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連載 減災講座 【Vol.4】人はなぜ災害に備えないのか 「予防焦点」から「促進焦点」への転換を/CEL【大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所】

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Academic year: 2021

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60 CEL November 2014 61 CEL November 2014 体 的 で 効 果 的 な 対 策 に つ い て の 知 識 を も っ と も っ と 増 や し て、 効果的な防災対策の垣根を低くして、取り組みやすくしていく 工夫や知恵が必要なのです。このような工夫や知恵はまだまだ 十分とはいえません。  米 国 の 社 会 心 理 学 者 で あ る ヒ ギ ン ズ が 提 唱 し て い る 制 御 焦 点 理 論 に よ る と、私 た ち が あ る 行 動 を 行 う と き に は、予 防 焦 点 ︵ prevention focus ︶と 促 進 焦 点 ︵ promotion focus ︶と い う 2 種 類の独立したシステムが関わっているといわれています ︵* 2 ︶。  予 防 焦 点 と は、ネ ガ テ ィ ブ な 結 果 を 避 け る た め に、 ﹁○○し なければならない﹂という目標を持って、損失や不安を避けよ うとする行動のことです。一方、促進焦点とは、ポジティブな 結 果 を 獲 得 す る た め に、 ﹁○○し た い﹂と い う 目 標 を 持 ち、喜 びや楽しみに接近しようとする行動のことです。例えば、ダイ エ ッ ト を 例 に 考 え て み ま し ょ う。 ﹁お 酒 を 控 え な け れ ば な ら な い﹂とか﹁間食はしてはいけない﹂といった予防焦点でダイエ ットをしようとすると成功させることは難しいでしょう。しか し、 ﹁美 し い 身 体 を 手 に 入 れ た い﹂と か﹁周 り か ら カ ッ コ い い といわれたい﹂といった促進焦点でダイエットをすると、成功 す る 可 能 性 は 高 く な り ま す。人 は﹁す べ き こ と﹂を 提 示 し て、 それをしなければならないといわれると、なかなか気が進まな いことが多いのですが、楽しいことやしたいことを頭に描くと、 進んでそれをしたくなり、実際に行動するようになるのです。  防災や減災は、その名が典型的に表しているように、災害リ スクという損失を避けるためにしなければならない行動を行う という予防焦点のものとして捉えられています。しかし、対策 を促進するためには、防災・減災を予防焦点ではなく、促進焦 点 の 行 動 と し て 位 置 づ け る こ と が 重 要 な の で す︵ Chart 2 ︶。す なわち、防災対策を単なるリスク軽減のための行動としてでは なく、その行動を行うことによって、得られる利得や肯定的な 結果、喜びや楽しみをともなう行動へと質的に変えていく必要 があるのです。しなければならないことやすべきことは、必要 ﹁南 海 ト ラ フ 巨 大 地 震 の 被 害 想 定﹂が 内 閣 府 か ら 2 0 1 2 月 8 月 に 公 表 さ れ ま し た︵第 一 次 報 告︶ 。こ の よ う な 被 害 想 定 が 一 般 の 人 々 に い か に 捉 え ら れ た の か を 知 る た め に、私 た ち の 研 究 グループでは、公表から約 7 ヶ月経った 2 0 1 3 年 3 月に一般 成 人 1 0 0 0 名 を 対 象 と し た Web ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 い ま し た︵ Chart 1 ︶。  そ の 結 果、 ﹁近 い 将 来 に 国 が 発 表 し た 最 大 級 の も の が 来 る と 思 う﹂と 回 答 し た 人 は 32・ 6 % 、﹁遠 い 将 来 に 国 が 発 表 し た 最 大級のものが来ると思う﹂と回答した人は 10・ 8% でした。合 わせて 43・ 4 % もの人々が、国の想定した最大級の地震や津波 が 発 生 す る と 信 じ て い る こ と が わ か り ま す。 ﹁今 回 の 想 定 の よ うな最大級のものは来ないだろうが、いずれ南海トラフ沿いの 地震や津波は来ると思う﹂と冷静に捉えていた人は 30・ 2 % で した。