会についても、国会の休会であり、議院の休会はない(µ¹条ᴱ項、¶°条)。なお、自然休会のごとき慣行は、トラブルの原因に なり得る。「国会休会中」に入るのかどうかは直ちに問題になる。
⒄ 選挙結果を見て「敗北」を認め、直ちに総辞職した例がある。「敗北」しない限り、総辞職することはないであろう。
⒅ 本稿の趣旨からはずれるが、指摘しておきたいのは、議決の定足数は、正規の議決が複数存在することを防止することにあるとい うことである。帝国憲法の起草者には、このことがわからず、またイギリス議会の定足数のことも理解できず、ᴰ分のᴮとされ、
以降、今の国会にも踏襲されている。が、議決の定足数がᴰ分のᴮだということは、正規の議決が最大ᴰつ生じる可能性があるこ とを意味する。このような場合を予測すれば、議決の定足数は、過半数(以上)でなければならないところである。この間隙を突 く事態が生じていないのは、むしろ不思議である。議事について、閣僚の出席を重視するからであろうか。
いては両議院とも同様である。
〔±²〕 役員選任、議院規則(会議その他の手続き及 び内部規律)の制定改廃、懲罰は、両議院が各々行う
(µ¸条)。したがって、その具体的な方法・内容が異 なる可能性がある。例えば、議院規則の内容が両院と も同じであることは期待されていないと思われる。
しかしながら、議院規則と「国会法」の関係につい ては、検討すべき問題がある。「会議その他の手続き 及び内部規律」という規則の所管事項を、規則の排他 的(専属的)所管事項と考えれば、法律(国会法)は、
その事項について制定すべきではなく、制定されても 無効である、ということになる(A説)。しかし、そ の規則の所管事項を、法律で定めてもよい「競合的な 所管事項」だとすると、法律と規則の優劣関係の問題 が生じる。規則優位説(B説)と法律優位説(C説)
がある。Ã説は、結局、この点で(も)、衆議院の優 位を認めることになる。(±°)及び(±±)で言及した 事項以外の「会議その他の手続き及び内部規律」につ いて、両院の議院規則が同じ内容であることが期待さ れていないとすれば、Ã説は妥当でない。法律につい ての衆議院の優越を考えれば、競合的な所管事項と考 えることに賛成しがたい。
議院規則の定め如何によって、両院制の様相は相当 に変動する。極端に言えば、衆議院が右と決めれば、
参議院は左と決めることさえあってよいであろう。し かしながら、規則と法律の間に 、 現実には、矛盾がな く、上記問題が理論的なものにとどまるということ自 体、むしろ両院制への無理解を示すもののように思わ れる。
〔±³〕 法律案は、両議院で可決したとき法律となる のが原則である(µ¹条ᴮ項)。「国会が・・・国の唯一 の立法機関である」という´±条の規定と整合する。
が、例外として衆議院の優越がある。衆議院で可決 した法律案について、参議院が、これと異なる議決を したとき(国会休会中の期間を除いて¶°日以内に議決 しないときには、否決とみなすことができる)、衆議 院で、出席議員のᴰ分のᴯ以上の多数で再可決したと
きには、法律になる(µ¹条ᴯ項ᴰ項ᴱ項)。
再可決の要件(出席議員のᴰ分のᴯ以上)が厳しく、
また¶°日が、会期に比して長いために、言われるほど 衆議院の優越が機能するわけではない。機能しにくい ために、参議院が「意外に」強いと言われたりするこ ともある(±¹)。
なお、ᴮ項に原則(対等)、ᴯ項以下に例外¨優越© という規定の仕方になっていることにも注意しておき たい。
(±´) 両議院の協議会(µ¹条ᴰ項、¶°条ᴯ項、¶·条 ᴯ項)。両議院の議員が同数で構成されることになっ ている(国会法¸¹条)。議員定数に比例するわけでは ない。
〔±µ〕 予算は、内閣が作成して国会に提出する(·³ 条ᴲ号)。¶°条ᴮ項は、「さきに衆議院に提出しなけれ ばならない」とする。そして、国会の審議を受け議決 を経なければならない(¸¶条)から、両議院で可決し たときに成立することが原則である。
