広告心理学の展開
その他のタイトル On the Development of Psychology of Advertising
著者 佐々木 土師二
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 22
号 2
ページ 75‑107
発行年 1991‑01‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00022601
広 告 心 理 学 の 展 開 *
佐 々 木 土 師 二
On the Development of Psychology of Advertising T o s h i j i SASAKI
A b s t r a c t
Psychological a n a l y s i s o f a d v e r t i s i n g i s a n i m p o r t a n t a r e a o f i n d u s t r i a l psychology, and h a s focused o n many a s p e c t s o f advertising e f f e c t i v e n e s s . T h e present writer r e v i e w s t h e d e v e l o p m e n t o f l ) s y c h o l o g i c a l analysis of advertising after t h e Taisho e r a i n J a p a n , a n d e x a m i n e s t h e present s t a t e o f r e s e a r c h on advertising c o m m u n i c a t i o n . T h e p s y c h o l o g y o f advertising i s considered a s t h e r e s e a r c h on c o n s u m e r c o m m u n i c a t i o n behavior r e l a t i n g t o advertising, a n d i t s a n a l y t i c a l f r a m e w o r k i s constructed by b o t h p s y c h o l o g i c a l processes a n d p s y c h o l o g i c a l f a c t o r s o f consumer b e h a v i o r . A l t h o u g h t h e i n f o r m a t i o n p r o c e s s i n g a p p r o a c h b e s e d o n cognitive p s y c h o l o g y i s t h e m o s t i n f l u e n t i a l m e t h o d o l o g y i n U S A , t h e p r e s e n t w r i t e r e m p h a s i z e s t h e importance o f a n a l y s i s o f c o n s u m e r ' s p s y c h o l o ̲ g i c a l f a c t o r s i n r e l a t i o n t o advertising c o m m u n i c a t i o n .
Key words : p s y c h o l o g y o f a d v e r t i s i n g , a d v e r t i s i n g c o m m u n i c a t i o n , a d v e r t i s i n g e f f e c t i v e ‑ n e s s , i n f o r m a t i o n p r o c e s s i n g , consumer b e h a v i o r
抄 録
広告の心理学的研究は,産業心理学の重要領域として,広告効果測定を中心に多面的に進展してき た。本稿は, アメリカの広告心理学の成立に寄与した S c o t t ,W. D . , S t a r c h , D . および W a t s o n , J . B . の業績をふまえ, わが国の大正期以降の心理学的広告研究の展開の跡を探るとともに,コミュ ニケーション機能の分析を中心とした今日の広告研究に触れ,最近の実証的研究成果を概槻する。
現在の広告心理学は認知心理学的アプローチを導入し,情報処理を中心とする心理的過程の分析に 強い関心を寄せているが,モチベーションに代表される心理的要因の分析の重要性も見落すことはで きない。今後の広告心理学は, 産業活動である広告訴求の効果としての消費者反応に着目するだけ でなく,広告コミュニケーションの影響や利用に関する幅広い消費生活行動の分析を進める必要があ る 。
キーワード:広告心理学,広告コミュニケーション,広告効果,情報処理,消費生活行動
*本稿は,
1990年
5月 19 日に京都大学文学部で開催された京都心理学セミナー「広告の心理学」の場で,企 画・司会者として筆者が行った「解説」を再構成・補筆したものである。同セミナーの演者になっていた だいた植條則夫氏(関西大学社会学部),北出修平氏(朝日新聞東京本社広告局),指定討論者になってい ただいた根本則明氏(三洋電機販売本部,現在は三洋ライフ・エレクトロニクス),林英夫氏(関西大学 社会学部)にあらためて謝意を表するものである。
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I 産業心理学のなかの広告心理学
産業心理学の発展の主導権を握ってきたアメリカで,この研究領域を最初に切り開いたのは,
広告活動に心理学を応用した W a l t e r D i l l S c o t t ( 1 8 6 9 ‑ 1 9 5 5 ) であるとされている ( G i l m e r , 1 9 6 6 , p . 1 5 ) 。
S c o t t は,ノースウェスクン大学の心理学実験室の主任教授であった 1 9 0 3 年に THETHEORY OF ADVERTISING ( S m a l l , Maynard & C o . , B o s t o n ) を著したが, それが, 心理学の諸原 理を広告に応用した最初の体系的な書物であった。その副題は「広告の成功に結びつく心理学の 諸原理の簡潔な説明 ( as i m p l e e x p o s i t i o n o f t h e p r i n c i p l e s o f p s y c h o l o g y i n r e l a t i o n t o s u c c e s s f u l a d v e r t i s i n g ) 」となっており,内容は,印刷広告について, a t t e n t i o n , a s s o c i a ‑ t i o n o f i d e a s , s u g g e s t i o n , f u s i o n , p e r c e p t i o n , a p p e r c e p t i o n , i l l u s i o n , m e n t a l imagery な
どの消費者心理を分析し,効果的な表現方法を明らかにするというものであった。さらに S c o t t は 1 9 0 8 年に THEPSYCHOWGY OF ADVERTISING ( S m a l l , Maynard & C o . ) を著し, ょ
り多面的に広告の心理学的課題を論述している。
こうしてアメリカの産業心理学は「広告の心理学的研究」から始まったと言えるが ( C r i s s y
& L e w i s , 1 9 6 6 , p . 8 5 ) , 広告研究が産業心理学のなかで明確に位置づけられたのは, やはり M i i n s t e r b e r g , H . ( 1 8 6 3 ‑ 1 9 1 6 ) が示した「経済心理学」の 3 部門体系においてであろう。彼が
「心理学と経済生活」 ( P s y c h o l o g i eu n d W i r t s c h a f t s l e b e n , 1 9 1 2 ) や「心理学と産業能率」 ( T h e P s y c h o l o g y a 叫 I n d u s t r i a lE f f i c i
磁c y ,1 9 1 3 ) で提示した 3 部門は「最適の人」「最良の仕事」「最 高の効果」と呼ばれているが,各部門の課題は次の通りであった(森清•長山, 1981, p . 3 ) :
① 最適の人……職業と適性,職業の科学的指導,科学的管理法,職業の心理学的分析に必要 な実験心理学的方法,電車の運転手・船員・電話交換手の基本的能力に関する研究,個人と 集団。
③ 最良の仕事……学習と訓練,作業における心理学的な問題と技術的な問題,動作経済,単 調,注意と疲労,労働力に及ぼす物的・社会的影響。
⑧ 最高の効果……経済的要求の充足,広告の効果,陳列の効果,商品・商標などにおける不 法イミテーションに関する実験事例,購買と販売,経済心理学の将来構想。
つまり, Munster b e r g が構想した「経済心理学」の包括的体系のなかで,広告は,購買や販 売とともに,「最高の効果」に関する問題として注目されていたのである。
その後,アメリカの産業心理学はほぼ次のように研究領域を拡大してきた:
a . 1 9 1 0 年代には T a y l o r , F . W. ( 1 8 5 6 ‑ 1 9 1 5 ) の「科学的管理法」の中で「動作・時間研 究」が進められ, また第 1 次世界大戦中 ( 1 9 1 4 ‑ 1 8 ) に開発された「軍隊テスト」を拡充し た心理テストによる「人事選抜」「訓練」「職業指導」が発展。
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b . 1924‑32 年に行われたホーソン研究 (HawthorneS t u d i e s ) によってワーク・モチベーシ ョン,モラール,コミュニケーション,人間関係,集団規範などの重要性が認識され「産業 社会心理学」が発展。
C.