国が想定したような最大級の地震の発生確率は極めて低 いと伝えられているにもかかわらず、多くの一般の人々は、あ た か も そ の よ う な 地 震 や 津 波 が 発 生 す る の だ と い う 錯 覚 を し てしまっていることがこの調査結果からわかります。  しかし、このように非常に災害のリスク認知が高まっている かに見えるにもかかわらず、私たちが適切に災害に備えようと しないのはなぜなのでしょうか。災害に対する人間の心理につ いて考えてみましょう。  そ も そ も 被 害 想 定 は 何 の た め に 行 わ れ て い る の で し ょ う か。 南 海 ト ラ フ の 被 害 想 定 を 発 表 し た 内 閣 府 の 資 料 に よ る と、被 害 想 定 は、 ﹁被 害 規 模 を 明 ら か に す る こ と に よ り 防 災 対 策 の 必 要 性を国民に周知すること、広域的な防災対策の立案、応援規模 の想定に活用するための基礎資料﹂とすることを目的として実 施 す る も の で あ る、と 記 さ れ て い ま す。ま た、 ﹁あ わ せ て、対 策を講ずることによる具体的な被害軽減効果を示すことで、防 災・減 災 対 策 を 推 進 す る た め の 国 民 の 理 解 を 深 め る も の で あ る﹂ とも書かれています。 このように、 本来、 被害想定は、 防災 ・ 減災の対策の必要性を国民に周知して、具体的な対策を促進す ることによって、被害を軽減することが目的とされています。  確かに、国や地方自治体などの行政にとっては、自分たちの 住む地域でどのような被害が発生するのかを予測することは非 常に重要です。どのような被害が出るのかわからなければ、具 体的に災害に備えようにも何をすればよいのかがわかりません し、限られた予算の中で効率的な減災対策を俯瞰的に実施する こともできません。このため、行政のリスク管理という側面か らすると、被害想定はなくてはならないものです。  しかし、行政と同じように一般の人々にとっても、被害想定 が必要な情報なのかということを考えると必ずしもそうではあ り ま せ ん。一 般 の 人 々 は、被 害 想 定 が 発 表 さ れ る と、 ﹁○○市 には震度 6 の揺れが襲う﹂ 、﹁全壊する家屋が数万棟にもおよぶ﹂ 、 ﹁何 十 メ ー ト ル の 津 波 が 地 震 発 生 か ら 数 十 分 で 襲 っ て く る﹂ 、 ﹁死 者 数 は 数 万 人 に も な る﹂と い っ た 非 常 に 極 端 な リ ス ク 情 報 に新聞やテレビなどのメディアを通して接することになります。 それによって、被害の大きさばかりに注目してしまう傾向があ ります。そして、いつ起きるかわからない災害でそんなに大き な被害が出るのなら、対策をしてもあまり意味がないのではな いかとか、もしも想定外の災害になったら、何か対策をしてい たとしてもダメなときはダメなのではないかといったあきらめ や無力感を感じてしまっているのです。  私たちは、次々と発表される新しく大きな被害想定に、現実 味を感じることができず、もう飽きてしまっている、あるいは 疲れてしまっているという部分があるのかもしれません。  米 国 の 心 理 学 者 の ロ ジ ャ ー ス が 提 唱 し た 防 御 動 機 理 論 に よ る と、人 が リ ス ク か ら 適 切 に 身 を 守 る た め の 行 動 を 取 る に は、リ ス ク に つ い て の 情 報 だ け で は な く、具 体 的 な 対 策 に 関 す る 情 報 を一緒に提示することが非常に重要だということが指摘されて います︵* 1 ︶。  対策をせずにいるとどのような被害が生じるのかというリス ク情報だけではなく、具体的に自分には何ができるのか、もし もその対策を行うとしたらどのくらいの費用がかかるのか、そ の対策をすることによって具体的にどのくらい効果があるのか といった対策に関する情報が得られないと、人はリスクに対す る適切な対処行動を取らないというのです。被害想定は、リス ク情報については具体的に示されていますが、個人レベルで実 施できるような具体的な対策についてはそれ ほ ど情報が提示さ れていません。  例えば、南海トラフの巨大地震の影響を考えると、 1 週間く らいは物流がストップするから、 3 日ではなく 1 週間分の備蓄 が必要だということが指摘されています。ところが、いったい どうすれば 1 週間分の備蓄を何十年間も続けることができるの かとか、実際に備蓄をしている場合としていない場合とを比較 した場合に、生き残る確率においてどのくらいの違いが生じる のかとか、なるべく負担をかけずに楽をして備蓄をするために はどのような工夫ができるのかといった情報については ほ とん ど提示されていません。災害に備えるためには、このような具