しかしながら、参議院が衆議院と異なった議決をし て、両院協議会を開いても意見が一致しないとき、又 は、参議院が、衆議院で可決された予算案を、国会休 会中の期間を除いて³°日以内に議決しないとき、衆議 院の議決が国会の議決になる(¶°条ᴯ項)。
³°日と短い上に(予算は、常会で審議・議決される が、その常会の会期は±µ°日間である。国会法±°条)、
再可決が不要であるために、これは、機能するのが普 通で、機能しないことはない。その意味では、典型的 な優越で、「一院制的」とさえ言える。
もっとも¸¶条が原則で、¶°条ᴯ項が例外(優越)と いう規定の仕方には、やや違和感があるが、優越が機 能するので、原則−例外の関係の逆転を想定してのこ とかもしれない。また、思えば¶°条ᴮ項も例外である が、原則を当然視しているのでろうか。
〔±¶〕 条約締結の承認について、原則は、·³条ᴰ号 に定められていると言えよう。承認案は両議院が可決 したとき、承認される。
承認案は、予算案とは異なり、いずれの議院に出し
ᴪ±¸ᴪ
⒆ この意味では、もともと「強い」とも言える(例えば、大山礼子「国会学入門(第ᴯ版)」三省堂、²°°³年、±µ´頁以下、参照)が、
実は両院対等なのである。
けれども、このことが、参議院に対する牽制のように言われることがある。特に、衆参の第ᴮ会派が異なるときには、この「強み」
が発揮されようし、それに対する牽制もまた強まることであろう。参議院に対する牽制として、衆議院を解散するという例さえ存 在するが、そのような解散には疑義がある。予算を否決した貴族院に対する牽制として、議会(庶民院を含む)を解散した有名な 例がイギリスに存在するが、これと同一視することはできない。
てもよい(¶°条ᴮ項を準用していない)が、参議院が 衆議院と異なった議決をして、両院協議会を開いても 意見が一致しないとき、又は、参議院が、衆議院で可 決された承認案を、国会休会中の期間を除いて³°日以 内に議決しないとき、衆議院の議決が国会の議決にな る(¶±条は、¶°条ᴯ項を準用するとする)。
これも上記予算と同様、機能する優越である。また、
原則−例外の規定の仕方も、予算の場合と同様であ る。逆転を想定しているのかもしれない。
(±·) 国政調査権(¶²条)は、国会の権能ではなく、
各議院の権能である。従って、具体的な権能行使を、
それぞれの議院で行うことは言うまでもない。
(±¸) 内閣総理大臣及び国務大臣の議院出席(¶³ 条)。議席を持たない大臣も、議院に出席し、発言す ることができるし、求められれば、出席しなければな らない。衆議院(参議院)には出席しなければならず、
参議院(衆議院)には出席しなくても良い、という制 度ではない。両院対等である。「責任」(¶¶条ᴰ項)と かかわる問題があるが、後述する。
(±¹) 国会に弾劾裁判所をおく(¶´条)。各議院に おくのではない。資格争訟の裁判(µµ条)とは異なる。
弾劾裁判所の裁判員は、両院同数となっている(国会 法±²µ条)。議員定数に比例するわけではない。
(²°) ¶¶条ᴰ項は、「内閣は、行政権の行使につい て、国会に対して連帯して責任を負ふ」と規定する。
「国会に対して」と規定されているが、「衆議院及び 参議院に対して」と理解されている。他にもこのよう な表現があり、格別問題はないであろう。「国会に対 して」という以上、両院対等であることは確認してよ いであろう。もっとも、それを文字通りに理解し、言 うならば意思統一した「国会に対して」と解すれば、
その意思統一が両院対等かどうか、という問題が出て くることになろう。
ここで「責任を負ふ」とはどういうことかについて は、特に¶¹条(衆議院及び国民に対する内閣の責任)
との関係を含めて、検討すべき問題がある。これは、
特に本稿において検討したい問題であり、次章で述べ ることにする。
〔²±〕 内閣総理大臣は、国会議員(「衆議院議員又 は参議院議員」と解される。総理大臣がᴮ人である以 上、「又は」と解するほかはない。)の中から、国会の 議決で指名される(¶·条ᴮ項)。これが原則であるが、
