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ストレス負荷時の行動調節における ボンベシン様ペプチドの役割

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博士(人間科学)学位論文

ストレス負荷時の行動調節における ボンベシン様ペプチドの役割

A study of the regulation of behaviors under stress condition by bombesin-like peptides

2004 年 1 月

早稲田大学大学院 人間科学研究科

山田 祐子

Yamada, Yuko

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目 次

第 1 章  序 論 :ストレス性 精 神 障 害 研 究 における遺 伝 子 改 変 マウスの適 用

1.ストレス性 精 神 障 害 研 究 モデルとしての遺 伝 子 改 変 動 物 P. 6 1)拘 束 ストレス(restraint stress) P. 7 2)強 制 水 泳 ストレス(forced swimming stress) P. 9 3)分 離 ストレス(cohort removal)と社 会 的 隔 離(social isolation)

P.10

4)心 理 的 ストレス(psychological stress) P.13 ①新 奇 ストレス(novelty stress) P.13 ②社 会 的 ストレス(social stress) P.13 ③捕 食 者 ストレス(predator stress) P.14 ④過 密 ストレス(crowding stress) P.15 ⑤心 理-社 会 的 ストレス(socio-psychological stress) P.15

2.本 研 究 の目 的 と構 成 P.16

第 2 章  ストレス性 精 神 障 害 研 究 の新 規 モデル動 物 候 補 の選 定

1.ボンベシン(bonbesin)とボンベシン様 ペプチド受 容 体 欠 損 マウス P.18 2.方 法       P.19 1)飼 育 および実 験 条 件       P.19

(3)

2)倫 理 規 定 の遵 守 P.19 3)被 験 体       P.19

4)装 置     P.19

①明 暗 箱 P.19

②高 架 式 十 字 迷 路 P.20

5)手 続 き P.20

①明 暗 箱 テスト(Light-Dark Box Test)      P.20

②高 架 式 十 字 迷 路 テスト

(Elevated Plus Maze Test) P.20

③危 険 評 価 行 動 (risk assessment behavior)とは P.21   3.結 果       P.21         1)明 暗 箱 テスト             P.21 2)高 架 式 十 字 迷 路              P.22  4.考 察       P.22

第 3 章  ニューロメジン B 受 容 体 欠 損 マウスにおけるストレス性 行 動 異 常

1.ニューロメジン B とニューロメジン B 受 容 体 P.25 2.ストレス刺 激 が母 性 行 動(maternal behavior)に及 ぼす効 果 について

P.25

1)目 的 P.25

2)方 法 P.26

①被 験 体 P.26

(4)

②手 続 き P.26

3)結 果 P.28

4)考 察 P.29

3.ストレス刺 激 が学 習 ・記 憶 に及 ぼす効 果 について P.31

1)目 的 P.31

2)方 法 P.31

①被 験 体 P.31

②手 続 き P.32

a.拘 束 ストレスと血 糖 値 測 定       P.32 b.一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 試 験

(One-trial Passive Avoidance Test) P.32 c.自 発 活 動 性 テスト            P.33 d.高 架 式 十 字 迷 路               P.33 e.ショック反 応 性 テスト             P.33

3)結 果 P.34

①血 糖 値 測 定 P.34

②一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 テスト P.35

③自 発 活 動 性 テスト P.35

④高 架 式 十 字 迷 路 P.36

⑤ショック反 応 性 テスト P.37

4)考 察 P.37

(5)

第 4 章  ボンベシン様 ペプチドによるストレス性 精 神 障 害 治 療 効 果 に関 する 検 討

1.外 傷 性 記 憶 障 害 に対 する GRP の効 果 P.40

1)実 験 1 P.41

①方 法 P.41

a.被 験 体       P.41 b.薬 品 P.41 c.装 置 P.42 d.手 続 き P.42

②結 果 P.43

2)実 験 2 P.43

①方 法 P.43

    a.被 験 体       P.43 b.手 続 き      P.44

②結 果 P.44

③考 察 P.45

2.情 動 的 記 憶 に関 するボンベシン様 ペプチド受 容 体 アンタゴニストの効 果

1)目 的 P.49

2)方 法 P.49

①被 験 体 P.49

②薬 物 P.50

③装 置/手 続 き P.50

(6)

3)結 果     P.50

4)考 察             P.51

第 5 章  総 合 的 考 察 と展 望

1.NMB/NMB-R システムによるストレス反 応 調 節 の生 理 学 的 メカニズム

P.54

2.ストレス性 精 神 障 害 の予 防 ・治 療 における本 研 究 の意 義 P.55 1)ストレス性 精 神 障 害 モデル動 物 としての NMB-R 欠 損 マウス

P.56

2 )BN 関 連 分 子 に よ る ス ト レ ス 性 記 憶 障 害 お よ び 外 傷 性 記 憶 の     

治 療 効 果 P.57

3.結 び P.59

【文 献 】 P.61

【主 論 文 】 P.77

【参 考 論 文 】 P.79

【謝 辞 】 P.80

(7)

第 1 章   序 論 :ストレス性 精 神 障 害 研 究 における遺 伝 子 改 変 マウスの適 用

1.ストレス性 精 神 障 害 研 究 モデルとしての遺 伝 子 改 変 動 物

ストレス負 荷 は生 体 に生 物 学 的 影 響 にとどまらず、きわめて大 きな心 理 的 ・ 精 神 的 影 響 を及 ぼす。過 度 のストレス負 荷 は不 安 や抑 欝 の原 因 となり、さらに は PTSD(心 的 外 傷 後 ストレス障 害 )のような重 篤 な障 害 をもたらす場 合 もある。

今 日 、ストレス性 精 神 疾 患 の病 態 の解 明 と治 療 法 の開 発 が社 会 的 急 務 となっ ている。しかし、ストレス性 精 神 疾 患 は、その発 症 の契 機 の特 定 が困 難 である ばかりか、症 状 や経 過 が極 めて多 様 であるため、臨 床 研 究 では病 態 の解 明 お よび治 療 法 の開 発 には限 界 がある。また、明 らかな疾 患 とは認 められていない が、ストレスとの関 連 が疑 われる諸 症 状 については、いまだ組 織 的 な基 礎 研 究 が手 つかずの状 態 である。このような状 況 をもたらした原 因 の一 つとして、基 礎 実 験 のための適 切 なモデル実 験 システムの不 足 があげられる。従 来 ストレス反 応 のモデル実 験 系 は、きわめて限 られていた。主 としてマウスやラットなどの小 型 げっ歯 類 を用 いた研 究 では、ストレス負 荷 による内 分 泌 の変 化 や、胃 潰 瘍 ・ 十 二 指 腸 潰 瘍 などの形 成 に関 する研 究 が行 われてきた 1。また、犬 や霊 長 類 など中 型 動 物 を用 いた研 究 では、より人 に近 い認 知 的 なストレス負 荷 による研 究 も行 われてきた。Seligmann の犬 を被 験 体 とした「学 習 性 絶 望 」の古 典 的 研 究2や、Bradyらの「管 理 職 ザルの実 験 」3はあまりにも有 名 である。しかし、これ らの実 験 は、その手 続 きの複 雑 さや再 現 性 の問 題 、あるいは動 物 実 験 におけ る倫 理 的 問 題 などの諸 事 情 によって、標 準 的 な実 験 モデルとして用 いられるに はいたらなかった。

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近 年 マウスの胚 性 幹 細 胞(ES 細 胞)に遺 伝 子 組 換 え体 を導 入 することによっ て、遺 伝 子 改 変 マウス(ノックアウト・マウスおよびトランスジェニック・マウス)の 作 製 が可 能 になった。わずか 10 年 余 りの短 期 間 に遺 伝 子 改 変 動 物 の作 製 技 術 は急 速 に進 歩 し、今 日 では遺 伝 子 改 変 の標 的 である個 々の遺 伝 子(分 子) 機 能 の解 析 にとどまらず、多 様 な疾 患 モデル動 物 の提 供 を可 能 にしつつある。

ストレス研 究 においても、ストレス反 応 に主 要 な役 割 を果 たしていると考 えられ て き た 分 子 で あ る 、 副 腎 皮 質 刺 激 ホ ル モ ン 放 出 ホ ル モ ン (corticotrophin-releasing hormone: CRH)お よ び そ の 受 容 体(CRH receptor:

CRHR)や、糖 質 コルチコイド受 容 体(glucocorticoid receptor: GR)、鉱 質 コルチ コイド受 容 体(mineralocorticoid receptor: MR)などのノックアウトマウスやトラン スジェニックマウスを用 いることによって、これらの分 子 機 能 の解 析 が進 められ ている 4-6。しかし、このような技 術 革 新 の時 代 においても、ストレス反 応 の研 究 において精 神 疾 患 と直 接 的 に関 係 するストレス誘 導 性 の行 動 異 常 に関 する研 究 は、必 ずしも十 分 に行 われているわけではない。そこで本 章 では、主 としてマ ウスやラットを用 いたストレス研 究 で利 用 されてきた代 表 的 なストレス負 荷 法 に ついて紹 介 しつつ、遺 伝 子 改 変 動 物 におけるストレス反 応 の研 究 について、ス トレス性 行 動 異 常 のモデル開 発 という観 点 から概 観 し、遺 伝 子 改 変 動 物 にお けるストレス性 精 神 疾 患 研 究 の現 状 と展 望 について議 論 し、本 研 究 の序 論 と する。 