災害

情報

反応

、災

、各

調

、災

から

﹁ 予 防 焦 点 ﹂か ら﹁ 促 進 焦 点 ﹂へ の 転 換 を Lectures on Disaster Risk Reduction

Vol.

4

災害

無力感

なのはわかっていても長続きさせることは困難です。その一方 で、楽しい行動、何らかの利益が得られる行動ならば長い間ず っ と 続 け る こ と が で き ま す。 Save Ourselves の 基 盤 づ く り に お いてもこの視点は重要です。このような人間心理の基本にそっ た形で防災や減災対策を位置づけることが求められているので す。 M o to yo shi Ta dahi ro

関 西 大学社会安全学部准教授 名 古 屋 大 学 大 学 院 教 育 発 達 科 学 研 究 科 満 期 退 学 。博 士︵ 教 育 心 理 学 ︶。 独 立 行 政 法 人 防 災 科 学 技 術 研 究 所 特 別 研 究 員 、名 古 屋 大 学 大 学 院 教 育 発 達 科 学 研 究 科 助 教 な ど を 経 て 現 職 。専 門 は 災 害 心 理 学 、社 会 心 理 学 、教 育 心 理 学 。主 著 に﹃ 学 校 で 役 立 つ 社会心理学 ﹄︵共著︶ な ど 。

あなたは

国が発表したような

巨大地震が起こると

思いますか?

大規模災害リスク 地域における消防団・ 民生委員等の 地域防災コミュニティの 危機対応力向上に関する 企画調査 (2013年3月実施) 内閣府が発表した「南海ト ラフ巨大地震の被害想定」 (2012年8月)から半年後の、 一般成人1,000名を対象と したWebアンケート調査の 結果。国が想定したような 最大級の地震の発生確率 は極めて低いと伝えられて いるにもかかわらず、そのよ うな地震や津波が実際に 発生すると思っている人が 多いことがわかる。 近い将来に 国が発表した 最大級のものが 来ると思う

32

.6%

遠い将来に 国が発表した 最大級のものが 来ると思う

10

.8%

今回の想定のような 最大級のものは来ないだろうが、 いずれ南海トラフ沿いの地震や 津波は来ると思う

30.2%

分からない

25.1%

巨大地震や 津波は来ない

1.3%

Chart 1

(2)

