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高大連携「化学実験」体験講座の試みとその成果 

−高校生が調べた身近な化学物質−

著者 仲島 浩紀, 梶原 篤

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 19

ページ 201‑206

発行年 2010‑03‑31

その他のタイトル Advanced research work conducted by High

School Students −A Cooperative research work on the basis of connection of Nara University of Education with Tezukayama High School−

URL http://hdl.handle.net/10105/2982

(2)

1.はじめに

帝塚山高等学校女子特進コースと奈良教育大学で は、2008年度から高大連携事業として、高校1年生と 高校2年生を対象に「化学実験」体験講座を実施して いる。講座の目的は以下の通りである。

・研究者による講演や大学研究室への訪問、さらに一 連の化学実験体験活動を通じて研究活動の一端を垣間 見ることで、研究職への理解と認識を深める。

・高等学校「化学」と身近に存在する「化学」に密接 な関係があることに気付く。その密接な関係への気付 きから、化学に対する興味関心を高める。

これらの目的のもと「化学実験」体験講座では、化学 系研究室の見学や大学教員の講演、基本的な実験操作 の確認から大型分析装置を用いた実験などを行った。

本報では、この「化学実験」体験講座の試みとともに、

実際に高校生たちが行った実験の中から得られた成果 についても報告する。

2.「化学実験」体験講座の概要

実施日時:2008年11月01日 14 : 00〜17 : 00 2008年11月15日 14 : 00〜17 : 00 2009年 2 月21日 14 : 00〜17 : 00 2009年12月22日 12 : 30〜17 : 00 2009年 6 月14日 12 : 30〜17 : 00 2009年 6 月20日 14 : 00〜17 : 00

−高校生が調べた身近な化学物質−

仲島浩紀

(帝塚山中学校・高等学校)

梶原 篤

(奈良教育大学理科教育講座)

Advanced research work conducted by High School Students 

−A Cooperative research work on the basis of connection of Nara University of Education with Tezukayama High School−

Hiroki NAKAJIMA

(Tezukayama Junior and Senior High School)

Atsushi KAJIWARA

(Nara University of Education)

要旨:帝塚山高等学校女子特進コースと奈良教育大学で高大連携事業の一環として、「化学実験」体験講座を実施し

た。この講座では、理系の大学生活において重要な研究室の状況を知る機会を提供するとともに、基本的な実験操 作の確認から大型分析装置(電子スピン共鳴分光;(ESR)法)を用いた実験などを行った。この「化学実験」体験 講座に参加した生徒のなかには、自分たちで実験のテーマを設定し、ESRを用いた研究を行う者もいた。また、高校 生たちが専門の研究会で発表する機会を得て、実験結果をまとめポスター発表を行った。発表内容は、食品の中に 含まれる常磁性遷移金属に関する研究と日焼け止めクリームの紫外線防止効果に関するものである。これら一連の

「化学実験」体験講座の試みと成果について報告する。

キーワード:高大連携 cooperation between high school and university、化学実験 chemical experiments、

化学教育 education of chemistry、ESRフォーラム研究会 study group of ESR forum、

プレゼンテーション presentation

(3)

場  所:奈良教育大学 化学第1実験室 高分子科学研究室

対  象:帝塚山高等学校女子特進コース 参加者数:12名

3.実施内容

−研究室見学と大学院生による 理系女学生の情報提供−

高校生にとって、一般的な大学のオープンキャンパ スなど大学の学部学科を知る機会は多い。しかしなが ら、大学生活において非常に重要な研究室の活動内容 についての情報はそれほど多くない。そこで、本講座 では最初に化学系研究室の見学会を実施した。実際に、

研究室に所属する大学院生から「研究室ではどのよう なことを行っているのか。「理系の女子学生は研究室 に配属後、どのような生活を送っているのか。」など 大学4年生の一年間の生活について説明を受けた(図 1)

−ガラス細工での自作実験器具の製作−

実験を行う前に、大学教員によるガラス細工の講習 を行った(図2)

高校の授業で行う化学実験では、既成のガラス製品 が使用されている。しかし、化学系研究室に配属され た大学生は、自分の実験に合わせてガラス器具を創作 していく。このような点でも高校の実験とは異なる研 究活動の一端を垣間見られることができる。そこで、

実際に高校生がガラス器具の製作を行うことで、身近 であるガラスの性質の理解とその加工技術の習得とと もに創作的な活動を体験できるのではないかと考え た。

−身近なプラスチックの合成−

基本的な実験操作の確認も兼ねて数種のプラスチッ クの合成実験を行った(図3)。プラスチック素材は、

身近に多く存在し高等学校の化学の教科書においても 取り上げられており、高校生にとってもなじみやすい テーマであると考えたためである。実際に行った合成 実験は以下の通り。