参議院が衆議院と異なった指名の議決をして、両院協 議会を開いても意見が一致しないとき、又は、参議院 が、国会休会中の期間を除いて±°日以内に指名の議決 しないとき、衆議院の議決が国会の議決になる(¶·条 ᴯ項)。
実際に機能する優越であり、原則と例外の逆転は、
規定の仕方と違って、一層明確である。実際、内閣総 理大臣は、衆議院の指名の通りになる。それだけでな く、衆議院議員の中から指名しているかのようにさえ なっている。参議院議員の中から、内閣総理大臣が指 名されたことがない。まさに「一院制的」である。
〔²²〕 法律、予算、条約締結の承認、内閣総理大臣 の指名のᴱつの場合については、上記のように、両院 対等原則の例外として衆議院の優越が明確に規定され ている。が、実は、法律が、このᴱつの場合以外に優 越を拡張している。
そのᴮつは、特別会及び臨時会の会期と会期(常会 を含む)延長で、両議院一致の議決で定めることに なっているが(国会法±±条及び±²条ᴮ項)、この例外 として、両議院の議決が一致しないときや参議院が議 決しないときは、衆議院の議決したところによること となっている(国会法±³条)。また、かつては、会計 検査院の検査官任命についての両議院の同意について も衆議院優越が存在した。いずれにせよ、機能する優 越であることは明白である。
しかし、このような拡張を、法律で行い得るのかど うかは、実は、問題である。国会の議決ではなく、両 議院一致の議決(両議院の同意)だから可能であると も説明されているが、そうだとしても、このような拡 張を、法律で行うことが可能なのだろうか。可能だと しても、無制限なのであろうか。もし制限がないとす れば、参議院は、それだけ存在理由を失うことになろ う。
もちろん、法律の場合、衆議院の優越があるので、
衆議院の意向が通ることになるとはいえ、その優越が 機能しにくいという事情のもとでは、参議院が抵抗す れば、そのような立法は成立するはずがないと思われ るところである。にもかかわらず、上記のような実例 が存在するのは、結局、参議院(与党?)がそのよう な拡張を受け入れたということを意味すると言ってよ い。これが、参議院の言うならば自殺行為、あるいは 自殺行為になるおそれがあるとすれば、憲法違反と評
ᴪ±¹ᴪ
価され得るのではないか。憲法の想定する両院制とは 異なるからである。
(²³) 国務大臣の過半数は、国会議員(「衆議院議 員及び参議院議員」と解される)の中から選ぶ必要が ある(¶¸条ᴮ項)。「過半数」としているので、議員で ないものも、国務大臣に選ばれることがある(半数未 満)。国会に対する「責任」の関係では、¶³条、ひい ては、¶¶条ᴰ項や¶¹条とつなげて理解すべきである。
なお、一方の議院の議員のみを選ぶ(他方の議院の 議員がゼロという)ことも可能である。「衆議院の優 越」の考えを強調・拡大して、参議院議員を国務大臣 にしない、という考えもありえよう。もちろん、両院 対等を強調する立場からすれば、国務大臣は、両院同 数(程度)にする、という考えもあろう(両院協議会 や弾劾裁判所と同様に)(²°)。
〔²´〕 ¶¹条は「衆議院で不信任決議案を可決し、又 は信任の決議案を否決したときは(以下、両者をまと めて「不信任」という)、±°日以内に衆議院が解散さ れない限り、内閣は総辞職しなければならない」と定 めている。
内閣は、衆議院において、不信任になったときには、
直ちに総辞職するか、あるいは、衆議院を解散し(¶¹ 条)、総選挙を行った(µ´条)上で、特別会で総辞職 する(·°条)かの選択を迫られるのである。
参議院が、同様の決議をすることができるかについ ては、否定的に考えられている。より正確にいえば、
同様の決議をしても、その効果は、¶¹条のような規定 が参議院にない以上、法的なものではない、と考えら れている。¶¶条ᴰ項の規定する「責任」は、¶¹条とは まったく別個のものと理解されている。が、以上の考 えには疑義があると言わざるを得ない。次章で検討し たい。
