研究機関研究所近況
基盤研究機関 先端分子医学研究所
肺炎クラミジア感染症とメタボリック症候群の連関:
インフラマゾームによる自然炎症
感染症・免疫疾患分子標的グループリーダー 医学部教授
廣 松 賢 治
福 岡 大 学 基 盤 研 究 機 関 先 端 分 子 医 学 研 究 所 FCAM は、 『1)癌、2)糖尿病・肥満・循環器疾 患を中心とした生活習慣病(メタボリックシンド ローム) 、および3)免疫関連疾患・感染症の3つ の多因子疾患群の病因・病態の解明を行い、これら の理解に立脚した分子標的療法を中心とした先駆的 治療法・予防法開発のための基盤構築に資する』こ とを目的に白澤所長をリーダーとして設置されまし た。この大きな枠組みのなかで、私たちは上記1)
〜3)の共通プラットフォームとして 慢性炎症 を捉え研究を行っています。
慢性炎症 は、病原体による外的侵襲のみなら ず、動脈硬化、癌、難治性アレルギー性・自己免疫 疾患などでもみられる共通のステップであり種々の 病態の発症機構に深く関わっていることが近年明ら かになりました。Toll 様受容体などの自然免疫系の 病原体センサーによる病原微生物由来のパターン分 子の認識を引き金とする炎症に加えて、細胞ストレ ス、高血糖、セラミド、尿酸、アミロイド β など の自己由来の内因性分子や、アスベスト、シリカ等
の環境由来の分子も、病原体センサーにより感知さ れ、細胞内の炎症生成に関わるインフラマゾームと いう複合体の活性化を惹起し、炎症性サイトカイン IL ‐1β の分泌を促進することがわかってきました
[図1参照] 。これまで感染症を中心に解析が進め られてきた病原体センサー・インフラマゾーム複合 体による炎症のスタートシグナルが、メタボリック シンドロームや癌などの非感染性の炎症疾患にも関 わっているのです。従ってこれら炎症の惹起、遷延 化、組織障害、修復過程などの分子機構を解明する ことは新たな治療標的分子の発見に繋がるものと期 待されます。
感染症・免疫疾患分子標的グループでは、難治性 の細胞内寄生性病原微生物に対する感染免疫学研究 と、SLE(全身性エリテマトーゼス)など難治性自 己免疫疾患を専門とする臨床免疫学研究の有機的融 合をはかり、感染症・免疫関連疾患の病態形成の共 通基盤、炎症の解明を行っています。廣松賢治・伊 藤竜太(医学部微生物免疫学)らは、動脈硬化病巣 の8 0%以上に検出され、心筋梗塞との関連も世界的 に注目されている肺炎クラミジアを取り上げ、細胞 内寄生性細菌クラミジアが感染細胞内で宿主免疫系 から逃れ、遷延性(持続)感染をおこしたり、持続 性感染・炎症を惹起する分子機構や、肺炎クラミジ ア感染症と動脈硬化症・インシュリン抵抗性の因果 関係の分子基盤の基礎的研究を行い、感染・炎症・
metabolisim(メタボリック症候群)の有機的な関連 性を明らかにしようとしています。 また、 斉藤喬雄・
中島衡(医学部腎臓・膠原病内科)らは、自己免疫 疾 患(SLE 性 腎 症・糖 尿 病 性 腎 症・IgG4関 連 腎 症) の病態解明を目指した基礎臨床研究として、 SLE モデルマウス(MRL/lpr)に IL ‐ 2 7、IL ‐ 1 7などの T 細胞サイトカイン系、自然免疫 TLR シグナル系の
図1―21―
遺伝子欠損マウス、トランスジェニックマウスを作 成し、Th1/Th2系のサイトカインバランスと SLE 腎炎組織系との関連を明らかにする研究を行ってい ます。また、IgG4関連腎症の発症に関わる免疫学 的機序の解析、IgA 腎症における自然免疫の関与や リポ蛋白糸球体症(LPG)の発症に関わるマクロ ファージ機能の解析も行っています。本稿では紙面 が限られていますので、廣松らの肺炎クラミジアと メタボリック症候群の連関に関する研究近況をご紹 介します。
肺炎クラミジアとメタボリック症候群の連関:
インフラマゾームによる自然炎症
!
肺炎クラミジア感染によるマクロファージ泡沫細 胞形成・インフラマゾーム活性化〜動脈硬化発症 との関連IL ‐1(インターロイキン1)はマクロファージ や単球など多様な細胞から産生されるサイトカイン であり、それ自身、あるいは下流で IL ‐ 1 7や IL ‐6、
TNFα などの発現を誘導することにより、炎症を誘 導します。また、獲得免疫系を刺激し、自己免疫の 発症にも深く関わっており治療の標的となっていま す。この炎症性サイトカインで中心を担う IL ‐1β は、マクロファージなどで病原体由来のパターン分 子を toll 様受容体(TLR)等で認識することにより まず前駆体蛋白が作られ、次いで inflammasome と いう細胞内複合体の活性化により成熟型 caspase ‐1 が作られることにより、成熟 IL ‐1β へと protease 切断され細胞外へ放出されます。最近、これらのイ ンフラマゾームは病原体 PAMPs のみならず、cera- mides や高血糖などの cell stress、danger signals をも 感知し、caspase ‐1の活性化を起こし慢性炎症の原 因となっていることが明らかとなりました。動脈硬 化症や2型糖尿病などの生活習慣病も NLRP3イン フラマゾーム活性化による慢性炎症が大きく関与し ている可能性が強く示唆されます(The NLRP3 in- flammasome as common inflammatory node of complex diseases Nature Medicine 2011, 17, 790、Role of the NLRP3 inflammasome in pathogenesis during obesity Nature Medicine 2011 17, 164) 。
偏性細胞内寄生性細菌である肺炎クラミジアは、
マクロファージに感染し脂質などの栄養源を入手し
細胞内で増殖します。肺炎クラミジアに感染したマ クロファージでは脂肪滴(lipid droplet)の生成がお こり泡沫細胞(foam cell)となり、動脈硬化症の感 染性リスク因子として働いたり、2型糖尿病発症機 構 へ の 関 与 も 強 く 疑 わ れ て い ま す(Chlamydia pneumoniae-an infectious risk factor for atherosclerosis?