第 2 次世界大戦 ( 1 9 3 9 ‑ 4 5 ) では軍事作業の効率をあげるために「人間工学(工学心理学)」
が重視され,大戦後の産業化・工業化の進展の中で人間・機械系におけるヒューマン・ファ クターの研究へ発展。
d. 1 9 6 0 年代には,産業組織の高度化やシステム化にともない経営管理過程をも含む「組織心 理学」や,消費市場の成熟や多様化にともない消費者の行動を分析する「消費心理学」など が拡大。
この間, 「広告心理学」は非常に多面的な展開を見せてきた。消費社会の高度化や情報社会の 進展を基礎にして,製品市場を拡大し新市場を創造するためのマーケティング活動の発展や印刷
・電波・映像の諸分野でのコミュニケーション技術の進歩のなかで広告活動の著しい拡大・充実 があったが, それに対応して広告効果測定の必要性が増し, その理論と技法が発展するととも に,行動科学や情報科学を中心とした人間行動研究の成果を大幅に吸収してきた。
J
I 成立期におけるアメリカの広告心理学
( 1 ) スコットの「広告心理学」
S c o t t ( 1 9 0 3 ) は THETHEORY OF ADVERTISING の最後で「見込み客の心を理解するこ とや商品を提示する最善の方法を発見すること, その人の心にもっとも効果的に影響するため に,コビー(広告文章)をつくり,媒体を選び,広告物(広告作品 a d v e r t i s e m e n t ) を配置する こと•…••これらの実際的能力はすべて心理学の知識の活用に依存している。上手な広告主は心理 学者でなければならない。 (Thes u c c e s s f u l a d v e r t i s e r must be a p s y c h o l o g i s t . ) 」 ( p . 2 3 3 )
と述べ,広告制作に対する心理学の貢献に大きな可能性を見いだしている。
この S c o t t の業績について C a l k i n s ,E . E . & H o l d e n , R . は 1 9 0 5 年に刊行した MODERN ADVERTISING ( H a r p e r & B r o t h e r s P u b l i s h e r s ) で「心理学の諸原理が広告に適用できるか
どうかを明らかにするために実験室的方法を用いた。実際の実験によってその原理を学び,それ らを広告の制作企画に適用することが彼の意図であった」 ( p . 2 7 8 ) と述べ, その後の論文や講 演の内容を紹介しながら「広告主が暗闇の中で手探りをしなくてもよくする試みを示すもの」
( p . 2 8 4 ) と実務的にも高い評価を与えている。
S c o t t は , THETHEORY OF ADVERTISING ( 1 9 0 3 ) と同じ内容の図書を THETHEORY AND PRACTICE OF ADVERTISING という書名で異なる出版社 ( B r e n t o n ' s ) から出してい るが(出版年度不明), これらを改訂して 1 9 0 8 年に刊行したのが THEPSYCHOLOGY OF AD‑
VERTISING である。その序文では,心理学の必要性と有効性についての認識が広告主の側に高
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まってきた状況を広告雑誌の特集記事などを紹介して説明し,また心理学者のなかにも広告を研 究する人が出てきたが,研究として価値のあるものを選び出し体系的に整理する必要があること を強調して, 「広告心理学は, これまでに行ってきたことをすべて再検討すぺき発達段階にきて いる」 ( p . 5 ) と述べて, 広告の心理学的研究が新しい局面を迎えているという認識を示してい る。そのために「広告心理学の主題を体系化し,それをビジネス・プロモーションに関心を持っ ているすぺての人に明確な実際的価値があるような形で提示する」と言うのである。
そして, この THE PSYCHOWGY OF ADVERTISING では,前書 THETHEORY OF ADVERTISING での論点が主に「知覚」の機能に限られていたのに対して,「記憶」「学習」「思 考」「情緒」「意思」など多面的な心理的機能が取り上げられている。(章の題目には memory (remembering and f o r g e t t i n g ) , f e e l i n g and e m o t i o n , s y m p a t h y , human i n s t i n c t , suges
—s i o n , w i l l , h a b i t , t h i n k i n g , a t t e t i o n , u n c o n s c i o u s i n f l u e n c e などの言葉が見られる。研究方 法についても,前書にあった「心理学実験」に代わって,新聞広告を例に「質問紙法」を説明し ている.)
この THEPSYCHOLOGY OF ADVERTISING ( 1 9 0 8 ) の邦訳は, 佐々木十九訳「広告心理 学」(東京・佐藤出版部刊)として大正 4 年 ( 1 9 1 5 ) 5 月に刊行された。 S c o t t は , その後, こ れら 2 冊の内容を統合して THE PSYCHOWGY OF ADVERTISING IN THEORY AND PRACTICE ( S m a l l , Maynard & C o . , 1 9 2 0 ? ) を刊行しているが,その邦訳書が松宮三郎訳
「広告心理学」(千倉書房刊, 1 9 3 9 ) である。
( 2 ) スターチの「広告心理学」
S c o t t ( 1 9 0 3 , 1 9 0 8 ) の「広告心理学」は, 当時の心理学の理論と実験的知見を広告制作に適 用する方法を探ったものであったが,広告の機能についての体系的かつ実証的な分析を広範囲に 行い,広告に対する心理学的アプローチの水準を飛躍的に高めたのが D a n i e l S t a r c h であっ た 。
彼は,ハーヴァード大学経営大学院でビジネス心理学を教えていたが, 1 9 1 4 年に,広告理論を 実務家の実際的経験にもとづいて説明した ADVERTISING: ITS PRINCIPLES, PRACTICE, AND TECHNIQUE ( S c o t t , Foresman and C o . ) を出した後, 1 9 2 3 年には PRINCIPLESOF ADVERTISING (A.W. Shaw C o . ) という総合的な広告研究書を著していふそれは,
① 広告の基本的問題を広範かつ包括的に分析する,
③ それらの問題を処理する科学的方法を実際的に利用可能な形で開発する,
⑧ それらの問題に関連した多くの素材を集める,
という目的から, 6部3 7 章で構成された約 1 0 0 0 頁の大作である。
S t a r c h は , 商業的広告を規定して「人びとに, 商品を,彼らがその購買を誘発されるよう な方法で, 印刷して提示することによって成り立つ」と述べ, それは「印刷物で販売すること
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( s e l l i n g i n p r i n t , p r i n t e d s e l l i n g ) 」であり,「口頭で販売すること ( o r a ls e l l i n g ) 」と区別し ている ( p .5 ) 。そして,広告の基本的問題は次の五つであると指摘している:
① その商品を誰に販売するか。
R その商品をどんなアビール(訴求)によって販売するか。
⑧ そのアビールをもっとも効果的に提示するにはどうするか。
④ (その商品を販売しようとする階層の人びとに到達させるために)そのアビールをどんな メディア(媒体)で提示するか。
⑥ その商品を広告するための妥当な支出はどれだけか。
さらに S t a r c h は,これら 5 つの問題に対応させて内容を構成し,それぞれについて具体的な 分析課題を多面的に示しているが,それらの分析は「一部は心理学的で,一部は経済学的である が,恐らくほとんどの場合が主に前者である(心理学的である)」 ( p .8 ) と述べ,心理学的分析 の重要性を強調している。特に,③の「その商品をどんなアビールによって販売するか」と,⑧ の「そのアビー)・レをもっとも効果的に提示するにはどうするか」という問題は,ほとんど全部が
「心理学的なもの」であると考えている ( p .8 ) 。
その理由は,広告アビールを決めたり,もっとも効果的にそのアビールを提示する方法を決め るための原理は「買い手の心に何がもっとも効果的な影響を与えるか」ということの検討から生 まれるからである。これに関連して,一方では「見込み客の精神的過程」とか「その人の好き嫌 ぃ,動機,本能,習慣,注意過程」などについて,人間の特性 (humann a t u r e ) を理解する問 題が生まれると同時に,他方では「もっとも効果的に影響するための手段や方法」も問題になる として,両者を含めて「広告の原理の非常に多くの部分は,直接または間接に,心理学に依拠し ている」 ( p .9 ) と考えている。
こうして広告の基本的問題のRを取り扱った第 I l I 部「アビール:商品をどんなアビールによっ て販売するか」では, 「 A. アビールを左右する製品の分析」をふまえて「 B . 人間の特性の分 析……購買と販売に関連する欲求,動機,本能の心理学」「 C . アビールの強さの測定法」「 D.
