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岡山大学自然科学研究科 数理物理科学専攻 量子多体物理学研究室

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岡山大学自然科学研究科 数理物理科学専攻 量子多体物理学研究室

51424104

天野雄次郎

2015 年 7 月

(2)

目次

1 序論 1

1.1 一軸異方性超伝導体 . . . 1

1.2 渦糸状態 . . . 2

1.3 中性子小角散乱. . . 4

1.3.1 中性子小角散乱と縦磁場〜従来型〜 . . . 4

1.3.2 中性子小角散乱と横磁場〜非従来型〜 . . . 5

1.4 これまでの理論研究 . . . 6

1.5 研究の目的と意義 . . . 8

1.6 論文の構成 . . . 9

2 定式化 10 2.1 数値計算で用いるフェルミ面 . . . 10

2.2 数値計算で用いる座標系 . . . 11

2.3 実空間における磁束線格子構造 . . . 12

2.4 逆格子格子空間における磁束線格子構造因子のスポット . . . 14

2.5 数値計算の方法・手順 . . . 14

3 一軸異方性超伝導体における横磁場成分を含む磁束線格子構造因子に関するEilenberger 理論とLondon理論 19 3.1 本章の研究の狙い . . . 19

3.2 異方性比と磁束線格子 . . . 20

3.3 Eilenberger理論の結果 . . . 20

3.4 Eilenberger理論とLondon理論の比較 . . . 25

3.5 Eilenberger理論と拡張London理論 . . . 29

3.6 この章のまとめ. . . 34

4 強い一軸異方性の超伝導渦糸状態におけるパウリ常磁性効果:Sr2RuO4を対象として 36 4.1 超伝導体Sr2RuO4について . . . 36

4.2 渦糸の空間構造. . . 38

4.3 磁束線格子構造因子 . . . 40

4.3.1 磁束線格子構造因子の縦成分 . . . 40

4.3.2 磁束線格子構造因子の横成分 . . . 41

4.4 上部臨界磁場Hc2一次転移でのとび. . . 43

4.4.1 磁化曲線 . . . 43

(3)

4.5 磁場分布 . . . 46

4.6 磁気的トルク . . . 48

4.7 相図と本来の異方性についての議論 . . . 50

4.8 まとめと未解決問題 . . . 54

5 全体のまとめ 57 付録A 一軸異方性超伝導体におけるLondonモデル 61 A.1 単位ベクトル . . . 61

A.1.1 結晶軸座標と渦糸系座標 . . . 63

A.2 非局所的な項を含めた電流の方程式 . . . 64

A.2.1 Eilenberger方程式からLondon理論を導出 . . . 64

A.2.2 一般化されたLondon方程式 . . . 64

A.2.3 非局所項の展開 . . . 67

A.2.4 各々の項における因子の評価 . . . 68

A.2.5 座標空間が回転する時のLondon理論におけるQij . . . 69

A.3 London理論での一軸異方性超伝導体における磁場に関する方程式 . . . 70

A.3.1 自由エネルギー . . . 74

A.4 球状のフェルミ面とd波ペアリング . . . 75 付録B 上部臨界磁場のµ依存性に関する解析的表式 77

参考文献 79

(4)

1

序論

1.1 一軸異方性超伝導体

本研究では,一軸異方性超伝導体に注目する.一軸異方性超伝導体とは,図1.1で示すように,超伝導 コヒーレンス長(灰色領域)が,ab面方向とc軸方向で違う事を言う.例えば,磁場をab面内にかけた 場合にできる渦糸芯の縦横比(灰色領域)が,この異方性比に対応する.このコヒーレンス長の比を一軸 異方性超伝導体などの一軸異方性における異方性比として,γ で表す.一軸異方性超伝導体の中でも,研 究対象としたのは,銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7δ,ルテニウム酸化物Sr2RuO4である.これら は,結晶の構造に関して,層状構造を有している事が知られている.その基底面を,YBa2Cu3O7δ で は,CuO面を,Sr2RuO4では,RuO面を,其々,結晶軸座標にてab面とおく.ここで,ab面が電気伝 導面で超伝導結合が強く,反対に,面間で超伝導結合が弱い事が知られている.それに関連して異方性が 発生する.一般に,異方性比が大きくなるのは,面間の距離が大きい,キャリア濃度が低い,等が挙げら れる.

一軸異方性超伝導体の効果として,実空間で,図1.2 に示すように,磁場角度θ(1.4参照)を結晶軸 c軸からab面内に向かってθ傾けた時,所謂,磁束線を傾けた時,磁束線格子の変形が起きる.磁束線 が,常にz方向にくる渦糸座標系において,磁束線に垂直なxy面内の相関長(ξx, ξy)の異方性比から磁 束線格子形状の異方性比はΓVL = ξξy

x と変化する.よって,この異方性比の変化の仕方が重要となる.詳 細は第2章で説明するが,渦糸格子形状の変化の仕方は,縦軸に,この異方性比を,横軸に,磁場角度θ を持ってきた時,第2章における式(2.20)におけるΓVL(θ)を見れば分かるように,θ= 0( ¯B kc)で,最 小値を取り,θ= 90( ¯Bkab)で,最大値を取る事が分かる.この最大値は,結晶軸座標におけるB¯ kab

1.1 磁場B¯kabの時,結晶軸において,ab面内とc軸方向のコヒーレンス長の相違を示す.この 相違が,一軸異方性比を表し,γ= ξξc

ab と与える.

(5)

1.2 磁場B¯kcからB¯kabへ傾ける時(ここでは,上図から下図に向かう時),結晶軸座標ab 内とc軸方向のコヒーレンス長さの異方性比γ = ξξc

ab と磁場角度によって決まる渦糸座標xy面間の コヒーレンス長さの異方性ΓVL= ξξy

x によって,上図から下図に向かって,磁束線格子形状が横に間 延びする.