・6,6−ナイロンの合成

・メタクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル)の合成

・尿素樹脂の合成

−大型分析装置を使った実験体験−

奈良教育大学高分子科学研究室が保有する大型分析 装置の一つに電子スピン共鳴分光(electorn  spin  res- onance(ESR))装置がある。ESRは、電子や分子の量 子化学的な振る舞いを直接観測することができる数少 ない測定法である。だが、得られるESRスペクトルの 解析やその原理の理解は、量子化学など専門的な知識 が必要となり簡単ではない。しかし、ESRスペクトル の分裂の数やシグナル強度の変化などは、十分に高校 生でも認識できるものである。さらに、量子化学と分 子の動的挙動を知ることができるESRを用いた実験 は、高校生の実験体験だけで終わるものでなく、量子 化学を学習しない高等学校と学習する大学の化学教育 図1 研究室内の見学と大学院生による理系女子学生

の生活や進路の説明をうける様子

図2 大学教員と大学院生からガラス細工の指導を受 けている様子

図3 ナイロンと尿素樹脂の合成実験の様子

(4)

かし、そのミネラルは、人間自身で作り出すことがで きず、多くを食材から得ているという。そこで、食材 をESRで測定し、常磁性の遷移金属イオンを検出する ことで食材に存在する金属に関しての知見を得ようと 試みた。

【実験】

「日本食品標準成分表」から鉄分の含有量別に数種 選び出し(表1)、−100℃でESRスペクトルを観測し た。

表1 鉄・マンガン・銅を多く含むとされる食材

【結果・考察】

すべての食材から常磁性種のシグナルを確認するこ とができた(図4)。ESRスペクトルは縦軸に強度、

横軸に磁場(mT(ミリテスラ))をとっている。

種類によって少し、スペクトルの見え方が異なるが、

それぞれのスペクトルの線形から、少なくとも2種の の架け橋にもなると考えESRを用いた実験体験を行っ

た。

ESRでは、常磁性種である有機ラジカルや常磁性金 属イオンを検出することができる。そこで、最初の測 定実験は、以下のテーマの実験を行った。

・コーヒー豆の焙煎具合によるラジカル量の変化

・植物に含まれるマンガン(Ⅱ)の検出

高校生たちは、最初は初めて見る大型装置に驚いて いたが、その使用方法や測定できるものを理解すると、

自分たちでテーマを設定して実験を行いたいと願う者 も現れた。次項では、実際に高校生たちが自らテーマ を設定して行った実験成果を紹介する。

4.高校生が行った研究内容

−高校生が調べた食品に含まれる金属−

(食品に含まれる常磁性金属のESR法による検出)

【緒言】

私たちはESR法で常磁性遷移金属が測定できること に注目した。高校化学の教科書には、常磁性の記載は ないが今回の講座で、常磁性の金属は、反応性に富み 様々な機能を持つこと、また、常磁性遷移金属イオン は人間の体内にも存在し、生体微量必須金属として非 常に重要な働きを示すミネラルであると学習した。し

図4 身近な食材のESRスペクトル あおのり ひじき 黒こしょう

ほしえび 玉露 黒ゴマ

鉄 / mg 74.8 55.0 20.0 15.1 10.0 9.9

マンガン / mg 13.0 1.72 6.34 3.93 71.0 

2.52

銅 / mg 0.80 0.18 1.20 5.17 0.84 1.68 可食部 100 g 中

に含まれる成分

(5)

常磁性遷移金属イオンが観測されていると判断され る。それは、300 mT−400 mT付近の複雑なシグナル と150 mT付近にみられるシグナルである。それぞれ、

共鳴磁場の値や分裂構造からMn2+とFe3+であると考え られる。また、ほしえびからは、明確なCu2+由来のシ グナル(270−330mT付近の複雑なシグナル)を得た。

・鉄について

例えば、表1のようにあおのりとひじきに含まれる 鉄は、あおのりの方が多い。しかし、ESRの測定結果 では、ひじきのFe3+のシグナルの方が強度が強くなっ ている。もちろん、個体差も考慮する必要があるが、

その理由の一つとして次のように考えることができ る。鉄には、Fe2+とFe3+があるが、ESRで観測できる のは常磁性のFe3+だけである。つまり相対的に、あお のりには、Fe2+が多く含まれており、ひじきには、

Fe3+が多く含まれている可能性が示唆された。

・マンガンについて

Mn2+を観測した食材のほとんどのMn2+由来のシグ ナルは、ブロードな(幅広い)ものであるにもかかわ らず、あおのりのシグナルは非常にシャープな(幅狭 い)ものが得られた。この理由はまだよくわかってい ないが、同じMn2+であってもそのまわりの環境に違 いがあることを示している。

