金 沢大 学十 全 医 学会維 誌 第9 3巻 第5 号 7 1 3−73 5 く1 9 8 射
マ ウス の 食道 の構造と神 経 支 配
金 沢 大学 医学 部 解剖 学 針 儲 喋 く主任こ本 陣良 平 教授1
野 村 泰
囲了和5 9年1 0月1 8日受 付J
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マ ウス食道の構 造と神経 支配を, 組 織 化 学 的な ら びに電 顕観 察によ り検 索し た. 組織 化 学 的方 法に よ る と, 固 有 筋層 内の骨格 筋線 椎の運 動終 板に おけ る神 経終 末は, アセチルコ リンエ ステ ラ ーゼ清 性 陽性 で あ る■ これ らのアセチルコリンエステ ラ ー ゼ活性 陽 性の運 動終 板にお け る終 末は, 迷 走神 経切 断後 消失 す る. カ テコ ー ルアミ ン陽 性シナ プス終末と, アセチルコリンエステラ ー ゼ活 性 陽性シナ プス終 末の両者 が, 正常な筋層 間 神経 寮 内の神 経 細 胞上に見い出さ れ る. 筋 層 間神 経叢 内のカ テコ ー ルア ミン蛍光 陽性 終 末は, 交感 神経 節切除後, 消失し, アセチルコリンエステ ラー ゼ活 性陽 性 終 末は, 迷 走神 経切断後, 消 失 す る. 固有 筋 層, 粘 膜 筋 板およ び動脈 壁に おけ る平 滑筋 線 維 間の神経 網は, カ テコ ー ルア ミン陽 性の瘡状 線推な ら びにアセチルコリンエ ステ ラ ーゼ活性 陽 性の痛 状線 推の両 者を含ん でいる. その カテコ ー ルア ミ ン陽性 練椎は交 感神 経 節 切除 後, 消 失す る が, アセチルコリンエステ ラ ーゼ活性 陽性 線 維は迷 走 神経 切 断 後, 変 化し ない.
電 顕 観察に お いて, 運 動終 板の軸索 終 末は, 多数の無 顆粒 性シナ プス小胞を有す る. こ の軸 索終 末は,
迷走 神 経切 断 後, 変 性に陥る. 筋 層間 神 経 寮 内の局所 神 経細 胞の細 胞 体な ら びに突起上には, 2種の密接
シナ プス終 末が見い出さ れ る. す な わ ち, 小 額粒 性シナ プス小胞を有す る A 型 と, 小 顆 粒性シナ プス小胞 を含まず無 顆粒 性シナ プス小胞を含む B 塾であ る.A 型シナ プス終 末は交感 神 経 節切 除後 変 性に陥る のに
対し, B 塾シナ プス終 末は迷走 神 経 切 断後 変 性に陥る. こ の こと は, A 型が交 感神 経 節 由来の ア ドレナリ
ン作 動性 神 経線 維の シナ プス終 末に相 当し, B 型 が迷 走 神経 由 来の コ リン作 動 性神 経 線推の シナ プス終 末
に相 当す ること を 示 して いる. 平 滑 筋線 推 間の神経 網に見い出さ れ る癌 状 腰 大は, 多 数のシナ プス小胞を 含む軸 索腰大部と し て現れ る. その軸 索腰大 部は, シュ ワ ン稗を 一部 欠き, 平 滑筋 線維 間の組織 腱に直 接 面し, 0, ト1■0声m の比較的 広い間隙を もつ遠 距 離シナ プスを形成す る. その軸 索腰 大 部は, 2型に分 類 さ れ る. す な わ ち, 小 顆 粒 性シナ プス小胞を有す る 工 型終 末と, 無 額粒 性シナ プス小胞を有す る工1型 終 末
であ る. 工 型 は, 交感 神 経 節切除 後, 変 性に陥る が, 工工型 は, 交 感 神経 節 切 除あ るいは迷 走 神経切断後の いずれの場 合にも, 変 性を 示 さ ない. こ の こと は, 工 型 が交感 神経 節 由来のア ドレナ リン作 動性神 経 線 推
の シナ プス終 末に相 当し, 廿 型 が筋 層間 神 経 車 内の局所 神経 細 胞に由来す るシナ プス終 末に相 当す ること を 示 して いる.