アピール効果の階層差や性差」などが分析されている。
また,広告の基本的問題の③を扱った第 I V 部「アビールの提示:そのアビールをもっとも効果 的に提示するにはどうするか」では, まず「広告の機能」を示し, 「それぞれの機能が達成され るような,もっとも効果的な方法を検討する」という視点から分析を展開しているが,ここにそ の後の広告心理学で重要な問題になるポイントのいくつかが示されている。
第一のポイントは「広告の機能」に関する理論的枠組みである。それは,広告の機能を五つの 側面,つまり,
① 注目を確保する ( t os e c u r e a t t e n t i o n ) ,
③ 関心を喚起する ( t oa r o u s e i n t e r e s t ) ,
⑧ 確信を引き起こす ( t ob r i n g a b o u t c o n v i c t i o n ) ,
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④ 行為をつくり出す ( t op r o d u c e a c t i o n ) ,
⑥ 記憶にとどめさせる ( t oi m p r e s s t h e memory),
という 5 段階に分けてとらえる視点である。これは,広告や販売の効果を段階づけた「 AIDA 」 や「 AIDMA 」のモデルに代表される古典的な「段階モデル」の一つであり,今日の「購買意思 決定過程モデル」や「コミュニケーション過程モデル」の原型になるものである。
第二のポイントは,このような五つの機能のそれぞれを個別に問題にする前に検討すべき課題 としているもので,広告アビールが「論証的か,暗示的か」という訴求形態の全体的特徴の問題 である。二つの訴求形態の表現上の特徴を説明し, その効果をいろいろ論じているが, これは
「合理的訴求か,情緒的訴求か」とか「説明広告か,イメージ広告か」という今日の広告表現の タイプ分類の基礎になる発想である。
第三のポイントは,先の「広告の五つの機能」に関する効果をあげるための広告表現上の要素 を多面的に分析しているところである。「広告の真実さ」を印象づける種々の技法に加えて,「ヘ ッドライン」「イラストレーション」「サイズ」「カラー」「レイアウト」「活字」「トレードマー ク」などの効果的な使用方法が分析されている。
このような「広告アビール」に関する分析のほかに「媒体分析」(第 V 部)も行っているが,
これは「心理学.社会学,経済学のすぺてに関連する」と性格づけ,雑誌,新聞,ダイレクト・
メール,車内広告,ポスクーなどのメディアを取り上げている。
こうして S t a r c h( 1 9 2 3 ) は,広告に関する心理学的問題を, 印刷広告に限られてはいるが,
幅広く取り出して,実証的な調査・実験による分析を展開しており,その問題意識からみれば.
今日の「広告心理学」の枠組みが相当程度出されていると見ることができよう。
この PRINCIPLESOF ADVERTISING ( 1 9 2 3 ) の短縮版として ADVERTISING PRIN
—CIPLES (A.W. Shaw C o . , 1 9 2 7 ) も刊行しているが,原著から 7 章を除き,各章の文章を短縮
しているとは言え,なお 3 0 章構成で約 6 0 0 頁に及ぶものである。
( 3 ) J.B. ワトソンの実務的貢献
現代心理学の科学的方法論の中核を成す行動主義を提唱した J o h n .B . Watson ( 1 8 7 9 ‑ 1 9 5 8 ) は , 1 9 0 8 年に, 2 9 歳の若さでジョンズ・ホプキンス大学の実験心理学・比較心理学の教授にな り,アメリカ心理学会の会長も勤めたが, 1 9 2 0 年にニューヨークの広告会社 J . w . トンプソン 社に移り,広告に心理学を応用する実務で非常に大きな成果をあげた。経営雑誌のニューヨーカ ー誌が 1 9 2 8 年に Watson のプロフィールを紹介した記事の中で, Watson に対するトンプソン社 の強い期待が述ぺられており,また Watson 自身も後に「新製品の販売曲線の成長を見ること は,動物や人間の学習曲線を見るのと同じくらいスリリングであることを悟るようになった」と 述懐したと伝えられているように,広告の仕事を気に入っていたようである。そして,現に, 1 9 2 0 年代以降の広告の方向や発展に大きな影響を与えた。 ( G o l d s t e i n& K r a s n e r , 1 9 8 7 , p p . 1 ‑ 3 )
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Watson は,入社したての頃の実務訓練として,メーシー百貨点の販売員も経験しているが,
売り場の出口にあるキャッシュ・レジスターに近い場所に陳列されている品物の売れ行きがよい という,今日のスーバーマーケットの商品配置の原理になっている事実を見いだしたと言われて いる。また,ベビー・パウダーの広告では,種々のデモグラフィック・データを組み合わせて検 討し,若くて,白人で,より上層の社会階層を目指している中間階層の母親に広告キャンペーン をするという形で, 今日の「市場細分化 ( m a r k e ts e g m e n t a t i o n ) 」を行い, その訴求内容で は,幼児が伝染病にかからないための手段としてのベビー・パウダーの清潔さを強調する表現 で,可愛い子供の健康についての若い母親の気遣いに対する「恐怖訴求 ( f e a ra p p e a l ) 」を行っ ている。 また,有名人や専門家を広告に登場させ, 商品の推奨をしてもらうという 「推奨広告 ( t e s t i m o n i a l a d . ) 」の表現技法を駆使している。彼が制作じた推奨広告で最大の成果を挙げた ものは,当時のルーマニアやスペインの女王が登場したコールド・クリームの推奨広告であった と言われている。
その後, Watson は,心理学の応用を経営や産業の種々の領域に拡大しているが,その出発点 は「広告心理学」にあったのである。
皿 わが国での広告心理学の展開
( 1 ) 大正時代の広告研究と心理学の接点
わが国で「廣告」(以後「広告」と書く。)という文字を使い始めたのは明治 5年頃と言われて いる。しかし当時は「広告」に該当する文字として「報告」「告条」「告白」「稟告」「公告」など も用いられており, 「ある事実を広く一般に知らせるための手段」と考えられていたようであっ て,「広告」という言葉の使用が一般化したのは明治 2 0 年以後とされている。
福沢諭吉は,自らが主宰して明治 1 5 年 ( 1 8 8 2 ) に創刊した新聞「時事新報」への広告掲載を呼 びかけるため,明治 1 6 年 ( 1 8 8 3 )1 0 月には「商人に告ぐる文」と題した文章を時事新報に掲載し て新聞広告の効用を訴えたり(松本, 1 9 7 3 , p . 5 4 ) , 明治 1 9 年 ( 1 8 8 6 ) 3 月には時事新報への広 告募集文を他新聞に掲載しているが(高木, 1 9 3 0 , p . 3 5 f f . ) , これらの文章ではすでに「広告」
という言葉が使用されている。
大正時代には,アメリカの広告理論の吸収に非常に積極的な姿勢が見られ,広告に関する理論 書や実務書が数多く出版されている。
前述のように,大正 4 年 ( 1 9 1 5 ) には S c o t t( 1 9 0 3 ) の THEPSYCHOLOGY OF ADVERT!‑
SING が佐々木十九によって「広告心理学」(佐藤出版部刊)として訳出されているが,佐々木十 九は,同じ大正 4 年に, S c o t t の THE THEORY AND PRACTICE OF ADVERTISING ( B r e n t o n ' s , 出版年不詳)を「模範広告術」(佐藤出版部刊)として, また H o l l i n g s w o r t h ,H . L . の ADVERTISING AND SELLING : PRINCIPLES OF APPEAL AND RESPONSE ( D .