このように得られたスペクトルを比較することで、

食材によって、同じ鉄やマンガンでも異なった状態で 存在している可能性が高いことが分かった。

−高校生が調べた日焼け防止クリームの謎−

(紫外線防止効果のESR法を用いた評価)

【緒言】

紫外線が皮膚に当たると、活性酸素・フリーラジカ ルが発生するといわれている。そのとき、色素細胞で 形成されるメラニンが、紫外線のエネルギーを直接吸 収し、発生した活性酸素・フリーラジカルを消去する 役割を担う。そのメラニンが多量に生成されると日焼 けやシミの原因になるとされている(図5)

この日焼けを防止するために多くの女子高校生は、

普段から日焼け防止クリームを塗っており、その効果

も実感している。しかし、日焼け防止クリームには 様々な種類があるうえに、日焼けの度合も変化する。

ESR法でラジカルを測定できると知り、日焼けのモデ ル系を構築することで日焼け防止クリームがどの程 度、紫外線を防止しているのかを測定できないかと考 えた。

【実験】

日焼け防止クリームは、SPF(Sun  Protection Factor)とPA(Protection  Grade  of  UVA)という2 つの基準でその効果が表示されている。SPFとは、

UVB防止効果の程度を数値で表し、PAは、UVA防止 効果の程度を記号で表したものである。その測定は、

日本化粧品工業連合会によって基準が設けられてい る。これらの数値や記号の違う数種の日焼け防止クリ ームを用いてESRで測定した。ESRチューブを皮膚に 見立て、チューブの外壁に日焼け防止クリームを塗布 した。また、皮膚内部に相当するESRチューブの内側 には、紫外線が当たると容易にラジカル(遊離基)が 発生する重合開始剤を入れ、日焼けのモデルとした。

試料管に2.5 %の AIBN(2,2’−Azobisisobutyro-nitrile,

(H3C)(CN)2 C−N=N−C(CN)(CH32)ベンゼン溶液 を入れ、日焼け防止クリームを塗布したものに超高圧 UVランプを照射しESRで測定した。(図6)

【結果・考察】

何も塗布しなかった場合は、AIBNが分解して発生 するラジカル由来のESRスペクトルが観測できた。し かし、SPF、PAの基準が高いものを塗布した場合は、

同様のラジカル種由来のスペクトルはほとんど観測で きなかった(図7)

SPFの値が50のものを塗布したものは、AIBN由来 のラジカルはほとんど観測できなかったが、かわりに 333mT−345mT付近にかけて、新しいシグナルが観 測された。SPF50のクリームには、紫外線反射剤とし て酸化チタンが配合されていることや、共鳴磁場の値 や分裂構造からTi3+のシグナルである可能性が高いと 考えられる。

・紫外線防止効果のESR法を用いた評価

得られたESRスペクトルからAIBNが分解して発生 図5 日焼けのメカニズム(1 nm=10-9m)

図6 ESRチューブを用いた日焼け防止クリームの評 価のためのモデル化

(6)

するラジカル量を見積もった。何も塗布しなかったも ののラジカル量を100  %として、日焼け防止クリーム を塗布したサンプルと相対的なラジカルの量を比較し た。その結果、SPFの値が大きくなるにつれて発生す るラジカル量が低下し、SPFの値が50になるとラジカ ルの発生量は10 %程度となった(図8)。この結果は、

SPFの値が大きくなるにつれて、紫外線をより多く防 止していると考えることができる。

実際の皮膚ではなく、モデル系での実験ではあった が、紫外線照射によるラジカルの発生やその防止効果 をESRで直接観測することで日焼け防止クリームの効 果をより具体的に実感することができた。

5.ESRフォーラム研究会での発表

「化学実験」体験講座で得られた前項の実験結果を 2009年7月17日に京都工芸繊維大学行われたESR専門 の研究会「第13回ESRフォーラム研究会」(共催:日 本化学会ほか)で高校生が発表する機会を得た。形式 は、与えられた時間(90分間)で自分のポスターに興 味を持ってくれた人に説明をするポスター発表であっ た。発表当日までは、大学教員や高校教員のアドバイ スを受けながら自分たちでポスターの作成を行い、プ レゼンテーションの練習も何度も行った。結果、当日 はESRフォーラム研究会で初めて高校生が発表すると いうこともあり、多くの方に来て頂きプレゼンテーシ ョンを行うことができた(図9)