(²µ) 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会 に提出する(·²条)。ここで国会とは、衆議院「又は」
参議院と解するのが妥当であろう。「及び」と解する 余地がないでもないが、それでは煩雑である。議案が、
予算の場合には「衆議院」に提出する。一般国務及び 外交関係については、国会(衆議院及び参議院)に報 告する(·²条)。
〔²¶〕 最高裁判所裁判官の国民審査は、任命後初め て行われる衆議院議員総選挙の際、その後±°年を経過 した後初めて行われる衆議院総選挙の際に、行われる
(·¹条ᴯ項)。国民審査は、参議院の通常選挙とはまっ たく連動しない。
(²·) 国の財政処理権限の行使(¸³条)、国費の支 出・国の債務負担行為(¸µ条)、予備費の設置(¸·条)
は、国会の議決に基く必要がある。両院対等である。
〔²¸〕 皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を 経なければならない(¸¸条)。予算については、既に 見たように、衆議院の優越がある。
(²¹) ¹°条ᴮ項:内閣は、決算及び検査報告を国会 に(「衆議院及び参議院に」と解されている)提出する。
両院対等である。
(³°) ¹±条:内閣は、定期に、少なくとも毎年ᴮ回、
国の財政状況を国民及び国会(「衆議院及び参議院に」
と解される)に報告しなければならない。両院対等で ある。
(³±) ¹¶条ᴮ項:憲法改正の発議及び提案。「各議 員の総議員のᴰ分のᴯ以上の賛成で」とあるので、例 外(衆議院の優越)の余地はない。両院対等である。
(³²) ¹¹条:憲法尊重養護義務は、国会議員(衆議 院議員及び参議院議員)にある。一方の議員にのみあ るのではない。
(³³) ±°°条ᴯ項は、憲法施行期日の前に、国会召 集の手続き等を行うことができるようにした規定であ る。また、±°±条は、憲法施行の際、参議院未成立の ときには、衆議院が国会としての権限を行うこととし た規定である。その他、省略する(±°°条ᴯ項、±°±条、
±°²条、±°³条参照)。
以上、衆参が対等かどうか、相違がどこにあるのか、
衆議院の優越がどうなっているのかを、条文にそっ て、思い込みでなく公平に
3 3 3 3 3 3 3 3 3 3
、見てきたところである。
が、なお、検討すべき課題を残している。それは、責 任の問題である。章をあらためて検討しよう。
ᴱ 責任
(ᴮ) まず¶¹条を再確認すると、ここには、責任と
ᴪ²°ᴪ
⒇ 参議院から何人を入閣させるかについては、ᴯ名という「約束」があると言われているが、一方では、この「約束」を反故にして、
ゼロにすべきだという意見などもあるようである。
いう言葉はないけれども、内閣の、衆議院に対する責 任(総辞職)、ひいては、国民に対する責任(解散―
総選挙)への言及があり、いずれにせよ、内閣は、不 信任になった国会で、あるいは、総選挙後の国会(特 別会)で、総辞職することになっている。そして、こ こでいう責任が、総辞職につながるような責任(法的 な責任ということができる)であることも明白だと 言ってよい。
以上のことを別の面から言えば、衆議院は、内閣の 責任を追及して、不信任を決議することができるとい うことであり、不信任になれば、内閣はただちに総辞 職するか、あるいは衆議院を解散し、総選挙を通じて、
国民に対して責任を問うか、決断しなければならな い。衆議院を解散して総選挙をするのは、どこまでも 衆議院における不信任の問題について民意を問うとい う意味であることは、明白である。そうでなければ、
国民に対する責任ではなくなる(²±)。もっとも、国民 が 、 直接に、内閣の責任(進退を含めて)を問う方法 はない。あっても請願などにとどまるだろう。リコー ルはない。この点、衆議院に対する責任とは明らかに 異なる。
(ᴯ) さて、内閣・大臣には、言わば執行責任があ り、説明責任があることは言うまでもない。¶³条は、
