済的機能を検討する。本稿の結論は、まず第 一に再販制・返品制の導入は生産者の利潤を 市場取引モデルの水準より引き上げる可能性 が高いが、需要関数の不確実性に関して特別 な仮定を設けない限り、垂直統合モデルに相 当する水準まで生産者の利潤を引き上げるこ とは一般的には不可能であるということであ る。さらに、本稿では、生産者がフランチャ イズ料の徴収と引き替えに、ある特定の小売 業者に独占的な販売権を付与する場合には、
垂直統合時と同等の利潤を生産者が獲得す ることが一般的に可能であることが示されて いる。
2
市場取引モデル
ある財を独占的に供給する生産者とそれを 消費者に販売する多数の競争的な小売業者か らなる経済を考える。その財に対する需要関 数、あるいは逆需要関数が、
D(P,a)= a−P
b (1)
P(q,a)=a−bq (2) で表されるとする。ここで、Dは需要量、P は小売価格、qは販売量を表す。aは需要状 態の不確実性を表す確率変数であり、閉区間 [a,a]において連続的に分布しており、その 分布関数をF(a)とする。bは正のパラメー タである。この(逆)需要関数の下での収入 1
1
はじめに
市場の需要に不確実性が存在する場合の 流通取引に関する分析においては、Rey and Tirole(1986)に代表されるように、需要状 態が判明する前に生産者と小売業者が出荷価 格と小売価格を決定し、需要状態が明らかに なった後で注文量、生産量が調整されるケー スが対象とされてきた。その後、Deneckere, Marvel and Peck(1997)、成生・湯本(1998a)、
(1998b)は、需要状態が明らかになる前に生
産が完了して小売価格が需要状態に応じて 決定されるケースを分析の俎上にのせ、この ような枠組みの中で競争的な小売業者と独占 的な生産者との間の市場取引と再販売価格維 持制度との比較を行った。彼らによれば、再 販売価格契約を導入することで生産者の期待 利潤が増大するだけでなく、消費者余剰も増 加して経済的厚生も一般に向上する可能性が 高いことが明らかになった。特に成生・湯本
(1998b)では再販売価格契約の導入は生産者
が小売業者を垂直統合したケースと同等の期 待利潤を生産者にもたらす可能性があること が示唆されている。
本 稿 で は Deneckere, Marvel and Peck
(1997)、成生・湯本(1998a)、(1998b)に依 拠しながら、需要状態に不確実性が存在する にもかかわらず、需要状態が判明する前に生 産を完了せざるを得ない商品を対象にして、
再販売価格契約等の垂直的取引制限が持つ経
関数は、
で表され、その期待利潤は、
E[ΠR(a)]=(E[a]−bQ−Pw)Q (9) となる。個々の小売業者は自己の期待利潤が 正(負)である限り、発注量を増やそう(減ら そう)とするから、競争均衡においては期待 利潤がゼロとなる。したがって、小売業者全 体の発注量Qは出荷価格の減少関数として、
Q= E[a]−Pw
b (10)
と表される。
次に、このような小売業者の意思決定を考 慮に入れた上での生産者による出荷価格Pw
の決定を考える。生産者の利潤は、
ΠM=(Pw−c)Q
= (Pw−c)(E[a]−Pw) b
(11) で表されるから、極大条件により、最適な出 荷価格は、
PwMT = E(a)+c
2 (12)
となる。また、このときの発注量(生産量)
と小売価格はそれぞれ、
QMT = E(a)−c
2b (13)
PMT(a)= 2a−E(a)+c
2 (14)
で表され、均衡における生産者の利潤は、
ΠMTM =
E[a]−c2
4b (15)
*1)これらの関数の1階、2階の導関数は、
RP=(a−2P)/b, RPP=−2/b<0, Ra=P/b>0, RPa=1/b>0
Rq=a−2q, Rqq=−2>0, Ra=Q>0, Rqa=1>0 である。
R(P,a)= (a−P)P
b (3)
R(q,a)=(a−bq)q (4) であり、収入を最大化する販売量と価格はそ れぞれ、