1)拘 束 ストレス(restraint stress)

拘 束 ストレスは、げっ歯 類 など小 型 動 物 を用 いたストレス研 究 において最 も

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頻 繁 に用 いられてきた方 法 である。拘 束 ストレス負 荷 によって血 中 副 腎 皮 質 ホ ルモン(CORT)・副 腎 皮 質 刺 激 ホルモン(ACTH)濃 度 あるいは血 糖 値 などが大 きく上 昇 することから 7-8、拘 束 ストレス法 はストレスに対 する視 床 下 部-下 垂 体- 副 腎 系 (HPA  axsis) の 反 応 を 調 べ る た め に 優 れ た 方 法 で あ る と い え る 。 Schaefer ら は ア デ ニ リ ル ・ シ ク ラ ー ゼ ・ タ イ プ VIII(adenyly  cyclase  type  VIII:AC8)ノックアウトマウスにおいて、拘 束 ストレス負 荷 後 に高 架 式 十 字 迷 路 テストにおける不 安 反 応 性 が低 下 する一 方 、血 中CORT濃 度 の変 化 は野 生 型 マウスと変 わらないことを報 告 している 9。ストレスに対 する内 分 泌 学 的 反 応 と 行 動 変 化 が必 ずしも並 行 するものではないという実 験 結 果 は、ストレス性 行 動 異 常 や精 神 疾 患 が、必 ずしも CORT などストレス反 応 調 節 の主 要 な分 子 の変 化 によるものではない可 能 性 を示 唆 している点 において、極 めて重 要 な知 見 で あるといえよう。

またストレスによる HPA 系 反 応 の主 要 分 子 である、CRH およびその受 容 体 である CRHR のノックアウトマウスにおいても、興 味 深 い結 果 が得 られている。

すなわち、CRHR ノックアウトマウスの行 動 解 析 から、CRH/CRHR システムが 不 安 などストレス関 連 行 動 を媒 介 していることが示 されている一 方 10-11、ノック アウトマウスでは、拘 束 ストレス負 荷 を与 えても血 中 ACTH やCORT 濃 度 の上 昇 が見 られず 12、行 動 変 化 も認 められなかった 13。これらの結 果 は、CRH の欠 損 によってCRHに代 替 するリガンドの発 現 が増 強 されることによってストレス反 応 の制 御 が正 常 に保 持 されている可 能 性 を示 唆 するものであり 14、遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いたストレス研 究 においては、欠 損 した機 能 が他 の分 子 によって代 替 されている可 能 性 まで含 めて検 討 しなければならないことを強 く示 している。

拘 束 ストレス負 荷 をストレッサーとして用 いた研 究 はきわめて豊 富 であり、そ

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の効 果 は十 分 に確 認 されている。遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いた拘 束 ストレス負 荷 による内 分 泌 学 的 変 化 に関 する研 究 は多 数 報 告 されており、今 後 もその傾 向 は増 え続 けるものと考 えられる。拘 束 ストレス負 荷 を用 いた遺 伝 子 改 変 動 物 に おけるストレス性 行 動 異 常 については、本 節 で紹 介 したように現 状 ではまだ報 告 が少 ないが、今 後 急 速 に増 加 するものと期 待 される。このように拘 束 ストレス 法 は極 めて有 効 な方 法 であるにもかかわらず、残 念 なことに、拘 束 ストレスとヒ トが社 会 生 活 上 被 る各 種 ストレス刺 激 との間 にどのような関 連 があるのかとい う点 については、現 時 点 では十 分 な検 討 がなされていない。この点 について今 後 十 分 な検 討 が必 要 である。

2)強 制 水 泳 ストレス(forced swimming stress)

マウスやラットは水 泳 に長 けている。しかし、これらの動 物 は決 して水 泳 を好 むわけではない。従 って、実 験 的 に水 槽 の中 で水 泳 を強 いられることは、マウ スやラットにとって極 めて大 きなストレスとなる。このマウスやラットを水 槽 の中 で強 制 的 に泳 がせる強 制 水 泳 テスト(forced swimming test)は、もともとPorsolt ら15によって欝 の動 物 モデル(behavioral despair model)として紹 介 された。マウ スやラットを室 温 程 度(25℃程 度)の水 が入 った水 槽 に入 れると、動 物 は水 槽 か ら逃 げようとして泳 ぎ続 ける。この水 泳 を強 制 水 泳 ストレス(forced swimming stress)と呼 ぶ。実 験 では強 制 水 泳 ストレス負 荷 の翌 日 に再 び動 物 を強 制 的 に 水 泳 させるが、このとき前 日 の強 制 水 泳 ストレス負 荷 の時 間 依 存 的 に、動 物 の 水 泳 時 間 が減 少 する。この水 泳 (活 動 )時 間 の減 少 を指 標 として、動 物 の「欝 状 態 」 や 「 絶 望 状 態 」 を 測 定 す る の が 強 制 水 泳 テ ス ト で あ る 16。 イ ミ プ ラ ミ ン

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(imipramine)などの 3 環 系 抗 鬱 薬 の投 与 で、この水 泳 時 間 の減 少 が抑 制 され ることから 15、強 制 水 泳 テストは抗 鬱 薬 のスクリーニング法 として広 く用 いられ てきた17-18

遺 伝 子 改 変 動 物 における強 制 水 泳 ストレスの影 響 は、Sallinen らによって報 告 されている。Sallinen らはアドレナリンα2C受 容 体(adrenergic α2C-receptor:

α2C-AR)のノックアウトマウスおよび、過 剰 発 現(over expression)トランスジェニ ックマウスを用 いた研 究 から、強 制 水 泳 テストにおいてノックアウトマウスではテ スト時 の活 動 性 (水 泳 時 間 )が野 生 型 マウスよりも長 く、一 方 過 剰 発 現 マウス においてはテスト時 の活 動 性 (水 泳 時 間 )が野 生 型 マウスよりもやや短 いことを 報 告 している 19-20。Sallinen らは行 動 テストと同 時 に、α2C-AR ノックアウトマウ スでは強 制 水 泳 後 の血 中 CORT 濃 度 上 昇 が野 生 型 マウスよりも低 いことを報 告 している。

上 述 のように、強 制 水 泳 ストレスおよび強 制 水 泳 テストは、「欝 」あるいは「絶 望 」の動 物 モデルとして幅 広 く利 用 されてきた。強 制 水 泳 は逃 避 不 可 能 な強 い ストレス状 況 の優 れたモデルであり、また実 験 系 も極 めてシンプルである。多 様 な遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いた研 究 を展 開 することによって、PTSD など重 篤 な障 害 のモデル動 物 の開 発 に寄 与 するものと期 待 される。

3)分 離 ストレス(cohort removal)と社 会 的 隔 離(social isolation)

ヒトはたった一 人 で取 り残 されると強 い不 安 を感 じる。同 様 の現 象 はマウス においても観 察 される。集 団 で飼 育 しているマウスを、1 匹 ずつ順 次 ケージから 取 り出 して体 温(直 腸 温) を測 定 すると、取 り出 される順 番 が遅 いほど体 温 が

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上 昇 する という現 象 が 知 ら れ ている 21。この 現 象 は、 スト レス誘 導 性 過 温 症 (stress-induced hyperthermia: SIH)とよばれており、マウスにおける不 安 のモデ ルとして抗 不 安 薬 の評 価 法 などに利 用 されている 22-23。SIH が ACTH・CORT および血 糖 値 の上 昇 を伴 うことから 24、分 離 ストレスは HPA 系 の支 配 を受 ける ストレス反 応 と考 えられる。Watanabeらは、集 団 飼 育 マウスを1匹 ずつ取 り出 し て新 しいケージに移 すという SIH の変 法 (cage-switch stress)を用 いて、アンギ オテンシンIIタイプ2受 容 体(angiotensin II type 2 receptor: AT2)ノックアウトマ ウスにおいて、SIH が亢 進 していることを報 告 している 25。また、SIH にはセロト ニン(5-HT)ニューロンの関 与 が報 告 されているが 22-23、Bouwknecht らはセロト ニン1B 受 容 体(5-HT1B receptor)ノックアウトマウスにおいて、SIH がやや低 下 することを報 告 している 26。SIH は予 期 的 不 安(anticipatory anxiety)の動 物 モ デルと考 えられるので 27、この実 験 系 を用 いた遺 伝 子 改 変 動 物 の研 究 の発 展 は 、 ヒ ト に お け る ス ト レ ス 性 の 不 安 (stress-induced anxiety)や 鬱 症 状 (stress-induced depression)、特 に PTSD など強 いストレス負 荷 後 に見 られる諸 疾 患 の生 物 学 的 メカニズムの究 明 および治 療 法 の開 発 に寄 与 するものと思 わ れる。