後者を明確に規定しており、議席のない大臣でも、出 席して説明しなければならない場合がある。提出した 議案(·²条。なお議案にいろいろのものがあることは 言うまでもない)について説明責任があることは当然 だし、µ·条(会議の公開等)、¶²条(国政調査権)、·² 条(一般国務及び外交関係の報告)、¹°条(決算及び 検査報告)も忘れるわけにはいかない。もちろん、こ こでとどまるとは限らない。説明責任が果たされず、
あるいは執行責任の問題が明確になれば、国会におい て、各大臣が不信任になることもあるし、内閣が不信 任になることもあるだろう。
衆議院において、内閣不信任の事態になったときに は、上記(21)の通り、総辞職するか、衆議院を解散す る(総選挙を通して民意を問う)か、ということにな る。が、しかし、参議院において、内閣不信任という 事態が生じたときにどうなるのかについて、憲法は、
沈黙している。そういう事態が参議院においては、生 じないのでろうか。生じないのであれば、沈黙は了解 できるかもしれないが、しかし、実際、本当に生じな いのかどうか。しかしながら、これが、現実に生じう る事態であることは、何人も否定できないのではない か。¶¹条が衆議院についてのみ規定して、参議院につ いて沈黙しているとしても、現実にあり得る事態だと すれば、憲法は、この点について、どう考えているの であろうか。
(ᴰ) 通説によれば、こうである。憲法は、この点 について何も規定していないので、参議院におけるそ のような事態は、言わば「政治的に」対処するほかは ない。たとえ不信任になったとしても、正確に言えば、
信任決議案や不信任決議案は、衆議院においてのみ可 能であり(¶¹条)、参議院では問責決議案が可能だが、
たとえそれが可決されたとしても、「法的」効果は何 もなく(参議院について¶¹条のような定めがない以 上)、内閣は、憲法上、総辞職しなければならないわ けではない。
(ᴱ) しかし、このような回答は、十分に説得的で あろうか。この見解に対する疑問のᴮつは、参議院で は、与党が信任決議案を出すこともできないのだろう か、ということである。野党が、不信任決議案を出せ ないとしても、問責決議案を出すことができるのに、
それに対応する決議案(信任決議案というしかない)
を、与党は出せないのであろうか。奇妙なことである。
とはいうものの、実は、衆議院において、与党が信任 決議案を出したことがない、という実態がある。これ 自体、憲法の想定していることではない。野党の不信 任決議案提出の機先を制して、与党が、信任決議案を 出すこと―憲法の想定していること―がないのは、野 党に不信任決議案を出させて(出させないように努力 せずに)、否決すればよいという、与党のいわば一貫 した姿勢のためのようである。こういう感覚からする と、参議院でも、与党が信任決議案を出すようなこと はないので、野党が、不信任決議案ならぬ問責決議案 を出すことだけを想定すればよい(そして、その可決 の効果は、法的には何もない)というのが通説である。
このような通説は、わが国の実態を踏まえてはいる
ᴪ²±ᴪ
総選挙の争点は、解散の場合、内閣不信任そのものであるし、任期満了のときは、内閣・与党の実績が中心であって、いずれにせ よ責任問題である。が、いつでも解散・総選挙が可能だとすると、このときの争点は、責任との関係の有無にかかわらず、すべて のことを含むことになろう。
が、憲法の規定するところ(信任決議案)を無視して いるのではないかと思われる。通説の通説たる所以で あろうか。
(ᴲ) 通説に対するもうᴮつの疑問は、憲法は、本 当に何も規定していないのか、ということである。¶¶
条ᴰ項は、内閣は、「行政権の行使について、国会に 対して連帯して責任を負ふ」と規定している。この規 定からすると、参議院に対しても、衆議院に対してと 同様に、責任があるので、参議院で不信任になれば、
責任をとって総辞職しなければならないのではない か。参議院を解散することはできないので、もちろん、
民意を問うことはできない。選択の余地はない。総辞 職のみである。
この疑問に対して、通説は、¶¶条ᴰ項の責任とは、