の時の,c軸とab面内の異方性比となり,xy面間の相関長の異方性比とc-ab面間の相関長の異方性比 が等しくなる(ξy

ξx( ¯B kab) = ξξc

ab( ¯B k ab).この渦糸格子の変形は中性子小角散乱で観測される逆格子 空間のスポット位置の移動として測定できる.

次いで,一軸異方性超伝導体の効果として,印加磁場角度θを,基底面(ab面)または,c軸から傾 けた時,内部磁場に横磁場成分が現れる[1]事が知られている.この横磁場成分を正確に理論計算する事 が本研究の目的の1つである.この横磁場成分の空間構造と大きさは,中性子のスピンが反転する非従 来型中性子小角散乱で観測する事ができ,その実験の観測は,一軸異方的超伝導体YBa2Cu3O7δ [2] Sr2RuO4[3] で行われている.

1.2 渦糸状態

超伝導転移温度Tc以下で,超伝導体試料に印加磁場をかけた時,第II種超伝導体の磁場に対する応答 は,下部臨界磁場Hc1から上部臨界磁場Hc2において(Hc1≤H ≤Hc2),渦糸状態が実現する.マイ スナー相から磁場を上げ下部臨界磁場Hc1を超えると,超伝導体内に1次元の線上の欠陥,渦糸と呼ばれ る内部構造を伴って,量子化された磁束線が妥協的に侵入する事を許す.この時,図1.3 で示すように,

渦糸状態は,良く知られているパラボリック則(近似式)を用いた磁場H-温度T 相図において,IIと書 いてある赤色領域(T ≤Tc, Hc1 ≤H ≤Hc2)における範囲で発生する.本研究では,低温領域を扱っ た.Iと書いてある領域は,マイスナー相を示す.この領域で(T ≤Tc, H ≤Hc1),磁場は,排除される ので渦糸状態は消滅する.勿論,Nの領域は(Tc ≤T, Hc2 ≤H),常伝導相を示すので超伝導自体が消 滅している.

渦糸構造について説明すると,渦の中心の周り半径ξ(超伝導回復長)程度の芯領域で常伝導領域となっ ており,中心から半径λ(磁場侵入長)程度まで,磁場が侵入し渦糸電流が循環している. この関係を,

図1.4に表す.この渦糸構造が多数 集まると,周期的な格子を組む事が,実験で知られており,等方的な 超伝導体であれば,磁束線格子が三角(Abrikosov)格子を組む.例えば,U. Essmann氏とH. Tr¨auble

(6)

1.3 磁場H-温度T 相図を示す.図の赤色領域が,第II種超伝導体における渦糸状態の領域を示 す.Iの領域は,マイスナー相を示す.Nの領域は,常伝導相になる.

1.4 渦糸周りのペアポテンシャル∆(r)と磁場の様子を渦糸中心からの半径r の関数として表す.

コヒーレンス長ξに対する磁場侵入長λの比であるGLパラメーターλξ で表すと,λが大きく,ξ 小さい程,超伝導体の渦芯の外側遠く迄,磁場が侵入する.ペアポテンシャル∆(r)が回復する距離ξ で,超伝導状態が回復する.

(7)

三角格子以外では,中性子小角散乱実験より,超伝導体Sr2RuO4において,四角格子の観測も報告さ れている[5].そこで,T.M.Riseman[5] らは,四角格子の理論的なメカニズムを,「Sr2RuO4の正方 晶における構造の4回対称な軸に沿った印加磁場で,従来型のロンドン理論、或は、GL理論は、等方的 である.それを前提条件とすると,上述の理論から,四角格子(磁束線格子)より三角格子が安定と与え られる.しかし,非局所項をロンドン理論の超伝導電流に考慮した場合,或は,高次におけるグラディエ ントの項をGL理論に考慮した場合,四角格子を考える事が可能となる.長距離における全ての超伝導体 の応答は,ロンドン理論の応答に寄与する事に起因して,温度に関して,温度Tが転移温度Tcになるに つれ,非局所項は、寄与しなくなり、全ての温度で、低磁場の誘起に寄与する事になるので,三角格子を 与える傾向になる事が非局所項を考慮した理論から分かる.」としている.このように,磁束線格子が組 んだ格子の周期性を利用して,中性子小角散乱実験により,渦糸状態が観測される.この渦糸状態で,試 料の基底(結晶ab)面から結晶c軸まで印加磁場角度θを傾けた時の物量量の変化がどのような特性を 示すかを主に研究する.

1.3 中性子小角散乱

前述の渦糸格子状態を調べる方法として,従来型の中性子小角散乱(Small Angle Neutron Scatter- ing:SANS)実験がある.第II種超伝導体の渦糸状態で,磁束線格子構造因子(Flux Line Lattice Form

Factor:FLL FF)は,中性子小角散乱実験によって観測される.磁束線格子構造因子の振る舞いは,超伝

導体のexoticな特性を反映している.磁束線格子構造因子を研究する事の重要性を具体例と共に紹介す

る.磁束線格子構造因子の変形に関する磁場B¯ 依存性は,超伝導の超伝導対称性を反映する[6].その他 の具体例は,縦磁場に関して,横磁場に関して,次の小節1.3.11.3.2と末節で紹介する.