Nature Reviews Microbiology 2004, 2, 23-32) 。 私たちは、動脈硬化との関連が示唆される肺炎ク ラミジア感染により、マウス骨髄由来マクロファー ジがインフラマゾーム Inflammasome(NLRP3)を 介した caspase ‐1活性化による IL ‐1β 産生をおこ すこと、 Inflammasome 関連分子 (NLRP3、 Asc、 Cas- pase ‐1)欠損マウス由来のマクロファージでは肺 炎クラミジア感染による L ‐1β 産生が阻害される だけでなく、感染性クラミジアの増殖も阻害されて いることなどを見いだしました。偏性細胞内寄生性 細菌であるクラミジアは、その増殖のために宿主由 来の lipid を封入体に取り込みます。Inflammasome 関連分子欠損マクロファージでは脂肪滴(lipid drop- let)の数が顕著に増加しており、肺炎クラミジアが Inflammasome 依 存 性 caspase ‐1活 性 化 を 利 用 し て
lipid droplet のクラミジア封入体への取り込みを
行っている可能性が強く考えられます。この肺炎ク ラミジア感染によるマクロファージの caspase ‐1の 活性化による炎症性サイトカイン IL ‐1β の放出は、
肺炎クラミジア感染による動脈硬化症発症・増悪の 危険因子として働くメカニズムを説明する分子基盤 ではないかと考えています。
"
肺炎クラミジア感染による脂肪細胞のインフラマゾーム活性化〜インシュリン抵抗性・糖尿病発症 との関連
これまでの肺炎クラミジアなどの細胞内寄生性病 原体に対する感染免疫の研究は、病原体侵入の場で ある上皮系細胞や貪食細胞であるマクロファージに おける宿主免疫応答の解析がほとんどであり、脂肪 組織や脂肪細胞を用いた研究はされていません。し かし、他の細胞内寄生性病原体である結核菌、トリ パノソーマ原虫、コクシエラ(Q 熱病原体)やリケッ チアなどで脂肪細胞への感染の報告がなされており、
脂肪細胞・組織の細胞内寄生性病原体のリザーバー として可能性が疑われます。そこで、脂肪細胞への
―22―
分化誘導が可能な3T3L1セルラインを用いた肺 炎クラミジア感染を行ったところ、肺炎クラミジア が preadipocyte よりも adipocyte【脂肪細胞】に分化 した細胞においてより高い感染増殖を示すこと、ま た、この増殖性感染が caspase ‐1阻害剤(YVAD)
や OxATP、glybenclamide: K
+efflux inhibitor[抗糖尿 病薬]等によりブロックされることも見いだしまし た。ま た、こ れ ら inflammasome-caspase ‐1の 抑 制 により、細胞内で Lipid droplet[脂肪滴]の集積が 亢進することを見いだした。さらに、これらの in- flammasome 依存性 の caspase ‐1の 活 性 化 は、動 脈 硬化症や糖尿病などメタボリックシンドロームとの 因果関係が疑われていない他のクラミジア(C. tra- chomatis muridarum など)では起こらないことなど を明らかにしました。
これらのことより、脂肪細胞においても、マクロ ファージと同様に、肺炎クラミジアが NLRP3イン フラマゾームによる caspase ‐1活性化機構を脂肪滴 の取り込みに利用し細胞内で増殖している可能性が 強く示唆されました。つい最近脂肪細胞への分化誘 導における Nlrp3 inflammasome 活性化の関与が 明らかになり肥満関連疾患(メタボリックシンド ローム)における inflammasome による炎症の関与 が強く示唆されています (The NLRP 3 inflammasome instigates obesity-induced inflammation and insulin re- sistance Nature Medicine 17: 179 (2011)) 。肺炎クラミ ジアは、これらのマクロファージと脂肪細胞にとも に感染し、Nlrp3インフラマゾーム依存性 caspase ‐ 1の活性化を起こし宿主細胞から脂質を獲得し細胞 内で増殖性感染、持続性感染を行っていると考えら れます。同時に、この肺炎クラミジア感染による in-
flammasome 活性化は、泡沫マクロファージの形成
を誘導すると同時に、脂肪細胞の insulin 抵抗性を 誘導することにより、動脈硬化性病変の形成や2型 糖尿病の発症などメタボリックシンドロームの発症、
増悪因子として働く可能性が強く示唆されます[図 2参照] 。
脂肪組織内には脂肪細胞に加えて、脂肪組織内マ クロファージが存在します。そして、肥満マウス [ヒ ト]の脂肪組織中のマクロファージは M1(IFN
γで活性化される)マクロファージ、痩せマウス[ヒ ト]の脂肪組織中のマクロファージは M2マクロ
ファージ(IL ‐4/IL ‐ 1 3で活性化される alternatively activated macrophage)が存在していることが明らか となっています。これらのマクロファージと脂肪細 胞のクロス・トークがメタボリックシンドロームの 病態形成に大きな役割を果たしている可能性が考え られます(Olefsky JM, glass CK, Ann.Rev. Physiol. 72:
219-46, 2010) 。この脂肪細胞、マクロファージの双
方に感染する肺炎クラミジアは、NLRP3 inflam-
masome を活性化することにより慢性炎症を引き起
こし、脂肪滴を多く含有する泡沫マクロファージの 形成や、脂肪組織の炎症、インシュリン抵抗性など の原因となりメタボリックシンドローム発症促進に 関与している可能性が高いのではないかと考えられ ます。今後、さらに、ob/ob マウスや high fat diet マ ウス等の肥満 obese マウスとやせ lean マウスにおけ る肺炎クラミジア脂肪組織感染(脂肪細胞、脂肪組 織内マクロファージ)のクロストークの違いを adi- pokine、M1/M2マクロファージ、肺炎クラミジア の遷延性感染 vs. 増殖性感染などの視点から解析す ることにより、肺炎クラミジア感染がメタボリック シンドロームの危険因子として作用するメカニズム に関する極めて本質的な知見が得られるものと考え ています。
図2
―23―
熱性けいれん患者において発見された HCN2 遺伝子変異の機能解析
てんかん分子病態研究所ポストドクター
中 村 友 紀
てんかん分子病態研究所長
廣 瀬 伸 一
【はじめに】
熱性けいれんは生後6ヶ月から5歳ごろに好発す る、3 8度以上の発熱に伴って発症するけいれん疾患 である。本邦での発症率は8〜1 0%と欧米での発症 率(2〜5%)よりも高く、頻回に遭遇する救急疾 患のひとつである。熱性けいれんが発症する原因と して「サイトカイン値の上昇」 「ウイルス感染」 「遺 伝子異常」などがあげられている
1が、詳細なメカ ニズムについては未だ明らかにされていない。
Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide gated
(HCN)チャネルは過分極の際に活性化される非 選択性陽イオンチャネルであり主に心臓と脳神経に 発現している。HCN チャネルは4個の遺伝子( HCN 1、2、3、4 )から作られる蛋白により構成さ れている。脳内では主に HCN1蛋白と HCN2蛋白 が会合し4量体(heterotetrameric channel)を形成し、
これらの HCN チャネルを流れるイオンが I
hと呼ば れる内向き電流の本態と考えられている。 HCN チャ ネルの働きは細胞内にナトリウム・カリウムイオン を流入させることであり( I
h電流と呼ばれる) 、神
経細胞の静止膜電位の決定に関与していると考えら れている
2(図1) 。
熱性けいれんの発症に I
h電流が関与していると の報告が動物実験などで既にあるが、 I
h電流が熱性 けいれんを発症させる分子メカニズムを説明する手 がかりは未だ得られていない。また熱性けいれん患 者において HCN 遺伝子異常はほとんど同定されて いない。以上のことからわれわれは熱性けいれんと HCN2の関係に注目し、以下の実験を行った。
