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海洋性珪藻ピレノイドの生化学的構造と機能

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Academic year: 2022

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海洋性珪藻ピレノイドの生化学的構造と機能

著者 菊谷 早絵

URL http://hdl.handle.net/10236/11601

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− 116 −

学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員 (主査)

(副査)

菊 谷 早 絵 博 士(理 学)

甲理第144号(文部科学省への報告番号甲第470号)

学位規則第4条第1項該当 2013年3月16日

矢 倉 達 夫 藤 原 伸 介 松 田 祐 介

教 授 教 授 教 授

海洋性珪藻ピレノイドの生化学的構造と機能

 海洋性珪藻類とは、繊毛虫類と考えられる真核宿主細胞と真核藻類が約2億5千万年前に二次共生するこ とにより葉緑体を獲得し、成立した生物である。この特殊な共生進化を遂げた独立栄養生物群はクロミスタ 属と呼ばれる巨大な真核生物群を形成し、一般的な独立栄養生物である高等植物、或いは緑藻や紅藻とは進 化系統学上かなり離れた位置にある。クロミスタに属する独立栄養生物は海洋を中心とする水圏に繁栄して いる重要なものが多く、食物連鎖の根幹を形成して人類の経済活動とも密接にかかわるが、その細胞生理の 分子レベルでの詳細はほとんど調べられていない。海洋性珪藻類はクロミスタの中で最も繁栄する生物群で あり、その一次生産量は地球全体の約20% と見積もられている。またこの生物はクロミスタ属の中で初め て全ゲノムの解析が行われた重要なモデル生物となっている。珪藻類の一次生産の主体である葉緑体は上述 したような複雑な共生進化により、4重胞膜構造を持ち、内部にはピレノイドと呼ばれる巨大なタンパク質 顆粒とその周辺に配置したチラコイド膜構造を有している。しかしながらこの構造とその中で行われる炭酸 同化反応をはじめとする主要な一次生産反応の関係は分かっていない。本研究は海洋性珪藻Phaeodactylum

tricornutumのピレノイドに存在する生化学反応の詳細を明らかにすることを目的に行われた。

論 文 内 容 の 要 旨

本論文は4章から成る。

 第1章では緒論として海洋性珪藻類の進化および細胞構造の特殊性、加えて無機炭素を濃縮し葉緑体内へ 効果的に供給する藻類の機能(CO2-concentrating mechanism: CCM)と葉緑体構造の関わりについて、こ れまでに得られた知見と未知の課題が概観されている。

 第2章ではP. tricornutumのピレノイドに局在する炭酸脱水酵素(CA)の活性制御について調べている。

ピレノイドは、葉緑体内に存在する ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase (RubisCO)を多量に 含むタンパク質顆粒であり、CCM において重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、これま でにピレノイドが単離されたことはなく、珪藻類では RubisCO、2つのβ型 carbonic anhydrase (PtCA1 及び PtCA2)及び fructose-1,6-bisphosphate aldolase が炭酸同化に主要な役割を果たすという推測がある のみで、ピレノイドの生化学的構造及び機能についてはほとんどわかっていない。そこで、本章ではP.

tricornutumピレノイド局在タンパク質である PtCA1及び PtCA2の活性制御機構について調べている。葉緑

体内は一般的に光エネルギーの化学変換と水分子の分解に端を発する電子伝達および酸素発生などから酸化 還元状態がめまぐるしく変動する環境にある。高等植物の葉緑体の場合、チオレドキシン (Trx)というタ

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ンパク質を介した光依存的な酸化還元による活性調節機構が存在し、カルビン回路、窒素同化および脂肪酸 合成系など多くの生産経路が Trx により制御されている。一方、珪藻類の葉緑体では Trx の存在は確認さ れているものの、その標的分子及び生理的意義は知られていなかった。P. tricornutumのピレノイド局在型 PtCA1及び2は、CCM に重要な役割を担うと考えられている。これらの成熟型タンパク質を大腸菌体内で 発現し、シロイヌナズナ由来の二種の葉緑体型 Trx(AtTrx-f2/-m2)及びP. tricornutum由来の二種の葉緑 体型 Trx (PtTrxF/M)存在下及び非存在下で CA 活性を比較した。その結果、Trx と DTT を共添加した ときに CA 活性が大幅に上昇したことから、PtCA1及び2が Trx の標的酵素の一つで、還元によって活性化 されることが示された。また、AtTrxs より PtTrxs に対して親和性が高く、相互作用が生物種特異的に最 適化されていることも明らかとなった。PtCA1及び2の活性部位(亜鉛配位子)を構成しない2つの Cys を Ser に置換した変異体を作製し、酸化環境及び還元環境における CA 活性測定及び非還元 SDS-PAGE を行っ た。その結果、いずれの変異体も酸化的な不活性化が見られなくなった。このことから、PtCA1の Cys105 及び Cys166、PtCA2の Cys102及び Cys163の間で分子内ジスルフィド結合を形成することにより、CA が 不活性化されることが明らかになった。