1.3.1 中性子小角散乱と縦磁場〜従来型〜

中性子小角散乱は,渦糸状態における周期的磁場変化を捉える一つの方法である.入射中性子線が周 期的構造を有する磁束線格子面により散乱され,散乱中性子線がコヒーレントになった回折中性子線が,

ディテクターで検出され,波数空間で,散乱スポットとして観測される.従来型散乱は,縦磁場を観測す る事が可能である.入射中性子線波数ベクトルkと散乱中性子線波数ベクトルkの大きさは等しく,そ れに伴った二等辺三角形による頂角が散乱角になる.その幾何学的構造から,回折中性子線における回折 条件として,中性子小角散乱実験によるブラック条件式が与えられる.この時の散乱ベクトルの大きさQ と散乱角θは,良く知られているブラック条件Q= 2ksinθに従う.ここで,kは,入射(散乱)中性子 線波数ベクトルの大きさを示す.また,入射中性子線波数ベクトルkに対する法線ベクトルと,散乱ベク トルQのなす角ϕは,θ=ϕの関係にある.これにより,縦磁場の周期的構造を観測する事が可能であ る.結果,ディテクターから回折格子により散乱強度が得られる.この散乱強度から波数(逆格子)空間 における磁束線格子構造因子の縦成分が算出され,理論から得られる縦成分の内部磁場分布のフーリエ変 換と比較する事ができる.後述の横磁場による非従来型の散乱とは対照的に,従来型の散乱は,縦磁場 の空間変調によりスピンが変わらないNon-Spin-Flip散乱である.磁束線格子構造因子の縦成分Bz(h,k)

は,中性子のスピンが反転しない(Non-Spin-Flip:NSF)従来型中性子小角散乱実験の強度から得られる.

磁束線格子構造因子の温度(T)依存性は,磁場侵入長の温度(T)依存性を反映して[7],超伝導にお けるgap関数で,ノードの存在を評価する事が可能である.具体的には,低磁場で,渦糸芯の寄与が小さ

(8)

造因子の温度依存性から超伝導体のギャップ構造を評価できる.そこから,先行研究[7]において,超伝 導体KFe2As2のギャップ構造は,ノードのある超伝導体,若しくは,異方性の強いフルギャップである と示唆されている.また,磁束線格子構造因子の磁場( ¯B)依存性から,超伝導のPauli効果の寄与を知 る事ができる [8–11] (論文 [10]Fig1参照).磁場依存性で,パウリ常磁性対破壊効果が大きいと磁束 線格子構造因子の縦成分が,高磁場で増大する事が,例えば,パウリ常磁性対破壊効果の強い超伝導体 CeCoIn5にて報告されている [12]

1.3.2 中性子小角散乱と横磁場〜非従来型〜

一軸異方性超伝導体で発生する横磁場を観測する方法として,非従来型の中性子小角散乱実験が行われ ている.この時,印加磁場に対して,中性子のスピンが平行,或は,反平行にスピン偏極した中性子線を 入射する.一軸異方性超伝導体試料に磁場を印加した状態では,それと垂直な方向に横磁場が発生する.

通常の散乱は,縦磁場の空間変調によりスピンが変わらないNon-Spin-Flip散乱が起きるが,横磁場に散 乱される時,中性子のスピンが,アップ(或は,ダウン)からダウン(或は,アップ)に変わるSpin-Flip 散乱が起きる.結果,ディテクターから回折格子により散乱強度が得られる.これより波数(逆格子)空 間における磁束線格子構造因子の横成分が算出できる.これを理論における縦・横成分を含む内部磁場分 布のフーリエ変換と比較して検討する事となる.このSpin-Flip散乱がどのような散乱条件に従うか?概 説する,従来型は,良く知られているブラック条件に従い,縦磁場の周期構造を観測する.対して,非従 来型は,横磁場により中性子のスピンが反転する散乱が起こる時,その反転に伴いゼーマンエネルギー 分のエネルギーが変化する.従って,アップ(或は,ダウン)スピンにおける入射中性子線波数ベクト ルk(or,) とダウン(或は,アップ)スピンにおける散乱中性子線波数ベクトルk(or,) にエネルギー差

±0 (ここで,∆は.散乱前後の中性子のエネルギーのゼーマンエネルギーによる相違,0は,中性子 のエネルギーである.)分の相違ができる.これと散乱ベクトルQによるSpin-Flip 中性子小角散乱実験 の幾何学的構造は,上記の相違により,入射中性子線波数ベクトルk(or,) に対する法線ベクトルと散乱 ベクトルQのなす角ϕに相違が現れ,幾何学的構造による三角形の頂角における散乱角θθ6=ϕの関 係となる.それらを踏まえ,Spin-Flip散乱による中性子小角散乱実験のブラック条件が導出される.こ

のようなSpin-Flipする時の原理と散乱条件により,横磁場の観測をする事が可能となる.

C. Rastovski [3] らによる超伝導体Sr2RuO4について,磁束線格子構造因子の横成分における磁場 角度Ω依存性(ab面内からの傾き±6の範囲)が報告されている(論文[3]Fig.3参照).この実験は,温 度0.5,0.7[T]で行われ,パラメーターとして磁場侵入長γab= 167[nm],コヒーレンス長ξab= 66[nm] 拡張London理論におけるカットオフ関数のパラメーターc= 1/4,超伝導異方性比Γac = 58.5を用い て実験値を拡張London理論によりフィッティングしている.この範囲において,低角(2)で一致し ていて,高角になると理論がピーク位置から実験値ほど急激に下がらず,ずれが大きくなっている.

超伝導体YBa2Cu3O7δ に関して,P. G. Kealey [2] らによる中性子小角散乱実験について紹介す る.逆格子空間で,結晶のc軸からab面に向かって印加磁場方向θを傾けた時(論文[2]Fig.1参照),逆

(9)

なる.印加磁場方向をc軸から60°傾けた時の中性子小角散乱実験による縦磁場についての回折像を見

ると(論文[2],Fig.2(a)参照),磁束線格子の散乱スポット位置を結んだ楕円が歪んでいるのが分かる.こ

の歪みを解析的にフィッティングする事により(論文 [2],Fig.3参照)ab面とc軸間の異方性比は,6 度と見積もられている.本研究では,これらを踏まえて,γ = 4,6,8 の場合を理論評価した.また,実験 と理論によるNSF散乱強度に対するSF散乱強度の比の磁場角度依存性(

0( ¯B kc)≤θ≤90( ¯B kab)) (論文 [2],Fig.5参照) が報告されている.ここで,比は,rSF = b

2 x+b2y

b2z として表す.b2x+b2yは,SF散乱 強度に比例し [13]b2zは,NSF散乱強度に比例する.この時,実験は,散乱強度をロッキングカーブに 渡り積分して足し合わせた検出器における回折スポットを中心とした狭い領域内でのカウント数の和とし て評価している.論文[2]では,理論として異方的なLondon理論を用いて実験結果のフィッティングを 試みている.そこで,異方性比γcaは,様々な他の実験結果も考慮に入れた磁束線格子の歪みから推測し た値(上述)γca= 4,6,8としている.また,γab= 1.19としている.結果,実験における比の値が,理論 における比の値より磁場角度,高角で,大きくなものとなっており,低温で,異方的Londonモデルで,

充分な一致を得る事ができなかったと結論づけている.