分 離 ストレスとは手 続 き的 に異 なるが、隔 離 飼 育(social isolation)も動 物 に きわめて強 いストレス刺 激 となる。隔 離 飼 育 ストレスは通 常 、離 乳 後 の動 物 を 他 の個 体 と隔 離 して飼 育 する、あるいは集 団 で飼 育 していた動 物 を一 定 期 間 個 別 飼 育 条 件 に変 えることによって与 えられる。Harlow の古 典 的 な研 究 28 以 来 、ヒトを含 む哺 乳 類 において、母 子 関 係 あるいは他 個 体 との社 会 的 関 係 の 剥 奪 が、身 体 ・精 神 両 側 面 において極 めて大 きな影 響 を与 えることが数 多 く報 告 されてきた7, 29-30。遺 伝 子 改 変 動 物 における隔 離 飼 育 ストレスの研 究 におい

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ては、主 として攻 撃 行 動 の変 化(isolation-induced aggression)が報 告 されてい る 。Sallinen ら は 先 述 の α2C-AR ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス お よ び 過 剰 発 現(over expression)トランスジェニックマウスを用 いた研 究 から、ノックアウトマウスでは 隔 離 飼 育 によって攻 撃 行 動 発 現 潜 時 が短 縮 する一 方 、過 剰 発 現 マウスでは 攻 撃 行 動 発 現 潜 時 が伸 張 することを報 告 している 31。また、Alleva らはインタ ーロイキン 6 (interleukin-6: IL-6)のノックアウトマウスおよび過 剰 発 現 トランス ジェニックマウスを用 いた研 究 から、IL-6ノックアウトマウスでは隔 離 飼 育 によっ て攻 撃 行 動 が亢 進 すること、一 方 過 剰 発 現 マウス(NSE-hIL-6)では非 攻 撃 性 社 会 行 動 が亢 進 することを報 告 している 32。また我 々のグループにおいても、

哺 乳 類 におけるボンベシン様 ペプチド受 容 体 の一 種 である、ガストリン放 出 ペ プチド受 容 体(GRP-R)ノックアウトマウスでは社 会 的 隔 離 によって非 攻 撃 性 社 会 行 動 が亢 進 する一 方 33-35、ボンベシン受 容 体 サブタイプ 3(BRS-3)ノックアウ トマウスでは社 会 的 隔 離 によって非 攻 撃 性 社 会 行 動 が減 少 することを見 出 し ている36

上 述 したように、社 会 的 隔 離 によるストレス負 荷 は、きわめて劇 的 な行 動 変 化 を生 じる。現 在 、母 子 関 係 の希 薄 化 や育 児 の放 棄 、あるいは TV・VTR やコ ンピュータゲームの流 行 など、乳 幼 児 ・青 少 年 に対 する社 会 的 刺 激 の不 足 が 社 会 問 題 化 しており、青 少 年 による凶 悪 犯 罪 との関 連 性 も注 目 されている。遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いた社 会 的 隔 離 ストレス研 究 の発 展 は今 後 、精 神 医 学 的 側 面 ばかりではなく、社 会 医 学 的 側 面 においてもきわめて重 要 な意 味 を持 つこ とになると考 えられる。

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4)心 理 的 ストレス(psychological stress)

先 述 した拘 束 ストレスや強 制 水 泳 ストレスはいわば「物 理 的 な」ストレスとい えるが、このようなストレス刺 激 に対 して、「心 理 的 ストレス」と呼 ばれるような一 群 のストレス刺 激 がある。前 述 した分 離 ストレスや社 会 的 隔 離 ストレスもこの心 理 的 ストレスに分 類 されるものといえる。ここでは遺 伝 子 改 変 動 物 のストレス研 究 、特 に行 動 異 常 に関 する研 究 においてまだ比 較 的 扱 われていないが、今 後 研 究 の発 展 が望 まれる心 理 的 ストレス負 荷 を用 いた実 験 について簡 単 に紹 介 しておく。

①新 奇 ストレス(novelty stress)

新 奇 ストレス(novelty stress)は、未 知 の場 所 や物 にさらされたときに経 験 す るストレスである。マウスやラットなどをオープン・フィールド(open field)、明 暗 箱 (light-dark box)、高 架 式 十 字 迷 路(elevated plus maze)等 の実 験 装 置 に入 れ た 当 初 に 生 起 す る 、 新 奇 性 忌 避 反 応(neophobia)あ る い は 新 奇 性 探 求 反 応 (novelty seeking)は、新 奇 事 態 におけるストレス反 応 と考 えることができる 37。 遺 伝 子 改 変 動 物 の行 動 解 析 において、上 記 の行 動 課 題 は極 めて標 準 的 なも のであり、多 くの動 物 についてデータが蓄 積 されている 38-39。蓄 積 されたデータ について、ストレス反 応 性 という見 地 から再 評 価 を行 うことによって、ストレス性 精 神 疾 患 のモデル実 験 系 構 築 の進 展 に寄 与 するものと考 えられる。

②社 会 的 ストレス(social stress)

社 会 的 ストレス(social stress)は集 団 内 における他 の個 体 から受 けるストレス

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と考 えることができる。たとえば、マウスを集 団 で飼 育 すると、必 然 的 に社 会 的 に強 い個 体(socially dominant mouse)と弱 い個 体(socially subordinate mouse or submissive mouse)という階 層 が生 じる。社 会 的 に強 い個 体 は隔 離 飼 育 した 個 体 同 様 、攻 撃 性 が亢 進 する傾 向 がある 40-41ので、集 団 内 で弱 い立 場 にある 個 体 は、常 に強 い立 場 にある個 体 からのストレスを受 け続 けることになる。集 団 飼 育 下 のマウスと人 間 社 会 を直 接 比 較 することが現 実 的 でないことはいうま でもない。しかし、社 会 的 ストレスがヒトにとって最 も強 いストレス刺 激 の一 つで あることを考 えるならば、遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いた社 会 的 ストレスのモデル実 験 システムの構 築 が、社 会 的 不 適 応 などの危 険 因 子 の同 定 に有 力 な手 がか りをもたらすことは十 分 に期 待 できるであろう。

③捕 食 者 ストレス(predator stress)

マウスにとって捕 食 者 であるネコやラットの匂 いやなき声 、あるいはそれらが 生 じる音 などは、極 めて強 力 なストレス刺 激 となる。捕 食 者 ストレスによる不 安 反 応 は抗 不 安 薬 の効 果 の指 標 としても用 いられてきた42-43。Linthorstらは GR のアンチセンスRNAを強 制 発 現 させたトランスジェニックマウス(GR-iマウス)に おいて、捕 食 者 ストレスに対 する反 応 性 の変 化 について報 告 している 44。実 験 ケージを小 さな穴 の開 いたプレキシグラスで仕 切 り、一 方 にマウスを入 れ、他 方 に刺 激 用 のラットを入 れてマウスの行 動 を観 察 したところ、GR-i マウスでは活 動 性 が亢 進 することが見 出 された。ヒトは現 在 食 物 連 鎖 の頂 点 にあり、自 然 界 に捕 食 者 はいない。従 って、マウスと同 レベルにおける捕 食 者 ストレスにさらさ れることはない。しかし、上 述 の社 会 的 ストレスと同 様 に、社 会 的 地 位 などによ って受 けるストレスのモデルとして利 用 可 能 であろう。

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④過 密 ストレス(crowding stress)

飼 育 密 度 はマウスの行 動 ばかりでなく、内 分 泌 反 応 にも大 きな影 響 を与 える。

Ortiz ら 45 は、マウスの飼 育 密 度 が高 いと体 重 増 加 が抑 制 されることを見 出 し た。また同 時 に、強 制 水 泳 などの急 性 ストレスによる皮 質-副 腎 系 の反 応 が亢 進 することを見 出 した。このように過 密 ストレスは、持 続 的 ストレスの優 れた実 験 モデルといえるが、残 念 ながら遺 伝 子 改 変 動 物 における組 織 的 な研 究 報 告 はない。過 密 ストレスは現 代 社 会 における重 要 な問 題 の一 つと考 えられるので、

今 後 の研 究 を期 待 したい。

⑤社 会-心 理 的 ストレス(socio-psychological stress)