【実験方法】
(変異検索)9 6人の日本人の熱性けいれん患者と 9 6人の健常者血液検体よりゲノム DNA を抽出し、
HCN2 を direct sequencing 法にてスクリーニングし た。
( HCN2 変異体作成)ヒト HCN2 遺伝子を鋳型 として、overlapPCR 法にて変異体を作成した。
(蛋白発現と変異体の機能解析)transfection 試薬 を用いて HCN チャネルを HEK 2 9 3細胞に強制発現 後、パッチクランプ法にて電流測定・解析を行った。
【結 果】
熱性けいれん患者より HCN2 遺伝 子変異(1 2 6番目のセリン(Ser)がロ イシン(Leu)に変異、以下 S 1 2 6 L と 略す)を発見した。
この HCN2 変異遺伝子を培養細胞 に導入し HCN2変異型蛋白(S 1 2 6 L)
を強制発現させ電流測定を行った。室 温(2 5 ! )における実験において活性 化曲線・時定数を解析したところ、野 生型と S 1 2 6 L において有意な差は認 研究機関研究所近況
基盤研究機関 てんかん分子病態研究所
図1 HCN2の立体構造
HCN2蛋白は6個の膜貫通部位(S1−S6)と pore
を持つ。HCN2蛋白はHCN
1蛋白とヘテロ4量体を形成しHCN
チャネルを構成する。HCNチャネルは過分 極型内向き電流でありK
イオン、Naイオンを通す(I
h電流)。―24―
められなかった。次に熱性けいれんの状況を再現す るために還流温度を3 8 ! に設定し同様の実験を行っ た。還流温度を上昇させると野性型・S 1 2 6 L 共に電 流振幅が増大し活性化曲線は脱分極側に移動したが、
S 1 2 6 L の V
1/2の値は野性型より有意に大きく脱分極 側に移動した(図2) 。
こ の 結 果 は S 1 2 6 L を も つ チ ャ ネ ル が 野 性 型 の チャネルの温度依存性を変化させたことを示唆して いる。
HCN チャネルは C 末端部に存在するサイクリッ クヌクレオチド結合部位を介しサイクリック AMP
(以下 cAMP)と直接結合し電位依存性を変化させ
ることが報告されている
3。そこで我々は S 1 2 6 L チャ ネルに対する cAMP の影響を調べ野性型と比較し た。2 5 !の還流温度において cAMP を投与すると 野性型と S 1 2 6 L では有意な差が認められなかった。
さらに3 8 ! の還流温度において cAMP を投与する と野性型は2 5 ! と比べ変化が見られなかったが、S 1 2 6 L においては活性化曲線がやや脱分極側に移動
した。
この結果から、S 1 2 6 L チャネルにおいて、温度上 昇によるチャネル活性への影響は cAMP 濃度の変 化による影響よりも大きく依存していることが示さ れた。
【考 察】
以上の研究から、S 1 2 6 L チャネルは発熱時に野性 型と異なる働きをしていることが示された。
S 1 2 6 L チャネルによって作られる活性化曲線は野 生型と比べ脱分極側に移動していた。これまでの報
告で、熱性けいれんモデルラットの海馬 CA1錐体 細胞を用いた実験では、 I
h電流の活性化曲線は脱分 極側に移動しており
4今回の S 1 2 6 L の実験結果と一 致していた。このことから、S 1 2 6 L チャネルは熱性 けいれんモデルラットの HCN チャネルと同様の働 きをしているのかもしれない。
また未成熟ラットの CA1細胞において、発熱時 GABA
A受容体調節性のシナプス抑制の減少が起こ ることも報告されている
5。この現象に加え、今回 の研究の様な遺伝子変異による活性化曲線の移動が 発熱時に発生すると、神経細胞の興奮と抑制のバラ ンスが崩れ熱性けいれんの発症を後押しすることが 考えられる。
今回の研究で我々は日本で初めて熱性けいれんに 関係する HCN2 遺伝子の変異を発見し、報告した。
熱性けいれんには現在までにいくつかの原因遺伝子
(ナ ト リ ウ ム チ ャ ネ ル・GABA
A受 容 体 構 成 遺 伝 子)が報告されているが、多くの熱性けいれん患者 に共通な遺伝子異常は発見されていない。今回発見 された HCN2 遺伝子の異常は上記の実験から熱性 けいれんの原因遺伝子の一つとなる可能性が強く示 唆された。
【参考文献】
1.Dube CM, Brewster AL, Baram TZ. Febrile sei- zures: mechanisms and relationship to epilepsy. Brain Dev. 2009; 31: 366-371.
2.Biel M, Wahl-Schott C, Michalakis S, et al.
Hyperpolarization-activated cation channels: from genes to function. Physiol Rev. 2009; 89: 847-885.
図2 25
!、38 !における活性化曲線の変化
25
!から3
8!に還流温度を上昇させると、野性型"よりも S
126L#において活性化曲線がよ
り脱分極側に大きく移動した。―25―
3.Ludwig A, Zong X, Jeglitsch M, et al. A family of hyperpolarization-activated mammalian cation chan- nels. Nature. 1998; 393: 587-591.
4.Chen K, Aradi I, Thon N, et al. Persistently modi- fied h-channels after complex febrile seizures convert the seizure-induced enhancement of inhibition to hy- perexcitability. Nat Med. 2001; 7: 331-337.
5.Qu L, Liu X, Wu C, et al. Hyperthermia decreases GABAergic synaptic transmission in hippocampal neurons of immature rats. Neurobiol Dis. 2007; 27:
320-327.
―26―
研究機関研究所近況
基盤研究機関 身体活動研究所
中高齢者における登山中の生理的応答の実態
スポーツ科学部助教
永 山 寛
身体活動研究所 研究支援者
町 田 由紀子
スポーツ科学部准教授
築 山 泰 典
身体活動研究所長 スポーツ科学部教授
田 中 宏 暁
はじめに
近年、高齢化やライフスタイルの変化に伴い、健 康増進の取り組みについての関心が高まっている。
中高齢者には、安全性が高く誰でも容易に取り組む ことができる軽運動が推奨されており、なかでもニ コニコペースでのスロージョギングやステップ運動 が生活習慣病の予防や治療において有用である。一 方、中高齢者の健康増進活動として登山の人気も高 い。登山は長時間の有酸素運動であり、心肺持久力 の保持・向上や体脂肪の減量に有用である。しかし、
平地を歩くウォーキングとは異なり、登りや下りを 繰り返す登山は運動強度が高く、過度の負荷に伴う 疲労からの転落死や突然死など登山中の事故も多い。
安全で、快適な登山を実施するためには登山中の生 理的応答を把握し、身体への負担度を軽減した登山 方法や登山のペースを設定する必要があると考えら れるが、健康増進に有用な登山のペースなどは明ら かとなっていないのが現状である。
今回、われわれは中高齢者における登山中の生理 的応答の実態について調査を実施したので、その結 果について報告する。
九千部山登山
2 0 1 0年7月に福岡県筑紫郡那珂川町在住の中高齢 者を対象に、佐賀県鳥栖市と那珂川町に跨る九千部 山(標高8 4 8 !)を登山した。グリーンピアなかが わ口からの登山コースで、標高差約2 8 0 ! 、沿面距
離約2. 5 "の行程である。集まった参加者は1 0名 (男
性6名、女 性4名、平 均6 6. 2±6. 2歳)で、9名 は 過去〜現在登山経験を有し、 7名は現在運動習慣 (登 山も含む)を有する者であった。生理的応答の指標
として血中乳酸濃度(LA)を登山開始1 0分後およ び以降3 0分毎に測定し、主観的運動強度(RPE)と 心拍数(HR)は登山開始から1 0分毎に測定した。