超伝導体Sr2RuO4 に関して,C. Rastovski [14] らによる中性子小角散乱実験により観測される渦 糸格子の異方性の印加磁場とその角度Ω依存性から(論文 [14]Fig.4参照),γ = 58.5と見積もられてい る.本研究では,これらを踏まえて,γ = 60の場合を理論評価した.

このように,渦糸状態での中性子小角散乱実験から価値のある情報を引き出す為,超伝導の磁束線格子 構造因子の振る舞いについて,理論的研究を実行することは,有益であり,超伝導状態の特性を調べる重 要な研究手段であると言える.

1.4 これまでの理論研究

一軸異方性超伝導体における横磁場に関する理論研究について紹介する.

先ず,G. L. Dorer[15] らの論文において,傾いた超伝導電流の流れが局所的な横磁場成分を生じさ

せる事が,指摘された.また,S. L. Theimann [1] らの論文において,一軸異方性超伝導体を考慮し

たLondon理論で,横磁場の様子について計算が行われている.それらについて下記にて概説する.

結晶軸に大きな質量を持つ一軸異方的な試料において,渦糸電流は,質量の小さいある特定の面上,(つ まり,渦糸座標からα傾いた面上)に流れる.ここで,一軸異方性は,有効質量により考慮される.物理 的には,渦糸電流のフリーエネルギーの運動に関する部分の値は,渦糸座標のxy面より結晶軸座標ab 面に向かって値が小さくなり安定となる事を意味する.これは,渦糸座標xy面で,渦糸座標xy面に垂 直な成分の超伝導電流が有限値を持つ事と等しい.逆説的に,マクスウェル方程式より磁場の回転が電流 になる事から,渦糸座標z成分とx,y成分の間に,其々,有限値が存在する事になる.これにより,磁場 の横成分が有限値を持ち,横磁場が発生する.尚,磁場角度が,結晶軸を向く時,面内における渦糸電流 は,縦磁場のみに寄与し,横磁場は0になる.ここら辺の詳しい問題は,V. G. Kogan[16] らによっ て議論されている.渦糸電流は,渦糸座標のxy平面をα傾けた面上を流れる.αは,渦糸座標z方向に 対するx方向の超伝導電流の比に対応し,磁場角度θαの関係は,α < θのようになっている [16]

この論文によると(論文[1] Fig.1 参照),結晶軸(a,b,c)を設定し,その結晶軸のb軸周りに,θ回転 した時の座標を,新しく渦糸座標軸(x,y,z)として設定している.この時,常に,渦糸座標z軸と平行に 磁場を印加するようおいてある事に留意する.特に,θ= 0の時,渦糸座標z軸と結晶のc軸が重なり.

θ= 90の時,渦糸座標z軸と結晶のa軸が重なる.勿論,この軸方向に対して平行に磁場を印加するよ

(10)

当たりのLondonのフリーエネルギーを変分する事により,最終的に,この系における内部磁場分布が得 られる.渦糸格子から来る周期性からフーリエ変換が適用できるので,内部磁場分布をフーリエ変換する 事により,逆格子(波数)空間における磁束線格子構造因子が得られる.

ここで,θ= 70の時,London理論により得られた横磁場の流線構造が報告されている.また,この

流線構造は,一軸異方的超伝導体におけるLondon理論から,ベクトルポテンシャルのz成分により表す 事もできる(論文[1] Fig.3 参照).ここで,渦糸中心において,横磁場は,最大値を迎える.

次に,その横磁場のθ依存性([1] Fig.5参照)を見ると,その特徴として,θ= 0( ¯B kc),90( ¯B kab) の時,つまり,磁場が一軸異方性超伝導体に対してその結晶c軸或はab面と平行に印加されている時,

横磁場成分が0になる事が報告されている.ピーク位置は,θ= 45∼θ= 90( ¯B kab) の間に有り,最 大値を迎えた後,θ= 90に向かって減少する.

纏めると,超伝導電流に起因して,内部磁場分布の横成分が有限値を示し,その特徴が報告されてい る.また,それをフーリエ変換した磁束線格子構造因子における横成分の表式が与えられている.これ は,中性子小角散乱実験で直接,観測する事が可能であり,比較する事が可能である.

本研究にて,Eilenberger理論による結果を考察する際,London理論による結果との比較を行う.そ こで,Eilenberger理論とLondon理論の特徴について解説する.London理論は,低磁場・低温でのみ 定量的に正しく,反対に,Eilenberger理論は,全温度・磁場領域で成り立つ.同様に,London理論で は,渦糸コアサイズ,渦糸コアの寄与を定量的に評価できないが,対して,Eilenberger理論は,渦糸コ アサイズ,渦糸コアの寄与を定量的に評価可能である.その理由を説明する.London理論において,超 伝導秩序変数は,

∆(r) =|∆(r)|exp (iϕ(r)) (1.1)

と与えられる.ここで,渦糸芯を無視して,超伝導秩序変数の振幅は,|∆(r)|= ∆0と仮定される.従っ て,渦糸芯でも|∆(r)|は,全て定数の値となり,渦糸芯構造が反映されず無視する形を取る.先行研究

において [1],このLondon理論における一軸異方性超伝導体における横磁場成分についての研究が報告

されている.本研究で扱った一軸異方性超伝導体におけるLondonモデルについての詳しい導出等は,付 録Aに示す.