Key w o rds e s ophagu s, adre n e rgi c nerv e fib ers, Cholin ergic n erv e fibers,
m ye nte ric plex u s, m O uS e
食道の機 能は, 咽頭から食 物を 蠣動運動によって胃
へ輸送す るにあ る が, その神経 支配 は, 古くから, 迷 走神経の枝を介す る中枢との反射によっ てな さ れ る と
されてき た1 ト 3 1. アカラ ジ ア や食 道けいれ ん症は, こ の
運動機能が障害さ れ た食 道 疾患と し て知ら れ 叫 ,食 道 壁の筋の構造と その神 経 支 配は臨床 的にも関心 を集め ている.
食道壁の筋に関し て は,食 道の上端 部と 下端 部が そ
れ ぞ れ括 約作用 を 示 すこと が生理学 的な ら びに薬理学 的実験 や臨床 的検査で認め ら れ ること か ら, そ れ ぞ れ の部位に上食 道 括 約 筋刀と 下食 道 括 約 筋6 榊 の存 在が 示唆さ れてきている. しかし, その構造の詳 細はいま だ 明確では ない. ま た, 食 道の固有 筋 層と粘膜 筋 仮に 関す る電子顕微 鏡く電願う 観 察に基づ く報 告は, わず
か にGr ube rl O Iと Sa m a r a singhe川の固 有 筋 層に関す る断片 的な報 告をみるにす ぎ ない.
A b bre viatio n 二F G S
,form aldehyde−gluta r aldehyde−S u C r O S e
714 野
食 道 壁の骨 格 筋の神経 支 配に関し て は, 筋 層 間神 経 草の神 経細 胞が関戸していないと す る説1 2,と, 関 与し
ている と す る説川と が対立 し ている. ま た,壁 内平 滑 筋
に対す る交 感 神経 支 配に つ いて は, 筋 層 間神経 叢の神 経細 胞に シナ プスを形成し, こ の神 経細 胞を介して間 接 的に支配す る との説1 机引, 節 後 線 推が平 滑 筋に分 布 し て直 接支 配す る との説1 6H 乃, およ びこれ ら両支 配 様 式が共に存 在す る と の説刷1 9I にわかれ ている.
一 方, 食 道 壁 内の求心性 神 経 終 末に関し て は,
Andr e w 2 01と Ig go2 11が, 上喉 頭 神 経と迷 達 神 経に含ま れて いる神 経線 維に対す る電 気 生理学的 検 索に基づい て, その存 在を 示唆し た. ま た, 各種の神 経 染色 法に よ り可 視 光顕微 鏡 く光顕1 下に上皮 内2 2 ト 2 4ミ粘 膜 下 層2 5I2 61, 固有 筋 層内2引お よ び筋 層 間細に自 由終 末や終
末小 体が見い出さ れ, さ らに筋 紡錘2 4 1の存 在も報 告さ
れてき ている. し か し, これ らの求心性 終 末に関す る 電 顕 検 索に基づ く報 告はいま だこれ を み ない.
以 上 の点を考 慮し, 著者は, マ ウス食 道に つ いて,
そ の微 構 造な ら びに神 経 支 配を光 顕な ら びに電顕に よって解明 し よ う と考え た. こ の目 的のた め外部から 食 道に達す る神 経, な ら びに食 道 壁の神 経 華の分 布 走 路を神経 染 色を施し た連 続 切 片の再構 築 法によっ て検 索し, ついで, 壁 内神経 要 素の微構 造を神 経 染色 法,
組 織 化学 的検 索 法,およ び電 顕 観 察によっ て検索し た.
ま た, 食 道に分 布す る神経の由来, 走路およ び終 末の
性 格を確 認す る た め, 各種の侵 襲によ る神 経 変性 実験 を行なった.
材 料およ び方法 工. 実験 動 物
純 系 成 熟K H−1 種マ ウス く血 相昭抑留ガ v a r.
戊伽 おう を実験 動 物と して用いた. 王工. 光顕 再 構築法
食 道の形 態を検 索す る た め, 食道を 周 囲の諸 臓器組 織の 一部を付し た ま ま取り出し, 1 0%ホル マリン に固 定, パラフ ィ ン に包壇, 横 断 連続 切 片と し, へマ ト キ シリンー エオ ジン染 色を施し た. ま た, 食 道に分 布す る外 来 神経の走行を検索す る た め, 周 囲の諸 神 経な ら びに諸 臓器 組 織を含めて, 食 道を咽頭尾側 端 部およ び 胃噴 門 部と共に取り出し, 本 陣写 真 銀 法2 引く写 真 銀 法I によ る固定 .染色を施し, 横 断連 続切片を作 製し た. こ の方 法によ る と, 神経 細 胞体およ び神経 線 維 軸 索が 褐色ないし 黒色に特 異的に染 色さ れ る.