q∗(a)= a
2b, P∗(a)= a
2 (5)
で表される*1)。生産者と小売業者が垂直的に 分離している場合には、市場の需要状態aが 明らかになる以前に、まず生産者が出荷価格 Pw を小売業者に提示する。小売業者は提示 された出荷価格を受けて不確実な需要を勘案 しつつ注文量を決定して生産者に発注する。
生産者は需要状態が明らかになる以前に注文 量分の生産を完了し、それ以後は生産量Qを 変更できないものとする。小売価格は市場の 需要状態がaが判明した後に市場の需給が一 致する水準に決定される。
生産量Qの下での生産費用Cは一定の限 界費用をcとして、
C=cQ (6)
で表され、小売業者の費用は生産者への発注 金額の支払いのみとする。生産者と小売業者 の需要状態に関する情報は対称的であり、両 者はともにリスク中立的であるとする。
まずはじめに、出荷価格Pw を所与とした 小売業者全体の発注量Qの決定について考 える。小売業者全体の発注量は生産者によっ て生産されて市場全体の販売量となるから、
小売業者全体の発注量がQで表される場合 には、需要状態aに対応して小売価格は、
P(a)=a−bQ (7) となる。したがって、需要状態aにおける小 売業者全体の利潤は、
ΠR(a)=(a−bQ−Pw)Q (8)
次にQ≥q∗(a)の場合を考える。この場合 には所与の生産量Qに対して、収入最大化生 産量q∗(a)= a/2bがその生産量に丁度等し くなるような需要状態a∗(Q)が存在する*5)。
Q= a∗(Q)
2b , or a∗(Q)=2bQ (20) したがって、実際の需要が比較的低迷して いる場合(a ≤ a∗(Q))には実際の販売量は 所与の生産量以下の収入最大化生産量に、小 売価格は収入最大化価格にそれぞれ設定さ れる。他方、実際の需要が比較的旺盛な場 合(a>a∗(Q))には販売量qは生産量Qに 制約され、小売価格は所与の生産量が需要 される水準に決定される。以上の考察より、
Q≥q∗(a)の場合の最適な小売価格の設定は、
となる。さらに、需要状態aの場合の消費者 余剰はCS =(a−PMT)QMT/2で捉えられる から、期待消費者余剰E[CSMT]は、
E[CSMT]=
E[a]−c2
8b (16)
である。
3
垂直統合モデル
次に、小売業者を垂直統合した生産者の場 合を考える。生産者は市場の需要状態が明ら かになる前に生産を完了させ、需要状態が明 らかになった後で自ら販売量qと小売価格 Pを設定する。需要状態が明らかになった時 点での再生産は不可能であると仮定されてい るので、販売量が生産量を上回ることはでき ない、
q=min[Q,D(P,a)] (17) という条件の下で小売価格と販売量が決定さ れる。需要状態が判明した後では生産費用は サンクコストと見なされるので、この生産者 の需要状態判明後の意思決定は販売収入の最 大化として以下のように定式化される*2)。
maxq R(q,a)=(a−bq)q,
s.t. q≤Q (18)
ここでまず、最悪の需要状態aが生じた場 合の収入最大化販売量q∗(a) = a/2bより生 産量Qが少ない場合を考える*3)。この場合 にはすべての需要状態a∈[a,a]において販 売量qは生産量Qに制約されるため、収入 最大化をもたらす小売価格は、
P(a)=a−bQ, for everya (19) であり、販売量qは所与の生産量Qに等し くなる*4)。
*2)代替的に、
maxP R(P,a)=(a−P)P/b s.t. (a−P)/b≤Q
と定式化することもできる。
*3)(18)式で表される不等式制約条件付き最大 化問題の解を求めるためには、λを未定乗数 として含むLagrange関数、
L(q, λ)=(a−bq)q−λ(q−Q)
に関して以下のKuhn-Tacker条件を適用すれ ばよい。
(1)∂L/∂q=a−2bq−λ=0
(2)λ≥0、かつ、∂L/∂λ=−(q−Q)≥0、