個々の自由なペースで登山するよう指示したが、
登山開始6 0分程(行程の5 0%超)で2名(1名は登 山経験なし、2名とも現在運動習慣なし)が疲労を 訴えリタイアした。リタイアまでの身体的負担度は、
RPE 平均1 5. 7±1. 6(きつい〜かなりきついに相当) 、 LA 平均6. 3±1. 9(最大8. 3) mmol/L、HR 平均1 4 0. 5
±1 1. 7拍/分であり、年齢から算出した%HRmax の8 6. 7±9. 7%に相当した。一方、登山を完遂した 8名の登頂時間は9 0〜1 1 2(平均9 8. 2±9. 6)分であ り、RPE 平均1 3. 8±1. 5(ややきつい〜きついに相 当) 、 LA 平均3. 2±1. 9 mmol/L、 HR 平均1 3 7. 7±2 4. 4 拍/分(%HRmax 平 均9 0. 1±1 7. 1%)で あ っ た。
完遂者でもニコニコペース(LA 概ね2. 0 mmol/L 以 下、HR 1 3 8−年齢÷2)より高値を示していたが、
九千部山登山の様子
―27―
ニコニコペースのウォーキング教室の様子
運動習慣のなかった1名の RPE は平均1 4. 7±0. 9、
LA は平均7. 9±1. 9(最大9. 7) mmol/L、HR は1 6 6. 2
±9. 1(%HRmax 平均1 0 8. 6±5. 9%に相当)とかな り高い運動強度であったことを示していた。
九重ウォーキング教室
2 0 1 0年1 1月に福岡大学市民カレッジ「ニコニコ ペースのウォーキング教室」を開講した。大分県の 福岡大学施設やまなみ荘(標高1, 1 2 5 !)を出発し 牧ノ戸峠(標高1, 3 3 0 ! )まで九州自然歩道約2. 5 "
を、牧ノ戸登山入口から展望台(標高1, 4 3 0 !)ま で登山道約0. 5 " を歩き、やまなみ荘へ帰路する行 程である。コースの大部分は舗装されており、自然 歩道は傾斜が比較的緩やかである。一方、登山道は 急勾配であるが利用者の多いコースである。参加者 は男性1 4名(6 1. 4±1 0. 1歳) 、女性4 5名(6 6. 7±8. 2 歳)で、生理的応答の指標としては九千部山登山と
同様に LA、RPE、HR を用いた。登山経験者や体
力に自信のある者、運動習慣のない者など大まかな 自己申告に基づき、1 0名程度のグループを形成して 登山を開始した。なお、ペースは個々の自由である ことを指示し、無理をしないよう注意を促した。
牧ノ戸峠到着後の結果は RPE 平均1 3. 5±2. 1(や やきつい〜きついに相当) 、HR 平均1 2 6. 8±2 1. 8拍
/分(%HRmax の8 1. 5±1 0. 7%)、LA 平均3. 5±2. 3
mmol/L であった。また、展望台到着後の結果は RPE
平均1 3. 7±2. 4、HR 平均1 3 3. 4±1 9. 3拍 / 分 ( % HRmax の8 3. 8±8. 9%)、LA 平均3. 9±2. 3 mmol/L であった。適切な運動強度のペースで登山できた者 も見られたが、牧ノ戸峠では半数以上の者が、展望
台でも3/4以上の者がニコニコペースを超えてお り、無理をしないようにと注意を促してはいたもの の結果的にオーバーペースで、身体的にも高い負荷 であったことを示していた。
さらに2 0 1 1年1 1月、昨年と同様九重ウォーキング 教室を開講した。参加者は6 3名で、昨年度の九千部 山、九重の結果を踏まえ、あらかじめ上限心拍数 (今 回はニコニコペースの HR+1 0拍/分)と目標 RPE
(1 1:楽であるの±1の範囲)を設定し、参加者に はこの数値を超えないペースで歩くよう指示した。
休息と自己の身体的負担度を把握する意味合いで自 然歩道途中に測定ポイントを2箇所設定し、各自で RPE と HR の結果を記録させた。なお、約1/4の 参加者には牧ノ戸峠と展望台で LA を測定した。
前年に比べると HR や LA の過度の上昇を避けら れ、上限心拍数や目標 RPE の範囲内で登山した者 が多く、適切な運動強度で登山できたと推察された。
詳細な分析については今後実施する予定である。
おわりに
登山の人気は高いものの、健康増進活動として登 山を実施する場合には正しい知識と適切な方法が必 要である。特に運動習慣のない者の登山はかなりの 高強度運動であることが示された。また、負荷を抑 制させる対策として、心拍数の把握と上限心拍数の 設定が簡便で有用である可能性が考えられた。心拍 数が抑えられ、身体的負担が軽減できる具体的な方 法としては、十分な休息をとりながら登山すること はもちろんのこと、ペースが似ている者同士で登山 し、おしゃべりをしながらニコニコペースを保つこ とや、単独での登山の場合は鼻歌を歌ったり写真を 撮ったりしながら登山することが有用であると考え られる。今後、これらの調査結果をもとに、安全で 身体への負担度も少なく、健康増進に効果的な登山 の方法について検証していく。
最後に、本調査の遂行にあたり多大なるご協力を いただいた福岡大学エクステンションセンター、ス ポーツ科学部清永明教授、運動生理学研究室の皆様、
大学院生・学生スタッフの皆様に厚く御礼申し上げ ます。
―28―
研究機関研究所近況
産学官連携研究機関 都市空間情報行動研究所
九州新幹線全線開業で九州の人の流れはどう変わるか?
―ハブ機能に着目して―
九州新幹線全線開業と JR 博多シティ開業の影響予測に関する研究(その1)
都市空間情報行動研究所(FQBIC)・ポストドクター
山 城 興 介
都市空間情報行動研究所長
斎 藤 参 郎
都市空間情報行動研究所・研究員
岩 見 昌 邦
都市空間情報行動研究所・ポストドクター
今 西 衞
都市空間情報行動研究所・研究員(当時)
佐 藤 貴 裕
1.はじめに
―九州新幹線全線開業の影響予測研 究が、17件、新聞記事に―産学官連携研究機関都市空間情報行動研究所(以 下、FQBIC)にとって、2 0 1 1年は、昨年から引き続 き、九州新幹線の全線開業や JR 博多シティの開業 の影響予測の研究に深くかかわった年になった。
実際、2 0 1 0年9月1 1日に、 ! 日本不動産学会の主 催で、熊本市、熊本大学工学部まちなか工房、 FQBIC との共催により、熊本市役所の1 4階大ホールで、 『九 州新幹線全線開業と熊本都心のまちづくりー途中駅 のまちからハブ機能のまちへ―』 ( [1] )と題する シンポジウムを開催したのを皮切りに、本年、2月
2 6日の FQBIC による『JR 博多シティ開業で天神博
多の人の流れがどう変わるか』 ( [1 1] )のニューズ リリースが、全国紙、地元紙の朝刊1面に、大きく 取 り 上 げ ら れ( [2] [3] [4] [5] [6] [7]
[8] [9] [1 0] [1 2] [1 3] [1 4] [1 5] [1 6] [1 7]
[1 8] [1 9] ) 、その後も、テレビ局などの取材が相 次いでいる。
実は、FQBIC では、九州新幹線の全線開業や JR 博多シティの開業をにらんで、4年前から、その影 響予測を研究テーマに掲げ、準備を進めてきた。毎 年、実施している福岡都心部回遊行動調査では、学 生諸君の協力のもと、その質問項目に九州新幹線全 線開業によって人々の行動がどのように変化するか、
に着目した、新幹線の影響に関する質問項目を加え るとともに、九州新幹線の中核駅となる、鹿児島、
熊本においても、新たに福岡と同様に都心部で消費
者回遊行動調査を実施することで、準備にあたって きた。
とくに、鹿児島では、5年前より、鹿児島市の中 心商業地である天文館地区とともに JR 鹿児島中央 駅を含むエリアを、鹿児島都心部と設定し、天文館 地区の商店街の関係者の方々と、鹿児島都心部回遊 行動調査を毎年実施することを軸とする共同研究を 行ってきている。
とりわけ、共同研究のテーマの中でも、天文館地 区にないシネコン(シネマコンプレックス)を天文 館につくったとき、どのくらいの集客数があるのか、
に関する FQBIC による予測結果は、最近、天文館
地区で始まったシネコンの着工に大きく寄与した、
とのことであり、共同研究の成果と大変喜んでいる ところである。