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A p p l e t o n , 1 9 1 3 ) を「広告と販売」(佐藤出版部刊)として訳出している。また S t a r c h の AD‑
VERTIS/NG: ITS PRINCIPLES, PRACTICE, AND TECHNIQUE ( A . W. Shaw C o . , 1 9 1 3 ) が大正 6 年 ( 1 9 1 7 ) に郡山幸男訳「広告の理論と実務」(佐藤出版部刊)として刊行されている。
そのほかにも,大正期全体を通して種々の広告専門書が出版されている%
この時代には,すでに広告についての認識が相当高い水準にあったと言うことができよう。た とえば,広告を定義するにあたり,大正 6 年 ( 1 9 1 7 ) に北沢新次郎は「最近広告論」(東京出版)
で次のように述べ,広告の機能は「告知」や「好意(態度)形成」だけでなく「説得」や「需要 喚起」にあることを強調している:
「今日の広告なるものは,単にある事実の通知,あるいは披露をなすが如き消極的な意味なら ず,更に進んで他人の思想を繰越し,他をして自己の説く所に服従せしめ,なお自己の提供す る所に応ぜしむるにあり。換言すれば広告によって旧来の顧客の歓心を維持するにとどまら ず , 更に新需要をも喚起して顧客の範囲を拡張せんとする積極的な目的を有するものなり。」
(根本, 1968 から引用。)
このように,当時の広告研究では,すでに,人間心理の分析が主要な柱になっていたと言えよ う(渋谷, 1 9 7 8 , p . i i ) 。 石 川 ( 1 9 6 8 ) は , 大正末期は「広告心理学」への関心が特に高まった 時期であったと見ている ( p .3 6 ) 。
( 2 ) 昭和初期の広告心理学
昭和初期になると S c o t t ( 1 9 0 3 , 1 9 0 8 ) や S t a r c h ( 1 9 2 3 ) を初めとするアメリカの実証的な 広告研究の成果の吸収・導入がますます盛んになり,多くの広告専門書が刊行された 2 ¥
広告研究において人間心理を理解することの重要性もますます強調された。昭和 6 年 ( 1 9 3 1 ) の粟屋義純「広告原論」には「広告には人間の精神作用の研究,つまり心理学が不可欠である」
という次のような主張を見ることができる:
「精神作用,換言すれば,人性の研究を主要題目とする心理学は,まずもって広告と密接不離
1)種々の文献に見られる専門書には次のようなものがある:
大正 3 年 ( 1 9 1 4 ) 平岡敬ー「自由自在広告法」; 4 年 ( 1 9 1 5 ) 井関一二郎「広告の仕方」(実務叢書),
堀田善太郎「広告の戦略」; 5 年 ( 1 9 1 6 ) 円城寺良「実用新聞雑誌広告術」, 清水正巳「小売商店広告 法 」 ; 6 年 ( 1 9 1 7 ) 北沢新次郎「最近広告論」東京出版; 1 1 年 ( 1 9 2 2 ) 福島民報社「新聞広告研究」,大 塚政晨「販売増進・広告戦略」,井関一二郎「広告心理学」; 1 2 年 ( 1 9 2 3 ) 早大広告研究会「統計的広告 研究」; 1 3 年 ( 1 9 2 4 ) 中川静「広告と宣伝」宝文館;
14年 ( 1 9 2 5 ) 正路喜社編「広告文化」
2)種々の文献に見られる専門書には次のようなものがある:
昭和 6 年 ( 1 9 3 1 ) 粟屋義純「広告原論」; 7 年 ( 1 9 3 2 ) 有田二郎「広告の心理学」天泉社,森崎善ー「宜 伝広告の計画論」丸善; 8 年 ( 1 9 3 3 ) 粟屋義純「広告通論」学文社,金子弘「広告学」; 9 年 ( 1 9 3 4 ) 粟屋義純「広告要論」同文館, 慶応義塾大学広告研究会編「新広告の理論と実際」;
10年 ( 1 9 3 5 ) 松宮 三郎「広告学概論」巌松堂
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の関係を有するとみるべきである。人性の研究を没却せる広告は,仮令,その外観が如何に美 的要素に富むといえども,微妙にして複雑なる人間の精神作用を誘起する力はなく,いたずら に浪費として,終わらざるを得ない。」(渋谷, 1 9 7 8 , p . i i より引用。)
また明治2 3 年 6 月に大阪で創業され,現在の総合広告会社としては一番長い歴史をもつ萬年社 は大正1 2 年 ( 1 9 2 3 ) 4 月から広告研究誌として「広告論叢」を発刊している。(当時の萬年社の 広告研究活動については有光 ( 1 9 9 0 )の報告が参考になる。)「広告論叢」の第 1 輯には上野陽一
「広告の科学的研究」という講演記録が掲載されているが,昭和に入ると心理学的な論文が相次 いで発表されるようになった。
第 7 輯(昭和 2 年 , 1 9 2 7 ) には小川忠蔵「産業心理学より見たる広告の職能」という論文が出 され,広告の目的を論じたうえで「単に心理学の方面のみを見ましても,注意の喚起,把持,記 憶,連想,本能,或は流行等を特に広告に関連して研究せねばなりません」という研究課題の指 摘を行っている。その後,第2 0 輯(昭和 9 年 , 1 9 3 4 ) に伊藤熊太郎「広告上に於ける心理学的批 判点」,第2 2 輯(昭和1 0 年 , 1 9 3 5 ) に宇都宮仙太郎「訴求」,第2 3 輯(昭和1 1 年 , 1 9 3 6 ) に同じく 宇都宮の「広告の力学的研究」などの論文が続いている。
さらに第2 5 輯(昭和1 2 年 , 1 9 3 7 ) に掲載された伊藤熊太郎「新聞広告の心理学的研究」は自ら の実験結果を報告したもので,次の内容になっている:
① 「注意の範囲」として,どの新聞広告に注意するかを「大きさ」や「縦書,横書」で比較 する。
R 「注意価値」として, どこに目を付けたかを「位置」では1 6 分割から 4分割, 上部と下 部,右側と左側などで比較し,また「広告の大きさ」「文字の大小」「白抜文字と黒文字」で 比較する。
⑧ 「記憶」に関しては「反復の効果」について「反復回数と広告の大きさの関連」を示し,
「訴求形式が同じ場合と変化させた場合」を比較し,「音律または語呂」の効果を論じる。
④ 「動作」に関連しては, 購買動機を検討して「暗示」「模倣」を重視し, 「絵と題辞」や
「レーアウト」に工夫することが必要であることを強調する。
しかし昭和 1 0 年代後半は「広告が消え,宣伝が残る」(石川, 1 9 6 8 , p . 6 9 )と言われるように,
戦争目的の遂行のために広告技術が総動員された「広告の暗黒時代」(松本, 1 9 7 3 , p . 2 2 3 ; 今 野 , 1 9 8 5 , p . 1 6 2 )であった。
( 3 ) 昭和2 0 年代のわが国の広告心理学
第 2 次世界大戦終了直後の昭和2 0 年代初期に, わが国でも市場調査の専門機関が生まれ始め た。昭和2 1 年 ( 1 9 4 6 ) に牧田稔を中心に「与論科学協会」が設立され,昭和2 2 年 ( 1 9 4 7 ) には電 通(当時は,日本電報通信社)に調査部ができ,その後の広告効果研究の中心的な役割を果たす ようになった。
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関西大学『社会学部紀要」第 2 2 巻第 2 号