他 人 の悲 惨 な状 況 を目 の当 たりにすることは、自 分 自 身 が悲 惨 な目 にあわ なくても、極 めて大 きなストレスとなる。このように自 分 自 身 は物 理 的 ・身 体 的 な ストレスにさらされず、他 人 (他 個 体 )がストレスを受 けている状 況 を観 察 するこ とで受 けるストレスを、「社 会 −心 理 的 ストレス(socio-psychological stress)」あ るいは狭 い意 味 で「心 理 的 ストレス(psychological stress)」とよぶ 46-47。実 験 的 には、マウスをコミュニケーションボックス(communication box)と呼 ばれる装 置 に入 れ、一 方 のマウスには電 気 ショックを与 え(sender mouse)、他 方 のマウス (responder mouse)には電 気 ショックを与 えられたマウスを観 察 させる、という方 法 を用 いる。残 念 ながらこの方 法 も遺 伝 子 改 変 動 物 による組 織 的 な研 究 報 告 はない。生 体 に物 理 的 な負 荷 を与 えないこの方 法 は、ヒトにおける精 神 的 スト レスのモデルとして極 めて有 望 である。今 後 の研 究 の発 展 が期 待 される。

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2.本 研 究 の目 的 と構 成

本 章 では、遺 伝 子 改 変 動 物(マウス)におけるストレス研 究 について、主 とし てストレス性 行 動 変 化 (異 常 )の観 点 から論 じてきた。遺 伝 子 改 変 動 物 を用 い た研 究 が、医 学 ・生 物 学 領 域 にとどまらず、創 薬 や行 動 科 学 においても主 要 な 方 法 論 となりつつある現 在 、遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いたストレス性 精 神 疾 患 の 研 究 においても、それは例 外 ではない。

遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いたストレス研 究 はこれまで、従 来 からストレス反 応 と の関 係 が示 唆 されてきた分 子 の改 変 動 物 が中 心 を占 めてきた 4-6。しかし、全 生 体 規 模 で生 じるストレス反 応 、そしてその結 果 としてのストレス性 精 神 疾 患 に ついて、これらの分 子 だけでその機 序 を説 明 することができないことも自 明 であ る。したがって、ストレス反 応 の調 節 に関 係 する分 子 群 の探 索 が極 めて重 要 で ある。

本 章 で述 べてきたように、現 在 多 様 な分 子 の遺 伝 子 改 変 動 物 が作 成 されて いる。したがって、これらの動 物 のスクリーニングによって、ストレス性 精 神 障 害 研 究 に新 たな視 点 が開 かれるものと考 えられる。すなわち、たとえば、ストレス 性 行 動 異 常 を顕 著 に示 す動 物 は、ストレス脆 弱 性 の分 子 機 構 の解 明 に寄 与 するばかりでなく、ストレス性 障 害 治 療 薬 の評 価 系 として有 効 である。また、スト レス性 行 動 異 常 を示 さない動 物 は、ストレス反 応 抑 制 系 の分 子 機 構 の解 明 に 寄 与 するとともに、ストレス性 障 害 治 療 薬 の開 発 のための実 験 系 として有 効 で ある。このように、遺 伝 子 改 変 動 物 を用 いたストレス研 究 は、ストレス性 精 神 疾 患 の病 態 解 明 と治 療 薬 の開 発 に大 きく貢 献 するものと期 待 される。そこで本 研 究 では、ストレス性 精 神 障 害 の予 防 法 と治 療 法 の開 発 に向 けた基 礎 研 究 のた

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めの新 規 動 物 モデルの構 築 をおこなうことを目 的 とする。

本 研 究 の構 成 は以 下 のとおりである。

これまで述 べてきたように、第 1章 ではストレス性 精 神 障 害 研 究 における遺 伝 子 改 変 マウスの適 用 について概 観 し、本 研 究 の目 的 を明 示 する。第 2章 で は、ストレス性 精 神 障 害 研 究 のための新 たなモデル実 験 動 物 候 補 の選 定 につ いて述 べる。そして第 3章 では、第 2章 でモデル動 物 候 補 として選 定 された遺 伝 子 改 変 マウスに関 する、ストレス性 行 動 異 常 について述 べる。これらをもとに、

第 4章 ではストレス性 精 神 障 害 の治 療 に関 する萌 芽 的 研 究 について述 べる。

そして、最 終 章 5章 では、本 研 究 について総 合 的 な議 論 をおこなうとともに、遺 伝 子 改 変 マウスを用 いたストレス性 精 神 障 害 研 究 の今 後 について展 望 を述 べ ることで、本 研 究 の結 びとする。

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第 2 章   ストレス性 精 神 障 害 研 究 の新 規 モデル動 物 候 補 の選 定

1.ボンベシン(bombesin)とボンベシン様 ペプチド受 容 体 欠 損 マウス

ボンベシン(BN)は当 初 カエル(Bombina bombina)の皮 膚 から精 製 され 48、哺 乳 類 ではボンベシン様 ペプチドとしてガストリン放 出 ペプチド(gastrin-releasing peptide: GRP)およびニューロメジン B(neuromedin-B: NMB)が精 製 されている

49-50。これらは G 蛋 白 質 結 合 型 の受 容 体 を介 して機 能 することが知 られており、

哺 乳 類 ではガストリン放 出 ペプチド受 容 体(GRP-R)、ニューロメジン B 受 容 体 (NMB-R)および内 在 性 のリガンドは不 明 であるがこれらの受 容 体 と相 同 性 の 高 いボンベシン受 容 体 サブタイプ 3(BRS-3)がクローニングされている 51-52。ボ ンベシン様 神 経 ペプチドおよびその受 容 体 は脳 内 の広 い範 囲 に分 布 しており、

行 動 薬 理 学 的 な解 析 から、自 発 活 動 ・摂 食 行 動 さらには学 習 や記 憶 といった 高 次 脳 機 能 に至 る多 様 な行 動 調 節 機 能 をもつことが知 られている 53-55。われ われの研 究 室 では、内 在 性 のボンベシン様 神 経 ペプチドの機 能 を解 析 するた めに、ボンベシン様 神 経 ペプチド受 容 体 を遺 伝 子 工 学 的 に欠 損 させたノックア ウト・マウス(knock-out mouse)を作 製 し、ボンベシン様 神 経 ペプチドの行 動 調 節 機 能 について明 らかにしてきた(表 2-1)。これらの行 動 変 化 から、ボンベシン 様 神 経 ペプチドは、情 動 機 能 の調 節 に深 く関 与 していることが推 察 される。情 動 機 能 とストレス反 応 は密 接 に関 係 しているので(第 1 章 参 照 )、ボンベシン様 ペプチド受 容 体 欠 損 マウスはストレス性 精 神 障 害 のモデルとして利 用 可 能 であ ると考 えられる。そこで、3 系 統 のボンベシン様 ペプチド受 容 体 欠 損 マウスの情

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動 機 能 に つ い て 不 安 反 応 性 に 焦 点 を あ て て 、 明 暗 箱 テ ス ト (light-dark box test)と高 架 式 十 字 迷 路 テスト(elevated plus maze test)を用 いて検 討 した。

2.方 法    

1)飼 育 および実 験 条 件

飼 育 および実 験 は空 調 ・温 調 完 備 の部 屋 で行 った(23 ± 2℃, 60 ± 5%)。 明 暗 周 期 は 12 時 間 で(午 前 8 時 点 灯)、実 験 はすべて明 期(13:00〜17:00)に 行 った。摂 食 (JCL Inc., CE-2,342.2kcal/100g)・飲 水 はテスト時 を除 いて自 由 とした。この飼 育 および実 験 条 件 は本 研 究 におけるすべての実 験 で共 通 であ る。

2)倫 理 規 定 の遵 守

本 研 究 における全 ての動 物 実 験 は、国 立 精 神 ・神 経 センター神 経 研 究 所 に おける動 物 実 験 倫 理 規 定 を遵 守 し、当 施 設 の実 験 動 物 委 員 会 の承 認 を受 け て実 施 された。

3)被 験 体

被 験 体 は実 験 開 始 の 1 ヶ月 以 上 前 から、個 別 飼 育 条 件 で飼 育 した(世 代 ・ 匹 数 ・体 重 は表 2-2 に示 す)。

4)装 置

①明 暗 箱

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室 町 機 械 (東 京 )製 のものを用 いた(図 2-1(A))。白 色 アクリル製 の明 室(9

×9.5×14(H) cm)と黒 色 アクリル製 の暗 室(14×10.5×14(H) cm)からなり、5

×5cm の開 閉 式 ギロチンドアで仕 切 られている。蓋 はそれぞれの箱 と同 色 であ る。床 はステンレス製 のグリッド(直 径 5 mm、グリッド間 の間 隔 は10 mm)ででき ている。

②高 架 式 十 字 迷 路

室 町 機 械 (東 京 )製 のものを用 いた(図 2-1(B))。ブラウンスモークのアクリ ル製 (厚 さ5mm)で、閉 鎖 腕(closed arm:6×30cm、側 壁 の高 さ 15cm)と、開 放 腕(open arm:6×30 cm、側 壁 の高 さ 15cm)および、プラットホーム(plat form:9

×9 cm、走 路 面 の高 さ(床 から)40 cm)で構 成 されている。

5)手 続 き

①明 暗 箱 テスト(Light-Dark Box Test)