λ·∂L/∂λ=0 (3)∂2L/∂q2=−2b<0
したがって、λ >0の時にはq=Q、P=a−bQ となり、他方、λ=0の時にはq=a/2b<Q、 P=a/2となる。
*4)Q<q∗(a)であるならば、すべてのa∈[a,a]
についてQ<q∗(a)が成立すること、さらに 注*1)により収入関数R(q,a)がqに関して 凹であることに注意する。
*5)Q>q∗(a)、すなわち生産量Qが最も好調な 需要状態における収入最大化生産量q∗(a)を 上回ることはあり得ない。なぜならば、販売 量がq∗(a)を上回ることがないということを 発注段階でわかっているからである。
= E
a<a∗(Q)
a2 4b
+ E
a>a∗(Q) aQ−bQ2
−cQ
(27) で表され*6)、極大化の1階の条件は、
∂E[ΠM]
∂Q = E
a>a∗(Q)[a−2bQ]−c=0 (28) となる*7)。この条件を満たす均衡における生 産量をQV I、そのときの生産者の期待利潤を E[ΠVIM]で表すことにする*8)。この最適な生 産量に対して需要状態aにおける小売価格 と販売量は(21)、(22)式より以下で与えら れる。
pVI(a)=
a
2 ifa≤a∗(QVI) a−bQ> a
2 ifa>a∗(QVI) (29) P(a)=
a
2 ifa≤a∗(Q) a−bQ ifa>a∗(Q) (21) で表され、最適な販売量は、
q(a)=
a
2b ifa≤a∗(Q)
Q ifa>a∗(Q) (22) となることがわる。
需要状態判明後のこのような小売価格の設 定を勘案しながら、小売業者を垂直統合した 生産者は需要状態が判明する以前に生産量Q を設定して生産を行う。
まず、Q<q∗(a)=a/2bの範囲で最適な生 産量の条件を求める。この場合の小売価格は P(a)=a−bQで表されるから生産者の期待 利潤は、
E[ΠM]=E[(a−bQ)Q−cQ] (23) で表される。極大化の条件により、最適な生 産量とそれに対応する需要状態aにおける小 売価格はそれぞれ、
QV = E[a]−c
2b (24)
PV(a)= 2a−E[a]+c
2 (25)
となる。この生産量QV が実際に, QV <q∗(a)=a/2b であるためには、
E(a)−a<c (26) が満たされなければならない。この条件が満 たされない場合にはq∗(a)< Q<q∗(a)にお いて最適な生産量が存在する。この場合には
(21)、(22)式より生産者の期待利潤は、
E[ΠM]= E
a<a∗(Q)[P(a)q(a)]+ E
a>a∗(Q)[P(a)q(a)]
−cQ
*6)ここで、期待オペレーターの記号は以下の意 味である。
a<aE∗(Q)[·]= a∗(Q)
a
[·]dF(a)
a>aE∗(Q)[·]= a
a∗(Q)
[·]dF(a)
*7) 2階の条件は
∂2E[ΠM]
∂Q2 =−2b
a
a∗(Q)
dF(a)<0
であり満たされている。
*8) E[a]−a−c≥0の場合には、
∂E[ΠM]
∂Q Q=q∗
(a)
=E[a]−a−c≥0
∂E[ΠM]
∂Q Q=q∗(a)=−c<0
と注*7)の2階の条件より、QV I が半開区 間[q∗(a),q∗(a))に存在することを確認するこ とができる。逆にE[a]−a−c<0の場合に は閉区間[q∗(a),q∗(a)]において∂E[ΠM]
∂Q <0
となるから、QVが最適な生産量であること が保証される。
図1:市場取引モデルと垂直統合モデル
QV I QMT a
a a∗(QV I)
a∗(QMT)
a/2
a/b a/b Q,q
P
O
P=a−bq (PV I,qV I) (PMT,qMT) (1)
(2)
(3)
P=a−bq
さないという制約がある場合の生産量に等し い。なぜならば、このような制約の下では市 場価格はP(a)=a−bQで決定され、垂直統 合企業の生産者の期待利潤、