専門書として, 森崎善ー「宣伝の心理」(国民教育社,昭和2 3 年 6 月 , 1 9 4 8 )が出されている が,この本は, S t a r c h ( 1 9 2 3 )を初め, S t r o n g ,E . K . : PSYCHOLOGY OF SELLING AND ADVERITISING ( M c G r a w ‑ H i l l , 1 9 2 5 ) , P o f f e n b e r g e r , A . T . : PSYCHOWGY OF ADVER‑
TISING ( A . W. Shaw C o . , 1 9 2 5 )その他の 1 9 2 0 年代のアメリカの広告研究書を参考にして書か れたもので, 当時の時代背景であるアメリカ追随主義を広告宣伝の領域でも如実に表していた
(石川, 1 9 6 8 , p . 8 4 f f . ) 。
昭和2 0 年代から 3 0 年代にかけての広告研究の大きなテーマは「コビー・テスト」と「リーダー シップ・サーベイ」であった。
「コビー・テスト」では,個々の広告物の訴求力(特に視覚的印象や記憶)を高める表現方法 を見いだすことを目的として,実際に媒体に乗せる前に,主に実験心理学的技法による測定が行 われた。代表的技法には次のようなものがある:
① 判定テスト(意見調査)…・・・全体あるいは要素別の評価。
② クキストスコープ(瞬間露出機)……短時間内での視認度の測定。
⑧ アイカメラ……継続的接触での注視点とその移動。
④ GSR 測定……皮膚電気反射 ( g a l v a n i cs k i n r e f l e x ) で見る情緒的反応。
⑥ プログラム・アナライザー……特にテレビ C M への好悪反応の時間的変化の測定。
また「リーダーシップ・サーベイ」は,実際に出された広告物への接触度や閲読度を調べるも ので,次の技法がよく用いられた:
① 記憶テスト……再認度や再生度(想起度)の調査。
③ 問い合わせ法……広告に添付したクーポン(申込券)や請求券などの返送率で広告への反 応を見る調査。
これらの方法を通して,心理学者のなかにも広告研究とのかかわりを深める人が増えてきた。
たとえば,昭和2 5 年 ( 1 9 5 0 ) 8 月に大阪で広告夏期大学(関西広告協会・大阪商工会議所主催)
が開催されたが, 2 6 テーマのなかに苧阪良二(京都大学心理学研究室)の「広告に応用される心 理学」がある(広告論叢,第3 1 集 , 1 9 5 0 , p p . 9 4 ‑ 9 5 . ) 。 この講演内容は, この広告講座の 1 2 テ ーマを再録し, 2 6 年 8 月に「 SCIENTIFICADVERTISING : 新しい広告」として刊行された 書物にも掲載されている(石川, 1 9 6 8 , p . 1 0 2 ) 。
苧阪は, 萬年社「広告論叢」第3 4 集(昭和2 7 年 , 1 9 5 2 ) にも「視覚的広告と聴覚的広告の比 較」という論文を寄稿しているが,これより先,第3 2 集(昭和2 5 年 , 1 9 5 0 ) には梅本発夫(京都 大学心理学研究室)が「放送広告心理学の開拓」という論文を寄せている。この梅本論文の題目 には「開拓」という表現で,心理学の新しい分野へ取り組む意気が示されているが,この論文の 紹介部分には,新たに開始される「放送広告」の心理学的研究の必要性を説いた次のような文章 がある:
今日までの広告は主として「目でみる広告」で,ここに応用された人間行動の力学は視覚心理
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学であった。しかるに近く実現すべき放送広告は,音波によることばと音の伝達で,純粋に聴 覚による,きわめて感覚的な, しかも記録性のない広告媒体で,類似,近接語音による商品名 の誤聴などの危険が予想され,聴覚心理学の重要性が痛感される。(以下,略)
他方で,昭和 2 8 年 ( 1 9 5 3 ) に刊行の「心理学講座」第 1 1 巻の「市場調査 ( 1 ) 」には,牧田稔が,
与論科学協会で昭和 2 7 年 4 月に行った「新聞広告の効果測定」の結果を, 「今まで新聞広告の分 析に科学的なメスを加えたものは日本においてはあまり存在しなかった」というコメントととも に報告しているが, 調査員が持参した前日の新聞 4 紙の広告の再認を求める方法で, 広告の位 置,全体と単位面積当りの大きさ, 内容, 横組と縦組,紙面(第 1 面,第 2 面など),朝刊とタ 刊の別,などで再認率を比較している。
また,電通も昭和 2 8 年 ( 1 9 5 3 ) 2 月に「市場調査と分析ならびに PR 」という機関誌を創刊し ていたが,昭和 3 0 年 ( 1 9 5 5 ) 7 月には,これを「宣伝技術」という別の機関誌と合体して「調査 と技術」 ( 2 7 号から)という誌名で刊行するようになった。電通は,より研究的な性格の強い
「季刊・電通広告論誌」を昭和 3 0 年 1 月に創刊しているが,この創刊号には,南博の「広告の反 響調査と実験的チェック」という論文が掲載されている。これは「結婚期」という映画の新聞広 告について ( a ) 映画館の観客を対象にした印象度調査(昭和 2 7 年 ( 1 9 5 4 ) 1 1 月実施), ( b ) 広告内容 の記憶度を調べた実験,という二つの方法による効果測定の結果を報告したものである。
さらに朝日新聞社が昭和 3 1 年 ( 1 9 5 6 )1 0 月に着手したリーダーシップ・サーベイは,新聞広告 の効果分析に関して大きな貢献を果たすことになった。一連の調査は,新聞社自体が新聞広告へ の接触度に関する調査結果を公表しただけでなく,継続的なデータの蓄積を通して広告リーダー シップの研究に貴重な資料を提供した。その初期の仕事として,昭和 3 5 年 ( 1 9 6 0 )1 0 月調査のデ ータにもとづいて, リーダーシップに影響する要因の効果を林知己夫の数量化理論(第 I 類)で 分析している(朝日新聞東京本社広告部, 1 9 6 2 ) 。ただ,わが国でのリーダーシップ・サーベイ は,朝日新聞社よりも先に電通調査部で行われていたが,結果は公表されなかったと言われてい る(朝日新聞社広告部「広告調査資料要覧」 1 9 6 2 , p . 1 0 2 ) 。
朝日新聞社は,これらのリーダーシップ・サーベイよりも先に,一般読者を対象にした広告の コピー・テストも行っている。その第 1 回調査は昭和 2 8 年 ( 1 9 5 3 ) 1 月に東京と大阪で訪問調 査法により,昭和 2 7 年度の第 1 回朝日広告賞の参加作品について「好き,嫌い」の評価を求める という形で実施され,その後,調査内容を充実しながら, 3 3 年 ( 1 9 5 8 ) 4 月まで 6 回にわたって 行われている。
( 4 ) 昭和 3 0 年代における心理学者による新聞広告の分析
昭和 3 0 年代に入ると,広告会社,マスコミ媒体社,市場調査機関などの研究誌や PR 誌を通し て,心理学者による広告の実証的研究がいろいろな形で発表されるようになった。たとえば,日
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関西大学「社会学部紀要』第 2 2 巻第 2 号 本心理学会での新聞広告に関する研究報告も次第に増えている。
昭和 3 0 年 ( 1 9 5 5 ) 京都大学
① 牧田稔•新谷幸四郎「広告効果測定の研究」
昭和 3 1 年 ( 1 9 5 6 ) 立教大学
① 藤沢神「いわゆる brandl o y a l t y と広告」