また、熊本でも、熊本大学工学部まちなか工房と 連携し、4年前より、熊本都心部回遊行動調査を開 始し、3年前から、本格的に、地元の商店街や百貨 店とも連携した熊本都心部回遊行動調査を、毎年、
実施しはじめている。その研究成果は、上述のシン ポジウムで報告された。
とくに、熊本を、通過地点ではなく、阿蘇や天草 へのハブ機能をもった都市と捉えると、その吸引ポ テンシャルは大きく、福岡へのストロー効果を上回 る、との研究成果は、大きな反響を呼んだ。それま で、福岡へのストロー効果で九州新幹線全線開業に 冷ややかだった熊本の論調がシンポジウムを境に大 きく変わった、などといわれるほどの影響があった。
―29―
実際、シンポジウムの来賓挨拶にたたれた樺島郁 夫熊本県知事からは、 「勇気づけられた」との感想 をいただいた。さらに、パネリストの幸山政史熊本 市長からも、熊本都心部へ年平均1日あたり何人訪 れているのか、実数ベースでの入込来街者数を正確 に測るとともに、人々の回遊行動の視点から、まち づくりをみていく FQBIC のアプローチに、大いに 関心をもっていただいた。
FQBIC は、文部科学省学術フロンティア推進事
業の拠点として選定され、2 0 0 0年に設立されてから、
1 0年が経過した。FQBIC は、設立当初から、 「社会 との連携のもとに、都市と空間における情報と人間 行動の相互作用に関する理論研究及びその成果に連 動した社会的技術開発を行い、魅力ある都市空間の 形成と新しい産業の創出に寄与し、もつて人類社会 の発展に貢献すること」をその目的としてきた。
いまだ、その大きな目的にむかって緒についたば かりであるが、この1 0年間、回遊行動研究を、新し い研究分野として開拓することに努めるとともに、
回遊行動理論の開発と実践を世界に発信し、学術や 社会への貢献を果たすため、福岡都心部をはじめと して、九州の諸都市や東アジアの上海、北京、台北、
ソウル、ハノイなどで消費者回遊行動調査を実践し てきた。上述の活動もその一環である。
とくに、近年、注力してきたポイントは、消費者 の回遊行動履歴マイクロデータにもとづいて、人の 流れを正確に測ることを基本に、人数や金額といっ た実数ベースでの人やお金の流れを正確にとらえる ことで、様々な都市政策、まちづくり政策の効果を 計測・評価しようとしてきた点である。さらにいえ ば、都市への来訪者の心の中に醸成される当該都市 の魅力資産価値を「都市エクイティ」と定義し、ま ちづくりの目的を、まちを一つの事業体としてみて、
「都市エクイティ」を最大にすることであると捉え、
様々な来訪者の来訪価値を最大にするような消費者 志向のまちづくりの理論と技術の開発、ノウハウの 蓄積に努めてきたことである(斎藤[2 2] ) 。
今回、FQBIC の最近の活動の一端を知っていた だくため、九州新幹線鹿児島ルート全線開業の影響 予測に関する FQBIC の研究、また、JR 博多シティ 開業による天神・博多間の人の流れの変化に関する
FQBIC の予測研究を、2つの論稿に分け、紹介す
ることにしたい。
2.関西地区居住者の九州新幹線全線開業によ る九州への観光行動の変化予測
2 0 1 1年3月の九州新幹線全線開業については、鹿 児島県、熊本県などでは、関西からどうやって人を 呼ぶかが大きな課題となっている。そこで、FQBIC では、実際にどのくらい関西から観光客が来るのか を予測しようと考え、実際に予測を行った。
既存研究との違いを明確にするために、今回の予 測研究には、ハブ機能をモデルの中に明示的に導入 しており、これが研究の 「ウリ」 であり、特徴となっ ている。
これを説明しよう。そのために、まず、次のこと を確認しておく。伝統的に交通需要を予測する場合 の鍵となる考え方に、一般化交通費用という考え方 がある。一般化交通費用とは、様々な交通手段、た とえば、車、新幹線、飛行機など、の優劣を比較す るための単位、尺度として、導入されたものである。
ある目的地までに複数の交通手段があったとして、
それぞれの交通手段ごとに、実際にかかる交通料金 と所要時間は異なるので、飛行機は列車に比べて、
時間は短いが料金は高いなど、単純に1次元上で比 較することができない。そこで、時間について、時 間当たり賃金などもちいて、費用に換算し、交通料 金と所要時間を、金額ベース(マネーターム)で合 計できるようにしたものが一般化交通費用である。
一般化交通費用によって、複数の交通手段を1次元 上で比較できることになる。その結果、人々がどの ような交通手段を選択するかの選択行動を、選択肢 の中から、より小さな一般化交通費用をもつ交通手 段を選択する、といった説明ができることになる。
九州新幹線の全線開業によって、どのように利用 者が増えるのかを予測するには、伝統的には次のよ うに考える。他の交通手段に比べて、新幹線による 時間短縮によって、新幹線の一般化交通費用が減少 するので、交通手段として新幹線を選択する人が増 える。 (モーダルシフト)一般化交通費用が減少す ることは、目的地までの接近性(アクセッシビリ ティ)が高まることとも考えられるので、新幹線に シフトした人は、その目的地への出向頻度が増加す る。このように、新幹線開業による一般化交通費用
―30―
の減少にともなって、目的地への交通手段の変化と 出向頻度の増加が起こる。これが伝統的な説明であ る。
これを関西地区居住者の行動に適用してみよう。
関西地区居住者が熊本や鹿児島に行く際には、当然、
九州新幹線の全線開業は、新幹線による所要時間の 大幅な減少をもたらし、一般化費用も大きく減少す るので、新幹線へのシフトと、熊本、鹿児島への来 訪者数の増加が起きる。しかし、福岡の場合は、関 西居住者にとっては、九州新幹線全線開業前後で、
新幹線や既存交通手段の所要時間や交通料金に、な んら変化がないので、関西地区から福岡への来訪者 数は、全く変化しない、との結論になる。
しかしながら、このような伝統的な考え方では、
九州新幹線全線開業によって、九州全体の魅力が高 まり、九州の入口としての福岡の魅力も高まって、
関西からの来訪者数も増加するは ずだ、との考えを表現できない。
そこで、導入したのが、ハブ機 能の考え方である。単純にいえば、
関西居住者にとっての福岡の魅力 には、その先の熊本、鹿児島への アクセッシビィティが含まれてお り、九州新幹線の全線開業によっ て、福岡以遠への接近性が高まる ことで、福岡の魅力も高まる、と の考えである。
これをハブ機能と呼び、本研究 では、ハブ機能を考慮した出向頻 度予測モデルを構築することで、
この考え方を表現している。より 具体的には、ハブ機能とは、九州
新幹線全線開業による熊本・鹿児島方面へのアクセ スの改善や所要時間の短縮で、熊本や鹿児島に行き やすくなることである。ハブ機能によって、関西か ら福岡への出向頻度がどのように高まるのか、同様 に、熊本、鹿児島への出向頻度がどの程度高まるの かを予測することが本研究の目的である。
分析手順は、今回、関西エリアで調査した九州新 幹線全線開業に関する消費者行動調査のデータと、
別途、各サンプルに対し、交通手段別の所要時間や 料金を GIS を用いて計測した補完データを使って、
交通手段選択モデルと、ハブ機能を考慮した出向頻 度ポアソン回帰モデルを推定する。この推定結果か ら、関西対象エリアの交通手段、所要時間、交通費、
人口データを使って、開業前後に、どれくらい飛行 機や車から新幹線に移るのかを予測し、その後で、
福岡県、熊本県、鹿児島県への観光客数を予測する。
交通手段選択モデルの説明変数は、所要時間と交 通費である。関西エリアの居住者の利用交通手段は、
新幹線、飛行機、自家用車の3つを設定する。次に、
ハブ機能を考慮した出向頻度ポアソン回帰モデルは、
所要時間と交通費に加え、目的地の魅力を表す売場 面積と、ハブ機能を入れる。ハブ機能は、例えば福 岡の場合は、福岡の先にある熊本と鹿児島の売場面 積の積と、福岡と熊本、熊本と鹿児島の時間距離の 積との比(割り算)でハブ機能を表現している。
使用するデータは、2 0 1 0年3月に毎日新聞西部本
社と共同で、関西、福岡、熊本、鹿児島の勤労者を 対象に、郵送回収方式で実施した九州新幹線全線開 業に関する消費者行動調査によるデータである。現 状での大阪や九州各県への交通手段、5年間の出向 頻度、旅行代金や交通費などを聞いている。全有効 サンプル数9 9 3票を獲得した。その中の、関西地区 の3 3 5票を使用する。