マウスを明 暗 箱 の暗 室 に入 れ、ギロチンドアを開 けた時 点 から 5 分 間 、マウ スの行 動 を観 察 ・記 録 した。観 察 の指 標 は、明 室 に移 動 するまでの潜 時(L-D latency)、危 険 評 価 行 動(stretched attend posture)の回 数 、暗 室 と明 室 の移 動 回 数 および明 室 での滞 在 時 間 とした。

②高 架 式 十 字 迷 路 テスト(Elevated Plus Maze Test)

マウスを装 置 中 央 のプラットホーム上 で、開 放 腕 に向 けて配 置 し、5 分 間 マ ウスの行 動 を観 察 ・記 録 した。観 察 の指 標 はDalivi & Rodgers63に従 った。な お、実 験 は VTR に記 録 し、実 験 終 了 後 、行 動 評 価 のトレーニングを受 けた評

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価 者 によって再 評 価 を行 った。

③危 険 評 価 行 動 (risk assessment behavior) とは

不 安(anxiety)は基 本 的 な情 動 の一 つであり、その異 常 の解 明 と治 療 法 の確 立 は、精 神 医 学 における重 要 なテーマの一 つである。通 常 ネズミを用 いた動 物 実 験 においては、不 安 は、明 暗 箱 (Light-Dark Box)あるいは高 架 式 十 字 迷 路 (elevated plus maze)を用 いて測 定 されている 59-62。これらのテストでは、ネズミ が嫌 う、明 暗 箱 の明 るい部 屋 や高 架 式 十 字 迷 路 の開 放 腕 への進 入 回 数 およ び滞 在 時 間 を不 安 の尺 度 として、明 室 や開 放 腕 への進 入 回 数 が多 いほどある いは滞 在 時 間 が長 いほど不 安 が低 いと考 えられている。しかし、このような従 来 の測 定 法 を不 足 として、より詳 細 な分 析 法 の必 要 性 が提 唱 されている 63。 

危 険 評 価 行 動(risk assessment behavior)は、ネズミが好 む(不 安 を感 じにく い)暗 い部 屋 あるいは閉 鎖 腕 から、これらの場 所 を出 ることなく身 体 を伸 ばして 明 る い 部 屋 あ る い は 開 放 腕 を 覗 く よ う に 探 索 す る 行 動(stretched attend posture)や 、 身 体 を 伸 ば し て 注 意 深 く 這 う よ う に 前 進 す る 行 動(flat back approach behavior)であり、動 物 の不 安 情 動 をより適 切 に測 定 する指 標 と考 え られる64-65。 

3.結 果

1)明 暗 箱 テスト

図 2-2には危 険 評 価 行 動 の結 果 を示 す。GRP-R-欠 損 マウスにおいては、全 ての指 標 において有 意 な差 は認 められなかった。一 方 、BRS-3欠 損 マウスでは、

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危 険 評 価 行 動 が野 生 型 マウスよりも有 意 に亢 進 していた(U=6.5、p<0.01、マ ン・ホイットニーのU検 定 (両 側 検 定 ))。しかし、危 険 評 価 行 動 以 外 の指 標 につ いては、有 意 な差 は認 められなかった。また、NMB-R 欠 損 マウスでは、危 険 評 価 行 動 が野 生 型 マウスよりも有 意 に低 下 していた(U=7、p<0.05、マン・ホイット ニーのU検 定 (両 側 検 定 ))。しかし、危 険 評 価 行 動 以 外 の指 標 については、有 意 な差 は認 められなかった。

2)高 架 式 十 字 迷 路

GRP-R-欠 損 マウスでは、全 ての指 標 において有 意 な差 は認 められなかった

(表 2-3)。一 方 、BRS-3 欠 損 マウスでは、開 放 腕 における滞 在 時 間 が野 生 型 マウスよりも有 意 に長 かった(U=2、p<0.01、マン・ホイットニーの U 検 定 (両 側 検 定 )図 2-3)。また、危 険 評 価 行 動 が野 生 型 マウスよりも有 意 に亢 進 していた (U=10、p<0.01、マン・ホイットニーの U 検 定 (両 側 検 定 )図 2-4)。しかし、危 険 評 価 行 動 以 外 の指 標 については,有 意 な差 は認 められなかった(表 2-3)。これ に対 して、NMB-R 欠 損 マウスでは、危 険 評 価 行 動 が野 生 型 マウスよりも有 意 に低 下 していた(U=13.5、p<0.05、マン・ホイットニーの U 検 定 (両 側 検 定 )図 2-5)。しかし、危 険 評 価 行 動 以 外 の指 標 については、有 意 な差 は認 められなか った(表 2-3)。

4.考 察

本 章 においては、3系 統 のボンベシン様 神 経 ペプチド受 容 体 欠 損 マウスの不 安 反 応 性 について、明 暗 箱 テストおよび高 架 式 十 字 迷 路 テストを用 いて検 討 を

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加 えた。明 暗 箱 テスト・高 架 式 十 字 迷 路 テストの両 テストにおいて、BRS-3 欠 損 マウスの危 険 評 価 行 動 の亢 進 と NMB-R 欠 損 マウスの危 険 評 価 行 動 の低 下 を見 出 した(図 2-2、2-4)。また、高 架 式 十 字 迷 路 テストにおいて、BRS-3欠 損 マ ウスの開 放 腕 滞 在 時 間 に有 意 な伸 張 を見 出 した(図 2-3)。これらの結 果 は、ボ ンベシン様 神 経 ペプチド(およびその受 容 体 )が、動 物 の不 安 反 応 性 の調 節 に 関 与 していること、およびその調 節 機 能 が類 似 の各 ペプチド間 において分 化 し ていることを示 している。

本 章 の実 験 においては、GRP-R 欠 損 マウスの不 安 反 応 性 に変 化 が認 めら れなかった。この結 果 は、GRP-R 欠 損 マウスについて報 告 されている、不 安 反 応 性 の低 下 を示 唆 する社 会 行 動 の変 化 34,56 と、一 見 矛 盾 するものである。し かし、動 物 の不 安 は明 瞭 な対 象 の有 無 によって区 別 すべきであるという報 告 が なされている 66。GRP-R 欠 損 マウスの結 果 は、GRP-R 欠 損 マウスにおける不 安 反 応 性 の変 化 が、社 会 的 環 境 における変 化 であることを示 していると同 時 に、

社 会 的 環 境 と非 社 会 的 環 境 における不 安 が質 的 に異 なるものであることを示 す新 たな証 拠 であると考 えられる。

これに対 して、BRS-3 欠 損 マウスと NMB-R 欠 損 マウスにおいては、危 険 評 価 行 動 に変 化 が認 められた。BRS-3 欠 損 マウスでは危 険 評 価 行 動 が野 生 型 マウスと比 較 して有 意 に亢 進 しており、同 時 に不 安 反 応 性 の低 下 を示 唆 する 高 架 式 十 字 迷 路 テストにおける開 放 腕 滞 在 時 間 も有 意 に伸 張 していた。危 険 評 価 行 動 の増 加 は不 安 反 応 性 の変 化 を示 すものであり、同 時 に開 放 腕 滞 在 時 間 も伸 張 しているので、BRS-3 欠 損 マウスでは、不 安 反 応 性 が低 下 している 可 能 性 がある。しかし、明 暗 箱 テストにおいては、不 安 反 応 性 の低 下 を示 す明 室 滞 在 時 間 に伸 張 が見 られないことから、装 置 およびテスト方 法 の違 いに依 拠

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したものである可 能 性 も否 定 できない。従 って、現 時 点 では結 論 を出 すことが が困 難 であり、この点 に関 して、更 なる詳 細 な検 討 が必 要 である。

一 方 、NMB-R 欠 損 マウスにおいては、BRS-3欠 損 マウスとは反 対 に危 険 評 価 行 動 の低 下 が認 められた。NMB-R 欠 損 マウスにおいては、防 御 的 覆 い隠 し 行 動 の減 少 が見 出 されており 82、このマウスにおいてある種 の不 安 反 応 性 に 変 化 が生 じていることは容 易 に推 測 できる。NMB-R 欠 損 マウスが社 会 的 環 境 において行 動 変 化 を示 さないことから 67、NMB-R 欠 損 マウスにおける不 安 反 応 性 の変 化 は、先 に述 べた GRP-R 欠 損 マウスとは対 照 的 に、非 社 会 的 環 境 下 における不 安 反 応 性 の変 化 と考 えることができるであろう。

防 御 行 動 の低 下 や危 険 評 価 行 動 の低 下 は、NMB-R 欠 損 マウスがある種 の 危 険 事 態 に対 す る 適 応 性 の 変 化 を 生 じている ことを示 唆 している 。 従 っ て NMB-R 欠 損 マウスでは、ストレス事 態 に対 する適 応 性 にも変 化 を生 じている 可 能 性 がある。そこで、本 研 究 では、NMB-R 欠 損 マウスをモデル実 験 動 物 候 補 として、ストレス性 行 動 異 常 について検 討 することとした。