昭和 3 2 年 ( 1 9 5 7 ) 九州大学
① 朝倉利最「新聞広告スペースの大きさの効果について」
昭和 3 4 年 ( 1 9 5 9 ) 北海道大学
① 吉田正昭「広告効果測定の一つの試み」
昭和 3 5 年 ( 1 9 6 0 ) 東京大学
① 朝倉利最•辻岡美延・広田君美「新聞広告のリーダーシップ効果に関する一研究」
R 大田久雄・相良守次・伊東太郎ほか「新聞広告のレイアウト効果」
昭和 3 8 年 ( 1 9 6 3 ) 日本大学文理学部
① 林英夫・苧阪良二•西原達也「片仮名,平仮名および横書き,縦書きの読みやすさの比較」
昭和 3 9 年 ( 1 9 6 4 ) 広島大学
① 小熊多恵子・志津野知文「新聞広告における大きさの要因と事前提示頻度の要因」
③ 岩井勇児・三輪弘道ほか「コヒ°ーテストの方法論的研究 ( 2 ) 」
これらのうち朝倉・辻岡・広田 ( 1 9 6 0 ) の報告は,朝日新聞の広告リーダーシップ・スコアを 利用して,それに影響すると考えられる 2 6 種類の要因を取り上げ,それぞれの関連性を統計的に 分析したもので,それまでのリーダーシップ研究にない広範囲の要因を取り扱ったものであった が,学会報告後の昭和 3 5 年 1 2 月に出された関西大学経済政治研究所研究双書(第 7 冊)に掲載の 朝倉・広田・辻岡「新聞広告リーダーシップ効果の分析」に,その分析結果が詳しく述べられて いる。
この朝倉・広田・辻岡 ( 1 9 6 0 ) の分析で取り上げられた要因は. 1 ) 朝夕刊, 2 ) 曜日, 3 ) 種 類(位置), 4 ) 頁数(掲載面). 5 ) 大きさ(スペース), 6 ) 業種, 7 ) 隣接関係, 8 ) 記事下での 上下位置, 9 ) 左右位置, 1 0 ) 形状(縦長,横長.正方形), 1 1 ‑ 1 ) イラストレーション(イラス ト)の有無, 1 1 ‑ 2 ) イラストの種類, 1 1 ‑ 3 ) イラストと商品の関連の強さ, 1 1 ‑ 4 ) イラストの対 象(人物・動物・事物など), 1 1 ‑ 5 ) イラスト人物の性, 1 1 ‑ 6 ) イラスト人物の有名度, 1 1 ‑ 7 ) イラスト人物が大人か子どもか, 1 2 ) コビーの縦書・横書, 1 3 ) 白抜きの有無, 1 4 ) 余白の多 少 , 1 5 ‑ 1 ) 広告の訴求対象(男性,女性,子ども), 1 5 ‑ 2 ) 訴求クイプ(説明型,印象型), 1 5 ‑ 3 ) 訴求点の数(複数,単数), 1 5 ‑ 4 ) 訴求の強調点(消費者,商品, PR), 1 5 ‑ 5 ) 消費者強調 の場合の訴求内容(理性, 感情), 1 5 ‑ 6 ) 感情訴求の場合の訴求方向(明,暗), などである。
このうち,ィラストレーションや訴求方法などには従来の研究で取り扱われていない要因も含ま れている。分析では,昭和 3 4 年 1 月から 8 月までに東京都で行われた朝日新聞の 8 回分の広告リ ーダーシップ・サーベイの結果にもとづき,極端なスコアを示している広告や特殊業種の広告を 除いて, 上記の各要因で設定したいくつかの分類カテゴリーに該当する広告(総数には 843 55
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の幅がある。)のリーダーシップ・スコアのカテゴリー別平均値の差を統計的に検定している。
この朝倉ら ( 1 9 6 0 ) の分析は,新聞広告リーダーシップに対する要因の効果を個別的に検討し たものであるが,これより先に山中 ( 1 9 5 8 ) は,林知己夫の数量化理論(第 I 類)によって種々 の要因の効果の相対的な強さを分析し, 決定的要因は「広さ」「掲載面」「位置」「レイアウト
(写真,挿画,文字のみ)」であるという結論を出していた。 その後,林・村山 ( 1 9 6 4 ) も , 朝 日新聞の広告リーダーシップを数量化理論(第 I 類)によって分析して「スペース(広さ)」「業 種」「掲載面」が特に重要であることを明らかにしている ( p p .2 6 3 ‑ 2 8 3 ) 。
こうした数量的分析のほかに,実験的方法で広告効果を調べるコビー・テストも多面的に行わ れた。特定の広告メッセージを提示してから一定時間が経過した後に再生法や再認法で記憶内容 を調査するという方法が多かったが,瞬間露出機やアイカメラなどの心理学的機器を用いる方法
も関心を集めた。
たとえば坂野 ( 1 9 6 3 ) は , NRC 型アイカメラを用いて, ビールとカメラの 4 種類の広告につ いて, ( a ) プランド名やメーカー名の部分をかくし,何も指示を与えない条件, ( b ) プランド名やメ ーカー名の部分をかくすが,その名称を口頭で指示する条件, ( c ) プランド名やメーカー名が入っ た通常の広告を示し,何も指示を与えない条件,という 3 条件で 5 秒間の視線の動きを追跡して いる。その結果,各広告の注視点の配置を明らかにするとともに,視線の動きの条件間比較から 広告表現の特徴と消費者モチベーションヘの影響を分析している。
こうして広告は,実験心理学や社会心理学を含む広い領域の心理学者の興味を引く課題になっ た 。
心理学者による広告の専門書も出されるようになった。代表的な書物として,
① 南博編「応用社会心理学講座(第 4 巻)宣伝・広告」光文社,昭和3 4 年 ( 1 9 5 9 )
③ 朝倉利景「広告心理」電通,昭和3 7 年 ( 1 9 6 2 )
などを挙げることができる。これら書物では,新聞・雑誌の印刷広告のほかに,ラジオ・テレビ の放送広告も取り上げられている。
( 4 ) 心理学者による放送広告の研究
苧阪 ( 1 9 5 2 ) や梅本 ( 1 9 5 0 ) が放送広告をテーマにした論文を発表した昭和2 0 年代の後半は,
日本の広告メディア状況が大きく変わった時期であった。昭和 2 6 年にラジオが, 2 8 年にテレビ が,それぞれ民間放送として開始され,電波によるコマーシャル・メッセージが流れるようにな った。その商業放送の広告効果の調査として,ラジオ聴取率調査は大阪では新日本放送など 3社 が昭和2 6 年1 1月に,東京ではラジオ東京など 3 社が昭和2 8 年 5 月に着手した。また,テレビ視聴 率調査は,電通が面接方式で昭和3 0 年 5 月に開始し,その後,メーター(機械測定)方式で3 6 年 4 月に A.C. ニールセン社が, 3 7 年 9 月にビデオ・リサーチ社がそれぞれ日記式調査との併用 で実施するようになった。
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関西大学『社会学部紀要」第 2 2 巻第 2
号昭和 3 0 年代半ばから,印刷広告に加えて,放送広告(ラジオ,テレビの CM) についての研究 が , 日本心理学会でも次々に報告されるようになった。
昭和 3 3 年 ( 1 9 5 8 ) 慶応大学
① 山下泰子・小嶋外弘「放送広告効果についての実験調査: SP 放送が聴取者の心理構造に与えた効 果の時系列的分析」
昭和 3 4 年 ( 1 9 5 9 ) 北海道大学
① 辻岡美延「テレビ放送における広告の一分析」
昭和 3 5 年 ( 1 9 6 0 ) 東京大学
① 相良守次・多湖輝•鳥居修晃ほか「識閾下剌激の広告効果」
昭和 3 6 年 ( 1 9 6 1 ) 早稲田大学
① 金子信光•浜田哲郎・山本文夫「G. S . R . , P r o g r a m A n a l y s e r によるテレビ番組の研究」
