建築設備はそれぞれの技術分野は異なっているが、トラブル
現象については各設備分野ごとのトラブルだけでなく、漏水、
音や振動など共通のものもある。トラブルの把握のためには、
トラブルの現象面からアプローチするのが良いが、原因究明の
ためにはエンジニアリングトラブルと建築計画関連トラブルがあ
ることを認識しておく必要がある。なお本書でいうトラブルとは、
事故、不具合、クレームその他設計者・施工者の認識とユー
ザ側の認識との乖離により発生する事象を包括したものと考え
ていただきたい。
第
1
章
建築設備トラブルの
現象と種類
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建築設備の3大クレーム
建築設備はそれぞれの技術分野は異なっているが、トラブル現象につ いては各設備分野ごとのトラブルだけでなく、漏水、音や振動など共通 のものもある。トラブルの把握のためには、トラブルの現象面からアプ ローチするのがよいが、原因究明のためにはエンジニアリングトラブル と建築計画関連トラブルがあることを認識しておく必要がある。 本書でいうトラブルとは、事故、不具合、クレームその他設計者・施 工者の認識とユーザ側の認識との乖離により発生する事象を包括したも のと考えていただきたい。 設備のトラブル・クレームで多いのは、 ①温湿度不良(暑い・寒いのトラブル) ②漏水(水のトラブル) ③騒音・振動 図 1-1 建築設備の3大クレームで「3大トラブル」といわれている。これに結露がつづく。 建築設計者の中には、どちらかというとこれらを設備独自のトラブル (エンジニアリングトラブル)であると認識し、これらトラブルの解決 と再発防止は設備屋(設計・施工を問わず設備技術者の総称)の仕事と 考えている方が多い。しかし、設備は建物に付随しているので、いずれ のトラブルも後述のように建築計画・設計にかかわりが深い。①では建 築空間の形状・構造・仕上げなどと、設備計画・システム、吹出し・吸 込み口の配置の関係が温湿度トラブルにかかわるし、③では設備機器の 配置計画や、ダクト・配管類のルート計画の良し悪しが、トラブル発生 に大きくかかわっている。このうち比較的に設備だけのトラブルと考え られているのが②であるが、梁下配管スペースが小さくて排水勾配が十 分とれないで漏水事故となる場合は、建築計画関連トラブルである。
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建築/設備トラブル・クレームの種類
建築設備トラブルは多種多様であるが本書では以下のように分けた。 ① 本来機能に関するトラブル(各設備に要求される本来機能が充足されないト ラブル、システムトラブルに当たる) a.空調設備 ・温湿度不良:暑い、寒い、温度分布不良(平面、断面)、コールドドラフト、 輻射熱、乾燥、静電気発生。 :冬季のドラフト、足元の冷え込み。 :冬期・中間期の湿度は、建築物における衛生的環境の確保に関 する法律(ビル衛生管理法またはビル管法)中不適合ビル最多 ・換気不良 :室内環境基準未達、臭気の滞留、CO2濃度の上昇、人身事故、 ドアが重い、隙間風の侵入、燃焼不良、結露の発生。 b.給排水設備 ・給水設備:水圧・水量不足、空気の混入、水槽類警報の頻発。 ・給湯設備:湯圧・湯量不足、湯温変動、低い湯温、長い湯待ち時間。 ・排水通気設備:排水不良、逆流、器具のゴボゴボ音、器具からの吹出し、臭気。 ・雨排水設備:ゲリラ豪雨時の浸水、溢水、逆流、機械室や居室の水没。c.電気設備 ・電気設備は内線規程などで基準が決められているので、基本性能に関するト ラブルは少ない。また、建築計画・設計が原因の電気設備トラブルもあまり 聞かない。 ・設計条件、使用条件との乖離によりブレーカが落ちるトラブルはある。 ・高調波による弱電、情報関係の誤作動の多発。 ・建築施工に関することであるが、最近では、鉄筋・鉄骨の磁化に伴う弱電設 備(電話、火災報知、情報)トラブルが多くなっている(鉄筋の磁石による 吊り上げやスタット溶接時の大容量電流により、ケーブル電線近くの鉄骨柱・ 梁が磁性を帯びる)。 ②本来機能に付随するトラブル現象(各設備共通) ・結露、漏水・溢水、空気・蒸気・燃料の漏洩、騒音・振動・脈動、臭気、つ まり、偏流、蓄熱槽落水。 ③装置・部品・部材に関するトラブル(各設備共通) ・能力不足、容量不足。 ・機能不全、作動不良(誤作動・不作動)、故障、汚損・破損・焼損、腐食、 能力低下。 ④取扱いに関するトラブル(各設備共通) ・誤操作(スイッチ類、バルブ、ダンパ、ブレーカなど)、設定ミス、冷房/ 暖房時の動作切り替えミス、メンテナンス・改修時の復元忘れ。 ・メンテ不良による、機器の能力低下・劣化。 ⑤自然現象によるトラブル(建築・各設備共通) ・雨:周辺河川からの洪水、集中豪雨時の雨水の浸水、ガラリ・扉など建築開 口部からの吹込み・浸水。 ・風:地域特有の風やビル風、風の通り抜け、風による騒音発生(突起物、隙 間風)。 ・音:計画地の音環境。 ・光・日射:反射ガラス、太陽光パネルや屋根面光の隣家への影響。 ・熱:熱輻射・冷輻射。 ・氷・雪:凍結、歩行困難、建物への浸水。 ・空気:周辺施設からの排気ガス、隣接ビルからの排気流入、隣接ビルへの排 気吹出し、幹線道路側の空気質。 ⑥経年変化に伴うトラブル(メンテナンス不良も含む) ・機器類の能力・機能低下、故障の頻発⇒冷暖房不良、換気不良。 ・部品・部材の劣化、腐食。 ⑦他の設備や建築への影響(二次災害など) ・火災時の水害。 ・蒸気漏れに伴う、スプリンクラの誤撥水。 ・ガス漏れに伴う人身事故、爆発。 ・ドレン・結露水の浸透⇒煙・熱感知器の誤発報。 ・間仕切り変更への障害。 ・メンテナンス障害。
⑧近隣・近接建物への影響 ・ガラリからの騒音・臭気。 ・居室、作業室などからの騒音。 ・駐車場入り口ランプの光、騒音。 ⑧想定外のトラブル(『マサカ』のトラブル) ・大便器への泡の逆流。 ・レンジフード運転時にトラップから空気の逆流。 ・除湿機に孔が開いたリゾートマンション。 ・24時間レンジフード換気運転で、中枢神経機能障害になった。 ・降雨時に半地下住戸に排水噴出。 ・ガス湯沸かし器の燃焼不良。 ・温泉施設でのガス爆発。
エンジニアリングトラブルと
建築計画関連設備トラブル
建築設備トラブルは上記のように多種多様であるが、しかし別の視点 で大きく分けると、(A)「各設備独自のエンジニアリングトラブル」と、 (B)建築計画・設計に影響される「建築計画が原因となるトラブル」 に分けることができる。本書では(A)をエンジニアリングトラブル、 (B)を建築計画関連(設備)トラブルと名づける。 上記設備トラブルは、一見してすべて設備が原因であるように見える が、このように分けたのは建築と設備は二律背反(相互背反・トレーデ ィングオフ)の関係にあるからである。建築と設備は「あちらを立てれ ばこちらが立たず」の関係なので、設備トラブルといっても建築計画・ 設計が原因であるトラブルも多くある。 エンジニアリングトラブルに関しては、既存のトラブル本も多く、施 工関係会社で再発防止の努力を行っている。しかし(B)に関してはそ もそも建築設計者が、自分たちが原因者になっていることに気づいてい ない場合が多い。建築計画・設計が原因のトラブル情報を知らなくては、 品質管理に関する「PDCAサイクル(42 頁参照)」が回らない。設備ト ラブル防止を建築生産における品質管理の側面から述べる場合には、設1
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備設計・施工サイドからだけではなく、計画の上流側に起因する建築関 連設備トラブルに関して言及する必要がある。なお、建築計画段階だけ でなく、実際には実施設計や施工段階でデザイン的、その他の要求によ り設備トラブルが発生する事例も多いので、本稿ではこれらを建築計画 も含めまとめて「建築計画関連設備トラブル」と呼ぶこととする。 (1)設備トラブルに対する一般的対応 一般的には設備トラブルというと、エンジニアリング面からの対応が 求められることが多い。施工不良によるトラブルやシステム構築上の不 具合など、純粋に設備設計・施工に起因するものは、金額の多寡は別と して手直しは比較的容易である。しかし建築計画が原因のトラブルは、 設備関連のスペース配置や平面計画、階高など手をつけられないところ が原因の場合が多く、小手先の処置ではこれに対応できないことが多い。 しかも通常は、エゼネコン・サブコンによるエンジニアリング対応で何 とか解決されるが、抜本的解決が必要な場合にはコストがかかるため、 事業者側が解決をあきらめることがあり、情報が設備設計者はもちろん 建築設計者まで届かないこともあって、その後の計画・設計で根本的な 原因には手をつけられていないことが多い。 これは品質管理に関するいわゆるPCDAサイクルが回っていないこ とを意味している。これらトラブル情報が建築設計者に伝達されず建築 計画上の常識となっていないと、あちこちで同様なトラブルとなる。こ れらは「マサカ」ではなく「マタカ」のトラブルである。ビル管理者に とって、「何でこんなことしてあるの?」と疑問をもたれるような建築 設計や設備設計が多いのはこのためである。 よくあることであるが、一度形や内容が決まったものを変更するのは 非常に難しい。したがって計画途中で設備技術者が改良・改善を求めて も通らないことがよくある。トラブル・クレームの「マタカ」がなかな か減らない理由の1つである。 後述するように、建築計画・設計業務は内容が決定するまでには、検