調査データの他に、今回、回答者の負担軽減のた め、九州各県への利用交通手段のみ聞いており、代 替交通手段の時間や費用は聞いていない。そこで、
図2‐1 ハブ機能を考慮した出向頻度ポアソン回帰モデル
―31―
福岡
熊本
鹿児島 開業後
総移動人数:805万9千人 流入:313.8万人 流出:359万人 差分:−45.2万人
(開業後−開業前
=−32.4万人)
流入:310.5万人 流出:300.1万人 差分:10.4万人
(開業後−開業前
=19.3万人)
流入:181.6万人 流出:137.5万人
差分:44.1万人(開業後−開業前=22.4万人)
220万 266万 8千人
人 102万 3千人
79万 3千人
44万 5千人 93万人
福岡
熊本
鹿児島 開業前
総移動人数:661万5千人 流入:264.4万人 流出:277.2万人 差分:−128万人
流入:251.2万人 流出:260.1万人 差分:−8.9万人 流入:145.9万人
流出:124.2万人 差分:21.7万人
182万 208万 9千人
5千人 68万 7千人
77万 2千人
44万 5千人 81万人
5千人
ナビタイムなどの GIS を使って、各サンプルの交 通手段別の時間や費用を計測している。さらに、関 西の人が何人行くかを市町村単位で予測するため、
予測用データとして、今回、設定した滋賀県、京都 府、大阪府、兵庫県、奈良県の2府3県の1 6 9市町 村の各市町村の代表地点を市町村役場と定義し、熊 本や福岡や鹿児島までの所要時間と交通費、開業後 の九州新幹線の所要時間・料金の仮設データを作成 した。
予測結果についてみてみると、福岡では、開業前 6 0 0万人/年から開業後6 1 1万人/年と約1 0万9, 0 0 0
人増加する結果となった。鹿児島では、開業前1 5 8 万人/年から開業後1 7 0万人/年と1 1万5, 0 0 0人増の 結果になった。熊本は開業前2 6 9万人/年から開業 後3 1 5万人/年と4 5万5, 0 0 0人増の結果となり、最も ハブ機能の効果を得る結果となった。
3.九州新幹線全線開業による福岡・熊本・鹿 児島間の移動者数の変化予測
九州新幹線全線開業によって、直接的な効果をも たらすと予想される福岡・熊本・鹿児島間の人の動 きはどのように変化するのだろうか。本研究では、
九州新幹線全線開業に関する消費者行動調査データ のうち、福岡・熊本・鹿児島のデータを使って、交 通手段選択モデルとハブ機能を考慮した出向頻度ポ アソン回帰モデルの2つのモデルから、福岡・熊 本・鹿児島間のそれぞれの間で、
どのように人の流れが変化する のかを実数ベースで予測してい る。
使用するデータは、関西地区 のときと同様に、毎日新聞西部 本社と共同で実施した九州新幹 線全線開業に関する消費者行動 調査データ全9 9 3票のうち、福 岡・熊 本・鹿 児 島 サ ン プ ル の 6 5 8票を使用する。また、代替 交通手段の時間や費用について も、ナ ビ タ イ ム な ど の GIS を 使って、各サンプルの交通手段 別の時間や費用を計測した。ま た、予測用データは、福岡・熊
本・鹿児島各市を中心とした福岡都市圏・熊本都市 圏・鹿児島都市圏を設定し、その市町村の市役所・
役場を代表地点として、そこから、福岡・熊本・鹿 児島までの所要時間・交通費を、GIS を使って計測 したものを使用している。
予測モデルは、所要時間・交通費を説明変数とし た交通手段選択モデルとハブ機能を考慮した出向頻 度ポアソン回帰モデルを使用している。
予測結果を図3‐1に示している。福岡・熊本・
鹿児島の3都市の総移動者数が、JR 博多シティと 九州新幹線全線開業によって、6 6 1万5千人/年か ら8 0 5万9千人/年に2 1. 8%増加する、との予測結 果となった。
また、新幹線全線開業の効果を、各都市への流入 者数から各都市からの流出者数を引いた差分と定義 すると、福岡・熊本・鹿児島の3都市の中で、鹿児 島が2 2万4千人増と最も増分が多く、新幹線全線開 業の恩恵を最も受けていることがわかった。
各県で結果をみると、鹿児島では、開業前、鹿児 島から福岡へ行く人数が8 1万5千人/年に対して、
福岡から鹿児島に来る人数が6 8万7千人/年で、福 岡へ行く人数の方が多かったのに対し、開業後、鹿 児島から福岡に行く人数が9 3万人/年に対して、福 岡から鹿児島に行く人数が1 0 2万3千人/年と福岡 から鹿児島に来る人数の方が上回る結果となった。
熊本では、開業前、福岡と鹿児島からの流入者数
図3‐1 九州新幹線開業前後の福岡・熊本・鹿児島間の移動者数
―32―
より福岡・鹿児島への流出者数の方が多かった(流 入人数:2 5 1万2千人/年、流出人数:2 6 0万1千人
/年)のに対し、開業後、流入者数の方が、流出者 数より多くなる(流入人数:3 1 0万5千人/年、流 出人数:3 0 0万1千人/年)という逆転が起こる結 果となった。
福岡では、開業後、熊本・鹿児島から流入者数が 開業前2 6 4万4千人/年から開業後3 1 3万8千人/年 に大幅に増加する。しかし、それ以上に熊本・鹿児 島への流出者数が開業前2 7 7万2千人/年から開業 後3 5 9万人/年に大幅に増加することがわかった。
4.おわりに
このように、FQBIC では、4年間にわたり、九 州新幹線全線開業の影響予測に取り組んできた。今 後、今回の九州新幹線全線開業と JR 博多シティ開 業効果の予測結果が当たっていたのか、実際、現実 の影響はどうであったのか、の検証研究を、現在進 めているところである。機会を改めて報告したい。
参考文献
[1] 斎藤参郎編, 「日本不動産学会設立2 5周年記 念シンポジウム 九州新幹線全線開業と熊本都心 のまちづくり〜途中駅のまちからハブ機能のまち へ」 ,日 本 不 動 産 学 会 誌 第2 4巻3号,pp. 3 3 ‐ 6 1,2 0 1 0.
[2] 熊本日日新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊1面「熊本 駅終着1時間2本」
[3] 熊本日日新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊3面「集客 力向上策を議論」
[4] 朝日新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊3 8面「関西→熊 本「年4 6万人増」 」
[5] 西日本新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊2 8面「全線開 通で活性化を」
[6] 毎日新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊1面「九州新幹 線全通関西からの観光客」
[7] 毎日新聞2 0 1 0年9月1 2日朝刊2 8面「1時間4 本運行」
[8] 毎日新聞2 0 1 0年9月1 4日朝刊2 4面「九州新幹 線の予測調査○
上全線開業で熊本躍進」
[9] 毎日新聞2 0 1 0年9月1 5日朝刊2 6面「九州新幹 線の予測調査○
中関西からの交通手段 「空より
列車」大幅増」
[1 0] 毎日新聞2 0 1 0年9月1 6日朝刊2 6面「九州新幹 線の予測調査○
下福岡→熊本 観光客万人増 買 い物客流出補う」
[1 1] FQBIC ニューズリリース2 0 1 1年2月2 6日「JR 博多シティで天神・博多の人の流れはどう変わる か?」
(http://www.qbic.fukuoka-u.ac.jp/download/archive/
fqbicreport/20110226newsrelease.pdf)
[1 2] 毎日新聞2 0 1 1年2月2 7日朝刊1面「来訪者 駅周辺は3 6%増 天神地区5%減 新博多駅ビル 効果 福大予測」
[1 3] 毎日新聞2 0 1 1年2月2 7日朝刊2 8面「新駅ビル 影響予測 薄れる天神の優位性 博多地区と二極 化時代に」
[1 4] 西日本新聞2 0 1 1年2月2 7日朝刊1面「博多地 区「来訪者3 5%増」新博多駅ビル開業後 福大が 予測」
[1 5] 週刊東洋経済2 0 1 1年4月9日号「百貨店 Part 3」 ,pp. 7 2 ‐ 7 6.