こういった現状を踏まえた上で,Eilenberger理論による定量的評価の必要性が重要となりそれが本研 究となる. また,London理論における先行研究と超伝導対称性の観点から,Eilenberger理論での計算 の必要性を説明する.本研究の対象物である銅酸化物は,超伝導対称性がdx2y2 波であると報告されて いる.そこで,この超伝導対称性の効果がどのように現象に反映するのか理論的に明らかにする必要があ る.初期のV. G Kogan氏らのLondon理論は,超伝導対称性が考慮されていない.従って,超伝導対 称性は,s波を考慮したものと言える.対して,Eilenberger理論では,定量的に超伝導対称性を考慮可 能である.その結果,超伝導における電子状態は,超伝導対称性を反映する事が分かっている.例えば,

ゼロエネルギー状態密度は,超伝導対称性のノード方向に広がり,本研究で計算した物理量,例えば,超 伝導電流,内部磁場,渦糸格子の形,等の物理量に影響を与える.そこで,本研究では,磁束線格子構造 因子の振舞いにおける超伝導対称性の効果をEilenberber理論で検討し,London理論でも有効質量の温 度依存性を通して,超伝導対称性を考慮できる事を示した.

(11)

Gor’kov方程式がある.それを,準古典近似し,準古典Green関数で記述された方程式が,Eilenberger 方程式となる.準古典近似とは,コヒーレンス長の長さスケールに注目して近似を行うため,原子間隔の 長さスケールの変化について積分を行う事である.実際には,重心座標に対して相対座標の自由度の一部 を消去する.一般的な電子状態の描像は,原子核周りの電子軌道によるものだが,対して,超伝導下で は,電子対を形成する事により,電子対軌道のスケールが,電子軌道のスケールに対して,大きくなった 巨視的効果が現れ,電子状態に,準古典近似を施しても問題が無い.特に,渦糸状態における磁束周りの 電子対軌道による電子状態の空間変化を計算するのに適し,Gor’kov方程式と一緒で,全温度T,全磁場 B領域で,正確に議論できる.このようにして,Eilenberger理論で渦糸状態を計算する事は,有力な研 究手段となる.

1.5 研究の目的と意義

本論文では,第2種超伝導体に磁場をかけた時に生じる渦糸状態の空間構造と物性について,定量的に 正しい理論計算が可能なEilenberger理論による研究を纏めた.超伝導体に侵入した量子磁束による渦糸 とその周りの構造は,超伝導異方性など非従来型超伝導の特性を反映するため,渦糸状態の構造や物性を 研究することにより,それぞれの超伝導体の機構を解明する手がかりを得ることができる.本研究では特 に,結晶のab方向とc方向で超伝導相関長が異なる一軸異方性超伝導体について,磁場方向をab方向 とc方向の間で傾けていく場合の渦糸状態の変化を解明することを目的として研究を進めた.

一軸異方性の起源としては擬二次元フェルミ面を設定し,一軸異方性超伝導体に対する印加磁場の方向 を刻々と変化させ,その時々の方向に注目し,物理量とその磁場方向依存性等を調べることを目的とす る.このため,渦糸状態の超伝導秩序変数と内部磁場分布の空間構造を正確に計算し,中性子小角散乱 などの物理量について実験データとも定量的に比較可能な理論計算を実施した.これにより,実験に対 応した考察を行う事もできる.磁場を傾けた場合においては,内部磁場において印加磁場に垂直方向の 横磁場成分が現れる.この固有な現象を考察し,対象とする超伝導体の特徴を明らかにする事を試みた.

Eilenberger理論による渦糸状態の計算において横磁場成分も考慮に入れて正確な理論評価を行った点が

新たな展開と言える.具体的な適用例としては,第3章,第4章に該当する研究を行った.両者の超伝導 体は,超伝導異方性の大きさは異なるが同様の解析手法を用いることができる.

第3章では,YBa2Cu3O7δ と一致する異方性比で,一軸超伝導体の磁束線格子構造因子の縦・横成分 の印加磁場角度θ依存性を理論的に研究する. s,dx2y2 波間の相違とコヒーレンス長の異方性の影響を 議論する. 渦糸状態での中性子小角散乱実験の解析に役立てる為, Eilenberger理論,London理論,2つの 方法を用いて,計算する. そして,拡張London理論によるcutoff関数を研究する.

第4章では,主に,SANS 実験等と比較する事を目的として,強い一軸異方性を持った超伝導体 Sr2RuO4B¯ k abでの特異な渦糸状態(上部臨界磁場Hc2の一次転移など)を理解するため,準古典

Eilenberger理論を用いて,クリーンリミット,シングルバンド,s波で,パウリ常磁性対破壊効果µ

考慮し,印加磁場角度がB¯ kab近くでの磁束線格子構造因子を主に研究する.絡めて,トルク曲線,磁 化曲線,NMRスペクトル,H-T相図と異方性比を評価する.

(12)

第2章では,この研究で用いた理論についての定式化を説明する.

第3章では,中性子小角散乱実験(Small Angle Neutron Scattering:SANS)の解析に役立てるため, 軸異方的超伝導体の磁束線格子構造因子の印加磁場角度θ依存性について, YBa2Cu3O7δを対象として,

Eilenberger理論の自己無撞着な定量的計算を実行した. 考察として, これまで使われてきたLondon

論の妥当性をチェックする目的も兼ねて, Eilenberger理論の結果とLondon理論を比較する. 更に,上記 2つの理論間における差を改善するため,拡張London理論を提案して,Eilenberger理論の結果を再現す る方法を説明する.

第4章では,Sr2RuO4を対象として,パウリ常磁性効果を含む準古典理論を紹介した後,この系によ る渦糸の空間構造を示し,磁束線格子構造因子,上部臨界磁場Hc2での比熱のとび,磁場分布,磁気トル ク,相図と本来の異方性についての議論,まとめと未解決問題の順序で説明していく.

最後に,第5章では,全体のまとめを行う.