③ 小嶋外弘「テレビ視聴率の予測:多次元解析による数量化理論の適用」
昭和 3 7 年 ( 1 9 6 2 ) 関西学院大学
① 前田嘉明・難波精一郎ら「テレビコマーシャルの心理的評価について」
③ 岡本淑人・坂本光男「テレビ C M の効果測定について」
昭和 3 8 年 ( 1 9 6 3 ) 日本大学文理学部
① 兼子宙ほか「アイカメラによる TV‑CM の効果測定法について」
R 志津野知文ほか「 TV‑CM 効果の測定法についての研究」
昭和 3 9 年 ( 1 9 6 4 ) 広島大学
① 志津野知文・小熊多恵子「 TVCM における音の効果」
しかし,まとまった形の図書が出るようになったのは 4 0 年代に入ってからである。心理学者が 関与した図書として,たとえば次のものが注目される:
① 民放五社調査研究会「放送広告の効果」ダイヤモンド社,昭和 43 年 ( 1 9 6 8 )
R 飽戸弘編著「広告効果:受け手心理の理論と実証」 YTV( 読売テレビ),昭和 47 年 ( 1 9 7 2 ) 特に飽戸らの「広告効果」では,広告効果の社会心理学的研究の理論的枠組みと具体的分析課 題を示し,次の 8 テーマについて実証的分析を試みている:
① 広告における「両面提示」と「一面提示」の効果比較(第 3 章 )
R 「推奨広告」における「推奨者」のプレスティージ効果の分析(第 2 章 )
⑧ C M の表現・訴求形式の違いとその効果の比較(第 5 章 )
④ 異なる商品の広告の連続的提示による広告間の相互作用の分析(第 4 章 )
⑥ 受け手の態度特性による広告効果の差異の分析(第 8 章 )
⑥ 広告制作の経験的諸法則の実証的確認(第 9 章 )
c Osgood の「適合性仮説」をクレント・イメージとプランド・イメージの間で検討(第 6 章 )
⑧ F e s t i n g e r の「認知的不協和理論」を耐久消費財購入後の広告接触によって検討(第 7 章 ) これらの分析には,単なる社会心理学的な態度理論や態度測定法の紹介だけでなく,それらの
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測定技法でとらえたデータにもとづいて態度理論を具体的に検証しようとする努力が認められ,
テレビ広告に関するわが国での初期の実証的研究として高く評価できるものである。
W 広告心理学における今日的アプローチ
( 1 ) 広告の販売機能とコミュニケーション機能
商業的広告を「人びとに,商品を,彼らがその購買を誘発されるような方法で,印刷して提示 すること」と規定し, 販売活動 ( s e l l i n g ) の一種であるとした S t a r c h( 1 9 2 3 ) の考えを素朴に 理解すると,広告された商品の購買行為を喚起することが広告の目的であり,広告効果は販売成 績に表れるという見方が成り立つだろう。これは広く認められている見方で,広告効果の「販売 機能」的視点と呼ぶことができる。他方で,広告は情報伝達のための手段であるため,そのコミ
ュニケーション効果の側面に注目することもできる。つまり,メッセージを通して伝えられる送 り手の意図に受け手(消費者)がどのような心理的・行動的な反応をするかということで広告効 果をとらえる「コミュニケーション機能」的視点も成り立つのである。
ところで,広告の「販売機能」をとらえることが特定条件下でしか成立しないことは, 1 9 4 7 年 に N e i lH. Borden が THEEClJNOMIC EFFECTS OF ADVERTISING ( R i c h a r d D . I r w i n ) で示しているところである。 つまり Borden は「広告の経済的効果」に関する膨大な研究成果 の第一の結論として「広告の需要増大効果」に注目し,これを①商品の品目レベルの需要,R個 別企業レベルの需要,⑧国の全体経済レベルの需要,という 3 側面に整理して述ぺているが,広 告心理学的な意味が深い①とRに関する要旨は次の通りである。
a . 広告はその商品の品目全体に対する需要を増大させるか;
商品の需要の基本的趨勢は主に基底的な社会的・環境的諸条件によって決定され,広告活動 それ自体は,一つの商品の需要を増大させるほどの働きはせず,有利な条件から生じる需要の 拡大をスヒ゜ード・アップしたり,不利な条件下での需要の減退的趨勢を遅らせたりする程度で ある。広告活動が需要とさまざまな関係を示すのは,商品に対する消費者の欲求が,消費者の 性格と彼らが置かれている環境によって決定されるからである。広告が変えうるのは,人びと の性格ではなく,環境であるが,それも社会の流動性や経済の動態性に対して長期的な間接的 影響を与えるだけである ( p p . 8 4 3 ‑ 8 4 4 ) 。
b . 広告は個別企業に対する需要を増大させるか;
広告は個別企業の製品の需要を増大させることができるが,その程度はさまざまで,それぞ れの企業が置かれている環境に依存している。 1 企業の販売を有利に刺激するような広告効果 が認められるのは,①その品目が有利な需要趨勢のなかにある,Rその製品を差別化できるチ ャンスが大きい,⑧消費者が製品の外見的品質でなく「かくされた品質」を重視している,④ 広告で訴求できる強力な情緒的購買動機が存在する,⑥製品の広告と販売促進に企業が十分な
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22巻第
2号
費用を投入できる,などの諸条件の組合せによるもので,広告が需要増大に結び付くか否かは 商品によって大きな差異があり, 広告以外の手段の方がより効果的な企業もある (pp. 8 4 4 ‑ 8 4 7 ) 。
言うまでもなく,現代の広告活動や社会的・経済的条件は, 1 9 4 0 年代のそれとはまったく様相 を異にしているので, Borden の研究成果をそのまま当てはめることはできないだろうが,広告 効果を販売成績(需要)でとらえるためには種々の前提条件が整っていることが必要だという認 識は今日でも成り立つものであろう。 C o l l e y( 1 9 6 1 ) は,売上高が広告効果のメジャーになるの は,①広告が唯一のマーケティング戦力である,②競争条件などの経済的諸条件が一定である,
⑧広告に対する消費者反応が即座に生じ効果の遅延がない,などの条件が満たされる場合である と言う。しかし,現状では,全国的に広告される製品でこのような条件が当てはまることはめっ たにないとも述べている。
広告のコミュニケーション機能に注目する立場は,広告効果を,それが直接的に購買行為を引 き起こし販売に結び付いたか否かという一種の「最終的結果」でとらえるのではなく,コミュニ ケーションの目的に見合った「なんらかの心理的・行動的変化」が受け手(消費者)に生じるこ とを重視するものである。
この視点で広告効果をとらえているのが, L a v i d g e & S t e i n e r ( 1 9 6 1 ) の「効果の階層モデ ル」や C o l l e y( 1 9 6 1 ) の DAGMAR( D e f i n i n g A d v e r t i s i n g G o a l s f o r Measured A d v e r t i s ‑ i n g R e s u l t s ) 理論である。 これらは,次第に購買行為に結実していく多段階的な心理的過程を 想定し,その過程の特定の段階にいる消費者を次の段階に移行させるだけでも,広告はコミュニ ケーション情報としての機能を十分に果たしていると考える。
