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二酸化鉛による大気中イオウ酸化物 測定法の検討
鶴 田 稔 ・ 荻 原 宏 二 郎 ・ 藤 田 誠 治
Studies on the Pb02 method of Measuring Sulphur Oxides in Air Pol1ution
Minoru TSURUTA. Kojiro OGIWARA. Seiji FUJITA
1. 緒 言
S02など大気中のイオウ酸化物の分布を長期間にわた り測定するために用いられる二酸化鉛法は,大気汚染測 定法のーっとして簡便で,実用価値の高いものであり,
広く各地に普及している。この測定法は1929年英国にお いて実用化されたもので,すでに多くの報告がみられ試 薬の二酸化鉛の活性度1)2)3).および野外観測における 測定値と各種気象要素との関係のめについては詳細に検 討されている。温度,湿度,風速,風向などの気象上の 各因子が測定値におよぼす影響を定量的に求めること は, 野外観測に伴う種々の制約のため極めて困難であ ることから, 近年風洞を用いて実験が試みられている がめ,定量化についてはまだ解明されていない問題も多 い。したがって現在のところでは,気象条件を同じくす る狭い地区内でほぼ同時に測定されたものについてのみ イオウ酸化物濃度の相対的な比較が可能であるにすぎ ず,また溶液導電率法により得られるイオウ酸化物濃度 (月平均)の絶対値への換算はほとんど不可能に近い。
風洞内での実験において.B. H. Wildsonら7)は Pb02とS02の反応率は,試薬の30%が反応するまでほ とんど低下せず,かっそれは風速の4乗板に比例し,温 度IOCの上昇に対して約0.4%増加するとしているが,
これは大気中での現実の条件とは非常に異なる高濃度,
低風速のもとに短時間で測定された結果であり,さらに Pb02とS02の反応に大きな影響をもっと恩われる湿度 条件を欠いていることから,再検討の必要のあることは 呉らのも指摘している通りである。
筆者らは,混度,湿度.S02濃度などをより自然環境 に近い条件で設定でき, かっS02の反応率を連続的に 測定できる方法として流通式の実験装債を用いて実験を
(昭和47年11月1日受理)
行ない, これら各因子のS03測定値におよぼす影響を 検討した。
2. 実験および方法 2. 1実 験 装 置
図 1に示すように,湿度を制御するためラシヒリγグ を充てんした増湿塔と,長さ約4.5mの銅製二重管型=
γデγサーを組み合わせた。増湿塔には恒温水を循環さ せ,またコγデ γサーには冷凍機で冷却したプライγを 流して一定温度まで冷却しダイヤフラムポγプよりオ りフィス流量計を経て送られた外気を所定の湿度になる よう調湿した。ついで調湿した空気は結露を防ぐため外 部電熱線を用いて加混したのち,予め窒素で数千ppm に希釈しボγベ詰めとしたS02を一定流量で加え, 混 合器により十分混合してから恒祖槽内に悶定された反応 器入口に導入した。導入部は供給空気混度が反応器内の 温度とよく平衡するよう考慮した。 また希釈S02の入 口には微少流量計を取り付けて実験中S02ガス流量に 変動のないことを確かめた。
反応、器は図2に示したものを厚さ6mmのアクリル板 で製作した。空気流速を均一にするために2枚の整流板 を用いて反応器内部を3部分に区切り,中央部にPb02 円筒試料2本をセットした。この場合,中央部における 断面積は約34cm2である。
2. 2測 定 方 法
空試験により予め温度.r;.度.S02濃度が定常状態 にあることを確かめたのち.D. S. 1. R.標準品のPb02 を用い常法に従って調製じた試料円筒を手早く反応器内 に掃入し .1回のばく露期聞を240時間として一定時間毎 に排出空気中のS02濃度を測定した。 S02濃度がppm
排出空気 2 m濃度測定用シリンダー
誠 治
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稔 ・ 荻 原 宏 二 郎 ・ 藤 田
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72
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器より排出した空気の一部をオリフィス流量計で流量を 測定したのち, 25ml の吸収液中に 15~30 分間通気して S02を捕集し, pーロザニリン溶液とホルマリンを加え て呈色させ,波長580mμで吸光光度定量した。
湿度と温度の測定は反応器内の湿度およびS02濃 度 に与える影響を避けるため,反応援出口に取り付けた、ン リンダー内で乾!II!球湿度計をJTJl、て行なった。また測定 時のシリンダー内における風速は2.5m/sec以上めとな
るよう空気流量を調節Lた。 験 装
実露 く If 図 1
結果および考察
反応器よりf.JTII¥された空気中のS02濃度の誤]1定 結 果 を図3に示した。 S02濃度の経時変化は各条件での場合 もほとんど一様な傾向を示し,濃度はいずれも試料円筒 を帰入した直後に急激に低下したのち平衡に達するまで 数時間を要している。なお試料円筒挿入に際し反応器の ふたの開聞によるS02濃度の変動は5分 以 内 に 復 帰 す ることを空試験で確かめた。風洞内での実験においても 同様な現象が報告6)されているが,その後の緩慢なS02 濃度の推移からして,これはPb02によるS02の一時的 な吸着によるものと考えられるが詳細はまだ明らかでな
秋田高専研究紀要第8号
3.