E[ΠM]=(E[a]−bQ)Q−cQ の最大化をもたらす生産量はQMTに等しく なることを確認することができるからであ る。このような制約がなければ、垂直統合企 業の生産者は需要状態が予想よりも悪かった 場合には、販売量を生産量より少なくするこ とによって小売価格の暴落を回避し、収入・
利潤の減少を最小限にとどめることが可能 である。他方、このような制約がある場合に は、垂直統合企業の生産者は需要状態が低迷 したときの価格の暴落に伴う収入・利潤の大 幅な減少のリスクを回避するために生産量を 少なくせざるを得ない。したがって、このよ うな制約がある場合の生産量、すなわち、市 場取引モデルの均衡生産量は(このような制 約がない)垂直統合モデルの均衡生産量より も少ないのである*10)。
qV I(a)=
a
2b <Q ifa≤a∗(QV I) Q ifa>a∗(QV I) (30)
4
市場取引モデルと垂直統合モデル の比較
市場取引モデルの結果と垂直統合モデルの 結果を比較すると、E[a]−a<cの条件が満 たされている場合には,生産量は両モデルに おいて一致し、
QV =QMT = E[a]−c 2b
需要状態aにおける小売価格も等しい。
PV(a)=PMT(a)= 2a−E[a]+c 2
このように、両モデルにおいて生産量と市 場価格の設定が同一であり、競争的小売業 者の期待利潤がゼロであるということは、市 場取引モデルにおける生産者はすでにチャ ネルが達成可能な最大利潤(統合モデルにお ける生産者の利潤)を獲得できおり、利潤を 拡大するために他の手段を講じる必要がな いということを意味している。ここで、条件 E[a]−a<cは需要の不確実性(E[a]−a)が 小さく、限界生産費(c)が高い状況と解釈す ることができる*9)。
他方、逆に需要の不確実性が大きく限界生 産費も高いため、E[a]−a≥cが成立する場 合には、市場取引モデルと垂直統合モデル では生産量、および小売価格の設定が異なる ので、その経済厚生上の意義も異なることに なる。
まずはじめに両モデルの生産量について比 較する。市場取引モデルの均衡生産量QMT は、垂直統合モデルの生産者が所与の生産量 を小売市場ですべて売却して売れ残りを出
*9)この解釈は成生・湯本(1998b)による。
*10)厳密な証明は付録A.1を参照せよ。
となるから、E[a]−a≥cという条件下にお いて、両モデルの小売価格は平均的には一致 することがわかる。
E[PMT]=E[PV I] (35) 最後に両モデルの消費者余剰CS を比較 する。上述の考察より、両モデルの小売価格 に関しては平均的に一致するが、生産量は市 場取引モデルよりも垂直統合モデルの方が 多く、その結果、需要状態が極端に悪くない 限り、販売量も垂直統合モデルの方が多くな る。したがって、E[a]−a≥cという条件下 においては、期待消費者余剰は市場取引モデ ルよりも垂直統合モデルの方が大きい*12)。
E[CSMT(a)]<E[CSVI(a)] (36) 図1は市場取引モデルの均衡と垂直統合モ デルの均衡を比較して図示したものである。
矢印のついた垂直な太線は市場取引モデルの 均衡における小売価格と販売量の組み合わせ (PMT,qMT)が需要状態aに応じてどのよう に変動するかを表している。垂直統合モデル のE[a]−a≥cという条件下における均衡小 売価格と均衡販売量の組み合わせ(PVI,qV I) の需要状態に応じた変動は矢印付きの太折線 で表されている。
5
再販売価格契約モデル
E[a]−a≥cという条件の下では市場取引 モデルの生産者は垂直統合モデルの場合よ りも期待利潤の水準が低くなってしまう。し QMT <QV I (31)
次に両モデルの生産者の期待利潤について 比較する。市場取引モデルの均衡は、所与の 生産量を小売市場ですべて売却して売れ残り を出さないという制約がある場合の垂直統合 モデルの均衡と解釈できるので、このような 制約がない時に比べてこのような制約が課さ れた場合の垂直統合企業の期待利潤は少なく なる。したがって、E[a]−a ≥cという条件 下においては、生産者の期待利潤は市場取引 モデルの場合よりも垂直統合モデルの場合の 方が大きい*11)。