総辞職につながるような、進退を左右するような責任 ではなく、「内閣が、・・・国会または各議院によっ て批判その他のコントロールを受ける地位におかれ、
国会各議院またはその議員に対して、そうしたコント ロールを実効的に行うべき各種の法的手段がみとめら れていることを意味する。かならずしも国会の意志に よって内閣が進退すべきであるという意味ではない。」
と答え、さらに、このように解すると、その責任は「通 常の意味における法律的な責任と意味を異にすること がわかる。・・・・衆議院の不信任決議によって内閣 が総辞職または解散のいずれかの道を選ばなくてはい けないことは、内閣が衆議院に対して法律的な責任を 負う場合と考えていいが、そのほかの場合には、そう いう法律的な責任ということはできない。それは、か ならずしも法律に無関係な責任というわけではない が、本来の法律的責任ではなく、たぶんに政治的道徳 的色彩を身につけた責任であるというべきである。」
という(²²)。
しかし、このような責任概念は、わが国固有の歴史 において誕生した独特な概念だと思われる。独特とい うのは、樋口陽一が言うように、西欧議会制度の歴史 にはない概念だからであり(²³)、そもそも責任概念の歪
曲であるというほかないからである。責任というの は、もともと、進退にかかわるものであり、最終的に 進退にかかわらないようなものを責任とは言わない し、進退とかかわらない責任とは、実は、責任の否定
½無責任というほかはない。執行すべきことを執行せ ず、説明すべきことを説明せず、最終的に進退に関係 しないとすれば、無責任体制である。
(ᴳ) ともあれ、こういう独特の責任概念が生まれ た事情について述べれば、帝国憲法時代、天皇に任命 された大臣は、もっぱら天皇に対して責任を負うの が、スジであって(帝国憲法µµ条ᴮ項)、帝国議会に 対して、ましてや衆議院に対して責任を負うことはあ りえない(明文の定めはない)。しかしながら、そう いう天皇制の中で、大臣が帝国議会・衆議院に対して 責任を負うべきだと解釈し、主張するときには、大臣 の天皇に対する責任(進退とつながる責任)と矛盾す ることのないような概念(政治的な責任)に、転換す る必要があったのではないかと思われる(²´)。
このようにして考え出された独特の責任概念は、し かし、日本国憲法の解釈に持ち込んではいけないもの なのではないか。日本国憲法にはどこにも、そういう 独特の責任概念を示唆する規定はないからである。
(ᴴ) そうだとすると、¶¶条ᴰ項は、内閣が、衆議 院及び参議院に対して、進退につながるような責任を 負うことを規定していることになる¨言うならば「国 会内閣制」©。他方、¶¹条は、衆議院の場合に言及し ているが、ここでも、原則は総辞職であることを明確 にしつつ、例外的に、衆議院を解散してもよい(言い 換えれば衆議院に対して責任を負わなくてもよい)こ ととし¨このような理解は、¶¹条の規定の仕方に合致
する©、そして解散した場合には、必ず総選挙を行い
(µ´条ᴮ項)、国民に対して責任を問うこととしたと 理解することになる(²µ)。
(ᴵ) このように理解すると、内閣総理大臣の指名 については、衆議院の優越があり、参議院が介入する 余地は少ないけれども、内閣の責任(不信任―総辞職)
ᴪ²²ᴪ
宮沢俊義著・芦部信喜補訂「全訂日本国憲法」、±¹·¸年、µ°¹−µ±²頁。その他、あまたある概説書も同趣旨である。
樋口陽一「憲法Ⅰ」現代法律学全集ᴯ、±¹¹¸年、³°¶−³°¸頁
宮沢・前掲、µ±²頁は「明治憲法は、もっぱら国務大臣が天皇に対して責任を負うことを求めており、国会(ママ、帝国議会ある いは衆議院)に対する責任については、なんら規定するところがなかった。しかし、実際政治の運用においては、国務大臣の責任 といえば、主として、なんらかの意味において議会に対する責任が理解されていた」と言う。なお、美濃部達吉の「憲法精義」や「憲 法撮要」を参照のこと。
このような理解からすると、衆議院解散権について、いつでも解散できるという無限定説は成り立たない。