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第 3 章   ニューロメジン B受 容 体 欠 損 マウスにおけるストレス性 行 動 異 常

1.ニューロメジン B とニューロメジン B 受 容 体

ニューロメジン B(NMB)は、豚 の消 化 管 から単 離 ・精 製 されたボンベシン様 ペプチドの一 種 であり50、広 く中 枢 神 経 系 に作 用 している(表3-1)78。NMBはG 蛋 白 質 共 役 型 のNMB受 容 体(NMB-R)と結 合 して機 能 する79。精 神 薬 理 学 お よび遺 伝 子 改 変 マウスの研 究 から、NMB は体 温 調 節 、自 発 運 動 量 、摂 食 行 動 などのさまざまな生 理 学 的 ・行 動 学 的 機 能 に貢 献 していることが明 らかにさ れてきた 67,69,70,72,73,77,80。加 えて、NMB-R 欠 損 マウスは、情 緒 的 ・不 安 行 動 の 変 容 、そしてセロトニン(5-HT)系 の神 経 機 能 の変 容 を示 すことが明 らかになっ てきた81,82

 

2.ストレス刺 激 が母 性 行 動(maternal behavior)に及 ぼす効 果 について

1)目 的

NMBを含 むボンベシン様 ペプチドがストレス反 応 を媒 介 している可 能 性 が報 告 されている 71,74。また、NMB-R 欠 損 マウスでは、出 産 後 2 ないしは3 日 で死 亡 する仔 マウウスの数 が野 生 型 マウスよりも多 いことが、繁 殖 ・飼 育 において 日 常 的 にしばしば観 察 される。このことから、ストレス刺 激 が NMB-R 欠 損 マウ スの母 性 行 動 に及 ぼす影 響 について検 討 した。

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2)方 法

①  被 験 体

NMB-R遺 伝 子 は常 染 色 体 上 の遺 伝 子 なので、オスとメスの NMB-R へテロ 接 合 体(+/-: C57BL/6J 系 統 のマウスに 14 回 戻 し交 配 を行 ったもの)の掛 けあ わせによって作 製 した。母 性 行 動 の経 験 は、仔 マウスに対 する行 動 に決 定 的 な要 因 となるため、母 性 行 動 の経 験 の影 響 を排 除 するために、被 験 体 は性 行 動 未 経 験 で、仔 マウスと接 触 を持 ったことのないメスのマウスとした。被 験 体 の 週 齢 および平 均 体 重 は、非 ストレス野 生 型 マウス(12 週 齢 、20.6+0.30g、n=18)、

ス ト レ ス 野 生 型 マ ウ ス(12 週 齢 、22.0+ 0.34g、n=16)、非 ス ト レ ス NMB-R 欠 損 マ ウ ス(12 週 齢 、21.1+0.28g、n=15)、ス ト レ ス NMB-R 欠 損 マ ウ ス(12 週 齢 、20.8+ 0.38g、n=15)で あ っ た 。仔 マウスは JCLより購 入 した C57BL/6 マウスのオスとメスの交 配 から生 まれた仔 マウスを使 用 した。10 日 間 の交 配 期 間 の後 、雌 マウスの妊 娠 ・出 産 の確 認 を毎 日 11 時 に行 った。出 産 が確 認 され た日 を第 1 日 目 とした。出 生 後 1 日 か 2 日 経 過 した同 腹 の 3 匹 の仔 マウスを 一 組 とし、各 実 験 に使 用 した。

NMB-R 欠 損 マ ウ ス お よ び そ の 野 生 型 マ ウ ス は 、 プ ラ ス チ ッ ク 飼 育 ケ ー ジ (JCL Inc., CL-0103-1pc, 190x~260x~125(H)mm)で、仔 マウスのにおいや声 の 影 響 を受 けないように別 の飼 育 棚 で個 飼 いされた。10 日 間 の交 配 期 間 の後 、 雌 のC57BL/6J マウスも同 様 に異 なる飼 育 棚 で個 飼 いされた。

②  手 続 き

すべての行 動 実 験 は被 験 体 マウスのホームケージで行 われた。第1日 目 、2

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cm の床 敷 きをホームケージに敷 き、仔 マウスがいない時 のネスティング行 動 を 観 察 した。第2日 目 、3ポイント式 の評 価 システムを用 いて、各 マウスのネスティ ング行 動 の評 価 を行 った。床 敷 きを2cm 以 上 積 み上 げたものを、「完 全 なネス ティング(2ポイント)」、床 式 を1cmから2cm 積 み上 げたものを「不 完 全 なネステ ィング(1 ポイント)」、積 み上 げた床 敷 きの高 さが1cm 未 満 のものを「ネスティン グなし(0 ポイント)」として評 価 をおこなった。この観 察 の後 、各 ネストを壊 し、床 敷 きを平 らにした。

  ネスティング行 動 の評 価 に続 いて、ストレス負 荷 を行 うNMB-R欠 損 マウスと 野 生 型 マウスを、母 性 行 動 を観 察 する直 前 30 分 間 拘 束 ケージに入 れ、ストレ スを与 えた。拘 束 ケージは金 属 製 のワイヤーでできており、マウスはこの拘 束 ケージの中 ではわずかにしか動 くことしかできない(図 3-1)。ストレス負 荷 を行 わない統 制 群 のマウスは、いったんホームケージから出 してまた再 びホームケ ージに戻 し、30 分 間 ホームケージ内 に放 置 した。実 験 が行 われるケージの3隅 に、仔 マウスをそれぞれ置 き、ストレス群 は 30 分 間 の拘 束 ストレス後 、また統 制 群 は 30 分 間 のホームケージ内 放 置 後 、被 験 体 マウスを実 験 が行 われるケ ージの残 りの1隅 においた。35 分 間 の実 験 時 間 のうち、下 記 の母 性 行 動 指 標 について初 めの5 分 間 と終 わりの 5 分 間 観 察 した(図 3-2)。

母 性 行 動 の指 標 は、仔 マウスの身 体 をなめるリッキング(licking)行 動 、仔 マウスを口 でくわえて移 動 し巣 まで連 れて行 くリトリーバル(pup-ritrieval)行 動 、 仔 マウスを巣 まで連 れて行 き巣 の中 に集 めるグルーピング(grouping)行 動 、 床 敷 きをホームケージのある一 隅 に集 め仔 マウスのために巣 を作 る行 動 をネ スティング(nesting)行 動 、仔 マウスの上 に少 なくとも1回 覆 いかぶさり、この状 態 を保 つクラウチング(crouching)行 動 とし68,75,83、2人 の実 験 者 が実 験 を観 察

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し、マウスの行 動 を評 価 ・得 点 化 した。もし2人 の評 価 者 の評 価 得 点 が異 なっ た場 合 は、低 いほうの評 価 得 点 を採 用 した。なお、実 験 後 仔 マウスは親 マウス のホームケージに戻 し、ホームケージ内 で母 親 の保 護 が受 けられるか確 認 した。

  母 性 行 動 の出 現 率 に関 する統 計 的 分 析 は、イェーツの補 正 をおこなったχ 検 定(両 側)あるいは直 接 確 率 法 を利 用 した(統 計 処 理 は統 計 処 理 ソフトウエア、

エクセル統 計(エスミ)によって自 動 的 に選 択 された)。また、母 性 行 動 の達 成 度 の評 価 には3ポイント制 を採 用 し (0:全 くなし、1:部 分 的 、2:完 全)、リッキング を除 くすべての得 点 を加 算 して母 性 行 動 得 点 とした。統 計 的 分 析 にはマン・ホ イットニーのU検 定 (両 側 検 定 )を利 用 した。

3)結 果

結 果 は表 3-2 に示 してある。仔 マウスが不 在 の場 合 のネスティング行 動 は、

NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウスの間 で差 は認 められなかった(データは提 示 していない)。仔 マウスが存 在 する場 合 、最 初 の 5 分 間 の観 察 では、ストレス はNMB-R欠 損 マウスにも野 生 型 マウスにも影 響 を与 え、両 者 とも母 性 行 動 が ほとんどあるいは全 く観 察 されなかった。統 計 学 的 には、特 に、NMB-R 欠 損 マ ウスでは、すべての項 目 でストレスの影 響 が観 察 され、野 生 型 マウスではリトリ ーバル行 動 とグルーピング行 動 でストレスの影 響 が観 察 されたが、NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウスの間 には統 計 学 的 差 は見 られなかった。しかし、最 後 の 5 分 間 の観 察 時 では、ストレスを受 けた野 生 型 マウスの母 性 行 動 はストレス を受 けなかった統 制 群 のマウスのレベルに回 復 していたが、NMB-R 欠 損 マウ スはストレスを受 けなかった統 制 群 のマウスと比 較 してすべての項 目 において