ΠMTM <E[ΠVIM] (32) さらに両モデルの小売価格を比較する。生 産量は市場取引モデルよりも垂直統合モデル の方が多いため、需要状態が最も好調な場合 aの小売価格の水準は垂直統合モデルの方が 低い。逆に需要状態が最悪の場合aには垂直 統合モデルでは販売量を抑制することによっ て小売価格の大幅な下落を回避することがで きる。したがって、需要状態に応じた小売価 格の変動幅は市場取引モデルよりも垂直統合 モデルの方が小さい。ただし、市場取引モデ ル(14)式の期待値をとると、
E[PMT]= E[a]+c
2 (33)
となり、垂直統合モデルの(29)式の期待値 をとると、
E[PVI]= E
a<a∗(QVI)[a/2]+ E
a>a∗(QV I)[a−bQV I]
= 1 2
a<aE∗(QV I)[a]+ E
a>a∗(QVI)[a] + E
a>a∗(QVI)[a−2bQVI]
= E[a]+c
2 (34)
*11)厳密な証明は付録A.2を参照せよ。
*12)需要状態aがa< a∗(QMT)の場合には市場 取引モデルの方が小売価格が高く販売量が少 ないため、消費者余剰が小さくなる。期待消 費者余剰が市場取引モデルよりも垂直統合モ デルの方が大きくなることの証明は付録A.3 を参照せよ。
売価格P(a)と販売量q(a)は以下のように表 される。
P(a)=
P ifa≤aˆ(Q,P) a−bQ>P ifa>aˆ(Q,P) (39)
q(a)=
a−P
b <Q ifa≤a(Q,ˆ P) Q ifa>aˆ(Q,P)
(40) したがって、小売業者全体の期待利潤は、
E[ΠR]= E
a<ˆa(Q,P)[P(a)q(a)]
+ E
a>ˆa(Q,P)[P(a)q(a)]−PwQ
= E
a<ˆa(Q,P)
aP−P2 b
+ E
a>ˆa(Q,P) aQ−bQ2
−PwQ (41)
で表される。競争均衡においてはこの期待利 潤がゼロとなるから、小売業者の発注量(生 産量)Qは再販売価格Pと出荷価格Pwを所 与として以下の条件式で決定される。
PwQ= E
a<ˆa(Q,P)
aP−P2 b
+ E
a>ˆa(Q,P) aQ−bQ2
(42)
次に、このような小売業者の意思決定を考 慮に入れた上での生産者による出荷価格と 再販売価格の決定を考える。生産者の利潤は
(42)式を用いれば、
ΠM=(Pw−c)Q
= E
a<ˆa(Q,P)
aP−P2 b
+ E
a>ˆa(Q,P) aQ−bQ2
−cQ
(43) で表される。極大化の1階の条件は、
∂ΠM
∂Q = E
a>ˆa(Q,P)[a−2bQ]−c=0 (44)
∂ΠM
∂P = E
a<ˆa(Q,P)
a−2P b
=0 (45) となる。結局、(42)、(44)、(45)の3本の 連立方程式の解として均衡における生産量 たがって、生産者は小売業者を垂直的に統合
しようとするが、それが不可能・困難な場合 には他の代替的手段を模索しようとするであ ろう。
市場取引モデルにおいて生産者の期待利潤 が小さくなる原因は、需要が低迷したときの 小売価格の大幅な下落にある。競争的な小売 市場では販売量を所与の発注量(生産量)未 満に抑制することができないからである。し たがって、小売業者は事前の発注量を抑制 し、その結果、低水準の生産量しか生産でき ない生産者の利潤も少なくなってしまうの である。ここでは、需要状態が低迷したとき の小売価格の大幅な下落を阻止する手段とし て、再販売価格契約、あるいは返品制の導入 の効果を分析する。
生産者が小売業者と再販売価格契約を取り 交わしている場合には、生産者は事前に(需 要状態が判明する以前に)出荷価格Pwのみ ならず再販売価格(小売価格の下限)Pをも 設定する。小売業者は提示された出荷価格と 再販売価格に対して不確実な需要を勘案しつ つ発注量を設定する。生産者は小売業者から の受注量を事前に生産する。