(13)

2

定式化

この章のアウトラインを示す.定式化では,先ず,数値計算で行ったモデルを概説する.具体的には,

フェルミ面,座標系,実空間の磁束線格子構造と逆格子空間における磁束線格子構造因子のスポットの順 に説明する.フェルミ面は,設定した擬二次元円筒型フェルミ面について述べる.座標系では,本研究の 特徴である渦糸を仮定し,印加磁場方向を考慮した系に関して述べる.印加磁場方向を刻々と倒した時,

其々の印加磁場方向において,実空間で,渦糸は,ξcξa の異方性をスケールし直した空間で三角格子 を組むと想定して,その構造,磁束線格子構造における座標系の取り方を示す.前述の実空間とフーリエ 変換則の関係にある逆格子空間について述べる.中性子小角散乱実験で観測される磁束線格子構造因子の 散乱スポットを,座標系で設定した.その座標系の取り方を示す.次に,上記モデルにおける数値計算の 方法・手順について述べる.最初に,用いた物理量のスケーリングを示す.それを使った,Eilenberger 方程式と,セルフコンシステントな条件式として,ペアポテンシャル,電流に関する式を示す.それらの 式から,セルフコンシステントな,準古典グリーン関数,ペアポテンシャル,ベクトルポテンシャルを得 る過程を概説する.最後に,セルフコンシステントな解を用いて導出した,本研究における結果で評価し た物理量を,順に示す.

2.1 数値計算で用いるフェルミ面

数値計算におけるフェルミ面の系として,擬二次元円筒型フェルミ面を採用する.採用理由としては,

本研究で、想定する超伝導体Sr2RuO4やYBa2CuO7δが実験で擬二次元円筒型フェルミ面を有すると 報告されている事に基づく.この時,フェルミ面上でのフェルミ波数は,

kF = (kFx, kFy, kFz)

= (kFcosθ, kFsinθ, kz) (2.1)

と表される.但し,

(ky

kx

)

= tanθ→θ= arctan (ky

kx

)

(2.2)

0≤θ≤2π, −π

2 ≤kz π

2 (2.3)

とする.フェルミ面上でのフェルミ速度は,

(14)

= v¯F cosθ,sinθ,

Γsinkz (2.4)

ここで,v¯F =√

h|vF(kF)|2i で,h· · · ikは,フェルミ面平均を示す.但し,

h· · · ik=

FS

dS(· · ·)n(kF)

= 1 N0

0

π2

π2

dkz

(· · ·)

|vF(kF)| (2.5)

と定義し.また規格化条件は,

FS

dSn(kF) = 1 N0

0

π2

π2

dkz

1

|vF(kF)|

= 1 (2.6)

とする.この時,フェルミ面上での状態密度は,

n(kF) = 1 N0

1

|vF(kF)| (2.7)

と表せ,N0は,常伝導状態で,フェル面上の全状態密度を指す.つまりフェルミ面平均とは,計算したい 物理量(· · ·)にフェルミ面上での状態密度をかけた,被積分関数をフェルミ面積分したものに該当する.

この研究では,結晶軸座標を(a,b,c)とし,θのかわりにφを用いる為,フェルミ面上p= (pa, pb, pc) (pFcosφ, pFsinφ, pc) において,フェルミ速度は,

v= (va, vb, vc)(cosφ,sinφ,v˜zsinpc) (2.8) であると仮定する[17].規格化されたフェルミ速度は,vF =hv2i1/2p で,vˆ =v/vF である.コヒーレン ス長の大きな異方性比を生み出す為,˜vz = 1/Γの場合を考慮する.その時,フェルミ面から,コヒーレ ンス長の異方性比は,

γ ≡ξcb∼ hvc2i1/2p /hvb2i1/2p 1/˜vz (2.9) として見積もる.ここで,h. . .ipは,フェルミ面平均を示す.

2.2 数値計算で用いる座標系

結晶軸は,a, b, cとする.座標変化後の座標をx, y, zとする.この時,印加磁場は,zkB¯cからb 向けて傾けた時の角度をθとする.まとめると,印加磁場角度θは,結晶c軸から結晶ab平面に向かっ て,印加磁場角度θ傾けた場合を考慮した.その時の結晶軸座標を(a, b, c)として記述する.また,渦糸

構造を(x, y, z)として記述する.この3次元座標におけるa軸周りに座標を回転する時の回転行列は,

Rˆx(θ) =

1 0 0 0 cosθ sinθ 0 sinθ cosθ

 (2.10)

(15)

2.1 (a) 実空間での渦糸格子の単位ベクトルは,u1u2.黒丸は,渦糸中心を示す.灰色の領域 は,本研究計算の単位格子.(b)黒丸は,逆格子空間での,磁束線格子構造因子の散乱スポットを表 す.単位ベクトルは,q1,q2

と表される.例として,これを用いた結晶軸座標(a, b, c)を座標変換した渦糸座標r= (x, y, z)を以下に 示す.

r= (x, y, z)

= (a, b, c) ˆRx(θ)

= (a, b, c)

1 0 0 0 cosθ sinθ 0 sinθ cosθ

= (a, bcosθ+csinθ, ccosθ−bsinθ) (2.11) ここで,z軸は,渦糸方向に置く.例として,これを用いたフェルミ速度の座標変換を以下に示す.

v0F =vFRˆx(−θ)

= (vFx, vFy, vFz)

1 0 0 0 cosθ sinθ 0 sinθ cosθ

= (vFx, vFycosθ−vFzsinθ, vFysinθ+vFzcosθ)

=(

vFx0 , vFy0 , v0Fz)

(2.12)

2.3 実空間における磁束線格子構造

実空間で,磁束線格子における単位ベクトルは,図2.1(a)で示している.付録Aで説明するように単 位ベクトルを式で表すと,

u1= ((1−ζ)ax,−ay) =c (

α 2,−

3 2 ,0

)

, u2= (ζax, ay) =c (

α 2,

3 2 ,0

)