63 CEL November 2014 体 的 で 効 果 的 な 対 策 に つ い て の 知 識 を も っ と も っ と 増 や し て、 効果的な防災対策の垣根を低くして、取り組みやすくしていく 工夫や知恵が必要なのです。このような工夫や知恵はまだまだ 十分とはいえません。  米 国 の 社 会 心 理 学 者 で あ る ヒ ギ ン ズ が 提 唱 し て い る 制 御 焦 点 理 論 に よ る と、私 た ち が あ る 行 動 を 行 う と き に は、予 防 焦 点 ︵ prevention focus ︶と 促 進 焦 点 ︵ promotion focus ︶と い う 2 種 類の独立したシステムが関わっているといわれています ︵* 2 ︶。  予 防 焦 点 と は、ネ ガ テ ィ ブ な 結 果 を 避 け る た め に、 ﹁○○し なければならない﹂という目標を持って、損失や不安を避けよ うとする行動のことです。一方、促進焦点とは、ポジティブな 結 果 を 獲 得 す る た め に、 ﹁○○し た い﹂と い う 目 標 を 持 ち、喜 びや楽しみに接近しようとする行動のことです。例えば、ダイ エ ッ ト を 例 に 考 え て み ま し ょ う。 ﹁お 酒 を 控 え な け れ ば な ら な い﹂とか﹁間食はしてはいけない﹂といった予防焦点でダイエ ットをしようとすると成功させることは難しいでしょう。しか し、 ﹁美 し い 身 体 を 手 に 入 れ た い﹂と か﹁周 り か ら カ ッ コ い い といわれたい﹂といった促進焦点でダイエットをすると、成功 す る 可 能 性 は 高 く な り ま す。人 は﹁す べ き こ と﹂を 提 示 し て、 それをしなければならないといわれると、なかなか気が進まな いことが多いのですが、楽しいことやしたいことを頭に描くと、 進んでそれをしたくなり、実際に行動するようになるのです。  防災や減災は、その名が典型的に表しているように、災害リ スクという損失を避けるためにしなければならない行動を行う という予防焦点のものとして捉えられています。しかし、対策 を促進するためには、防災・減災を予防焦点ではなく、促進焦 点 の 行 動 と し て 位 置 づ け る こ と が 重 要 な の で す︵ Chart 2 ︶。す なわち、防災対策を単なるリスク軽減のための行動としてでは なく、その行動を行うことによって、得られる利得や肯定的な 結果、喜びや楽しみをともなう行動へと質的に変えていく必要 があるのです。しなければならないことやすべきことは、必要 ﹁南 海 ト ラ フ 巨 大 地 震 の 被 害 想 定﹂が 内 閣 府 か ら 2 0 1 2 月 8 月 に 公 表 さ れ ま し た︵第 一 次 報 告︶ 。こ の よ う な 被 害 想 定 が 一 般 の 人 々 に い か に 捉 え ら れ た の か を 知 る た め に、私 た ち の 研 究 グループでは、公表から約 7 ヶ月経った 2 0 1 3 年 3 月に一般 成 人 1 0 0 0 名 を 対 象 と し た Web ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 い ま し た︵ Chart 1 ︶。  そ の 結 果、 ﹁近 い 将 来 に 国 が 発 表 し た 最 大 級 の も の が 来 る と 思 う﹂と 回 答 し た 人 は 32・ 6 % 、﹁遠 い 将 来 に 国 が 発 表 し た 最 大級のものが来ると思う﹂と回答した人は 10・ 8% でした。合 わせて 43・ 4 % もの人々が、国の想定した最大級の地震や津波 が 発 生 す る と 信 じ て い る こ と が わ か り ま す。 ﹁今 回 の 想 定 の よ うな最大級のものは来ないだろうが、いずれ南海トラフ沿いの 地震や津波は来ると思う﹂と冷静に捉えていた人は 30・ 2 % で した。国が想定したような最大級の地震の発生確率は極めて低 いと伝えられているにもかかわらず、多くの一般の人々は、あ た か も そ の よ う な 地 震 や 津 波 が 発 生 す る の だ と い う 錯 覚 を し てしまっていることがこの調査結果からわかります。  しかし、このように非常に災害のリスク認知が高まっている かに見えるにもかかわらず、私たちが適切に災害に備えようと しないのはなぜなのでしょうか。災害に対する人間の心理につ いて考えてみましょう。  そ も そ も 被 害 想 定 は 何 の た め に 行 わ れ て い る の で し ょ う か。 南 海 ト ラ フ の 被 害 想 定 を 発 表 し た 内 閣 府 の 資 料 に よ る と、被 害 想 定 は、 ﹁被 害 規 模 を 明 ら か に す る こ と に よ り 防 災 対 策 の 必 要 性を国民に周知すること、広域的な防災対策の立案、応援規模 の想定に活用するための基礎資料﹂とすることを目的として実 施 す る も の で あ る、と 記 さ れ て い ま す。ま た、 ﹁あ わ せ て、対 策を講ずることによる具体的な被害軽減効果を示すことで、防 災・減 災 対 策 を 推 進 す る た め の 国 民 の 理 解 を 深 め る も の で あ る﹂ とも書かれています。 このように、 本来、 被害想定は、 防災 ・ 減災の対策の必要性を国民に周知して、具体的な対策を促進す ることによって、被害を軽減することが目的とされています。  確かに、国や地方自治体などの行政にとっては、自分たちの 住む地域でどのような被害が発生するのかを予測することは非 常に重要です。どのような被害が出るのかわからなければ、具 体的に災害に備えようにも何をすればよいのかがわかりません し、限られた予算の中で効率的な減災対策を俯瞰的に実施する こともできません。このため、行政のリスク管理という側面か らすると、被害想定はなくてはならないものです。  しかし、行政と同じように一般の人々にとっても、被害想定 が必要な情報なのかということを考えると必ずしもそうではあ り ま せ ん。一 般 の 人 々 は、被 害 想 定 が 発 表 さ れ る と、 ﹁○○市 には震度 6 の揺れが襲う﹂ 、﹁全壊する家屋が数万棟にもおよぶ﹂ 、 ﹁何 十 メ ー ト ル の 津 波 が 地 震 発 生 か ら 数 十 分 で 襲 っ て く る﹂ 、 ﹁死 者 数 は 数 万 人 に も な る﹂と い っ た 非 常 に 極 端 な リ ス ク 情 報 に新聞やテレビなどのメディアを通して接することになります。 それによって、被害の大きさばかりに注目してしまう傾向があ ります。そして、いつ起きるかわからない災害でそんなに大き な被害が出るのなら、対策をしてもあまり意味がないのではな いかとか、もしも想定外の災害になったら、何か対策をしてい たとしてもダメなときはダメなのではないかといったあきらめ や無力感を感じてしまっているのです。  私たちは、次々と発表される新しく大きな被害想定に、現実 味を感じることができず、もう飽きてしまっている、あるいは 疲れてしまっているという部分があるのかもしれません。  米 国 の 心 理 学 者 の ロ ジ ャ ー ス が 提 唱 し た 防 御 動 機 理 論 に よ る と、人 が リ ス ク か ら 適 切 に 身 を 守 る た め の 行 動 を 取 る に は、リ ス ク に つ い て の 情 報 だ け で は な く、具 体 的 な 対 策 に 関 す る 情 報 を一緒に提示することが非常に重要だということが指摘されて います︵* 1 ︶。  対策をせずにいるとどのような被害が生じるのかというリス ク情報だけではなく、具体的に自分には何ができるのか、もし もその対策を行うとしたらどのくらいの費用がかかるのか、そ の対策をすることによって具体的にどのくらい効果があるのか といった対策に関する情報が得られないと、人はリスクに対す る適切な対処行動を取らないというのです。被害想定は、リス ク情報については具体的に示されていますが、個人レベルで実 施できるような具体的な対策についてはそれ ほ ど情報が提示さ れていません。  例えば、南海トラフの巨大地震の影響を考えると、 1 週間く らいは物流がストップするから、 3 日ではなく 1 週間分の備蓄 が必要だということが指摘されています。ところが、いったい どうすれば 1 週間分の備蓄を何十年間も続けることができるの かとか、実際に備蓄をしている場合としていない場合とを比較 した場合に、生き残る確率においてどのくらいの違いが生じる のかとか、なるべく負担をかけずに楽をして備蓄をするために はどのような工夫ができるのかといった情報については ほ とん ど提示されていません。災害に備えるためには、このような具 62 CEL November 2014