まず、設定された再販売価格Pの下で所与 の生産量(小売業者の発注量)Qに丁度等し い需要が発生する需要状態をaˆ(Q,P)で表す ことにする。すなわち、
Q= a(Q,ˆ P)−P
b (37)
あるいは、
aˆ(Q,P)=P+bQ (38) である。需要が比較的低迷している場合a≤ a(Q,ˆ P)と比較的旺盛な場合a>a(Q,ˆ P)の小
なる。
また、需要状態が判明した後で、小売業者 が売り残した商品を事前に取り決められてい た買い戻し価格で生産者に買い取ってもらう ことが可能な返品制も再販売価格契約と同等 の効果を持っていることを一般的な枠組みで 示したのが以下の定理である。
定理3 (成生・湯本,1998) 返品制の下での 均衡生産量は再販売契約の下での均衡生産量 と一致し、返品制の下での買い戻し価格は再 販売契約の下での再販売価格と一致する。こ のとき、あらゆる需要状態において小売価格 および販売量が2つの取引様式の下で一致す るから、生産者の期待利潤および期待消費者 余剰も一致する。
このように、再販売価格契約、あるいは返 品制を導入することによって生産者は市場取 引モデルを上回る利潤を得ることが可能にな る。しかし、図1と図2を比較するとわかる ように、垂直統合モデルと再販売価格契約モ デルでは均衡小売価格、均衡販売量が異なっ ているため、再販売価格契約(および返品制)
図2:再販売契約モデル
a
a
a/b a/b Q,q
P
O
P=a−bq
P=a−bq
QRPM P
ˆa
(PRPM,qRPM)
QRPM、再販売価格PRPM、出荷価格PRPMw が 決定される。したがって、均衡小売価格は生 起した需要状態aに応じて以下のように表さ れる。
PRPM=
PRPM ifa≤a(Qˆ RPM,PRPM) a−bQRPM ifa>a(Qˆ RPM,PRPM) (46) ま た 、均 衡 に お い て 生 産 者 が 得 る 利 潤 を ΠRPMM で表すことにする。
図2は再販売価格契約モデルの均衡を図示 したものである。矢印付きの太折線は再販売 契約モデルの均衡小売価格と均衡販売量の組 み合わせ(PRPM,qRPM)が需要状態aに応じ てどのように変動するかを表している。
ここで図示したモデルよりもさらに一般的 な状況下において、再販売価格契約を導入す ることによって、市場取引モデルよりも生産 者の利潤が増加することを保証したのが以下 の定理である。
定理1 (Deneckere et al., 1997) 市 場 取 引 モ デルの均衡生産量QMT が最悪の需要状態 aの下での収入最大化生産量q∗(a)を上回れ ば、かつその場合に限り、再販売契約モデル の均衡における生産者の利潤ΠRPMM は市場取 引モデルの均衡における生産者の利潤ΠMTM を上回る。
さらに、再販売価格契約を導入することに よって、生産者の利潤だけでなく消費者余 剰、経済的厚生が改善される可能性が高いこ とを示したのが以下の定理である。
定理2 (Deneckere et al., 1997) 再 販 売 価 格 契約モデルの均衡小売価格の期待値が市場 取引モデルの均衡小売価格の期待値よりも 低ければ、市場取引モデルよりも再販売価格 契約モデルの方が期待消費者余剰が大きく
E[ΠM]= E
a<a∗(Q)[P(a)q(a)]+ E
a>a∗(Q)[P(a)q(a)]
−PwQ
= E
a<a∗(Q)
a2 4b
+ E
a>a∗(Q) aQ−bQ2
−PwQ
(48) を導入したときの生産者の利潤は一般的には
垂直統合モデル以下であると考えられる。
6
独占的な販売権を小売業者に付与 するケース
E[a]−a≥cという条件の下で、生産者が ある特定の小売業者に独占的な販売権を付 与する場合を考える。市場取引モデルと同様 に、市場の需要状態aが明らかになる前に、
まず生産者が出荷価格Pw(≥ c)を提示する。
独占的小売業者は提示された小売価格を受け て不確実な需要を勘案しつつ事前に注文量Q を決定して生産者に発注する。生産者は市場 の需要が明らかになる前に生産を完了して独 占的小売業者に納品する。