(2.13) と表し,図2.1で示すように,座標をcで規格化する.

c2= 2φ0

B¯, α= 3ΓVL(θ) (2.14)

ここで,磁束線の三角格子は,x方向とy方向の超伝導相関長の比により,歪むものと仮定すると,

ΓVL(θ) ξy

ξx hvFy0 ik12

hvFx0 ik12 (2.15)

(16)

k

= vu ut

FSdSn(kz)cos2θ

FSdn(kz)(

sinθcosθ Γ1sinθ)2 (2.16) ここで,分母と分子を別々に計算する.分子は,

FS

dSn(kz)cos2θ=

FS

dSn(kz)1 + cos2θ 2

= 1 2 + 1

N0

FS

dScos2θ

|v|

= 1 2 + 1

N0

0

dθcos2θ

π2

π2

dkz

√ 1

1 +sinΓ22kz

= 1

2 (2.17)

となる.分母は,

FS

dSn(kz) (

sinθcosθ 1

Γsinθsinkz

)2

=

FS

dSn(kz) (

cos2θsin2θ−sin2θ

Γ sinθsinkz+ (sinθ

Γ )2

sin2kz

)

=

0

π2

π2

dkzn(kz) (

cos2θ1sin2θ

2 sin2θ

Γ sinθsinkz+ (sinθ

Γ )2

sinkz

)

= cos2θ

2 +

(sinθ Γ

)2

0

π2

π2

dkzn(kz)1cos2kz

2

= cos2θ

2 +

(sinθ Γ

)2

 1 2

N0

π2

0

dkz

cos2kz

1 +sinΓ22kz



 (2.18)

となる.ここで,Γ21で,

(

1 +sinΓ22kz

)12

1と近似すると,

= cos2θ

2 +

(sinθ Γ

)2{ 1 2

N0

π2

0

dkzcos2kz

}

= cos2θ 2 +1

2 (sinθ

Γ )2

(2.19) となる.計算した分母,分子から,最終的に,

(17)

ΓVL(θ) = hvFy0 ik12 hvFx0 ik12

= [

cos2θ+ (sinθ

Γ

)2]12

(2.20) となる.この結果は,有効質量モデルと等しくなる.

2.4 逆格子格子空間における磁束線格子構造因子のスポット

逆格子空間で,図2.1(b)に示すように,磁束線格子構造因子のスポットにおける波数ベクトルは,

q(h,k)=hq1+kq2 (2.21)

ここで,h, kは,整数である.逆格子空間で,磁束線格子構造因子のスポットにおける単位ベクトルは,

q1= 2π c

(1 α,− 1

3 )

q2= 2π c

(1 α, 1

3 )

(2.22) と表し,座標を

c で規格化する.この導出は,付録Aに示している.従って,実験で観測される(1,1) スポットと,(1,0)スポットは,

q(1,1)= 2π c

(2 α,0

)

q(1,0)= 2π c

(1 α,− 1

3 )

(=q1) (2.23)

と表される.

2.5 数値計算の方法・手順

物理量を,無次元量により,スケールする.其々,

磁場は,

B0= φ0

2πξ20, (2.24)

ここで,φ0は,磁束量量子を表す.

長さは,

ξ0= ~vF

2πkBTc

, (2.25)

ここで,vF =hv2ip12 で規格化したフェルミ速度は,vˆ = vv

F となる.

温度は,Tc

エネルギー,ペアポテンシャル,松原周波数は,πkBTc, ベクトルポテンシャルは,B0ξ0

(18)

を単位として無次元化する.

s波のペアリング関数ϕ(p) = 1で,dx2y2波のペアリング関数ϕ(p) =√

2cos2φとする.

同様に,準古典グリーン関数fn,P,r), fn,P,r), g(ωn,P,r)は,渦糸格子状態で,クリーンリミッ トで,無次元化されたEilenberger方程式

n+iµB(r) + ˆv·[+iA(r)]}f = ∆(r)g,

n+iµB(r)−vˆ·[∇ −iA(r)]}f = ∆(r)g, (2.26) から導出されるRiccati方程式を解く事によって,計算される.ここで,両者共に,クリーンリミットで,

ˆ

v· ∇g = ∆(r)ϕ(p)f ∆(r)ϕ(p)f, (2.27) と

g = (1−f f)1/2, (Re g>0),

の関係式を伴う.ωn は,松原周波数とする [11, 17–20].常磁性パラメータ−µ = µBB0/πkBTc は,

Makiパラメータ−と比例する.この計算方法は,Pesch近似 [21]を用いない方法で,完全に自己無撞着 なgの空間構造を計算する事が特徴である.パウリ常磁性効果は,軌道部分のペアリング関数に,深刻 に,依存しない.ペアリングポテンシャル∆(r)は,ギャップ方程式,

∆(r) = g0N0T

0ωnωcut

D ϕ(p)

(

f+f†∗

)E

p (2.28)

によって計算される.ここで,g0 は,低エネルギーバンド n| ≤ ωc でのペアリング相互作用であ る.N0は,常伝導状態でのフェルミエネルギーでの状態密度(DOS:Density Of State)である.g0は,

(g0N0)1= lnT + 2T∑ωc

ωn>0ωn1として,カットオフエネルギーωcによって定義される.カットオフ

エネルギーωc= 20kBTcを用いて,計算を実行する.aを得る為のカレントの方程式は,

∇ × ∇ ×a(r) =js(r) +∇ ×Mpara(r), (2.29) によって与えられる.ここで遮蔽電流は,

js(r) =2T κ2

0ωn

hvImˆ {g}ip, (2.30)

常磁性モーメントは,Mpara = (0,0, Mpara(r))とする.ここで,

Mpara(r) =M0

[ B(r)

B¯ 2T µB¯

0ωn

hIm{g}ip

]

(2.31) となる.パウリ常磁性対破壊効果を考慮しない時,0となる.また,常伝導状態で,この常磁性モーメン トは,

M0= (µ

κ )2

B¯ (2.32)