以下の希薄な条件ではPb02によるS02の吸収速度は概 めて小さく,また試料円筒上に生成した硫酸根の定量は クロラユル酸パリウム法8)を用いても操作.が繁雑で測 定誤差は避けられないため, 本 実 験 で は 排 出 空 気 中 の S02濃度の変化を pーロザ ニリン・ホルマリン法でi;!l]l定 してS02吸収量を求める方法を採った。 す な わ ち 反 応
ー 寸 一 一 日 一 一 守'̲,‑
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応 器 反 図2
二酸化鉛による大気中イオウ酸化物損IJ定法の検討 73
1.5
1.4
1.3
1.2
1.1
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図3
ば く 露 時 間 (hr) 排出空気中の802濃度とばく露時間の関係
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口 15・C,75% X :lO'C, 75%
図 4 802吸収量とばく露時間の関係
Pb02による 802の吸収速度は供給空気および排出空 気中の802濃度の差について時間で積分することによ り得られる。結果を図4に示した。 802吸収速度に対し ては湿度による影響が支配的で,湿度の高い場合ほど吸
収速度は大であることが認められた。筑井ら10)は,デシ ケータ内でNaH80,より発生させたS02をPb02に吸 収させ ,170時間でS02吸収量はピークに達することを 報告しているが, 筆者らの実験ではS02吸収速度が最 大を示す,濃度1.13ppm.ilul.度300C.相対潟度88%の 条件においてもなお240時間内では吸収速度に変化は認 められなかった。この場合理論上のPb02変化率はほぼ 17%に達していることが計算された。 このことは寺部 ら11)の野外観測において.Pb02円筒を10日間および30 日間ぼく露した場合のS03測定値 (mg!day!lpOcmり の比率約1.1からも裏付けられるものである。 l
本実験での反応条件および測定された802吸収量を 一括して表 l に示した。温度 15~31CC. 相対湿廃51~邸
%.供給空気中のS02濃度1.04‑::‑‑1.49ppmの範囲であ る。流速は空気流量を試料円筒帰入部の断面積で除した ものでほぼ0.16m!sec程度である。 風速による影響に 関しては本実験で、は求め得なかったが, 呉らは 8 = 27.1 (0.2 +ゾli)v. (S: 803測定値mg!day!100
cm2, u:風速m!sec.V: S02'濃度ppm)の実験式 を示している。この種実験においては,風洞あるいは反 応器内にPb02円筒を露出状態で挿入しているため,得 られた結果を直ちにばく露シェノレターを用いた野外観測
74 鶴 田 稔 ・ 荻 原 宏 二 郎 ・ 藤 田 誠 治
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に関連づけることは問題のあるところであろう。
二酸化鉛法はイオウ酸化物がPb02と反応してPbSO を生成することを利用したものであるが, 捕捉さ.htニ S02量と分析の結果得られるSOa量との定量関係につい ては明らかでない。筆者らの実験においてはPb02に吸 収されたS02の測定値よりPb02の反応性を検討するた め,つぎの実験を行ない両者の関係を確かめた。
マノメーターを取り付けた容量既知の大型デシケータ 中に常法により調製した数本のPb02円筒を挿入し真空 に排気したのち, 所定量のS02を混入させた空気で、完 全に置換する。一週間反応させてからデシケータ内の圧 力およびS02濃度を測定するとともに.Pb02円筒を二
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図 5 S02吸収量とSOa測定値の関係
30.9 i 0.15 I 1.204 133 14.9
酸化鉛法に従って処理して硫酸根を定量し,吸収された S02量と定量された硫酸根より得られるSOs測定値との 関係を求めた。数種の異なるS02濃度について実験した 結果を図5に示した。両者は良い相関性を示し.S03測 定値 Cmg/l00cmり =1.035 S02吸収量 Cmg/100cm2) の関係式が得られた。これは吸収されたS02のうち83.3
%がSOsとして測定されたことを示すものである。二酸 化鉛法においては測定値をS03Cmg/day/lOOcmり で 示すのを通則としているので, 表lにおいてS02吸収 量に対しこの関係式を用いて換算した数値を換算SO 量として掲げた。