対策

情報

不足

予防焦点

促進焦点

Lectures on Disaster Risk Reduction Vol.

4

行動のシステムを変えることで、

減災への取り組みが活発化する

可能性がある。

減災活動を、「すべきこと」ではなく、「したいこと」や「理想 像」に焦点を当てた促進焦点の行動として位置づけること で、人々が進んで減災活動をするようになり、減災対策の 継続性も高まると考えられる。リスクや被害への不安感情 ではなく、活動の有効性や楽しさ、レジリエンスを高めるとい う理想へ近づく喜びの感情を重視することが大切である。 予防焦点と促進焦点 ―2つの行動システムによる 減災活動への 心理学的アプローチ Chart 2 で、楽しい行動、何らかの利益が得られる行動ならば長い間ず なのはわかっていても長続きさせることは困難です。その一方 と 続 け る こ と が で き ま す。 Save Ourselves の 基 盤 づ く り に お いてもこの視点は重要です。このような人間心理の基本にそっ た形で防災や減災対策を位置づけることが求められているので す。 ※尾崎由佳「制御焦点と感情――促進焦点と予防焦点にかかわる感情の適応的機能」(『感情心理学研究』2011年第18巻第2号)掲載の図をもとに作成 ︵ * 1 ︶

Rogers, R. W. (1983). Cognitive and physiological processes in

fear appeals and attitude change: A Revised theory of protectio

n

motivation. In J. Cacioppo & R. Petty (Eds.), Social Psychophys

iology:

A sourcebook. New York: Guilford Press.

Higgins, E. T. (1997). Beyond pleasure and pain. American

Psychologist, 52, 1280-1300. 本当に損失(=被害)が なくなったのか 実感できず、 不安が解消できていない。

予防焦点

prevention focus

不快な

状態

快適な

状態

レジリエンスが 高まる状態

利益がある

被害がない状態

損失が

存在していない

人は自ずと 不快を回避し 快に近づく

損失が

存在している

行動システムの 転換が必要 行動システム1 災害について 知らなければ ならない。 リスクを想像し、 防災対策を しなければ ならない。 自分の周りに 存在する 資源を有効に 活用したい。 具体的な 活動を実行し、 共有したい。 促進焦点の 発想例 予防焦点の 発想例 ネガティブな 結果を避けるために、 「○○しなければ ならない」という目標を持って、 損失や不安を避けようとする行動 被害が出る状態 行動することで、 利益(=レジリエンス)が 得られるので、 活動の効果が実感でき、 喜びにつながる。

促進焦点

promotion focus 行動システム2 ポジティブな 結果を獲得するために、 「○○したい」という目標を持ち、 喜びや楽しみに 接近しようとする行動

利益がない

レジリエンスが 得られない状態

参照

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