(19)

κ=B0/πkBTc

√8πN0 (2.33)

となる.GLパラメーターκは,B¯ kcに関して,コヒーレンス長ξ0 に対する磁場侵入長λ0 の比( λξ0

0 ) である.計算で用いた単位では,ξ0= 1となるので,κ=λ0となる.YBa2Cu3O7δでは,κ= 100を,

Sr2RuO4では,κ= 2.7を用いた.Symmetricゲージで,ベクトルポテンシャルは,

A(r) = 1

2B¯ ×r+a(r) (2.34)

と表され,内部磁場は,

B(r) = ¯B+∇ ×a(r) (2.35)

と表される.ここで,

∇ ×a(r) = (Bx, By, bz), B¯ =(

0,0,B¯)

(2.36) より,

B(r) =∇ ×A= (Bx(r), By(r), Bz(r))

=(

Bx(r), By(r),B¯+bz(r))

(2.37) となる.ここで,B¯は,内部磁場の平均磁束密度である.また,Bx, By, bz の空間平均は,0である.

ここで,自己無撞着な計算方法を採用したので紹介する.適切なパラメーターの基,印加磁場角度に応 じて座標変換を行い,単位格子内の渦糸状態で,T = 0.1Tcで,超伝導対称性を考慮したEilenberger 程式(2.26)(2.27),超伝導ギャップの方程式(2.28),超伝導電流に関する方程式(2.29) (2.30) (2.31) 繰返し計算した.繰り返し方法は,初期値として,ペアリングポテンシャル∆(r) とベクトルポテンシャA(r) を其々,超伝導ギャップの方程式,超伝導電流に関する方程式に代入して,準古典グリーン関 数fn,p,r), fn,pr), g(ωn,p,r) を計算する.これを,Eilenberger方程式に代入して,新たなペ アリングポテンシャルとベクトルポテンシャルを計算する.以下これを繰返し計算すると,フリーエネル ギーを判別条件として計算される新たな物理量が,繰り返されていく過程で収束して解として得られる.

これが,初期値に依存しない自己無撞着な解となり,自己無撞着なペアポテンシャル∆(r),ベクトルポテ ンシャルA(r),準古典グリーン関数fn,p,r), fn,pr), g(ωn,p,r)を得る.また,最初のパラメー ターにもよるが新規の計算時に,この収束解を初期値として採用でき効率的計算が可能である.この時の 数値計算における計算経路を図2.2に示す.尚,これにより,先行研究における実験を再現した系に基づ く,充分に耐える定量的な評価を伴った結果を得る事が可能となる.

次の物理量を計算する.フリーエネルギーは,

F =

unitcell

dr



κ2|B(r)H|2−µ2|(r)|2+|∆(r)|2 (

ln + 2T ∑

0<ωn<ωcut

ωn1 )

−T

|ωn|cut

hI(r,k, ωn)ik



 (2.38) ここで,

I(r,r, ωn) = ∆φf+ ∆φf + (

g ωn

n| ) {1

fn+ iµB+ ˆ(+ iA)]f + 1

fn+ iµB+ ˆ(∇ −iA)]f }

(2.39)

(20)

0

u

1 unit cell

vortex

2.2 円は,渦糸中心を示す.灰色の領域は,数値計算における単位格子.赤線は,計算経路を示す.

単位ベクトルは,u1,u2

自己無撞着な解は,式(2.26),(2.28) を満たす事を用いると参考文献 [17]Eilenberger理論で,最終的 に,フリーエネルギーは,

F =κ2h|B(r)−B|¯ 2ir−µ2h|B(r)|2ir+T

|ωn|cut

Re

g1

g + 1(∆f+ ∆f)

k

r

(2.40) と表されるここで,h. . .irは,空間平均を表す.外部磁場Hは,Doria-Gubernatis-Rainer Scaling [22,23]

から,

H = (

1−µ2 κ2

) {B¯+D [

B(r)−B¯]2E

r/B¯ }

+ T κ2B¯

0<ωn

µBz(r) Im{g}+1 2Re

{(f∆ +f) g g + 1

}

+ωnRe{g1}

k

r

(2.41) と表される.従って,

全磁化は,Mtotal = ¯B−H で表される.

全磁化中の常磁性成分は,Mpara =hMpara(r)ir で表される.

全磁化中の反常磁性成分は,Mdia =Mtotal−Mpara で表される.

ナイトシフトに関する核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルの共鳴線として,

Mparaの空間構造から計算されるMの分布関数は,

P(M) =(M−Mpara(r))ir (2.42) と表される.これはNMR実験で超微細結合が強い時のナイトシフトのスペクトル形状を与える.

一方,超微細結合を無視してよい場合,内部磁場B(r)の空間構造から計算されるBの分布関数は,

P(B) =(B−B(r))ir (2.43)

がNMRスペクトルの形状を与え,磁束線格子状態では, レッドフィールド・パターン を示す.

n→E+ iηで,Eilenberger方程式を解く事により,電子状態を計算した.局所状態密度(LDOS:Local Density Of State)は,

N(r, E) =N(r, E) +N(r, E) (2.44)

(21)

Nσ(r, E) =N0hRe{g (ωn+ iσµB,kr)|nE+iη}ik (2.45) となる.また,スピンのアップ(1),ダウン(-1)成分に関して,σ= 1(1)である.典型的に,η = 0.01 を用いた.

状態密度は,局所状態密度の空間平均として,次のように与えられる.

N(E) =N(E) +N(E) =hN(r, E)ir (2.46) 比熱のゾンマーフェルト係数は,ゼロエネルギー状態密度によって与えられ,

γ( ¯B) = N(E = 0) N0

(2.47) となる.ここでは常伝導状態の値によって規格化されている.常磁性帯磁率χspin( ¯B)B¯依存性は,次 のように与えられる.

χspin( ¯B) = hMpara(r)ir M0

(2.48) 常伝導状態の値によって規格化されている.

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