[1 6] 毎日新聞2 0 1 1年3月1 0日朝刊1面「福岡熊本 鹿児島3都市間 人の移動2割増」
[1 7] 毎日新聞2 0 1 1年3月1 0日朝刊2 0面「鹿児島流 入超過拡大」
[1 8] 読売新聞2 0 1 1年3月1 2日夕刊7面「発進、静 かに」
[1 9] 毎 日 新 聞2 0 1 1年9月2日 朝 刊2 4・2 5面「JR 博多シティ開業半年」
[2 0] 斎藤参郎・山城興介, 関西地区居住者の九 州新幹線全線開業による九州への観光行動の変化 予測 ,社団法人日本不動産学会平成2 2年度秋季 全国大会(第2 6回学術講演会)論文集,社団法人 日本不動産学会,Vol. 2 6,pp. 1 8 3 ‐ 1 9 0,2 0 1 0.
[2 1] 斎藤参郎,「アカデメイア」アルゴリズム特 許−回遊パターンを正確に推計する方法− ,福 岡大学研究推進部ニュース&レポート Research,
福岡大学,Vol. 1 3,No. 3(No, 4 9) ,2 0 0 8.
[2 2] 斎藤参郎, 人の流れを正確に測ることから まちづくりを始めよう−消費者志向のまちづくり と都市エクイティ− ,月刊不動産流通,不動産 流通研究所,No. 3 3 5,pp. 8‐9,2 0 1 0.
―33―
研究機関研究所近況
産学官連携研究機関 都市空間情報行動研究所
JR 博多シティ開業で天神・博多の人の流れはどう変わるか?
―介在機会効果に着目して―
九州新幹線全線開業と JR 博多シティ開業の影響予測に関する研究(その2)
都市空間情報行動研究所(FQBIC)・ポストドクター
山 城 興 介
都市空間情報行動研究所・研究員(当時)
佐 藤 貴 裕
都市空間情報行動研究所長
斎 藤 参 郎
経済学部産業経済学科4年
久 田 周 史
経済学部産業経済学科4年
廣 瀬 宏 平
経済学部産業経済学科4年
西 村 元 成
経済学部産業経済学科4年
佐 藤 明 浩
経済学部産業経済学科4年
田 中 良 知
1.はじめに
――FQBIC ニューズリリースが全国 紙・地元紙の朝刊1面に――福岡にとっては、2 0 1 1年3月1 2日の九州新幹線鹿 児島ルートの全線開業もさることながら、旧博多駅 ビルを再開発した、3月3日の JR 博多シティの開 業の影響のほうがより身近な関心事であったかもし れない。FQBIC も九州新幹線全線開業の影響予測 と並行して、JR 博多シティの開業の影響について も、4年前より、研究テーマとして取り上げ、福岡 都心部消費者回遊行動調査をベースに、学生諸君と ともに準備を進めてきた。
これまで、福岡は、天神と博多の2つの業務核を もつ双子都市といわれてきたが、商業核では、博多 の5万 ! の売場面積に対し、2 6万 ! の天神と、圧倒 的に、天神の商業集積が大きかった。そこに、延べ 床面積約2 0万 ! の JR 博多シティが出現し、売場面 積で約1 0万!の増床が起こることで、天神と博多の 勢力図がどう変わり、人の流れがどう変わるのか、
に大きな関心がよせられていた。
このような関心に応えるべく、FQBIC がこれま で蓄積してきた実数ベースの来街者数や回遊移動者 数の推計方法や予測方法を駆使し、JR 博多シティ 開業前後で、天神、博多への来訪者数がどのように 変化するのか、また、天神と博多間の回遊による人 の移動者数がどのように変化するのか、を研究テー
マとして掲げ、これらを予測した。
2 0 1 1年3月3日の JR 博多シティ開業を前にした 2 0 1 1年2月2 6日、 FQBIC は、 「JR 博多シティで天神・
博多の人の流れはどう変わるか?」と題したニュー ズリリースを発表した。翌2月2 7日、毎日新聞朝刊 1面( [6] ) ・2 8面( [7] )に、また、西日 本 新 聞 朝刊1面( [8] )にも、その FQBIC の予測結果が 記事として掲載された。
その後も、地元テレビ局で予測結果が放送された のをはじめ、フジテレビ(東日本大震災の影響で3 月1 2日に予定された放送は中止となった)からのテ レビ取材や、クロス FM へのラジオ出演、また、週 刊東洋経済2 0 1 1年4月9日号 ( [9] ) に、この FQBIC の研究成果が引用されるなど、大きな反響をもたら すこととなった。現在もその後の天神と博多の人の 動きをめぐって取材が相次いでいる。
ここで注意していただきたいのは、FQBIC のこ のニューズリリースは、これまでの新聞報道による 通常の予測記事と次の点で大きく異なっている点で ある。
それは、買物・レジャー・食事目的で、天神、博 多への訪れる来訪者数が、JR 博多シティ開業前後 で、年平均1日当たり、天神は、2 7. 9万人から2 6. 5 万人へ、また、博多は1 4. 3万人から1 9. 4万人へと、
それぞれ、1. 4万人減と5. 1万人増と、実数ベースで、
―34―
予測している点である。現状に対して、何%増とか、
何万人増といった予測記事はあっても、このように 何万人から何万人へとの具体的な実数ベースで変化 を予測した例は非常に少ないからである。
それとともに、年間の小売販売額についても、具 体的に、いくらからいくらに変化するとした予測を 提示している点である。実際、天神地区では、6 4 0 億円/年の減に対し、博多駅地区では、8 5 9億円/
年の増、キャナルは、5 8億円/年の減との予測結果 を提示しており、天神地区の小売り販売額の減少率 は、1 2%と予測している。
さらに、天神と博多間の人の回遊も、具体的に、
天神から博多が、開業前後で、3. 5万人から3. 3万人 へと減少し、また、博多から天神へは、開業前後で、
2. 6万人から4. 1万人ヘと増加するとの予測結果を提 示している。
これらはすべて、実数ベースの人数や金額を明示 した予測結果となっていることがこれまでにない特 徴であることがわかる。
それではなぜ、FQBIC は、このような実数ベー スの具体的な予測ができたのだろうか、との疑問が わいてくる。
実は、このような予測ができたのは、FQBIC が これまで開拓してきた固有の統計的手法や理論、技 術が背景にあるからだといえる。そのもっとも大き な技術的背景は、特許にもなっている、来街地ベー スの回遊パターンの一致推定法である。
私たちが継続して実施している都心部回遊行動調 査は、都心部にいくつかのサンプリング地点を設け、
そこへの来街者から無作為に回答者を選び、来街者 が、当日、どこに、何の目的で立ち寄り、いくら支 出したか、を生起順に記録した消費者の回遊行動履 歴マイクロデータを収集する、約1 5分程度のインタ ビュー質問紙調査である。
来街地で無作為に回答者を選んだ場合、都心部に 月1 0回くる人と月1回の人では、月1 0回の人のほう が1 0倍、回答者(サンプル)になりやすい。都心部 内の各サンプリング地点でも同様のことが起こるし、
また、立ち寄るサンプリング地点の数が多い人ほど サンプルになりやすい。このように居住地で無作為 にサンプリングする場合と比べて、来街地ベース調 査では、単純に分析すると偏り(バイアス)が生ず
る。このバイアスのことを Choice-based サンプリン グバイアスと呼んでいる。
来街地ベース回遊パターンの一致推定法は、来街 地ベースの回遊行動履歴データから、Choice-based バイアスを取り除き、来街者がどのようなルートで 都心部を回遊しているか、 より具体的には、 どのルー トをどのような比率で選択しているか、来街者の回 遊パターンの密度を、サンプル数が無限に増えれば 真の密度に収束するという意味で、正確に推定する 方法である。