需要状態aが明らかになった時点では、独 占的小売業者は発注代金の支払いをサンクコ ストとみなすから、販売収入が最大になるよ うに販売量qと小売価格Pを設定する。し たがって、需要状態判明後の独占的小売業者 の意思決定は垂直統合モデルにおける生産者 の意思決定と同様に(18)式で表される。そ の結果、注文量(生産量)Qを所与としたと きの小売価格と販売量はそれぞれ(21)式と
(22)式で表される。独占的な小売業者は需 要状態判明後のこのような小売価格と販売量 の設定を考慮に入れた上で、生産者から提示 された出荷価格Pwを所与として注文量Qを 決定する。
E[a]−a≥cという条件の下で、生産者が 出荷価格Pwを
Pw=c (47)
と設定したとしよう。独占的な小売業者の期 待利潤は、
で表され、その極大化の1階の条件は、
∂E[ΠM]
∂Q = E
a>a∗(Q)[a−2bQ]−Pw=0 (49) となる。Pw = cであるから、この条件式は 垂直統合モデルにおける(28)式と同一であ る。すなわち、生産者が出荷価格を限界費用 の水準に設定すれば、独占的小売業者の注文 量(生産量)は垂直統合モデルの場合と等し い水準に決定され、その結果、各需要状態に おいて垂直統合モデルと同様の小売価格およ び販売量が実現される。
このとき、生産者の利潤はゼロであるが、
特定の小売業者に独占的な販売権を付与する 代わりに、フランチャイズ料を徴収すること が可能であれば、生産者はチャネル全体の利 潤を独占することが可能であり、その水準は 垂直統合モデルの生産者の期待利潤と等しく なる。
7
おわりに
需要状態に不確実性が存在するにもかかわ らず、需要状態が判明する前に生産を完了せ ざるを得ない商品の場合には、多数の競争的 な小売業者が存在する市場取引の下での生産 者の利潤は小売業者を統合した場合に比べて 低い水準になってしまう。需要が低迷した場 合の価格の暴落というリスクがあるために、
小売業者全体からの注文量が少なくなってし まうからである。このような場合には、生産
れば、生産者はチャネルが達成可能な最大利 潤を獲得することが可能であることが示され た。この結論は需要の不確実性の定式化の方 法に関わらず一般的に成立する。
さらに、消費者余剰・経済的厚生に関して は市場取引モデルよりも垂直統合モデルの方 が優れているという点を考慮すると、需要に 不確実性が存在するにもかかわらず、需要状 態が判明する前に生産を完了せざるを得ない
*13)b∗は収入最大化生産量a/2bが生産量QVIに 丁度等しくなるような需要状態bを表す。
*14)生産量に関しては、出荷価格を適切な水準に 設定することで小売業者から垂直統合時の生 産量と同一の水準の注文量を引き出すことが 可能である。
者は小売業者と再販売価格契約を結ぶか、あ るいは返品制を導入することによって自らの 期待利潤を増加させることができ、さらに、
消費者余剰、経済全体の厚生をも向上させる 可能性が高い。
成生・湯本(1998b)は再販制あるいは返 品制を導入することによって生産者の期待利 潤および消費者余剰・経済厚生が統合時と同 等の水準になることを示した。彼らが用いた 需要曲線P(q,a)= a−bqにおいてはaが定 数パラメータ、bが不確実性を表す確率変数 とされているため、小売市場での販売におい て販売収入を最大化させる小売価格は需要状 態bに関わらず常にa/2で一定である。需 要の不確実性が大きく限界生産費も高い場合 に、成生・湯本(1998b)の垂直統合モデル の均衡における小売価格と販売量の組み合わ せ(PVI,qVI)が需要状態bに応じてどのよう に変動するかを表したのが図3の中の矢印付 き太折線である*13)。したがって、成生・湯本
(1998b)の用いた需要曲線の場合には、生産