S03測定値におよぼす禄度の影響について,相対湿度 とSOs測定債の関係を図6に,絶対j程度と SOs測定値 の関係を祖度を助変数にとり図7に示した。 S02濃度 1.lppm前後.風速0.16m/sec.温度15.25および300C における測定結果であるが,図6に見られるようにS03 測定値に対する湿度の影響は極めて大きく,各温度にお いて湿度の増加に併いS03測定値は著しく噌加してい る。 温度が低くなると S03測定値の増加の割合はやや 小さくなるが,温度250Cの場合, 浪度1%の増加に対 しSOa測定値はほぼ0.27mg増加することが認められ た。 湿度の上昇により S02の捕集率は高まり,冬期よ り湿度の高い夏期の方がSOs測定値が高く, 溶液導電 率法によるS02の絶対濃度に比べ逆転する結果がしば しば報告9)12)されているが,この現象は筆者らの実験結 果からも容易に理解される。
温度による影響に関しては絶対湿度を用いる方が合理 的である。すでに呉らも風洞実験において,温度上昇に {れ、SOa測定値が減少する傾向にあることを述べてい るが, 図7に示す絶対湿度とSOs測定値の関係に見ら 秋田高専研究紀要第8号
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れる通り.S03測定値は温度の上昇により大きく減少す ることが認められた。これは従来ほとんど定説とされて いる Wi1dsonらの結果と全く逆の結果であるが.S03 測定値が湿度の増加に併い大きく増加する一方,温度の 上昇に対しては減少する事実は,ベースト状で円筒面に 塗布されたPb02に対するS02の物理吸着が大きく影響
しているためと思考される。
二酸化鉛による大気中イオウ酸化物測定法の検討
18
16
言
流通式のばく露装置を用いて.Pb02によるS02の測 定におよぼす湿度および温度の影響を検討しつぎの結論 を得た。
(1) Pb02によるS02の吸収速度は温度による影響が 支配的で,湿度の高い場合ほど吸収速度は大きい。また 240時間内で・は吸収速度に変化は認められなかった。
(2) Pb02に捕捉されたS02量と通則に従って定量さ れたS03測定値とは良好な相関性を示し.S03測定値 (mg/100cm2) = 1.035 S02吸 収 量 (mg/100cmり の 関係式を得た。
(3) S03 測定値に対する湿度の影響は著しく,湿度の 上舛にfJf:いS03測定値も大きく増加する。温度250Cの 場合, 湿度1%の精力日にがIしS03測定値は0.27mg増 加することが認、められた。
(4) 湿度一定の条件では温度の上昇により S03測定 値は減少することが認められたが, これはPbOzに対す るS02の吸着が大きく影響しているためと考えられ る。
4. 結
100
相 対 温 度 ( % )
相対i湿度と S03測定値の関係
14
12
10
足4
18 8
図6
( 主
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昔 ︑︑ 凶 E)
円︒凹
本実験を行なうにあたり種々有益な助言をいただいた 川崎市立衛生試験所長寺部本次氏ならびに当校工業化学 科佐藤毅教授に深謝いたします。
16
14
(1971年3月,秋回化学技術協会研究発表会で一部講 演)
12
10
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4両信}向︒的
献
1 ) 鳥議,川見ら,大阪工業技術試験所季報.22. 11 (1971)
2) 寺部本次,大道貞りj,神奈川県大気汚染調査研 究報告,第5報.31 (1962)
3) D. S. 1. R. "Measurement of Air Pollu‑
tion". (1957) H. M. S. O.
4) 菅野三郎,福井昭三,池田陽男,小野芳夫,衛 生化学.6. 20 (1958). 6. 15 (1958)
5) 日本公衆衛生協会編. 11大気汚染便覧",
文
0.024
絶 対 湿 度 (kgHρ/kg乾き空気)
絶対湿度と S03測定値の関係
。 予
図7
空
76 鶴 岡 稔 ・ 荻 原 宏 二 郎 ・ 藤 田 誠 治 (1963)
6) 呉 富 士 彦 , 大 志 野 章 , 大 阪 府 公 害 監 視 セγ ター調査室研究報告(1972);大阪府立公衆衛生 研究所報告 (1968)
7) B. H. Wildson, F. J. Mc ConnelL J. Soc. Chem. Ind., 21. 385 (1934;)
8) 大道貞男,分析化学, 13, 339 (1964)
ー " , ' ,
9) 大気汚染研究全国協議会編, 明大気汚染気象ハ ンJ‑'"7::r?",コロナ社(1965)
10) 筑井俊平,神戸市立高専研究紀要, 10, 31 (1972)
il) 寺部本次,公衆衛生, 23, 729 (1959) 12) 大気汚染研究全国協議会編, 前 大 気 汚 染 の 測
定'¥コロナ社 (1962)
秋回高専研究紀要第8号