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母 性 行 動 の生 起 頻 度 が減 少 していた。また、ストレスを受 けた NMB-R 欠 損 マ ウスは、ストレスを受 けなかったNMB-R 欠 損 マウスよりも、グルーピング行 動 、 クラウチング行 動 およびネスティング行 動 において統 計 学 的 に有 意 に生 起 頻 度 が低 かった。これらの結 果 は、拘 束 ストレスが母 性 行 動 を構 成 する各 行 動 要 素 に影 響 を与 え、また NMB-R マウスは野 生 型 マウスよりも、そのストレスの影 響 を受 けやすいことが示 された。

図3-3は母 性 行 動 の達 成 度 得 点 を示 している。NMB-R欠 損 マウス、野 生 型 マウス両 者 において、ストレス群 と非 ストレス群 との間 で有 意 な差 が認 められた

( 野 生 型 マ ウ ス :U=44、p<0.0002、NMB-R 欠 損 マ ウ ス :U=15、p<0.0001、 NMB-R欠 損 マウスおよび野 生 型 マウス・ストレス群 :U=90, p<0.03)。最 初 の5 分 間 の観 察 において母 性 行 動 の達 成 度 が低 いことは、被 験 体 が出 産 未 経 験 マウスのためであると考 えられる。一 方 、最 終 5 分 間 の観 察 時 には、ストレスを 受 けていないNMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウスは比 較 的 高 い得 点 を示 し、ま た 、 野 生 型 ス ト レ ス 群 も 比 較 的 高 い 得 点 を 示 し て い る が 、 ス ト レ ス を 受 け た NMB-R 欠 損 マ ウ ス は 依 然 と し て 低 い 得 点 を 示 し て い た 。 こ れ ら の 結 果 は 、 NMB-R 欠 損 マウスが、野 生 型 マウスには影 響 を与 えにくい弱 いストレスにも影 響 を受 けやすいこと、さらに野 生 型 マウスよりもストレスの影 響 が長 く続 くという ことを示 唆 している。

4)考 察

本 実 験 においては、拘 束 ストレスが、マウスの母 性 行 動 を阻 害 するということ、

NMB-R 欠 損 マウスは野 生 型 マウスよりも強 く拘 束 ストレスの影 響 を受 けるとい

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うことが示 された。NMB-R 欠 損 マウスは、前 述 のとおり、ある種 の情 動 的 異 常 性 を示 すことが示 唆 されてきたが 81,82、ストレスを受 けていない NMB-R 欠 損 マ ウスが正 常 な母 性 行 動 を示 したという事 実 は、NMB-R 欠 損 マウスの母 性 行 動 異 常 は、情 動 的 異 常 性 によって二 次 的 にもたらされるのではないと考 えられる。

本 節 に示 した実 験 の結 果 と最 近 の報 告 によると、NMB および NMB-R システ ムはストレス脆 弱 性 を担 っていると考 えられる。従 って、NMB-R欠 損 マウスは、

ストレス性 行 動 異 常 の研 究 、ひいてはストレス性 精 神 疾 患 の治 療 薬 の開 発 に 有 用 だと考 えられる。

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3.ストレス刺 激 が学 習 ・記 憶 に及 ぼす効 果 について

1)目 的

前 節 では、軽 度 のストレス刺 激 が NMB-R 欠 損 マウスの母 性 行 動 の生 起 と その質 に重 大 な影 響 を及 ぼすことを明 らかにした。行 動 は大 別 して、定 型 的 な 反 応 パタンをとる生 得 的 /本 能 的 母 行 動 と、状 況 に柔 軟 に対 応 したパタンを 示 す習 得 的/学 習 性 行 動 に分 けることができる。母 性 行 動 は、プロラクチンやオ キシトシンといったホルモンによって規 定 される 83、いわば生 得 的 /本 能 的 行 動 であるといえる。そこで、ストレス負 荷 は、NMB-R欠 損 マウスにおける習 得 的

/学 習 性 行 動 にいかなる影 響 を与 えるのかについて検 討 を行 った。本 節 では、

一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 テストを、ストレス負 荷 が NMB-R 欠 損 マウスの学 習 ・ 記 憶 に及 ぼす影 響 について検 討 することを目 的 とし、自 発 活 動 性 ・不 安 反 応 性 および痛 覚 感 受 性 など、学 習 ・記 憶 に影 響 を及 ぼしうる他 の行 動 に対 する、

拘 束 ストレス負 荷 の影 響 についても合 わせて確 認 した。

2)方 法

①被 験 体

88匹 の雌 のNMB-R欠 損 マウスと85匹 の野 生 型 マウスを被 験 体 として使 用 し た(12週 から14週 齢 、平 均 体 重 、NMB-R欠 損 マウス 21.3 ± 0.20 g、野 生 型 マ ウス 21.8 ± 0.16 g)。NMB-R欠 損 マウスと野 生 型 マウスは、前 節 と同 じ方 法 で 作 製 した(マウスの各 群 とサンプル数 は表3-3を参 照 )。

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②手 続 き

a. 拘 束 ストレスと血 糖 値 測 定

ストレス負 荷 は前 節 と同 様 の方 法 で行 った。拘 束 ストレス負 荷 後 15 から 30 秒 の間 に、ガラス製 の血 液 収 集 管 (Terumo、Japan、VC-H075H)によって尾 の 静 脈 か ら 血 液 を 採 血 し 、 採 血 後 す ぐ に 、i-STAT カ ー ト リ ッ ジ(EC6+、i-STAT Corporation、USA)を使 用 して血 糖 値 を測 定 した。

b. 一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 試 験 (One-trial Passive Avoidance Test)

一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 試 験 91には、明 暗 箱(L-D box)を使 用 した。明 室 は、

透 明 の蓋 の明 るい白 いプラスティック製 の箱 である(9 x 9.5 x 14 (H) cm)。一 方 、 暗 室 は黒 のプラスティック製 で(14 x 10.5 x 14 (H) cm)、蓋 も黒 のプラスティック 製 である。5x5cm のスライディングドアが暗 室 と明 室 を区 切 っている。暗 室 と明 室 の床 は、ステンレス製 のグリッド(直 径 5mm、間 隔 10mm)でできており、電 気 シ ョ ッ ク(0.3mA、3 秒)を シ ョ ッ ク ジ ェ ネ レ ー タ(Muromachi-Kikai、Japan、 SGS-002)を使 用 してかけることができる(図 2-1 参 照 )。

馴 化 試 行 では、マウスをまず明 暗 箱 の明 室 に入 れた。明 室 と暗 室 の間 のス ライドドアは開 放 されており、マウスは5 分 間 の探 索 行 動 が許 された。明 室 にマ ウスを入 れてから、最 初 にマウスが暗 室 に移 動 するまでの時 間 を測 定 し、その 時 間 が 60 秒 を超 える場 合 は、実 験 データから、そのマウスのデータを除 外 した。

これは実 験 の基 準 データの偏 差 を少 なくするためである。ニューロメジンB受 容 体 欠 損 マウスをそれぞれ、2群 に分 けた(表 3-3 を参 照 )。群 分 けは、馴 化 試 行 における明 暗 移 動 潜 時 (L-D 潜 時 )をもとに行 った。馴 化 試 行 の翌 日 、条 件 付 けを行 った。条 件 付 け試 行 は、馴 化 試 行 と同 じ手 順 で行 われたが、暗 室 にマウ

(34)

スが入 るとすぐに、電 気 ショックが与 えられた。条 件 付 け試 行 の際 も、暗 室 に入 るまでの潜 時 を測 定 し、60 秒 以 内 に暗 室 に入 室 しないマウスは、実 験 から排 除 した。24 時 間 後 にテスト試 行 を行 い、明 室 から暗 室 に入 室 するまでの潜 時 を 測 定 した。各 試 行 は、300秒 を限 度 とし、300秒 以 内 に暗 室 に入 室 しなかったマ ウスは、その明 暗 潜 時 を300秒 とみなした。各 試 行 の後 、明 暗 箱 を70%のアル コールで清 払 した。

c. 自 発 活 動 性 テスト

ストレス群 と非 ストレス群 両 群 のマウスの自 発 活 動 を自 発 活 動 性 測 定 装 置

(activity monitor)によって30分 間 測 定 した 36。測 定 後 毎 回 、実 験 箱 を70%ア ルコールで清 掃 し、各 被 験 体 マウスの臭 いや糞 尿 を取 り除 いた。測 定 値 はコン ピューターに自 動 的 に記 録 され、解 析 された。実 験 中 の照 明 は、コンピューター ディスプレイのみとした。

d. 高 架 式 十 字 迷 路

第 2章 と同 様 の方 法 で行 った。

e. ショック反 応 性 テスト

電 気 ショックに対 する、刺 激 閾 値 試 験 を行 った 85。痛 み反 応 はフリンチ-ジャ ンプ試 験 (flinch-jump  test)を改 良 した方 法 によって測 定 した。床(20x20cm)は、