III. 組織化学 的検 索法
食 道の神 経 要素の組 織 化 学 的特 性の検索は, 次の方 法によった.
1 . カ テコ ー ル ア ミ ン検 出 法
カ テコ ー ルアミ ン蛍光 検 出のた めの ホ ル ムアルデヒ ド. グル ター ル アルデヒ ド. シ ョ糖 くfo r mal dehyde
−
gluta r aldehyde−S u C r O S e,F G Sl 固 定 法2 9使 用いた.
こ の方 法によ る と組織 中の カテコ ー ルアミ ンは黄緑 色 の蛍光を発す る.
2 . ア セチルコリン エステ ラー ゼ 活性 検 出 法 アセチルコリンエステ ラー ゼ活性 検 出の た め のルベ
アン酸 増強 法抑 を 用いた. こ の方法によ る と アセチル コ リンエステ ラー ゼ活 性 陽性 部 位が 異色に特 異的に検 出さ れ る.
3 . 写真銀 法2 8 1
4 . オス ミウム髄鞘 染 色法
3 と4 は神 経要素 確 認のた めの対 照と して使用 し た.
I V . 電子 顕 微鏡検索法
食 道の電 顕 検 索には,食 道を取り出し,2 5%グルター ルアルデヒド 0.1 ml.0.2 M リン酸 緩衝 液 くpH 7.41 5 ml. シ ョ糖0.4 g.2%オス ミ ウ ム酸5 ml か ら な る 固 定 液に 4 qC で 2 時 間浸 漬 固定し, エタノー ル系 列で
脱 れ エポック812に包哩,L K B 2 0 8 8 ウルトロ トー ム に よって薄切 片を作製し た. 同時に約1 声m の切 片を作 り,トルイ ジンブル ー 染色3 りを施し,光頗検 索によ る組 織 部 位の同定の試料と し た. 薄切片には酢 酸ウ ラニル
と鉛の 二重染 色3 2Iを施し, H U −1 2 型 あ るいは H−50 8
型電顕によって観察し た. 上記アルデヒド固 定法のほ か, 食 道 壁 内神 経 終 末の検 索には, Tr a n z e r らの重 ク
ロム酸固定 法矧 を 用いた.こ の方法によ る と,神 経組 織 中のカ テコ ー ルアミ ン含 有物が極め て電子密度 大な物 質と して検 出さ れ る.
V . 神経切断およ び神経節切 除実験法
食道 支配 神経の起源検 索を目 的と す る二次変 性実験
のた め, 実 体顕 微鏡を 用いて, 下記4 種の神 経.神経 節の切断あ るいは 切除 実験を行なっ た.手術に際して,
チ オペ ンター ル腹 腔 内 注射 く0.1n lgノgl によ る麻酔を 施し た. 手術 後, 1 6, 24 時間, 2 , 4 , 7 日間経過し たマウス から, 食道を採り, 正常な場 合と同様に試料 を処 置し, 術後の変 化を検 索し た.
1 . 上 頸神経 節の切 除
上 頸神 経 節切除は, 内頚動 脈 と頭 長 筋との間を広げ て, 上頚 神経 節を確認 して切除し た.
2 . 中頸神経 節な ら びに星状 神経 節の切除 中頸 神 経 節な ら びに星状 神 経 節切除は, 胸骨柄を 正 中で切断し, 切断部を左右に広げ縦隔の前上部を露出 させた後, 左側につ いて の み行なっ た. ま ず, 鎖骨下 動脈の腹 側 面に位 置す る中頸神 経 節を確 認して切除 し, つづいて, 総 頸動脈の起 始 部と 頸長 筋との間を広 げ胸 管と 頸 長筋との間に位 置す る 星状 神経 節を確 認し
食道の構造と神 経支 配
て切除し た.
3 . 腹腔神経 節な ら びに上腸 間 膜動 脈 神 経 節の切除 腹腔 神経 節な ら びに上腸 間膜 動脈 神 経 節 切除は, 開 腹し, 腹腔 動 脈な ら びに上腸 間 膜動 脈の起 始部に位置 す る腹腔 神 経 節と 上勝 問膜 動脈 神 経 節を確 認し, そ れ ら を切除し た.