 葉緑体内での PtCA1及び PtCA2の酸化因子を探るため、還元型 CA を様々な酸化剤と反応させて CA 活 性を調べた。その結果、分子酸素によってのみ分圧依存的な不活性が見られた。このことから、PtCA1及び PtCA2は、大気レベル以上の酸素分圧で不活性化され、葉緑体内の還元型 Trx により活性が復元する制御 を受けていることが示された。酸素は光化学系 II(PSII)によって発生し、還元力は光化学系 I(PSI)か らの電子がフェレドキシンと Trx を介して伝えられる。このように、PtCA1及び PtCA2の活性制御にはチ ラコイド上の2つの光化学系のエネルギー状態が密接に関連していることが示唆された。珪藻のカルビンサ イクルは高等植物とは異なり、酸化還元制御が大きな役割を担っていないことがこれまでに報告されている。

本研究では、珪藻葉緑体 Trx の主要標的の一つがカルビンサイクルではなく、ピレノイドにおける CO2濃 縮および供給系であることを強く示唆する結果となっている。

 第3章では新規ピレノイド局在タンパク質の探索を行った。まず、フォトアミノ酸を用いたクロスリン ク実験により新規ピレノイド局在タンパク質の探索を試みた。質量分析の結果、ピレノイド局在タンパク 質候補の一つとして機能未知タンパク質が検出された。機能未知のものをβ-CA linking protein 1(bCAL1)

と名付け、GFP 標識による局在解析を行った結果、bCAL1はチラコイド膜に局在していることが分かった。

さらに、低 CO2環境下で発現が誘導されることが明らかとなった。

 また、藻類に一般的に存在する葉緑体因子 LCIB の類似配列(ホモログ)を珪藻ゲノムから見出し、この クローニングを行っている。その結果、P. tricornutumには4つの LCIB ホモログ(PtLCIB1〜4)が存在し、

PtLCIB1、2及び4は低 CO2で、PtLCIB3は高 CO2で発現誘導されることが明らかとなった。また、PtLCIB2

〜4は葉緑体内に局在することが明らかとなり、PtLCIB2については局在観察の結果よりピレノイドに貫通 しているチラコイドに局在していることが示唆された。これらの新規ピレノイド因子の生理的な機能同定に は現在至っていないが、その局在および発現挙動から、ピレノイドにおける CO2代謝に重要な役割を果たす 可能性が強く示唆される結果と言える。

 第4章ではこれらの結果を総合的に考察し、今後の方向性を示している。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 本学位論文は、ピレノイド局在タンパク質である PtCA1及び PtCA2がチラコイド膜上に存在する PSII 及 び PSI のエネルギー状態によって Trx を介して制御されること、およびこれによって CO2供給系が葉緑体 内で酸化還元制御されることを示している。またクロミスタ属の葉緑体 Trx 標的タンパク質を初めて決定

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したものであり、海洋などの一次生産制御を知る分子知見として重要である。また構造が生化学的にほぼ全 く分かっていないピレノイドに PtCA と相互作用すると考えられるいくつかのタンパク性因子が存在するこ とが今回明らかとなった。今回得られた結果は、クロミスタ属による海洋一次生産はもとより葉緑体一般 の機能にかかわる新たな知見として意義のあるものであると判断した。本論文の内容はすでに国際光合成学 会誌Photosynthesis Researchおよびアメリカ生化学分子生物学会誌The Journal of Biological Chemistryに2報 の論文として公開されている。また、2009年アメリカ植物生物学会大会および2010年水生生物による無機炭 素利用に関する国際シンポジウムの2度の国際学会で自らポスター発表している。さらに2012年日本植物生 理学会大会で口頭発表し、2013年の同大会でもポスター発表の予定である。審査委員は本論文の内容を中心 に面接と公開の論文発表会を行い、著者が論文内容と用いた技法について充分な理解とともに関連する分野 についても学識を有し、また将来の研究遂行に対しても十分な能力を持つことを確認した。以上のことより、

審査委員会は本論文の著者が博士(理学)の学位を授与されるに足る十分な資格を有するものと判定する。

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