平 行 に並 んだステンレス製 の棒(10mm間 隔 の直 径5mm)でできたショックグリッ ドで、マウスを 1 匹 ずつその上 に置 き、1 リットルのガラスビーカーをかぶせた。

そして、6 段 階 のショックを 1 シリーズとし、6 シリーズのショックを与 えた(1 シリ

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ーズは、20、40、60、80、100、130μA)。各 ショックは、15 秒 間 隔 でグリッド面 か ら与 えられた。一 連 のショックは上 昇 系 列 、および下 降 系 列 で与 えられた。実 験 はすべての被 験 体 について、上 昇 系 列 から始 めた。ショック閾 値 はマウスが 床 面 から足 を離 した最 低 値 とした。各 マウスの域 値 は、6 系 列 のショック閾 値 の 平 均 値 とした。

3)結 果

①血 糖 値 測 定

血 糖 値 は、ストレスがかかると上 昇 するため、ストレスの指 標 とすることがで きる 93。そこで NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 と野 生 型 マウス・ストレス群 、 NMB-R欠 損 マウス・非 ストレス群 、野 生 型 マウス・非 ストレス群 、それぞれの血 糖 値 を測 定 した(図 3-4)。二 元 配 置 の分 散 分 析 によると、遺 伝 子 型 の主 効 果 が有 意 であり(F(1、28)=11.8、p<0.002)、またストレス負 荷 の主 効 果 も有 意 であ った(F81、28)=175.2、p<0.0001)。しかし、遺 伝 子 型 とストレスの有 無 の相 互 作 用 には有 意 差 はみられなかった(F(1、28)=0.25)。下 位 分 析 によると、NMB-R 欠 損 マウス・非 ストレス群 の血 糖 値 は、野 生 型 マウス・非 ストレス群 の血 糖 値 よ りも有 意 に低 かった(t=3.23、p<0.01)。拘 束 ストレスによってNMB-R欠 損 マウ ス も 野 生 型 マ ウ ス も 血 糖 値 が 上 昇 し た(野 生 型 マ ウ ス :t=8.05、 p<0.001、 NMB-R 欠 損 マウス:t=12.2、 p<0.001)。さらに、NMB-R 欠 損 マウス・ストレス 群 は、野 生 型 マウス・ストレス群 よりも血 糖 値 の上 昇 が有 意 に低 かった(t=2.20、 p<0.05)。

(36)

②一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 テスト

一 試 行 受 動 的 回 避 テストの結 果 は図 3-5 に示 してある。二 元 配 置 の分 散 分 析 の結 果 、条 件 付 けの主 効 果(F(1、56)=81.5、p<0.000001)、グループの主 効 果(F(3、56)=8.61、p<0.00001)お よ び 条 件 付 け と グ ル ー プ の 交 互 作 用(F(3、 56)=7.78、p<0.0002)が有 意 であった。一 元 配 置 の分 散 分 析 を行 ったところ、条 件 付 け試 行 においては有 意 な差 は認 められなかった(F(3、31)=1.02、n.s.)。一 方 、テスト試 行 においてはグループ間 に有 意 差 が認 められた(F(3、31)=8.25、 p<0.0005)。下 位 分 析 では、非 ストレス群 では、NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マ ウスの明 暗 移 動 潜 時 (step-through latency)の間 に統 計 的 有 意 差 は認 められ なかった(T=1.10、n.s.)が、NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 は、野 生 型 マウス・

ス ト レ ス 群 よ り も 明 暗 移 動 潜 時 が 有 意 に 短 か く (T=5.82、p<0.01) 、 ま た 、 NMB-R 欠 損 マウス・非 ストレス群 よりも、短 かった(T=6.14、p<0.01)。NMB-R 欠 損 マウス・非 ストレス群 、野 生 型 マウス・非 ストレス群 、野 生 型 マウス・ストレ ス群 においてテスト試 行 の明 暗 移 動 潜 時 は条 件 付 け試 行 よりも有 意 に長 かっ た(t=6.58、p<0.0005、t=4.37、p<0.005、t=5.29、 p<0.002、respectively)が 、 NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 では、両 試 行 において統 計 的 有 意 差 は見 られ なかった(t=2.26、n.s.)。

③自 発 活 動 性 テスト

水 平 運 動 量 の測 定 値 は図 3-6 に示 してある。二 元 配 置 の分 散 分 析 によると、

遺 伝 子 型 の主 効 果(F(1、36)=0.138)、またストレス負 荷 の主 効 果 (F(1、36)=

2.11)、遺 伝 子 型 とストレス負 荷 の交 互 作 用(F(1、36)=0.25)のいずれも有 意 で はなかった。下 位 分 析 においても、NMB-R 欠 損 マウス・非 ストレス群 と野 生 型

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マウス・非 ストレス群 の間(t=1.22)および、NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 と野 生 型 マウス・ストレス群(t=0.70)の間 には統 計 的 な有 意 差 は認 められなかった。

しかし、NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 と野 生 型 マウス・ストレス群 の両 群 は、

それぞれの非 ストレス群 よりも有 意 に自 発 活 動 量 が多 かった(それぞれ t=2.78、

p<0.05、t=2.38、p<0.05)。垂 直 運 動 量(rearing and leaning on the wall)につい ても同 様 の分 析 を行 ったが、各 群 に有 意 な差 は認 められなかった(データは提 示 していない)。

④高 架 式 十 字 迷 路

高 架 式 十 字 迷 路 テストの結 果 は、表 3-4 にまとめてある。二 元 配 置 の分 散 分 析 によると、開 放 腕 への進 入 回 数 、閉 鎖 腕 への進 入 回 数 、開 放 腕 への進 入 率 、開 放 腕 における滞 在 時 間 、閉 鎖 腕 における滞 在 時 間 において差 が見 られ た。各 指 標 について、遺 伝 子 型 の主 効 果 、ストレス負 荷 の主 効 果 および遺 伝 子 型 とストレス負 荷 の交 互 作 用 のいずれも有 意 な差 は見 られなかった。しかし、

環 境 に対 する情 緒 的 反 応 を表 していると考 えられている、各 腕 への進 入 回 数 に つ い て は 、 ス ト レ ス の 主 効 果 は 統 計 的 に 有 意 で あ っ た(F(1、34)=5.30、 p<0.05)。しかしながら、遺 伝 子 型 の主 効 果 および、遺 伝 子 型 とストレスの有 無 の 交 互 作 用 に は 、 統 計 的 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た(そ れ ぞ れ F(1、 34)=3.20、F(1、34)=1.41)。下 位 分 析 によると、各 腕 への進 入 回 数 の合 計 は、

NMB-R 欠 損 マウス・非 ストレス群 よりも野 生 型 マウス・非 ストレス群 のほうが多 く(t=2.36、p<0.05)、NMB-R 欠 損 マウス・ストレス群 の方 が NMB-R 欠 損 マウ ス・非 ストレス群 よりも多 かった(t=2.82、p<0.05)。

(38)

⑤ショック反 応 性 テスト

図 3-7 にショック反 応 性 テストの結 果 が示 してある。二 元 配 置 の分 散 分 析 で は、遺 伝 子 型 の主 効 果 (F(1、34)=1.41)、ストレス負 荷 の主 効 果 (F(1、34)=

0.26)、および遺 伝 子 型 とストレスの負 荷 の交 互 作 用 (F(1、34)=0.26)のいず れも有 意 ではなかった。

4)考 察

前 節 の実 験 と同 様 に本 節 の実 験 では、比 較 的 穏 やかな拘 束 ストレス(マウ スは拘 束 ケージの中 で、わずかではあるが身 体 を動 かすことができた)を使 用 して、雌 のNMB-R欠 損 マウスの行 動 にストレスがどのような影 響 を及 ぼすかを 調 べた。金 属 製 のワイヤー拘 束 ケージの中 に 30 分 間 拘 束 すると、NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウス両 方 の血 糖 値 が上 昇 することがわかった(図 3-4)。一 試 行 受 動 的 回 避 学 習 テストにおいて、拘 束 ストレスを条 件 付 けの前 に行 うと、

NMB-R 欠 損 マウスは著 しく記 憶 が傷 害 されたが、野 生 型 マウスには記 憶 障 害 は起 こらなかった(図 3-5)。この行 動 上 の変 化 は、NMB-R 欠 損 マウスにおいて ストレス刺 激 に対 する行 動 学 的 反 応 性 が変 化 しているということを示 唆 してい る。しかし、拘 束 ストレスは、NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウスの両 方 の水 平 運 動 量 と垂 直 運 動 量 の増 加 をもたらすが、ストレスを負 荷 された NMB-R 欠 損 マウスと野 生 型 マウスの間 に明 確 な違 いは観 察 できなかった(図 3-6)。さらに、

拘 束 ストレスの負 荷 は高 架 式 十 字 迷 路 における不 安 反 応 性 にも影 響 与 えず

(表 3-4)、ショック反 応 性 テストにおける痛 覚 反 応 にも影 響 を与 えなかった(図 3-7)。

参照

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