表2に参加した高校生の感想文の抜粋を示す。感想 文からは、参加した高校生が初めてのポスター発表に 緊張しながらも大学教員や専門家との交流で、新たな 知識の吸収ができたことに満足していることがわかる。

6.まとめ

帝塚山高等学校女子特進コースと奈良教育大学が行 った高大連携事業「化学実験」体験講座についての報 告を行った。講座の目的は、「1.はじめに」で示し 図7 ESR法による日焼け防止クリームの評価

図8 発生したラジカルの相対値

図9 高校生によるポスター発表の様子

(7)

たように2つあった。

・研究者による講演や大学研究室の訪問、さらに一連 の「化学実験」体験活動を通じて研究活動の一端を垣 間見ることで、研究職への理解と認識を深めさせる。

上記の点に関しては、今回の講座で高校生たちに

「研究室を知る」から始まり「実験テーマの設定」か ら「学会発表」という一連の研究活動の機会を提供す ることができ、研究職についての一定の理解と認識を 深めさせる成果があったと考えている。

・高等学校「化学」と身近に存在する「化学」に密接 な関係があることに気付かせる。その密接な関係への 気付きから、化学に対する興味関心を高めさせる。

この点についても、講座終了後のアンケートから、

化学に対する興味関心が高まったことは読み取ること ができる。しかし、その興味関心を継続させどのよう にして発展させていくかは今後の重要な課題と考えて いる。

このような講座が、課題なしに良いものであるとは 言えない。しかし、高校生にとって大学を知るきっか けや化学に対する興味関心の喚起になることには違い なく、継続して行うことが重要であると考えている。

謝辞 ESRフォーラム研究会事務局の坂井亙先生と田 嶋邦彦先生(京都工芸繊維大学)には高校生のESRフ ォーラム研究会への参加を快くご承諾いただきまし た。当時高分子科学研究室に所属していた荒田聡恵さ んと山口哲生君には、講座の準備や高校生への指導な ど全般で協力を得ました。また、帝塚山高等学校の先 生方にも多くのご協力を得ました。ここに記して感謝 致します。

受講生一覧

「化学実験」体験講座に参加した生徒は以下の通り。

はESRフォーラム研究会での発表者)

芦田実早紀 有本 知可 入江 麗奈 岩岡 寛海 上田真唯子 岡本真貴子 久保瑳江子 高野 友花 西尾 幸実 前澤 志織 諸岡絵理奈 吉見菜緒子

参考文献

1.梶原 篤・仲島浩紀 電子スピン共鳴分光(ESR)

法による身近な自然に隠れた常磁性種の検出とそ の教材化の試み, 化学と教育,  2007,  55(12),  620- 623

2.梶原 篤・荒田聡恵・仲島浩紀 大学院講義「も のづくり教育内容学」に基づくプラスチック材料 や身近な昆虫を利用した理科教材開発の試み, 奈良教育大学教育実践総合センター研究紀要, 2007, 16, 255-260

表2 ESRフォーラムに参加した高校生の感想

・はじめは、「どんな質問をされるのだろう?」や「「全然できていない!」といった指摘をされるのだろうか?」

ととても不安要素があり、緊張しました。しかし、流暢でない私の発表でも笑顔で聞いて下さり、おもしろい 研究だと言って下さったりして、とても嬉しかったです。何人かに発表をしているうちに要領をつかんできて、

話すことが楽しいと感じ始めました。相手とコミュニケーションを取りながら発表することが楽しいというこ とが実感できて本当によかったです。

・ポスター発表の直前、もともと私は人より緊張する方なので、心臓の早さが尋常ではなかったことを覚えてい ます。発表が始まり大学の先生方に様々な質問を投げかけられ一瞬戸惑いましたが、準備期間中に学んだこと を生かして精一杯答えるよう心がけました。「大学は1つのことを何年もかけて研究されてきた先生の授業を受 けることができる場所」と聞いたことがあるのですが、まさにその通りだと実感しました。ポスターを見て下 さった先生方が一人一人言ってくださる知識をたくさん得ることができて本当に良かったと思っています。

・ポスター発表はとても緊張しました。不十分な私の説明を温かい目で見て下さって、とてもうれしく思いまし た。たくさんの先生方に観ていただき、それぞれ違った興味深い意見をいただきました。一つのことでも着目 する点が違って、いろいろな意見や考えがあって、本当におもしろいと思いました。皆さんの言っていること に共感し納得することができました。客観的な意見は大事だと思いました。また実験をする機会があれば、先 生方に言われたことを活かして、いろいろな視点から見た実験をしたいと思います。私が目指している学部に ESRが関係した研究があることを知ったので、大学生になったらもっと詳しく研究したいと思いました。

参照

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