特に C o l l e y は,広告の果たすべき役割をコミュニケーション機能に限定し,その効果は,ぁ らかじめ広告主が設定した広告目標に照らしてとらえるべきだという主張をしているが,このよ うな広告コミュニケーションの目標を次のような 5 段階の「コミュニケーション・スペクトル」
の枠組みでとらえ,そこに具体的で測定可能な変化を生み出すことが目標になると考えている:
① 未知·…••その銘柄も会社も知らない。
R 認知……見込み客が銘柄や会社の存在を知る。
③ 理解·…••どんな製品か,どんな役に立つか理解する。
④ 確信……その製品を買おうという気持ちや確信を持つ。
⑥ 行為•…••自分で行為を起こす。
つまり「未知から認知へ」「認知から理解へ」「理解から確信へ」「確信から行為へ」というよ うな 1 段階だけの変化を生じることが広告目標になる場合があり, そのために「行為」以前の 種々の心理的段階にも注目する必要があるわけである。
今日の広告は非常に多様な形態があり種々の表現がとられている。そのコミュニケーション機
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能や目標もさまざまである。最終的には「購買行為」につながる方向で消費者に影響するもので あるため「販売効果」を問題にすることもあるが,そのための「コミュニケーション効果」が重 視されることもある。結局は「広告効果の尺度としては,販売とコミュニケーションを分けるの ではなく,一体化したほうが望ましい」 (Ramond, 1 9 7 6 [八巻訳, 1 9 8 1 , p . 1 3 7 ] ) ということ になる。個々の広告物の特性に応じた具体的なコミュニケーション機能を, 「行為」レベルも含 めて,マーケティング・ミックスの中の相対的な位置づけに関辿づけて,限定的にとらえるので ある。
( 2 ) 広告心理学の課題領域
広告心理学では,「接触」「注目」「記憶」「理解」など広告物に対する心理的な反応や,広告情 報によって生じる「態度」 「イメージ」の形成・変容という影響の方向と程度など,どちらかと 言えば広告の「コミュニケーション機能」に着目する方向で, 幅広い問題を取り扱ってきた。
これに比べると,広告の「販売機能」に結びつく問題,たとえば広告接触と「購買行為」や「採 用行為」との関連性についての分析は, 相対的に少なかったと言えよう。 しかし, 後者の問題 についても,心理学的関心を喚起するテーマがある。たとえば, やや古い話題としては S t a r c h ( 1 9 6 1 ) の「ネタップス法 C " N e t a p p s "method) 」がある。これは,広告への接触者と非接触者 の間の当該商品購買率を比較し,広告が購買率の純増に寄与した程度を測定する技法である。他 方,新しい話題としては,スーパーマーケットなどでの商品購買データと広告接触データの関連 を個人レベルで分析する「スキャン・パネル」(たとえば, ビデオ・リサーチの V R ホームスキ
ャン)の問題がある(八木, 1 9 8 6 ; 日本広告業協会, 1 9 8 9 ) 。
このような広告心理学の研究課題の枠組みについて,研究者や実務家の一般的理解を簡潔に示 しているのは, 仁科 ( 1 9 7 6 ) が「広告心理:消費者心理と広告計画」(電通刊,昭和 5 1 年)で描 いているモデルであろう。
仁科モデルは,次のように要約できる:
a . 広告は「接触」「情報受容(注目・理解・記憶)」「態度変容」および「行動変容」という四 つの段階で消費者に影響を与えており,これを「広告の影響過程」と呼ぶ。
b . 他方で,広告計画があり,次の四つの個別計画作業が含まれている;
① 課題計画…•••マーケティング活動,特にプロモーション活動のなかで広告が果たすべき課 題を設定する。
② 表現計画……課題を果たすために適切な広告作品を制作する。
③ 媒体計画……課題を果たすために適切な広告出稿スケジュールを作成する。
④
評価計画・…••個別の計画作業を評価し広告計画全般の管理を行う。C.
広告の影響過程の各段階は,広告計画の特定の部分に対応づけることができ,その対応は次 の通りである;
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22巻第
2号
① 「接触」の有無はもっばら「媒体計画」の結果である。
R 「情報受容」の効果は「媒体計画」の一部と「表現計画」に依存している。
⑧ 「態度変容」は主に「表現計画」の出来ばえにかかっている。
④ 「行動変容」が生じるか否かは「課題計画」に依存している。
d. したがって,広告心理学の問題領域は次の 4 領域に集約することができる;
① 媒体選択や出稿スケジュールなどの「媒体計画」と消費者による「接触」や「情報受容」
との関連。
② 伝達内容やその表現テクニックなどの「表現計画」と消費者による「情報受容」や「態度 変容」との関連。
⑧ 長期的および短期的な「課題計画」と訴求点への「行動変容」や銘柄への「態度変容,行 動変容」との関連。
④ 広告計画の個々の作業の効率やキャンペーン全体の成果の「評価」。
仁科モデルは,広告の送り手と受け手の関係を直視したもので,広告主の意図に対する消費者 反応をとらえることを課題としており,その内容は明快である。しかし,研究的視点をより強調 した広告心理学においては,広告コミュニケーションによる包括的で間接的な影響も問題になる だろうし,その情報処理の過程や方法に関する微視的な分析も必要になる。
( 3 ) わが国における広告心理学の実証的研究
わが国の広告心理学に関する最近の実証的研究を概観すると,主たる関心は次のような六つの テーマに向けられていると見ることができよう。
1 ) 生活情報としての広告の機能
広告の効用や弊害についての意見・態度の調査は枚挙にいとまがないが, そのレベルを越え て,さまざまな意見・態度を集約して基本的特性や基底的因子を見いだす試みも多面的に行われ ている。「広告一般」だけでなく,「媒体」「商品」「業態」などで分野を限定した広告も分析対象 になっている。その際,広告についての意見・イメージなどの質問に対する回答を数理解析して 基底的因子を抽出する方法がよく用いられるが(小嶋, 1 9 7 2 ; 鈴木, 1 9 7 6 ; 嶋田, 1 9 8 2 ; 青木,
1 9 8 2 ; 飽戸, 1 9 8 4 ; 佐々木, 1988b; 真鍋, 1 9 9 0b , p p . 1 2 4 ‑ 1 5 2 , 2 7 5 ‑ 2 8 2 ; 松田, 1 9 9 0 ) , ぉ
よそ 1 4 0 0 点の食品・飲料の新聞広告のキャッチフレーズの内容分析にもとづいて広告の生活文化 的機能を検討した佐々木 ( 1 9 8 3 ) の分析も,このジャンルに入るものである。
2 ) 広告表現の要素と特性
佐々木 ( 1 9 8 3 ) の内容分析は,新聞広告のキャッチフレーズが消費者の生活様式にどんな働き かけをしているかという視点から 2 8 の「表現カテゴリー」を構成し分類しているので,広告表現 分析のジャンルに入れることもできる。また真鍋 ( 1 9 9 0 b ) が,テレビ C M に描かれた人間関係
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