者が再販売価格P、あるいは返品制の場合に は買い戻し価格を2/aに設定することで垂直 統合モデルと同一の均衡を創出することが可 能になるのである*14)。しかし、より一般的 な需要の不確実性を仮定する場合には、再販 制・返品制の導入によって生産者の利潤を市 場取引モデルの水準よりも引き上げることが 可能であっても、垂直統合モデルの水準を達 成できる保証はない。
本稿では、生産者がフランチャイズ料の徴 収と引き替えにある特定の小売業者に独占的 な販売権を付与する場合には、出荷価格を限 界生産費の水準に設定することによって統合 時と同一の小売価格・販売量を実現すること が可能になり、その小売業者の期待利潤に等 しいフランチャイズ料を徴収することができ
図3:成生・湯本(1998b)の垂直統合モデル
Q,q P
O a
a/2
a/b QV I a/b∗ a/b P=a−bq
P=a−bq (PV I,qV I)
商品の場合には、小売市場が競争的であるよ りも、ある特定の小売業者が独占的に販売権 を得ている場合の方が、消費者にとっても、
経済全体の厚生の視点からも望ましいという 結論が得られたことになる。
A.2 ΠMTM <E[ΠVIM]の証明
小売業者を垂直統合した生産者が市場取 引モデルの均衡生産量 QMT を生産した場 合の期待収入E[RV I(QMT)]と市場取引モデ ルの均衡におけるチャネル全体の期待収入 E[RMT(QMT)]はそれぞれ、
E[RVI(QMT)]= E
a<a∗(QMT)[a2/4b] + E
a>a∗(QMT)[(a−bQMT)QMT] (56) E[RMT(QMT)]=E[(a−bQMT)QMT] (57) で表されるが、需要状態がa<a∗(QMT)であ る場合の収入に関しては、
a2/4b>(a−bQMT)QMT が成立するから、
E[RVI(QMT)]>E[RMT(QMT)]
付録
A数学の証明
以 下 の 証 明 は 基 本 的 に は 成 生・湯 本
(1998b)による証明を本稿のモデルに適用
したものである。
A.1 QMT <QV Iの証明
市場取引モデルにおいては小売業者全体の 期待利潤はゼロとなる。
E[ΠR(a)]=(E[a]−bQ−Pw)Q=0 (50) この式を用いて市場取引モデルにおける生産 者の利潤を生産量Qの関数として表すと以 下のようになる。
ΠM=(Pw−c)Q
=
E[a]−bQ−c
Q (51)
(13)式の生産量QMTは(51)式の極大条件、
∂E[ΠM]
∂Q =E[a]−c−2bQ=0 (52)
∂2E[ΠM]
∂Q2 =−2b<0 (53)
を満たしている。ここで、利潤関数の1階の 偏導関数の値をQ=QV Iで評価すると、
∂E[ΠM]
∂Q Q=QVI=E[a−2bQVI]−c
= E
a<a∗(QV I)[a−2bQVI] + E
a>a∗(QV I)[a−2bQV I]−c
= E
a<a∗(QV I)[a−2bQVI]
<0
(54) と な る*15)。(53)式 よ り 1 階 の 偏 導 関 数
∂E[ΠM]/∂Qは減少関数であるから、結局、
E[a]−a≥cが成立する場合には市場取引モ デルよりも垂直統合モデルの方が生産量が多 いことがわかる。
QMT <QVI (55)
となる。このとき、生産費用はcQMTで共通 であるから、チャネル全体の期待利潤に関し ては、
E[ΠVI(QMT)]>E[ΠMT(QMT)]= ΠMTM (58) が成立する*16)。垂直統合モデルの均衡にお ける期待利潤E[ΠV IM]はE[ΠVI(QMT)]を上回 るから、結局、
*15)式の展開の過程で、QVIが(28)式を満たす Qの値であること、また、a∗(QV I)=2bQV Iで あるからa<a∗(QVI)ならばa−2bQVI<0が 成立することを利用している。
0
*16) E[ΠV I(QMT)] は 垂 直 統 合 し た 生 産 者 が 生 産 量 QMT を 生 産 し た 場 合 の 利 潤 で あ る 。 E[ΠMT(QMT)]は市場取引モデルの均衡にお けるチャネル全体の期待利潤であるが、小売 業者の期待利潤はゼロであるため、均衡にお ける生産者の利潤ΠMTM に等しい。