さらに、推定された密度をもとに、どこか1か所 での実際の来訪者数を知ることができれば、密度を その来訪者数で拡大することで、実際に何人の人が 都心部内のどこからどこへ移動したのかが推定でき ることになる。専門用語でいえば、伝統的な居住地 ベースでの回遊行動データ、 すなわち、 トリップチェ インデータを収集する、居住地ベースパーソント リップ調査に対し、私たちの一致推定法は、来街地 ベースのパーソントリップ調査の基礎となる枠組み を構築したものともいえる。
このように、FQBIC は、居住地ベースの調査よ りも低コストでサンプリング効率の良い、来街地 ベースのサンプリング調査に依拠しつつ、来街地調 査にともなう Choice-based サンプリングバイアスを 取り除く方法を開発し、実数ベースでの入込来街者 数の予測や回遊移動者数の推計と予測モデルの構築 を行ってきた。
本稿は、その一端として、JR 博多シティの開業 にともなって、天神、博多への入込来街者数がどの ように変化し、天神と博多間の回遊による人の流れ がどう変化するのか、その実数ベースの予測研究に ついて紹介する。
2.介在機会効果を考慮した JR 博多シティ開 業による天神地区と博多地区の入込来街者 数の予測
既存研究にたいして、本研究の新しい点は、個人 の行動レベルで、介在機会効果を、実際に推定して みせたことである。
介 在 機 会(intervening opportunities)の 法 則 と い う言葉は、アメリカの社会学者 S. A. Stouffer が1 9 4 0 年に提出した概念である。人口移動を想定したとき、
―35―
図2‐1 介在機会効果
ある地点からその目的地まで移動する人の数は、目
的地の(魅力)機会に比例し、途中の(魅力)介在 機会に反比例する、という命題として定式化される。
つまり、最終の目的地に到達する前に、途中の介在 機会にトラップされて、途中で移動をやめてしまう 移動者がいることを意味する。
この概念は、JR 博多シティ開業の影響を分析す る上で、大変、魅力的な概念である。
実は、私たちは、天神にとって、JR 博多シティ の開業による最も大きな影響は、南と東から天神に アクセスする顧客を、途中の博多駅でインターセプ トされてしまうことだ、と考えていた。
この観点から、東については、貝塚で地下鉄と貝 塚線をつなぎ、さらに、JR 鹿児島線とも千早周辺 で相互乗り入れすれば、東からアクセスする顧客は、
行先として、直接、天神、博多を選べることになり、
天神の集客力を維持できる、と考えられるが、博多 経由で天神を選択せざるを得ない現状では、JR 博 多シティの介在機会効果で、天神の集客力が低下す るのは、避けられない。
また、南からのアクセスについても西鉄と JR が 交差する雑餉隈に駅を設置する、あるいは、近接す る白木原周辺で相互乗り入れするなどの方策をとる ことで、天神の集客力の低下を防げるのではないか、
と考えていた。
そこで、JR 博多シティ開業前の時点で、博多駅 を経由して天神地区に来街する来訪者の多くが、博 多駅を素通りして天神地区に来街しているとされて いるのに対し、JR 博多シティの開業後は、これが どのように変化するか、逆に、これまで天神経由で 博多駅に来訪する来街者の多くが天神地区にトラッ プされているとみられているのに対し、開業後にこ れがどのように変化するか、現状での推計と開発後 の予測をテーマとして取り上げた。
明らかに博多駅経由で来訪する人にとって、博多 は目的地天神までの介在機会である。しかし、地域 間の人口移動、公園へのレジャートリップなど、集 計データについては、介在機会の影響を推計した例 はあるものの、介在機会の効果(図2‐1)を、個 人の行動レベルで、明示的に推定した例は皆無であ る。
そこで、本研究では、個人の行動選択として、目 的地への出向頻度を取り上げ、介在機会がない場合 には、0、また、介在機会がある場合には、介在機 会の売場面積と目的地の売場面積との比をとり、そ の対数を、介在機会効果の変数としてポアソン回帰 モデルに導入し、その係数を推定している。予測に おいては、介在機会がある場合とない場合での目的 地の集客数の差を、目的地に対する介在機会効果と 定義し、これを予測している。
分析手順は、開業前の2 0 1 0年に実施した第1 5回福 岡都心部回遊行動調査データとこれを補完するデー タを用い、介在機会効果を考慮した出向頻度ポアソ ン回帰モデルを推定する。分析対象地区として福岡 都市圏を設定し、そのエリアの所要時間、交通費、
人口と天神地区・博多地区の売場面積のデータから、
JR 博多シティ開業前後の天神地区と博多地区への 入込来街者数を予測し、博多駅経由で天神地区に行 く人と天神経由で博多地区に行く人の介在機会効果 を推計した。
介在機会効果を考慮した出向頻度ポアソン回帰モ デルを図2‐2で示している。出向頻度ポアソン回 帰モデルの説明変数は、所要時間、交通費、売場面 積、介在機会効果である。予測では、福岡都市圏の 各市町村役場を代表地点とし、そこから天神・博多 地区までの道路距離を GIS で計測し、所要時間と 交通費の補完データとしている。
図2‐3は、JR 博多シティ開業前後での天神地区 と博多地区の1日あたりの入込来街者数の予測結果 である。天神地区では、2 7万9千人から2 6万5千人
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図2‐3 天神地区と博多駅地区への入込来街者数の予測結 果(単位:人/日)
と約1万4千人減少するのに対し、博多地区では、
1 4万3千人から1 9万4千人と約5万1千人増加する 結果となった。
図2‐4は、介在機会効果の推計結果である。博 多駅経由で天神へ行く場合をみると、 JR 博多シティ 開業前は、博多駅を素通りして、2万1千人が天神 に行っていたのに対し、開業後は、それが6千人に 減少しており、博多駅地区で約1万4千人がトラッ プされることを示している。一方、天神経由で博多 へ行く場合は、開業前には2万3千人が天神にト
ラップされていたのに対し、開業後は1万人に減少 しており、約1万3千人が、博多駅地区に流れるこ とを示している。介在機会効果により、JR 博多シ ティ開業前後で、博多駅地区に約2万7千人が増加 するとの予測結果となった。
3.天神博多間の人の流れはどう変化するか?
説明変数を含んだ回遊マルコフモデルというモデ ルをつかって、JR 博多シティ開業前後で、天神と 博多間で人々の回遊がどのように変化するか、予測 している。
開業前後で、天神地区と博多駅地区の回遊確率の 変化を予測したところ、天神地区から博多駅地区へ の回遊確率が9. 6%から1 0. 1%と0. 5%増加する一方、
博多地区から天神地区への回遊確率が4 2. 2%から 4 0. 4%へと1. 8%減少することがわかった。これを 実数ベースでみると、天神地区から博多駅地区の移 動者数が3万5千人から3万3千人に減少するのに たいし、博多駅地区から天神地区への移動者数は、
2万6千人から4万1千人に増加する。回遊確率と 実数ベースの移動者数では、増減が逆となっている。
これは興味深い点であるが、その理由は次によって いる。
博多から天神への選択確率は、JR 博多シティに 商業核ができ、博多駅で用が済むので、回遊選択確 率としては、1. 8%減少するが、博多駅地区への入 込み来街者数が5万1千人増加するので、移動者の
図2‐2 介在機会効果を考慮した出向頻度ポアソン回帰モデル図2‐4 介在機会効果の推計結果(単位:人/日)
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