4. 迷 走 神経の切断
迷走 神経 切 断は, 顎二腹 筋の後腹と胸 鎖乳突筋と が 交叉 す る部 位のや や内 側に位 置す る迷 走神 経の起始 部 を確 認し, これ を切 断し た.
成 績
工一 マウス の食道の 一般 的構 造と食 道に至る神 経の 走 路
1 . マウス の食道の 一 般 的構 造
マウス の食道は径1 へ1■5 m n −, 全 長 約4c m で, そ の吻側 端は 咽頭 結 節と輪状 軟 骨との間で咽頭に移行 し, 尾側 端は背臥 位では第1腰 椎の左 方約5 m m の部 位で胃の噴 門に接 続す る. 食 道頚 部は長さ約1c m で,
第1 胸椎の部位で胸 郭上口 から縦 隔 背部に進入 して,
食道胸 部と な る. 食 道胸 部は長さ約2c 皿 で, 第10胸 椎の部位で横 隔 膜の食 道 裂孔に至 る. こ の間, 第2胸 椎の部 位で気 管分岐部な ら びに左 気 管 支の背 側を通過 し, わ ず かに右 方に移動し, 以後, 脊 柱の正中に沿っ
て 尾方へ走り, 食 道裂孔 を 通 り, 腹膿に入 って食 道腹 部と な る.食 道腹 部は長さ約1 c m で,孤を描いて や や 左方へ走り, 胃の噴門に達す る.
マ ウスの食 道の栄 養を供 給す る動脈と しては, 左.
右の上食 道 動脈およ び前.後の下 食道 動 脈が あ る. 上 食道動 脈は, 上 甲状腺 動 脈から 分枝し, 食 道と気 管と の間を 尾方へ走り, 食 道の気 管分岐部の高さにまで達 する. その軌 上食 道 動脈は, 所々で食道と気 管, さ らに気管 支へ枝を出す. 前下食道 動脈は, 固 有肝 動 脈
から 分岐し, 横 隔膜の食 道裂孔のや や 尾方で食道の腹 側面に達し, 吻 側枝と 尾側枝の2 枝に分かれ, そ れ ぞ れ食道の腹 側面に沿っ て走る. 吻側 杖は気 管 分 岐 部の 高さにまで達し, 尾側枝は噴 門の近 くにま で達す る.
後下食道 動脈は, 左 胃動脈から2 本分岐す る. その 1
本は食 通 腹部の吻側2 月 と食適 胸 部の背 側面に沿っ て 吻側方へ走り, 気管分岐 郡の近くにまで達す る. 他の
1本は食道 腹 部の尾側1ノ3 の背側面に沿って尾方へ走 り, 噴門の近 くにまで達す る. 上記の前. 後下食 道 動 脈は食 道壁に沿って走る間に, 所々 で食 道壁内へ枝を 出す.
2 . 食 掛こ至る各種神 経の走路
写真鏡法 を施し た連 続切片の描 画 再構 築 法によって
得た神経分布の結果を 図 1 に示 す.
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Fi g■1. Diagr a m m atic r epr e s e ntatio n of the V e ntr alvi e w ofthe n e r v ebr a n che s s up p l iedtothe e s ophagu s, a nd their topogr aph ic al r elatio n to t he v agu s n e r v e a nd the s ym pathetic ga nglia. e,
e s ophagし1 Sil,inletofthela ryn xニ1cg,1eftc o elia c ga ngli 叫 Iflg,1eftfir stlu mba r ga nglio ni lm cg,
left mi d d le c e r vic al ga nglio nこIr,1eft r e c u r r e nt n e r v eils cg−1eft s upe rio r c e r vic al ga nglio nIIsg,
1eft stellate ga nglio nilt g,1eft tho r a cic ga ngliaニ 1v11eft v agu s n e r v e三1vg,1eft v agal ga ngli 町
S mg, S uPe rio r m e s e nte ric ga nglio nニr Cg,right C O elia c ga nglio nニrflg, right fir st lu mba r ga nglio ni r m Cg,righ t mi d dle c e rvic al ga ngli 町
r r, right r e c u r r e nt n e r v ei r S Cg, right s upe rio r C e r Vic al ga nglio ni r Sg, right stellate ga nglio nニ rt g, right tho r a cic ga ngliaI r V, right v agu s n e rv ei r Vg,right v agal ga nglio n.